No.558508

リリカルなのはSFIA

たかBさん

第六話 『白歴史』

2013-03-24 03:56:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5483   閲覧ユーザー数:4920

 第六話 『白歴史』

 

 

 

 『緊急警報発令! 緊急警報発令!首都へと向かう電車が管制官からの指示を無視して暴走中!これは訓練ではない!繰り返す!これは訓練ではない!』

 

 と、ハッキングをしている画面には、赤い蛍光色で点滅を繰り返しているとある組織の風景が映し出されていた。

 

 「あの電車の中に君が欲しい物があるんだね?」

 

 と、ある薄暗い空間で空中に浮かび上がるモニターを見守る二人の男性がいた。

 紫色の髪をした男は身に着けた白衣を揺らしながら、自分とは対照的な黒衣のマントを羽織ったアサキムは白衣の男に話しかける。

 

 「そうだよ、アサキム。だけど、君がわざわざ出るような事でもないだろう」

 

 「まあ、これは試しだよ。勝利を約束された彼女達の未来。『白歴史』をどこまで汚せるかを試してみたいんだ」

 

 

 

 高志はスフィアが関与する世界で、絶望にあふれた未来を『黒歴史』と表す。

 アサキムはクロウから奪い取った『原作』の結末。

 つまり、大団円(グッドエンディング)を知っている。それは可能性にあふれた未来。様々な(未来)に染まる。

 だから、大団円を皮肉って『白歴史』と、表す。

 

 

 

 「だったら、うちの娘も連れて行ってくれないか?」

 

 「僕の邪魔にならないならね」

 

 白衣の男の後ろからアサキムの胸元辺りまでの身長の少女が現れる。

 

 「チンクはそこらの魔導師と戦っても無傷で帰れるよ」

 

 チンクと呼ばれた少女は金色の瞳でアサキムの姿を映す。

 その瞳は何処か機械じみていた。

 

 「邪魔になるならその場で放置するまでさ。それにこの程度のことで崩れ落ちる程度なら君に。いや、君達に未来を変える力はない」

 

 ・・・手厳しいね。

 と、白衣の男はアサキムの言葉を聞いてため息交じりに肩をすくませる。だが、同時にその瞳はギラギラと未来に挑戦する者の目だった。

 

 「だが、それでこそだ。私は研究者だ。君の語る未来以外を見てみたい。そして、それは君もそうなんだろう。それが・・・」

 

 「・・・それ以上言うと君は未来すらも見れないよ」

 

 禁句だった。

 スフィアに関して、アサキムはその感情が顕著になる。

 それは長年会えなかった恋人のように、親友のように。そして・・・。

 

 

 

 長年呪ってきた怨敵のように。

 

 

 

 「・・・僕一人だけならいいが。彼女だけでは力不足だ」

 

 アサキムの言葉にチンクはむっと表情を変えるがアサキムはどう逆立ちしても勝てない。

 それはもう知っているから・・・。

 アサキムは自分と同じように自分の意志で死ぬことが出来ない白衣の男に興味を持った。

 レジアスも似たようなものだ。

 彼もまた自分の望んだ(成したい)事を、成すことが出来ない。

 アサキムが突如自分達のアジトにやって来たときは自分と二つ上の姉と一緒に排除しようとしたが、アサキムの着こむ黒甲冑シュロウガには通用しなかった。

 また、戦闘技術も遠く及ばなかった二人は攻撃をいなされ続けたところで、自分達の統率者である白衣の男性に止められた。

 

 『これ以上は無駄だからやめておけと』

 

 何が目的で来たのかとアサキムに訊ねると、返ってきた言葉が『世界に喧嘩を売るつもりはあるか?あるなら僕の話を聞け』というものだった。

 そして聴かされた。

 いすれは自分達が管理局のとある部隊にやられてしまい、今やっていることが無駄だという事を・・・。

 彼女達は知ってしまったのだ。

 それが彼女達の生きる『原作』の未来。『白歴史』、いや、白衣の男にとっては『黒歴史』を。

 

 「なら早速試すかい?僕の作ったDエクストラクター(・・・・・・・・)を?」

 

 アサキムはレジアスの所でスフィアを渡した後、すぐに白衣の所に赴いた。

 それはスフィアを自分の物にする為でもあるが、もう一つ。

 

 可能性を試したかった。

 あの優しすぎる『傷だらけの獅子』が自分の赴くまま『原作』の悲劇を越えたように・・・。

 アサキム自身。越えてみたかった。

 

 白衣の男が、この世界をより良い未来に変えようとしている人達に勝てるのなら・・・。

 悪役である、自分がスフィアの運命に勝てるかもしれない。

 

 『知りたい』のだ。

 自分の可能性を。

 

 

 

 「アレはまだ調整中なのだろう?」

 

 「研究者に完了(おわり)という言葉は無いよ」

 

 アサキムはそれを聞いて微笑みを浮かべた。

 そうだ。完了(おわり)は無いのだ。

 自分が自分である以上は。可能性は零じゃない。

 ただし、絶望になる確率はそれ以上だが・・・。

 

 「・・・いや、それはやめておこう。アレはまだ早い。あの騎士も今死んだら術者の少女も使い物にならない。何かにすがって生きる人間は強い。それが一つしかなければ尚更ね。脆くも強い。それが人の心だ」

 

 「君の口から人の心が出てくると冗談にしか聞こえないね」

 

 「チンク。君は目当ての物を。空の方(・・・)の相手は僕が相手する」

 

 チンクはモニターに映された画面に視線をずらす。

 モニターには列車に飛び降りる若い管理局員が二人。

 青空に桜色と金色。そして、緋色と緑色の光が疾駆していた。

 

 「・・・空?管理局のエース二人に、対AMFチームのエースまで相手にするのか?!しかもお前と同じスフィアリアクターの『揺れる天秤』もいるのに、一人で!?」

 

 チンクは戦慄を覚えた。

 管理局で試験的に導入された機動六課のメンバー。特に空戦スキルを持った隊員は皆、部隊の隊長を任せることのできる強者ぞろいだ。

 

 「先程も言っただろう・・・。この程度(・・・・)も乗り越えることが出来なければ、スフィアを超える。未来を変えることなんて出来ない」

 

 アサキムは優しく微笑む。

 彼は時々、青年らしい笑顔を見せる。

 だが、その時。チンクはいつも思うのだ。

 アサキムの中に潜む不気味さに。

 

 まるで、自分を生み出した無限の欲望。

 ジェイル・スカリエッティにとても似ていることに。

 

 「それじゃあ、アサキム。抗おう、共に『世界』に」

 

 「そうだね、ジェイル。『無限の欲望』がこの『白』世界をどんな色に染めるのか、僕も楽しみだよ」

 

 本来、約束された未来に。

 『白歴史』に挑む二人はまるで幼い頃から同じ志を持った同志のように笑みを交わす。

 そして、アサキムとチンクは場から消えた。

 

 そして、数分後。

 モニターに新たな画面が二つ浮かび上がる。

 一つはチンク。暴走している電車で年若い管理局員と交戦している光景。

 もう一つは・・・。

 

 「さあ、見せてくれスフィアリアクター同士の戦いを!そして、教えてくれ『放浪者』!その先にあるものを!!」

 

 『知りたがる山羊』と『揺れる天秤』がぶつかり合う姿だった。

 

 


 
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