No.52139

I can't control my heart

KOF2000終了後。何かに悩むアテナと、押しがたりない(笑)拳崇です。

2009-01-14 17:42:00 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1015   閲覧ユーザー数:984

I can't control my heart

 

毎年夏に開催される異種格闘技大会THE KING OF FIGHTERSが終了して二週間が経った。

ここは中国。とある古寺の敷地内でひとりの少女が石段に座っている。

少女は何か考えているようだった。

しばらくして何かの気配を感じてふりむいた。

とはいえ夜の11時をまわっている。

気配のするほうを見つめてもただただ漆黒の闇が広がるばかり。

 

「誰か…居るんでしょう?」

彼女は闇の中にいるであろう人物に問いかけた。

「アテナか?」

その人物は返答してきた。

 

少女の名前は麻宮アテナ。サイキックアイドル女子高生である。

そしてアテナの呼びかけに反応した人物――つまり、アテナのことを名前で呼び、

且つ11時以降にこのような場所に来る人物は…

 

「拳崇ったら、びっくりさせないでよ。こんな時間に。」

「なあんや。アテナこそ。こないな時間に…びっくりするがな。」

 

拳崇と呼ばれた青年が反論する。

彼の名前は椎拳崇。アテナと同じく超能力を生まれつきその身に宿す、関西系中国青年である。

もっとも、その超能力は昨年突然消滅してしまい、今年また戻るという不安定な状態ではあるが。

 

「私は考えごとしてたの!拳崇には…かっ関係ないわよ。」

ちょっと怒ったように言う。

アテナの隣に腰かけながら、拳崇も口調をあわせる。

「あいにくやなあ。ココは俺が考え事したりヘコんだり…、

 とにかく俺の場所なんや。ココにおる限り、俺と関係ないっちゅうことはありえへんねん。」

「何よ。子供っぽいのか格好つけてるのか判らないようなこと言っちゃって」

アテナが文句をつける。さすがの拳崇も気分を害された…かと思いきや、

全く意に介していない様子。むしろ、アテナと痴話喧嘩(?)のような会話が久しぶりにできて嬉しいのか、口元が緩んでいる。

 

「なんやぁアテナ冷たいなあ。ま、何にせよココに来るっちゅうことは何かあってんやろ?どや、俺に話してみんか?」

拳崇の言うことは図星だ。彼は去年超能力をなくして以来、考えごとや頭を冷やすときにはよくこの場所を利用している。

それはアテナも同じだった。

 

「言いたくない。」

アテナが小声で呟く。

「ほんなら、あんま深入りして聞かへんけど…」

とは言うものの、心配顔の拳崇。

 

「拳崇こそ何かあるんじゃないの?ココに出てきてるわけだし。」

「俺は夜風にあたりにきただけや。11時すぎるとさすがに涼しいなぁ。」

気候の話題を持ち出して同意を求めたが、黙ったままのアテナ。

いくら勘の悪い拳崇でもアテナの機嫌がよくないことは判った。

 

「なあ…アテナ、何があったんや?俺に話してみ。楽になるで。」

「ほっといて。」

 

アテナのそっけない返事が拳崇に突き刺さる。

なけなしの気遣いがつっぱねられて拳崇は半ばヤケになって言った。

「ほっとけるかッ!アテナが何か悩んどるっちゅうのは一目瞭然や。

 それが判っとってほっとけるかッ!無理強いはしとうないけど…。

 それにアテナ、去年俺が超能力なくしたときいちばん励まして支えてくれたやんか。

 そやから、俺かてできる限り力になりたいねん。」

「私っ拳崇の力になれたなんて思えない!拳崇の超能力が戻ったのだって

 衛星兵器の力を包くんが吸い取っちゃってそれを拳崇が助けたからでしょ!?」

拳崇の脳裏に衛星兵器の攻撃を受けたときの記憶が甦る。

「そらそうやけど、やからって力になれんかったて思うことないで。」

アテナの勢いに押されながらも拳崇は宥める。

「あのとき、苦しんでる包くんを見てても手も足も出なかった。

 拳崇の超能力だって私はずっと横で見てることしかできなかったのよ…。」

自分のふがいなさを嘆くアテナを拳崇はじっと見つめている。

「だから…拳崇には……」

言いたくなかったの、とため息混じりに言う。

その瞬間拳崇はアテナの痛みをはっきりと感じとることができた。

痛みというよりは重苦しさ。胸の奥で何かが蠢いている。

放っておくとどろどろ溶け合って沼にでもなってしまいそうな……。

 

 

「人っちゅうのは何かあったら他の人に支えてもろても、

 最終的には自分の力で何とかせなあかんのやないか?

 最後まで他人の力を借りとったら、ダメダメ人間になってまうがな。

 特に俺はみんなに世話かけることも多いしやな、

 今回のことで自分がちょっと成長したし、これでええんやと思っとる。」

 

拳崇がまともな意見を言ったことにアテナは正直驚いていた。

本人も言うとおり、拳崇は成長していたのである。

 

「でも、何もできないのは」

「アテナは俺の気持ちが判ってへんからそないなこと言えるんや。

 俺の近くにこうやってアテナがおってくれるだけでどんだけ色んなことにがんばれるか。

 アテナのこと、どんだけ支えにできるか。

 アテナ俺のこと全然判ってへん。そら、…俺の気持ち判れ言うても

 …無理かもしれへん。けど判ってほしい。あ、いや無理は言わんけど…」

 

はじめのほうは良かったのだが、途中から勢いが失せてしまった。

アテナに無理をさせるつもりはないという気持ち故のことだったが、

収拾がつかなくなり拳崇は困ってしまった。

 

「あぁっもうどないせぇっちゅうねん。あのなアテナ、判らんのなら、教えたる!!」

 

拳崇はそう言い放つと強引にアテナの両手をとり、自分の両の掌とあわせた。

 

アテナは拳崇が一方的に喋っていたため状況があまり呑みこめず

なされるがままになっていた。彼女の手が、ぎゅっと握り締められる。

手にかかる圧力が大きくなるにつれて掌が融けてゆくような感覚。

しかし不思議と熱さは感じなかった。

 

晩夏特有の風が、匂いが、冴々とふたりを囲む。

 

拳崇は全神経を掌に集中させ、ありったけの自分の感情をアテナに流しこんだ。

自分たちをほのかな光が包みこんだと思った瞬間、

アテナの掌からどっと何かが押し寄せてきた。

それはダイレクトにアテナの心の内側へとはたらきかける。

「……あったかい……」

感じたままを言葉にすると、アテナの中に入りきれなくなったそれは、

目から涙となってあふれだした。

あとからあとから あふれでて止まらない。

 

拳崇はというと、心臓がそのまま胸から飛び出るかと思うほど驚いたが

「女性は泣いている時、リラックスしている」とテレビで言っていたのを思い出し、そっとしておくことにした。

 

 

晩夏特有の空気がますます冴えわたった頃、アテナは落ち着き、拳崇に言った。

「さっきはごめんなさい…ひどいこと言って。

 私、拳崇が怒んないの判ってて八つ当たりしちゃった。甘えちゃったの。」

「え?いやいやいや。気にすることないって。アテナに甘えられるやなんて俺、嬉しいわ。…へへへ。」

拳崇が顔をほころばせる。

 

「拳崇の今の感情ってあたたかいね。一年前、超能力が無くなったって判ったときは

 冷たくて重苦しかったのに。よくここまで立ち直ったと思うよ。すごいなぁ拳崇は。」

思いがけないアテナの言葉に拳崇は少々とまどいながらも言葉を返す。

「いいや、みんながおってくれたし……何よりアテナがおったから

 あはははは。なぁんてな。あんま褒めんでや。照れてまうやんかぁ。」

「やーね、何言ってるのよ拳崇ったら。」

アテナが明るく返す。これならもう大丈夫だろうと拳崇は考えていた。

 

今、拳崇は左手でアテナの右手を握っている。

自分の感情をアテナに伝えたときは両手を使っていたのだが、

アテナが涙を拭うのに左手を使ったため拳崇の右手は自然に離れた。

しかしもう片方の手は離すタイミングがつかめず、今に至るというわけだ。

拳崇としてはアテナとずっとこうしていたいと思っている。

アテナはどうなのだろうか……拳崇はふと考えた。

 

ふたり交互に重ねられている指。触れている掌からお互いの脈拍が伝わってくる。

 

「ねえ、拳崇。……もう少しこうしてていいかな?」

 

アテナの言葉に驚いた。いつもなら「もうそろそろ部屋に戻ろう」とでも言い出しそうな時間帯だ。

人生、願いどおりになる日もあるもんやな、と拳崇は今日という日に感謝していた。

「もちろんや。アテナが眠たなるまで付き合うで。」

拳崇が余裕たっぷりにそう言うと

「そんなこと言っちゃって。先に眠ったら置いてっちゃうわよ。」

と言われてしまった。

 

 

 

 

それからどの位こうしていただろうか。

ふたりは時間の感覚が薄らぎ、交わす言葉も次第に減っていった。

夜更けの暗闇の中で視覚は無きに等しい。

働くのは風の音や虫の声が入ってくる聴覚、

空気の温度とお互いの体温を感じている感覚だけだ。

 

拳崇は時々繋いでいる手に少し力をこめた。まるでアテナの存在を確かめるかのように。

そしてアテナのことを考えていた。

 

今、アテナは何考えとんのやろ…?

 

お互い何年も一緒に居て拳崇はアテナのことをほとんど知っているつもりだったが、

今回のことでアテナをまたひとつ知ることができた。

今日はめちゃめちゃいい日やな……拳崇は思った。

 

空を見上げると星が青白く瞬いている。いつもと違って月のない空。

底なしの暗闇は星の光を一層引き立たせているようだ。

アテナの隣で心が和いでいるのを感じる。

拳崇は深呼吸をした。

 

するとアテナは拳崇に言った。

「部屋に戻る?」

拳崇はできることなら朝まででもこうしていたかったが、何しろもう遅い。

よくは判らないが完璧に12時はまわっている。

「そうやなぁ。明日もあるし、もう寝るか。」

ふたりは手を繋いだまま母屋の方へ歩きだした。

もうみんな寝ているのか部屋の明かりは消えており、建物全体が暗い。

中に入り、繋いでいた手を離して「おやすみ」と拳崇が言おうとしたとき。

アテナが口を開いた。

 

 

「拳崇、ありがとうね。今日そこに拳崇が来てくれてよかった……。」

 

 

暗がりの中だったにもかかわらず、アテナの表情がはっきりとよみとれた。

 

今までに見たこともないような笑顔。

 

直観的にこれがアテナの本心であるということが判ると

拳崇は心の底からわっと何かがわきあがってくるのを感じた。

それと同時に心臓が大きく音をたてて波打ちはじめる。

 

「は、ははは。……どういたしまして。

 ………どないしよ参ったな…むっちゃ嬉しい。なぁアテナ、俺、今めちゃめちゃ笑顔やろ?」

「うん。顔がすっごくゆるんでる。」

へへっ、と拳崇は軽く笑ってみせた。

「俺、生まれてこのかたこないな顔したことないで。

 アテナ、俺にこないな顔さしてからに。…覚えときや。」

「えぇっ?そんなあ。何か仕返しがくるような言い方やめてよ~。」

アテナが笑って言う。

その時、拳崇の頭をひとつの言葉が過ぎっていった。

その瞬間、拳崇の心臓は更に大きく波打つ。

鼓動にあわせて体も震えているようだ。

 

「アテナ。」

しばらくはふたりで笑って震えをごまかしていた拳崇だったが、

意を決して真剣な顔つきでアテナを呼んだ。

表情のギャップにとまどいながらもアテナは拳崇を正視した。

「あのな、俺……」

 

アテナのことが好きや。

 

「え?もう一回言って?何て言ってるか判んなかった。」

 

こともあろうに拳崇は緊張のあまり上手く発音できず、

「アテナのことが好きや」という言葉は

自分でも何を言っているのか判らない言葉にすり変わってしまったのである。

 

やってもうたぁ…。

拳崇は心の底から思った。

 

すぐに言い直そうかとも考えたが、やはりこういうことは勢いとタイミングが重要。

「あー…おやすみって言ったんや。」

とアテナに伝えた。『おやすみ』に替えられてしまった『好きや』がなんとも哀れだ。

「おやすみ。拳崇。」

アテナはにっこりしてそう言うと自室へ戻っていった。

 

 

拳崇も自分の部屋に戻ると、敷いてあった布団にうつぶせで倒れこんだ。

バフッいう籠もった音と舞うほこり。

「…はあぁ~……」

拳崇は深いため息をつき、肝心な時に格好のつかない自分を嫌悪していた。

あれだけハイテンションだったが今や止まりそうなくらい心音の低くなった

彼の心臓がそれを物語っている。

「『終わりよければ全てよし』とか言うけど、終わりが悪かったら

どないすればええんや…俺のアホ…。」

 

世界中で起こった悪いこと全て自分のせいにしかねない今の拳崇に

その時、一筋のひかりが差し込んできた。

 

 

『拳崇、ありがとうね。今日そこに拳崇が来てくれてよかった……。』

 

 

拳崇の心臓は、さっきほどではないが活気を取り戻してきた。

今度はこれまでになかった胸を締めつけられるような切なさとともに。

彼はそれに耐えきれず、布団をギュッと握り締めた。

 

「…はぁ~…」

また、ため息をついた。しかしさっきとは違い、

嬉しさ、幸せの入り混じった甘いものだった。

「まぁ、ええか。」

拳崇は小声で呟きチャンスはまたあると自分に言い聞かせた。

それから、さっきまでどうしてあんなに落ち込んでいたのだろうと思った。

 

我ながら単純ではあるが、アテナの一言でどんな気分にもなれてしまう自分を

少しだけ面白いと思える余裕が拳崇にはできた。

 

そう、どんな気分にでもなれる。相手に全部委ねられているので思った通りには決してならない。

不幸な気分になったり幸せな気分になったり…。

 

 

コントロールできない気持ち。

 

 

これが好きという感情なのだろう。

結論に辿りつくと拳崇は、深い深い眠りについた。

 

 

 

あとがき

KOF2000が出てしばらくして書き上げたもの(昔だなぁ;)を加筆・修正したものです。

 

文章中に、

「女性は泣いている時、リラックスしている」とテレビで言っていたのを思い出し~

という記述がありますが、当時の私がTVでみたものです。医学的根拠はわかりませんww

カットしようかカナリ迷いましたが、書いた当時の方が今より拳崇の年齢に近いんですよね(^^;)

十代ってこんなもんかもな、と思って残しました。

 

さて内容ですが、自分の力のなさに悩むアテナと、ちょっと押しが足りない拳崇(笑)

 

アテナは拳崇に甘えてしまう部分もあるけど、力になりたい。

いくらしっかりした娘でもまだ高校生という年齢を考えればアリかなぁと思い、

拳崇についての悩み事を本人に聞いてもらう、という

大人は「オイィ!?」と思う展開ですがそのまま残しました(笑)

 

前半と後半でテーマが違うような気がしますが

こういう出来事をとおしてますます拳崇はベタ惚れしていくってことで。

 

「告白で噛むかぁ!!?」と思う部分もありますが、コレ実際当時自分がやらかしてしまったんです。

告白じゃなかったですけど、カッコつけようとしてスゴイ噛み方して

「ハァ?」って友人に聞き返されたことが(苦笑)

ココで告白すると話がいつ終わるかわからん…!!

という制作上の都合により、拳崇にはかわいそうな目に遭っていただきました。

 

ラストの部分は当時感じた想いをそのまま文章にのせてるみたいですね。

情熱的だけど不安定な部分もあって……っていうのが人を好きになるってことであると。

どうなんでしょう?男の子でもこういう気持ち…ありますよね??

本家KOFの拳崇をみててもこういう感じかなぁと思ったのと

この部分に関しては男女同じだろうと思ったんで。。。

 

相当長い話でしたが、読んでいただきありがとうございました。

 

2009年1月


 
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