No.480535

IS~音撃の織斑 三十三の巻:心身と血の流動

i-pod男さん

はい、今回ちょっと長めです。もし表現がグダグダだったらすいません。

2012-09-06 19:28:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4066   閲覧ユーザー数:3908

三人が五人に増えた所で、全員は五反田食堂と看板を掲げている引き戸を開いた。そこでは目元に皺がよってガタイの良い色黒の男がかなりの重量であろう大きな鍋を片手で振るって調理をしていた。筋肉は盛り上がっているのも頷ける。その隣では、若々しい女性が食材を刻んだりカウンターに置いていた。更にその出来立ての料理を蘭が運んでいた。

 

「お兄、遅い!」

 

「弾、おめえも突っ立ってないで手伝え!」

 

妹からは罵声、祖父からは小さいフライパンを投げつけられたが、弾はそれをキャッチ、そしてそれを厨房に持って行って元の場所に戻した。

 

「客連れて来たんだから良いだろ、爺ちゃん?」

 

「客?ん・・・・おお、一夏!久し振りだな!」

 

「「え?」」

 

弾と蘭が間抜けな声を上げた。

 

「あらあら、久し振りね、一夏君。また背が伸びたの?」

 

「厳さん、お久し振りです。相変わらずっスね。蓮さんも、相変わらず若々しい。久々に業火野菜炒めを食べたくなって、来ちゃいました。」

 

「おう、いつでも食ってけ。お前のダチも来てるんだろ?座ってな。蘭、注文取ってやれ!」

 

「はーい。あの、一夏さん、お爺ちゃんとはどう言う・・・・?」

 

「早い話が、俺に料理を教えてくれてたんだ。当然弾も蘭も学校に行ってたから知らなかっただろうがな。上達してからはたまに店を手伝ったりしてた。冗談なのか本当なのかは今でも分からんが、一度ここを継いでみないかと言われた事があったっけな?」

 

「へー・・・」

 

「あ、悪いな、仕事中に。とりあえずここは俺が奢るからみんな好きなモン頼め。蘭、俺は業火野菜炒め、大盛りで。」

 

「随分と太っ腹ね、一夏君。自分の食事代位自分で持つわよ?無理しなくていいから、ね?」

 

「お前がそう言うなら、止めはしないが・・・・」

 

楯無にそう言われて一夏は肩を竦めた。実際どっちでも良かったのだ。

 

「私は、そうね・・・このモヤシと鶏肉のピリ辛炒め定食。」

 

「私は・・・・この漬け物セットで・・・・」

 

「俺はこの海鮮定食で。」

 

注文を取ると、蘭は再び厨房に戻って行った。弾もキャップを外して腕まくりをすると、厨房の入り口に掛かっている手ぬぐいを被って中に入った。

 

「でもよ、一夏。どうでも良いけど、どうやったらお前あのボリュームたっぷりの物を何の苦も無く食えるんだ?熱いし、量も半端無いだろう?しかも大盛りって・・・お前食い過ぎで腹壊しても知らねえからな?」

 

「そうか?鍛錬の後に食う時は結構食べるからな、あれ位普通だ。それに、俺が今まで腹を壊した事があったか?俺の胃袋舐めるなよ?」

 

数馬の質問に一夏は挑戦的な笑みを見せた。

 

「それより、お前はどうなんだ?彼女の一人でも出来たか?」

 

「バカ言うなよ、こっちはハーレム生活送ってるお前とは違って忙しいんだよ。新しいアームド・・・あ・・・」

 

楯無と簪がいる事に気付いて口を覆ったが、一夏は首を振った。

 

「大丈夫だ。二人は元々鬼の存在については知ってるし、ある程度支援もしてくれてる。それに、俺はそんなネット小説みたいな生活はしていない。寧ろ真逆の肩身の狭い生活をしている。」

 

「あ、そう・・・・兎に角、新しいアームドセイバーを作る為にこっちもてんてこ舞いなんだよ。小暮さん自らが何人か吉野から抜擢してしばらく関東支部に出入りする事になるらしい。」

 

「成る程・・・・そんな暇は無いってか?」

 

「残念ながらな。そっちは?こう言っちゃ悪いが、よりどりみどりだろ?」

 

「まあ、それを言っちゃおしまいだがな。けど彼女はもういる。両隣に座ってる姉妹。」

 

「姉の楯無と、妹の簪でーす♪よろしく!」

 

二人が一夏の腕に抱付いたまま自己紹介をした。正に両手に花である。

 

「ゲストってもしかしなくても、その二人?」

 

「ああ。良いだろ、別に?向こうだってギャラリーが多ければ多い程盛り上がるんだから。」

 

「おまたせしました〜。」

 

弾と蘭がそれぞれ注文された料理を運んで来た。

 

「すご〜い、美味しそう〜!」

 

「美味しそうじゃなくて、美味しいんだよ、ここは。」

 

一夏は早速業火野菜炒めを食べ始めた。その字面の如く熱々の出来立ての料理から肺までも湯気が立ち上っている。香ばしい匂いが食欲をそそる。

 

「うん、やっぱり美味い。」

 

「一夏、ちょっと頂戴♪」

 

楯無が口を開けてそこを指差す。

 

(要するに食べさせて欲しいって訳か・・・・・まあ、べつに良いけど。って、これ完全に餌付け、だよな?)

 

「ほら。熱いから気を付けろ。」

 

とりあえず出来るだけ箸が口内に当たらない様に業火野菜炒めを口に運んだ。咀嚼して飲み込むと、楯無は幸せそうな顔をした。

 

「うん、美味しいじゃない!もうちょっと貰うわね〜。」

 

と言いつつ、一夏の野菜炒めをちょっとずつ摘んだ。

 

「じゃ、俺もお前の少し貰うぞ?」

 

楯無の注文した料理を一口咀嚼した。

 

「おお、これは・・・・・後味の辛みが何とも・・・・これは・・・豆板醤、じゃないか・・・・え〜・・・あ、ラー油だ。」

 

すると、袖口を軽く引っ張られた。引っ張ったのは簪だ。唇を突き出して頬を膨らませている。

 

「お姉ちゃんだけ・・・・ずるい・・・・私も、食べさせて・・・・?」

 

「まあ、良いけどさ。あんまり取るなよ?(やっぱこれ餌付けだよな?)」

 

「お前らさ、やる分には構わないけど、場所考えろ。」

 

そのやり取りを見かねた数馬が一夏を嗜める。

 

「だったらお前もやって見ろ、以外と楽しいぞ。あ、簪、ちょっと漬け物くれるか?」

 

「口、開けて・・・・」

 

簪の箸から大根の漬け物を取り、咀嚼した。

 

(ん、ぬか漬けか。よく漬かってる。)

 

「美味しい。」

 

食事を済ませた後、蘭を加えた六人が向かった先はネオンサインを掲げた大きなスタジオ、ECHO BEATと言う所に着いた。そこでは既に何人かがブレイクダンスを踊って己の技を見せつけていた。

 

「一夏、ここで何するの?」

 

「見てれば分かる。」

 

すると、何人かが一夏達の存在に気付き、歓声を上げたり、拍手をした。

 

「戻って来た!奴らが戻って来た!二年振りの復活だ!」

 

「すげえ・・・俺、始めてみたぜ!!」

 

口々に囃し立てて来る。

 

「な、何?」

 

「ここは、ダンサー達が集って技を磨き、競い合う所だ。で、俺達はここでの常連であり、バトルでは負けた事が無いからここまでもて囃されてるだけだ。」

 

面食らっている簪に弾が説明した。

 

「けど二年間俺達はここには現れなかった。それぞれ忙しかったからね。だけど、俺達がいま戻って来た事によって、一気にこうなった訳だ。」

 

数馬もそれに付け足す。

 

「俺が師匠から鬼の修行を付けて貰う前に、まずは体を鍛えて、ダンスを習った。最初は何の冗談かと思ったが、音を体と心で感じる為だと言われたんだ。音楽とは流れる物。そして俺達はその流れに沿って動く。流れを感じる事が出来て、その『波』、波動を感じ取る事が出来れば、音撃のきっかけを掴めると。他にもボイパとラップも少しやったっけな?」

 

「ああ。ゲスト入場は紹介状が必要なんだが、俺達の場合、紹介状は必要無い。紹介状は俺達自身なんだ。」

 

扉の両脇に立っている大柄な男達が扉を開けたが、楯無と簪を見て二人を止めた。

 

「Hey, easy. They’re with us three.(おい、落ち着け。俺達三人のゲストだ。)」

 

二人は何も言わずに三人の顔をまじまじと見てから頷き、扉を開けた。中に入ると、そこはイルミネーションが飛び交い、DJがサンプラーとターンテーブルを操作し、ユニットがそれぞれ技を披露していた。

 

「久し振りだな、この感じ。」

 

「凄い所だね・・・・」

 

「これ位普通だ。規模のデカい所なんて探せば幾らでもあるぞ?」

 

そして一夏は指笛で注意を引きつけ、音楽が止まった。するとMCと思しきラメ入りの派手な服をした男が彼を見て叫んだ。

 

「おーーーっと?!?!?!?何だ何だ何だ?!奴らが戻って来たぞ!このECHO BEATSを根城とする四人の悪魔(デーモン)達が、HELLIONS(ヘリオンズ)が、再び蘇って来たぁーーーーー!!」

 

そしてフロアが声援で爆発し、彼らに道を空ける。四人はフロアの中心に進み出てスポットライトが当たった。

 

「まずは、ユニット最年少にして紅一点、三人のビートをナビゲートするDJガール、SprinteR!」

 

蘭は手を振ってアピールする。

 

「更に、パワーとテクニックを兼ね備えたスピードマスター、Cypher Boy!」

 

数馬は帽子を取って礼儀正しいお辞儀をした。特に女性の方からの声援が多い。

 

「次に、強大な力|パワー))をその身に宿す、SprinteRの兄貴で、ちょーーー暴力的な赤髪の魔人、H.B!」

 

弾は凶悪な顔付きを見せ、脚を踏み鳴らしながら冗談で狼男の様に遠吠えを真似した。今度は男性陣が同じ様に遠吠えを返す。

 

「更に更に、忘れてならないのが、彼らを率いる最強のリーダー、Prime! 全てに於いてこのユニットの頂点に立つ彼は、未だ負け知らずのハンサムガイ!」

 

一夏は被っていたフードを外し、空中でバク転を決める。

 

「そして今回は麗しきゲストも二人連れて来ているぞ?それでは、バトルスターート!今回のお題はアクロバティックスだーーーーーー!!!!」

 

「DJ, Light it UP!!(DJ、おっ始めろ!)」

 

一夏のかけ声で蘭が音楽プレーヤーをセット、ターンテーブルを起動し、サンプラーのツマミを回し始めた。音楽が流れ始めると同時に数馬が飛び出した。元々体は細身で体重は三人の中で最も軽い方なのだ。錐揉み回転しながら飛び出し、ハンドスプリングを決める。更にバク転、ロンダート、そして最後に空中で回転をつけた三段蹴りらしき動作を行い、両足を前後に開いたままで着地、衝撃を掌で殺した。両手で自分の体を押し上げると、挑発的な手招きをする。

 

「おーっと、Cypher Boyが先陣を切って飛び出て来た。素早い動きは正に現代の忍者その者だ、挑発に乗るのは誰だ誰だ誰だー?!」

 

飛び出て来たのは、ピエロの様な格好をしたグループのうちの一人が同じ位派手なアクロバティック技術を見せて観客を沸かせる。

 

「ワーオ、サーカスクラッシャーズのリーダー、JONAHが飛び出て来た!そのふざけた化粧の下でCypher Boyを嘲笑うーー!!だがしかーし、勝敗を決めるのはオーディエンスだ!まずは復活した覇者、Cypher Boy!!」

 

観客が歓声を上げる。

 

「お次は、サーカスクラッシャーズの筆頭、JONAH!」

 

歓声は上がったが、心持ち数馬の時よりは少ない。

 

「勝者・・・Cypher Boy!!!流石はトップユニットメンバー、久々に現れたとは言え、そう簡単に勝ちは譲らせないぞ!ではでは次のお題だ、それはぁ〜・・・・パワーーームーーーーーーブ!!!体の全体重を一部だけで支えて様々な技を繰り出す、名前通りパワフルでハードなスタイルだ!」

 

一夏が前に出ようとするが、弾に止められる。

 

「ここは俺が行く。」

 

弾が倒立をしながら前に滑り出し、更にその状態からヘッドスピンで回転し出した。回転し始めた所で右手を軸に片手で逆立ちをして回転、そして一旦止まると脚をばたつかせて跳ね、軸を掌から二の腕、そして肘に切り替え、エアチェアでターンを終わらせた。

 

「HBも始めから飛ばして来たぁ〜!さあ、この魔人を倒せる奴はいないか?!」

 

すると、弾より頭一つ分は背が高い女性が進み出る。髪の毛はどぎついショッキングピンクに染めており、服も露出度がかなり高い。

 

「おーっと、ここで幅を利かせている女性ストリートグループ、K-9のサブリーダーLILIAが登場!有り余るGirl パワーは、HBに一矢報いる事が出来るのかぁ〜〜?!」

 

LILIAは柔軟な動きで後ろに倒れ、ブリッジの状態から両足をゆっくりと少しずつ地面と垂直になるまで上げると、二の腕で地面を押しながら回転するエアートラックスで対抗した。

 

「さあ!判定だ!まずは、K-9のLILIA!」

 

歓声が上がり、LILIAは扇情的なポーズで投げキッスを送る。

 

「そしてそしてぇ〜、((HB(エェイチビィィィイイイ)!!」

 

歓声がフロアを揺るがした。

 

「おーっと、これはHBの完全勝利だ!流石は魔人、誰も傷一つ付けられないぜ、全く誰も寄せ付けられない!いよいよ三つ目のお題だ!それはー・・・・・フリーーースタァイル!!!自由自在に縦横無尽にフロアで暴れまくれー!!まずはPrimeが先攻だ!」

 

一夏は走りながら前に進み出ると、弾が重ねた両手を足場にして一夏かを空に跳ね上げた。その勢いを利用して膝を抱え込んで空中で三回転すると、片膝を立てて着地した。曲が流れ始める。一夏の動きは物理法則を無視する様な馬鹿らしくも華麗な技だった。技から技、繋ぎの技から次の技へ。挑戦する気すら起こらなくなる。

 

「ああーあーあ、これじゃあ勝負にならないぜ!流石はPrime、実力は今でも健在だ!勝負はこれで終了!皆様それぞれダンスをお楽しみ下さい!」

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
5
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択