No.594780 真剣で私たちに恋しなさい! EP.22 百鬼夜行の章(5)元素猫さん 2013-07-06 02:35:09 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:4122 閲覧ユーザー数:3870 |
真っ赤な空を興味深そうに見上げながら、九鬼紋白は背後に付き従う二人に話しかける。
「何とも不気味なところだな。本物の地獄というのも、こういう感じなのだろうか?」
「本物はもっと、ドクロとかがゴロゴロしているイメージがあるかなあ」
松永燕がそう言うと、「なるほど」と呟きながら紋白は頷く。そして視線を鉄乙女に向け、
「鉄はどう思う?」
周囲に視線を巡らせて、警戒をする乙女に尋ねた。
「さて、どうだろうか。鬼でもいれば、それっぽい気がするが」
「なるほどな」
もう一度、紋白はそう呟いて頷くと二人を従えて歩き出した。
「わずか一週間だというのに、ずいぶんと荒廃しているな」
見慣れたはずの街並みが、まるでゴーストタウンのように閑散とし、暴動後のような乱雑とした光景に変わっていた。
「それで、これからどうするの?」
燕が訊ねると、紋白は両手を腰に当てて胸を反らせる。
「姉上や兄上の手助けをしたいが、余計な手出しをすると逆に怒られるからな。我は独自に調査をすることにした」
「ではとりあえず、近場の怪しい場所から行ってみようか」
乙女の提案に紋白が頷き、とりあえずの行き先が決定したのである。
辺りの光景には不釣り合いなほど、明るい声が響いた。
「なんかワクワクするな!」
「キャップ、テンション高いね」
「あったり前だろ? こんなチャンス、滅多にないもんな!」
風間翔一がそう言って笑うのを、どこか頼もしく思いながら師岡卓也が溜息を漏らす。風間の言動はいつもの事なので、他の仲間たちは特に気にせず個々に周囲を見渡していた。
「モモ先輩、どんな感じっすか?」
島津岳人の問いかけに、川神百代は小さく首を振った。
「ダメだな。近くなら何とかわかる程度で、少しでも離れるとほとんど気配は感じられない。こんなのは初めてだ」
「私もダメです。やっぱり異変のせいなんでしょうか?」
黛由紀江がそう訊ねると、百代は「たぶんな」と頷いた。
「まるで目と耳を塞がれているみたいで、嫌な感じがする」
彼女にしては珍しく、不安そうな声で百代が漏らす。
「見慣れた街のはずなのに、どこか違う場所にいるみたいだ」
クリスが子供のようにキョロキョロと視線を巡らせて、そんなことを呟いた。
「ここに大和が……」
その横では椎名京が、強い決意に目を輝かせている。
「どうした、一子?」
ぼんやりとしている川神一子に気づき、源忠勝が声を掛けた。
「タッちゃん……大和の笛の音が聞こえるんじゃなかなあって思って」
「ああ、あの笛か」
「何でかわからないけど、あの音だけはどこに居ても聞こえるの」
しかしいくら耳を澄ませても、笛の音は聞こえない。吹いていないのか、ここでは笛の音も聞こえなくなるのか、理由はわからなかった。
風間ファミリーの一行は、島津寮にやって来た。もしかしたら、ここに来ているかも知れないとわずかな希望を抱いていたのだが、残念ながら誰の姿もない。避難する前と変わらず、荒らされた形跡もなかった。
「これって、モモ先輩のお陰かな? 駅前なんかひどかったじゃん」
卓也が言うと、忠勝が首を振る。
「いや、おそらくこの辺が住宅街だからだろうな。この状況で避難もしないで残っている連中は、それほど多くはない。まだ一週間だから、ここまで来て荒らす必要もなかったんだろう」
「でもよう、変な化け物みたいなのもいたじゃねえか。あれはこの辺にも来るんじゃないか?」
岳人がそう疑問を口にすると、今度は百代が首を振った。
「あーゆう存在は、気配に敏感だからな。強い気配が残っている場所には、よほどの事がない限りは近寄らないと思うぞ」
「それじゃ、しばらくは安心だな」
ホッとしたように岳人が呟く。こんな状況だが、また戻ってくる気持ちは失っていない。それは仲間たちも同じで、無言ながらもその目に強い光が宿っているのがわかった。
「だけどどうしようか? 闇雲に探しても、大和が移動してたら見つからない可能性もあるんじゃない?」
卓也の意見に、由紀江がおずおずと手を上げる。
「あの、誰かに聞いてみるのが良いのではないでしょうか」
「大和の居場所をか?」
クリスが首を傾げてそう言うと、由紀江は持っていたストラップを動かし声色を変える。
「万が一、知ってる奴がいればラッキーってもんで、情報収集にはなるんじゃないのかってことだよ」
他に案もなかったので、松風の意見はすぐに採用された。一行は人が居そうな商店街の方に足を向けたのである。
コンビニまでやって来た時、店の前でたむろする人の姿を見つけた。
「どんな時も変わらない連中だな」
呆れたように忠勝が呟くと、百代がにやりと笑う。
「ちょうどいいじゃないか。色々聞かせてもらうとしよう」
そう言って、一行から先に進んで近づいてゆく。たむろしているのは、避難誘導をする川神院の門下生や九鬼から逃げて隠れていた不良たちである。
「ちょっといいか?」
百代が声を掛けると、だらしなく地面に座った三人の不良が睨むようにこちらを見る。だがその顔はすぐに驚愕に歪んだ。
「か、川神百代!」
「どうしてここに?」
号令を掛けられたように、三人の不良はビシッと立ち上がる。
「お前らは一週間前からこの結界の中に居たのか?」
「そうだ。出るに出られなくて。でも食い物とかあったし、まあいいかと思ってたんだ」
「どうやって入って来たんだ?」
不良の一人が訊ねてくる。面倒だったが、一応、百代は状況を説明してやった。
「なるほど……それじゃ、また一週間は出られないってわけか」
「そういうことだ。それより、聞きたいことがあるんだが、直江大和って名前をどこかで耳にしてないか?」
「直江大和!」
あまり期待しないで質問したのだが、不良たちは予想外の反応を示した。
「知ってるのか?」
「ああ。今の川神市には化け物を除くと、三つのグループが力を持っている。その一つ、梁山泊と呼ばれる連中の頭が、直江大和だ」
「なっ――」
話を聞いていた全員が、言葉を失った。大和を最後に見たのは、板垣辰子たちと一緒のところだ。あれから何があったのか、補佐的な役割なら納得できたが、トップに立つ印象がない。
「梁山泊……」
不安な気持ちを隠しきれず、百代はぽつりと呟いた。
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真剣で私に恋しなさい!の無印、Sを伝奇小説風にしつつ、ハーレムを目指します。
楽しんでもらえれば、幸いです。