No.507123

【改訂版】 真・恋姫無双 霞√ 俺の智=ウチの矛 六章:話の二

甘露さん

・実は此処まで6章プロローグ
・早漏なまねせず書き上がるまで待って投稿すれば良かったと今更後悔
・文和さまちゅっちゅ

2012-11-11 23:12:36 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2834   閲覧ユーザー数:2497

 

**

 

 

「……はあ」

 

心が重かった。

あれ程楽しみにしていた姉である月との晩酌でさえ断りを入れる程に、小海の心には暗雲が立ち込めていた。

 

「意気地無しめ……」

 

それらは全て己の度胸が足らぬこと一つに尽きた。彼女は月の妹である以前に、臣下として一席を担う存在であるのだ。

ならば主命とあらば是も非も無く黙って拝礼し任を受ければよい。

しかし小海にはそれが出来なかった。俄か月との血縁があるが故に、そして月もまた君主としてでなく姉として礼を尽くし小海に依頼した故に。

 

進退窮まり、命令故に盲目的に従えば良いのならば彼女にも恐怖を無理矢理咀嚼し果たそうと思える程度の忠と孝の理念は持ち合わせていた。

だが現状は異なった。臣としてでなく董卓公の妹としてその願いを受けた故に、彼女は求められた己の役割を想像する時に恐怖を挟む猶予があったのだ。

 

姉は自身などと比較にならない大人物だと言う事は、感覚から外れた本能的な部分で幼いころから気付いていた。

だが、だからと言って人の齢の何倍もの長きに渡って帝国を築いてきた漢を倒すと平然と言ってのける程に、“測れない”人物だとは思ってもいなかったのだ。

 

始皇帝の古代帝国は短命に終わった。だがこの漢帝国は圧倒的長きに渡ってこの地に根を張り勢力を誇った文字通りの大樹であり龍であった。

倒れる姿など、ましてや姉が倒す光景など小海には、否、帝国の九割九分の民には想像することさえできない領域なのだ。

 

故に小海は恐怖した。

命令ではなく己の決断で、十中八九死ぬとしか思えぬ様な謀の片棒を担げと、忠と孝を捧げるべき主で在り姉である月に求められた。

命令ではないが故に、一度チラついた恐怖を拭う事は容易では無かったのだ。

不忠であり不孝である己の度胸足らずに苛つき、そしてなお有り余る大帝国へと弓を引く恐怖に小海の思考は堂々巡りを繰り返していた。

 

気付けば、小海は宴の広間から随分と離れた宿舎のある城内の一角にまでたどり着いていた。

既に宵も深まり、辺りに響く音も深々と降る雪にかき消され皆無であった。まるで何もかもが死に絶えたかのような、そんな錯覚を抱かせる沈黙の音が耳にじいんと響く。

しかし雪の深まる季節故、風流な余韻を楽しむ余裕も壁も無い渡り廊下の寒さの前では楽しむこともできず少女の身にはそれが聊か堪えた。

意識した途端襲う寒さにぶるりと一つ身震いをすると、小海はこれ以上無意味にうろついても碌なことはないだろうと沈んだまま自室へと足を向けようとし──。

 

『お待ちしておりました、文和殿』

『ごめんね、ちょっと用意に手間取っちゃった』

 

不意に声が耳に飛び込んできた。それはちょうど、今しがた背を向けた廊下を進んだ先、曲がり角の向こう辺りから響く声。

夕餉の席で小海と同席した者達の声であった。

姉の旧臣である文和はともかくとして。あの男の名はなんであっただろうか。幾度か月や文和に名を呼ばれていた筈であったが、小海は思い出す事は出来なかった。

鋭利に整った容貌と鋭い目つきと、容赦も恐れも感じさせずに謀反を語るその振る舞いばかりが小海の印象を締めていたのだ。

兎も角として、どちらもこの州での最高位の権力者である月の直ぐ傍に侍る直臣で在ることは確かであった。

そんな二人がまるで秘密の逢引の如く人目を憚りこっそりと逢うというその現場は、少女に様々な邪推をさせ、ついでに強烈な興味を抱かせるには十分すぎる状況だった。

 

思わず踵を返し足音を忍ばせその声のする方へと向かう。

案の定、と言うべきか、一室の扉の隙間から明かりが漏れ、そこへ近づく程に話声が次第に鮮明に聞こえる様になった。

 

小海は高鳴る胸の鼓動を抑え、息を忍ばせその声に耳をすませる。

 

「しかし、まさか仲霄様が仲頴様のご依頼をお渋りになるとは……」

「仕方ないわよ。ボクでも突然そんな話を誰かに持ちかけられたら吃驚して悩んじゃうこと必須だと思うもの」

「寧ろ妹君で在るが故に尚更お悩みになられた、ということでしょうかね」

「仲霄様の忠と孝どちらも捧げるべき立場にいらっしゃることになるものね、仲頴様は。慈悲故にご依頼というお形にしたのでしょうけど、逆にそれが仲霄様をお悩ませになられたとか、あり得るわね」

 

小海の心臓がどくんと大きく跳ねあがった。

まるで心を朗読されているかのように、正確に小海の苦悩を言い当てていたのだから彼女が驚くのも無理はなかった。

 

「肉親を血生臭い政争に巻き込みたくない、という事なのでしょうかね」

「仲頴様はお優しいお方よ……。やはり妹君となるとためらいを感じても仕方ないわ」

「しかし、それで仲霄様が苦しんでいるかもしれないとお知りになったら、仲頴様までお悩みになられるやも……」

「いえ、ボクが思うにだけどね。もう仲頴様も苦しんでいらっしゃると思うのよ。約束を果たす為、私財を擲ち自らの飼い牛まで潰しておもてなしなさったのは間違いなく仲頴様のお優しいお心故になされた妹君への精一杯の歓迎だもの。その歓迎の場で本当ならきな臭い政治の話なんてしたくなかった筈だわ……」

 

小海はその言葉に息を呑んだ。

姉は自らの牛を潰してまで自身との約束を果たそうとしてくれていたのだと、初めて知ったのだ。

気付けば、彼女の心には、言い様の無い感謝の念がふつふつとわき出していた。

同時にそれは、心に巣食っていた恐怖をいつの間にか消し去り……。

 

「それでも、妹君へお話になったのは」

「仲頴様が妹君へ絶対的な御信頼を寄せていらっしゃるが故に、でしょうね」

「斯様な謀、露見すれば三族皆打ち首となっても不思議ではありませんからなあ」

「中央へ直接派遣されるとなれば尚更よ。仲頴様が他の連中には側近で在っても何一つお知らせになっていない事を託したことが仲霄様への信頼の何よりの証だわ」

 

小海は気付けば、ぼろぼろと眼から涙をこぼしていた。

 

月は、彼女の姉はどこまでも己を信頼し託そうとしていた。

それを小海自身は、恐怖などという些事に目がくらみ忠も孝も投げ捨てようとしていた事実に気付いてしまったのだ。

先ず己の小ささに果てしない羞恥を感じ、そして不忠不孝の極みであった己の迷いに大きな恥を彼女は感じた。

 

そうして、一寸の後。

彼女の瞳には強い、決意の光が宿っていた。

 

すく、と立ちあがる彼女の姿勢に最早迷いは見当たらない。

姉の優しさと器量を知らしめてくれた二人の忠臣へひそかに拝礼をすると小海は、再び音を立てぬよう、静かにその場を去った。

足取りは、生き生きとし、また並々ならぬ決意に溢れた軽いものであった。

 

 

──そしてついぞ、小海の事を窺う様監視し会話していた二人の様子に気づくことはなかった。

 

 

**

 

 

「……行ったわね」

「嗚咽が小さく聞こえていましたから、まあ悪いことにはなりませんでしょう」

 

文和の呟きに、一刀が小さく肩をすくめた。

一刀が罪悪感など一切感じさせない微笑を浮かべていることに、文和は怪訝そうに眉をしかめる。

 

「あんた、本当に騙し慣れてるのね。台詞が自然過ぎてちょっと気持ち悪かったわよ」

「そんな御無体な。それに別段嘘を言った訳でもないのですし」

 

一刀は、彼の言葉を借りるなら姉妹愛に溢れる君主とその妹君を敬愛する臣に成りきっていただけ、であった。

元々感情の下地がある分、普段よりもずっと楽だったとも彼は思っている程だ。

 

「まあ、モノは言い様よねえ、ホント」

「忠と孝と真名を預かる仲霄様が裏切れないのは当然の理、ならば絶対に裏切らないモノ故に要所に配置すれば必ず最低限の結果は残せるだろう、と」

「あまりそう言うの語るの止めなさいよ、何だかバカっぽいわよ」

 

文和の手厳しい言葉に一刀は思わず苦笑を浮かべる。

尤も、態々計略を聞いてもいないのに解説してくれるのはやられキャラの共通仕様かと思うと確かに間抜けの香りがそこはかとなく漂っている気がした。

 

「そうですね。しかし月様も中々に」

「だから。止めなさいってば」

 

どうも語ろうとしてしまうあたり、己には悪役根性が身についているのかもしれないと一刀は苦笑した。

それを曖昧な返事だと勘違いした文和は眉を吊り上げ一刀に迫る。

 

「ったく、何処に耳があるか分からないんだかね、不用意な言動は慎みなさいよ全く」

「しかし……そうなると御婦人と二人きりなのに話題の一つもなく手持無沙汰とは……うむむ、甲斐性が疑われてしまいますな」

「ばーか。なにいってんのよ」

 

冗談めかしそう言うと文和はくすくすと笑った。

それを見た一刀は一つこの上司を弄ってやろうと邪考する。

冗談とはいえ、だからと言ってそのまま相手にもされないと言う事が男として少し一刀を意地にさせたのだ。

 

「ばかもなにも。深夜に普段は高根の花である上官殿と二人きりの密室に居るとなれば、俺も男。ひとつふたつ邪な念が沸くのも自然の摂理かと」

「な、なによいきなり」

「文和殿は、俺と二人きりになることに何も思わなかったのですか?」

「あたりみゃえよっ!」

 

がらりと変わった一刀の雰囲気に、文和は目を白黒させ慌てふためいた。

ずいと近づけられた端正な顔に文和は思わず赤面しながら答えた言葉は噛み噛みの残念な台詞となりより一層文和の頬を朱に染める。

 

「普段は届かない貴女が、今は……ほら。こんなにも近く」

「ふぁっ!?」

 

慣れた手つきで一刀の指が文和の顎のラインをつつと這う。

普段感じない一刀の女を扱う男性の一面に、文和は思いがけず胸が高鳴るのを感じた。

 

「あ……え、あ、っ……」

 

緊張で舌が回らない。

どうにもこうにも上手くならずぱくぱくと開いては閉じるだけの口から音が漏れ──

 

「と、まあ冗談はこのくらいにして」

「……へ?」

 

ふっ、と一刀の空気が元に戻った。

無暗に男性を感じさせない、自然的である意味落ち着ける普段のそれである。

 

「文和殿はお美しいですが、だからと言って抱いてしまう程下半身に忠実な訳でもありませんし。それに、文和殿も雰囲気に呑まれて致してしまっては今後負い目にならないとも限りませんし」

「なによそれ……」

「もちろん、文和殿が合意の上でなら俺も吝かではないですが」

 

くすくすとしたり顔で笑う一刀に、文和は不愉快だと言わんばかりに眉を顰めると俯いた。

しかし一刀が誤ったかと慌てるよりも早く、文和は少し顔を上げ、そして照れ臭そうに一刀を見上げた。

 

「……ばか。期待しちゃったじゃない」

「は?」

 

予想外の言葉に思わず一刀が言葉に詰まる。がらりと急変した雰囲気も一刀の混乱を助長する。

机に対面で座っていた文和が、すぅと身をのりだすと、ふわりと少女の香りが一刀の元まで漂い薫った。

 

「ねえ、うごかないで」

「え、あ、その」

 

何処か妖艶さを感じさせる表情で、ゆっくりと迫る文和。

その整った顔は一刀の正面を通り過ぎ、耳元で止まった。ふぅ、と艶めかしい吐息が耳を撫で吹き抜ける。

そうやって、数瞬じらした後、小さく息を吸うと文和は──

 

「文遠にチクってあ・げ・る」

「は、ぁいでっ」

 

悪戯成功、そんな表情で一刀の額にでこぴんを炸裂させた。

 

「乙女をからかうんじゃないわよ、ばーか。それは天罰よ、天罰」

「ったく、敵いませんねえ」

「当たり前よ、……惚れた腫れたで女に勝てる訳ないじゃないの」

 

ころころと御満悦な表情で楽しげな笑いを零す文和に、一刀も釣られ苦笑を洩らすが、文和の意味深な一言に再び「え?」と間の抜けたぽかんとした様相を晒してしまう。

文和は攻め時とばかりに一刀に聞き返す間も与えず繋げて言葉を紡ぐ。

 

「まあ。それは別として。しっかり文遠と仲徳ちゃんに報告しといてあげるから安心してね」

「え、御無体な!」

「ボクの純情をもてあそんだアンタが悪いわよ」

「……純情?」

「そこで聞き返す意味が分からないわね。喧嘩売ってんの? 言い値で買うわよ」

「まさかー。文和様は純情な乙女、これ世界の摂理です」

 

一頻り言いあい、すると二人の間でどちらともなく笑いが零れ。楽しげな雰囲気は絶えることがなかった。

 

 

 

時は一八四年。

戦乱の季節は、もう直ぐ傍まで迫っていた。

 

 

 

5000文字程度なら先走らず結合すりゃよかった。

そんな事を思う程度には何かに毒されております。

甘露です。

 

さて、何故今回文和様かわいいよ文和様だったかと言えばですね。

次回から暫く数名登場人物が余所へ出かけてキャラが減るので自然と絡みが多くなって、その為どの程度の好感度があってどの程度絡ませれば自然かって言う事を示す為の必要な措置だった訳ですよ

 

ええ、言い訳ですとも

 

眼鏡成分が足りんかったんや!(撲殺

 

 

 

霞さんはこれからいっぱい出ますよ、ホントデスヨ

戦闘が増えるので寧ろイチャコラするのはデスクワーク担当同士の一刀と詠ちゃんに成りそうですが

それでも!

それでも!!

 

あくまでも霞√ってことは忘れないよう頑張れ!俺!(え

 

 

では~

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
26
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択