No.566612

スカーレットナックル 最終話 Ver2.00

三振王さん

スカーレットナックル最終話です。表紙は猫谷園さんというお方が描いてくださいました!

5/24 追加エピソードを書き足しました。

2013-04-15 23:50:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1005   閲覧ユーザー数:935

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 昔々、戦国時代と呼ばれた時代に、一人の武術家の息子がおりました。

 その少年は父から様々な武術の手解きを受けて成長していきます。しかしある日父と母が流行病で死んでしまい、他に身寄りのない少年は天涯孤独の身になってしまいます。

 食べ物と住むところを求めて彷徨う少年、そんなある日彼は、火縄銃で狼狩りをしている若い侍たちを見かけました。

 侍たちはげらげら笑いながら面白がって狼の集団に弾を撃ち込んでいきます。次々と倒れていく狼達。その時……一匹の銀色で血まみれの狼が、ものすごい足の速さで侍たちに突進して行きました。

 侍たちは慌てて引き金を引きます。しかし低姿勢ですばしっこく走り、まるで消えているような狼に当たる筈もなく、侍の一人が狼に喉を食い破られてしまいました。

 怒った侍たちは狼を取り囲むように銃口を向ける侍たち、しかしある者は発射した弾が当たることなく、またある者は引き金を引く前に狼に喉を食い破られてしまいました。

 

 生きているのが狼と遠くから隠れて見ていた少年だけになった時、狼は血まみれの体を引き摺りながら自分達の巣に戻って行きます。少年は狼の後を追いました。

 少年が狼の巣を覗き込むと、そこには事切れた銀色の狼と、彼にすり寄る子供の狼がいました。銀色の狼は最後に生き残った子供の狼を助ける為に、命を投げ打って侍達に挑んだのです。

 銀色の狼の勇気にいたく感動した少年は、子供の狼を自分で育てながら、銀色の狼の戦い方を模した武術を作ろうと考えました。

 

 そして数年後、少し成長した少年と子供の狼は旅の途中、草原で一羽の怪我をした黒い鷹と出会いました。

 少年が鷹の怪我を治療してあげると、鷹の飼い主である若い侍が現れました。若い侍は少年にいたく感謝し、行くところが無ければ自分の家臣にならないかと誘ってきました。

 少年は鷹の獲物を刈る姿も、自分が作ろうとしている武術に取り入れようと考えその若い侍の誘いを受ける事にしました。

 若い侍は少年に苗字が無い事を知り、自分の家に代々伝わる家紋として使われているフタバアオイから取って“葵”という苗字を贈りました。

 

 これが “葵流古武術”または“葵流戦場格闘術”と呼ばれる武術の開祖である“葵清信”と、戦国時代に終止符を打ち、日本だけでなく世界中から長き平和をもたらした英雄と呼ばれる“徳川家康”の、最初の出会いでした。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 負傷していた手塚を簡単に治療し診療所に帰した後、ユウキ達はメモ帳に指定された閉店して廃墟と化した遊園地にやって来た。

 

「ここか、クロ達が連れてこられたのは」

「うん、それに……」

 

 遊園地の門は開いており、中にはバットや木刀で武装した不良やヤクザ、暴走族がちらほらいた。

 

「すんなり二人の元に行かせてはくれないみたいだ」

そしてユウキ達は一歩進んで遊園地の敷地内の中に入った。

 すると不良達は何かに対する怯えを含んだ並々ならぬ殺意をユウキ達に向ける。そんな彼らを見て、ユウキとアツシはある事に気付く。

 

「お前ら……さっき俺達がボコッた不良達じゃん」

「あれ本当だ」

 

 すると先頭にいた赤ジャージの男が、金属バットを振り回して叫んだ。

 

「うるせえ! お前達をここで殺さないと俺達が殺されるんだ! 悪く思うなよ!!」

「なんか物騒な事呟いていますねえ」

 

 殆ど無関係なのに巻き込まれた形になったにも関わらず、ミキは物怖じせずに余裕を見せていた。

 

(殺される……? 誰かに脅かされているのかコイツ等?)

 

 あれこれ考えつつも靴の爪先を地面でトントンと叩いて戦闘態勢を整えるアツシ。それにつられてユウキも手首をブラブラと動かして柔軟体操を済ませ、ミキは両頬を掌でパンパンと叩いて気合いを入れる。

 

「ま、推理は彼等を無力化してから考えようよ」

「だな、やるか」

「よっしゃ! ドンと来いです!!!」

 

 一方の不良達も足をガタガタ震わせながらユウキ達に向かって行く。そして一人のヤクザが周りを鼓舞するように叫んだ。

 

「人数はこっちの方が上だ! 殺す気で行くぞ!」

「「「おおおー!!!」」」

 

 

 

 FINAL STAGE「遊園地」

 

 

 

「「うらああああ!!」」

 

 まずは先頭の暴走族三人がユウキ達に襲い掛かってくる。

 

「せい!」

「オラッ!」

「とぉー!」

 

対してユウキは右ストレート、アツシはミドルキック、ミキはドロップキックで襲ってきた三人を吹き飛ばした。

吹き飛ばされた三人はそのまま背後の仲間達を巻き込んで地面に伏した。

 

「さて、一人何人倒せるか競争でもしようか? 最下位はジュース奢りで。俺オレンジジュース炭酸抜き」

「マックスコーヒー」

「私ビックサイズカルピスで!」

 

 その会話を合図に、ユウキ達は一斉に敵集団へ向けて駈け出した。

 

 

 

「死ねええええ!!」

 

 不良の一人が小刀を手にユウキに突っ込んでくる。

 

「よっと」

 

 対してユウキは、不良の刀が握られている手をパシッと掴み、剣先を自分の腹部に突き刺さる寸前で止める。そしてそのまま右足で不良の足を払い転ばせる。その拍子で不良の手から小刀が落ちる。

 

「てい!」

「ぐふっ!!」

 

 ユウキはそのまま不良の喉仏に向けて右手の手刀を叩きこみ昏倒させる。

 

「よし! 次!」

 

 その様子を確認したユウキは、そのまま次々やってくる敵達に備えた。

 

 

 

「体借りるぞ」

「うえ!?」

 

 アツシは近くにいた暴走族の肩に踵落としを当て、そのままグイッとジャンプしもう片方の足を、開いている方の肩に乗せて立つ。

 

「うぇ!? ほぇ!?」

「このやろおおおお!!」

 

 自分の肩の上に絶妙なバランスで立ち続けるアツシに困惑する暴走族。それを見た周りの不良達はこれがチャンスだと襲い掛かってくる。

 

「はいシュゥゥゥト!!」

「ゴフン!!?」

 

 対してアツシは暴走族の肩に乗ったまま、サッカーボールを蹴るように襲い掛かって来た不良達の顔面を蹴り飛ばしていく。

 

「お前もシュゥゥゥゥト!!」

「ドフン!!?」

 

 そしてあらかた片付くと小さくジャンプして体を丸め、そのまま全身をビンと伸ばす形で両足を暴走族の脳天に叩き込んだ。

 

「さて、次はどこに行くか……」

 

 アツシは周りを見渡して次の獲物を探す。

 

 

 

「ふんふんふんふん!!」

「「「ごえええええ!!?」」」

 

 一方ミキは襲い来る不良達をラリアットで次々となぎ倒していく。その光景はまるでサイクロンである。それを見た他の不良や暴走族達は恐れおののき後ずさった。

 

「何あの女強すぎ!? パンツ姿のくせに!?」

「パンツじゃありませんリンコスです! なので恥ずかしくない!!」

 

 破れた白リンコスの上に白いパーカー一枚……傍目から見ればアレな格好である。しかしそう指摘されたにも関わらず当の本人は気にする素振りもせず、不良や暴走族達を次々倒していく。

 

「さあどんどん来なさい!」

「この野郎!」

「ほぇ!?」

 

 その時、ミキの背後から体格のいい暴走族が襲い掛かり、彼女を羽交い絞めにする。

 

「今だお前ら! やっちまえ!」

「わかったぁぁぁぁ!」

 

 そう言って襲い掛かって来たのは……アツシだった。

 

「え!? いやお前じゃなドヒンッ!!?」

 

 ミキを羽交い絞めにしていた暴走族は顔面にアツシの飛び蹴りを喰らい吹き飛ばされる。それを見たミキはパチパチと拍手しながらアツシを称賛した。

 

「おおー! ありがとうございますメガネさん!!」

「メガネさん言うなプロレスバカ!」

「私はミキです! “未”来に“希”望と書いて未希!! 五十嵐未希!!」

 

 アツシのツッコミに対しニッコリ笑って親指を立てるミキ。その謎の圧力にアツシは面喰う。そして頭をガリガリと掻いた後溜息をついた。

 

「はぁー……俺はアツシだ、友永敦史」

「はいアツシさん! 助けてくれてありがとうございました!」

「おーい二人共ー、そっち終わったー?」

 

 するとそこに敵をある程度片付けたユウキが駆け寄ってくる。すると三人の目の前に、アサルトショットガンを持った青と黒の縦縞模様の背広を着たヤクザが現れる。

 

「こんガキャア!! これでも喰らえ!!」

「ちょ!? マジか!?」

「!!!」

 

 ヤクザはショットガンの銃口をユウキ達に向ける。対してユウキは咄嗟に近くにあった鉄製のテーブルを、左拳のアッパーでヤクザに向かって殴り飛ばす。

 

「うお!?」

 

 突然の攻撃にヤクザは驚いてショットガンの引き金を引く。テーブルは飛んできたショットガンの弾が直撃して破壊される。その真下から……ミキがスライディングで滑り込んできた。

 

「てえええええい!!!」

「のわっ!?」

 

 ミキはそのままヤクザの両足を自分の両足で挟んでうつ伏せに転ばせる。その拍子でショットガンがヤクザの手から離れる。

 

「オラァ!!」

「ぺぴッ!!?」

 

 そしてそのヤクザの顔面にアツシがサッカーボールキックを喰らわせ昏倒させる。

 

「あ、危なかった……!」

「でもさっきのコンビネーション中々でしたよ! 私達最強のトリオですね!」

「余裕だなお前」

 

 火器の登場に肝を冷やす三人、その時……三人の前に顎にガーゼをあてた長身の男……黒田と、頭に包帯を巻き木刀を持った暴走族……久保田が現れた。

 

「ふしゅるるるるる……!」

「野郎! さっきの仕返しだ!」

「お、最後っぽく中ボスラッシュだね」

 

黒田と久保田はそれぞれアツシとユウキに襲い掛かる。先程戦った時とは逆の組み合わせだ。

久保田はユウキに向かって木刀を振り降ろし、黒田は右ストレートをアツシに向かって放つ。

 

「ふん!」

「ほっと!」

 

 対してユウキは振り降ろされた木刀を手刀で叩き折り、アツシは右足の裏でストレートを受け止める。

 

「「はあああああ!!」」

「「ぐえっ!?」」

 

そのままそれぞれサブマリンアッパーと左回し蹴りを放ち、相手を一撃で沈めた。

 

「似たような攻撃してきやがって、進歩のない連中だ」

「このやろおおおお!!!」

 

 するとタイミングを見計らって今度は赤ジャージの不良がユウキ達の背後から襲い掛かって来た。

 

「とう!」

「ぐえっ!?」

 

 するとユウキとアツシの間からミキがにゅっと出てきて、迫って来た赤ジャージの男に右のフロントハイキック(カウンターキックとも言う)を腹部に喰らわせ、大きく仰け反らせる。

 

「もういっちょ!!」

「ほげっ!!」

 

 ミキはそのまま体を右回転させながら飛び上がり、左の延髄斬りを赤ジャージの不良の頭部に命中させる。赤ジャージの不良は尻を突き出す形で地面に伏した。

 

「はい!これで全部終わりです!」

「クロ達は……見当たらないね」

 

 敵がいなくなり、ユウキ達は辺りを見回してクロと一葉を探すが見当たらない。するとアツシは倒れていた赤ジャージの不良を蹴飛ばし仰向けにし、顔をグリグリと踏み始めた。

 

「おい、人質はどこにいる?」

「か、観覧車の前まで行けば解る……だから足どけひぇ……!」

「だとさ、行こう」

 

 アツシは赤ジャージの不良から足を避けると、ユウキとミキと共に遊園地の奥にある観覧車の方へ向かって行った……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 観覧車の前までやって来た三人。そしてアツシがある事に気付く。

 

「おい! あそこ!」

 

 アツシが指さす方向には、観覧車を支える支柱部分の天辺部分に、クロと一葉がロープで縛られて吊るされている姿があった。

 

「クロ!」

「一葉ちゃん!」

 

 ユウキとミキが二人を助けようと駈け出そうとしたその時……。

 

「死ねえええええ!!」

 

 傍の草むらからナイフを持った暴走族がユウキ達に向かって襲い掛かろうとした。咄嗟に身構えるユウキ達。だがボカンという鈍い音と共に、暴走族は突然前のめりに倒れた。

 その暴走族の背後には、木材を持った少年が立っていた。

 

「大丈夫ですか!? ユウキさん!」

「正貴君……!? 正貴君じゃないか!」

 

 暴走族を倒した人物の正体は、ユウキ達がこの町に来たばかりの頃に助けた三戸部正貴だった。

 

「お知り合いですか?」

「ああ、俺達がこの町に来た時にちょっとな」

「どうして君がここに!?」

 

 ユウキはすぐさま正貴に駆け寄り事情を聞く。

 

「そ、その……ユウキさん達が歩いているのを見かけて、何かあったのかなと思って付いて来たんです。まさかこんな事になっていたなんて……」

「そうだったのか、助かったよ……よかったら君もあそこに縛り付けられている子供達を助けるのを手伝ってくれないか?」

「はい! わかりました!」

 

 そう言ってユウキは正貴に背を向けて観覧車の方に歩き出そうとする。

だが次の瞬間、ユウキは背後から並々ならぬ殺気を感じ、反射的に身を屈めた。すると彼の頭上で銀色の刃が空を斬った。

 

「ユウキ!」

「ユウキさん!」

 

 突然の奇襲に驚く三人、そしてユウキが振り向くと……そこには大きなアーミーナイフを持った正貴が立っていた。

 

「正貴……君?」

「……あーあ、簡単に避けちゃうんだコレ」

 

 正貴はナイフの刃を指で摩りながらつまらなそうに鼻を鳴らす。その先程とは打って変わって冷酷な表情な彼を見てユウキは呆然とする。

 

「ど、どうして!? どうしたんだよ正貴君!」

「成程な……あの不良に指示していたのはお前か、三戸部」

「三戸部? 三戸部って……地下闘技場を仕切っていたボスさんの名前と一緒ですね」

 

 アツシの言葉に反応するミキ。すると正貴はケラケラと笑い始めた。

 

「ふぅん? そこの二人は僕の事知っているんだ?」

「父さんが昔追っていたヤクザの組織……その中に海外の秘密組織と連携して朝日市を乗っ取ろうとしている組があった。その内の一つが……“三戸部組”だ。珍しい名字だから気になっていたんだが……」

「え……でもそんな……!」

 

 ユウキは信じられないと言った様子で首を横に振る。すると正貴は髪を掻き上げてオールバックにしながら語り始める。

 

「アツシさんの言う通りですよ、僕は三戸部組17代目組長の息子、三戸部正貴です」

「何故俺達をこんな所にまで誘い込んだ? 一体何が目的だ?」

「目的は……復讐ですよ、貴方達の拳法にね」

 

 すると観覧車の周りのライトが突然光り出し、クロと一葉が吊るされている観覧車を照らし出す。

 

「数年前……親父が纏めていた三戸部組はこの町を力でほぼ掌握していた。残すは敵対する熊田組。彼らを潰そうとしたその矢先にあの男が現れた……」

 

 正貴は悔しそうに歯をギリリッと噛み締めながら話を続ける。

 

「その不思議な拳法を使う男は、抗争まっただ中の三戸部組と熊田組の間に割って入り、瞬く間に両方を壊滅させた……お陰で三戸部組はこの街を支配する寸前で弱体化を余儀なくされ、僕は使えないバカ共を駆使して組織の立て直しに四苦八苦する羽目になる……あの闘技場も経営立て直しの一つですよ」

「その武闘家、まさか……」

 

 話を聞いていたアツシは頭痛がしてきたのか、天を仰ぎながら正貴に質問する。

 

「ええ、貴方達と似たような拳法を使うんです。相手の視界から消える不思議な拳法……いや、魔法ですかね? 実は貴方達と出会った後、少し距離を置いて観察して確信しました。貴方達はあの男と同門ですね?」

 

 正貴はそのままナイフの剣先をユウキに向けながら高々と叫んだ。

 

「僕の聞きたい事はただ一つ……キサマらの師匠の居場所を教えろ。直接行って切り刻む」

「あのアホは好きにしていい、ただあそこのガキ二人は解放しろ」

 

 アツシの提案に対し、正貴はう~んと首を捻った後、横に振って拒否の意向を示した。

 

「それは駄目だな、組織の立て直しには色々と金が要るんだ。日本人のガキ二人っていうのは高い金になる……ああ、あの男の居場所ならお前らを拷問して吐かせるから心配ない」

「交渉の余地無しかよ」

 

 そう言ってアツシは戦闘態勢を取る。一方ユウキは戸惑うミキに小声で話し掛けた。

 

「五十嵐さんは二人を助けに行って。ここは俺達で何とかする」

「え!? 私も手伝いますよ!」

「お願い、ここは任せて」

 

 ユウキの懇願を最初は拒否するミキだったが、彼の真剣な眼差しに押し切られて承諾する。

 

「……わかりました、二人共気を付けてくださいね」

 

 ミキはそのまま正貴に背を向けて観覧車の方に走り出した。

 

「誰が行っていいと言った?」

 

 そんな彼女の背中に向かって、正貴はポケットから取り出したオートマチックの拳銃の銃口を向けて、そのまま引き金を引く。銃弾はそのままミキの背中に吸い込まれるようにまっすぐ飛んでいく。

 しかしその時、銃弾がユウキの左横を通過しようとした時、ユウキは突然左掌打を横に突き出した。

 キュンッという音と共に、銃弾はミキの背中にではなく、彼女の左側に置いてあった半裸の男の銅像に当たる。

 

「なっ……!?」

 

 想定外の光景に驚愕する正貴、よく見るとユウキの両腕には風の様な赤いオーラが纏われていた。

 

「アツシ……」

「ああ、この状況なら仕方ない……解禁だな」

 

 次の瞬間、アツシの両足にバリバリと青い雷のオーラが纏われる。ユウキはそのまま静かな怒りを含めた声で正貴に語り掛けた。

 

「言いたい事は山ほどあるけど……取り敢えず本気で行くね?」

「……! ふっ……ふふふふふ! じゃあこっちも本気で行くかあ!!」

 

 正貴は上着のYシャツを脱ぎ捨て、黒いボディスーツ姿になる。その傷だらけで引き締まった体つきは、繰り返してきた鍛錬の過酷さや潜って来た修羅場を物語る。

 

「18代目! これを!」

 

 そして突然草むらから黒服にサングラスという格好の男が現れ、正貴に鞘に収まった日本刀を投げ渡す。

 正貴はそのまま刀を鞘から抜き、その鞘を捨てた後銃を握りしめた。刀からは少し乾いた血で赤く染まっていた。

 それを見たアツシは、正貴が誰かにその刀を使った事を悟った。

 

「お前……それ誰かに使ったのか?」

「裏切り者と役立たずの処分にね、人の命が消える瞬間……あれは実にいいものだ。神秘的な物を感じるよ」

「……」

 

 ユウキは何も言わず、拳に力を入れる。一方のアツシはいきなり高笑いをし始めた。

 

「いいねお前! すごく蹴り甲斐のあるクズだよ!」

「その前にお前らは死ね!!」

 

 そして戦いの火蓋は切って落とされる……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 一方その頃、ミキはクロと一葉が吊るされている観覧車の下へやって来ていた。

 

「二人共―! 今助けるから待っていてくださいねー!」

 

 そう言ってミキは観覧車の柱を、あろうことかよじ登ろうとする。だがその時……。

 

「うがああああああ!!!」

 

 突然ミキの背後から獣のような叫びと共にベンチが飛んできた。

 

「うわっ!?」

 

 ミキはそれを横に飛んで回避し後ろを振り向く、そこにはヒグマのような体型をした男が、フーフーと青筋を立てて興奮しながら立っていた。

 

「アナタは……!」

「あの鮫のお姉ちゃんにやられたおじちゃんだ!」

「お知り合いっすか!? なんかすげーヤバそうなんスけど!!?」

 

 羆のような男……カムイは、尋常じゃない殺気をばら撒きながらミキに襲い掛かる。

 

「フオオオオオオ!! コロス!! コロスぅぅぅ!!」

「うわっ!!?」

 

 猛スピードで繰り出されるカムイのパンチを、ミキはしゃがんで避ける。すると繰り出されたカムイの拳は観覧車の固い鉄柱をべっこりと凹ませてしまった。

 

(な、なんですかこのパワー!? 車壊してた時のよりすごくなっている!?)

 

 ミキはカムイの殺人的にまでアップしたパワーに戦慄しながら、すぐに戦闘態勢に移り、飛び上がってカムイの胸元目掛けてドロップキックを放つ。

 

「はあー!!!」

「……」

 

 しかしドロップキックの直撃を受けたにも関わらず、カムイの体は微動だにしなかった。彼はにやりと笑うとミキの足を掴み、そのまま力任せに近くのゴミ箱目掛けてミキを投げ飛ばした。

 

「きゃあああああ!!?」

「お姉ちゃん!!」

 

 ミキはすぐさまゴミ箱の残骸の中から這い出てくる、するとカムイは猛ダッシュしてミキに追撃の蹴りを入れてくる。

 

「うわっ!?」

 

 ミキは辛うじてその攻撃を回避する。だがカムイは休む間もなく拳をブンブンと振ってミキを攻撃し、ミキはそれを紙一重で回避し続ける。

 

(パワーだけでなくスピードも上がっている……! 一発でも当たったら致命傷になりかねない……!)

 

 ミキは自身の命の危険を感じながら、どうやって反撃しようかあれこれ考える。

 

(下はコンクリートだから叩きつける技はアウト、打撃も効きそうにない、なら……!!)

 

 ふと、ミキはカムイが繰り出した右ストレートを右頬を掠めながらも回避し、そのままその腕に飛びついた。

 

「だああああああ!!!」

 

 飛びつき腕ひしぎ十字固めで腕の関節を外そうとするミキ。しかしカムイは不敵に笑う。初めて見た時より膨張した筋肉がそれを許さなかったのだ。

 

「があああああ!!」

「あう!?」

 

 カムイはそのままミキを地面に向かって振り落した。ちょうど芝生の上に移動していたので致命傷にはならなかったが、ミキの視界はグワングワンと揺れていた。

 

「あ、やば……」

 

 次の瞬間、カムイは踏みつぶさんとする勢いでミキ目掛けて左踵を振り降ろした。直撃すればもしかしたら死に至るかもしれないその威力に、ミキは自身の死を覚悟する。

 

 だがその時、カムイの背後から突然パァンと破裂音がする。

 

「グガッ!?」

 

 よくみるとカムイの背中には青黒い炎がパチパチと彼の体毛を焦がしていた。怒りに燃えるカムイが後ろを向くと、そこには髭面の長髪の男が不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

「おいおい、幼気な少女嬲って楽しいかい?」

「ど、どちら様!?」

 

 ミキは突然現れた男に困惑する。すると邪魔をされたカムイは怒り狂いながら、ニヤニヤ笑うその男に向かって突進した。

 

「通りすがりのホームレスだ! ってか!」

「グガアアアアアア!!」

「うるせえな、ちょっと黙ってろ」

 

 男は目つきを変えるとカムイの突進に合せるように、彼の顎に右掌打を当てる。しかしカムイは尚も止まらず、凄まじい拳のラッシュを繰り出した。男はそれをひょいひょいと回避していく。

 

「やれやれ、大振りだから動きが読みやすいな。普通の時の方が強いんじゃねえの?」

「グウウウウ!!」

 

 次の瞬間、男はカムイの腹に右掌打を当てる。するとカムイはボンッという音と共に5m程吹き飛ばされた。しかしカムイはすぐに起き上がる。

 

「ガウウウウ!!」

「お、しぶといねー、でもそろそろ終わりにすっか」

 

再び突進して来るカムイ、すると男は右手を上に、左手を下に縦に添え、突進して来るカムイの体を受け止めた。そしてそのまま……彼の体を勢いを利用して持ち上げる。

 

「そぅら!!」

「グガゴッ!!?」

 

 そしてカムイを脳天から芝生の地面に叩きつける。カムイは脳震盪を起こしそのまま血をガハッと吐いて気絶した。

 

「うっし終わり!! 薬なんかで強くなっても俺には敵わねえよ!」

「薬……!?」

 

 ミキはふと、血の混じった泡を吹いているカムイの首筋に、注射の針の痕のようなものが複数ある事に気付く。

 

「考えるのは後だ嬢ちゃん、それよりもあそこにいるガキンチョ共降ろすのが先決だぜ、あれじゃ風邪ひいちまう」

「は、はあ……(ほんとに誰だろこの人?)

 

 ミキは内心疑問で首を傾げながらも、男に言われるがままクロと一葉を降ろしに向かった……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 一方ユウキ達は、正貴の刀のリーチに手古摺りながらも、一対二の状況を利用して互角の戦いを繰り広げる。すると突然、正貴は奇襲と言わんばかりに拳銃の引き金を引く。対してユウキとアツシはそれぞれ別方向に横っ飛びして飛んできた銃弾を避ける。そして大きく回り込むように正貴に接近していき、そのままユウキは右フックを、アツシは小さく飛んでからの左踵落としを繰り出す。

 対して正貴はフックを左肘で、踵を刀の柄で受け止め弾き、そのままユウキの眉間に銃口を向け引き金を引き、アツシの喉目掛けて刀の先端を突き出した。

 “パン”という乾いた音と“ヒュン”という空気を斬る音が同時に起こる。ユウキとアツシはそのまま首を捻ってその殺意ある一撃を回避し、一気に距離を取った。

 そしてまずアツシが正貴に向かって再び攻撃を敢行する。正貴は銃口をユウキに向けて引き金を引きながら、フェンシングのように刀を迫って来たアツシに向かって突き出す。

 ユウキはいつもの歩法で銃弾を避けながら接近し、アツシは自分に向けられる剣戟を避けながらローキックを繰り出す。正貴はその攻撃を飛び上がって回避し、そのまま落ちながらアツシの脳天目掛けて刀を振り降ろした。

 

「だあああああ!!」

「っ!?」

 

 その攻撃を、銃弾を掻い潜って接近したユウキがサブマリンアッパーで腹部を攻撃して中断させる。

 地面に落下した正貴はそのままバク転してユウキ達から距離を取り、弾数が残り少ない拳銃のカートリッジを捨て新しいのに取り替える。

 

「一対二じゃ分が悪いか……」

「言っておくけど、君に対しては手段を選ばないつもりだよ」

「だな、じゃあ俺も「手段は選ばない」」

 

 その時、正貴の背後に同じ背格好、しかし銃と刀を持っている手は鏡のように逆の姿をした人物がすっと現れた。

 

「分身?」

「いや違う、もう1人いるのか」

「「そう、僕達は兄弟さ」」

 

 ぴったり声を合わせながら喋る二人の正貴。そして前にいる正貴が後ろにいる正貴に声を掛ける。

 

「行こうか、裕(ユタカ)兄さん」

「ああ、俺は足技の方を殺る」

 

 次の瞬間、正貴と裕と呼ばれたもう一人の正貴はブォンと衝撃波を放ちながら消え去り、それぞれユウキとアツシに襲い掛かる。

 

「「シャアアアアアア!!!」」

 

それぞれの眼前まで迫る殺意ある刃の先端。その攻撃をユウキは左アッパーで頭上にずらし、アツシは右足で刀を持つ裕の左手を蹴り上げて頭上に逸らす。

その隙を正貴、裕兄弟は見逃さずそれぞれ拳銃の引き金を何度も引いた。

“パァン” “パァン” “パァン” “パァン”と何度も乾いた破裂音が二重に重なって一拍子ごとに夜空に響き渡る。しかしその音と共に放たれた銃弾は、ユウキとアツシの絶妙な体捌きと拳、脚による軌道ずらしによって当たる事は無かった。

 

 

「しつこいな君も!」

 

 しびれを切らした正貴は、ユウキの脳天目掛けて刀を振り降ろす。

 

「はっ!」

 

 ユウキはその刀を持つ手を両手で挟んで受け止めた。俗に言う無刀取りである。

 

「腹ぁ! ガラ空きぃ!!」

 

 正貴はユウキの腹部に銃口を押し付け、引き金を引こうとする……が、それよりも早くユウキは左手で刀を持つ正貴の手を掴みながら、離した右手で拳を作りそれを正貴の腹部に叩き込んだ。

 

「グホッ!?」

 

 腹部に強い衝撃を受けて後ろに吹き飛ばされる正貴、一方アツシと裕はと言うと……。

 

「しえええええい!!!」

「ふっ!」

 

 力強く突き出された剣先を右に体を回して回避し、そのまま裕の左腕を右手で掴む。そして絶え間なく向けられる裕の右の銃、対してアツシはそれを左手で掴んでグイッと下に向けさせる。

 “ズドン”という音と共にコンクリートにめり込む銃弾。アツシは裕の両腕を自分の両手でそれぞれ掴んだまま、彼の顔に自分の顔を目と鼻の先まで近づける。

 

「つーかまーえ……たっ!!」

 

 そしてグンと距離を放すと思いっきり飛び上がり、裕の顎目掛けて渾身の右膝を叩きこんだ。その行為を連続で四回繰り返す。

 

「おら! おらっ!! おらっっ!!! おらぁっっっ!!!!」

「ガハッ!」

 

背中合わせになるように、正貴が転がっている方角に吹き飛ばされる裕、顎からは大量の血が流れている。

 

「ば、バカな……!」

「どうして俺達の攻撃が通用しない!?」

 

 自分達の攻撃がことごとく回避され、あまつさえ手痛い反撃を受けている事に、正貴と裕は驚愕していた。

 一方ユウキとアツシはオーラを練り直して凄まじい気を放ちながら二人にじりじりと詰め寄る。

 

「何故って言われてもなぁ?」

「俺達普段通り、訓練通りに戦っているだけだよ」

 

 なんてことない、この程度の事は日常茶飯事だと言わんばかりに答えるユウキとアツシ。そして二人の足元からブォンと衝撃波が放たれる。

 

「さて、そろそろ……」

「フィニッシュと行くか」

 

 刹那、ユウキは駆け出しアツシは跳躍する。対して正貴と裕は迎撃しようと立ち上がり銃口を彼らに向けて引き金を引く。銃弾はそのままユウキとアツシの頬を掠めた。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!!」

「げはあああああああああああ!!!?」

 

 ユウキはそのまま正貴との距離を詰め、彼の上半身に万遍なくオーラを纏った両拳の連撃を叩きこんでいく。

 

「鼻! 眉間! 頬! 口! 額! 鼻鼻鼻鼻鼻鼻鼻鼻鼻鼻鼻鼻鼻鼻鼻鼻ぁ!!!」

「ぐえええええええ!!!?」

 

 一方アツシは飛び上がったまま裕の顔を両足で重点的に蹴り続ける。

 

 ユウキとアツシの凄まじい猛攻に、正貴と裕は反撃することもままならなかった。そしてユウキとアツシは攻撃をやめ一拍置く。そしてそのままユウキは左アッパーを、アツシはバク転しながらの蹴り上げで相手を高く浮かせ、空中で背中合わせにさせる。

 ユウキはそのまま渾身のオーラを右拳に溜めながら体を捻り、アツシは飛び上がりくるくるとバク宙する。

 

「これで……」

「決める!!」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 ある日、成長した少年……葵清信は主君と共に一向一揆の鎮圧の為、沢山の軍を引き連れとある山村に向かいました。そしてそこで恐ろしく強い僧兵と出会いました。

 僧兵は神様の名前を使って村の人々を誑かし反乱を起こさせ、巨大な薙刀で迫りくる侍達を次々と真っ二つにしていきました。

 清信はその僧兵の姿を見て恐怖を感じると共に、神様の名前を語って弱い者を操り、暴虐を振るうその姿に激しい怒りを感じていました。

 そして主を守る為に命を捨てる覚悟で僧兵に挑もうとした時、清信の横に二つの風が通り過ぎました。一つは幼いころから共に過ごしてきた銀色の狼、もう一つは主が飼っている黒い鷹でした。狼は低い姿勢で僧兵の猛攻を掻い潜り、疾風のように牙で攻撃し続け、鷹は頭上から僧兵の頭を、雷のように突き続けました。そして僧兵が怯んだのを見計らい、狼は弾丸のように喉を食いちぎり、鷹は背中から僧兵の心臓を嘴で一突きに貫いてしまいました。

 その、まるで一頭と一羽が一身になって一匹の獣のようになり、神の名を語る不届き者を砕くように倒す姿を見て、清信は悪を許さない勇気ある獣二匹を称える為、ある奥義を生み出しました。

 

 

 その奥義の名前は、“神”の名前を語る不届き者を“砕”いた技……“神砕”

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 幻だろうか、ユウキの背後には銀色の狼が、アツシの背後には大きく羽を広げる黒い鷹が浮かび上がる。そしてユウキは宙に浮く正貴に向かって風のオーラを纏った正拳突きを、アツシは斜め下にいる滞空中の裕に向かって電撃のオーラを纏った両足の裏を、渾身の力を込めて放つ。

 

「「ぐええええええええ!!!?」」

 

 互いに背中合わせの状態で放たれたオーラとオーラに挟まれて、体中に深刻なダメージを受ける正貴と裕。その威力は……まるで巨大な獣に噛み砕かれているが如くだった。

 そして次の瞬間、風と雷のオーラが混ざり合い爆発が起こる。

 

「「ぎゃあああああああ!!!」」

 

 正貴と裕は弾かれるようにそれぞれ別の方角に吹き飛ばされ、そのまま地面にゴロゴロと転がり気を失った。

 一方ユウキは血が滲んだ自分の拳を正拳突きの形で突出し、纏われていたオーラを払う、一方地面にシュタッと着地したアツシは、脚を振ってオーラを消しながら胸ポケットにしまっていた自分のメガネを取出し顔に掛けた。

 

「俺達の……」

「勝ちだよ、正貴君」

 

 彼等は圧倒的武力を有する正貴と裕から完全勝利を得たのだ。

 

「ユウキさん! アツシさん!」

「アニキー!」

 

 その時、観覧車の方角から少しボロボロの状態のミキと、解放されたクロが駆け寄って来た。

 

「五十嵐さん! クロ! 無事だったんだね!」

「そっちも……ちゃんと勝ったんですね。よかったです……」

 

 互いの無事を喜び合う4人。

 

「そっちも大丈夫だったのか?」

「へい! あのオッサンが手を貸してくれたんス!」

「「オッサン?」」

 

 そう言ってユウキとアツシは後ろを振り向くクロの視線の先を見る。そこには一葉を肩車する髭面の長髪の男が歩いて来ていた。

 

「あの人が助けてくれたお陰で何とか一葉ちゃん達を助けられたんです」

「ありがとーおじちゃん」

「いやーいいって事よ!」

 

 一葉にぎゅっと抱きしめられガハハと笑う髭面の男、それを見たユウキとアツシは何故か天を仰いだ。

 

「……なんであなたがここにいるんですか?」

「え? 二人共この人とお知り合いなんですか?」

 

 首を傾げるミキ、対してユウキとアツシは髭面の男を指さして答えた。

 

 

 

「「この人(コイツ)、俺達の師匠」」

 

 

 

 ユウキ達の答えに混乱するミキとクロ。

 

「え!? え!? アニキ達のお師匠さんって隻眼の虎さんにやられて重傷だったんじゃ……」

「ああアレ? 俺の自作自演。いやー痛かったわ自分で自分をボコボコにするのって」

 

 あっさりすぎる程簡単に答えた髭面の男……否、ユウキ達の師匠。

 

「やっぱりお前の差し金だったか、道信……葵道信」

 

 するとそこに、後からやって来た手塚が現れ、その場に居た師匠を名前で呼んだ。

 

「めぐみさん? ユウキさんの師匠とお知り合いで?」

「ああ、私の幼馴染」

「お!? お!? めぐみじゃねえか久しぶりだな! てことはアレ? この子お前の娘!? どーりで似てると思った! うわーなんだコレどういう巡り合わせだ!?」

 

 久しぶりの旧友との再会に嬉しくて興奮する師匠……道信。するとそんな彼らの会話にアツシが額に青筋を浮かべながら割って入る。

 

「自作自演……と言ったなクソ野郎、どういう事かちゃんとその口で一から説明して貰うぞ」

「んだよ解っているくせにー、これも修業だよ、修業、ちゃんと俺の仇が討てるかどうか、俺が昔ボコッた奴等を狙わせて試したんだ」

 

 道信は一葉とじゃれ合いながら説明しようとする……が、手塚に取り上げられる。

 

「おーよしよし、髭とかに巣食うカビが移ったら大変だ」

「ひでーなオイ!? これでもちゃんと体毎日洗っているぜ!?」

「いーから説明続けてください」

 

 ユウキに急かされて嫌々ながらも話を続ける道信。

 

「俺が昔ボコッたこの町のヤクザの中によぉ、俺の手柄横取りして生意気にも隻眼の虎とかいう異名で呼ばれる男がいるって聞いてよお、ムカついたから修業のついでにお前等にボコらせようと思ったのさ。いやーしかしここまで大事になるなんてな!!」

 

 そう言って他人事のようにゲラゲラと笑い始める道信。それを見たユウキとアツシは怒り心頭と言った様子で道信を睨みつける。

 

「笑いごとじゃねーよ! こっちは死にかけたんだぞ!?」

「まあまあいいじゃん結果オーライて事で、いい出会いもしたみたいだしよ」

「そ、そりゃそうですけど……」

 

 ユウキはちらっとミキの方を向いて口籠る。そして道信は腰に両手をあててユウキとアツシに高々と宣言した。

 

「よし! これでもう俺からお前らに教える事は無い! んじゃ最後に……俺と手合せするか!」

「「え゛!?」」

 

 予想外の展開に声が上ずるユウキとアツシ、そして隣にいた手塚とミキが物言いする。

 

「いや、流石にそれは無いだろ」

「そうですよ、ユウキさん達今日ずっと戦いっぱなしで疲れているでしょうし……」

 

しかしアツシが、恐怖を振り払うように首をブンブンと横に振って一歩前に出る。

 

「……思えばアンタ出会って半年、色々な事を教えられたな、パンチやキックの仕方、基礎訓練の仕方、狼やらエゾシカやらを素手で倒す方法……」

「最後の方!? 最後の方おかしくないッスか!?」

「そんな事もあったなあ」

 

 クロの激しいツッコミを無視して昔を懐かしむ道信。続いてユウキが語り始める。

 

「滝に打たれる修業とか、延々と巻を割る修業とか、霧雨川横断遠泳とか、地元の米軍基地にカチコミ仕掛ける修業もあったね」

「そんな事やらされていたのかい、アンタ達……」

「そんな事もあったなあ」

 

 呆れて頭を抱える手塚を無視して昔を懐かしむ道信。そしてユウキは一歩前に出てアツシと並んで立つ。

 

「そんな修業の日々、俺達は常に思っていました……」

 

 次の瞬間、先程正貴たちと戦った時とは比べ物にならない量のオーラを、ユウキ達は体に纏わせる。

 

 

 

「「コイツ、いつかぶっ倒すってね!!!」」

 

 

 

「あれ? もしかして怒ってる?」

「「当たり前だこの野郎!!」」

 

 てへっと舌をチョロっと出してまったく悪びれる様子も無く愛想を振りまく道信に対し、ユウキとアツシは今までにない程の怒りと殺気をぶつける。そんな彼らを見てミキはうーんと唸って悩んでいた。

 

「うーん……私もその修業やってみようかな?」

「やめときな、人間じゃなくなる」

「はははは! やっぱり面白い嬢ちゃんだ! さて……」

 

 道信はミキと手塚のやり取りを見て笑った後、近くに倒れていた裕の持つ日本刀を手に取った。

 

「ちいと借りるぜ」

 

 そして徐に自分の髪をサクサク切り始め、長かった髭もジョリジョリとそり始める。そして汚いジャンパーを脱ぎ捨て、手に持っていたカバンから袴を取出しそれに着替える。

 そこには汚い身なりのホームレス風の男はおらず、代わりに只者ではないオーラを醸し出すロンゲに無精髭という、少しワイルドな雰囲気を醸し出す武闘家が立っていた。

 

「……師匠、結構若かったんですね」

「馬鹿野郎、これでも俺はまだ28だ、さて……」

 

 道信は両手を高々と上げてユウキとアツシに言い放った。

 

 

 

「来なさい、最初で最後の師弟喧嘩だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 NEXT SPECIAL STAGE「VS 葵 道信」

 

 

 

 

 

 


 
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