No.538914

全てがエイプリルフールだったら良かったのにと彼女は言った

kouさん

いつもよりも長めです 人と人の絆ってなんでしょうと思って書いたとか、書かなかったとか良く分かりません。少なくとも、男性にはトラウマを残せそうです。

2013-02-02 04:50:13 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:387   閲覧ユーザー数:387

彼女の金切り声が今日も無事に日が昇った事を僕に知らせる。

彼女は、何時も通りに、あははと笑い出したかと思うと、今度は瞳を涙で濡らす。

 

理性のくびきを解かれた感情は、事始めに口を大きく開ける。

 

人はちっぽけな感情の器を持っている。

そのガラスの器の内容物はある時、溢れだしてしまう。

僕らは溢れた状態を狂気と呼んでいる。

 

液体が器から零れないように、偶にでいいから、内容物を減らさなくちゃいけないんだ。

減らし方はなんでもいい。

話にうんと言って頷いてあげるだけでいい。

ただ側にいてあげればいい。

その時に手を握って、僕がいるからと慰めてあげればいいんだ。

ただそれだけなんだ。

簡単なのに僕らは忙しいと自分に言い訳して、叫びに耳を傾けない。 

 

僕は彼女を抱きしめる。

零れた液体を自分の熱で気化させる為に。

暴れても、爪を立てられて血だらけになっても僕は気にしないよ。

 

凍えればブルブル震えるのは当然だよ。

この凍えから守ってくれる温もりが欲しいんだよね?

でも、人は怖いからつい牙を立てちゃうんだよね?

分かってるよ。

殴ったり蹴ったりなんかしないよ。

君を見せものなんかにもしないよ。

君はキミなんだって分かってるよ。

 怖がる必要なんて全くないんだよ。

 

嫉妬。侮蔑。暴力。悲哀。

彼女を取り巻く主要な人物は4人だった。

愛も友情も温もりも一切登場しなかった。

断片的に顔を出す暖かい感情は常に他人に向けられた。

自分よりも可哀想に見える人への共感だった。

人への思いやりだった。

虐げられて人への向けられる優しい眼差しだった。

子供、老人、小動物といった非力な存在へ差し出される手だった。

同情は上下を作ると決してしなかった。

対岸の火事にさえ、我先に駆けつけて鎮火を試みた。

弱者にのみ振り下ろされる権力の鎚を見る度に激怒していた。涙を流した。

本当にダメなヤツは助けられる。

でも、少しだけダメなヤツは絶対に救われない。

どんなことがあっても、善行をいくら行っても救われない人間がいるという不条理に日々怒りを募らせていた。

 

これらの焔が彼女の身を焦がし、空洞にしてしまったのかもしれない。

 

 

不思議なことに自分へは愛を向けなかった。

悲しいことに人は彼女へ愛を向けなかった。

変わった奴だと見下した。

一見普通なのに、よくみると何かがずれているからだ。

自分という堅牢な城を所持する彼女を変な奴と見做すことで不安を雪ぎたかったからだ。

少数派はいつだって多数派の餌食になる。

彼女が理解者になるばかりで、彼女の理解者はいなかった。

 

彼女は辺りを見回すと辺りは他人しかいなかった。

彼女は自分のお腹を擦ると中身が空だと気付いた。

 

人の知性は2つに分類できる。

自分をだますだけの嘘を付ける賢さ。

自分の嘘にだまされるだけの愚かさ。

この2つが失われた時、人は気付く。

暗黒の島に1人で佇んでいるのだと。

 

暗黒の島は本当に恐ろしかった。

 

自身の空白を埋めようとした彼女は好きでもない人間に自分を預けた。

彼女の城は瞬く間に音を立てて崩れていった。

その音は以降彼女の耳を離れることはなかった。

 

女はカラスみたいに黒で身を固めた奴がいいんだ。

その女は髪は墨のように黒く、直線みたいに膝まですっと伸びていること。

その女は眼光は鋭く、先を見据え、その力強い視線は線の細いフレームをしたメガネに覆われていること。

その女は体を包む服の色は原色よりも黒あるいは寒色を好み、潔癖症であること。

こういう女は常に力んでいるから壊れやすい。

力を加えればガラスみたいに砕け散る。

心のガラスが割れる瞬間を見るためにだけ最初優しくするんだ。

俺はガラスにひびが入る瞬間に響くあの音が聞きたいんだよ。

女は壊すためにいるんだよ。 

 

男はそういって彼女を捨てた。

彼女は蒸発した父の言葉を思い出した。

女は俺を飾るアクセサリーなんだ。

祖母に刺された祖父の言葉を思い出した。 

俺はこの婆が恨めしそうに俺を睨むからこの杖で何度も叩くんだ。

杖が折れるまで、あいつの悲鳴が、血の色が好きだから叩くんだ。

 

彼女は膨れ上がったお腹を刺した。

何度も刺した。

両の腕は赤黒く染まっていた。

自分を貫く赤黒い抜き身の刃はねじくれていた。

何度洗っても血の赤さだけはとれなかった。

彼女はまた空っぽになってしまった。

自分の穢れを見せびらかすために血だらけのお腹に手を当てつつ、トイレを目指した。

彼女は無事にトイレにつくと意識を失った。

別の男に見つかって彼女は一命を取り留めた。

 

意識を取り戻すと彼女は病室にいた。

彼女のベットの近くに置かれている丸椅子で見ず知らずの男が船をこいでいる。

彼女は彼をケイロンとなずけた。

 

今までが悪夢であっても、悪夢がこれからも続くとは限らないんだね。 


 
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