No.546366

そらのおとしもの 馬鹿と(・3・)と阿頼耶識 冥界編

水曜定期更新

阿頼耶識編3話冥界編。一応全4話の予定。次回は転界編

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2013-02-19 22:27:23 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1003   閲覧ユーザー数:956

そらのおとしもの 馬鹿と(・3・)と阿頼耶識 冥界編

 

前回のあらすじ

 

(・3・)の策略によりアストレアとケイネスは黄泉比良坂の穴の中へと落とされた。

しかし2人は死んでしまっても心が痛まず、かつ微妙に微笑ましい気持ちになれるというエイト・センシズ会得の条件を満たしていたのでその肉体は消滅しなかった。

そしてアストレアとケイネスは冥界の地表から頭から突き刺さったのだった。

 

 

 

「痛たたたぁ。ここは一体どこなのよぉ?」

アストレアは頭を摩りながら頭を上げる。目の前に広がるのはやたら赤みがかった大きな池。やたら刺々しく突き立った岩。生命の息吹を感じさせない荒れきった大地。

「ここは冥界よ~アストレアちゃ~ん」

 手を差し伸べられたのでその手を取って立ち上がる。と、立ち上がった所で気がついた。自分の手を握っている人物の正体に。

「師匠っ!? どうしてここに?」

 アストレアの師匠である五月田根美香子が立っていた。

「正確には今の私は五月田根美香子の影のようなものなのだけど~アストレアちゃんに会えて嬉しいわ~」

 美香子はアストレアの手を持って楽しそうに振り回している。

「それで師匠。ここは一体どこなのでしょうか?」

 周囲をキョロキョロと見渡すものの知っている場所はどこもない。

「アストレアちゃんに分かり易く言えば~~地獄よ~ここは~~♪」

 地獄と語る美香子はいつになく輝いていた。

「じっ、地獄ぅ~~~~っ!?」

 大きなショックを受けるアストレア。

「めっ、冥界って地獄のことだったんですかぁ~~っ!?」

 信じられないとばかりに首を大きく左右に振って現状を拒絶しに掛かる。

「私、地獄に落ちるような悪いことなんてしてませんよぉ~~っ」

 大粒の涙を流しながら現状への不満を述べる。

「い~い~アストレアちゃ~ん? 馬鹿っていうのは~それだけで決して許されない大罪中の大罪なのよ~地獄最下層行きもあり得るわ~」

「そっ、そうなんですかぁっ!?」

「馬鹿が酸素を消費して二酸化炭素を吐き出すことは~グローバルレベルで規制が進んでいるのよ~。馬鹿二酸化炭素排出権の売買は全世界的に重要なビジネスなのだから~」

「馬鹿だというだけで地獄行きだなんて……」

 ガックリとうな垂れる。この世だけでなくあの世でも厳しい境遇にアストレアの心は挫けそうになる。

「でもアストレアちゃんは特別みたいだから~地獄でずっと暮らす必要もないかも知れないわね~」

「へっ?」

 大きく首を傾げるアストレア。美香子は微笑むだけで詳しいことは何も喋らなかった。

 

 

 

「ゆっ、夢かっ」

 ケイネスは驚愕しながら目を覚ました。

 天才魔術師が見た悪夢。それは世界中から幼女という幼女がいなくなり、全員が大人の女性になってしまうというものだった。

 それはケイネスにとって悪夢以外の何物でもなかった。アインツベルンの雇われ魔術師に戦いで敗れるとかそんなちゃちな次元ではない。ケイネスにとってこの世全てに絶望するのに等しい内容の夢だった。

「小学校に通い始めたばかりの幼女が一夜にして醜悪な脂肪の塊を垂れ下げるBBAに変わるなどあってはならないっ! あってはならぬのだぁ~~っ!」

 頭を激しく振りながら上半身を起こす。

 すると、目の前に紫色がかった長い髪のスタイルの良い少女の姿が立っているのが見えた。高校生ほどの年齢の少女はケイネスの顔を見て楽しげに微笑んだ。

「ケイネス先生がお元気そうで何よりです」

 ケイネスの瞳に目の前の少女と先ほどの悪夢が重なる。

「きっ、貴様。その魔力の形状……ま、まさか、お前は間桐家の娘、桜だと言うのか!?」

 ケイネスがガクガクと全身を震わせながら尋ねる。

「ええ、そうです。わたしは間桐桜……の影、といった所でしょうか」

 少女、桜は頷いてケイネスの言うことを認めてみせた。

「しょっ、小学1年生のはずのお前が何故……そんな第二次性徴を遂げた醜悪な姿にぃ~~

っ!?」

 ケイネスの知る桜はひたすらに幼女だった。儚げな雰囲気がケイネスに永遠の忠誠を誓わせてしまうほど超絶に幼女だった。

 だが、現在目の前にいる少女は違う。他の2人が貧乳系ヒロインなのに比べると1人だけ巨乳系ヒロインとして売り出せそうな肉感的なプロポーションを誇っていた。

 それは、ケイネス的にあってはならない進化、いや、退化だった。

「この姿の方が力を使い易いから、でしょうか? 小学生のわたしの体では強大な魔術の行使には何かと不都合がありますので」

「ま、まさか先ほどの夢は正夢で世界中から幼女が消え去ったと言うのではあるまいな!? そ、そんな世界はまさに地獄だぁ~~~~っ!!」

 ケイネスは両手で頭を押さえながら狂乱したかのように大絶叫してみせた。

「クスクスクス。ここは確かに地獄ですが、幼女がいなくなったりはしていませんよ」

 桜は右手で口元を押さえながら楽しげに笑っている。

「幼女は世界から消えておらんのか。それは一安心……って、ここは地獄だと申すのか!? 品行方正な人格者と謳われた魔術の最高峰時計塔の講師であるこの私が何故地獄にっ!?」

「ペドって存在自体がそれだけで決して許されない大罪中の大罪なんですよ。地獄最下層行きもあり得ますね」

「そっ、そんな馬鹿なっ!? 人間として最も尊重すべき愛情の形が罪だと!?」

「ペドが酸素を消費して二酸化炭素を吐き出すことは、グローバルレベルで規制が進んでいます。ペド二酸化炭素排出権の売買は全世界的に重要なビジネスなんですよ」

「ペドだというだけで地獄行きだなんて……」

 ガックリとうな垂れる。この世だけでなくあの世でも厳しい境遇にケイネスの心は挫けそうになる。

「ですが、ケイネス先生は特別みたいですから、地獄でずっと暮らす必要もないかも知れませんね」

「それはどういう意味だ?」

 大きく首を傾げるケイネス。桜は微笑むだけで詳しいことは何も喋らなかった。

 

 

 

(・3・)「そこの馬鹿金髪コンビまで阿頼耶識に目覚めてしまったんじゃエイト・センシズの価値が落ちてしまうよ。まったく、馬鹿はこの世に要らないってのに」

 顔が(・3・)である為に地面から頭を引っこ抜くのに時間が掛かった(・3・)。誰にも手を差し伸べられずひとりで立ち上がった(・3・)の前には高校生ほどの年齢の黒髪の美少女が立っていた。

(・3・)「その絶望的なまでの胸のなさは梨花ちゃんだね。大人になっても胸がなさ過ぎだよ。生きている価値がどこにもないね。ぶっひゃっひゃっひゃっひゃ」

 (・3・)は少女のとある一部分を眺めながらそれが誰なのか判断した。

「ご名答」

 少女、古手梨花は凍てつく波動を発しながら(・3・)に返した。

「正解のご褒美に……死になさい」

(・3・)「ぶっぴゃぁああああああああぁっ!!」

 梨花の闇の力が(・3・)の全身の骨を砕いた。

  残り (・3・)×1

 

(・3・)「正直者がバカを見るなんて本当にふざけた世の中だよ」

「それ以上ほざくとアンタの全ライフを砕くわよ」

 梨花はイライラしている。

(・3・)「まあ、胸のない女とこれ以上一緒にいると胸なしが感染りそうだからおじさんはもうこの世に戻るよ」

「冥界三巨頭を前にしてよくもそんなに自由に振る舞えるわね」

(・3・)「冥界三巨乳?」

 (・3・)は美香子、桜、梨花の3人の胸を順番に眺めた。

(・3・)「あっちの2人は巨乳だけど、梨花ちゃんは無乳じゃん」

「死ね」

(・3・)「ぶっぴゃぁああああああああぁっ!!」

 (・3・)は一片の塵残すことなくかき消された。

  残り (・3・)×0

 

(・3・)「まったく、梨花ちゃんのせいで貴重な残機が0になっちゃったじゃないか。おじさんはもう1度死んだら完全消滅だよ」

「なんなら、もう1度消してあげましょうか?」

 梨花の(・3・)を見る瞳は冷たい。

 

「あらあら~古手さ~ん。(・3・)ちゃんもエイトセンシズに目覚めた貴重なお客様なのだから~粗末にしちゃダメよ~」

「そうですよ。(・3・)さんのおかげでこうして私たちが一堂に会したのですから」

 美香子と桜はニコニコしながら梨花と(・3・)を見ている。

(#・3・)「ほらっ! あの巨乳達の言うように梨花ちゃんはおじさんの価値をもっと認めるべきなんだよ。土下座して謝りな、この貧乳小娘が」

「…………後でその首掻っ切ってやるから覚悟してなさい」

 梨花は苛立ちを抑えるべく(・3・)から顔を背けた。

 

 

「それで、師匠と残りのお二方は地獄で一体何をしているのですか?」

 アストレアは何もない荒野を見回しながら冥界三巨頭に尋ねる。

「冥界には~様々な領主がいるのだけど~」

「そのせいで領地紛争も絶えないんですよ」

「この辺り一帯をどうするかで私たち3人が揉めているのよ」

 3人の少女はあっさりと答えた。

「ああ。そういう争い、ゆーゆーはくしょっていう漫画で読んだことがあります。三大勢力による血みどろの争いなんですね」

 アストレアはポンっと叩いた。

「勢力均衡の三つ巴状態だから~何千年も直接的な戦闘はしていないけどね~」

「何千年。長いような短いようなよく分からない時間ですよね。わたしもシナプスにいた時は、そこで待てと言われて気がついたら数万年放置されていたこともありましたし」

 美香子の話に相槌を打つ。

 人間の時間の感覚が通じないのは冥界の住民もエンジェロイドも同じだった。

 

「領地紛争をしているとは言うが、このような不毛の地を争ってどうすると言うのだ? 開発にはまるで向かないと思うが?」

 アストレアの言葉を繋いだのはケイネスだった。

「確かに私たちが争っているここは、この世でいうロシアぐらいの100倍ぐらいの面積がありますが、草1本生えない土地です」

「そんなに、広いのか……」

 のほほんと答える桜にケイネスはちょっと引いている。天才魔術師は思考のベースがあくまでも人間、しかもインテリなのでぶっ飛んだ話は苦手だった。

「まあ、この紛争地自体、私達の各領域から見れば、爪の先ぐらいの広さしかないのですけど」

「冥界とはどこまで巨大なのだ……」

 島国の一建物の工房で人生の多くを費やしてきたケイネスにとってはスケールが理解できない。

「刺激が欲しいので紛争地を作って争っているという所でしょうかね」

「スケールの大きな割に、実に俗物的な理由で争っているのだな」

「愉悦は人生を豊かにしてくれますから♪」

 桜は笑ってみせた。

 

「そんな訳で新しい愉悦を探していた所に(・3・)達が落ちてきたから皆集まってきたというわけよ」

(・3・)「おじさんは嗤うのは好きだけど、嗤われるのは嫌いだよ」

 梨花は(・3・)を見ながら瞳を細めた。

「そんなわけで(・3・)達には新たな愉悦を提供して欲しいのよ」

 梨花は更に瞳を細めてみせた。その表情を見て全身に悪寒を覚えたのはアストレアだった。

「あのお……もし、私達がみなさんのお気に召す愉悦を提供できなかったらどうなるのでしょう?」

 小動物的勘をビンビンに働かせながら小さく挙手してアストレアは尋ねる。

 その質問に冥界三巨頭はとてもいい表情で微笑んで返した。

「さあ~? よくは知らないけれど~ここは地獄よ~。地獄に相応しい丁重なおもてなしが待っているんじゃないかしら~?」

「クスクス笑ってゴ~ゴ~♪」

「にぱ~★★」

 3人の少女の笑顔を見てアストレアは直感した。

「そ、それは死ぬより辛い罰が待っているってことですか~?」

 全身をガタガタ震わせながら尋ねる。

 桜井家でのニンフやアストレアに何度も殺されかけた日々を思い出す。

「何を言っているのかしら~? ここは地獄よ~。亡者は苦痛の中で野垂れ死にしてもすぐに蘇ってまた苦しみを味わう無限の空間よ~。死ぬなんて何でもないじゃない~」

「エイトセンシズに目覚めた方は、一般の亡者とは扱いが異なるので、永遠に死なないように死ぬよりも苦しい痛みを与え続けてあげますよ♪」

「にぱ~★★」

「やっぱり死ぬより辛い罰が待ってるんだぁ~~っ!!」

 アストレアは自分の予感が外れてくれなかったことに嘆いた。

 

「で、でも、私、面白い芸なんてできませんよぉ~っ!」

 アストレアは自身に迫りつつある絶対の死を嘆く。

 幾らエイトセンシズに目覚めたと言っても、最初に出会ったのが冥界三巨頭ではそれを活かすチャンスはない。

「ろ、ろ~ど・えるめろいは何か芸ないの!?」

「フッ。私は高貴な生まれ故に、芸を見せる側でなく芸を楽しむ側として育ってきた」

「使えない~~っ! それでも何かないの!? 魔術以外で」

「小学生遠坂凛と間桐桜とイリヤスフィールの身長体重スリーサイズならミリ単位まで正確に言えるが」

「言ったら……食べますよ」

 桜が背後に黒いタコ型の影を召喚しながら微笑んだ。

「次っ! (・3・)は何かないの?」

 ケイネスに期待するのを諦めて(・3・)に話を振る。

(・3・)「おじさんはトークショーが得意さ。空気を一変させる大話術はおじさんにしか扱えないよ」

「結論。私達には愉悦なんて提供できませ~~んっ!」

 アストレアは自ら命を先に絶ってしまうか考えながら大声を挙げた。

「別に私達は~アストレアちゃん達に芸を見せて欲しいなんて思ってないわよ~♪」

「素人の芸を見せられても反応に困るだけですし」

「命を燃やす芸なら見てあげても良いのだけど」

 冥界三巨頭は首を横に振った。

 

「それじゃあ、やっぱり私達は死ぬしか……」

 生き残る希望を絶たれて落ち込むアストレア。

「私達はアストレアちゃん達に~別のことで楽しませて欲しいのよ~」

「別のこと、ですか?」

 顔を上げて美香子を見る。

「そうよ~。アストレアちゃん達には~生き返ってもらって~この世での奮闘記を私達に見せて欲しいのよ~」

「へっ?」

 アストレアは目を大きく見開いた。

「あの、それで良いのですか?」

「ええっ。アストレアちゃん達の奮闘ぶりは~こっちで勝手に観察させてもらうから~何も気にせずに暮らしてくれれば良いわ~」

「そ、それなら私にもできそうです」

 アストレアは大きなため息を吐いた。

 

「それじゃあこれから3人には生き返ってもらうわけだけど~」

 美香子はアストレア、ケイネス、(・3・)の顔を順番に見回す。

「アストレアちゃんとロード・エルメロイさんは生き返るの初めてなのよね~?」

「はいは~い。死にかけたことは何度もありましたが、実際に死んだのは初めてで~す」

「フム。私のような完璧な存在は死とは無縁だから当然であろう」

(・3・)「死に慣れてないってダッセ」

 一同は(・3・)を無視した。

「エイトセンシズに目覚めた者は強く念じれば~この世に戻れるのだけど」

「えっ? そんな簡単なことで戻れるんですか?」

 驚くアストレアに対して美香子は念を押すように指を1本立ててみせた。

「でも、気を付けてね。念じ方を間違えると別の存在に転生してしまうこともあるから」

「別の存在?」

 アストレアは首を捻った。

「自分のイメージがしっかりしていないと~犬や猫や別の人間として生き返っちゃうことがあるから気を付けてね~」

「犬や猫って、それは嫌ですよぉ~~」

 犬猫になった自分を想像して嘆く。

 今とあまり生活パターンも扱いも変わらないであろう自分に絶望する。

「大丈夫~。自我をしっかり保っていれば~別人になることはないわ~。(・3・)ちゃんは何度死んでもぶれないでしょ~」

(・3・)「おじさんは世界一の美少女だからね。ブレるはずがないさ」

「ああいう唯我独尊はエイトセンシズの活用に向いているのよ~」

「なるほどっ!」

 アストレアは手を叩いて納得した。

「後気を付けて欲しいのは……3人とも最後のライフになっているから~生き返って次死んだら本当に終わりになるからね~」

 美香子は微笑んだ。

「ええ~っ!?」

 エイトセンシズに目覚めて何度でも生き返れるようになったと密かに喜んでいたアストレアは驚いた。

「それじゃあ、生き返るのに失敗して別の存在になっちゃったら……」

「アストレアちゃんは犬として最期を迎えることになるかも知れないわね~♪」

「ひぃいいいいいいいぃっ!?」

 生き返りの秘宝どころかとんでもない地雷を踏んでしまっている。

 アストレアはそれを感じずにはいられなかった。

「つまり、幼女と戯れるのにより適した別の存在に転生して一生を過ごすことも可能ということか。フム」

 ケイネスは鼻息が荒い。

(・3・)「おじさんは完璧美少女だけど、より完璧な美少女になってもいいわけだ。まあ、胸を更に1センチ大きくするぐらいはしてもいいかな」

 (・3・)の自分に対する自信はほとんど揺らがない。

「それじゃあ~3人とも~生き返って新しい人生で私達を楽しませてね~」

「あんまりすぐ死なないでくださいね。くすくす笑ってゴーゴー」

「にぱ~★★」

 こうして、アストレアはエイトセンシズを活かして生き返ることになった。

 

 

 

「師匠、生き返るには強く念じれば良いんですよね?」

 アストレアは美香子に向かって確認を取った。

「ええ。そうよ~」

 首を振る美香子に安心する。

「さっきも言った通りに自分を強く保たないと別の存在になってしまうから気を付けてね~」

「自分、ですか……」

 アストレアは自分について考えてみる。

「馬鹿で不幸で……ううう。惨めですぅ~」

 最初に思い付いたのは地上に降りてからの惨めな境遇だった。

「近接戦用エンジェロイドなのに……シナプスにいた時1度も出撃したことないし、迎撃に出たのはハーピーだったし……私って要らない子なんですよぉ~」

 考えれば考えるほど自分のことが嫌いになってしまう。

(・3・)「ぶっひゃっひゃっひゃ。おじさんが金髪になればより最高じゃねえ? 天使とか形容されちゃってもう最高じゃねえ。ぶっひゃっひゃっひゃっひゃ」

「私の容姿、能力は人類史上稀に見る完璧度を誇っている。だが、完璧すぎる青年紳士は幼女に近づくには適していないのが唯一の難点だ」

 (・3・)とケイネスが自分大好き人間であるのと比べるとアストレアは対照的だった。

(・3・)「おじさん、いっそ翼生やして本物の天使になっちゃおうかな。しかもおじさんらしく近接戦闘最強の天使とか。ぶっひゃっひゃっひゃ」

「そうだ! 小動物になれば幼女に擦り寄っても誰も何も文句を言わない。それも鳥になれば外から着替えも入浴も覗き放題ではないか。素晴らしいっ! 最高だっ!」

 際限なく盛り上がる2人を尻目にアストレアは自分を見つめ直す。

「そうよ。違う自分に生まれ変われば……こんな不幸な人生を歩まなくてもいいんだ」

 アストレアは小さく頷いた。

「全部リセットして、もっと普通の女の子になりたい」

 喋っている内に段々と活気づいてくる。パッと視界が明るく開けてくる。

「そうよ。普通に学校行って、友達とワイワイやって、普通に恋して。そんな普通の人生が送りたいっ!」

 アストレアは自分の中に確かな欲求が高まっていくのを感じた。

「普通最高っ! 普通万歳~~っ!!」

 アストレアの中で想いは一つに結実した。

「さあ~3人とも。生き返った人生をちゃんとエンジョイするのよ~」

「良質の愉悦を提供してくださいね♪」

「にぱ~★★」

「はいっ!」

 3人に見送られながらアストレアは新しい自分を強く念じた。

 

 そして、エイトセンシズの能力を活かしてアストレアは生き返った。いや、生まれ変わった。

 

「あれ? 私は一体、誰だっけ?」

 

 記憶を失い別人となって。

 

 

 続く

 

 


 
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