No.537589

cross saber 第4話

九日 一さん

こんにちは、QPです。

不規則な投稿になってしまい申し上げありません。


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2013-01-29 18:40:56 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:229   閲覧ユーザー数:229

 

 

 

 

 

 

 

 

第4話〜いきなりですが…〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【side イサク】

っつ! やばい。 このままじゃ殺られる!!

 

イサクは岩石地帯を疾走していた。 ゴツゴツした岩場を強く踏み切って目標へと急ぐ。

 

足場がだんだん安定してくると、やがて少し先の平坦な場所に、いくつかの人影が見えてきた。

 

1、2、3……12人! ってことは…。

 

今にも爆発しそうな肺と、疲労で折れてしまいそうな足にムチを打ち、地面が焦げる勢いで足を回転させる。

 

「間に合うか…!?」

 

ふとよぎった不安とは対象的に、強く噛みしめた唇の両端が自然にキュッと上がった。

 

恐怖する前に俺がすべきことは自分に対する挑戦だ。 挑戦の精神こそが最大の力を生む。

 

絶対に間に合わせる!!

 

姿勢をさらに低くして、できる限り加速した。

 

「風にでもなってやる! 限界突破だ!!!」

 

イサクはそのままの速度でターゲットに突っ込んだ。 ブレーキをかけた時の衝撃で大小様々な石が混じった巨大な砂埃が起こり、そこに立っていた人影を飲み込んだ。 だが、一番の危険人物はそれを見越していたかのように横によけていたようだ。 背後から気配を感じる。

 

イサクは目の前の黄土色の煙の中でゴホゴホと咳き込んでいる人には目もくれず、禍々しい殺気を放つ背後の彼女を見上げた。

 

「…セーフ…ですか?」

 

腕を組んだ彼女…マーシャが、ただ貼り付けただけの笑顔でイサクを見下ろして言った。

 

「ア・ウ・ト・よ♡」

 

ーそのハートマークは何ですか?

 

そう聞こうとした時には、イサクの身体は天高く空を舞っていた。

 

 

 

 

 

 

【side ハリル】

「ゲホッ。 ゴホッ。 うーー…」

 

やっとの事で治まってきた土埃から必死に抜け出してきたハリルが見たのは、拳を天に向かって突き上げているマーシャだった。 きっと錯覚なのだろうが、彼女の長い金色の髪が逆立っているような気がした。

 

わ〜。 マーシャが黒い…。

 

空を見上げてみるが、そこにイサクの姿は見当たらなかった。

 

結構飛ばされたみたい…。 イサク君大丈夫かな…。

 

半分は無事だとは思っているが、残りは本気で心配している。

 

ハリルはブラックマーシャに恐る恐る近寄って話しかけた。

 

「マーシャ。 やりすぎなんじゃ…」

 

「ダメよ。 いくらハリルちゃんがあいつを好きでも…いや、だからこそ、重要な待ち合わせに『寝坊して遅刻しました』なんてレベルの男のままじゃ許せない」

 

「わっ!! こんなとこで言わないでよ」

 

ハリルは足をばたつかせて慌てて周りを見回す。 幸いなことに、皆はまだ煙の中だ。 少し離れたところに、日課である瞑想をしていてそれに巻き込まれなかったレイヴンがいるが、あの距離なら聞こえていないはず。

 

ハリルはホッと息を吐き出すとすぐに、精一杯マーシャを睨んでみた。 だが「目を凝らしてる」ようにしか見えないと言われる威嚇に効果があるはずもなく、彼女は逆に吹き出してしまった。

 

っていうか、その前から笑ってなかった?

 

「ハリルちゃん、可愛すぎ」

 

「む〜…」

 

今度は頬をできる限り膨らませてみたが、やはり逆効果だった。 彼女は体を折って必死に笑いを堪えている。

 

馬鹿にされている気がしてならなかったけど、マーシャの機嫌はそこまで悪くなさそうだ。 とりあえず一安心。

 

そうこうしている間に、メンバー全員が煙から脱出してきた。 本来なら一人の女として気遣わなければならないところだが、ハリルはどうしても笑いを堪えられなくなってしまった。 皆、特にカイトの顔がおかしなことになっている。

 

「あははっ。 カイト、顔がすっごい黒くなってるよ」

 

服も含めて、その身は真っ黒に染まっていた。 自慢の髪さえ輝きを全く放っていない。

 

当の本人は一つため息をつくと、笑い続けるハリルをジトっとした目で見た。 なぜかその目が一瞬開かれる。 そしてすぐに、彼は何かを堪えたような表情になると、変に神妙な雰囲気を繕って言った。

 

「うん…。 あー…。 言いにくいんだけどね、おそらく君のも負けてないよ」

 

その言葉に促されたかのように、カイトの周りにいた人たちも笑い始めた。

 

ハリルが理解ができず首を傾げていると、マーシャが震える声でその理由を教えてくれた。

 

「い、今のハリルちゃん、一言で言い表すなら…ハリエモンだよ」

 

マーシャが両手の指を三本ずつ立て、自分の頬へ持っていった。 そう、まるで…どこぞのキャラクターのヒゲのように…。

 

瞬間、ハリルの思考と身体がピタリと止まった。

 

視線が何度もマーシャとカイトを行ったり来たりする。 恥ずかしさの大波は少しの静けさのあとに、すぐさまハリルを襲った。

 

「にゃーーーっ!!!」

 

自分でも驚くくらいの奇声をあげてその場にしゃがみ込む。 さらに、聞こえてくる何種類もの笑い声が感情に拍車をかけた。

 

「うっ…。 えっ…。 お嫁さんにいけなくなっちゃう」

 

恥ずかしさの限界で、訳もなく涙が流れてくる。

 

そんなハリルをいたわるように、マーシャが側にやって来て抱きしめてくれた。 大きな胸にハリルの小さな顔が沈み込む。

 

「大丈夫よ、ハリルちゃん。 きっと…妹か娘にしてくれる人なら、探さなくともすぐに見つかるわ」

 

あの…。 笑っているのが凄く伝わってくるんだけど…。

 

そして、怒り以外何も生まないマーシャの言葉がハリルにトドメをさした。

 

「胸は小さくても、ココロは大きく!」

 

「マーシャのバカッ!!!」

 

もはやハリルにとって嫌味でしかない豊満な胸と言葉を払って、皆がいる方向と正反対の方向へ駆け出した。 一面の岩石地帯にポツリとある水源地へ全速力で向かう。

 

今ではあのオアシスのような水だけが私の味方だ。

 

ハリルが息を切らして顔からその水に突っ込もうとした時、マーシャの大声が響いた。

 

「そこは危ないよぉー!!!」

 

「へ?」

 

“危険”というワードが心配性のハリルの動きを止めた。 少しだけ後退して水面をしげしげと見つめてみるが、それは美しく透き通っていて、別段変わったところはない。

 

だが、マーシャの制止の理由は次の瞬間に舞い降りてきた。 ーいや、正確に言うならば……ものすごい重力加速度を帯びて落ちてきた。

 

バッシャーンと豪快な音を立てて、目の前のオアシスが弾けた。 大量の水が天に向かって高々と打ち上げられる。

 

それが吸い寄せられるように元の位置に落下し、刹那の霧の嵐がだんだんと薄れてくると、落下物のシルエットがうっすらと見え始めた。

 

それは紛れもなく、イサクだった。

 

水の中で仰向けになり、カエルのようにピクピクと動いている。

 

私がイサク君の身を案じるより先に、マーシャのアッパーの正確さに感嘆してしまってたのは、ココだけの秘密です。

 

 

 

 

 

 

【side カイト】

さて、皆さんこんにちは。 ラバールのエースことカイトです。

 

いきなりの話の落差に驚いた方も多いでしょう。 が、決して遠足などではありません。

 

……え? ハリルとマーシャがお菓子をほおばりながら歩いてるって? …きっと見間違いです。 指摘すると僕がただでは済まないので…。

 

っと。 話がそれましたが、今回僕たちがこうして集まり遂行する任務は、言わずもがな“亜獣討伐”です。

 

ではなぜ、こんなにも皆が落ち着いて(…ある意味はしゃいで)いるのか。

 

慣れた…という言い方は適切ではないと思いますが、最初の任務から二週間で亜獣と合間見えた回数はすでに三回に昇っていて、とにかくいちいち気落ちしていたのではいられない状況になってしまったのです。

 

それに、実際には僕たちの都市も周りの村も少なくとも被害を受けており、また、任務を重ねるうちに仲間も幾度も傷つけられました。

 

守るためにこの刃があるのなら、僕は…僕たちは、亜獣から力なき人を守護せずにどうする。

 

僕たちは、二度目の任務が終わった時に戦い続ける覚悟をしました。

 

つまり、今までは任務と言う一種の“強制”をうけて戦っていましたが、今僕たちは守護という目的のもと、“自分の意志”で剣を振るっているのです。 そこには誇りがあり、誓いがあり、同時に迷いも存在します。 だからこそ、“殺生”という行為の中にあっても自分でいることができるんです。

 

…あ。 どうやら目的地についたようですね。 いつの間にか誰一人として口を開くものがいなくなり、ピリピリとした空気が漂いつつある。

 

皆の思いも同じ。

 

理由も決意もなにひとつなく剣を手にするものがこの中にいないことは、僕にははっきりと分かります。

 

だから僕は皆のことが大好きだし、守りたいと思います。

 

故に僕はこの剣を抜く。

 

故郷の、世界の、仲間のために。

 

ーーそして悲しき獣たちのために…。

 

 

 


 
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