No.564074

真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side呂布軍)~ 第五回 在野フェイズ:陳宮①・蜂蜜と熊と袁術と(前編)

stsさん


皆さんどうもお久しぶりです。

昨日4月に入って初めてPC触りました。案外PCなくても生きていけるものですね。

続きを表示

2013-04-08 00:09:27 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:8427   閲覧ユーザー数:7081

 

ここは揚州のとある森林地帯。今日はこの前の突然の雪がウソのように、春の陽気が気持ち良い穏やかな天候であった。

 

木々には何匹かの鳥が枝にとまり、気持ちよさそうに美しい歌声を響かせている。

 

しかし、そのような平和な森の中、その場にそぐわない叫び声を響かせながら全力で駆け抜ける男女の姿があった。

 

 

 

北郷「なんで後先考えずに蹴っちゃうんだよ!」

 

陳宮「過ぎたことをぐちぐちと!小さい男です!」

 

 

 

平和な森にそぐわないその二人に対して、鳥たちはキュイキュイと抗議の声を上げるが、

 

北郷と陳宮は構うことなくギャーギャーとお互い文句を言い合いながら全力でダッシュしていた。

 

しかし、徐々にその背後に迫るものに距離を縮められていることに気づくと、言い争いをやめ、走ることに全神経を集中した。

 

 

 

陳宮(まさかこのような失態を犯そうとは・・・!)

 

 

 

 

 

 

【揚州、寿春付近】

 

 

 

時は少し戻り、徐州を出立し、揚州寿春にいる袁術のもとを目指していた呂布一行は、

 

まず袁術に献上する蜂蜜を調達しようということになった。

 

その時、真っ先に立候補したのは陳宮であった。

 

 

 

陳宮「蜂蜜採りならねねにお任せですぞ!この辺りにはよく恋殿と採りに行っていたのです!」

 

北郷「オレも蜂蜜なら小さいころよくじいちゃんと一緒に取りに行ったことあるぞ」

 

 

 

北郷は、戦い関係ならあまり協力できそうになかったが、こういうことなら、ということではりきって立候補した。

 

 

 

張遼「ほな、みんなでわいわい行ってもしゃあないし、恋とウチとななで黄巾の残党狩りにでも行って、

 

ちょっとでも路銀を稼いでくるわ」

 

高順「それがいいですね」

 

 

 

張遼の提案に高順は肯定の意を示したが、陳宮はそこに異を唱えた。

 

 

 

陳宮「何を言ってるですか!当然恋殿も一緒に―――!」

 

 

 

陳宮としては、当然呂布と一緒に、という腹積もりがあった。そのため、張遼の提案など受け入れるべくもなかったのだが、

 

 

 

呂布「・・・わかった」

 

 

 

呂布もあっさりと張遼の提案を受け入れた。

 

 

 

陳宮「れ、恋殿ぉ~・・・」

 

 

 

さすがにショックだったのか、陳宮は呂布のそっけない態度にうなだれていた。

 

しかし、そんな陳宮の様子を見た呂布は、

 

 

 

呂布「・・・・・・恋もねねと一緒に蜂蜜を取りに行く」

 

 

 

あっさりと先ほどの自身の意見を覆した。陳宮の気持ちをくみ取った、なんとも仲間思いな心遣いである。

 

しかし、当然陳宮もそんな呂布の心中を察していた。

 

 

 

陳宮「あ・・いや・・その・・恋殿、御心配には及びませんぞ!たかが蜂蜜採りなど、恋殿のお手を煩わすまでもありませんです!」

 

高順「そうですよ、恋様。蜂蜜採りなど、ねねに任せておけばいいのです」

 

 

 

高順の発言に、陳宮はキッっと高順を睨みつける。高順の発言は、明らかに含みあるものであった。

 

 

 

北郷「あのー、オレも行くん―――」

 

呂布「・・・ねね、気をつけて」

 

陳宮「お任せください恋殿!必ずや袁術を唸らせる蜂蜜を手に入れて見せるです!」

 

 

 

ねねは握りこぶしを作って呂布に気概を見せつけた。完全に空気状態の北郷は自身の存在を主張しようとするが、誰も聞いていない。

 

 

 

北郷「ははは・・・まあいいんだけどね・・・」

 

 

 

結局、陳宮と北郷で蜂蜜採取に、呂布と張遼と高順で路銀稼ぎをすることになり、近くの村を集合場所に定め、一度別れた。

 

別れ際に、呂布に「北郷も気をつけて」と言われ、ありがとう恋オレ頑張る、とひそかに心に誓う北郷であった。

 

 

 

 

 

 

【揚州、寿春付近のとある森】

 

 

 

呂布達と別れた北郷と陳宮は、森の中を歩きながら蜂の巣を探していた。

 

 

 

北郷「さっきも言ってたけど、ねねは恋とよく蜂蜜を採ってたの?」

 

陳宮「蜂蜜は袁術でなくても好む貴重な甘味。特にこの辺りの蜂蜜は格別の味なのです。よく恋殿と採りに行っては、

 

みんなでおいしくいただいたものです」

 

 

 

そして二人は蜂の巣を見つけるべくさらに森の奥へと入っていく。

 

すると、少し歩いたところにあった大きめの木の近くを通り過ぎようとしたとき、ブーンという虫の羽音が聞こえてきた。

 

そこでその木を見上げてみると、いい感じの蜂の巣があり、その周りを何匹かの蜂が飛び回っていた。

 

 

 

北郷「うわ、すごく大きいな・・・。初めて見たよ、あんなに大きな巣は」

 

陳宮「このあたりは蜂の巣が大きいのです。そして中にはたくさんの美味しい蜂蜜が詰まってるです」

 

 

 

北郷は蜂の巣の大きさに怯んだが、陳宮は馴れているせいか、動じている様子は一切ない。

 

 

 

北郷「けど、あの大きさだと中の蜂の数が・・・。ねね、とにかくまずはあの蜂を何とかして―――」

 

 

 

しかし、北郷がどうしたものかと思案し終える前に、唐突に予想外のことが起きた。

 

 

 

 

 

陳宮「ちんきゅーきーーーーーーーーーっく!」

 

 

 

 

 

北郷「!?」

 

 

 

どかーーーん!!!というものすごい音が鳴り響いてもおかしくないような、どこぞのライダーもビックリなすばらしいとび蹴りを、

 

陳宮は蜂の巣がある木に向けて放った。

 

そして、陳宮のとび蹴りの衝撃を受けた蜂の巣は、ヒューンという効果音と共に、無情にも地面へと墜落していった。

 

北郷は状況を全く理解できずにいる。

 

 

 

北郷「な・・・!ちょっと音々音さん!?いったい何を!?」

 

陳宮「ちんきゅーキックなのです!」

 

 

 

陳宮は腰に手を当て、胸をこれでもかというくらい張り、得意げに自身の必殺のけりの技名を披露した。

 

 

 

北郷「へー、ねねにはそんな必殺技が・・・て、そうじゃなくて!そんなかわいらしく胸なんか張っちゃってもう!

 

どうして蜂を追い払う前に巣を落としちゃうの!普通煙とかで追い払ってから・・・!」

 

陳宮「な、何を騒いでいるですか。蜂なら恋殿がいつも退治してくれましたぞ!」

 

 

 

北郷の言った“かわいらしく”という言葉にやや反応を示しながらも、北郷の動揺ぶりを理解できず、

 

肩をすぼめて再び得意げに言い放った。

 

 

 

北郷「退治してくれましたぞ!じゃないよ!なにドヤ顔になってんの!今日は恋が一緒じゃないだろ!」

 

陳宮「ぁ・・・・・・」

 

 

 

陳宮は素で呂布が一緒でないことが頭になかったらしく、北郷の指摘に言葉を失った。

 

そして無残に地面へと落下した蜂の巣からは、我が家を破壊され怒り狂った住人達、もとい蜂たちがわらわらと出てきた。

 

北郷と陳宮の顔が徐々に青ざめていく。

 

 

 

陳宮「しまったです・・・ついいつもの癖で・・・」

 

 

 

わらわらと次々に出てくる蜂は、気が付けば数百匹、いや、千匹を超えただろうか。とにかく辺り一面は蜂で埋め尽くされつつある。

 

 

 

陳宮「ほ、北郷殿、はは、蜂に対抗するこころろ、心得は、お、おありですか?」

 

 

 

陳宮は真っ青な顔をひきつらせ、噛み噛みになりながらも北郷に助けを求める。

 

 

 

北郷「お、おお追い払う知識はあっても、た、戦うすべはないぞ・・・!」

 

 

 

北郷も同様に真っ青な顔をひきつらせ、自身が無力であることをカミングアウトした。

 

そうこうしている内に、蜂が我が家を破壊したデストロイヤーに攻撃の照準を合わせる。

 

もちろん陳宮だけでなくその場にいた北郷も同罪のようだ。

 

合うはずもないのに目があったような感覚に襲われ、二人に戦慄が走る。

 

 

 

陳宮「天の力もたいしたことないです~~~~~~!!!!」

 

北郷「逃げろぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

数千匹にまで膨れ上がった蜂の大群が一斉に二人に襲いかかる。と同時に二人は回れ右をして全力でダッシュを開始した。

 

 

 

 

 

 

蜂に追われ始めてから数十分たったが、未だに蜂は追いかけてきていた。

 

二人は、闇雲に走っていたせいで、もはや今どこを走っているのか分からなくなっていた。

 

 

 

陳宮「はっ、はっ、い、いつまで、逃げれば、いいですかっ!!」

 

 

 

元々文官である陳宮は、たとえこの戦乱の世を生きているとはいえ、数十分もの全力のダッシュで息が上がっていた。

 

そんな様子を横目に、北郷は蜂から逃げ切るのではなく、やり過ごすことに決め、蜂が寄りつかない水場を探していた。

 

 

 

北郷「とにかくどこかに川が・・・あそこだ!あそこに川がある!」

 

陳宮「か、川と、言っても、この高さじゃ―――わわっ」

 

 

 

北郷は陳宮が最後まで言い終わるのを待たず、陳宮の体を抱きかかえ、川に飛び込んだ。

 

二人がいる場所から川までの高低差は約3メートルといったところか。

 

 

 

陳宮「いやあああぁぁぁぁぁっですぅぅぅ―――むぐぐぐぐ!!!」

 

 

 

陳宮の悲鳴が森中にこだます中、北郷は陳宮の頭を守るように抱き寄せ、川の中に落ちた。

 

ドボーン!という水音が森に響き渡り、二人は川の中へと消えた。

 

 

 

 

 

 

川に落ちた二人が川から這い上がってきたときには、もう蜂の姿はなかった。

 

 

 

陳宮「う~、びしょびしょなのです~」

 

北郷「・・・く、首が・・・」

 

北郷は川に落ちたときの体勢が悪かったのか、首を強く打ったようで、首に手を当てて苦しんでいた。

 

 

 

陳宮「あんな高い所から飛び降りるからです!自業自得なのです!」

 

北郷「・・・・・・」

 

 

 

しかし、北郷の脳裏にはこの首の痛めた原因が鮮明に記憶されていた。

 

 

 

 

 

<よし、なんとか蜂を撒けたみた―――>

 

<ちんきゅーきーーーーーーーーーっく!>

 

<ぐほあぁぁ!!>

 

 

 

 

 

北郷「・・・・・・・・・」

 

陳宮「ですが、これからどうするですか?」

 

 

 

陳宮自身、北郷の首痛の原因を知っているため、これ以上言及されないように話題を変えた。

 

 

 

北郷「・・・とにかく、服を乾かしてからリベンジだ」

 

 

 

北郷は陳宮にいくつか物申したかったが、喉まで出かかっていたそれを飲み込み、再チャレンジを誓った。

 

 

 

陳宮「りべんぢ?」

 

北郷「もう一度挑戦するってことさ」

 

 

 

 

 

 

そして、二人は火を起こして服を乾かすことにしたのだが、ここで一つ問題が発生した。

 

陳宮が服を脱ぐことにかなり抵抗を示したのだ。

 

年頃の娘が、知っている人間とはいえ――この場合、むしろ知っているからと言った方が正しいか――

 

男の前で服を脱ぐなど、親兄弟、或いは配偶者、百歩譲って恋人でもない限りありえないことであり、

 

陳宮の反応は至極当然と言えるのだが、そのようなこと我関せずと言わんばかりに、

 

北郷が全然気にすることなく服を脱ぎだし、あれ、脱がないの?オレ全然気にしないよ?

 

みたいなことを口走ったので、北郷は再びねねからちんきゅーキックをくらってしまった。

 

結局、オレの服は乾きやすいからと、北郷の服が乾いたら、その上着を借りて陳宮の服を乾かす、

 

という段取りを北郷は提案をし、陳宮も渋々その案に乗る、といった形で何とか落ち着いた。

 

 

 

北郷「ねね、風邪ひくぞ?」

 

 

 

北郷は下着一枚の状態だが、火にあたっているためか、震えるほど寒くはなかった。

 

一方陳宮は、いくら春先とはいえ、濡れたままの服を着ているため、体温は確実に奪われていき、

 

火にあたっているとはいえ、少し震えていた。

 

 

 

陳宮「そう思うなら早く乾かすです!」

 

北郷「ほい、乾いたよ」

 

 

 

北郷は乾いた上着を陳宮に手渡した。想像以上に早く乾いたので陳宮は驚きを隠せない。

 

 

 

陳宮「な!?もう乾いたのですか!?」

 

 

 

陳宮は信じられず北郷の上着をわしゃわしゃと触ってみたが、本当に乾いていた。

 

 

 

北郷「ポリエステルが入ってるからね、乾きやすさには定評があるんだよ」

 

陳宮「ぽりえすてる?」

 

北郷「オレの世界での服の素材だよ」

 

 

 

それを聞くと、陳宮は納得と言った風に腕を組んだ。

 

 

 

陳宮「なるほど、その白く輝く服はこの国に存在しない素材だとは思っていましたが・・・ぽりえすてる・・・

 

こんなにも早く乾くとは、なんとも、天の国とはすごいですな」

 

 

 

陳宮は服を脱ぐために、絶対にこっちを見ては駄目なのです!と言い放って茂みに隠れた。

 

数秒後、茂みから出てきた陳宮の姿は、下着の上から北郷の上着を着ただけという状態であった。

 

幸い北郷の上着のサイズがちょうど陳宮の下着が隠れるほどという絶妙の大きさだったため、

 

陳宮の下着は見えてはいなかったが、それでもやはり恥ずかしいのか、陳宮は上着の裾を引っ張って、

 

少しでも足を隠そうと努力している。

 

 

 

陳宮「あ、あまりこっちを見るなです!」

 

北郷「え、ああ、ごめんごめん」

 

 

 

陳宮は顔を真っ赤にして言ったのだが、そんな恥じらう陳宮に対して、全然気にした様子のない北郷に、

 

再びちんきゅーキックをお見舞いしようと考えた陳宮であったが、この姿でとび蹴りはさすがに見えてしまうと思い、踏み止まる。

 

そして、陳宮は自身の服を乾かしながら、この状況で沈黙が続くのはいろんな意味で耐えられないので、北郷に話題を振った。

 

 

 

陳宮「ところで聞きたいのですが、この世界のことについて知っているとはどういうことなのですか?

 

この前の話ではイマイチよく分からなかったのです」

 

 

 

北郷自身も未だ理解できていないのだが、それでもなんとか分かりやすい例えはないものかと考える。

 

 

 

北郷「そうだな・・・本当に説明しづらいんだけど・・・例えば、ねねは項羽とか劉邦は知ってるよね?」

 

陳宮「もちろんです。楚王項羽と漢王劉邦、どちらも秦国を打ち倒した英雄です」

 

北郷「なら、いつの間にかその項羽や劉邦の時代に飛ばされていて、しかも二人とも女の子っていうのが今のオレの状況なんだ」

 

 

 

北郷は、我ながらいい例えだったのではと心の中で自画自賛していた。

 

そして同時に自身の置かれている状況を再認識することとなった。しかし、

 

 

 

陳宮「何を言ってるですか?項羽も劉邦も元々女性ですぞ?」

 

 

 

何・・だと・・?と北郷は一瞬混乱しそうになったが、あり得ない話ではないな、とすぐに冷静さを取り戻し、改めて言い直した。

 

 

 

北郷「じゃあ、いつの間にか項羽や劉邦の時代に飛ばされていて、しかも二人とも男性っていうのが、今のオレの状況なんだ」

 

 

 

そのように説明して、ようやく陳宮も納得がいったようである。

 

 

 

陳宮「なるほど、だから未来の世界から来たのとは少し違う、それを天の国ではぱ、ぱら・・・」

 

北郷「パラレルワールド」

 

陳宮「ぱられるわあるどと言うのですな」

 

北郷「そういうことになると思うよ」

 

 

 

その時、陳宮が何かを聞こうとしたが、一瞬思いとどまった。これは聞いていいことなのか迷ったのだ。

 

これ以上踏み込むことは、それこそまさに天をも恐れぬ所業なのではなかろうか、そんな不安が陳宮の胸中に渦巻いていた。

 

 

 

北郷「ん?どうしたんだ?聞きたいことがあるんだったら遠慮なく聞いてくれよ」

 

 

 

北郷は陳宮に優しく微笑みかける。そんな北郷の表情を見て、陳宮の鼓動は高鳴った。

 

この胸の鼓動はこれから聞こうとすることに対する緊張からなのか、あるいは別の何かなのか・・・。

 

陳宮は薄々自覚しつつあるその感情を振り払い、意を決して北郷に聞いた。

 

 

 

陳宮「・・・では聞くです。つまり北郷殿は・・・その・・・この世界の行き着く先が・・・

 

恋殿やねね達が今後どうなるのかを知っているのですか?」

 

 

 

陳宮自身占いの類は信じていなかったし、自分たちの未来を知ったところでろくなことにならないとも思っていた。

 

しかし、それでも陳宮は自分たちの行く末を北郷に尋ねずにはいられなかった。

 

それはひとえに、陳宮が呂布に天下を獲らせたいがための行動であり、

 

そして何より、北郷の優しい微笑みを受けて、この人と一緒ならどうにかなるのではと思えたからであった。

 

しかし、北郷の答えは陳宮の期待するものではなかった。

 

 

 

北郷「いや、それがそうとも言えないんだ」

 

陳宮「??」

 

 

 

北郷はゆっくりと言葉を選ぶようにして答えていく。

 

 

 

北郷「すでにこの世界はオレの知っている歴史と違うんだ。というか、オレが変えてしまったのかもしれない」

 

陳宮「まさかあの時の・・・」

 

 

 

陳宮には北郷の言うことに思い当たる節があった。つまりは全ての始まり。

 

忘れられない。

 

忘れもしない。

 

忘れてはならない。

 

忘れたくない。

 

あの時のこと。陳宮の目の前に北郷が現れた時のこと。

 

 

 

北郷「うん。下邳での曹操との戦い、オレの知っている歴史では、あの時に恋、ねね、ななは部下に裏切られて曹操に殺されてるんだ。

 

たしか張遼さんは曹操のもとに降ったと思うけど」

 

陳宮「そこを北郷殿が魏続たちの企てを止めてしまったから歴史が変わったのですか?」

 

北郷「うん。だからこの後恋たちがどうなるか分からないんだ。ごめんな、役に立つことを言えなくて・・・」

 

陳宮「いえいえ!・・・そうですか・・・」

 

 

 

北郷が謝って来たので陳宮は全力で首を左右に振り、北郷に非がないことを主張した。

 

しかし内心、聞かなくてよかったと思う反面、やはり少しは期待をしていたのだった。

 

もし未来が分かるのであれば、都合の悪い未来を予め知り、そうならないよう行動すればいいのだから。

 

だが、北郷の力が単純な未来予知ではない以上、それは期待できそうになかった。

 

 

 

北郷「でも、ねねたちの未来は分からないけど、オレがねねたちの元に現れたことは何か意味があると思うんだ。

 

だから力及ばずながら、ねねたちと一緒に、この乱世を終わらせるために頑張るよ」

 

 

 

陳宮の残念そうな表情を見て、すかさず北郷はフォローを入れ、陳宮の頭を優しくなでた。

 

 

 

陳宮「北郷殿・・」

 

北郷「ねね達の未来はわからなくても、未来の知識はあるからね。三国志の知識だって、全く無駄になるわけじゃないだろうし。

 

こき使ってくれて構わないからな!」

 

 

 

北郷は悪戯っぽくニッと笑った。陳宮は体温が上昇するのを感じていた。顔の火照りを感じる。

 

 

 

陳宮「・・・期待してるですよ。天の御遣いといえば、ねね達にとっては乱世を鎮める救世主なのですから」

 

 

 

陳宮は顔をそむけて恥ずかしそうに言った。この時、自覚は確信へと変わっていた。

 

 

 

 

 

 

陳宮の服が乾いたころには、もう夕方になりかけていた。

 

遅くなるといけないので、それぞれの服に着替え直し、蜂蜜採取を再開することになった。

 

とりあえず、元いた場所を目指して歩きつつ、蜂の巣を探すことにしたのだが、今回は簡単に蜂の巣を見つけることができた。

 

どうやらこの辺りは蜂蜜採取の穴場らしい。

 

さっそく蜂蜜を採取しようとする陳宮であったが、前回の失敗を二度と繰り返さないように、

 

何とか陳宮のちんきゅーキック衝動を押さえつけ、今度は北郷が主導で蜂蜜採取を開始することにした。

 

昔じいさんとよく採っていたというのは嘘ではないらしく、蜂の巣付近で火を起こし、その煙で蜂を追い払ってから蜂の巣を回収し、

 

背負っている籠に入れていく、という具合に手際よく蜂の巣を採っていった。

 

籠いっぱいの蜂の巣が採れた頃にはもうあたりはすっかり暗くなっていた。

 

 

 

北郷「よし、これだけあれば充分だろ。あとは蜜を回収すれば完成だ」

 

陳宮「むむむ~、甘く見ていたです~。これも天の知識ですか~」

 

北郷(まあ、これくらいならこの世界の人でも知ってそうなものだけど)

 

陳宮「ではもう暗いのでとっとと帰るで・・・・す・・・・・あああ・・・」

 

 

 

これ以上は本当に帰れなくなるので、急いで帰ろうとしたその時、急に陳宮に異変が起きた。気づけば顔面蒼白である。

 

 

 

北郷「どうしたんだねね?そんなに真っ青な顔して。やっぱり風邪をひいたんじゃ―――」

 

 

 

しかし陳宮の答えは北郷の心配を裏切った。

 

 

 

陳宮「あわわわわわ・・・・ほほほ北郷殿・・・・ううううしろ・・・」

 

 

 

陳宮はただただ口をわなわなさせ、目を見開き、ぷるぷると北郷の後ろを指さしている。北郷は嫌な予感がした。

 

このパターンは確実に背後に何かがいるパターンである。耳を澄ませば、グオーグオーと変な声が聞こえてくる。

 

嫌な汗を感じながら、恐る恐る後ろを振り返ってみると、

 

 

 

 

 

一匹のクマがいた。

 

 

 

 

 

辺りが暗くなっているせいか、目が不気味に光って余計に恐怖心を掻き立てられる。

 

 

 

北郷「ねね!絶対動くなよ!絶対だぞ!」

 

 

 

基本的に動くものに反応するのは動物の本能、まして逃げることなど自殺行為である。

 

 

 

陳宮「ぁぁ・・ぁぁ・・こ、腰が、抜けて・・・」

 

 

 

幸い、陳宮は腰を抜かしているようで、その場にへたり込んでいる。だがこれはこれで非常にまずい状況である。

 

 

 

陳宮「か・・・一刀殿ぉ~」

 

 

 

陳宮は北郷の上着の裾をつかんで震えながら潤んだ瞳で北郷の名前を呼んだ。

 

 

 

北郷(ここには恋みたいな強い人はいない。けど、オレが何とかしないと・・・)

 

 

 

北郷一人ならやり過ごす方法もあったのだが、今は陳宮が一緒である。

 

まして、動けない状況となると、死んだふりなどという都市伝説を信じるわけにもいかず、クマとの対峙は避けられない。

 

そして何より、この状況で女の子に頼られては、退くわけにはいかなかった。

 

とにかく陳宮を安心させようと、目一杯の微笑みで声をかけてやる。

 

 

 

北郷「大丈夫だよ、ねね。オレが守ってやるからな」

 

陳宮「一刀殿・・・」

 

 

 

とはいえ相手は野生のクマ。本来素人である北郷が対峙しようと考えること自体愚かなことである。

 

 

 

北郷(落ち着け北郷一刀、冷静になれ。相手は野生のクマ。獣と言えば・・・!)

 

 

 

北郷は蜂を追い払うために使っていた火のついた木を持った。

 

 

 

北郷「熱っ!」

 

 

 

ある程度長さが残っていたとはいえ、燃えている木は確実に北郷の手を痛めつけた。だが、熱さなど気にしている余裕はなかった。

 

クマとの距離は2,3メートルまで縮まっていた。

 

 

 

北郷「くそ、なんで近づいてくるんだ!こいつ寝ぼけてるのか!?」

 

 

 

冬眠明けで寝ぼけているのか、クマは火など恐れぬと言わんばかりにじりじりと近づいていき、

 

そして意を決したのか、二人めがけて突っ込んできた。

 

 

 

陳宮「ひぃ」

 

 

 

陳宮の裾を握る手に力が入る。それと同時に北郷の手にも力が入る。

 

 

 

北郷(やるしかない。確かじいちゃんが、万一クマが突っ込んで来たら鼻面を狙えって言ってたな)

 

 

 

幸い、クマは四足歩行で突っ込んで来ていた。これがもし二足歩行になっていたら二人の命はなかっただろうが、

 

四足歩行のクマの鼻面は、剣道でいうとちょうど胴の辺りにあった。

 

 

 

北郷(これなら・・・!)

 

 

 

北郷は片手で陳宮を抱え、剣道の抜き胴の要領で木の棒をクマの鼻面にぶち込んだ。

 

 

 

クマ「グフォ!?」

 

北郷「まだだ!」

 

 

 

北郷は続けざまに木の棒を両手で持ち直し、逆胴の要領でもう一発鼻面にぶち込み、止めに小手打ちの要領で鼻面を殴った。

 

 

 

クマ「グオー・・・」

 

 

 

クマは最後の一撃を受けると、森の中へと逃げ帰っていった。

 

 

 

北郷「ふぅー、助かった」

 

 

 

北郷はその場に座り込んだ。そばでへたり込んでいる陳宮は泣き出してしまっていた。

 

 

 

陳宮「ひっぐ・・・ひっぐ」

 

北郷「もう大丈夫だよ、ねね。クマは追い払ったよ」

 

陳宮「ぐす・・ひっぐ・・・えっぐ・・・」

 

 

 

しかし陳宮が泣き止む様子はない。

 

 

 

北郷(やっぱりこの子は一流の軍師、陳宮であっても、一人の小さな女の子でもあるんだよな。

 

なんだか小さい頃の妹のことを思い出しちゃうな)

 

 

 

北郷はかつて自身が妹をあやしていた時と同じように、安心させるために陳宮を抱きしめてやった。陳宮の目が大きく見開かれる。

 

 

 

北郷「もう大丈夫だから。怖い思いをしたね」

 

陳宮「ぐす・・・ころも・・・ひっぐ・・あちゅかい・・えぐ・・しゅるな・・・れす・・」

 

 

 

泣いているからか、恥ずかしさからか、両方なのか。

 

とにかく陳宮は顔中耳まで真っ赤にしながら、文句を言いつつも北郷の胸に顔をうずめた。

 

 

 

 

 

 

しばらくして落ち着きを取り戻した陳宮は、自身の醜態を恥じているようで、ぶつぶつと何かを呟いていた。

 

このまま宿に直行、といきたいところだったが、辺りはすっかり真っ暗になっていた。このまま強引に帰っても迷子になってはまずい。

 

そのため、呂布たちに心配をかけることになるが、ここは無暗に動かず野宿して朝になるのを待とうということになった。

 

意外にも陳宮は食用の野草や山菜に詳しく、暗いながらも探しだし、なんとかその日の食糧を確保できた。

 

そしてさあ寝ようとなったのだが、季節は春といっても夜はとても冷える。

 

火を起こすにしてもやはり寒く、結果二人は寄り添って寝ることになった

 

――この状況だけ見ると北郷が下心丸出しで提案したのかと思われるかもしれないが、意外にもこの提案をしたのは陳宮であった――。

 

そして二人並んで寝ようとしたが、やはり気恥ずかしさを感じた北郷は、同じく隣に寝転がっている陳宮に突然聞いてみた。

 

 

 

北郷「そういえばねね、さっきオレのことを一刀殿って―――ぐはっ!」

 

 

 

北郷は、言い終わる前にちんきゅーキックをくらった。

 

 

 

陳宮「そんなこと言ってないです!」

 

 

 

陳宮は顔を真っ赤にして否定した。嘘が下手な子である。

 

 

 

北郷「いや、絶対言ったって。『か・・・一刀殿ぉ~』ってぐはぁ!!」

 

 

 

北郷は後に言わなければよかったと後悔した。

 

変に声色まで真似したせいか、陳宮の逆鱗に触れ、今度のキックは股間にジャストヒット。北郷は唸りながらうずくまった。

 

 

 

陳宮「ふん、ねねはお前に真名を預けてるです!なのにねねがお前の真名を呼ばないのは不公平なのです!」

 

北郷「・・・やっぱ・・呼んだんじゃ・・ないか・・・」

 

 

 

まぁ俺の世界に真名制度はないんだけど・・・って説明したいが息子が・・・と考えがまとまらないうちに北郷は堕ちた。

 

もちろん蜂に追いかけられたりクマと対峙したり、実は初めての野宿だったりという精神的負担もあり、

 

北郷はぐっすりと深い眠りについてしまった。

 

 

 

陳宮「まったく、か弱い女性を放っておいて、あっさり寝てしまったです。あーあ、今日は一段と冷えるですー」

 

 

 

もちろん陳宮の蹴りがその原因の一つでもあるのだが、そんなことは気にせず、

 

陳宮はわざとらしく寒い寒いといいながら北郷に抱きついた。

 

 

 

陳宮「まったく、一刀殿が恋殿だったらどれだけいいことか」

 

 

 

と文句を言いつつもピッタリと北郷に抱きつく陳宮。なんとなく胸に頬を摺り寄せてみる。

 

 

 

陳宮「温かいです・・・恋殿とはまた違う温もりです・・・一気に心が満たされるような・・・」

 

 

 

安心したせいか、陳宮もまた疲労がピークを迎えており、深い眠りに着こうとする。

 

 

 

陳宮「・・・これが・・・この気持ちが・・・」

 

 

 

 

 

【第五回 在野フェイズ:陳宮①・蜂蜜と熊と袁術と(前編) 終】

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

 

第五回無事終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

 

 

最初にお詫びをば、拠点フェイズをやると言いながら、タイトルにある通り、

 

本編とも少しからんでしまうという中途半端なものとなってしまいました。

 

言い訳をすると、拠点と違い、在野だと移動することも可能だなと思い、

 

結果、在野フェイズの内に益州に向かってもらおうと考えた次第でございます。

 

よって第二章『入蜀騒乱編(仮)』に向けて在野フェイズ4人分で一刀君には益州に向かってもらう予定です。

 

しかし予定は未定。今回も案の定美羽ちゃん登場まで描けませんでした、、、

 

拠点が一話にまとまらないとは、、、本当にスミマセン、、、

 

 

 

とは言ったものの、今回の内容は割と拠点っぽい内容だったかなと思っております。

 

本編が重い話ばかりでしたので、この在野フェイズで息抜きしてもらえたらなと思います。

 

 

 

ちなみにハチやクマについては完全にフィクションですので悪しからず。

 

 

 

最後になりましたが、前回一刀君の能力についてご質問がありましたのでここで補足しておきます。

 

 

剣術は祖父が剣道場をやっていることもあり、高校生にしては年相応以上のレベル。

 

軍事や政治関連の知識は、受験英語レベル、つまり、知識はあっても実際に使えないレベル。

 

ただし、未来人であるため、知識量だけ見るとやはり相当のチートキャラ。

 

三国志の知識はかなり持っている。また、じいちゃん直伝の無駄?知識も多い模様。

 

特に色好みというわけではないが、女性を惹きつける主人公補正を持っている。ロリコンではない。

 

 

 

つまりは、一刀君の能力は基本的には原作と同じというイメージです

 

(原作未プレイのため、あくまで個人的なイメージですが)。

 

決定的な違いは、呂布軍での立場が、現段階では居候兼相談役というところでしょうか。

 

 

 

このように他の方も気になるであろうことはあとがきで補足していきますので、

 

本編でツッコみたい箇所がありましたら大小構わず、遠慮なくツッコんでください。

 

 

 

それではまた次回お会いしましょう!

 

 

 

 

 

なぜねねは恋のおまけみたいなひどい扱いが多いんだろう、、、

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
35
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択