No.531903

恋姫†異聞譚 EP.1

狭乃 狼さん

はいどうも。

狼印の異色な恋姫三国志、恋姫†異聞譚の続編です。

各勢力の配置弄り、その第一弾が始まります。

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2013-01-14 22:20:34 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5054   閲覧ユーザー数:4117

 

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 恋姫†異聞譚 EP.1

 

 ……………………………

 

 

 「いやあ、まさか本当に、こんなにたくさんの銭になるとは。ぼおるぺんが貴重なのは当然としても、一刀の兄ぃの交渉術もなかなかのもんでしたな」

 「俺は別に大したことは言ってないですよ。ただ単に、アレの価値を説いて見せただけですって。それと、相手の商人さんが誠実な、筋金入りの商人だったってだけで」

 「ご謙遜、ご謙遜。実際、兄ぃの手練手管は大したもんですよ。あれならどこぞの軍師だって出来ますって」

 「……それはいくらなんでも買いかぶりすぎですよ」

 

 新野の町の通りを歩きつつ、上機嫌な表情で話している四人の男性たちの姿がそこにあった。それはほんの少し前、この新野の町に着いたばかりの一刀、波才、程遠志、鄧茂の四人である。そんな彼らの手には、つい今しがた手に入れたばかりの大きな皮袋が三つほど抱えられている。中身はそれら一杯に詰められた、大量の銭。

 一刀がこの世界で目覚めたとき、何故か着ていた彼の母校である聖フランチェスカ学園の制服、そのポケットに入っていたボールペンとメモ帳、それらをこの新野の町の商人に売って得ることに成功した、その代金であった。

 

 「まあとりあえず、この銭で買えるだけの食料を買い付けましょう。問題は運搬ですけど、途中で誰かに奪われたりとかしないように、護衛の為の傭兵か何かを雇わないとですね」

 「確かに。んじゃまあ、まずは市にでも」

 

 と。一刀たちが新野の町の市を目指して歩き出そうとした時だった。

 

 「おい兄ちゃんら。随分羽振りが良さそうだな」

 「あ?なんだお前ら」

 

 数人からなる、どこをどう見ても悪漢にしか見えない男たちが、彼らをぐるりと取り囲んできた。手に手に剣や手斧を持ちニヤニヤと笑うその男たちの狙いは、確実に、一刀らの持っている大量の銭であろうであることが一目瞭然であった。

 

 「……真昼間の、それも群集の目のある町中で強盗、か。随分大胆な連中だな」

 「へっ。町中だろうがなんだろうが関係ねえよ。どうせここで何しようが、あとで役人に袖の下でも渡せばそれで何もお咎め無しになるしよ。つーわけだ。命が惜しけりゃその袋、そのままそこに全部置いていきな」

 「……大人しく従うと思うかい?」

 「なら、痛い目を見るだけだ。オイお前ら!やっちまえ!」

 

 太陽が中天に輝く時刻の昼間、町の通りで派手な大立ち回りが開始された。一刀は体術を、波才は剣を、程遠志は小柄な体を、鄧茂はその巨躯を。それぞれに存分に活かして、この、大胆極まりない強盗たちを相手に、四対二十というハンデをものともせずに抗して行く。

 

 「ちっ!こいつら意外にやりやがる……っ!」

 「けっ!手前らみたいな三下に遅れを取る波才様じゃあないんだよ!」

 「一刀の兄ぃ!後はそこの大将らしき奴だけですぜ!」

 「あ、あとはもう、ぜ、ぜんぶ、つ、潰したんだな」

 「と言うことなんだけど……どうする?まだ諦めないかい?」

 

 立ち回りが始まって三十分も経った頃だろうか。既に、強盗たちはそのほとんどが伸びており、まともに立っているのは頭目らしき男ただ一人となっていた。

 

 「どいつもこいつも使えねえ……っ!だがな、結局は俺様の勝ちよ。ほれ見な」

 『?』

 

 男の悔し紛れにも聞こえるその台詞に、一刀たちがその指差す方を見やると、彼らの居るその場所へと向かってくる、兵装姿の一団が居た。

 

 「この町の兵士たちか?けど、それならそれで、お前さんには不利だろうがよ。悪いのは俺らを襲ってきた」

 「そう思うかい?けけけ。……さっき言ったろうが。この町の役人にはちゃんと、鼻薬を嗅がせてあるんだよ。あれはあらかじめ、俺らを援ける為に用意させておいた、その息のかかった連中さあ!」

 「なん……だって?」

 「ちょっ!ど、どうすんだよアニキ!あの数の兵士相手じゃあ、俺たちなんかなんにも」

 「馬鹿野郎!こんな事で諦めんじゃねえ!ここで俺らがどうにかなっちまったら、邑に居るガキどもがみんな飢えて死んじまうんだぞ!」

 

 男の台詞に狼狽した程遠志が波才にすがりしがみ付く。そんな彼を叱咤する波才ではあったが、彼自身も状況の不利さを良く理解していた。それは無口な鄧茂も同じらしく、表情こそ変わることは無いものの、明らかにその巨大な体を震わせていた。

 そして一刀もまた、絶望がその自らの体を支配して行くのを感じ取っていた。漢王朝が既に滅び、混沌にいっそうの拍車のかかっているこの世界は、これほどまでに弱者を虐げる世の中に成り果ててしまっているのかと。弱きを挫き強きを援ける、そんな腐り果てた者達が幅を利かせる世界なのかと。

 そんな絶望とともに、彼の胸中には、何時しか激しい怒りが込み上げて来ていた。

 

 「……このまま終ってたまるかよ……っ。なんとしてでも、この窮地を脱してやる!たとえ、この町の兵士全部を相手にすることになっても……っ!」

 

 そんな決意の火をその胸に(とも)し、一刀は向かい来る兵士の一団に対して、必死の形相で構えを取る。だが、その一団がその場に到達し、その先頭に立つ人物の姿をその場の全ての者が確認したとき、絶望の悲鳴を実際に上げたのは、一刀達ではなかった。

 

 「……なっ!?だ、誰だ、お前は?!いつもの警備の奴はどうした?!」

 『……え?』

 「……俺は、この町の新しい警備隊隊長としての任を、県令閣下より昨日拝命した者だ。収賄の罪によって斬首された前任に代わり、今日からこの陳叔至が町の治安を預からせてもらっている」

 「な、ななっ……!」

 

 強盗団を率いていた男は、一瞬にしてその顔を狂喜から絶望へと変化させた。それは無理からぬ事。何しろ、男がこれまで強気に、時と場所を選ばず事を為せていたのは、この新野の町の警備を統括していた役人を、銭と色で自らの内に取り込んで居たからである。

 実際、二年前に県令が今の県令に新しく変わったその時にも、その役人は口八丁手八丁で、新県令からの収賄に関する追及の手を上手くかわし、その後もそれまで通り自分たちを影から優遇させて来ていた。だからこそ、男は今日も安心して、強盗を白昼堂々町中で行った。万が一の時には、その役人の手が伸びた兵士たちが援けに入る事、それも織り込み済みで。

 しかし、現実はそう甘くは無かった。

 

 「……貴様らに鼻薬を嗅がされていた役人は、これまであの手この手で県令閣下の追及をかわして来たが、昨晩、この俺自身が掴んだ証拠を突きつけることで観念し、今朝、刑場の露と消えた。そして、お前たちの事も全て、その役人から話を聞きだせてある。潔く縛につけ!そして、かの者と同じ末路へと旅立つが良い!」

 「くっ……そったれ……っ!だからって、はいそうですかと大人しくするかよ!」

 

 この手の手合いの諦めの悪さは、何時の時代、何処の世界でも同じなようである。男は最期の足掻きとばかりに、警備隊の兵士たちの先頭に立つ陳到へと、無謀にも剣を構えて立ち向かった。

 

 「……逃げようとしないだけ、その気概は賞賛に値する。……相手の力量が読めれば、もっと良かったが」

 

 奇声を上げながら自らに向かって走って来る男をそう評しつつ、陳到はその腰の剣を抜くことも無く男に向かって一歩を踏み出し、そして。

 

 「……ふっ!」

 「がっ!」

 

 振り下ろされた男の剣を、まるで柳が揺れるかのような動きでかわし、そのすれ違いざま、男の襟首に手刀で一撃を入れた。その一撃により、男はあっけなくその場に倒れ臥し、気絶。陳到が連れていた兵士たちにより、当たりに倒れていた仲間共々縄を掛けられたのだった。

 

 「すっげえ……この兄さん、なんてえ手練(てだれ)だ……」

 「うん……強い、この人。これが、三国志では趙雲に次ぐと言われた、陳到叔至……」

 「……おい。そこの白い服の。なんで、俺の名を知ってる?さっきは姓と字しか名乗って居ないはずだが?」

 「あ、あー、いや、それは」

 「……それに今、三国志、って言ったか?この時代でそのタイトルを口に出せるってことは」

 「っ!?ちょ、ちょっと待ってください!貴方今、なんて」

 「……これはちょいと、詳しく話を聞く必要があるな。この件の事情聴取もある。お前たち、名は?」

 「お、俺は波才ともうしやす!こっちのが程遠志、でかいのが鄧茂。でもってこの兄ちゃんが、北郷一刀殿で」

 「……北郷一刀。姓が北郷で、名が一刀、でいいか?」

 「……はい」

 「分かった。北郷。それから波才に程遠志、鄧茂。お前たち、すまないが政庁まで付き合ってくれ。まずはこの一件の事情聴取に。それから北郷、お前さんはそれとは別に、俺に話を聞かせてくれ」

 「分かりました。あ、一つ、先にお願いしても良いですか?」

 「なんだ?」

 「この、俺たちが持っている銭、これを買えるだけの食料にして、波才さんたちの邑に届ける手筈をして欲しいんです。飢餓で、今も邑の人たちが苦しんでいるそうですから」

 「分かった。それぐらいはお安い御用だ。……しかし飢餓、か。少なくとも、新野の県の中では聞いたことも無いが……その場所は?」

 「南陽とのほぼ境になりやす。というか、俺らの邑は南陽側にありますが」

 「……南陽、ね。こりゃまた、ひと悶着ありそうな予感がするな……」

 『?』

 

 陳到の最後の一言の意を汲めず、一刀たちは思わず首をかしげる。そんな彼らに対し、陳到は『とりあえず今は気にするな』と、そう一言だけ言って踵を返し、強盗たちを連行して行く兵たちの後に続いた。一刀達もまた、そんな陳到の後に続いて歩き出し、新野の町の政庁へと向かったのであった。

 

 

 

 新野県県令劉備は文字通り頭を抱えていた。彼女の目の前にある一つの木簡、それに羅列される文字を読めば読むほど、彼女は自らの至らなさ、それを痛感させられるからである。

 

 「……県内のみならず、近隣から来る全ての陳情も、賄賂を持たないと通して無かったなんて……」

 

 そこに書かれているのは、つい今朝方処断したばかりの役人がこれまでに行なってきた、諸々の不正の数々である。賊との結託、不正な商人との癒着、さらには民から上がる陳情全てに賄賂を要求し、それを持たない者の陳情は受け付けない、等々。

 

 「……情け無い、な。なにより自分が一番……。叔至さんが仕官してくれていなかったら、この人の不正も暴けなかったわけだし……はあ、ほんと、情け無い県令さまだよね……」

 

 件の役人の不正。それ自体は、劉備自身、とうの昔に発見していた。しかし、話術、というものがとことんまで苦手な彼女は、口先ばかり達者だった例の役人にいつもけむに巻かれ、何度罪を追及しても、上手く逃げられてしまっていた。

 確たる不正の証拠、それさえ掴んでいれば良かったのであろうが、どうやっても状況証拠以上のものを彼女は掴むことが出来ずに居た為、ただ疑わしいと言うだけでは、新野ではただでさえ数少ない役人を罰するわけにもいかなかったのである。

 その状況が変わったのが、半年程前に彼女の下に仕官した陳到が、何をどうやったのか、件の役人、その彼のしたあらゆる罪の揺るがぬ証拠をかき集め、劉備の下に齎したことに端を発した。賊や悪徳商人、そして陳情に来た民たちから集めた賄賂、その全ての保管先を押さえ、その役人から金を掴まされていた兵士たちを捕らえ、その洗いざらいを当の本人の前で喋らせたことで、ついに彼は観念した。

 

 「……叔至さんのお陰で今回は何とかなったけど……出来うるなら、もう一人欲しいなあ……私の側で、常に私を補佐してくれる、私の足りない目と耳になってくれる人が……どこかに居ないかなあ……そんな人」

 『失礼します。玄徳様にご面会を願い出ている者が居りますが、いかがいたしましょうか』

 

 そんな埒も無いと自分でも分かっていることを、劉備が一人で零していたその時。政庁に仕える女中のそんな声が、彼女の部屋の外から聞こえてきた。

 

 「面会、ですか?あ、どうぞ、中に入ってください」

 「はい、失礼します」

 

 劉備に入室を促され入って来たその女中は、卓に着く劉備に向かってうやうやしく一礼。白いエプロンドレスが三つ編みに結われたその黒髪をさらに映えさせ、劉備並にふくよかなその胸元には鮮やかな赤いネクタイを垂らす。

 

 「あ、(ほう)ちゃんだったんだ。お仕事ご苦労様」

 「ありがとうございます。……ですがその、ちゃん付けはなんとかなりませんでしょうか、玄徳様。そんな、童ではないんですから」

 「いいじゃない、可愛いんだし。なにより、私にしてみれば数少ない親類で、年下の姪っ子みたいなみたいなものだもの。ね、封ちゃん」

 「……」

 

 この、封という名の女中。実を言うと劉備にとっては遠い親類となる人物で、母方の姉の、また従姉妹の、さらに姪という、そんな関係だったりする。その位遠い血縁であるがゆえに、代々髪の色が桃色、もしくはそれに近い茶色がかった髪の色をしている劉家の血縁にしては珍しい、艶やかな漆黒の髪の持ち主であることから、おそらくはどこかに劉家以外の血が幾分かは混ざっているのであろう。

 それでも、劉家の女の証とでも言うか、胸のふくよかさは歴代の劉家の女の中でも、劉備と揃って1・2を争う大きさをしているあたり、彼女もれっきとした劉家の女であることを証明しているともいえるが。

 

 「それより、私にお客様って?」

 「あ、はい。仕官の希望者に御座います。政務官を希望しており、名を」

 「名を?」

 「豫州頴川郡の荀家の出にて、荀文若、そう名乗っております」

 「荀文若……うん、いいよ、お通しして」

 

 荀家といえば、かの性悪説を唱えた荀氏の末裔にあたる家であり、劉備も洛陽にて学んでいた折、その荀家の事は聞いた事があった。先に滅亡した後漢の、その十代順帝、十一代桓帝にかけてその名を知られた荀淑という人物と、その子らで荀家八龍と称された有能な者達が居たことを、師である慮植が良く彼女に語って聞かせていたためである。

 

 「慮老師があれほどに褒め称えた人、私は他に知らないからね。その荀家に連なる人なら、一度会って見たい」

 「はい。ではすぐ、謁見室の方にお通ししておきます」

 「うん、宜しく。私もすぐに行くから」

 

 侍女の封が部屋を出ると、劉備は先ほどまで目を通していた木簡を処理済と書かれた箱に放り込み、そのまま自分の衣装棚へと歩く。そこから、来客に会う際の対外用の儀礼服を取り出し、それまで来ていた普段着の袍を脱ぎ捨て着替える。

 

 「……荀家の荀文若……一体どんな人かな……?いつだか老師が言われた、私にとっての“雲”となる人物だったなら、その時は、私は……」

 

 まるで自らに言い聞かせるかのような、そんな独り言を呟きつつ、着替えを終えた彼女は自らの執務室を後にした。来客との面通しを行なうための謁見室、そこで待ち受ける出会いが、その心の内に秘める想いと決意を後押しする、そんな出会いであることを祈って。

 

 ~続く~

 

 

 

 と言うわけで、異聞譚のEP.1でした。

 

 各勢力の配置を弄ると言うことで、まずはその一人目、荀彧こと桂花を桃香の下に送り込みました。

 

 それとあわせて、一刀と陳到との出会いも進行しています。前世の、つまり現代の記憶をもつ陳到と、その現代から直接やって来た一刀、この二人の出会いがどう影響して行くか?

 

 次回では一刀達の方の話しの続き、そして、桃香の下に訪れた桂花との会談、その詳しい様子をお届けします。

 

 さて、EP.0の後書きにて募集した件ですが、まずは一人、僭越ながら選ばせていただいて、登場確認のメールを送らせて頂きました。あ、その方はこれを読まれた時点では、まだ、自分だとは言わないでくださいね?

 

 お名前については、実際の登場の時にはっきりするまで、あえて伏せさせていただきますので。

 

 募集もまだ受け付けてますので、前回で表明されて居ない方、どしどしご応募ください。残り枠はあと四人です。

 

 では今回はこれにて。

 

 

 再見~www

 


 
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