No.456031

特捜戦隊デカレンジャー & 魔法少女まどか☆マギカ フルミラクル・アクション

鈴神さん

見滝原市にて、謎のエネルギー反応が続発する。一連の現象について調査をすべく、見滝原市へ急行するデカレンジャー。そこで出会ったのは、この世に災いをまき散らす魔女と呼ばれる存在と戦う、魔法少女と呼ばれた少女達。本来交わる事の無い物語が交差する時、その結末には何が待っているのか・・・
この小説は、特捜戦隊デカレンジャーと魔法少女まどか☆マギカのクロスオーバーです。

2012-07-20 00:13:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2483   閲覧ユーザー数:2464

Extra Episode.02 レイニー・ガールズ

 

土砂降りの雨の中、長い黒髪の少女は走っていた。傘もささず、全力で町の中を駆け抜ける。その手の中には、一匹の黒い野良猫。だが、その命は今にも尽きそうな、まさに風前の灯火だった。それもその筈、この猫は、数分前に道路で車に轢かれていたのだから。少女が目指す先は、知り合いの獣医。自分の手の中でどんどん冷たくなっていく猫を助けるために、少女はひたすら走り続ける。

見ず知らずの野良猫を助けようとする自らの姿に、少女はかつての自身を投影しながら・・・

 

 

 

「・・・先生、この子は・・・」

 

見滝原市にある動物病院、獅子どうぶつ病院の診察室。院長の獅子走が、真剣な面持ちで目の前の患畜たる猫の容体を確認する。その傍らで、猫を運び込んできた少女――暁美ほむらは、不安げな表情を浮かべて診察の様子を見守る。

 

「かなり危ない状態だ・・・緊急の処置が必要になる。君は外で待っていなさい。」

 

獣医は冷静な風を装っているが、額から流れる汗と、焦りを隠した表情とが、目の前の猫がどれ程危険な状態なのかを物語っている。ほむらに横目で退室を促すや、手袋を嵌めて注射器等を取り出す。ほむらもまた、目の前の命の危機に焦りを浮かべながらも、自分が何も出来ない事実を受け止めて、診察室を出て行く。

 

(なんで・・・あの子の運命は、変えられなかったの?)

 

猫にとってほむらに会うのは初めてだが、ほむらにとってはあの猫に会うのは今回が初めてではなかった。

ごく一部の人物しか知らない真実・・・数年前に起こった、全宇宙を震撼させた大事件。関係者はのちにそれを『魔法少女事件』と呼んだ。ほむらは事件の元凶となった、インキュベーターと契約した魔法少女として、事件に関わっていたのだった。そして、彼女が契約によって得た、魔法少女としての能力・・・それは、『時間跳躍』だった。

 

(まさか、またあの子に会う時が来るなんて・・・エイミー・・・)

 

“エイミー”――名もなき野良猫の、あった筈の名前を知る人物は、今やほむら以外に存在しない。時間跳躍の力で繰り返した世界の幾つかにおいて、野良猫はその名前を貰った。エイミーと呼ばれる猫は、ほむらが巡る世界の中で、必ず事故で瀕死の重傷を負っていた。そして、命の危機に瀕していた状況を助けたのは、他でもない、自分が救おうとしていた親友だった。彼女の唯一無二の親友は、魔法少女の契約の代償として、エイミーの命を救ったのだった。しかし、その契約は彼女自身、そしてほむらにとっても、絶望という結末しか齎さないものであったが・・・

 

(魔法少女の契約が無ければ・・・あの子には絶望しか無いの・・・?)

 

あらゆる願いを叶える代償として、人間の尊厳の否定に値する最悪の行為と断じた筈の、魔法少女の契約。誰よりも憎んだ筈のそれを、今ほむらは心のどこかで求めていたのかもしれない。契約という手段以外での救済が出来ない、小さく哀れな命に、ほむらは久しく心に悲愴を抱いていた。

だが、同時に疑問も湧いた。何故、自分はあの猫にここまで入れ込んでいるのだろうか。人が死ぬ場面を何度も見てきたほむらが、今更同情や憐れみなどという感情を抱く筈も無い。親友の願いだったとしても、その所為で親友と自分は絶望に落とされたも同然なのだ。むしろ恨むべき存在の筈なのに・・・自分は、あの猫を、エイミーの救済を願っている。

 

「ほむらちゃん・・・」

 

そんな疑問を抱く事しばらく。診察室の扉が開き、中から走が姿を現す。悲しみに満ちたその表情を見れば、ほむらもあの猫の結末がどうなったのか、容易に想像できた。

診察室に入ったほむらを出迎えたのは、診察台の上で横たわり、先程よりもさらに冷たくなったエイミーの姿だった。命の鼓動は、完全に止まっていた・・・

 

 

 

都心の一角にある喫茶店、カフェ・マル・ダムール。店主がコーヒーのブレンドの腕が一流なことで知られ、過去には一杯のコーヒーに1万円を出した客も来た程の評判だった。だが現在、そんな一流コーヒーに並ぶ新たな商品として、“紅茶”が頭角を現していた。そしてその紅茶を入れているのは、なんとアルバイトの女子高生だったりする。

 

「いらっしゃいませ。」

 

件の紅茶担当の少女――巴マミが、店の戸を開いて入ってくる客に挨拶する。現在、マル・ダムールの店主は店から出ており、代わりに彼女が店番をしていた。といっても、外は生憎の土砂降り。店に来る客などほとんど居なかった。

マミはそんな雨の中にも関わらず、来店してくれた客に営業スマイルを向けるが・・・

 

「あら・・・暁美さん。」

 

現れた客の姿に、マミは若干驚きの声を発する。驚いた理由の一つは、来店したのが自身の知人である少女だったから。そしてもう一つ、その少女――暁美ほむらが、ずぶ濡れだからだった。

 

「どうしたの?そんな格好で・・・」

 

マミは心配そうにほむらに声を掛けながら、カウンターから出る。このままでは風邪を引いてしまうと思ったマミは、ほむらにタオルを用意するとそれを差し出す。

 

「濡れたままにしておくのは良くないわ。これでちゃんと拭いて。あと、着替えが店の奥にあるから、着替えてくると良いわ。」

 

「・・・ありがとう。」

 

タオルを受け取りながら、感謝を述べるほむら。だが、その表情にはどこか暗い物があり、マミもそれを感じ取っていた。ほむらとマミ・・・彼女達は、かつて起こった『魔法少女事件』以来の旧知の仲にして、同じ魔法少女という境遇で共闘した事があった。

もともと異なる主義のもとで魔法少女として活動してきた彼女達だったが、それも昔の話。今では普通の少女として話が出来る間柄になっていた。

 

 

 

店の奥で着替えを済ませたほむらは、カウンター席でマミと向かい合っていた。時刻は夕方に差し掛かり、店内にはほむらとマミ以外誰も居なかった。紅茶を入れつつ、マミはほむらに尋ねる。

 

「何があったのか、話せるかしら?」

 

店内に二人だけの状態になったらしようと思っていた質問だった。土砂降りの雨の中で、傘も差さずに町の中を歩き、この店へ来たという事は、自分に何か聞いて欲しい話があったのだろうとマミは察していた。そして、相談相手に自分を選んだという事は、話しの内容が数年前の事件に、もっと言えば、魔法少女に関わる事であるということだと考えていた。

マミの問いかけに対し、ほむらは然程抵抗も無く、話しだす。魔法少女でなくなった以上、既に互いに隠すべき秘密など無い。ごく自然に会話に入る事が出来た。

 

「今日、道端で事故に遭った猫を拾ったのよ・・・」

 

「そう・・・」

 

ほむらの言葉に対し、マミはそれだけ言って、次を促す。深刻な話である事を承知している以上、無理に聞き出そうとは思わない。話したいなら聞く、マミにとってはそれだけだった。

ほむらはその後、今日の雨の日に起きた出来事のあらましを話した。その猫がエイミーという名前だということ・・・自身が何度も巡った時の中で出会ったこと・・・その猫の死に、自分が言葉に表せない、自分自身でも分からない感情を抱いたこと・・・

マミは終始無言でそれを聞くだけだった。ほむらが他人の同情や共感を求める人物でない事は知っていたので、下手な慰めなど意味が無い。マミに出来る事は、話しを全て聞き、ほむらの本心を理解する事だけだった。

 

「魔法少女の契約があったなら、まどかじゃなくても・・・あの子が助かった可能性があったのかもしれない・・・」

 

「そう・・・でも、それは都合が良すぎるんじゃない?」

 

「・・・そうね。魔法少女の契約を誰よりも憎んだ身で、そんな事を口にする資格なんて無いわよね・・・」

 

「まさにその通りね・・・奇跡は、本当なら人の命でさえ購えるものじゃない、あなたが言った言葉よ。」

 

マミのシビアな指摘に、しかしほむらは反論しない。自分でも分かっていた事実を、明確化しただけのこと。そして、それをこそほむらは望んでいたのかもしれない。

 

「それに、あなたは自分の魔法に甘え過ぎていたのかもしれないわ。」

 

「・・・それは、どういう意味?」

 

マミの言葉の意味が理解できず、問いを投げるほむら。マミはほむらの顔を見て、淡々とほむらに対して抱いた考えを述べる。

 

「時間跳躍・・・都合の良い魔法があったものね。本人が望む限り、何度でもやり直しが利くなんて・・・」

 

皮肉にも似た響きを持ったマミの言葉に、しかしほむらは動じず、目線だけで次を促す。マミもほむらの意思を理解し、言葉を続ける。

 

「契約で命を繋いだ私が言う資格なんて無いけど、やり直しなんてものは、本当なら望んではいけない事なのよ。インキュベーターと戦ったあの時は、皆の想いを一つにして、未来を掴もうと思ったから、成功したのよ。あなたの願いが叶ったのは、偶然に過ぎないわ。それに・・・」

 

表情を変え、今度は優しげにほむらに言葉を投げかける。

 

「鹿目さんが、私達の目の前で言っていたじゃない・・・この世界には、たくさんの喜びや幸福があるけど、それと同じくらい悲しみや不幸もあるって。だから、私達はもっと一生懸命生きなきゃいけないんじゃないかしら?精一杯生きた果てに掴む未来に、やり直しを望んではいけない・・・私はそう思うわ。」

 

「・・・・・」

 

マミの言葉に、あの決戦の日に立ち合った親友――まどかの姿を思い出すほむら。彼女は、自身の手で未来を作るために、インキュベーターの奇跡を否定した。それは、魔法少女の契約を否定する事に加え、これから自分達に起きるどのような不条理でも受け入れる覚悟を表明したことにほかならない。彼女はこの先、自身に降りかかる運命をそのままに受け入れ、自らの力で抗うことを選んだのだ。

 

「そうね・・・大切なことだったのに、魔法に頼り切っていた所為で、忘れてしまっていた様ね。」

 

親友がその道を選んだ以上、自分が運命に介入する事は許されない。譬えその行為が救済に繋がるとしても、それは精一杯生きようとする人間に対する侮辱に他ならない。

時間跳躍という、やり直しの術を幾度となく使っていた自分は、それを理解していた筈なのに、理解する努力を怠っていたのかもしれない。やり直しを望み、人一人の身では叶わない多くを望んでしまっていたのかもしれない。

 

「あの子が死んだ事は悲しい・・・でも、こんな悲しい事がある世界に生きる事を、私達は選んだ・・・」

 

「そうよ・・・運命は変えるもののではなく、戦うもの。どれだけの不幸が合っても、人は未来を切り開けるだけの強さを持っている。」

 

「まどかが言っていたことね・・・おかげで、大切なことを思い出せたわ。ありがとう、マミ。」

 

「どういたしまして。」

 

笑顔で答えるマミ。ほむらの表情には、先程までの鬱憤や迷いは無く、その心中に渦巻いていた雲は消え、晴れやかだった。

 

「紅茶、美味しかったわ。ありがとう。お代はここに置いておくわね。」

 

「まいど、ありがとうございます。」

 

「この腕なら喫茶店を開くっていう夢も叶いそうね。」

 

ほむらの言葉に、少々照れた風を見せるマミ。マミが魔法少女としての宿命から開放されて以降、志した夢は、自身の喫茶店を開く事だった。

 

「あなたこそ、自分の夢を持てるよう頑張ってね。」

 

「ええ・・・」

 

短く答えて、喫茶店を後にするほむら。時刻は既に夜。日は沈んでいるが、雨は降っていない。雲は既に晴れ、空には星空が覗いていた。夜空一面に広がる星々を眺めながら帰路に就くほむらの歩調は、軽かった。

変えられない、不幸な運命が立ち込める世界の中で、少女達は生きている。だが、それを悲観する事は決してしない。人が今までそうしてきたように、自分もまたその力で、運命を切り開けるのだから。

 


 
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