No.471184

ロウきゅーぶ! Another Wing エピソード1 エピローグ 思いを込めたシュート

激突皇さん

エピソード1 エピローグ

2012-08-16 22:40:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3875   閲覧ユーザー数:3793

「・・・ん、完全復活ってとこだな」

女バスと男バスの試合から約一週間、右腕と左足を回し完治したことを確認する

案外あっさり治ったようで一安心だ

「さーて、そろそろ来る頃か」

時計を見ながら着替えを済ませ、一階のリビングに降りる

するとちょうどチャイムが鳴り、玄関を開く

「おはようございます。 翼さん」

「おう、おはよう」

そこには智花がいた

実を言うと怪我をしてから智花はこのように毎日家に通っている

自分達のせいで俺が怪我をしたことに負い目を持ったのか代表して智花が看病する、ということになったらしい

いいって言ったんだが頑にやると言うので俺が折れたのだった

「あ、もう包帯取っても大丈夫なんですか?」

智花は俺の右腕を見てそう言う

「あぁ、もうばっちりだ」

それに俺はシャツを捲り右腕を見せ、怪我した箇所を叩いて完治したことをアピールする

「そうですか、よかったです」

それを見てホッとしたように息を吐く、っていつまでもくっちゃべってるわけにもいかねぇか

「んじゃ、とりあえず上がれよ」

「はい、お邪魔します」

ひとまず智花を家に上がるように促し、智花はそれに頷いた

「あ、智花さん。 おはようございます」

「おはよう、渚ちゃん」

リビングに入ると渚がトーストをかじっていた

「あれ、兄さんもう治ったんだ」

「あぁ、大体完治した」

「そう、ならもう智花ちゃんも来なくなるのかしら?」

席に着き、話していると俺達の分の朝食を持って姉ちゃんがやってきた

「あ、おはようございます、楓さん」

「おはよう、智花ちゃん。 はい、どうぞ」

「いつもすいません、それにもう翼さんの怪我も治ったのに・・・」

姉ちゃんから朝食を受け取ると智花は申し訳無さそうにする

「いいのよ、翼がお世話になったんだから。 それに家の中じゃもう智花ちゃんは家族みたいなものよ」

「そうですよ、私もお姉ちゃんが増えたみたいでうれしいんですから」

「そんなっ、私が皆さんの家族なんて厚かましいですよっ」

姉ちゃん達が謙遜する智花にそんなことを言うものだからまた智花はあたふたと慌てる

それを見て姉ちゃんは

「あーん、もう智花ちゃんったらホント可愛いんだからぁ」

「ひゃあっ!」

智花を抱きしめ撫で回した

姉ちゃんは可愛いモノが好きで、智花のことをかなり気に入ったようなのだ

「ほんと、兄さんにはもったいないぐらいですね」

「おいこら」

「うぅ・・・」

「まぁ智花ちゃんを愛でるのはこのぐらいにして、さっきのことだけど」

顔を真っ赤にした智花を放して、姉ちゃんは話を変える

「さっきのことって?」

「翼の怪我が治ったから智花ちゃんはもう家に来なくなるのかって話、私としてはこれからも来て欲しいんだけど」

それを聞いた智花はちょっと困ったような顔をして

「・・・すいません、皆さんにご迷惑ですし。 それに朝練もしたいので」

「そっか、それじゃあしょうがないね。 でもたまには遊びに来てよ、お友達も連れてさ」

「はいっ、是非みんなと一緒に遊びに来ます」

姉ちゃんの言葉に笑顔で答える智花、それを見て

「あーん、やっぱ智花ちゃん可愛いー! ホント、家の娘にならないかしら」

「ふぇぇぇぇぇえ!?」

姉ちゃんにまた抱きしめられ、今度はさっきより顔を真っ赤にして慌てる智花

娘って、おい・・・

「姉ちゃん、そろそろ時間だぞ」

「あっとそうだった、それじゃ、戸締りよろしくね」

「はーい、いってらっしゃい」

「いってらっさい」

「はっ、い、いってらっひゃい!」

牛乳を飲み干し、姉ちゃんは大学へと向かった

今日は休日だがなにやら大学のサークルの集まりがあるんだとか

そして智花はまだ動揺してるのか送り出す際、噛んでいた

「えっと、それじゃあ私もそろそろ失礼します」

「いいんですか?もっとゆっくりしていってくださっても・・・」

「その、今日も挑戦したいから・・・」

「あ、そうでした」

そういやまだ挑戦中だったんだな

・・・よし

「智花」

「はい?なんでしょうか」

「今日、俺も行っていいか?」

その言葉に智花は一瞬驚いてから笑顔で頷いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう智花、今日は翼も一緒か」

「お久しぶりです、昴さん」

長谷川家玄関前

俺は智花と共に昴さんの家に来ていた

なぜここに智花は来ているかというと

「今日も挑戦、するの?」

「はい、今日はいけそうな気がするんですっ」

「昨日もそんなこと言ってなかった?」

「はぅぅ・・・」

あの試合の後、昴さんがコーチをやらないと言ったのに女バスの娘達は猛反対

そこで美星さんがある条件を出した

智花がフリースロー50本達成したらコーチをする、というものだった

それを昴さんは軽い気持ちで受けたらしく、それでいて期間を決めていなかった為こうして毎日智花は俺の家に来た後、昴さんの家に来てフリースローに挑戦していたのだった

・・・ちなみに俺もコーチをやらないと言ったが条件は飲んでいない

なぜなら昴さんの場合は「自分がやるよりちゃんとしたコーチに教わった方が良い」という理由だが俺の場合は違う

俺はみんなを守る為とはいえ、暴力沙汰を起こしてしまったのだ

そのことで学校の先生にも怒られた、しかしそんなことはいい

こんな「暴力生徒」のレッテルを貼られたやつがコーチなんてしたらみんなに迷惑がかかる、ましてや私立の名門(だったか?)学校だ、俺のせいでまた部が廃部になるということもありうる

それを言ったのでみんなも渋々だが納得してくれた

智花は最後までコーチをするよう頼んできたが最後は諦めた

「・・・これで30、か」

気付くと智花のフロースローは30本に達していた

にしてもやっぱ智花のシュートは綺麗だよな

こうやって何本も見ていても飽きない、むしろこうしてずっと見ていたいぐらいだ

「今日はいつにも増してすごい集中力だな」

「そうなんですか?」

確かに智花の表情は真剣そのものだ

だが智花はバスケにはいつも真剣だし、それが今日に限って、ってことは無いんじゃないか?

「・・・40」

智花はぼそりとそう言う

そう言われると今日の智花はすごい集中力だ

・・・もしかして俺の怪我が治って気負ってた物がなくなったからか?

だとしたらこれまで俺は智花の枷になってたってことか

悪い気がするな

「45、あと少し」

ついにあと五本まで来た、ここまで来てまだ智花のシュートの制度は落ちていない

ホント、すごいやつだよ、お前は

「49・・・」

「あと一本か」

あと一本、これを外したらこれまでの苦労が水の泡だ

相当なプレッシャーが圧し掛かっているのだろうが智花の顔は・・・笑っていた

「・・・真帆は」

ボールを見つめながら、智花はポツリと話し始めた

「あれから毎日シュート練習してます、庭にゴールを作ってもらって。 沙希もよく一緒に練習してるみたいです」

庭にゴール作るって、もしやとは思ってたが真帆ってめっちゃ金持ち?

なんてことを考えつつも智花の言葉を聞く

「愛莉もあれから毎日走り込んでますし、ひなたも自分なりに頑張ってます」

「・・・そっか」

俺はそれを聞いてそれだけ返した

あの二人も、少しずつだが前に進んでんだな

「・・・みんなのこと、気になりますか?」

そして視線をゴールに移し、そう聞いてきた

「そりゃあ、ね。 でも今のこと聞いてちょっと安心したかも」

昴さんは少しだけ笑ってそう答えた

「・・・翼さんは、どうですか?」

「・・・俺も、気になってた。 愛莉はセンターやってくれてるか心配だったし、ひなたとは役割を教えてやるって約束してたし、沙希にもちゃんとしたルールを教えておきたかったし、真帆が真面目にやってんのか見たかった」

今まで隠してたがなぜだか全部話してしまった

なんというか、隠す必要がなくなった、そんな感じだ

「・・・そうですか」

俺の言葉を聞いた智花はクスッと笑ってそう言った

「それじゃあ、このシュートが入ったら・・・一緒に来てくれませんか?」

「・・・あぁ、判った」

俺は行き先も聞かずに頷いた

まぁ、行き先に関しては多分慧心学園だろう

だが行かないと決めていたのに、俺は頷いてしまった

それも智花が外すと思っていたわけではなく

むしろ・・・絶対に入る、そう思っていた

「約束・・・ですよ」

そう言って智花が放ったボールは・・・

虹のようなラインを描き

ゴールネットに吸い込まれていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここに来るのも久しぶりだな・・・」

バスに揺られて数十分、俺は智花に連れられ昴さんと共に慧心学園へとやってきた

たった二週間程度しか来てなかったのにどこか懐かしい気分になる

「こっちです、来てください」

感慨不覚校舎を眺めていると智花に呼ばれたので俺達はそれについていった

そして校内を歩くこと数分、聞き覚えのある声が聞こえて来る

「この声って・・・」

「あいつらか?」

その声の主は恐らく女バスのみんなだ

だが休日なのにこんな朝っぱらからなにしてんだ?

気になって声のするほうへ向かうと・・・

「署名、お願いしまーす!」

「はい、こちらにお願いします!」

「おー、ありがとうございます」

「お、おねがいしますっ」

そこには通りすがる生徒達に必死に署名を促しているメンバーがいた

「・・・あれ、翼さんがここでコーチができるようにするためなんですよ」

「へ?」

不思議に思っていると智花が説明してくれた

俺がここで・・・?

「みんな本当は納得なんてしてません、みんな翼さんにコーチをして欲しいんです。 だから翼さんが戻って来れるよう、あぁやって署名してるんです、翼さんが本当は優しい人だって、翼さんは私達のために必死に頑張ってくれてたんだって判ってもらえるように」

「あいつら、そんなことしてたのか」

「美星先生もいろんな先生に翼さんがコーチをできるようお願いしてます、・・・みんな待ってるんです」

・・・ったく、そんなの聞いたら・・・

「あっ!もっかん!すばるん!それにつばさっち!」

俺達に気が付いたみんなはこちらに駆け寄ってきた

「トモ、お二人がいるってことはもしかして・・・」

「うんっ、成功したよ、50本」

「やったっ智花ちゃんすごい!」

「おー、ともか、おめでとう」

そしてまずは智花にさっきの50本シュートのことを話す

成功したことを聞いたみんなは智花に思い思いの言葉を贈っていた

「これですばるんはおっけーだな、あとは・・・」

しばらく喜び合ってから、真帆の言葉と共にみんな俺に視線を向ける

「あ、あのっ。 小鳥遊さん、実は・・・」

沙希が言おうとしたのを俺は手で制する

「・・・話は智花から大体聞いた」

「そう、でしたか・・・」

俺からそう聞いたみんなは顔を合わせて意を決したような表情になり

「つばさっち、戻ってきてよ! みんなつばさっちが乱暴だって思ってないよ!」

「先生方も少しずつではありますが了承してます、ですからお願いします!」

「つばさ、ひなにバスケ教えてください」

「また、私達のコーチをしてくださいっ。 私、もっと小鳥遊さんにいろいろ教えてもらいたいです!」

「私達、翼さんにコーチしていただきたいんです! 翼さん、お願いしますっ!」

『お願いしますっ!』

それぞれの言葉と共にみんな頭を下げる

そんな彼女達を一人ずつ見て俺は・・・

「・・・判った」

一息置いてから口を開け、みんなも顔を上げる

「こんな俺で良ければ、お前等のコーチ、やらせてくれ」

そして俺のその言葉を聞いて一斉に笑顔になり

『・・・やったーーーー!!』

万遍の笑顔で飛び跳ねたり手を取り合ったりして喜び合った

・・・あぁ、なんだかんだでここももう、俺の居場所になってんだな

そう思いながら俺は喜び合うみんなに笑いながら言う

「ありがとな。 そして、これからよろしく」

『はい、よろしくお願いします!』

俺の言葉にみんなは声をそろえて返事をする

それを確認してから昴さんに体を向け頭を下げる

「昴さんも、いろいろ教えてもらうことがあると思うのでよろしくお願いします」

「あぁ、こちらこそ、よろしく」

昴さんは俺に手を差し出し、それを俺も強く握った

「さて、とりあえずこのことを美星さんにも報告しねぇとな」

「みーたんなら今職員室にいると思うよ」

「おし、んじゃ行くか」

「はいっ、ご案内しますっ」

・・・その後、俺は女バスのメンバーと昴さんと一緒に美星さんに報告をしてから、慧心の教師達に頭を下げに行った

最初は何か言われるかと思ったが美星さんがあちこちに頭を下げてくれたおかげか快く受け入れてもらえた

まぁ、あのカマキリ先生には睨まれてたが

何はともあれ、また女バスのコーチになったんだ

今度は、ちゃんとしたこと教えてやらねぇとな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日、例の如く自転車を走らせ慧心学園へとやってきた俺

途中で昴さんと合流し、体育館に辿り着いた

「なんかすごい久しぶりな感じがするな、ここに来るのは」

ぼそっと呟く、それに昴さんも頷き

「あぁ、実際は一週間程度なのにな」

「はい、それだけあいつ等といた時間が濃かったのかもしれませんね」

「そうだな」

そう思うとなんだか感慨深いものがあるな

自然と出てくる含み笑いを抑えつつ、扉の前に立つ

「んじゃ、開けますか」

そして軽く意気込みながらドアノブを握る

そういえば初めてここを開いたときはメイド姿で出迎えてきたよな

またそうだったら・・・まぁ今回ぐらいは大目に見るとしてやるか

なんてことを思い、ドアを開いた、すると・・・

 

 

 

 

『お帰りなさい! あなた!』

 

 

 

・・・思わず一瞬思考停止しかける

なぜならドアを開くとそこには学校指定であろう水着の上にエプロンを着た五人の少女がいたからだ

彼女達はそんな俺と、同じく固まっている昴さんを体育館の中に引っ張り込んだ

「さ、とりあえず座って、あなた。 おやつにしましょう」

「あはは、オッスあなた! おら、ポッキー食え!」

「おにーちゃん、つばさ、いちご味もあるよ? ひなはいちご味好き」

「ヒナっ!違うだろ、今だけは『あなた』だってさ!」

「おー。 そうだった」

そして沙希、真帆、ひなたの三人に菓子を差し出される

ふと辺りを見渡すと

「うぅ・・・・・、沙希ちゃんに任せておけば、大丈夫だと思ったのにぃ」

「ふぁ・・・・・見てる。 翼さんが、こっち・・・・・どうしよう」

愛莉と智花が顔を真っ赤にして肩を竦ませていた

そんな唖然と見渡していた俺を見て沙希は

「どうしたんですか、あなた? ぼうっとして・・・・・あ、もしかして見惚れちゃいました?ふふ、ですよねっ! いろいろ話しを聞いたり、自分で観察した結果お二人のツボはこの辺だろうと判断しましたので。 やっぱり私の狙いは真帆なんかよりずっと的確ですよねっ?」

と、やや興奮気味に言ってきた

まさか今回は沙希の提案なのか・・・?

沙希、お前はこんなアホなことしないと信じてたのに・・・

「お前等・・・・・」

「はい?」

俺は項垂れていた頭をゆらりと上げ、息を吸い込んでから

ここに来て三回目になるセリフを叫んだ

 

 

「今すぐ着替えて来い!!」

 

 

この俺の叫びは体育館を越え、学校中に響き渡ったそうだ


 
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