No.539218

マギステルディケイド 一時間目「三年A組仮面ライダー先生」

三振王さん

ディケイド×ネギまクロスの第一話です。

2013-02-02 21:37:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4873   閲覧ユーザー数:4800

 一時間目「三年A組仮面ライダー先生」

 

 

 

 麻帆良学園都市……幼等部から大学部までのあらゆる学術機関が集まってできたこの都市の片隅に、突如として「光写真館」という看板を掲げたレンガで出来た建物が建っていた。そしてその正面入り口から三人の男女……門矢士、光夏海、小野寺ユウスケが出てきた。

 

「ここが新しい世界か、随分とにぎやかな場所だな」

 

 士は目の前を駆け抜けていく学生服の生徒達を見てふうっと息を吐く。もうすぐ登校時間なのか、生徒達はものすごい勢いで校舎のある方角へ向かって行った。中にはキックボードやセグウェイに乗ったり、ローラースケートを装備している者もおり、そのバリエーションの多さに士は感心と驚きを感じていた。

 

「この世界の士君の役割は一体何でしょう?」

「今回は……科学者?」

 

 ふと、夏海とユウスケは横にいる士の格好を見る。士は異次元世界を移動する度に、その世界で自分がやるべき事を成す為の格好に(本人の意思は無視して)着替えるのだ。たとえばユウスケが居た世界ではその世界の破滅を防ぐため、色々と情報が収集しやすい警官になっていた。

 そして今、士の格好はユウスケの言う通り科学者を思わせるような真っ白な白衣に黒縁メガネ、肩には何故かウミガメの子供のぬいぐるみが乗っかっていた。そして首にはいつものように愛用しているマゼンタカラーのカメラが掛けられていた。

 

「いや、どうやら教師らしい」

 

 そう言って士は白衣のポケットの中から一枚のカードを取り出す。そのカードは士の顔写真入りの教員免許証だった。

 

「教師か、前は学生だった事もあったな」

「士君が教師……ちゃんと教える事が出来るのか不安です」

「メモも一緒に入っていた。取り敢えずここに記されている場所に行ってみるか」

 

士は一旦光写真館を離れ教員免許証と一緒に出てきたメモに記されている場所に向かった。

そしてその様子を、光写真館の窓から眺めている蝙蝠のような物が一匹。士たちの旅の同行者、キバーラだ。

 

「ふふふ、この世界ではどんなことがあるのかしらねえ」

「いい意味でー」

「だみゃー」

 

 キバーラはいつものようにミステリアスな雰囲気を醸し出しながら笑う。しかしその時、彼女は自分の横に見知らぬ生き物が二匹いる事に気付く。

 

「あら? 誰なの貴方達?」

「お気になさらずーだみゃ」

「通りすがりの猫とカエルー、という事にしておいてくださいー」

 

猫とカエルと自称する二匹、しかし猫の方は餅のようにウネウネと伸縮しており、カエルの方は胸元に小さな赤いネクタイをしている。どう見ても普通ではなかった……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 その日、麻帆良学園中等部は一学期が始まり、生徒達は気分も新たに教室に集まり、HRが始まるのを待っていた。

 ここ麻帆良学園中等部三年A組の教室でも、31名の生徒達が教師の到来を待っていた。

 そして教室の扉が開け放たれる、するとそこから10歳ぐらいの赤毛にメガネを掛けた少年が入って来た。

 

「皆さん、おはようございます!」

「おはよーネギ君!」

「三年になってもよろしくねー!」

 

 ネギ・スプリングフィールド、若干10歳にして麻帆良学園中等部三年A組の担任教師を任されている天才少年である。彼にはある秘密が隠されているのだが、それは後ほど語るとしよう。

 

「えと……改めまして3年A組の担任になりましたネギ・スプリングフィールドです。これから来年の3月までの1年間よろしくお願いします」

「はーい!」

「よろしくー!」

 

 3年A組の一部生徒達はネギに元気よく挨拶する。10歳にも満たない先生という特異な存在にも関わらず、ネギは(一部を除いて)生徒達から好意的に受け入れられていた。

 

「ネギ先生、少しいいかしら」

 

 するとそこに、優しげな雰囲気を醸し出す女性……ネギの指導員でもある源しずなが現れた。

 

「しずな先生? どうしたんですか?」

「実はね、この学校に新しい先生が来ることになってね、このクラスの副担任として赴任してもらうことになったの」

「ええ!? そんな話聞いていませんよ!?」

 

 突然の事に驚くネギ、それは教室にいた生徒達も同じだった。

 

「新しい先生アルか!?」

「どんな人なんだろうね」

「しずな先生、どんな人なんですか?」

 

 生徒の一人がしずなに質問する。

 

「急な話だから私もよく知らないの、でも確か東大文学部考古学科出のエリートらしいわよ?」

「東大!? すごーい!」

 

 これから来る教師の来歴を聞いてさらにざわめく生徒達。するとしずなの背後から白衣の青年……門矢士が現れた。

 

「ここか? 俺が受け持つ教室ってのは?」

「え? ええ」

 

 しずなは後輩である筈の士の不遜な態度に面喰ってしまう。士はそんな彼女に構わず教室の中に入り、教壇の上に立った。隣ではネギがぽかんとしている。

 

「アレが新しく来た副担任?」

「やだ、イケメンじゃない? タイプかも……」

 

 士の姿を見て思い思いの感想を口にする生徒達、一方士は白いチョークを手に取り、背後の黒板にデカデカと自分の名前を書いた。

 

「今日からお前達の副担任になる門矢士だ、教える教科は……歴史だっけか? まあその気になれば全教科教えてやる。今日からよろしく」

 

 そう言って右手をシュッと上げる士。その常識外れな自己紹介に生徒達は呆気にとられていた。

 そして士が教壇から降りようとした時、彼はようやくネギの存在に気が付いた。

 

「……? ここって中学校だよな? なんで小学生がここにいるんだ?」

「こ、この子はネギ・スプリングフィールド、このクラスの担任よ」

「担任……?」

 

 士はどうしたらいいか解らず挙動不審のネギを見る。

 

(こんな子供が担任……? ウソだろ?)

 

 子供が教師をしている事に違和感を持つ士。しかしすぐに自分が旅してきたある少年たちの事を思い出す。

 

(ま、ワタルやアスムみたいなのもいるし、この世界ではこれが普通なのかもな)

 

 自分と同様、ライダーとなって世界を守る為に戦う少年達の事を思い出し、すぐに思い直した。

 

「大体わかった。よろしく頼むぜネギ先生」

「あ、はい!」

 

 士はネギに右手を差し出し握手を求める。対してネギは警戒心を解いて差し出された手を握った。

 すると背後でしずな先生が手をパンパンと叩いてネギに話し掛ける。

 

「ネギ先生、今日は身体測定の日ですよ。3-Aの皆も準備してくださいね」

「あ! そうでした! ここでですか!? わかりましたしずな先生!」

 

 ネギは思い出したかのように慌てて生徒達に向き合った。

 

「で、では皆さん身体測定ですので……えと、あのっ、今すぐ脱いで準備してください!」

 

その時、ネギは自分の大きなミスに気付き赤面する。この場ですぐに脱ぐという事は彼女達が男である自分や士の前で柔肌を晒す事になるのだ。

 

「「「ネギ先生のエッチ~!」」」

「うわーん! 間違えました!」

 

 生徒達にからかわれ、慌てて教室を出ていくネギ。そんな彼の後ろ姿を士は首にかけていたカメラを使って写真に収めた。

 

「ふっ……やっぱりまだまだ子供か」

「門矢先生も早く出てください」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 教室から慌てて出てきたネギ、ふと……廊下の角にコートを纏った怪しげな男が壁に寄りかかって立っている事に気付いた。

 

「あ、あの……どちら様ですか? ここは関係者以外立ち入り禁止……」

 

 男に恐る恐る話し掛けるネギ、すると男はくるっとネギの方を向いた。

 

「気を付けたまえ、ネギ・スプリングフィールド……あの門矢士は世界を破壊する」

「え?」

 

 この人は突然何を言いだすんだとネギは目を点にした。男はそんなネギに構う事無く話を続ける。

 

「今はまだ解らないだろうが何れ解る。私の言う事の正しさを……な」

 

 突然、男の背後からオーロラのような物が現れ、それは男を飲み込んだ。そしてオーロラが消えると男はその場から消え去っていた。

 

「い、今のは……!?」

 

 その場に一人残されたネギは、先程目の当たりにした不可解な現象にただただ困惑するだけだった……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 一方その頃3-Aの教室では、生徒達がこれから行う身体測定の為着替えを行っていた。

 

「ネギ君ってからかうとホント面白いよねー」

「あの門矢先生も変わっているけど面白そうな人だよねー」

 

 自分達の教師を話のタネにしながら談笑する生徒達。その時……生徒の一人でバスケ部員の明石祐奈と佐々木まき絵は、友人である和泉亜子が自分達と少し離れ教室の隅っこで着替えている事に気付く。

 

「あれー亜子? そんな所で何しているの?」

「一緒に着替えようよー。もしかして恥ずかしがっているー?」

 

 すると亜子はクルリと祐奈達の方を向く。

 

「大丈夫だよ、すぐに行くね」

 

 亜子の返事を聞いた祐奈とまき絵はまたすぐに着替えはじめる。その時……亜子の腰の後ろから、オレンジ色の蛇の尾がひょっこりと顔を出した。

 

(いいねえ、ここは欲望がひしめき合っている。この中の誰かにメダルを入れれば……)

 

 尻尾はそのまま着替え中の3-Aの生徒達を見回す。そして……自分と同じように、皆の輪から外れて着替えを行う一人の女子生徒を見つける。

 

(見つけた……彼女に親になって貰おう)

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

放課後、学校の業務を一通り終えた士は光写真館に戻って来ていた。

 

「おーい、今帰ったぞー」

「よう、お帰り―」

 

 ふと、士は写真館の中を見回す、そこには夕食の準備を進めている栄次郎と、呑気にコーヒーを啜っているユウスケだけがいた。

 

「あれ? 夏海は?」

「この世界の事を調べると言って出掛けたよー」

「そっか」

 

 士はそのまま現像室に向かう、そして数分後……現像室から出てきてユウスケの座るテーブルの向かい側に座り、その上に先程現像した写真を並べていく。

 数十枚ある3-Aの生徒や麻帆良の風景を写した写真はすべてピンボケしていてちゃんと映っておらず、士は深く溜息をついた。

 

「相変わらずちゃんと撮れてねえな」

「ああ、この世界も俺の世界じゃないらしい……」

「うーん、私は前衛的でいいと思うんだけどねえ」

 

 士が撮った写真を、栄次郎は調理の片手間にいつものように士の撮った写真を褒める。彼は士の撮った写真を無条件で褒める数少ない人物である。

 その時、光写真館に来客を告げる鈴が鳴り響いた。

 

「なんだ? 来客か?」

「ごめんねー、ちょっと手が離せないから代わりに出てくれる?」

「めんどくせえなあ……」

 

 士はめんどくさそうにユウスケと共に正面玄関に向かう。するとそこには……。

 

「あれ? ここって喫茶店だった筈じゃ……」

「おっかしいなあ、こんな内装だっけ?」

 

3-A組の生徒である大河内アキラと明石祐奈が写真館の中を覗き込んでいた。

 

「大河内に……明石だっけか。お前ら買い食いか」

 

 士はしずなから渡されていた出席簿を見てアキラと祐奈の顔と名前を確認する。まだ赴任初日なので数人しか名前を憶えられていなかった。

 対して祐奈とアキラは士がここに居ることに驚いていた。

 

「あれ士先生? どうしてここに?」

「なんだ士? この子達と知り合いか?」

 

 ユウスケもまた、見知らぬ女の子達が士の事を知っていた事に驚いていた。

 すると奥で話を聞いていた栄次郎が顔を出してくる。

 

「士君のお友達? よかったらコーヒー出すよ」

「え? でも……」

「いいんですか? それじゃお邪魔しまーす!」

 

 栄次郎の好意を遠慮しようとしたアキラとは対照的に、祐奈は気にする素振りも見せずに写真館の奥に入って行く。

 

「祐奈……」

「気にするな、あのじいさんの趣味みたいなもんだ。それにお前達に聞きたい事とか沢山あるしな」

 

 

 

 数分後、奥に案内された祐奈とアキラは栄次郎が淹れてくれたコーヒーを啜り、出された手作りプリンに舌鼓を打ちながら、士達との話に花を添えていた。

 

「へー、じゃあ最近ここに移転してきたんだ。写真屋なんて珍しいねー」

「まあな」

 

 士は自分達の身の上を話しても信じてもらえない、あるいは混乱させると思い適当にはぐらかしていた。

 

「うちの担任のネギ……この世界では小学生が教師をやるのは普通の事なのか?」

「(この世界?)よくわからないけど普通じゃないと思いますよ。みんなはそんなに気にしていないみたいですけど」

「ふーん……」

 

 士はアキラから話を聞いて、とりあえずこの世界にはライダーや怪人にあたる存在は少なくとも世間一般には認知されていないだろうと判断した。

 

(ここまで呑気な世界も珍しいよな。だがそうなると俺がこの世界ですべきことって何なんだ?)

 

 士はこれまで旅してきた世界でしてきた事を思い返し、自分のやるべき事が解らず少し不安になる。その時……先程からずっと黙っていたユウスケが口を開いた。

 

「それじゃ……あれもこの辺に住んでいる生き物なのかい?」

「「アレ?」」

 

 アキラと祐奈はユウスケが向ける視線の方を向くそこには……。

 

「はい、モツ君とシチミちゃんもどうぞー」

「いただきますー」

「砂糖とミルクはありますかみゃー」

 

 なんかカエルっぽい生き物と猫っぽい生き物が、栄次郎が出したコーヒーに砂糖やミルクを入れて飲んでいた。

 

「何アレ……? ヌイグルミ?」

「この辺の生き物じゃないのかアレ?」

「いや、多分違うと思います。私達も知りませんし……」

 

 変な生き物二匹を見て明らかに困惑する士達。そんな中栄次郎だけは普段と変わらず夕食の準備を進めていた。

 

「モツ君とシチミちゃん、なんでもキバーラの知り合いらしいよ? 礼儀正しくていい子達だよー」

「貴方が士さんですかー。これ、つまらないものですがー」

 

 モツと呼ばれたカエルっぽい何かは、士の姿を見るや否や、どこから出したか解らない菓子折りを差し出してきた。

 

「……つまらない物を出すなよ」

 

 そう言いつつ士は菓子折りを受け取った。その箱には「芋長の芋羊羹」と書かれていた。

 

「どれ、私も一つー」

 

 そう言ってモツは自分用に購入しておいた芋羊羹をぱくっと丸のみした。そしてマ〇オがスーパーキ〇コ取った時のSEを出しながら二倍に巨大化した。

 

「……そう言えば夏海の奴遅いな」

「え? 村上さんがどうかしたの?」

 

 士達はとりあえずモツとシチミの存在を無視し強引に話題を変える。そして祐奈がどうしてここに自分のクラスメイトが帰ってくるのかと首を傾げた。

 

「そう言えばあいつ同じ名前だったな……」

 

 この写真館の住人である光夏海と、自分の受け持つクラスの生徒である村上夏海が同じ名前である事を思い出し、今度会ったときは夏みかん2号とでも名付けようと士は考え、一人でふっと笑っていた。

 

「夏海ちゃんはそこの栄次郎さんの孫だよ。そう言えばまだ帰って来てないな」

 

 祐奈の疑問に対しユウスケがすかさず補足する。するとアキラはある話を思い出し不安そうな顔になる。

 

「そう言えばさっき、美沙が桜通りで吸血鬼が出るって言ってたっけ……ここって桜通りと近いからもしかしたら……」

「吸血鬼? まさか……」

 

 ユウスケは咄嗟に、キバの世界を始めとした世界で遭遇した、人の命のエネルギーを吸う怪人達の事を思い出す。すると横で話を聞いていたシチミが、士の体をウネウネと這い上がりながら話し掛けてきた。

 

「士ちゃん、ここは男の子として夏海ちゃんを迎えに行ってあげた方がいいみゃー」

「なんでお前に指図されなきゃいけないんだよ、てか勝手に体に昇んな」

「あ、もしかして夏海って人って……士先生のコレ?」

 

 そう言って祐奈はニヤニヤしながら右手の小指を立てる。それを見た士はハッと鼻で笑った。

 

「ありえんな、夏みかんと俺が恋愛関係になるなど……」

「そーなの? お前ら結構いい雰囲気出してなかったか?」

 

 ユウスケが意外そうに眼を点にしながら士を見る。するとアキラが神妙な面持ちで士にある相談を持ちかけてくる。

 

「恋愛か……士先生、ちょっと相談してもいいですか?」

「なんだ? 恋の悩みか? 任せろ……この恋愛の達人が何でも解決してやる」

「いえ、そうじゃなくて……ちょっと友達のことで相談したい事があるんです」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「和泉の様子がおかしい?」

 

 数分後、アキラから話を聞いた士は、出席簿を開いて彼女の話の中に出てきた和泉亜子の顔を確認する。

 

「はい……亜子、先月サッカー部の先輩に告白してフラれたんです」

「大変だったよねー、亜子ってば大泣きして寮を飛び出しちゃってさ、皆で必死になって探したよねー」

「それでずっと落ち込んでいるとか?」

 

 ユウスケの質問にアキラは首を横に振る。

 

「いえ、それが……なんか様子が変わったというか、別人になっちゃったっていうか……」

「関西弁で一人称はウチだったのに、なんだか僕とか標準語使うようになったよね」

「ど、どうしましょう先生、こういうのネギ君には相談しにくいし高畑先生もなんだか最近忙しいらしくて全然姿を見せないし……もしかしたら失恋のショックで二重人格になっちゃったとか……!?」

 

 なんだか心配のしすぎで斜め上の妄想をし出すアキラ。一方ユウスケは話を聞いて、神妙な面持ちで士に耳打ちする。

 

(なあ士、もしかしてイマジンじゃ……)

 

 かつてユウスケはイマジンという人間に憑依する怪人に憑依され、説明しきれない程散々な目に遭っており警戒心を強めていた。そのユウスケの懸念に士も同意していた。

 

(その可能性はゼロじゃないな、少し調べてみるか)

「わかった、とりあえず……「きゃああああああ!!!」

 

 

 士がアキラ達に返答しようとした時、異変は起こった。外の方から女の子の悲鳴が聞こえ、間を置いてガラスが割れるような大きな音が響いたのである。

 

「ん!? なんだ今の悲鳴!?」

「夏海……!?」

 

 ふと、嫌な予感が湧いた士は光写真館の外へ飛び出した……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 それは数分前、夏海はこの世界の調査を終え、その途中で知り合い仲良くなった女の子に譲って貰った肉まんを抱えながら、写真館に帰る為日が沈み満月の光に照らされた桜通りを歩いていた。

 

「早く帰らないと、四葉ちゃんがくれた肉まんが冷めちゃいますね……」

 

 そう言って歩みを進める夏海、その時……桜通りの脇に並ぶ木々か風に揺られてザアアと音を立てる。そして夏海は背後から何か異様な気配がする事に気付く。

 

「……?」

 

 恐る恐る後ろを振り向く夏海、しかし彼女は視界にボロボロのローブを纏った金髪の少女を捕え、首に何かが刺さったと感じるとそのまま意識を失ってしまった……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 3年A組の生徒の一人、宮崎のどか。引っ込み心案で目を長い前髪で隠す彼女は、友人達と別れて一人で帰宅の路に付いていた。クラスメイトが吸血鬼が出ると噂していた桜通りを通って……。

 

「か、風強いですねー、ちょっと急ごうかな……」

 

 のどかは一人で帰る心細さを紛らわす為、軽く歌を歌いながら誰もいない筈の桜通りを歩く。その時……遥か前方に誰かが倒れている事に気付いた。

 

「はへ!? 誰か倒れている!!?」

 

 のどかはすぐさまその人物の元に駆け寄る、倒れている人物……ニット帽を被った女性は、肉まんが入った袋を握りしめながらうつ伏せに倒れていた。

 

「だ、大丈夫ですか!? しっかりしてください!」

 

 のどかは女性の体をゆする。しかし返事がないのでカバンから携帯電話を取出し救急車を呼ぼうとする。その時……彼女は背後から異様な気配を感じ、バッと後ろを振り向いた。

 彼女の視界には電灯の上に立つボロボロのローブを纏った金髪の少女が映っていた。

 

「27番宮崎のどかか……悪いけどお前の血も少し分けてもらうよ」

 

 ローブの少女はそう言ってバサッとローブを羽ばたかせてのどかに襲い掛かった。

 

「きゃああああああ!!?」

「まてー!!」

 

 その時、後方から一人の少年が杖に跨りながら常識ではありえない程のスピードで向かってきた。しかしのどかはそれが誰なのかを確認する間もなくきゅうっと言って気絶してしまった。

 

「僕の生徒に何をするんですかー!!?」

 

 少年はそのまま右手に光を収束させ、それをローブの少女に向かって解放した。光はそのままいくつもの光弾となって少女に襲い掛かる。

 

「もう気付いたか……」

 

 少女は冷静に自分の右手から液体入りの小さなビンを放る。ビンはそのまま先頭の光弾に当たり、そのまま破裂するように氷の壁になって残りの光弾を防ぎ、バリィィィィンと大きな音を立てて砕けた。

 

(僕の攻撃を防いだ!? この子はもしかして僕と同じ……!?)

 

 そして少年と少女はお互いの顔を見て、初めて相手が自分の顔見知りだという事に気付いた。

 

「君は……僕のクラスのエヴァンジェリンさん!?」

「やはりお前か……ネギ・スプリングフィールド」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 悲鳴がしたであろう場所に駆け付けた士は、そこで地面に付している夏海と自分の生徒であるのどか、そして杖を構えたネギとローブを纏ったエヴァを発見する。

 

「おいお前ら! こんな所で何をしている!!」

「士先生!!?」

「チッ、やかましくなってきたか……」

 

 士の姿を見るや否や、エヴァはいくつもの液体入りビンを放り投げて煙幕のようなものを出し、そのままその場から姿を消した。

 それを見た士とネギはまず倒れている二人の元にそれぞれ駆け寄った。

 

「おい夏海! しっかりしろ!」

「大丈夫です、のどかさんもその人も気絶しているだけのようです」

 

 この特異な状況下の中、やけに冷静なネギに違和感を覚える士。その時士の背後からユウスケとアキラと祐奈が、ネギの背後からは3-Aの生徒である神楽坂アスナと近衛木乃香が現れた。

 

「士! 夏海ちゃんは!?」

「何や今の音!?」

「宮崎さん……!? どうしてここに!?」

 

 するとネギは気絶していたのどかを木乃香に渡した。

 

「す、すみません皆さん! 僕は真犯人を追います! 先に帰って待っていてください! じゃあ!」

「ちょ! ネギ……!」

 

 アスナが止める間も無く、ネギは普通ではありえない程のスピードでこの場から走り去って行った。

 その様子を目の当たりにした士はただただ呆然としていた。

 

「何だ今の……ガキが出せるスピードじゃねえぞ」

「夏海ちゃん! しっかりしろ夏海ちゃん!」

「ん? んんん……? 士君? ユウスケ……?」

 

 ユウスケの必死の呼びかけが功を奏し、夏海は目を覚ました。それを見た士は心の底で安心すると、そのままネギが去って行った方向を見据える。

 

「ユウスケ、夏海を頼む。俺はネギを追う、色々と聞きたい事が出来た」

「解った、ここは任せろ」

 

 頷くユウスケを見た士は、そのまま光写真館の方へ駈け出した。それを見たアスナは何故か彼を呼び止めようとした。

 

「士先生! ちょ、ちょっと待って!」

「アスナ……」

 

 アキラはそんな彼女の様子を見て様子がおかしいと感じ、彼女に話し掛ける。

 

「アスナ、さっきのネギ君の足の速さは尋常じゃなかった……もしかして何か知っているの?」

「へ? あ、あのそれは……」

 

 アキラに指摘され明らかに動揺するアスナ。その背後では祐奈が何のこっちゃと頭を傾げていた。

 

 

そしてそんな彼女たちの様子を、物陰から息をひそめて眺める影が一つあった。

 

(……もうちょっと機を待たないとダメか……)

 

 その陰は右手に銀色に光るメダルを持ちながら、その場から誰にも気づかれない様に去って行った……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 士は一旦光写真館に戻ると、傍に停めてあった自分のバイク……マシンディケイダーに跨り、エンジンをふかして急発進した。そしてそのまま空を見上げると、ネギが杖に跨りながら、エヴァと光弾と氷を交えた激しい空中戦を繰り広げていた。

 

「なんだありゃ? 何の力で飛んでいるんだ?」

「アレは魔法の力で飛んでいるのですよ、いい意味でー」

 

 その時、士は初めて自分の肩に中心に水色のラインが入った某機動戦士の主人公が被っていたパイロットスーツのヘルメットを被ったモツがいることに気付いた。ちなみにマシンディケイダーのハンドル部分にはシチミがマフラーのように巻き付いていた。

 

「お前らいつの間に!?……魔法だと?」

 

 魔法……絵物語でよく使われる空想上の技術であり、実在する筈がない技術ではある。しかし士は上空で見た目が生身の子供達によって繰り広げられている常識を超えた戦いを見て、“大体”理解した。

 

「成程……大体分かった。ようするにここはライダーの代わりに魔法が存在する世界なんだな。んでネギは魔法使いだと」

「ええ、その程度の認識で十分かと、いい意味でー」

「で、お前らは何なんだ? 俺に接触してどうするつもりだ?」

 

 するとシチミが反対側の肩に乗り、士の疑問に答える。

 

「シチミ達はあるお方から士ちゃんをサポートするように言われているみゃ」

「サポート? 一体なんで?」

「それはまだ内緒だみゃー」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 空中で激しい魔法合戦を繰り広げるネギとエヴァ、そしてネギはエヴァをとある屋根の上まで追い詰めた。

 

「追い詰めましたよエヴァンジェリンさん……どうしてあんなことをしたんですか?」

 

 ネギはエヴァを刺激しないよう、なるべく優しい口調で彼女に話し掛ける。対してエヴァはそんな彼に対し、鼻で笑ってあしらった。

 

「こんな事で勝った気になるとは……父親とは大違いだな」

「え?」

 

 その時、エヴァのすぐ横に耳に機械のアンテナのようなものを装備した制服姿の少女が降り立つギはその人物に見覚えがあった。

 

「えっ!? 君はうちのクラスの……!?」

「紹介しよう……私のパートナーである“魔法使いの従者(ミニステル・マギ)の絡繰茶々丸だ」

 

 次の瞬間、茶々丸と呼ばれた少女は一気にネギとの距離を詰める。対してネギは慌てて魔法を放とうとするが、茶々丸にデコピンを喰らって詠唱を止められてしまった。

 

「あいた!……茶々丸さんがエヴァさんのパートナー!?」

「魔法使いとしてパートナーを選んでおくのは当然だろう? お前は誘き寄せられたんだよ」

 

 エヴァはそのまま茶々丸に目で合図する。対して茶々丸は目にも止まらぬスピードでネギの背後に回り込み、彼を左腕一本で羽交い絞めにする。その風貌からは想像できない腕力に、ネギはもがくことしかできなかった。

 

「うぐぐぐー!!!」

「ふふふ……ようやくこの日が来たか。お前がこの学園に来てから今日という日を待ちわびていたぞ。この日まで人間達の血を吸って魔力を蓄えて……お前の血を吸えば私はこの地獄から解放される!」

 

 エヴァは獣のように鋭く伸びた八重歯をギラつかせながらネギに近付いて行く。もうすぐ自分の願いが成就される……そう感じた彼女は、表情から自然と笑みを零していた。

 しかしその彼女の喜びは、突然現れたオーロラによって遮られる。

 

「ん?」

「え……?」

「マスター、正体不明のエネルギー反応を感知しました」

 

 そうエヴァに報告する茶々丸の視線の先には、消えていくオーロラの中から現れた士がいた。

 

「成程……つまりお前は血が欲しくて夏海を襲ったのか、あいつの血はオレンジジュースの味でもするのか?」

「門矢先生!?」

 

 先程自分に警告してきたコートの男と同じ方法で突然現れた士に困惑するネギ。一方エヴァと茶々丸は冷静に士に話し掛けた。

 

「なんだ貴様は? 私の食事の邪魔をするな!」

「そういう訳にはいくか。飯の最中に大騒ぎしやがって……お仕置きが必要らしいな」

 

 士は中心に赤いランプのような物が付いた白いバックルを取出し、腹部辺りに当てる、するとバックルからベルトが放出され士の腰に巻き付く。次に士は一枚のカードを取り出した。

 

「変身!」

 

 士はカードを一度裏返し、そのままバックルに挿入する。

 

[カメンライド]

 

そしてバックルを両手で挟むように押し込んで90度回転させる。

 

[ディケイド!]

 

すると彼の周りに9人の人影が現れ、それらすべてが同時に士に重なる。そして士はマゼンタ、黒、白というカラーリングの装甲を身に包み、顔の緑の複眼付きヘルメットに7枚のカードが差し込まれていく。

 

 この世界に“仮面ライダーディケイド”が現れた瞬間だった。

 

「な、なんだその姿は!?」

 

 エヴァは士が突然異形の戦士に変身したことに困惑する。それは茶々丸に捕まったままのネギも同じだった。

 

「士先生、貴方は一体……!?」

 

 ネギの質問に対し、士……ディケイドは彼と同じような質問をしてきた者達に対してしてきたお決まりのセリフを放った。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」

「仮面ライダー……? 何者だろうと私の邪魔はさせん!」

 

 そう言ってエヴァは懐から液体入りの瓶を取出し、ディケイドに向かって投げつけた。

 対してディケイドは右腰に付けていた銀色の四角い物体……ライドブッカーを銃型のガンモードに変形させ、引き金を引いて発射したエネルギー弾で放たれた瓶をすべて撃ち落とした。

 瓶は氷の霧となって爆散し、エヴァの姿を隠してしまう。しかし次の瞬間、霧の中からエヴァが飛び出し上空に飛び立つ。そして再び士に向かって瓶を投げた。

 

「同じことの繰り返しか、それともそれしかできないのか?」

 

 ディケイドは疑問を呟きながらライドブッカーを剣形態のソードモードに変形させ、降って来た瓶を弾き飛ばした。

 

「ふん! 貴様の相手などこれで十分だ!」

 

 上空を飛べる自分の方が圧倒的有利だと言わんばかりにエヴァは不敵な笑みを浮かべる。

しかしディケイドはエヴァから視線を逸らして、一直線に茶々丸の方に向かって行く。

 

「何だと!? あ!」

 

 その時、エヴァは茶々丸の足元が凍り付いて彼女の動きを封じていた。先程ディケイドが弾き飛ばした瓶の一つが、茶々丸の足元に落ちたのだ。

 

「茶々丸! 脱出しろ!」

「遅い!」

 

 茶々丸のパワーなら時間を掛けることなく氷を砕いてその場から動くことが出来ただろう、しかしディケイドがネギを救出するには十分な隙が出来ていた。

 

「うわっ!」

 

 ディケイドはそのまま茶々丸からネギを奪い返し、彼を米俵のように肩に抱えた。

 

「さあどうする? この先生は俺の手の内だぞ!」

「申し訳ございません、マスター……」

「チッ、退くぞ茶々丸」

 

 そう言ってエヴァと茶々丸は屋根から飛び降りた、ディケイドがその下を覗き込むとそこにはもう二人の姿は無かった。

 

「やれやれ、追い出せたか」

 

 ディケイドはネギを降ろすと変身を解き元の門矢士の姿に戻る。

 

「大丈夫か? まったく散々な目に遭ったな」

「う、う……うわーん!!」

 

 するとネギは目に涙を浮かべながら士にひしっと抱きついた。

 

「お、おい!? なんだよ!?」

「うわーん! こっ、こわっ、怖かったですー!」

「ええー……!? いや、それで俺にどうしろと……」

 

 士は自分の服を涙と鼻水でグチョグチョにするネギにただただ困惑するだけだった……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 数分後、腰からジェットのようなものを放出して飛んでいる茶々丸の肩に乗ったエヴァは、そのまま人気の無いビルの上に降り立った。

 

「何なんだあの男は……! 私の食事の邪魔をしおって……!」

「申し訳ございませんマスター……いかなる処罰でも……」

「もういい、瓶のストックも切れたし、次のチャンスを待……」

 

 そう言いかけた時、エヴァは自分の後頭部からチャリンとメダルの音がしたことに気付き、ビクンと動きを止める。

 

「マスター!!」

 

 前のめりに倒れるエヴァを茶々丸は受け止める。するとエヴァの背後からゾゾゾゾゾとミイラのような姿をした怪人が出てきた。そして怪人は全身に銀色のメダルをまんべんなく纏い、そのままオレンジ色のワニのような怪人に変化する。

 

『へえ、中々いいグリードが出来たじゃないか』

 

 すると物陰から一人の女子生徒が出てくる。その目はオレンジ色に怪しく輝いていた。

 

「和泉……亜子さん!?」

 

 茶々丸は彼女が自分のクラスメイトである和泉亜子だという事に気付く。そして同時にある違和感にも気づいた。

 

「微弱な魔力反応……もしや貴方は亜子さんではないのですか?」

『この憑代の事? 心が弱っていたから借りさせてもらっているよ』

 

 その風貌に似つかない少年のような声を出す亜子。茶々丸は目の前の人物が亜子の姿をした何かだと判断して警戒心を強める。

 

『落ち着いて、君と戦うつもりはないよ。僕は一刻も早くメダルを集めないといけないからね』

「メダル?」

 

 すると亜子とエヴァから出てきたワニの怪人は、背後にあった川に向かって駆けていき、そのまま飛び込んだ。

 ドボンという音がして茶々丸が川を覗き込むと、そこにはもう亜子と怪人の姿は無かった。

 

「一体……この世界に何が起こっているのでしょう?」

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

麻帆良学園の屋上……夜風が吹きすさぶその場所に、フェルト帽を被ったコート姿の男がいた。男は先程まで亜子と茶々丸がいた方角を見て、憎しみを込めて叫んだ。

 

「おのれディケイド……! 貴様のせいでこの世界も崩壊しようとしている! させん! させんぞ……!」

 

 その時、男の背後から光のオーロラが出現し、その中から4つの人影が現れ、さらに後ろから4つの人影が現れた。

 

「この世界で必ず貴様を仕留めてみせるぞ……! このライダー達を使ってな! はぁーっはっはっはっは!」

 

 夜の麻帆良に、コートの男……鳴滝の笑い声が高らかに響いていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで


 
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