No.587934

真・恋姫無双 EP.112 馬群編

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
楽しんでもらえれば幸いです。

2013-06-16 15:02:48 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1993   閲覧ユーザー数:1882

 剥き出しの岩肌が覗く山道を、オーク兵たちは息を切らせながら進んで行く。整備された道ではなく、長い時間を掛けて幾人もの人々が行き来することで踏み固められた道のため、気を抜くと張り出した木の根やくぼみに足を取られた。

 体力にだけは自信のある彼らだったが、それでも長安からの強行軍に疲れも溜り、かろうじて歩いているという有様だった。

 

「急ゲ! モウスグデ抜ケルゾ!」

 

 隊長らしきオークが部下たちを鼓舞するように、声を掛けた。この辺りは道幅も細く、両側を急な斜面に挟まれていて、罠や待ち伏せには最適な場所なのだ。実際、何度もこの辺りで部隊がやられている。だからこそ、疲れていても急いで抜けなければならない。

 

「ヨシ! 出口ダ!」

 

 二列で連なった部隊の先頭が、山道の出口にさしかかる。薄暗い中から、一気に眩しいほどの光に溢れた場所に出た。オーク兵たちは安堵とともに、チカチカする目を擦って足を止めた。だが次の瞬間、驚愕に身を強張らせることになる。

 

「待っていたぞ!」

 

 そこには、百騎ほどの騎馬隊が彼らを待ち構えていたのだ。風になびく旗は涼州の精鋭、馬超軍のものである。

 

「ト、止マレ!」

 

 先頭の兵士が叫ぶが、状況のわからぬ後ろの兵士たちは次々にやってくる。無理矢理に押し出され、前の兵士は折り重なるように地面に倒れた。

 

「オークども! 我が名は馬超! お前たちにこの先の涼州の地は踏ませない!」

 

 騎馬隊の先頭に立つ馬超がそう声を上げ、手にした槍を天高く掲げた。。

 

「突撃!」

 

 号令と共に、一斉に騎馬隊が動き出す。もはや覚悟を決めるしかないオーク兵たちも、体勢を整えそれを迎え撃った。

 

 

 地響きを轟かせ、わずか百騎の騎馬隊が一万のオーク兵に突撃する。数の上では圧倒的に不利だが、地形が馬超軍に味方した。

 細い山道の出口で待ち構えていたので、オーク兵は細長く隊列を組んでいる。そのため、直接ぶつかるのは前の方の兵士だけだった。後方はまだ山道で、その姿すら見えない。

 

「我らが父祖より守ってきた地を、お前たちに汚させはしない!」

 

 馬超が槍を振り回すたびに、オーク兵の首が飛んだ。馬超を始め、涼州兵士たちの士気は高い。

 

(領土と民を守るためならば、どのような汚名を着ようとも構わないという覚悟があった。だからこそ、命令に従ったんだ。でも、何進のやり方には従えない)

 

 商人から噂として、様々な話を耳にした。オーク兵に蹂躙された村や町は、見るも無残な姿に変貌してしまったというのだ。老若男女の区別なく、オーク以外は全員殺されるという。

 そんな悪行を、自分たちの土地で行わせるわけにはいかない。家族や友人を守るため、涼州兵士たちは一歩も引かぬという決意で戦っていたのだ。

 勝敗は、すぐに決した。オーク兵は涼州兵の勢いに押されて、あっという間に総崩れとなったのだ。

 

「我らの勝利だ!」

「オオオオォォーーー!!」

 

 勝ち鬨の声が上がった。生き残ったオーク兵たちは、進んで来たばかりの山道を慌てて逃げて行ったのである。

 

「やったね、お姉様!」

 

 喜びに沸く中、馬超のそばに馬を寄せてきた少女が居た。従妹の馬岱である。

 

「何とか追い払ったが、油断は出来ない。念のために、見張りを残しておこう」

「わかった。それじゃ、残りは帰還だね? 私、お腹ペコペコだよ」

 

 馬岱がそう言うと、馬超は苦笑いを浮かべて溜息を漏らした。

 

 

 馬超たちはすぐに動けるよう、城から出て陣を張っていた。一応戦時中だが、まだそれほど緊迫した雰囲気はない。商人も多く滞在しており、市場のような光景が広がっている。そのため、町から離れているとはいえ、生活は意外と快適だった。

 馬超が率いる騎馬隊が戻ると、歓声が出迎えてくれた。

 

「みんなありがとー!」

 

 馬岱が調子よく手を振るのを横目で見ながら、馬超は本陣の前に立つ若者の姿に気づいた。

 

「おかえり」

 

 そう笑顔で迎えてくれたのは、天の御遣いこと北郷一刀である。

 

「あ、う、うん」

 

 馬を降りた馬超は愛想の無い顔で、視線をそらしながら軽く頷いた。すると、馬岱がいつの間にかそばまで来ていて、そっと耳元で囁く。

 

「お姉様、そんな態度じゃだめだよ。天の御遣い様は競争率が高いんだから」

「ば、何言ってんだ。私は別に……その……」

 

 モゴモゴと尻つぼみに口を閉じた馬超は、真っ赤な顔で自分の天幕に逃げ込んでしまった。その様子をキョトンと眺めていた一刀が、馬岱に尋ねる。

 

「馬超はどうしたんだ?」

「んー、お姉様にも苦手なものがあるってことなんだよ」

「へー、あの馬超の苦手なものか。それは強敵だな」

 

 微妙に食い違いながらも、二人は何となく同じように頷き合った。

 

 

 やがて馬超が落ち着きを取り戻し始めた頃、主要な面々が集まっての会議となった。

 涼州からは馬超と馬岱に各部族の代表者が出席し、一刀と共にやって来た仲間たちの姿もあった。

 

「とりあえず追い払ったが、連中がこのまま諦めるとは思えない。かといって、いつまでもここに留まり戦い続けるのも難しいだろうな」

 

 馬超が言う。多くの兵士が専業ではない。今はまだ士気が高いが、長引けば不満が噴出するのは明らかだ。

 

「何進の事は、もはやこの国すべての問題だ。だからこそ、協力して戦う必要があると思う」

 

 一刀の意見に、涼州の代表者たちがざわめいた。馬超がそれを制して、一刀に尋ねる。その表情に、さきほどのような動揺はない。

 

「天の御遣いの言うことはわかる。確かに長安を挟撃すれば、勝利を収めることが出来るかも知れない。だが、こちらが動けば劉備軍も動くという保証などないのではないか?」

 

 馬超がそう言うと、同意するように代表者たちから声が上がる。

 

「簡単に信用できない気持ちはわかります。だからこそ、俺も色々と考えました」

 

 そこで言葉を切った一刀は、一度、全員の顔を見渡す。

 

「その前に一つ、聞きたいことがあります。俺たちがここに来て数日経ちますが、馬超さんは俺のことどう思っていますか?」

「えっ? ど、どうって……」

「信用できる男でしょうか?」

「あっ、ああ、そういう意味か。そ、そうだな、まあ、信用は……している」

 

 挙動不審になりながらも、馬超は答えた。すると一刀は満足そうに頷き、微笑んだ。

 

「俺が劉備軍を動かします。動いてくれるよう、話をします。だから馬超さんが俺を信じてくれるなら、その時、兵を動かしてください」

 

 一刀は真剣な眼差しで、馬超を見て訴えた。


 
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