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真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side呂布軍)~ 第四回 第一章:下邳城攻防戦・出立

stsさん


お久しぶりです。

今回は「出立」、徐州を失った呂布軍は何処へ向かうのでしょうか、、、

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2013-03-29 00:00:20 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:9051   閲覧ユーザー数:7522

季節はずれの雪がようやく治まってきた頃、小沛城に劉備軍の兵士が駆け込んできた。

 

 

 

劉兵「曹操軍本陣より伝令です。呂布軍との交渉が成立したため、撤退せよ、とのことです」

 

関羽「そうか。桃香様、どうやら話し合いで決着がついたようですね」

 

劉備「ふぅー、よかったぁーーー」

 

 

 

劉備は安堵の一息を吹いてその場にペタンと座り込んだ。

 

 

 

関羽「それで、呂布軍側の処分は?」

 

劉兵「徐州からの追放及び、我が軍との関係解消。そしてすべての雑兵の剥奪です」

 

劉備「そうかぁ、曹操さん、私のお願いを聞いてくれたんだぁ」

 

 

 

劉備は短い間ではあったが、呂布と一緒にいてそんなに悪い印象は受けなかった。

 

そのため、呂布を討つと決まった時、曹操軍に対して命は取るなと強く念を押していた。

 

 

 

張飛「でも、将だけいても、どうしようもないのだ」

 

 

 

張飛は腰に手を当てて自信満々に言った。確かに、いかに有能な将といえど、一人ではどうしようもない。

 

 

 

関羽「恐らく曹操もそう考えての判断だろうな。むやみに殺すよりも、見逃す寛大さを見せた方が世間の評判もいいだろう。

 

事実、呂布に以前までの勢いは感じられないというし」

 

劉備「命がある限り、希望は必ずあるよ。呂布さんの平和に対する考えは、私たちの考えに通じるところもあったし、

 

きっと、いつかまた手を取り合える日が来るよ」

 

 

 

劉備は眼を閉じ、胸の前で祈るように両手を握ってそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

【徐州、下邳城】

 

 

 

下邳城に戻ってきた北郷と陳宮は、正門の前で待っていた呂布を確認し、安堵した。

 

陳宮はすぐに小舟から呂布に飛びついた。

 

 

 

陳宮「恋殿ぉ~、御無事でなりよりですぅ~」

 

呂布「・・・ねね、怪我はない?」

 

 

 

二人がお互いの安否を確認していると、泗水水門から張遼・高順隊が戻ってきた。

 

 

 

陳宮「霞、なな、無事だったです―――なな!!」

 

呂布「・・・!!」

 

 

 

高順は全身応急処置を施した跡があった。身に着けていた着物もボロボロで、

 

きれいなブロンドの髪が自身の血だろうか、赤く染まっている。

 

 

 

高順「すみません、ねね。水門を突破されてしまいました・・・」

 

陳宮「過ぎたことを悔やんでも仕方がないです。とにかく生きていてくれて何よりです」

 

 

 

 

 

 

落ち着いたところで陳宮がみんなに事の顛末を伝えた。

 

陳宮「―――というわけなのです。申し訳ありません恋殿、曹操に兵をみんな取られてしまったです。

 

ですが恋殿をお救いするにはこれしか・・・」

 

呂布「・・・(コクッ)」

 

 

 

呂布は何も言わずうなずいた。しかし張遼は納得いかないようで、怒りを抑えることなく陳宮に対して強く言い放った。

 

 

 

張遼「兵みんなって・・・どういうことやねね!アイツら犠牲にしてウチらだけ生き残ろうっちゅうんかいな!?

 

アンタそれでもウチらの筆頭軍師かいな!」

 

陳宮「こうするしかなかったです!・・・こうするしか・・・恋殿の御命をお救いする方法が・・・なかったです・・・」

 

 

 

陳宮も強く反論しようとするが、徐々に語気が弱くなっていく。ついには、今にも泣きだしそうになっている。

 

 

 

張遼「せやかてアイツらが・・・!」

 

呂布「・・・霞、ねねを責めないで」

 

 

 

呂布は張遼をなだめるように言った。

 

 

 

張遼「恋・・・」

 

陳宮「霞の言い分も分かるです。・・・全ての責任は不甲斐ない戦いを指揮したねねにあるです・・・」

 

高順「ねね、自分を責めないでください。兵たちの命は助かるのでしょう?」

 

 

 

高順も陳宮に助け船を出す。

 

 

 

陳宮「・・・はいです。恐らく曹操のもとで働くことになるので、殺されることはないです」

 

高順「霞もねねを責めてはいけません。ねねはねねで最大限努めたのですから」

 

陳宮「なな・・・」

 

 

 

普段は何かと喧嘩ばかりしている陳宮と高順であるが、このような光景を見ていると、

 

やはり心から信頼し合っているからこそ、心置きなく喧嘩ができるというものなのだろう。

 

 

 

張遼「せやな、すまん、ねね。ひどいこと言って。ちょっと頭に血上ってたわ」

 

 

 

張遼も冷静さを取り戻し、己のはいた暴言に対し謝罪する。

 

 

 

陳宮「いえ、兵のことを考えると当然の言い分です」

 

北郷(ゲームだと雑兵のことなんて考えたことなかったけど、現実だと一人一人みんな生きていて、

 

それぞれ大切に鍛え上げた兵なんだもんな・・・)

 

 

 

今のやり取りを見ていた北郷は、兵士一人一人の命の重さを実感しており、

 

改めてこの世界が夢ではなく現実であることを思い知らされていた。

 

 

 

 

 

 

高順「実際見逃されるのは誰なのですか?」

 

陳宮「恋殿と幹部、つまりねねとなな、あと八健将で生き残っていた6人です。ですが八健将のうち魏続、宋憲、侯成は離反、

 

曹性は沂水で討ち取られたようです。ですから八健将では霞と臧覇(ぞうは)の2名ということになるのですが・・・ところで臧覇は?

 

城の防衛に当たっていたはずですが・・・」

 

呂布「・・・恋が臧覇と交代して外に出た。・・・後はわからない」

 

高順「行方不明・・・ですか。まあ、あの方なら討ち取られたということはないでしょうが・・・」

 

陳宮「あいつはかわいい顔して抜け目のない所があったですから、ねね達が曹操軍に交渉に向かったのを見て、

 

最悪の事態を想定して脱出したということでしょうな」

 

高順「曹性・・・惜しい方を亡くしましたね・・・」

 

 

 

戦いに死別は付き物だが、やはり慣れるものではない。もちろん、人の死に慣れることなどあってはならないことだが。

 

 

 

張遼「ほなら恋とねねとななとウチの4人か・・・そうか、アイツら離反したんか・・・」

 

 

 

張遼は物寂しげにつぶやいた。短い付き合いではなかっただけに、そのショックは大きいものであった。

 

 

 

高順「悪い方々ではなかったのですが・・・籠城の極限状態が生んだ悲劇ですね・・・」

 

陳宮「ねねは許さないです!畏れ多くも恋殿をあんな目に・・・!次会ったらちんきゅーキックをお見舞いしてやるです!」

 

 

 

あれだけのことをされていて、ここで殺すなどの単語が出ないことからも、

 

呂布軍が決して不仲であったわけではないことを物語っている。

 

今回の内部反乱は、まさに高順が言うように、極限状態が生んだ悲劇であった。

 

 

 

北郷(陳宮キック・・・)

 

 

 

北郷は、場の雰囲気が雰囲気だっただけに、どうしてもツッコみたかった言葉を何とか飲み込み、心の中にとどめ置く。

 

 

 

張遼「せやけどこれからどないするん?」

 

陳宮「少なくとも徐州からはすぐに立ち去らないといけないです」

 

 

 

 

 

 

高順「ところで恋様、あの方は?」

 

 

 

今後どうするべきかと、みんなが俯き気味になっていたとき、ひとまず場の空気を変えようと、

 

高順は見慣れない白服の男が誰なのかを問うた。

 

今の今まで完全に空気状態だった北郷は、やっぱりこれは夢で、本当に空気になってしまったのでは、

 

となかば本気で思い始めていただけに、ようやく話を振られたことに安心し、

 

そしてやっぱり現実であることを再認識し、自己紹介を始めた。

 

 

 

北郷「オレの名前は北郷一刀。聖フランチェスカ学園の2年生だ」

 

呂布「・・・この人は天の御遣い。・・・天の国、精腐乱ジェス・・デス・・精腐乱から来た。・・・恋とねねを助けてくれた、

命の恩人」

 

 

 

呂布は何とか北郷の出身を発音しようとするが、うまく発音できず、あきらめて間違いなく誤解を生むような箇所で略した。

 

北郷は説明しようかと考えたが、よくよく考えてみると、自身も下手くそな日本語英語ユーザーであり、

 

この手の発音の違いは、直そうにもすぐには理解してもらえないだろうと思い、

 

また、自身の人にものを教えるスキルレベルを鑑み、あきらめる。

 

 

 

高順「やはりあの時の流星はそういうことだったのですね」

 

 

 

高順は「精腐乱」という響きについて特にツッコむことなく、北郷に対して物珍しそうな眼差しを向けている。

 

対照的に張遼はあからさまに得体の知れないものを見るかのような視線を浴びせ、

 

 

 

張遼「でもなんか胡散臭いな~。なんやねん天界から来た御遣いって。妙な格好しとるし。そもそも天界ってどこやねん?精腐乱?

 

ほんまに空からやって来たんか?」

 

 

 

北郷は自身の出身校が卑猥な響きで定着しつつあることを心の中で歎きつつ、

 

 

 

北郷「オレにもよくわからなくて・・・気が付いたらこの世界にいて・・・」

 

 

 

しかし、実際、本当に、なぜ、どうやって、この世界にやって来たのかわからない北郷は、徐々に心配になってきていた。

 

これからどうしたらいいのか。元の世界には戻れるのだろうか。

 

不安はだんだん膨れ上がり、それに従って北郷の声色も徐々に弱々しくなっていく。

 

 

 

陳宮「ですが、今ここにねね達の命があるのも北郷殿のおかげなのです」

 

 

 

そんな北郷の様子を見て陳宮がすかさずフォローを入れる。

 

張遼は、それはわかるんやけどなぁ、とまだ納得していないようだったが、そんな中、呂布が突然、

 

 

 

 

 

 

 

呂布「・・・北郷、恋たちと一緒に来てほしい」

 

 

 

 

 

 

 

とんでもないことを言い出した。

 

 

 

北郷「へ!?」

陳宮「恋殿!?」

張遼「なんやて!?」

高順「え!?」

 

 

 

まわりはそれぞれの反応を見せるが、共通して言えることは、みんな語尾に「!?」がついているということだ。

 

それほど、呂布の発言は驚きとなぞに満ちた内容であった。

 

 

 

呂布「・・・月がよく言ってた。・・・天の御遣いが、乱世を終わらせてくれるって。・・・だから、迷惑じゃなかったら、

 

恋たちを助けてほしい」

 

陳宮「ですが・・・・・・むむむ・・・そうですな、天の御使いである北郷殿が一緒に来てくれるとなると非常に心強いのです」

 

 

 

陳宮は最初何か否定する言葉を探していたようだが、少し考えてから呂布の意見に賛同した。

 

 

 

北郷「まあ、みんなが構わないんだったら、オレもこの世界のこと、あまりよくわからないから助かるけど・・・」

 

 

 

北郷にとっては非常に魅力ある誘いであった。北郷にとってここは右も左も分からない異国、

 

捉え方によっては異世界であるため、今後何かしらの行動をとるにしてもこの世界の人の手助けが必要であった。

 

しかも呂布といえば、三国志を知っていれば、誰もが認める最強の武将。

 

今が乱世の真っただ中である限り、強い人が一緒にいると非常に心強い。

 

 

 

高順「私は恋様に従います」

 

 

 

高順は迷わず呂布に賛同した。このあたりは呂布に対する従順さが如実に表れていた。

 

 

 

張遼「まあ・・・アンタも困っとるんやったらしゃあないな。こっちは助けてもろたんやし」

 

 

 

張遼も散々北郷に対して胡散臭そうな目で見ておきながら、あっけなく呂布に賛同した。

 

少しセリフがかった言い方だったのが、北郷は少し気になってはいたが・・・。

 

何だかんだで張遼も素直ではないのである。

 

 

 

呂布「・・・決まり」

 

 

 

呂布は満足げに(他人が見てもほとんどわからないが)言った。

 

 

 

北郷「どうぞよろしく。呂布さん、陳宮さん、とえーと・・・」

 

 

 

北郷が名前が分からず詰まっていたので、高順と張遼は改めて自己紹介をした。

 

 

 

高順「私の名は高順です。こちらこそよろしくお願いします、北郷様」

 

張遼「ウチの名は張遼、字は文遠。ま、よろしゅ」

 

北郷(これまた有名人ばっかりだな・・・。しかもまた女の子・・・。もしかして、この世界の有名な武将は

 

みんな女の子になってるのかなぁ。なんというトンデモ設定・・・)

 

 

 

そうなると、曹操の両脇にいた女の子も有名な武将だったんだろうか・・・

 

夏候惇とか、荀彧とか、と北郷が記憶をたどっていると、再び呂布が発言した。

 

 

 

 

 

 

 

呂布「・・・恋のことは恋でいい」

 

 

 

 

 

 

 

北郷「??」

 

 

 

北郷は呂布に何を言われたのか分からなかった。しかし周りの反応を見る限り、また驚くべき発言をしたらしい。

 

 

 

高順「!!!」

 

張遼「なっ!!」

 

陳宮「恋殿、そんな真名まで預けずとも・・・!」

 

 

 

陳宮から発せられた聞きなれない単語に北郷が反応する。

 

 

 

北郷「マナ?あのカードゲームで溜めたり払ったりする?」

 

呂布「・・・北郷は恋たちを助けてくれた恩人。・・・それに、これから一緒に行動する。・・・真名を預けるのは、当然」

 

陳宮「ですが~」

 

北郷「あの~、そのマナって何デスカ?」

 

 

 

渾身のボケが軽くスルーされた北郷は、あきらめて真面目に尋ねることにした。

 

 

 

張遼「なんや、天の人間のくせに真名も知らんのか?」

 

 

 

張遼の驚き様を見るに、どうやらマナとはこの世界では常識らしい、と北郷にも分かった。

 

 

 

高順「真名とは、その人が心を許したものだけが呼ぶことを許される名前です。もし本人の許可なく真名で呼びかけたら、

 

問答無用で切られても文句は言えないほど大切なものです」

 

 

 

高順の丁寧な説明で真名の実態を理解した北郷は、

 

 

 

北郷「そんな大切なものをオレなんかにいいのか?」

 

 

 

当然の質問を呂布にぶつけた。対する呂布は、

 

 

 

呂布「・・・いいって言ってる」

 

 

 

とぶっきらぼうに答えた。

 

 

 

陳宮「むむむ・・・恋殿が真名をお預けになるのならば、ねねも真名を預けますぞ。ねねの真名は音々音、どうぞねねと呼ぶです」

 

 

 

陳宮も呂布が預けるのならばと、自身の真名を北郷に預けた。

 

 

 

北郷「え?ねねねねね・・・ね?」

 

 

 

しかし、どうやら北郷にはうまく伝わっていないようであった。その様子を見た陳宮が激怒して再び言う。

 

 

 

陳宮「ね・ね・ね、です!漢字にして音・音・音、です!呼ぶときはねね、と呼ぶです!!」

 

北郷「ああ、なるほど。真名は音音音で、愛称がねね、ってことだね」

 

陳宮「そうです!まったく、失礼な奴です!」

 

 

 

北郷はようやく理解したが、陳宮はまだ不機嫌のようである。

 

 

 

高順「私も恋様が真名をお預けになるのなら預けます。私の真名は那々那と申します。漢字は刹那の那が3つです。

 

どうぞななとお呼び下さい」

 

 

 

北郷「なな、だね」

 

 

 

今度はすんなりと理解できたが、そのせいで陳宮の機嫌がさらに悪くなったようである。

 

 

 

陳宮「むむむ~、なぜねねの時はすぐ理解できなかったのに、ななの時は一度で・・・」

 

高順「ねねは教え方が下手くそなんですよ」

 

陳宮「なんですと~!」

 

 

 

高順と陳宮がぎゃあぎゃあ口論を始めている中、張遼は北郷に真名は預けないと伝えた。

 

 

 

張遼「盛り上がってるとこ悪いけど、これやとウチもって流れやろうけど、ウチは自分が認めた奴にしか真名は預けん事にしてんねん」

 

 

 

この感じだと張遼が空気を読めない奴みたいに映るかもしれないが、本来真名はそう簡単に預けるものではなく、

 

呂布や陳宮、高順が例外で、張遼の対応が正常なものなのである。

 

幸い、いまいち真名について計りかねている北郷にとっては、どちらの対応が普通なのか分からず、

 

特に張遼に対して何の悪印象もなかったわけだが。

 

 

 

北郷「でも、この世界にはそんなものがあるのか・・・気を付けないとな・・・」

 

張遼「天界にはないんかいな?」

 

北郷「呼んだら殺されるってのは・・・まあ親しい間柄なら、あだ名や下の名前で呼ぶってことはあるけど・・・」

 

 

 

一昔前なら、帝の名前を気安く口にしたら殺される、というパターンはあったかもしれないが、

 

もし現在名を呼んだだけで殺されるなどという風習が残っていたら、物騒なことこの上ない。

 

 

 

張遼「ほならあんたの場合は一刀になるんか」

 

北郷「そうなるかな。まあ、オレの場合はどう呼ばれようと気にしないけどね」

 

 

 

 

 

 

一通り自己紹介も終わり、話題は今後の話へと変わる。

 

 

 

陳宮「ではこれからの行先ですが、できれば曹操や劉備から離れたいところです」

 

高順「でしたら、最近力をつけている江東の孫策のところでしょうか」

 

陳宮「相変わらず分かってないですな、ななは。いいですか、孫策といえば、反董卓連合の中でも中心だった孫堅の娘なのです。

 

とても我らを匿ってもらえるとは思えないです」

 

 

 

陳宮はやれやれ、といった風に肩をすくめてみせる。

 

 

 

張遼「せやったらどこがええんや?」

 

陳宮「・・・それを今から考えるです!」

 

 

 

陳宮はあれだけ高順を馬鹿にしておきながら、これといった考えはないようで、

 

自身に考えがないことをなぜか自身たっぷりに告白した。

 

 

 

高順「はあ、しっかりして下さい。ねねは私たちの軍師なのでしょう?」

 

 

 

今度は高順があからさまにため息をついて陳宮に言い返す。

 

 

 

陳宮「うるさいです!」

 

 

 

また二人の言い争いが始まりそうになったところで、北郷が口をはさんだ。

 

 

 

北郷「ちょっといいかな」

 

陳宮「どうぞです」

 

北郷「目指すならここからかなり遠いけど、益州あたりがいいんじゃないかな?」

 

張遼「益州やて!?ここからえらい距離あるで!」

 

 

 

益州といえば、現在でいえば四川省あたりになる。

 

現在の江蘇省あたりにある徐州からは、2000kmはないけど、といった距離である。

 

日本だと北海道から鹿児島まで徒歩で行くといった感覚だろうか。

 

それも文字通り山あり谷あり川ありの道である。張遼の驚きも、もっともな反応と言える。

 

 

 

陳宮「確かに益州まで行けば問題ないでしょうが・・・」

 

北郷「さっきもねねが言ってたように、孫策のところは良くない。かといって、袁紹とかがいる河北を目指すには

 

曹操の領地を通らないといけないし考えにくい。となれば、行く場所は必然と西になるわけだけど、

 

恐らく荊州より東は、時間の問題で孫策や曹操が勢力を伸ばしてくるだろうから避けたい。

 

だとすると、荊州より西で、かつ有力な人が治めているところで思いついたのが、益州の劉璋というわけさ」

 

 

 

北郷は自身の持つ三国志の知識を総動員して、なんとか呂布軍が再起を図れるような方法を考え、述べた。

 

 

 

高順や張遼は北郷の発言にポカンとしていたが、北郷がある程度この世界のことに精通していることを、

 

下邳でたてた策や、曹操の頭痛を看破したことなどから、なんとなく天の力なのだろうと感じ取っていた陳宮は、

 

構わず話を続ける。

 

 

 

陳宮「確かに益州は劉璋が牧を務めているです。ですが劉璋はまだ若く、私腹を肥やすための政治を行い、度々反乱を起こされては、

 

止めることもできず、まちは寂れ、民衆は飢えと重税に苦しんでいるそうです。そのような暗愚に仕官するですか?」

 

 

 

若い?と北郷は実際と少し違う劉璋の情報に疑問を持ったが、気にせず話を進める。

 

 

 

北郷「だからこそそこをつくんだ。恐らく劉璋は恋みたいな強力な武将が味方になるのなら、二つ返事で喜んで匿ってくれると思うよ。

 

たとえ劉璋に志はなくても、オレ達が一時的に力を蓄えるには十分だよ」

 

 

 

実は、北郷には “入蜀” という三国志のイベントを意識して益州を選択したのだが、

 

ここで話してもややこしくなるだけなので、心のうちにとどめておいた。

 

 

 

ここにきてようやく張遼が自身の頭の中に浮かび上がっていた疑問を北郷にぶつける。

 

 

 

張遼「なんやアンタ、この世界のこと何も知らん言うとったのにえらい詳しいねんな」

 

北郷「うーん、なんて言ったらいいのか。オレの世界でもここの世界と同じような時代があったんだ。そこでは曹操や劉備、

 

もちろん恋やねね、ななや張遼さんもいるんだけど、みんな男なんだ。何言ってるかよくわからないだろうけど、

 

オレが今言った地域情勢が間違ってないのなら、恐らくオレの世界のそれと同じなんだと思うんだ」

 

 

 

北郷自身、自信があって言ったわけではなかった。しかし、呂布が下邳の地で曹操と劉備に攻められている状況からしても、

 

北郷の知る三国志と一致していることと、今言った袁紹や劉璋などの地域情勢に何のツッコミもなかったことから、

 

性別など、細かな違いはあっても、大きな情勢に違いはないのだろう、というのが北郷の見解だった。

 

しかし、自身が呂布を救ってしまったことから、少なからず今後自身の知る三国志と、

 

大きく変わってくることになるだろうことが予想されるのだが。

 

 

 

呂布「・・・???」

陳宮「むむむ・・・??」

張遼「んんん????」

高順「??」

 

 

 

みんながみんな、頭に?マークを浮かべている。

 

普通に考えれば、このような突然の電波話を聞かされて、理解できる方が変ではあるが。

 

 

 

陳宮「・・・つまり、北郷殿のいた天界は、この世界の未来のようなもの、ということですか?」

 

北郷「うーん、性別とか変わってるから、パラレルワールドってとこかな」

 

 

 

もちろん、仮に歴史書の類を全否定することができるのであれば、

 

本当は三国志に出てくる武将は女でした、という可能性が天文学的確率でなくはないのだが。

 

 

 

北郷(もしこの世界が元いた世界の過去で、本当は武将は女でした、とかだったら、

 

本来下邳で死んでたはずの呂布や陳宮を助けたのってまずいんだろうなぁ・・・。もしそうだったら、

 

オレは歴史を変えた犯罪者としてタイムパトロールか何かに捕まるのだろうか・・・)

 

高順「ぱあれるわあど・・・?」

 

 

 

北郷が変な方向の妄想に走っている中、高順が聞きなれない単語に疑問を投げかける。

 

 

 

北郷「まあ、似てるけど別の世界ってとこかな」

 

 

 

北郷は出来るだけわかりやすく説明しようと心掛ける。

 

しかし、張遼は未だ理解できないという面持ちでうーんと唸っている。しかしその刹那、張遼に電流走る。

 

 

 

 

 

張遼「・・・つまりは天の力っちゅうことかいな?」

 

 

 

 

 

北郷「・・・まあそんなとこかな。ははは・・・」

 

 

 

北郷は、これ以上横文字の説明をしても無駄に時間を取るだけと判断し、あきらめる。

 

 

 

高順「ですが、益州に向かうとなると、ここからですと恐らく約ひと月ほどかかりますよね。路銀などはどうすれば・・・」

 

張遼「それやったら黄巾の残党や山賊捕まえとったら何とかなるんちゃう?」

 

 

 

黄巾の乱の首謀者である張角らは、すでに何年も前に討ち取られてはいたが、

 

その後も乱の原因である政治腐敗に不満を持つ民衆が、黄巾をかぶって暴れまわっていた。

 

その人数は数百万人を超え、今になっても、各地で暴れまわっているということであった。

 

張遼は、それらを捕まえることで報奨金をもらい、それを路銀にしようというのであった。

 

 

 

陳宮「もちろん霞の言う方法が一番なのですが、一応ねねにも当てはあるです」

 

高順「当てって・・・ねね、まさかまた袁術に・・・」

 

陳宮「そう通りです。一度裏切られてはいますが、ここは贅沢を言ってられないのです。

 

最近では勝手に皇帝の名をかたっていると言いますし。悔しいですが、袁術の力は大きいのです。

 

恋殿がよろしいのであれば、路銀や食料を賄ってもらおうと思うのです」

 

呂布「・・・構わない」

 

 

 

呂布はあっさりと承諾した。

 

 

 

北郷「けど、一度裏切った相手を近づけるかな。オレだったら絶対嫌だけど・・・」

 

 

 

しかし、北郷の懸念を陳宮は自信たっぷりに否定してみせる。

 

 

 

陳宮「袁術にしてみれば、恋殿は今となっては恐怖の対象でしかないです。まさか曹操が恋殿を見逃すなんて

 

考えていなかったでしょうし。ですから、路銀と食糧さえ渡せばいいのなら喜んで渡すはずです。特に袁術の場合、

 

あるものを献上すればだいたい交渉は通るのです。さきほどの戦いで袁術軍に同盟を無理やり組ませたのも、

 

そのおかげというのもありますし」

 

北郷「あるもの?」

 

陳宮「蜂蜜です」

 

北郷「蜂蜜・・・」

 

陳宮「袁術は無類の蜂蜜好き、特に蜂蜜水を好むとか。なので蜂蜜さえあれば交渉は問題ないのです」

 

 

 

袁術といえば死に際に蜂蜜水が飲めず、そのショックで吐血して死んだとされる人物だが、

 

どうやらこの世界では好みまで反映されているようだ、と北郷は思った。

 

 

 

高順「では、当面の目的は、まず袁術のいる寿春に向かい、路銀や食料を確保した後、益州へ向かう、ということですね」

 

陳宮「よろしいですか恋殿?」

 

呂布「・・・わかった」

 

張遼「よっしゃ。ほなら兵たちに挨拶してから行こか」

 

 

 

全ての土地と兵を失った呂布たちが、天の御遣い、北郷一刀を迎え、新たなる出立の時を迎える。

 

 

 

北郷(流れでここまで来たけど、うまくやっていけるだろうか・・・)

 

 

 

それは同時に、普通の高校生、北郷一刀の、呂布軍に舞い降りた天の御遣いとしての、

 

不安に満ちた新たなる出立の時でもあった・・・。

 

 

 

 

 

【第四回 第一章:下邳城攻防戦・出立 終】

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

第四回何とか終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

今回でよーーーやく第一章が終わりです。

 

 

 

なんか霞がすごくアホの子みたいになってますが、

 

一刀君に知識補正がかかっているため、相対的にこの中では、というだけで、

 

決してアホではありません(関西弁のため、ボケ役になることはままあり得ますが・・・)。

 

 

 

そして名あり武将について、、、

 

 

臧覇は、呂布軍の中では仕官が最も新しい人物です。八健将第二位。双戟を扱います。

実は恋が我ここにあらず状態の時、そして魏続、宋憲、侯成が抜け出した後も

ずっと下邳城を秋蘭・流琉の猛攻から防ぎきっており、呂布軍が負けなかった陰の立役者だったりします。

現在は行方不明です。

 

曹性は、沂水の水門を守っていましたが、凪・沙和の襲撃を受け、凪に討ち取られてしまいました。

八健将第四位。弓の名手で、ななと仲が良かったようです。

 

 

とりあえず当分は恋・ねね・なな・霞・一刀で行こうと考えております。

 

もちろん機を見て新しい恋姫を加えるつもりですが。

 

 

 

あと今更ですが、構図上、曹操軍は今後もどうしても敵の位置づけになってしまいますので、悪しからず、、、

 

 

 

そして次回からのことですが、第二章に入る前に拠点フェイズ的なもの

 

(拠点がないのに拠点フェイズもクソもないわけですが)をやろうと考えております。

 

一応一人一回を目標に、、、

 

 

最後になりましたが情けないお知らせです。ただでさえだらだらのマイペース投稿にもかかわらず、

 

次回から投稿ペースを遅らせたく思います。理由は至極単純で、時期的に忙しくなるからというくだらないもの、、、

 

だいたい、種のみで書き溜めもろくに作らず(といいつつも第六章ぐらいまでの構想は考えてあるのですが)、

 

初投稿で長編を始めようってのが冒険過ぎましたね 汗

 

ですが、決して蒸発だけはしませんのでご安心を!支援してくださっている方や、

 

お気に入り登録までしてくださっている方がいるのに、そんな無責任なことだけはしません!

 

さきほど過去の作品をのぞいてみたら、いつのまにか閲覧数が4桁いっているのもあってビビりましたし、

 

モチベーションは万全です!必ず完結まで書き上げます!

 

具体的には10日程度のペースを目標に、、、 汗

 

 

それではまた次回お会いしましょう!

 

 

 

 

 

次回からは拠点フェイズ、もとい在野フェイズが始まります、、、

 


 
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