No.538278

現代に生きる恋姫たち 目指すは恋姫同窓会 愛紗の前編

狭乃 狼さん

現代恋姫、愛紗編です。

今回は前・中・後の三編に分ける予定。

そして、中編までは、愛紗ファンの皆様がお怒りにならないことを祈りたいです。

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2013-01-31 14:37:07 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5655   閲覧ユーザー数:4665

 幼い頃、といっても小学生から中学生にかけての頃だが、私にはどうしても好きになれない男子が居た。

 別に、彼自身に何か悪いところがあったわけではない。彼自身はいたって普通な、どこにでも居る少年だった。勉強もスポーツも特に秀でても劣っても居ない。容姿もまた、ごく一般的な日本人少年だ。性格も別段悪いわけではなく、人当たりはどちらかと言えば良いほうだったろう。

 なのに、私は彼の顔を見るたび、何とも言えない嫌悪感に支配された。まるで、彼が彼であることそのものを認めたくない、とでも言わんばかりに。

 だからといって、彼のことを自分からどうするということは無かった。彼のほうも私のことはただのクラスメイト程度にしか認識して居なかっただろうし、私のほうもそれとほぼ同じ程度の認識で小学校時代は過ごし続けた。

 それが劇的に変わったのは、中学校に上がってからだった。

 誰が言い出したのかは分からない。始めだしたのも誰だったか、それも定かじゃない。けど、それを私たちは始めてしまった。

 

 “いじめ”。

 

 彼自身に直接何かをする者。彼に隠れて何かをする者。遠巻きにあざ笑う者。見て見ぬ振りをする者。それら四者に分かれて、私たちは彼のことをからかい、嘲り、そしていびりぬいた。

 私は先の四者の中では、見て見ぬ振りをするグループに入っていた。確かに、小学校で始めて顔を合わせて以降、私は彼のことが嫌いだった。けれど、他の者たちのように直接何かをしようとまでは思うことなく、おそらくはせめてのも良心が働いたのかも知れない。

 ……いや、それは言い分け、だな。

 いじめに悩み苦しむ彼のことを毎日見ながらも、結局は周囲と同調し何もしなかったこと。それは、私のこの先の人生、そのすべてに架かり続ける、一生の罪だ。

 結局、彼に対するソレは、私たちが中学を卒業するまで続いた。彼は卒業後、遠くの全寮制の進学校に進み、それ以来、顔を合わせるどころか、その名前すらも聞くことは無かった。

 私は地元の高校に進み、それまで同様、ごく普通の日々を送り続けた。そして、高校に入って一年目のある日、私は思い出した。

 『三国志』。

 ある日の学校帰りに、時間つぶしにと友人と寄った漫画喫茶。そこでその友人に薦められ初めて読んだソレは、アニメとかにもなったことのある、史実を元に少し捻った内容となっているもの。それでも、史実には基本沿っている内容には違いが無かったわけだが、私はソレを読んでいくうち、どうにも拭いきれない違和感に支配されていった。

 それ以降、暇を見ては三国志の原典、つまり、正しい歴史をつぶさに調べた私は、さらなる違和感どころか、確信めいたものまでその心に宿していた。

 

 -私の知る歴史と、この世界の歴史が、あまりにも違いすぎる-

 

 “私の知る歴史”。

 そう。私は知っていた。いや、思い出していた。そう、かつてこの世界に生を受けるその前、いわゆる前世において、私こと『関長愛紗(せきながあいしゃ)』は、『関羽雲長』という名でかの時代、かの世界にその生を得ていたことを。

 まあ、さすがに誰かに話せるような内容でもないので、そのことはしばらく、私の胸の中にだけしまっておいた。あの頃の仲間たち、姉と慕った桃香さま、手を焼いた可愛い妹鈴々、他の多くの蜀の仲間たちに、また、今生で会える日は来るだろうかと。

 そして。 

 あの方と、この私が刃とその全てを捧げ、そして寵愛を受けた愛しいあの方、ご主人様、『北郷一刀』さまに、この、あの方が居たとおっしゃられた正史の世界で、いつか出会える日が来れば良いなと。そんな、埒もつかない、淡い期待とともに。

 

 

 

 

 けれど。

 私には、それは許されないことだと、私はある日、思い知らされた。それは、前世の記憶を思い出してしばらくした日。部屋の掃除のさなか、ふと目に留まった中学の卒業アルバムを流し見していた私は、そのアルバムの中に映る一人の人物の写真に、釘付けにされていた。

 それは、かつて私もその一端に関与した、クラスメイト全員から迫害を受けていた、件の少年。

 

 「……なぜ……どう、し、て……」

 

 離れなかった。時間にして、二時間以上は、写真の中の彼の、そのぎこちない笑顔を見つめていた私は、その、とんでもない事実に今頃になって気がつき、自己嫌悪の只中に叩き落された。

 

 「……ごしゅ、じん、さま……」

 

 そう。

 かつての記憶を取り戻した今なら、はっきりと分かる。その彼は、子供の頃からあれほど嫌悪感を抱いていた彼は、『北郷一登』というかつてのクラスメイトは、私が愛して已まなかった人、ご主人様、北郷一刀さまだったと。 

 容姿だけを見ればまったく違う。けれど、あの頃聞いていた声を、あの頃見ていた目を、あの頃感じていた雰囲気を、思い出せば思い出すほどに、私の中でそれは確信となっていく。

 彼に対するあれほどの嫌悪感の理由、それは、この私の中にある前世の記憶、その中のご主人様の思い出と、この現実での彼の全てが、重なるようで重ならない、そのもどかしさのようなものが無意識に出ていたのだったと、私はこのとき悟ることができていた。

 そしていつしか、私の心は自分に対する怒りと情けなさに苛まれていき、気がつけば私は、その、彼の写真の写ったページに、大粒の、悔恨の涙を流し続けていたのだ……。

 

 それから三年。

 高校卒業後、地元を離れて上京した私は、大学の二回生になっていた。そのキャンパスでは中学時代のクラスメイト数人と再会し、今ではよく連れ立って遊ぶことが多い。彼らの顔を見るたび、かつてした過去の罪、ご主人様、一刀さまに対する罪悪感が私の胸を締め付けるが、それは私の、私自身に対する、自己満足な“罰”である。

 けれど、そんな想いもまた、自分の身勝手な思い込みでしかなかったと、私は痛烈に思い知らされる。

 その年のクリスマス。

 いつもの皆とグループで過ごし、ちょうど、時刻は昼に差し掛かったとき。都内にある某電気街を歩いていた私たちは、そろそろ昼食を採ろうとして、どこか適当な店は無いものかと探していた。そんな時、グループの一人が、その店に気がついた。

 

 「あ、あそこに喫茶店があるぜ」

 「クリスマスだから何処も満員かと思ったけど、あそこはどうやら空いてるっぽいよー」

 「あは。あたしらラッキーだねー。ねー。あんたもあそこでいいでしょー?」

 「あ、ああ。構わない。皆に任せるよ……クリスマス、か。(……“皆”も今頃、この雪の降る下、それぞれにクリスマスを楽しんでいるのだろうか……ご主人様……貴方は今、一体何処に……)」

 「おーい!なにぼさっとしてんだよー。はやくしろよなー」

 「そうだよー。早くおいでよー、愛紗ー」

 「あ、ああ、分かったー!」

 

 止めておくべきだった。その店を選ぶのは、是が非でも。

 けれど、未来のことなど読めもしない、普通な人間である私には、そのとき、その先に起こる出来事を知る術など無く。私は、店の扉を開いて入っていく友人たちの跡に続き、その、扉を潜ってしまった。

 「あ、すいませーん。今日は当店、終日貸切ですー」

 「えー?うっそー」

 「なんだよー、せっかく開いてると思ったのによー」

 「?いったいどうし」

 

 先に店舗の中へと入った友人たちが、どうやら店員らしいその青年の言葉に、落胆の声をそれぞれに漏らす。どうやら、この店は今日は休み……というより、貸切中だったようだ。落ち込む皆の背中越しに見えたのは、およそ十人くらいの男女の姿。

 そして、その一同の姿を姿を捉えた私は、目と口をこれ以上無いぐらいに開いて、驚愕の声を上げていた。

 

 「なっ?!お、お前たち……っ!」

 「はわっ!?……あ、あ、あい」

 「あわわ」

 「……な?!おぬし、まさか愛紗、か……?」

 「え……?あい、しゃ……?」

 店の中に居たその一団から、最後に入った私に向けられる驚愕の視線と、声。そして、その最後に聞こえた声の主の顔を見た瞬間、私の中の時が一瞬止まった。

 

 「……ご、しゅじんさ、ま……」

 

 前世の仲間たち、そして、曹操どのらを始めとした、かつての知己たちに混じり、彼はそこにいた。幼い頃の雰囲気をそのまま残した容貌で、私を、私たちを、唖然とした表情で見つめ、やがて、その顔をあからさまに青ざめさせていく。 

 おそらく、彼は気づいたのだろう。

 ここにいる、私を含めた突然の来訪者たちが、過去、自分を散々に虐めた同級生たちだということに。 そして、額から冷や汗を流し、怪訝そうに自分を見つめるあの世界の仲間たちの視線の集まる中、その体を小刻みに震わせ始めた彼、ご主人様、北郷一刀さまこと、北郷一登の目を、私はもう、まともには見れていなかった。

 

 私にとって、この世の人生で一番長い、苦悩の時間の始まりであった……。

 

 ~つづく~

 

 

 

 なんかね。

 

 愛紗ファンには申し訳ないなー、という感じの、現代恋姫愛紗編、その前編でした。

 

 そうとは知らず、愛紗は小学校、中学校時代の、一刀こと一登の同級生だったわけで。自覚の無いまま彼のことを意識し、魂の奥底に眠る前世の記憶との相違、それが彼女を無意識に困惑させ、結果として愛紗を一登から遠ざけることにことになったばかりか、いじめの片棒を担ぐような状況にしてしまっていた。

 

 そんな感じの話で、一刀編を書いているときからずっと構想していました。

 

 さて、次回はかっての同級生たちによる一刀いじりに始まる一刀の苦悩と、合流済みの恋姫たちと、愛紗との対立・・・という展開になります。

 

 愛紗編はちょっとだけ長く、三部に渡ってお送りしたいと思ってますので、次回、中編での展開、おまちくださいませ。

 

 ところで一刀なんですが、彼のことを今後、『一刀』で表記する方で行くべきか、『一登』の方の表記で行くべきか、そこでちょっと悩んでます。

 

 というわけで、お話の感想とともに、皆様のご意見、お伺いさせていただきたいと思ってます。

 

 ではまた。


 
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