No.540539

銀の刃、腕を見せる

炎の精の圧倒的な火力に冷や汗を流す賢者達。次にその前に立つのは、銀の刃の包丁であった。

2013-02-05 23:15:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:372   閲覧ユーザー数:359

 銀と藍の弾幕が広場で交差する。

 六花がまず撃ちだしたのは妖力で編んだ銀の弾丸。将志の弾丸の様に貫通力を求めたものではなく、少し大きめの丸い弾丸であった。

 藍は飛び交う弾丸を正確に避けていきながら相手と一定の距離を保つ。

 何故ならば、藍は妖術を使って戦うタイプであり、接近戦はそこまで得意ではないからだ。

 一方、現在の相手である六花はじりじりと近づいてきている。

 どうやらアグナほど避けるのは上手くないらしく、一つ一つ丁寧に避けている。

 時折手にした包丁で将志と同様に弾幕をはじいているところからも、遠距離はあまり得意ではないようである。

 

「このまま押し切れるか……?」

 

 藍は攻撃の手を緩めることなく相手を見据えながらそう呟いた。

 六花は迂回しながら接近を試みるが、藍はそれに合わせて弾幕を張り続ける。

 その結果、六花はジリジリと押され始めていた。

 

「このままではジリ貧ですわね……」

 

 そう言いつつも、六花はまったく焦ることなく冷静に相手を見据えていた。

 六花の目の前には迫りくる藍色の弾丸の壁がある。

 

「……ならば、戦い方を代えるまでですわ」

 

 六花はそういうと、手元に何かを生み出した。

 

「そーれっ!」

 

 そしてそれを両手で持ち、藍に投げつけた。

 

「……え?」

 

 藍は投げつけられたそれを見て呆気にとられた。投げつけられたものは緑と黒の縞模様の球体。

 要するにスイカである。ただし、その大きさは直径十尺ほどもある巨大なものだった。

 巨大なスイカは迫り来る弾幕を駆逐しながら藍に向かって一直線に飛んでいく。

 

「うわっ!?」

 

 藍はスイカを躱すが、その後ろから飛んでくる弾幕に危うく直撃しそうになる。

 巨大なスイカの陰に隠れて、その後ろから迫ってくる弾丸が見えづらくなっているのだった。

 

「それっ、それっ、そぉーれ!」

「くっ……」

 

 次々と連続してスイカを投げつける六花。藍はそのスイカを忌々しそうに睨みながら躱していく。

 何しろ、このスイカのせいで張っていた弾幕が消えてしまうのだ。

 それ故に、藍は六花が視界から消えないように移動しながら、スイカを避けて攻撃をしなければならない。

 

「……不味いな、攻撃が全部消される」

 

 藍は苦い顔をしてそう呟いた。

 この状況を打破するためには、あのスイカを消し去るか、避けられなくなるまで近づく他ない。

 しかし近づくということは、それだけ相手の得意であろう距離に近づくということでもあるのだ。

 先ほどまでの六花の戦い方から考えるに、六花が接近戦で一撃必殺の技を持っていても不思議ではない。

 

「逃げてばかりでは、私には勝てませんわよ!」

 

 六花はそう言いながらスイカ投げつつ包丁を振るう。

 すると包丁を振るった手元から白い燕が三羽現れ、藍に向かって飛んでいった。

 燕達は三方向から藍に向かって襲い掛かる。

 

「当たらなければどうということはない!」

 

 藍は六花の挑発を受け流し、くるくると回りながら攻撃を回避していく。

 白い燕は急旋回をしながら藍を追いかけていくが、藍は持ち前の頭脳でその追跡者の追ってこれない位置を即座に計算し、そこに逃げ込んでいく。

 そして六花の周りを移動しながら弾幕を敷いていった。六花には四方八方から藍色の弾丸が雨のように降り注ぐことになる。

 

「……っ、なかなかやりますわね」

 

 六花はそう言いながらスイカを投げ、弾幕を消しながら避けていく。

 藍は常に移動しているため、六花はなかなか攻撃を当てることが出来ていない。

 それどころか逆に藍の攻撃を捌き切れずにいくらか体を掠めている。

 その状況を確認すると、六花は小さくため息をついた。

 

「仕方がないですわね、これならいかが!?」

 

 六花はスイカを投げるのをやめ、その代わりに自分の周りに六輪の銀の花弁の花を生み出した。

 その花は飛び回る藍に向かって追尾するように飛んでいき、その周囲を取り囲んだ。

 

「喰らいなさいまし!」

「うっ!?」

 

 六花の号令と共に藍の周りを飛び回っていた花からレーザーが発射される。

 藍がそれを避けると、再び追尾して取り囲みレーザーを発射する。

 六門の移動砲台からのレーザーと言う攻撃方法から、先程までの避け方では避ける事が非常に難しい。

 

「ええい、うっとおしい!」

 

 何度躱しても追尾してくる花に、藍は攻撃を加える。

 しかしその攻撃を放った直後、花は消え去った。

 

「なっ!?」

 

 その横から、再び巨大なスイカが藍に向かって飛んでくる。

 先ほど花に妨害されて動きを止められていた藍は、それを何とかギリギリで避ける。

 しかし、そのスイカの陰には赤い長襦袢を着た人影が隠れていた。

 

「しまっ……」

 

 六花は藍とすれ違いざまに手にした包丁を滑らせ、藍の周囲に静かに銀色の線が走る。それは眼にも留まらぬ早業だった。

 次の瞬間、藍を覆っていた薄い膜のようなものが音を立てて砕け散った。

 

「……お兄様の加護、断ち切らせていただきましたわ。そして、この距離なら私は確実に貴女を取れますわよ」

「……参った」

 

 喉元に包丁を突きつける六花に、藍は両手を上げて降参の意を示した。

 

「勝負ありね。二人とも、お疲れ様」

 

 紫はそんな二人に声を掛ける。

 その声を聞いて、六花は手にした包丁を鞘にしまって帯に挿した。

 

「やれやれですわね。お兄様、私の戦いはどう見えましたの?」

「……やはり遠距離相手だと崩すまでに時間が掛かるな。もっと相手を良く見て、どうすれば最も早く崩せるか考えたほうが良いだろう。だが、接近してからの包丁捌きは流石の一言だった」

 

 ため息をついて肩をすくめる六花に、将志はそうアドバイスをした。

 その横で、紫は興味深そうに六花の事を見ていた。

 

「貴女、随分と強いわね?」

「せっかく力があるんですから、守りたいものを守るために努力したんですの」

「でも、貴女は見てるとあんまり戦いには乗り気じゃなさそうね」

「当たり前ですわよ。本来、包丁は戦いに使う道具じゃありませんのよ?」

 

 意味ありげな笑みを浮かべる紫の質問に、六花はため息混じりにそう答えた。

 どうやら心の底から戦いは嫌いな様である。

 

「ところで、最後の一撃は何をしたのかしら? ただの包丁で将志の強力な加護を崩せるとは思わないのだけど?」

「ああ、それは私の能力ですわ。『あらゆるものを断ち切る程度の能力』、お兄様と似たような能力ですわよ」

「つまり、何でも切れるってことかしら?」

「ええ。お望みとあれば、海でも山でも何でも切って差し上げますわよ?」

 

 紫の発言に六花は自信あふれる様子で答えを返した。

 実際、銀の霊峰の社を立てる際に山の頂上を斬っているのだから洒落になっていない。

 その後ろでは、将志が藍の手を握って三度加護と妖力を与えていた。

 

「……終わったぞ」

「ああ、ありがとう。しかし、銀の霊峰の妖怪達はみんなこんな感じなのか? こんなのに大勢で暴れられたら手がつけられないぞ?」

「……そういうわけではない。今この場に集まっている四人は全員が紫よりも遥かに古い妖怪達だ。他の連中とは積み重ねてきた時間が桁違いに多いのだ。むしろ藍はその年齢にしては俺達相手に善戦していると思う。うちの連中と戦ってもそうそう引けを取りはしまい」

「そうか……」

 

 将志の言葉を聴いて、ホッと胸をなでおろす藍。

 連敗を喫しているが、実際には藍自身も白面金毛九尾の狐という都を震撼させた大妖怪なのだ。

 そんな自分があっさり負けるような妖怪達がゴロゴロ居たら、はっきり言って恐怖でしかない。

 藍が思わず安堵したのも当然である。

 そんな藍の元に、赤いリボンの付いたシルクハットをかぶった少女が近寄ってきた。

 

「やっほ♪ 次は僕の番だね♪」

「ああ、そうだな。すまないが、名前を聞かせてもらってかまわないか?」

「おっとっと、そういえば言ってなかったね♪ 僕の名前は喜嶋 愛梨さ♪ 宜しくね♪」

「先ほども名乗ったが、八雲 藍だ。宜しく頼む」

 

 愛梨は藍に対して笑顔で自己紹介をする。藍はそれに対して改めて自己紹介をするをすることで答えた。

 挨拶を終えると、二人は肩を並べて広場の真ん中へ歩いていく。

 

「……ねえ、藍ちゃん♪ ちょっと訊きたいことがあるんだけど、良いかな?」

「ああ、訊きたいことは分かっている。私は将志を愛している。答えはこれで十分だろう?」

「……そっか♪ でもね、僕だって相棒として将志くんを譲ってあげるつもりはないんだ♪」

「それも承知しているよ。だから、私は正面から将志を奪い去って見せる」

 

 二人はそう話しながら笑い合う。

 しかしその二人の間には異様な威圧感が漂っていた。

 

「……紫、あの二人の周囲の空間が歪んで見えるのは俺だけか?」

「……奇遇ね、私にもはっきりと歪んで見えるわよ」

 

 将志と紫はそんな二人の様子を見て、若干冷や汗を流しながらそう言いあった。

 ちなみに、愛梨と藍の会話は二人には聞こえていない。

 その間に愛梨と藍はそれぞれの開始位置に着く。

 

「……これより始まりますは喜悦の舞。色とりどりの色彩は、見た者の心を奪うでしょう。皆様、どうか笑顔の準備をお忘れなく。それでは、まもなく開演にございます」

 

 愛梨は広場の中心で手を広げ、詠うように前口上を述べて恭しく礼をした。

 その言葉は不思議と心地良く、聴いたものの耳に残る声だった。

 

「……その口上は?」

「僕はピエロだからね♪ みんなを楽しませるのが僕の仕事さ♪ どうせなら、周りのみんなにも楽しんでもらった方がいいよね♪」

 

 愛梨は手にしたステッキをくるくると回しながら藍にそう言った。

 

「二人とも、準備は良いかしら?」

「うん、大丈夫だよ♪」

「はい、こちらの準備も整っております」

 

 紫が確認を取ると、二人はそれぞれそう言って頷いた。

 

「それじゃあ行くわよ。始め!」


 
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