No.576879

魔法少女大戦 9話 鳥籠(前)

羅月さん

厨二全開、でもそれが良い。みたいな回でした。最後の台詞は気に行ってます。ちなみに頑なに恭が鳴を名字で呼ぶのはモデルになった人を私がそう呼んでるからです。
まあね、こうして名字で呼んでると名前で呼ばれるとドキっとするからね。

2013-05-16 14:16:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:394   閲覧ユーザー数:387

 9話 鳥籠(前)

 

 璃音と決別した恭は授業もろくに聞いていない状態は変わっていないものの、頭の中はクラスの中の誰よりも冴えわたっていた。照りつける太陽も何のその。今自分がどうすればいいか、それをひたすら考えていた。

 まずは鳴を探したい。だが彼女が何処に居るかまるでわからない。携帯を見ても部活の連絡網を見ても彼女の連絡先は抹消されているのだ。だからこれは使えない。

 そうなると別の方向からのアプローチが必要になるのだが、此処で彼女の自宅に直接電話すると言う手段がある事を考え出した。これなら直接的ではないが連絡が取れる。だがこれも駄目だ。いくら親族だからと言って鳴を覚えている可能性はかなり低い(遺伝的な才覚が魔法少女としての資質に影響するのなら可能性は無きにしも非ずと言った感じであるが)。それでも帰宅後初めて取った行動は(部活は今週末まで休み)それだった。彼女の父の名前は特徴的だったのでおぼろげながら覚えていたためその番号を電話帳で検索し(電話帳に掲載しないようにしていた場合アウトだったが、今回は大丈夫だった)、電話をかける。

 結果、繋がらなかった。恭は落胆したが、考えてみれば昼も後半にさしかかった位の時間では両親は居ないだろうし、聞いている所によると存在するはずの弟(恭は直接会った事は無いが、鳴曰く中学生だったと記憶している)もきっと部活だろう。この手段は後にとっておくとして、恭は布団の中で色々と模索していた。

 そうこうしているうちに妹が帰ってくる。今日は両親ともに早く帰るとの事で(単に明日から旅行だからだ、それ以外の理由はきっとない)、彼女は両手に大量の食材が入った袋をぶら下げていた。どうやら鍋物にするらしい。恭は野菜を切り分けるのを手伝った。

 肝心の食事だが会話など一切なく、普段二人なら楽しく話す食卓も重い空気に包まれる。恭は早急に食事を終わらせると、母に『前にも言ってたけど旅行行けない』と言い、半ば清々した様子で部屋に戻った。

 夜も8時を回っており、今なら誰かいるだろうと思い電話をかけた。しかし電話には誰も出ない。もうこれは仕方ないかと思い、別の手段を考える事にした。

 そう言えば、彼女はどこで暮らしているのだろう。恐らく自宅に帰っている訳ではないだろう。どこかでホームレスでもしているのだろうか。そんな事を考えている間に雨が降ってきた。

 急に首筋が痛み出す。何と言うかやけつくような痛みだ。抑えてもかきむしっても痛みは増すばかり。考え事をするとその痛みが増しだすので、恭は諦めて寝る事にした。時間がないのは分かっている、しかし今はそれ以外に考える余裕がもてなかった。

 

 

 次の日、恭が起きた頃には家の中は異様な静寂に包まれていた。書置きがある。確認するまでもなく妹の、涼の字だった。『好きな物を食べて下さい』と、5000円置いていた。朝を食べていないので単純計算で一食千円使えるのか、豪華な事だ。同時に愛の欠片も無いなと自嘲気味に笑う。

 土日の二日間、誰の制約も受けず自由な恭であったが、使える時間はそこまで長くない。当ても無く動くのは時間の無駄であったが、生憎恭には当てと呼べるものがない。せいぜい、消失後の彼女に唯一遭遇出来たMagdala付近だ。仕方ないので貰った五千円を頭金に恭はMagdalaに行く事にした。

 一人で行く町はとても広く感じられた。自分はどこへでも行ける気になれた。でも、何処へ行こう。

 

 

 「っ……はぁ、はぁ……」

 「鳴、大丈夫かい? もういい加減にきょうちゃんと契約した方が……」

 「それはダメ……私と貴方で倒す、そう言ったじゃんか、九兵衛」

 

 土曜の夕時、鳴は町の路地裏で息を荒げていた。どんなに魔力を節約しても魔力消費無しに敵と戦う事は出来ない。魔女の使い魔は人間の身体能力で迎撃するにはいささか強すぎるのだ。

 鳥籠の魔女、Roberta。奴が放つ使い魔は酒気を帯びており、命中精度は悪いがかなり高い攻撃力の一撃を叩きこんでくる。それだけに通常通りの回避が役に立たない事もあり、いくつか被弾したがその被弾が命取りでもあった。

 彼女の衣装や肉体の傷は魔力で自動修復されるが、その修復にも魔力が使われてしまう。正直言って、戦い続けられるのは明日までだろうと鳴は読んでいた。

 彼女の力の源である宝玉、通称『ソウルジェム』の穢れを浄化する方法は現在分かっている時点で二つ。魔女を倒した際に落とす闇の宝玉『グリーフシード』に穢れを移すか、概念と化した全能神『鹿目まどか』の力で穢れを抹消する事だが、後者はこの世界に於いて使う事は出来ない。使えないものをわざわざ教える必要も無いので九兵衛はこの事実を鳴に伝えていない。故に、鳴はこの絶望的状況を魔女の討伐によって切り抜けるしかないのだった。

 

 「きょうちゃんと鳴、相思相愛じゃないか。君の言い分もわかるけど、ボクとしては勿体ない気がするけどね」

 「真田くんは誰にでも優しいんだよ……別に私だけにあんな訳じゃない。それにもし別の女の子がピンチでも、真田くんなら助けようとするはずだし」

 

 鳴は自慢の杓杖『明電』をつっかえ棒にして立ち上がる。彼女の左目はまだ金色の輝きを失ってはいない。

 

 「それに……真田くんには璃音ちゃんが居るし」

 

 焼きついたキスシーン、そんな物は見たくなかった。二人がキスをしている場面など。しかし自分に何が出来よう。鳴はそれを見た所で引き離す事など出来ない。

 むしろ恭が自分の事を割り切って別の女の子とくっついてくれた事を喜ぶべきなのだ。それが大人の対応と言う物だ。鳴はその映像を頭から消しさる。

 鳴の中には負けるという考えは無かった。刺し違えてでも倒すつもりでいた、家族の仇を討つ為に人生すべてを投げ出したのだ、負けるわけにはいかないと闘志を燃やす。

 しかしそれも、風前の灯(ともしび)であるように九兵衛は感じていた。

 

 

 土曜は何の成果も得られなかった。何の進展も無いままに日曜の朝が始まる。いつもなら遅くまで起きてゲームやらインターネットに興じる彼だったが、それをせずに早く寝てしまうと割と早起きしてしまう。久々に朝の特撮ヒーローものなどを見た、最近の特撮は色々と凝っていて面白い。グッズが売れるのも分かる気がする。

 恭は駄目元で鳴の自宅がある相浦町へ行く事にした。あれから木村家にどれだけ電話をかけてもつながらないため、と言う事もあったが、もしかしたら鳴の事を覚えている人間がいるかもと言う読みからだった。

 相浦町は人口4桁程度の小さな場所で、未だ田畑が大部分を占める田舎だった。鳴が頻繁にその事をネタにしていたが、なるほどよく分かる。

 バスを降りた所が町役場前だったので、恭は役所で人探しをする事にした。担当してくれたのは若い青年の人で、新卒の匂いを高校生ながら感じとる事が出来た。

 

 「すみません、木村明弘(きむらあきひろ)さんの家ってどう行けば良いでしょうか」

 「木村……えー、明弘さんって、この明弘さん?」

 

 担当の人が苦い顔をする。恭ははいそうですと更に押すと、彼は残念そうな顔で数日前に発行された町内誌を見せてくれた。

 恭はその記事にある種納得した様子で、少し借りますと言い勉強用の机を借りてその雑誌を広げた。

 結論から言うと、木村一家は火事に巻き込まれて一家全員死亡している。そして案の定、一家の中に鳴は含まれていなかった。

 そう言えば先週の月曜、見ていたテレビのニュースはこの事件の事を言っていたのではないだろうか。それを知っていればあんなに電話する必要も無かったのにと恭は落胆するが、一応自分の中で結論が着いただけでも良しとしよう。そして、幸運な事に彼女の自宅も分かった。何があるでもないだろうが、少し足を延ばしてみようと言う気にさせてくれただけでも恭の気は僅かばかり晴れるのだった。

 

 

 「うわ……」

 

 初めて火災の跡を目の当たりにしたせいか、恭がそこで最初に出した台詞はだいぶん間の抜けたものだった。いずれ撤去されるのだろうが、それまでは柵が張られ誰も入れないようになっているらしい。

 大体分かっていたが、特に何の成果も上げられなかった。恭は折角来たからと観光にいそしもうとして後方へと歩き出そうとする。その時だった。

 

 「っ……!!」

 「す、すみません……っ!!?」

 「ったたたた……いや、俺も悪かったわ」

 

 長身の青年と恭はぶつかってしまった。黒いダメージジーンズを穿いて髑髏のプリントがされた白いTシャツを着て、その上に黒いジャケットをはおり襟を立てていた。そして一番特徴的なのが、黒いケースにギターか何かを入れて背中にかけている。ライブ会場のステージに立てばオーディエンスの注目を一人占めするだろう。紫色の髪をつんつんと立て、非常にロックな見た目を醸しだしていた。

 

 「君、この町の人?」

 「あ、俺はこの町の人間じゃ……誰か探してるんですか?」

 「人を探してる。ええっと、名前は……ええっと、何だったかな……木村、鳴、だっけな」

 

 恭の顔色が一瞬険しくなる。しかし初対面の人にそれではまずいと表情を戻す。男は物を思い出す時に目を細め空を見上げる癖があるらしく恭の挙動には気付いていなかった。

 

 「ありふれた名字ですね……役所があちらにあるんで、そこで訊いてみては?」

 「ああ、それなら良いわ。あんまり意味ないだろうし……んじゃあな」

 

 ロックな青年は再び先程まで歩いていた方向へ足を進めていく。恭は幾らかホッとして彼の逆方向に歩きだそうと……

 

 「ん、少年よ」

 「どうしました?」

 「その首のアザ、どうしたんだ? 俺は学が無いから分からんが、R,O,B,E,R,T,Aって書いてるぞ。Aがなきゃロベルトなのにな。あり、ロバートか?」

 

 青年はあははと笑いながら歩いて行った。足が長いせいか歩幅が半端じゃない。すぐに距離が離れていく。

 恭はさっき言われたアルファベットをメモした。繋ぐと『Roberta』となる。聞いた事のない文字列だ。携帯で検索すると、女性名の一部だそうで、先程の青年の台詞もあながち間違いは無い様子だった。

 Robin(小鳥)から派生して、小鳥や鳥籠と言った意味のある名前のようだった。それでもこれは何の意味があるのだろう。そもそもこんなアザが普通に生まれる事があるはずはない。何かしらの異能が働いているのではないかと考えが巡り、九兵衛に相談を……と来た所で、恭は自分の愚かさを恥じた。

 何故こんな事に気がつかなかったのだろう。九兵衛は連絡網の登録を携帯で済ませている。今になって思えば固定電話を持たないからだろうが、彼女になら直接的に繋がるじゃないか。

 彼女が鳴の居場所を教えてくれる可能性は低かったが、それが一番確率的に有効な方法だ。

 

 ぷるるるるる……ぷるるるるる……ポン。

 

 「もしもし、木村九兵衛ですが」

 「声色変えるなめんどくさい。恭だ」

 「ああ、きょうちゃんか。何の用だい、こっちは忙し」

 「Robertaって知ってるか?」

 

 九兵衛の返答が止まる。あまり彼女がしてほしくない質問だったらしい。恭は続ける。

 

 「俺の首にそう書かれたアザがあったんだ。お前なら何か知ってるんじゃないのか?」

 「いや、まあ……それは『魔女の口づけ』だよ。魔女が直接キスをするわけじゃなくて、呪いの一種なんだけど、それをくらった人間は精神的に病んだり肉体をむしばまれたりして、最後には魔女に引き寄せられて食われるんだよ。Robertaは炎熱系統の魔女なんだけど、経験は無いかい?」

 「炎熱……そうか、あの時」

 

 恭は熱中症で倒れた話をした。思えばあの時身体が軽くなった気がしたが、あれはもしかしたら……と考えていると、九兵衛から返事が返ってきた。

 

 「それで間違いないだろうね。でもあれから特に異常は無いんだろう?」

 「たまに首筋が痛むくらいで……」

 「ふーん、まあそう言う事なrんぐっ!!!!!?」

 

 ポン、つーーつーーつーー……通話が途切れた。何か危険な事があったのではないか。心配になったが、彼女の居場所が分からない以上その手段が取れない。

 どうしようかと悶々としていると、携帯が鳴る。九兵衛からだ。

 

 「きょうちゃん、今どこに居る?」

 「相浦だけど……」

 「Magdalaにきてくれないか!? 鳴の魔力が探知できなくなった!!!!」

 

 先程のあれは使い魔の襲撃だったらしい。九兵衛は逃げおおせたが、直後に一瞬だけ強大な魔力を感じた後にその魔力と鳴の魔力がまとめて消失してしまったらしい。

 

 「きょうちゃんの力が必要なんだ……ごめん、一度だけ力を貸してくれ」

 「何言ってんだよ九兵衛」

 「えっ……」

 

 不安げな問いかけに、恭はそれを一蹴した。

 

 

 「何度だって力を貸すさ。木村さんが危ないんだろ!?」


 
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