No.549455

四法の足跡・秘典 ~四法の夢~ 第一話 ノエルと孤独

VieMachineさん

当時の紹介文ですみません。

紹介
『俺は幻獣だ。本来『忘れられし神』に使えるべき獣。でも友人との約束でここに残っている。この世界の最後の幻獣として・・・』
狂った獣に父を殺された少年。涙にぬれる彼の瞳は『彼』を通して何を見つけるのか。

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2013-02-27 23:37:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:285   閲覧ユーザー数:285

 四法世界は混乱を極めた。誰かが混沌を世界に呼び込み、大量の獣や精霊が異形の者としてあふれた。そんな時代の話。

 

 俺は幻獣だ。本来『忘れられし神』に使えるべき獣。でも友人との約束でここに残っている。この世界の最後の幻獣として・・・

 俺、この世界ではシュリルフェン・トゥラームと名乗っている、は旅の万屋で、薬草から魔動法のかかった武器まで何でも取り扱う敏腕商人だ。

 ある日、俺の所に小さな男の子がやって来た。八歳位だろうか。俺はいつものように道端に商品を広げていた。

 

「なるべく軽くてなるべく安くてなるべく強力な剣を一本。」

 

 少年がぼそりと呟く。

 

「そんなうまい話が有るか!」

 

 俺は一寸怒って見せた。だって考えてもみろ。軽い剣が強力なわけが無く、強力な剣が安いわけがない。

 

「これは・・・嘘!?」

 

 少年を目で追うと、店ののぼりを指している。そこにはこうあった。

『何でも揃う。薬草から魔動法の剣まで、シュリルの店超特価割引中』

 改めてみるまでもない。その文句は自分で書いたのだから。少年は泣きそうな顔をしている。困った。俺は子供が泣くのを見るのは苦手なんだ。

 

「まあ少年よ。一寸こっちに来い。ここに座ってまず名前を言うんだ。」

 

 少年は一寸ムッとしたような顔をしながら俺の隣に来て座った。

 

「・・・シュネル・イリハート。」

 

 その躊躇いがちな言葉に俺はある感覚を受けた。そして確信した。

 

「本名か?」

「う・・・」

 

 少年はゆっくりと口をひらいた。

 

「・・・ノエル・イリハート。」

「何で剣が欲しいんだ?シュネル。」

 

 俺は少年の言葉を聞き流した。理由はもちろんある。ノエルという名前がそれを俺に気づかせたのだ。ノエルにもシュネルにも意味がある。ノエルはあま り善い意味ではない。非常に古い古代の言葉だが少年はその意味を知ってるという事を俺は本名と偽名の関係から見て取った。悩んだ末に偽名を名乗っているん だろうから、深く追求しない事にしたのだ。

 少年、いやシュネルだったな、シュネルは俺の言葉を聞いて絶句している。

その隙に俺は初めてじっくりとシュネルの顔を見た。黒の長い髪、白い肌、小さい肩。

いかん・・・なんか法の側の精神が暴走しそうだ。俺の法側の姿はユニコーンだから・・・こういう・・・なんて言うか乙女?違うなぁ・・・まあこんな姿に弱いんだよ、少年でもさ。

 

「父を裏切った獣を殺す。」

 

 シュネルはやっと我に返るとそういった。

 

「父さんは召喚士だったのか?シュネル。」

「そうだ。」

 

 シュネルは彼の身に振りかかった出来事をぽつぽつと話しはじめた。

俺はじっくりと話を聞いた。シュネルの父は炎の獣ファラに殺されたようだった。炎の獣は力ばっかりであまり聡くないからこの世界に新しく加わった混沌という要素に狂わされたんだな。異形の者としてシュネルの父を殺してしまったのだろう。

 

「間に合わなかった。ブラスターを持っていたのに。母も・・・父も・・・殺された。」

 

 シュネルはつまり、父を救える立場にいながら救えなかったのだ。それでノエルという名を捨てたのか・・・。

 

「父を裏切った獣を殺す。だから剣が必要だ。」

 

 シュネルは最後にもう一度そういった。

 刹那の沈黙の後、俺はこう言ってやった。

 

「俺の持っている最高の剣を貸してやる。貸してやるだけだぞ。」

 

 シュネルの顔が一瞬その表情を止めると、ゆっくりと笑みがあふれた。

 

「本当!!」

「ああ本当だ。」

 

 水がゆっくりとあふれるようにシュネルの顔に輝きがあふれる。・・・まずいな。やっぱりユニコーンとしての性質が影響してるな・・・。えっユニコー ンを知らないって?そういうのは森の番人、精霊使いどもに聞いてくれ。乙女しか乗せない生命の力を持った天馬のことさ。この世界にも結構たくさん住んでる ぞ。とにかく、こんな笑みに弱いんだよ、俺は。

 でも、見とれるわけにはいかない。言わなくてはならない事もあるからな・・・

 

「ただ。」

 

 俺は言った。いつまでもシュネルの笑顔を見ていたかったが仕方ない。

 

「貸し賃としてお前の夢をもらう。それでもいいか?」

「夢?」

 

 シュネルの顔が再び曇る。

 

「そう夢だ。夢と名の付くものをどれか一つ。それはお前が昨日見た両親との夢かもしれないし、将来お前が望む夢かもしれない。ゆっくりと考えるがいい、シュネル。お前が答えを出すまで俺はここに居てやるから。」

 

 シュネルは驚いたように俺を見上げた。そうだ、俺はノエルの意味を知っている。俺はノエルの意味をちらりと言葉に含めた。シュネルが驚くのも無理は無い。

 シュネルは俺の瞳を見つめ続けた。だから俺はシュネルの瞳を見つめ続けた・・・

 彼の頭が縦に振られるまで。

 

「夢を力に代えて下さい。」

「分かった。」

 

 俺は自分の腰から一振りの大剣を抜いた。シュネルの髪よりも黒い闇色の剣。

 

「持ってみな。大丈夫こんな姿はしているが呪われているわけでもない。」

「でも・・・重そうだ。」

「いいから持ってみな。」

 

 いささか少年には不釣り合いな大剣にシュネルはおずおずと手を伸ばした。正に名は体を表す・・・。ノエル、お前はそれをどう思っているのか・・・

 

「か・・・軽い。」

「一年だ。」

「え?」

 

 シュネルはまた俺の瞳を見つめた。

 

「一年間それを貸してやる。」

「そ・・・そんなに?」

「そんなにではない。お前の今の力で異形の者を倒せるわけがない。どんなに剣が良くてもだ。おまえの父親を殺した獣、そしておまえの父親が召喚した獣だと いうことを忘れるな。それより、お前はこの剣になれろ。召喚士の剣技を磨け。そして一年たったら、復讐を果たせばいい。」

 

 シュネルが頭を下げた。

 

「あ・・・ありがとう。」

 

 俺は続ける。

 

「異形の者を殺した時、俺はまた、お前の前に現れ夢をもらう。」

 

 俺は腰に残っていた鞘をシュネルに渡すと商品をまとめこの場を去った。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 シュネルの剣技は着々と上達していった。父の書庫から剣術の書を持ち出しては見よう見まねで学んでいった。旅の召喚士に数週間稽古をつけてもらう事もあった。召喚法の腕も幾らか増した、ただ炎の獣だけは決して呼ぼうとはしなかったようである。異形の者についての知識も学んだ。召喚した獣が異形の者に なるには幾つもの不運が重ならなければならない事も知った。父の事を思い出して一晩中泣いた事もあった。シュネルは強くなった。心も体も、ただその小さい 体は一年では大きくならなかったし、腕も少年の細い腕だった。でもそれは剣が補ってくれるはずだった。シュネルは力を得た。でも孤独だった。それはしょうがない事だ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「本当にシュネルになった。私はもう遅れはしない。」

 

 シュネルは異形の者と対峙していた。異形の者はすでに炎の獣ファラとしての姿をとどめてはいない。俺はそれを見て哀しく思った。えっその場にいたのかって?ああ、俺はその場にいたんだ。

異形の者は強い。しかしシュネルと黒い大剣はもっと強かった。シュネルの戦い方は風だった。素早い・・・。そのシュネルの名の通り、敏速な剣だった。

 でも俺は一つだけ危惧していた。シュネルは異形の者を倒せる力を備えてはいる。しかし本当に異形の者を倒せるのか。もし、異形の者を深く知った時、シュネルはどう感じるだろうか。俺は手を出せない。獣だから、呼び出されなければ助ける事は出来ない。シュネルが気づ かない事を祈るのみだ。

 

「私は負けない。」

 

 異形の者の爪がシュネルの髪をかすめる。長い黒髪が数本風に舞ったが、彼の大剣はその炎を着実に削いでいく。二度、三度の交錯。召喚士の正装である額の赤い布が撓むことなく踊った。そして…一瞬の静寂の後、彼の瞳に鋭い光が灯る。駆け込むと一気にその手の闇を突き出した。

 額の布が燃え尽き頬に一筋の血条、それと引き換えに黒い大剣が異形の者を貫いた。

 異形の者が天まで届くかと思われる声で吠えた。シュネルの体が一切の動きを止める。

 

『助けて・・・マスター・・・』

 

 やつはたしかにそう吠えた。やはりやつは孤独だったのだ。自分を呼び出した主人を殺したやつに、その孤独はどうする事も出来なかった、そして孤独のまま死のうとしている。

動きを止めたシュネルにもその叫びが理解できたのだろう。召喚士だから・・・。同じように孤独だったから・・・。

 

「どうして・・・なんで殺したの。私は・・・。」

 

 シュネルは父の友だった獣にすがって泣いていた。いつのまにか・・・

 

「父さん。私はどうすればよかったの。この哀れな獣に・・・」

 

 俺の危惧は的中した。少年は知ってしまった。もう本当の事を全て知るしかない。そうだよ、シュネル。お前の父は獣を殺そうとすれば殺せたんだ。お前 が一年で達した技量で倒せる異形の者だ、倒せないわけがない。でも父は獣を救いたかったんだ。でも失敗した。お前はノエルだ。どんなにシュネルになりたく ても、やっぱりノエルなんだ。しょうがない。お前は気づかなかったのだから・・・でもそれで終わりではない。

 お前はこの失敗を明日への踏み台に出来るか・・・。出来るのなら俺を呼べ。この俺の、シュリルフェン・トゥラームの名を呼べ。

 俺を呼ぶ為に必要な技術は俺の友フェルディ・アードが封印した。今俺を呼ぶ為には想いが必要だ。それは今お前が感じている想いでは無い。分かるはずだ。そ の想いが。その言葉が。分からないのなら今お前が感じている後悔の念でつぶれてしまえ。お前に力を授けたのは俺の間違いだったのか?

 俺はノエルに向かったささやいた。どうしてそんな事が出来たのかって?

 簡単な事だ。だって俺はノエルと一緒に居るのだから。ノエルは俺に触れているのだから。俺は・・・闇色の大剣なのだから!

 ノエルよ。今は俺を呼べ。お前が明日を生きる為に俺を呼べ!

 ノエルは涙を流しながら立ち上がった。そして大剣を地面に突き刺すと空を見上げた。黒い雲が立ち込めている。額にわずかな水滴が垂れた。それは目元をつたわり、ゆっくりと頬をすべると彼の顔から離れていく。

 

「夢の獣、明日への力"克服"をその身に宿しし獣よ・・・」

 

 呼んでいる。困難に打ち勝つ為に、その想いを自分のものにする為に、誰かが俺を呼んでいる。

 

「高貴なる泉よりいでて食らえ。」

 

 もっと強く呼べ。ノエル。もっと強く!俺の名はユニティプア、幻獣ユニティプア・・・

 

「召喚!幻獣ユニティプア。我が想いを糧として!!お願い!シュリルフェン・トゥラーム。」

 

 俺は俺の姿をした。黒い馬の姿に長い角。黒い大剣は黒い幻獣となった。

 俺は哀れな獣にその角を刺した。獣はノエルが見ている前で炎の獣ファラとなり、彼の炎の世界へと帰っていった。法を定め、取り戻すユニコーンの角の力。

 

「シュリルフェン・トゥラーム・・・」

「夢をもらいに来た。」

 

 俺は言った。獣の姿で・・・。ノエルは頷いた。

 俺はノエルに近づくと額に口で触れた。夢を食べ混沌に戻す俺のもう一つの力、貘の力・・・。

 俺は人間の姿になった。そして泣き続けるノエルを抱きしめた。雨が降って来た。でも俺はそのまま抱きしめ続けた。そうでないと幾ら明日を選んだとはいえノ エルは今にも折れてしまいそうだったから・・・。ノエルは少年ではなく少女だった。俺は本当の姿を現した時に、やっとそれに気づいたんだ。ユニコーンの性 質が強く出るわけだ、相手は正真正銘の乙女だったのだから。

 

「ノエル・・・お前はノエルだ。のろまだ。でもノエルでいいじゃないか。ゆっくりと、ゆっくりと今日の事を理解すればいい。ゆっくりと、ゆっくりと今日の事を自分のものにしていけばいい。」

 

 俺は疲れ果てた少女が夢を見るまでずっと見守り続けた。雨よ、この哀れな少女の心を洗い流してやってくれ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 さわやかな朝だ。旅立ちにふさわしい。

 俺は真っ白な朝日をその身に浴びた。そして歩きだす。

 

「シュリルフェン・トゥラーム!!」

 

 その声に振り向くと少女が立っていた。

 

「夢を・・・夢を渡すと約束したはずだ。でも私はどんな夢も忘れてはいない。」

 

 ノエルがその体を朝の空気に震わせながら立っていた。

 その姿といったら・・・何というか天使だね。いかん!!意識すると余計にユニコーンの精神が暴走する!!

 

「いや、俺はお前から夢を一つもらった。」

 

 俺は笑った。

 

「お前は忘れたものを忘れたかどうか確認できるのか?」

 

 顔をしかめる少女。

 

「まあ、寒いから帰れ、もう会うこともないだろうが、元気でな。」

 

 そう言ってから俺は気づいた。少女の傍らにはわずかな荷物。

 

「私は貴方についていく。夢だけでは私がしてもらった恩に報いる事は出来ない。」

「おいおい、ついてきたって足手まといだ。」

 

 俺は言った。でも・・・本当は一緒に来てほしかった。それはユニコーンの性質のせいではない・・・。

 俺は知っていた・・・自分も彼女と同じ・・・

 

「それに、俺はひと所にはとどまらない。」

「それでもだ。貴方の孤独を私は貴方のそばで癒し続ける。それが私の恩返しだ。」

 

 そのときの驚きといったら・・・。この少女は俺の言葉に俺もまた孤独である事を悟っていたのだ!そして俺を呼び続けてくれるというのだ。

 

「駄目と言われても私は貴方を召喚する方法を知っている。」

 

 ああ我が友、フェルディ・アードよ。貴方は俺に世界の救いを命じた。それは貴方が混沌を呼んでしまったから、そうするしかなかったから。多くの人間 を混沌の呪いから救って来てここまで、俺の心を知ったものはいなかった。貴方以外には・・・。貴方の遺言を聞いてから三百年。やっと会えました、貴方の生 まれ変わりに・・・。

 

「しょうがないな。」

 

 俺はノエルを背負った。荷物をノエルの物とまとめる。

 そして、また、友との約束を果たす為に新しい友と歩きはじめたのだった。

 限りない感謝の言葉を胸に秘めながら・・・

 

 

「えっ本当に夢を食べたのかって?ああ食べたよ。ノエル・イリハートの昨日までの悪夢をね。」

 

第一話 Noel was lonely / Fin

 


 
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