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恋姫・鬼・無双 第一幕 Ep2

白雷さん

第一話の愛里のかわいさに作者はノックアウトしました。

2013-05-13 09:51:24 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:6524   閲覧ユーザー数:5177

「ここ・・・は・・」

 

あれから俺は、まだ破壊されていなかった小屋に倒れている少女を運び、そっと横に寝かせた。しばらくすると、彼女も気がついたのかそう目を開ける。

 

「・・・っ!」

 

彼女は俺のほうをそんなおびえた目で見る。

 

「殺さないで」

 

そう俺が大丈夫だからと手を彼女の頭の上に乗っけようとしたときに発せられる一言。その一言に、俺は手を引っ込め、代わりに笑顔をつくる。

 

「こわい、思いをしたよな。ごめん、でも、もう大丈夫だから」

「だいじょうぶ、じゃないよ・・・」

 

そう彼女の小さなか細い声がそう告げる。

 

「みんな、もういないんだよ。私の母さまも、父さまも。みんなもうここにはいない・・・なんで、それなのに、なんでっ、大丈夫なんかいうのっ。ぜんぜん・・・大丈夫じゃないか・・ないよ。」

 

そうだ。こんなの、ただの偽善でしか過ぎなかった。彼女が大丈夫ではないことくらい俺は知っている。でも、俺はほかにかける言葉が思いつかなかった。そうやって、泣く彼女を俺はただ見つめていることしかできなかった。そのまま彼女は数刻何も言わずただ、泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「けが、してる・・」

 

数刻泣き続けた彼女は呆然と座っている俺にそっと近づき、小さな布切れで俺の血をふいてくれる。しかし、いくら彼女がその血をふいても、怪我跡は見つからなかった。そして、彼女はおぼろげに思い出す。賊に囲まれてしまったときに、怖い目つきをしながらこちらに歩いてきた男の人を。そして、この人が、自分の命を救ってくれたんだと。

 

「たすけて・・・くれたの?」

「ごめんな。つらい思いをさせて。」

 

俺は、そうさびしそうに声をかける。

 

「ううん。ごめんなさい。助けてくれたのに、あんなことをいってしまって。」

「それは、当然だよ。俺は、ただ何をいえばいいのかわからなかったから。」

「ううん。もう大丈夫だから。だからそんな悲しい顔をしないで。」

 

助けたはずの俺が今度は彼女になぐらめられている。思えば彼女の手が俺の頭にのっけられていた。

 

「強いんだな。」

 

そんなことをいう。そんなことは違うと知りながら。それでも、彼女はえっへんと立ち上がり、俺の言葉がまるで本当であるかのように、強がって見せている。その姿は、あのとき、眼帯をかっこいいでしょーとみせてくれた愛里に似ていた。

 

「もう、たんぽぽいっぱいないたもん。だから、もう、ないちゃ・・あれ・・」

 

そう彼女はいいながら、立ち上がって見せるが、その瞳からは次々と涙が溢れ出していた。だから、俺はそんな彼女をぎゅっと抱きしめる。今度は彼女はそれを拒むどころか、俺にその体を預けてきた。

 

「君は強いよ。だけど、ないていいんじゃないかな。」

 

俺はそういう。思い返してみると、あれから、彼女は思いっきり泣いていない。先ほどまでの涙は、ただ混乱していて、何をすることもわからない恐れからきていたものだ。今、彼女は、すこし安心感を取り戻し、ちゃんと死んでしまった人と向き合う気持ちがある。思いっきりその感情を吐き出すことができるんだ。

 

「あした、また強くなるために、いまは泣いていいんじゃないかな」

 

俺がそういうと、彼女は嗚咽交じりに泣きはじめる。そしてそれは、叫びへと変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

チュンチュン

 

そんな鳥の鳴き声におきて気がついてみれば、朝になっていた。俺も、あれからつ疲れてしまい、そのまま寝てしまったのであろう。

 

「おきたんだ!今ご飯作ってるからちょっとまってて!」

 

そう目の前をどたばた走っているのは昨日助けた女の子。その姿に、昨日のことは夢ではなかったのかという思いと、女の子が元気でよかったという思いが重なる。

 

「はいできたー。」

 

しばらくすると、女の子が俺の分のご飯を持ってきてくれた。

 

「ありがとう。」

 

そういいながら、俺は女の子から、そのご飯をうけとる。それにしても・・・ここは、どこなんだ。昨日はあの光景に考えている暇などなかったが、俺は今、どこにいるんだ・・・少なくても、あんな賊のようなものは俺が住むところの近くにはいない。つまり・・・あれから、どこかの民族に拉致されたのか?今、俺は山奥にでもいるのか?俺はそんなことを聞きながら女の子に聞く。

 

「いきなりでわるいんだけれど、ここはいったいどこなの?」

 

女の子は俺の質問にほへ?という顔をしている。

 

「えーっと、知らないでここにいるの?あー、もしかして、旅をしていて、まよっちゃったとか?」

「いや、そういうわけじゃいんだけど、よく、覚えていないんだ。」

「そうなんだ、えーっと、ここは一応西涼だよ?ここは、ちっちゃな村だけど。」

「西涼?それって、どこ? 俺、東京出身なんだけど、ここって東京から、どこから離れているの?」

 

なにか聞いたことのある響きであるが、俺はとりあえず、ほかの情報を手に入れるために質問する、東京は日本の首都だ。きっとだれもが知っているはず。

 

「とう、きょう? どこそれ?」

 

しかし、少女は俺のそんな期待を裏切り、ほへーという顔をしている。

 

「え?日本の首都だよ・・」

「に、ほん?」

 

そう彼女が聞いたとき俺は、何かが違っているという感覚におそわれた。

 

「そう、日本だよ、日本。俺たちの住む国だよ。」

「うーんっと。ごめんね、いっていることがよくわかんないよ。」

「え・・・ちょっと、待って。じゃあ、もう一度この場所を教えてくれる?」

「うん、ここはさっきもいったけど、涼州にある小さな村だよ。」

 

おいおい・・まて・・涼州っていったら、んでも、そんなわけ・・

 

「なぁ、もしかして洛陽ってしってる?」

「ねぇ、たんぽぽのこと馬鹿にしてる?馬鹿にしてるでしょ!それぐらいしってるよ。帝様がいらっしゃるところだもん!」

 

そういって、うがーと騒いでいる。そんな彼女とは違い、俺はいたって真剣だった。おいおい、ちょっと待てよ。彼女がいったことを考えると、ここは、中国じゃないか・・それもずっと昔の・・

 

「そんなもの知りな君にもうひとつ質問していいかな?」

「もう、そんなことで物知りとかやっぱりたんぽぽを馬鹿にしている!んでも、どうしてもっていうならいいよ?」

「お願い。」

 

俺がそう真面目に頼むと彼女はうれしそうにうなずいた。

 

「えへへー。うん。わかった。 それで?」

「今の帝の名前はなんていうんだ?」

「やっぱり、馬鹿にしているんだー。もういいもん」

 

泣きそうになりながら走り出そうとした女の子の右手をぱっとつかむ。

 

「ふえっ?」

「ごめんごめん、でも、本当に俺、知らないんだ。」

 

そう俺が真剣な表情をきくと、彼女も俺のほうを振り返り、元座っていた場所に座りなおす。

 

「馬鹿にしてない?」

 

そう彼女はなき目でそう聞いてくる。

 

「うん。してない。してない。」

「だったら、いいけど。  今の帝様は霊帝ってよばれているよ・・」

 

霊帝・・・・中国後漢の第12代皇帝の名じゃないか・・そして三国志の幕開けともなる鍵を握っている人物。俺は、中国2000年前にタイムスリップしてきたのか・・・それにしても、なぜ言葉が通じるんだ・・もし俺の考えがあたっている、いやそうとしか言いようがないのだが、何かおかしい。

 

「大丈夫?」

 

俺が真剣に考えていたのか、そう心配そうに彼女は俺の顔を覗き込む。

 

「ああ・・・すこし、混乱していただけだ・・えっと、」

 

そういえば、俺はこの子の名前を知らない。

 

「俺は、北郷一刀。君の名前、聞いてもいいか?」

「性が北、名が郷、字が一刀ってことかな??たんぽぽはね、馬岱!」

「うーん、そういんじゃないんだけど・・・。って、今、馬岱っていった?」

「うん、馬岱!たんぽぽの名前、どうかした??」

 

俺が聞き返すと、何かおかしかったのかとそう聞いてくる。  この時代で馬岱っていったら、あの錦馬超の従弟じゃないのか・・・でも、目の前にいるのは小さな女のこだし。まぁ、名前が一緒なのかもしれない・・・

 

「ねえ、馬岱ちゃんって従兄がいたりする?」

「えーっと、男じゃないけど。お姉さまならいるよ!」

「お姉さま??」

「うん!従姉だけど。お姉さまってよんでるの!いまは一緒にいないけど、昔はよく一緒にいたの!名前は馬超いってとっても強いの!」

 

馬岱となのった女の子はまたエッヘンとでもいうかのようにそう立ち上がる。

 

おいおいおい・・・予想していたことが当たっているなんて・・・いままでの情報からするにここは三国志、それも俺の知っているものとは違ったものであり、目の前にかの有名な馬超の従弟、今は従妹、馬岱がいる・・・理解はできる・・しかし頭がついていっていない。

 

「大丈夫?お兄様?」

「お兄様ぁっ??」

「うん!たんぽぽを助けてくれたし、たんぽぽはお兄様って呼ぶの!お兄様もたんぽぽのことはたんぽぽってよぶの!」

「うーん・・・どうせ聞いてくれそうにないし・・まあいいか・・・。それとさ、さっきから、自分のことを違う名前で呼んでいるようなんだけどそれって、ニックネームかなにかなの?」

「にっく、ねーむ。肉、眠??なにそれ?」

「いやいや、そうじゃなくて・・・うーん。あだ名みたいなもの?」

 

なんだ・・・ここは、日本語は通じるけど英語は通じないのか・・・まったくおかしな世界だな・・・

 

「あっ、たんぽぽのことー。真名だよー。」

「真名?」

「その様子だと、またまた、知らないみたい。 うーん、お兄様はよくわかんないや。んでも、もうなれたの!」

 

そう元気に片手を彼女は挙げる。おいおい・・・慣れたってなんだよ。

 

「真名っていうのはね神聖な名前で、心を許した相手ではないと呼ぶことが許されない名前なんだよ。だから、許しもえないで真名をよんだら、死罪になってもおかしくはないの」

「へっ、へぇーーー。」

 

なにか恐ろしいことを軽くすらっと言われたような気がした。というか、もしこの子がはじめての相手じゃなかったら、俺・・・危なかったな・・・そんなことを思いながら安心している自分がいた。

 

「えーっと、俺はその、真名というものがないからうーん・・」

「やっぱ、お兄様はへんなの。いいよ別に。たんぽぽはお兄様って呼ぶから。」

「はぁ・・・」

 

俺はそうめのまえではしゃぐ女の子にため息をつく。そんなため息をつく俺だったが内心うれしかった。彼女がこんなにも元気に振舞ってくれることが。

 

「お兄様はこれからどうするのー。」

 

俺が食事を終えると蒲公英はそう、突然きいてきた。

 

「これから・・・か。」

 

いわれてみれば、いろいろありすぎて、考えていなかった。これからのことを。

 

「これから・・か。そもそも、俺は、いろいろとよく覚えていないからな・・・」

「家族とかも覚えてない?」

 

じいちゃん・・・愛里・・・一瞬そう思ってしまう自分がいる。けれど・・・

 

「ああ、覚えていない。」

 

だけど、俺はもうこの世界で生きていくしかない。

 

「そっかー。あたまでもうっちゃったのかなぁー。」

 

そういった俺を心配したのか蒲公英はその人差し指をあごにあて、ふーむといろいろ考えている。

 

「蒲公英はどうするんだ?」

「うーんとね、蒲公英はここから、旅に出ようと思ったけど、お兄様が心配だから、お兄様もつれてってあげるの!」

「旅・・・・か。いいかもな。」

 

この村はほとんどが焼けつくしてしまい、もうほとんど何もなかった。それに、残っているとしたら、とても楽しい思い出と、それを一瞬で灰にした暗い思い出。ここにいても、何も始まらない・・・か。そう思った俺は蒲公英の案に肯定する。

 

 

 

「じゃあ、その前に、お別れをしなくちゃ・・・な。」

「うん・・・」

 

 

 

俺のその言葉の意味に気がついたのか、蒲公英はすこしさびしげにうなづいた。

 

 

 

 

 

小屋をでると、そこには昨日と変わらぬ悲惨な光景が広がっていた。俺は、再びはきそうになりながら、それをこらえる。俺のすそを力強く握っている彼女がこらえているのだ。俺が吐き出してはいけない。もう俺たちは、昨日、はけるものをすべて吐き出したのだから。今日を生きるために。

 

「母様、父様・・・」

 

彼女の家のほうへともに歩いていくと、彼女が指差す方向に家は建っていなかった。屋根は焼け落ち、家を支えていたはずの支柱は砕け散っていた。

 

「蒲公英・・・」

 

俺はそう彼女の手をぎゅっと握る。彼女もその手をぎゅっと握り返してきた。みたところ、このあたりに倒れている死体は見つからない。とすると、家とともに焼け死んでしまった可能性が高い。つらすぎる・・・俺はそう思う。せめて、骨や体が残っていれば最期に弔い、ちゃんとお別れができるかもしれない。けれどこれじゃあ・・・・そう思っていると蒲公英がその口を開く。

 

 

「母様、父様、蒲公英は、ずっと弱かった。ずっと、父様と、母様に迷惑をかけて、最後の最後まで、わがままだった。いっぱい謝りたいことはあるんだよ。でもね、母様、父様。それは違うって思うの。」

 

すごいよ・・蒲公英は。俺はそう思う。何も言われないで、自分でそのことに気づいてしまうのだから。

 

「父様、母様。二人が最期に蒲公英を必死に逃がしてくれたこと、覚えてるよ。ちゃんと、覚えているよ。二人が蒲公英を守ってくれたから、そしてお兄様がいたから、蒲公英は今、こうして生きていけてる。だからね、だから・・・っ。」

 

蒲公英の声は少し嗚咽が入った。しかし、彼女は泣かない。両親に、堂々とさようならをいうために。

 

「ありがとう。母様、父様。 蒲公英は、父様、母様を誇りに思うよ。もう、蒲公英は大丈夫だから、これからはちゃんとやっていくから、だから・・もう、ゆっくりしていいよ。」

 

そういう、彼女の声はしっかりとしていた。

 

「じゃあ、母様、父様、行ってきます。」

 

そういいながら、蒲公英はその焼け落ちた建物の傍に、小さな花を添える。

 

「もう、大丈夫か、蒲公英。」

「・・うん。」

 

俺も、別れをしなくちゃな・・・彼女が堂々としたんだ。俺も、覚悟を決めよう。 そう思い、俺は手にしてあったそのリストバンドをとる。そして、蒲公英がおいた花の横へと添える。

 

愛里・・・俺は、この手で何人もの人を殺してしまった。なんで、あの時動けなかったのか不思議なくらいに。でもな、愛里。俺は思うんだよ。あのときがあったから、今があるって。あのときがあったから、蒲公英を守ることができたって。だから、俺はもう君に謝ったりはしない。ただ、俺は言いたい。蒲公英を助けることができたのはこの命があったからだ、だから、愛里、ありがとう。

 

「いいのか?蒲公英?」

「うん。父様も、母様もこんなところより、空へと行きたがっていると思うの」

 

俺たちはその後、焼け落ちた家に草を集め、そこに火をつける。その火はだんだんと周りを包み込み、やがては空へとその灰を放っていった。

 

俺はそんな中、次第に燃えゆく彼女からもらったリストバンドを見ていた。愛里、もう、君には会えない。だから、ちゃんとお別れがしたいんだ。愛里、俺はこの世界で生きていくよ。君にもらった命を大切に。だから、愛里も、自分の道を進んでくれ。

 

「さようなら・・・愛里。」

 

その俺のかすかなつぶやきは蒲公英に聞こえることなく、灰とともに空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~愛里視点~

 

 

「愛里、じいちゃんをよんでくるよ!」

 

お兄ちゃんはそういいながら、蔵のほうへとかけていった。私は、もう一生あくことがない左目に手を当てる。そして、ふっと笑みがこぼれる。あの日、あの時、本当にお兄ちゃんを守れてよかったとそう思う。強盗が入ってきたとき、お兄ちゃんも、私も動けなかった。それはそうだ。今まで、死に直面したことがないから。でも、強盗は私たちの気持ちなど気にかけることもせず、その手にもつ包丁をお兄ちゃんに振り下ろした。

 

私は、怖かった・・・自分が傷ついてしまうことじゃない。お兄ちゃんが、死んでしまうかもしれない。そのことが一番怖かった。私はその怖さに耐え切れなくなってお兄ちゃんを突き飛ばしたんだ。その瞬間、ものすごい痛みが左目に響く。それでも、かすかに右目から見えたお兄ちゃんは無事だった。私は、本当によかったって、そう思った。

 

 

 

 

####

 

「お前、女の癖に生意気なんだよ!」

 

そうおなかにけりが入る。そう、あれは私が小さかったころ、私は母のいいつけで、いつも竹刀を持ち歩いていた。学校が終わると、修行があるからということで、私はすぐに帰らなければならなかった。そんな環境の中、私は学校で孤立していった。そして、小さい子は時に純粋すぎるがゆえに残酷だ。私は、いじめっ子の標的になっていった。 ある日、学校が終わると、私はいつも通り、家に早く帰るために走って家に戻っていった。

 

「おい、俺たちと遊んでいけよ。」

 

そんなときだ。帰り道の公園をさしかかったときに、そういわれて手を引っ張られたのは・・・まあ、いつものことだ・・・私はそう、思っていた。いつも、学校でいじめられているのと同じように、少し時間がたてばこの人たちもいじめることに飽きて遠くへ行ってしまうだろう。私の目は死んでいた。この世界は残酷だ・・・そんなの知っている。好きでもない剣道を小さいころから、何で強くならないのかとお父さんからはしかられ、学校ではその剣道が理由でいじめられ・・・私の笑う場所はどこにもなかった。私の居場所はどこにもなかった。だから、泣いたって何もならない、助けを求めたってどうしようもない。

 

「おい、お前、剣道やってるんだろ?だったら俺たちと戦えよ」

 

そういいながら、彼らはかさを武器にチャンバラをしはじめた。

 

「いただき、面ーー!」

 

私は、その傘で、頭をたたかれる。私はどさっと、そのまま倒れる。どうせ、私が抵抗すればそれを面白がって、またいじめを続ける。そんなことわかっている。だから、私は何もしない。何も言わない。この世界は、私には冷たいのだから・・・

 

「おいたてよ。」

 

そういいながら、私のことをかさでつっついてくる。

 

「つまんねーな。早くしろよ」

 

私が何もせずただ呆然と遠くを眺めていたことに腹が立った彼らは、私のおなかにけりをいれてくる・・・いたい、確かにいたい。けれど、私はただ無言を貫いた。

 

「おっ、面白いものみーっけ!」

 

無言を貫く、そう決めていた。でも、その言葉に私の体は、ぴくっと反応する。彼らが、見つけたそれは私の手首についていたリストバンドだった。それは、お母さんがいつもがんばっているからと、作ってくれたものだった。

 

「かえして・・・」

 

私は痛いおなかに手を当てながら立ち上がるとそうかすかに言う。

 

「おっ、何も言わない女が反応したぞ!」

 

彼らは反抗し始めた私が面白かったのか、そのリストバンドをほら、キャッチ!とかいいながら私に渡さないように遊び始めた。

 

「かえしてよっ!かえして!」

 

私は必死だった。初めて、お母さんががんばったねっていってくれたものだった。何よりも大切で、それが私がいやな剣道を毎日がんばれる理由でもあったからだった。それが、いじめられても、お母さんの前ではそれを隠して、笑うことができる理由だった。

 

「かえしてほしかったら、とってみろ!」

 

そう彼らは、私が必死で追いかけるのを楽しみ、走る私に足を引っ掛けては転ばせ、泥だらけになる私をみては笑っていた。

 

「あっ、しまった。」

 

そう一人の男の子は強く投げすぎたのか、リストバンドは、キャッチされることなく近くの池にそのまま落ちてしまった。

 

「あ・・・あ・・・」

 

絶望が襲った。その池は、私にとっては深くて、そして広い。 あとで、見つけるのは、ほとんど無理だ、そう思ったからである。なんでよ・・・なんで・・・私は悪いこと、何一つしていないのに・・・そうこみ上げてくる憤り。私は、今までこらえていた涙を止めることができなかった。

 

「おー、こいつないてんぞ!」

 

私が泣くことをはじめてみる彼らはそういいながら、笑っている。もう・・・やだよ。そう思った。いたい、剣道もいや、それが原因でいじめられるのもいや、でもお母さんにリストバンドをなくしちゃったていうのは一番いや。 もう・・・やだよ。私は絶望のそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、お前ら、なに笑ってるんだよ」

 

そんなときに聞こえる声、私の前には一人の男の子が私を守るかのように、両手を広げながらたっていた。

 

「なんだよ!お前!こいつを守るのか?お前も、こいつみたいになりたいのかよ!」

 

そんな風にいういじめっこ。その手には傘を構えている。

 

「だめだよ・・・私なんかのために。 逃げたほうがいいよ。」

 

傷つくのは私だけでいい。私なんかのためにこの人が傷つく必要はない。私はそう思った。だから、そう泣きながらもいった。そういえば、彼も逃げる理由がみつかって逃げてくれるかもしれない、そう思った。

 

「ちょっと、これ、かりるね。」

 

しかし、私のいうことも気にすることもなく、彼は私の竹刀をそう拾い、私の前で構える。

 

「なんだ、お前!俺たちと戦う気かよ!生意気なんだよ!」

 

そういじめっこの一人が傘を振り上げながら男の子に走ってくる。

 

「まだ、お前ら、答えてないよな。 一人の女の子をこうもよってたかって、泣かせて、お前ら、何しているって聞いているんだよっ!」

 

竹刀をもった男の子は、飛び掛ってきたいじめっこを軽く交わし、その手首を竹刀でたたき、いじめっこはその衝撃ににぎっていた傘を落とす。たたかれた男の子はいってー、といって地面にうずくまっている。

 

「お前!みんなやっちまえ!」

 

それを見たいじめっ子のリーダーが怒ったのかみんなにそういう。私は、目を閉じる。一対一であるならば、勝てるのかもしれないけど、こんなの無理だ・・・私はそう思ったんだ。でも・・・

 

「大丈夫?」

 

そういう言葉に目を開けてみれば、いじめっ子たちはいろいろなところを抑えていってー、と叫びながら地面にうずくまっていた。そして、わーんといい、泣きながら走っていってしまった。私は目の前で手を伸ばすその男の子を呆然と見ていた。

 

「えーっと、その、大丈夫?」

 

私が呆然としていることを不思議に思ったのかそう、男の子が聞いてくる。

 

「うっ、うっ・・・えーーーーん。」

 

私は、泣いた。いっぱい泣いた。おろおろととあわてる男の子を目の前にただ泣いていた。いままでたまっていたすべての感情があふれかえって、私は泣き止むことができなかった。

 

 

しばらくして、私はだんだんと、落ち着いてきた。私が泣き止んだことに安心したのか、男の子は、よかったと、そう笑っていた。

 

「ん。」

 

そういいながら、男の子は手を出してきた。

 

「なに、これ?」

 

私は、その意味が本当にわからなくてそう男の子にきいた。

 

「あくしゅだよ。」

「あくしゅ?なんで・・・」

「おまえ、あんないっぱいの男に囲まれながらも、必死に戦ってた。いままで、いろんな強い奴と戦ってきたけど、お前が一番つよいとおもった。だから、あくしゅ。」

 

強い・・・そう、初めて言われた言葉。その言葉は思ったよりも、うれしかった。その言葉に私はまた、涙を抑えることができずに泣いた。

 

「あっ、お前、なんでまた泣いてるんだよ!やっぱ撤回。さっきいったこと撤回。」

「てっかい?てっかいってなーに?」

「なしにするってこと。お前、なきむしだから強い奴じゃない。」

「やだ、やだよ。愛里、泣き止むから強い奴がいい。」

「うーん、じゃあ10秒で泣き止んだら強い奴だ。」

「そんなの無理だよー。」

 

そういいながら、笑う彼につられて、私も泣きながらも笑ったていた。久しぶりに、私はこんなに思いっきり笑うことができたんだと思う。

 

「俺は、北郷一刀、よろしくな。」

「ほんごう・・・?」

「?なんだ?なんか変だったか?」

「ううん。私の剣道も、北郷なの。」

「へー、君も北郷流の一人なのか。こんど、手合わせしたいな。」

「むりだよー。愛里、強くないし・・・」

「強い奴じゃなかったのか?」

「あっ、・・・うう・・・・もう、いじわる。 愛里は、夕霧愛里。よろしくね。」

「夕霧・・・愛里? 君が?」

「えっ?愛里のことしってるの?」

「あーその、俺、ここに今日引っ越してきたばかりで、君のお母さんに頼まれてちょっと君を探してたんだよ。少し遅いからって。俺たちはいとこ同士らしいよ。改めてよろしくな。」

「いとこ・・・」

 

私は、うれしくおもった。この人がまったくの他人でないことに。

 

「その手首、大丈夫か?」

「てくび・・・?」

 

私は、そんな彼の言葉に自分の手首を見る。無理やり、つかまれたのかあざが残っていた。そうして、再び、思う。もう、リストバンドはなくなってしまったと。

 

 

 

「リストバンド?」

 

思わず、口にしてしまったのか。彼がそう私の言ったことにたいして、頭をかしげている。

 

「うん、さっき、男の子たちがその池になげたの。リストバンドはお母さんからもらったもので・・」

 

そう説明するとまた、涙がぐっと目にこみ上げてくる。

 

「あーあ、泣くなって。俺がどうにかしてやるから。」

 

どうにかする?なにをいっているの・・・買ってくれるってこと・・・?でも、あれはお母さんの手製で同じものはもう・・・私がそう考えていると、男の子が池に走っていくのが見える。え・・・・そう一瞬戸惑う。彼が何をしているのかわからなかった。でも、彼は、その池に戸惑うことなく飛び込んだ。

 

「もう、無理だよ・・・」

 

彼が飛び込んでから一時間がたって、それでも、彼は頭をその池につっこみ、そして息を吸うために顔をだしたりの繰り返しをしていた。こんなに広い池だ。見つかることなんて・・・

 

「馬鹿だな、あきらめたらそこで終わりだ。でも、あきらめなければ何とかなる!」

 

彼はそういいながら、またそう頭を池につっこむ。その後、じいちゃんに言われた言葉だって、言わなければかっこいいのに、私はそう思う。

 

「あっ、あったーーーー!!」

 

それから、また1時間がたった。あたりは暗くなり、もう6時を過ぎようとしている。お母さんも、さすがに心配しているだろう。そう思い始めたときだった。そんな風に大声を出しながら、もぐっていた彼が手を高々と上に上げながら、そう池から顔を出した。その手には、汚れてしまい、色はかわっていたけれど、確かに私のリストバンドが握られていた。私は、ただそんな彼の姿にまた、泣いてしまった。

 

「あー、お前は、また泣いてるし。みつかったんだから、もう泣くなよ。」

 

池から出てきた彼は、ほれ、とそのリストバンドを渡してくれる。

 

「うぐっ、うっ、みつかったから、ないてるんだよー。」

「そっか、それはよかった。」

 

そう泣きながらいった私をもう彼は馬鹿にすることなく笑顔で、よかったなといってくれた。

 

「ありがと、お兄ちゃん。」

「だー、お前抱きつくな。鼻水鼻水、拭けーー。 それに俺は従兄だ。お兄ちゃんじゃない!」

「いいじゃん、お兄ちゃんの服きたないし。それに、お兄ちゃんはお兄ちゃんなの!」

「あー、もうお前は・・・まぁ、いっか。 ほら、帰るぞ。」

 

そういってお兄ちゃんが出してくれた手を私は笑顔でつなぎかえした。

 

「うん!」

 

 

 

#######

 

 

 

 

 

私は、あの時以来ずっとしているリストバンドを見る。私は、一度も忘れたことがない。彼が池から飛び出してきたときの、その彼の輝く表情を。そして、よかった、といってやさしく笑顔で微笑んでくれた彼の表情を。あの日以来、私の人生は変わった。私は、心から、笑うことをしった。私の居場所をお兄ちゃんは見つけてくれた。私は、その日を境に、修行に励んだ。そして、私は剣道、いや、あの日私を助けてくれたお兄ちゃんみたいに剣を振るうことが大好きになっていた。そして、私はだんだんと強くなっていった。それも、両親が目をあけて驚くくらいに。

 

でも・・・私の夢はいつか、お兄ちゃんの横に立つこと。お兄ちゃんに負けないように。一緒に肩を並べられることだ。

 

そういって、再びリストバンドを見る。私がお兄ちゃんにあげたのは、私のとおそろいになるように作ったものだった。そう思うと、私は少し恥ずかしくなる。まだ、お兄ちゃんはそのことに気がついていなかったけれど・・・

 

 

 

「お兄ちゃん、遅いなー。」

 

あれから十分たっても帰ってこない私は、またおじい様と何かいがみ合っているのかと思い、お兄ちゃんを探しにいった。

 

「おにいちゃーん?」

 

しかし、どこを探しても、いないので私は少しあせっていた。

 

「もう、お兄ちゃん!愛里をからかってたりしたら、愛里、怒っちゃうんだからね!」

 

私はそういいながら蔵の扉をあける。その瞬間、私は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたたた・・・」

 

しりもちをついたと思い、気がつくと、目の前には荒れた荒野が広がっていた。なに、これ・・・・私は確かお兄ちゃんを探しに蔵に向かって・・それで・・それからの記憶がなぜかあいまいだった。ここは・・・どこ?あれから、何があったの・・・場所を確認するために私は携帯電話を取り出す。

 

「あーっもう!」

 

すっかり充電するのをわすれた私の携帯電話は赤く点滅しながら、ピーッという音とともに電源が切れた。携帯電話、使えなければただの箱・・・いや、何も入れることができないから箱より価値はないか・・・

 

「おい、お嬢さん、いいものをもっているじゃねーか」

 

そんな突然かけられる言葉に振り向くと、そこにはにやにやと笑いながら、剣をその手に握っている男三人がいた。え・・・なに、これは・・・男たちの服装はまるでテレビで見る戦国時代のような格好であった。

 

「あの、ここはどこなんですか?それは、なんかのコスプレなんですか?」

 

私は、そう聞く。

 

「はぁ?おい、兄貴。こいつおかしいこといっていやがりますぜ。」

 

おかしい?私はなにか、おかしいことをいっただろうか?そう自分に問う。

 

「まぁ、なんでもいーさ。こいつ、ひとつ目がないみたいだが、見た目は上等だから高く売れんだろ。 まあ、その前に・・」

 

売れる?なにを言っているのだろうか・・この人たちは・・・そんなことを思うと薄気味悪い笑みを一人の男が浮かべながら私の手を強くつかむ。

 

「いやっ!」

 

私は思わず、その手を振り払う。それが勢いをあまってその人の頬に直撃する。

 

「なにすんだ!てめぇーー!」

 

その男はそのことにいらだったのか剣で私を切りつけてくる。私は防衛本能が働きとっさにかわす。しかし、稽古のときのようにはかわせず、腕に痛みが走る。その腕を見れば、かすかに切り傷がはいり、血がにじみ出ていた。

 

本物・・・・私は、そのとき気づく。この人たちは遊びなんかじゃない。あの剣は本物なんだ・・・そのことにあの日のことを思い出す。また・・・・だ。 

 

怖い・・・私は、また動けなくなっていた。

 

 

 

 

 

「かわいい御仁に何をする!外道が!!」

 

再び男たちが私に近寄ろうとすると、その男たちと、私の前に、一振りの槍が入る。そうして、私の前には槍を構えた、女性が私を守るように立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

第2話でしたーー。

 

いやー、たんぽぽ、かわいすぎる。そして、愛里、君もかわいすぎる。

 

書いているうちにどっちも好きになりそうで大変だ。

 

 

ではでは

 

またーーー。

 


 
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