No.477515

~貴方の笑顔のために~ Episode 16 誰がための武

白雷さん

仲間の生還に喜び、酒を飲み交わす中、愛紗は一刀に仕合をもうしこんだ。
そのころ、魏、呉では、偵察隊などの情報により今回の蜀の事件のことが伝わっていった。

2012-08-30 17:07:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:15049   閲覧ユーザー数:11159

仲間の無事を知り喜びにひたり、将兵かまわず、酒を飲み交わす。

そんななか、愛紗は一刀に仕合を申し込んだ。

 

そして、その翌日の午後、武闘場でその仕合は行われていた。

 

武闘場は大勢の観客でにぎわっていた。

それはこれから、蜀を救った呂布奉先の兄、呂白乱舞と武神、関羽雲長

の仕合のためである。

 

 

~愛紗視点~

 

私は胸がたかなっていた。自分の武に多少なりとも自信があったのは確かだ。

しかし、それよりもあのとき、玉座の間で私が剣をてにした時に、彼から一瞬でた覇気

が私には怖かったのだ。身を震わせた。そこがみえなかったからだ。

あんな感覚を味わうのは乱世の戦場においてもそう多くはなかった。

私は興味でうずうずしていた。

だから、あのよる私はこらえきれずに今日の仕合のことをいってしまったのだ。

 

こんなにも身が踊るのは久しぶりであった。

 

目の前には刃殿がすでにたっており、そしてこの武道場は見物客で埋め尽くされていた。

 

「ふふっ、恋に認められた刃殿のその武、

 みせてください」

 

私はあの時感じた恐ろしい覇気の正体をもう一度確かめたかったのだ。

 

「・・・あまり期待はしないでくれ」

 

そういいながら、刃殿は剣をぬき、身構えた。

 

「では、参ります!」

 

「ああ・・来い」

 

「はあぁぁぁぁああああっっ!!」

 

気合を入れた私は仕合開始の合図とともに

刃との間をいっきにつめた。

 

私は自分の最初の攻撃は、少なくとも刃殿になら止められてしまうだろうとは思っていた。

だから驚いた。刃殿は私のその攻撃を止められなかったのだ。

彼は変な動きをしながらもなんとか避けたという感じだった。

 

「刃殿、まさか、これで、終わりというわけではありませんよね」

 

「・・・」

 

私のそんな問いにも彼はただ無言を貫いていた。

 

私はさらに力をいれ止めをさそうと剣撃を繰り返す。

私はただひたすら彼を攻めつづけた。

しかし、私の予想を裏切るばかりで、彼は避けることしかしなかった。

 

 

 

周りから見れば愛紗が一方的に一刀を攻めていた。

 

「うーん・・・やっぱり呂白さん、

 愛紗ちゃんが相手だと差がありすぎるん

 じゃないかなぁ・・・・

 みてていてなんか・・・」

 

「そうなのだ、さっきからお兄ちゃん、

 攻められてばっかりなのだ」

 

そう言い合う桃香と鈴々

 

他のものたちも一刀の武勇伝を聞いていたため少なからず、ショックをうけていた・・・

そんななか、星と恋だけは反応が違っていた。

 

(・・にぃにぃ、なんかおかしい。あのとき感じた氣が、ぜんぜんない)

 

(一刀殿、どうなされたというのです・・)

 

一刀の氣を一度でもその肌で感じ、ただの勘違ではないとおもっていた二人は一刀になにかあると思っていた。

 

 

 

~一刀視点~

 

わかる・・愛紗の剣の動きがゆっくりと見える、剣の鼓動が聞こえる・・

右、左・・次はしたからか?

俺はそう思いながら愛紗の剣の動きをよんでいた。

 

「刃殿っ!さきほどから、よけてばかりではありませんか!」

 

口の動きまでもがゆっくりとみえる。

 

「刃殿!」

 

俺がずっと、剣をつかわず、よけていたのか愛紗の表情が険しくなる。

 

「・・・・いやいや攻撃できないんだよ」

 

俺はかわしながら、そういう。

 

「冗談はやめてください!本気を出してください!」

 

「いや・・・本気なんだけど・・・」

 

「うそです!あの時、私が感じた氣は嘘ではなかった!」

 

「あの時?」

 

「あなたが桃香様の前で剣を抜いた時です」

 

一瞬だったから誰にも気づかれていないと思っていたが、さすが愛紗だ。

なんとか、切り抜けたいと思ってはいたが、さっきから、恋と星の視線が痛いしな。

さて、じゃあ、そろそろいくか

 

「・・じゃあ、俺からもいくとするよ」

 

そういって俺は一度愛紗から距離をおき、剣を再び構える。

 

「いくぞ、愛紗!」

 

そして俺は愛紗との距離を一気に詰めた。

 

 

~愛紗視点~

 

すごい、これだ、あの時感じたものは。

刃殿が剣を持ち直すと、刃殿からあの時と似た覇気を感じる。

そしてその直後彼は一気に間合いを詰めてきた。

 

重い!

 

この仕合のなかで初めて剣と剣がぶつかりあった。

 

わたしがおされているだと!

 

「さすが、です刃殿」

 

そういって私は彼を見ると、仮面越しの目が私の目をとらえていた。

 

怖い・・それは余りにも冷たい目だった。私は彼の目に飲み込まれていった。

私は震えていた・・剣がふれない・・・

私が?そんな、そんな!

 

「うわあああ!」

 

私は叫びながらその動かなくなった体を無理やり動かす。

 

「動きが単調になっているぞ、愛紗」

 

そして彼は私の大振りな攻撃をよけ、せまってきた。彼の顔はすぐ私の目の前にあった。

怖い・・飲み込まれる・・このままじゃ!

私はなんとか刃殿から距離をとる。

 

「やはり、私があの時感じたものは勘違いではなかったということですか・・」

 

私はすこし彼から離れたところからそんなことを言う。

先程から流れる汗の量が尋常ではない。

 

そんな私の質問にも彼は無言のまま立っている。

 

私が・・圧倒されているというのか?

桃香様のために磨き上げてきたこの武が全く通用しないというのかっ!

くっ!

 

「はああああ」

 

私はもう一度叫びながら刃殿との距離をつめる。

しかし刃殿は私の攻撃を、刃をねかせ、ひらりとかわしている。

 

悔しかった・・

何もできない自分が悔しかった・・

今の自分は観客たち、そして桃香さまたちからみたらみじめなのだろうな。

先程から私の攻撃はまったくあたっていなかった。

 

絶望した、自分の無力さに・・・

 

私はそんな自分をかき消すかのように刃殿に突っ込んでいった。

しかし、私の剣は空中をまった。虚しい音が武闘場に響く。

刃殿に私の剣は、はじき飛ばされたのだ・・

 

私は膝をついた。なにもできなかった。

 

 

「まいり、ました」

 

刃殿は私を見下ろしていた。

 

「な・・んで」

 

私にはわからなかった、自分が敗れた理由が。とてつもなく悔しかった。

 

「・・・愛紗、君の武は誰がためにある」

 

刃殿は私にそう一言をのこし、闘技場を出て行った。

 

誰が、ため?・・・私は・・私の武は・・

 

 

 

 

~そのころ魏では~

 

「―――以上が今回の蜀での一連です、華琳さま」

 

玉座の間には魏の将が集まっていた。

そこで、軍師である桂花は華琳に馬岱からきいたことをもとに蜀の事件について話していた。

 

「そぅ、ありがとう桂花、ふむ、

風、あなたはこの呂白というものについてどう思う?」

 

「ぐぅ~~~・・・」

 

「起きなさい、風」

 

「おおっ、あまりにも情報がなくてつい・・・

 そうですねー・・・白帝城と恋ちゃんの兄ということが

 本当ならば、なぜ今まで名を聞かなかったのか、

 それが不思議ですねぇ・・・」

 

(なんでですかね、風はその人が

 お兄さんじゃないかって思ってしまうのですよ・・・

 でも、そしたらなぜ・・?)

 

「そう、あの飛将軍呂布の兄、呂白・・・か

 その武が本物ならほし“男なんてもう十分ですっ!!”

 ・・・・桂花?」

 

「あっ、そ、その申し訳ありません」

 

桂花の一言に皆が北郷一刀のことを思う。

 

「そぅ、悪かったわね、桂花」

 

「いっいえ・・わたしはあんな男なんて・・・」

 

(だれも、一刀のことは口に出していないのだけれど・・

 一刀、あなた、桂花までこんなにして・・・

 なにやってるのよ、はやくかえってきなさい)

 

玉座の間は沈黙につつまれる・・・・

それほどまでに北郷一刀が消えたという事実は、今だに

魏に大きな悲しみをもたらしていた。

 

 

~呉~

 

「雪蓮様!報告に参りました。」

 

「ありがとう、明命。報告とは今回の蜀のことね」

 

「はい。」

 

そういって、明命は雪蓮をはじめとした呉の武将たちにことの詳細を伝えた。

 

「そう、一応、その呂白についての情報が欲しいわね。

明命、悪いんだけど、蜀にいってくれるかしら」

 

「御意」

 

「そしたら、今日は解散!みんな戻っていいわ」

 

 

~雪蓮視点~

 

私はみんなにそういって、玉座の間をあとにした。

そして足早に、離れの静かな部屋に歩いて行った。

 

「冥琳、起きてる?」

 

私はそう、部屋の主に声をかける。

 

「ああ、雪蓮か、起きてるぞ」

 

そう声が聞こえたので私は部屋に入った。

そこには私の親友が寝台で横になっていた。

私はそんな姿をみながらも、すこし拳を握り、笑顔をつくって話し始める。

 

「―――というわけでね、呂白って男がいるんだ、私あいにいっちゃおうかなあ」

 

「雪蓮らしいな、でもそんなことしたら祭殿が怒るぞ」

 

「・・・冥琳は?」

 

「私はもちろん、その・・・だな」

 

そういいながら彼女の顔はくらくなる。

 

「すまん、雪蓮、一人にしてくれないか?」

 

「うん、またくるね!ちゃんと寝てなよ冥琳!」

 

私はそういいながら、扉をしめる。そしてそこに崩れるように座る。

正直見たくなかった。冥琳のあの表情は、親友のあんな顔は・・・

 

扉のむこうでは彼女の泣く声が聞こえる。

 

私はただ、何もできずにその扉に背中を預け、ぼうっと座っていた。

 

 


 
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