No.454340

俺はあなたの心が知りたい

いっちぃさん

いつも、へらへらしている足立に疑問を持つ総司。本性を知りたくて、足立に対して色々してみるが…。主人公名は瀬多総司ですが、漫画とは別人です。
発行同人誌「俺はあなたの心が知りたい」のサンプルになります。

2012-07-16 22:32:33 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:682   閲覧ユーザー数:682

 

エブリデー、ヤングライフ、ジュネス

いつものテーマソングの流れる店内。足立はコロコロとショッピングカートを転がしていた。

「お茶を買って、お弁当を買って…」

ポケットにねじ込まれてぐしゃぐしゃになっているメモを、ごそごそと取り出し、本日の買い出しの確認をした。

捜査会議があるから、昼食を買ってこいと命令を受け、ジュネスにやって来ている、サボりではなく。

さすがに、結構な量の買い出しで地味に…いや、地味どころじゃない重さになっていた。それも踏まえて、若い足立が選ばれたわけだが。

「はぁ…今はカートに乗っているからいいけど、これを持って帰れるかな…はぁ…気が重い…」

いっそ、テレビの中にコンビニでもあれば楽なのに…などと考えてる間に、レジに到達した。

「足立さん、いらっしゃいませ」

「そして、キミがいるっと…」

なぜか、レジに並んで会計になるとかなりの確率で瀬多総司に遭遇する。人はこれを運命と呼ぶのかどうかはまた別の話だ。

「今日は、沢山買いますねー。いつも、キャベツなのに」

「…失礼だよ、キミ。今日は捜査本部の買い出しに来たの」

「そうだと思いました。さすがにこの量、一人じゃ食べきれませんもんねー。あ、領収書を書きます?」

「書いといて」

言われ、あて名と但し書きを書き、自分のハンコを押そうとした時、ふと総司の口が動いた。

「足立って苗字、いいですよね」

「は?何を言ってるんだよ」

突然、意味の分からないことを言われ間抜けな声が出てしまった。

「いえ、ふと思ったんですけど足立ってどこの100均でもハンコ、売ってるじゃないですか。瀬多ってないんですよね、珍しくなさそうなんですけど」

「ああ、そう」

激しく興味がなさそうな反応を足立は返す。

「俺も簡単な苗字だったら楽だったんですけど」

言いながら総司から領収書を手渡された。さすがにポケットにねじ込む訳にはいかないので、足立はレジ袋の中にポイッと入れた。

「ところで、これ全部一人で持って帰るんですか?」

「…他に誰が持ってくれるんだよ…」

「確かにそうですね、失礼しました」

「はぁ、これじゃ腰を痛めちゃうよ…トホホ…」

「ありがとうございました」

会釈をし、レジ袋を両手に持ちヨロヨロしながら歩き出す足立を見送った。

「う~ん、確かに腰を痛めそうだな…痛んだらやっぱり…うん」

そんなことを一人心地につぶやきながら、総司は業務に戻っていった。

 

 

ジュネスのバイトも終わり、店内である探し物を総司は始めた。

「よっす、バイトお疲れさん」

「陽介はまだ仕事?」

「まぁな。日曜日だから夕方以降は空くとは思うんだが、まだやること残ってるから」

店内を見渡すと、まだ賑わいを見せていた。特に親子連れが目立つ。

田舎だと、娯楽が少ないために家族でジュネスに買い物に行く、というもの休日には多いのだろう。

「そうか。程々にな」

「それより、探してるものがあるんだが…」

バイトをする場所が、地下の食料品売り場が多いため、ほかのフロアの場所はよく把握出来ていなかった。

「お、何探してるんだ?どこだか教えちゃうよ」

さすが、陽介。場所の把握はばっちりのようだ。

「ドーナツクッション探してるんだが…」

「はぁ?ドーナツ…お前って、痔持ち…」

あまりにも意外なものを探していた為、聞いた途端に、目をぱちくりさせた。

「いやいや、せめて腰痛かって聞いてくれよ」

「え?腰痛なの??」

「そういうわけじゃないんだが…」

「ふーん。さしずめ、堂島さんにでも買ってあげようとかそんなんか?」

「まぁ、そんなところだ。で、あるのか?」

「あるぜ。端のインテリアコーナーのところに」

「サンキュー、助かったよ。じゃ、仕事頑張れよ」

「おう!頑張っちゃうよ」

陽介と別れ、さっそくインテリアコーナーに足を運ぶ。

そして、お目当てのクッションを見つけ、即購入した。

「あとは…本屋に寄って帰ればいいな」

 

 

「おにいちゃん、何読んでるの?」

ご飯を食べ終わり、片づけも終わり、本日の業務が終了したので買ってきた本をさっそく広げていた。

「ちょっと雑学の勉強を、ね」

「ざつがく…?」

菜々子は首を傾げながら質問する。雑学は学校で勉強はしないから、どんなものか菜々子は想像できないようだ。

本にはカバーがかけられており、中身を確認することが出来ない。

「簡単に言えば、学校では習わない勉強の事だよ」

「がっこうで、ならわない?」

「うーん、何て言えばいいのかな?」

うまい表現が思いつかず、総司は云々唸り始めた。

「だいじょうぶだよ、おにいちゃん、えっと…」

菜々子は自分なりに答えをまとめたようだった。

「あそびのおべんきょうってこと?」

「そうそう。そんな感じだね。菜々子ってすごいな」

素直に総司は思った。言葉の意味は知らなくてもなんとなく、直感で理解するなんて。

「えへへ」

頭をなでなですると菜々子は笑顔で喜んでくれた。

「それじゃ、ななこ、あっちでテレビみてくるね」

気を遣ってくれたのか、トコトコとテレビの前に移動して、ちょこんと座った。

その姿が、微笑ましくて、のほほんっとしばらく眺めた。

「さて、気を取り直して…」再び、本に視線を向けた。

「…足立さん、喜んでくれるかな」

 

 

数日後。菜々子と一緒に夕飯の買い物に出かけようと話をしている最中に好機が訪れた。

電話がなり、菜々子が受話器をとり、話しているうちに見る見る表情が明るくなっていった。

「今日、おとうさんがね、よるごはんまでにはかえれるって」

「良かったね。それじゃ、頑張って作らないと」

何がいいかな?と色々と考えてみた。だが、堂島の好きな食べ物を知らないことに気が付いた。

何がいいかと聞いても、何でもいいという一番困る回答がくるのは目に見えていた。

「うん!あとね、あだちさんもくるって」

「足立さんも?だったら、キャベツ料理がいいのかな…?」

堂島の好物は知らなくても、足立の好物はすぐに出てきた。

「ななこはなんでもいいよー。あだちさんはきゃべつがすきだからきゃべつりょうりにしてあげたらよろこぶと思う」

「そうだね。キャベツ料理にしよう」

決まってしまえばあとは材料を買いに、菜々子とジュネスに行くだけだ。

とはいえ、一口にキャベツ料理といっても色々種類がある。キャベツをどのように調理するか考えなければならない。

「あ、おにいちゃん!はやくしないと、タイムセールがはじまっちゃうよ!」

実際はどのように調理するかはタイムセール次第だ。

 

 

自宅に戻り、本日の戦利品を机に並べて、料理内容を今一度確認をした。

まず、油揚げが安くなっていたので、キャベツと油揚げのサラダ。

豚肉も値引きシールが張られていたので購入。冷蔵庫の梅干しと合わせて、キャベツと豚の梅醤油炒め。

あとは、おつまみ用にキャベツときゅうりのナムルを作成。

以上のものとご飯があれば充分だ。デザートも考えたが、必要ない気がして用意しなかった。

こうやって見てみると、キャベツばかりになっていた。

「キャベツばっかりになっちゃってるね…」

菜々子も同じことを思ったのか、ぼそっとつぶやいた。

本当に買い物しているときになんで気が付かなかったんだ…とは感じる。

「そうだね。だけど、キャベツって身体にいいから」

具体的に言うと、栄養価が高く、ビタミンC、ビタミンUを豊富に含む食材、なのだがこの部分の説明は省いた。

「そうなんだ。おしごとがんばってる、おとうさんたちにはいいんだ」

「そういうこと。じゃ、頑張って一緒に作ろうか」

「うん!がんばろうね、おにいちゃん」

 

 

菜々子と一緒に料理すると時間の流れはあっという間で。

それに、二人の息も合ってきてスムーズに作業が出来るようになってきたということもある。

そこそこの時間で全品作り終えることが出来た。

あとは堂島達が来るのを待つだけだ。その間、菜々子と取り止めのない話をした。

今日あった学校の出来事を嬉しそうに話す菜々子の言葉に耳を傾け、時々相槌を打っていた。

というのは、総司は先ほどからそわそわしていた。足立が家に来る、と聞いてあることが実践出来る!と内心かなり喜んだ。

早く来ないかな、早く来ないかな、と心の中で繰り返し思っていた。

「おう、今帰ったぞ」

「あ、おとうさん!お帰りなさい」

玄関から聞こえた声に反応し、菜々子はがたっと立ち上がり、玄関に向かっていく。

堂島が今帰ったぞーと菜々子の頭をなでなでし始め、後ろにいる足立は置いてけぼりをくって、突っ立ていた。

「あのー、堂島さん?後ろ、詰まってるんですけど…」

オドオドした様子で声を発し、じろりと堂島に睨まれ、びくっと肩を震わした。

「んだよ、足立~。せっかく菜々子が迎えてくれてるっていうのによ…不服なのか?」

まったく…これだから足立は…とブツブツ文句を言いながら、入っていく。

「…お邪魔しまーす」

小さくなりながら、こそこそと上がってくる足立に対し。

「足立さん、いらっしゃい」

ようやく、待ち焦がれていた人物が目の前にやってきて、総司から自然と笑みがこぼれた。

一方、足立は嫌な予感がしゾワワと背筋に何か通るのを感じ、笑顔がひきつる。

「やー瀬多くん、こんばんは」

「今日は、菜々子と一緒に足立さんの為にわざわざキャベツ料理を揃えたんですよ」

『わざわざ』がやたら強調され、こめかみがヒクヒクなる足立だったが、堂島のいる手前、怒ることが出来ない。

「そうか。わざわざ足立の為にすまんな」

「いえ、菜々子と一緒に作るの、楽しいので。ねー菜々子」

「ねーおにいちゃん」

毎度のことながらこの、アウェイな空気は慣れないようで、足立はため息をつくばかりだった。

「あれ?足立さん」

「ん、何?」

「やっぱり腰、痛いんですか?」

「…まぁ、ね」

無意識に腰に手を当て、負担がかからないように足立は構えていた。

「まったく、情けない。ずっと署内でも『腰が痛くて動けないー』って騒いでてよー」

「そうですか!」

「ちょっと、なんで瀬多くん喜んでるの?」

「あ、いえいえ。何でもないですよー。さ、座ってください」

椅子を引き、座るように促され、嫌な予感が過ったが、座ってみれば特に何もない。

画鋲とかまさか仕掛けてあるんじゃ…などと勘繰ったりはしないが、何か企んでいるのは間違いない。

「よし、それじゃみんなで夕飯にするか」

「うん!みんなといっしょですっごくうれしいよ」

「俺も嬉しいよ」

相変わらずの会話…恒例とは言え、食事を始める前に疲れが出てしまう。

ただ、総司が作った料理は美味しいと正直に思っている。このアウェイな空気を耐えてまで食べにくる価値はある。

「そういえば、足立さん。腰が痛くなったのって…」

「まったく。たかが買い出しでヒーヒー言いやがって」

「ちょっと、堂島さん!買い出し以外にも会議室の机片づけたり、三角コーンの片づけさせたり…肉体労働ばっかさせられてたんですよ!」

「三角コーン?あれ、軽くないですか?」

「じゃなくて、三角コーンって軽いから倒れないようにゴムがハメてあるでしょ?あれが重いんだって!」

「ああ、なるほど」

「おかげで、若いのに僕、腰痛持ちになっちゃったよ…」

腰痛持ちになった、というのはやや大げさな表現のような気がしたが、あえて言わなかった。

「それは、大変ですね」

「もう、本当にトホホだよ…」

そして、大げさに肩を下しゲンナリした顔を作る。足立という男は、表現がいちいちオーバーのようだ。

いや、そうやって油断させようとしているに違いない。何に油断かどうかはさておき。

「あだちさん、たいへんだね。ななこがまっさーじしてあげようか?」

「な…菜々子!何を言っているんだ、マッサージなんて!!足立、貴様のせいで菜々子が菜々子が!!!!!!!」

堂島が取り乱したような声を上げ、足立に掴みかかろうとした。

「堂島さん、落ち着いてください。それ、俺のせいなんです…すいません…」

深々と頭を下げ、続ける。

「雑学で…マッサージ、整体の勉強を始めたんですよ」

「お前が…整体…?」

「ほら、部活で肩とか腰とか痛めたりした時や堂島さんが疲れた時に役に立つかなーって」

「ほう。総司はえらいな、そんなことまで勉強しているのか。どっかの誰かとはえらい違いだな」

「なんで堂島さん、こっち見るんですか?」

痛い視線に気が付き、食べる手を止める。

「お前のことを言ってるからに決まってるだろう?」

「そ、そんな、堂島さん。僕だって色々頑張っているんですから!」

足立を見ている堂島の目は完全に呆れている。いつ、どの辺を頑張っているんだと言わんばかりに。

確かに、人前では努力している姿を見せにで陰でこっそり、というのもあるかも知れないが足立には絶対にないと堂島は確信している。

表だろうが影だろうが努力をしているものは必ず、その成果がどこかに出るはずだ。だが、足立にはそういった点は見られない。

相棒として、一緒に捜査する時間は多いので相手に対する変化はそれなりに気が付ける自信が、堂島にはある。

その変化が堂島の目から確認できないのは何もしていないからに他ならない。

「お前も総司を見習ってなんとかしろ」

「いえ、俺もまだまだですよ。それにまだ整体、一度も実践していませんし…」

「そうなのか?……」

総司の言葉を聞き、堂島はしばらく何かを考えるように黙った。そして。

「なら、足立を実験台にするといい。腰が痛いって大騒ぎしてるからちょうどいいだろう」

「ええ~!!!!実験台ってなんですか、堂島さん!!!!!!!!!!!」

「え?いいんですか、良かった。俺も足立さんをちょうど実験台にしようかと…」

「待て待て。僕は承認したわけじゃ…」

「おにいちゃん、あだちさんのこしをなおすの?すごーい」

「よし、食事の片づけは菜々子と俺がするから、やってこい」

「分かりました。頑張って足立さんであれこれ実験させていただきます!」

「ええ~僕に拒否権ないの!!!!!!!!」

「よかったね、あだちさん。おにいちゃんが、なおしてくれるって」

足立がどんなに騒ごうが、堂島一家に届くことはない。

すでに『総司のマッサージによって足立の腰痛は回復する』という事が決定している。

何を言っても、これが覆ることはない。

「それじゃ足立さん、俺の部屋に来てもらっていいですか?」

「ええ!!!!ななな、なんでキミの部屋に行かないといけないんだよ!!!!!!!!!」

「?だって、ベッドが必要じゃないですか??」

不思議そうに首を傾げる総司に、背筋が凍りそうになる。部屋に来いだの、ベッドが必要だの、よくも平然とそんな言葉が出るものだ…と。

しかも、悪意を感じられないところが逆に恐ろしく感じる。何を考えているか読めない。

「けっこう、本格的にやるんだな。しっかりやって来い」

「がんばってね、おにいちゃん」

笑顔で見送られながら、足立をズルズル引きずりながら総司は部屋へ向かった。

 

 

続きは「俺はあなたの心が知りたい」で。


 
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