No.449993

魔法幽霊ソウルフル田中 ~魔法少年? 初めから死んでます。~ パーフェクト幽霊教室な4話

ヒロイン登場、国民的に知れ渡っているあの人です。

2012-07-09 21:25:22 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1244   閲覧ユーザー数:1223

さて、なのはちゃんの体調を大幅に害してやってきました聖祥大付属小学校。

 今俺は、ちょっとフラフラしてるなのはちゃんを教室まで見送ってきたところである。

 

 ここから俺となのはちゃんは別行動になる、こらそこ、守護霊の職務怠慢とか言わない。

 これからやることは俺の為、ひいてはなのはちゃんの為にもなるんだからノーカウントだ。

 大体、高校生になって今更小学校の授業を受けてられるか、こちとら永遠の享年16歳(泣)だぞ。

 

 とまあ、しなくてもいい言い訳を考えながら俺は廊下を進む。

 

「聖祥は校舎がきれいだなー、生徒の教育がしっかりされてる証拠かな。」

 

 廊下を浮遊しながら校舎内部を観察する、ピカピカの窓、つるつるの床、おそらく耐震構造なんかもばっちりなんだろう。

 と、そんなことをしている内に目的の場所についた。

 

 俺がわざわざ聖祥まで来た理由、それはとあるお方に会いに行くためである。

 確かに俺はこの5年間、周りの人間に気付かれることはなかったのだが何も孤独というわけではなかった。

 

 『人間には』である、逆をいえば人間、いや生者でなければ俺を見つけることは容易い。

 この海鳴には、俺のような幽霊はそうそうお目にかかれないのだが『居るところは居る』。

 

 例えばそう、俺の目の前にある『女子トイレ』とか。

 

 さて、『小学校』、『幽霊』、『女子トイレ』、これらのワードから導き出されるお方と言えば――――

 

「おはよーございまーっす! 花子さーん!」

 

「おっ、田中ー! 今日も元気に挨拶たぁ礼儀正しいね! まあ元気といってもアタイらは死んでるけどさ!」

 

――皆さんお馴染み、トイレの花子さんである。

 

 

 俺と花子さんのなれ初めは、聖祥に初めて来た日、「なのはちゃんどこー!?」とふよふよ迷ってた俺にトイレから花子さんが「うるせぇ! 生徒はもう帰ってるよ!」と怒鳴り返したのがきっかけである。

 

 当時俺はだーれも気づいてくれないもんだったから返事が返ってきたことに感激して、そりゃもう号泣したね。

「お……おれがみえるんでずが!?」って泣きついたね、見た目なのはちゃんと同い年ぐらいの子に。

 

 花子さんも「な、何当たり前のこと言ってるんだい!? ていうか近寄るな! 鬱陶しい!」って俺のこと蹴っ飛ばしたね、見た目なのはちゃんと同い年ぐらいの子なのに。

 

 俺が情けないのは今更として、この赤いスカートをはいて昔の学校にありそうな制服を着たおかっぱ頭の姉御肌な少女がこの辺りの幽霊を仕切っている大先輩なのであった。

 

 そして俺は、聖祥へ来るたびに『幽霊とは何たるか』をご教授してもらっている。

 お化けの学校という奴だ。

 

 俺は今日の失敗を相談することに。

 

「花子さん、早速なんですけど俺の飛べる速さってなんとかなりませんか?」

 

「アンタまた『しがみ憑いて』来たのかい? アンタのご主人様も大変だねえ……」

 

 花子さんが呆れた目でこっちを見てくる、うぐっ……俺だって必死なんだよ?

 もちろんなのはちゃんに迷惑かけたくないから耐え忍ぶけどさ。

 

「いいかい? 前も言ったけどアタイら幽霊は基本的に『強い遺志』で出来てるんだよ? つまり本来なら想像出来る範囲ならイメージしだいで大概のことは出来るはずなんだ」

 

 幽霊の基本は『イメージ力』それは彼女から最初に教わったことだ。

 なんでもその幽霊がどういう未練でこの世に留まっているかによってイメージしやすいものが違うんだとか。

 

「でも俺って特に強い未練なんてありませんし、『自分の体一つで素早く飛ぶ』って想像し辛いんですよ」

 

 俺がそういうと、花子さんはおかっぱ頭をガシガシと掻いて「そこなんだよな~」と呟く。

 

「だいたいアンタが特殊なんだよ、今時未練がない幽霊なんてアタイは見たことないね。記憶喪失で未練を忘れたケースとかならあるにはあるんだけどねぇ。」

 

「えっ、ちなみにどんな幽霊だったんですか?」

 

「いやそれがさ……そいつ死んでることも忘れてたみたいで、自分が死んだと分かった瞬間未練がないもんだから成仏したんだよなあ」

 

「なんですかそれ! だったら俺未練無いから即成仏じゃないですか! やだー!」

 

「だからアンタ成仏してないじゃん、それが特殊だっていってるんだよ」

 

 ホント俺って何なんだろうね、と講義を受けてもますます分からなくなってしまう自分の存在に頭を抱える。

 

 そう、俺には今一つ未練というものがピンとこない。

 おそらく転生するはずが失敗したせいなのだと思うが、それならそれでお迎えとか成仏とかできてもよさそうなんだよなあ……。

 

 ちなみに花子さんには俺が転死者であることを知らせていない、言っても多分可哀そうなものを見るような目で見られると思うし。

 

 悩んでいる俺に花子さんは「まあ、でもさ」と続けた。

 

「アタイがいままで見てきた幽霊のなかじゃ、アンタはまともな性格してる方だと思うよ? 幽霊ってのはどいつもこいつも未練に執着するもんだから中には話さえ出来ないような奴だっているからね」

 

 眩しい笑顔でそういわれて、俺はなんだか恥ずかしくなって花子さんから顔を背けてしまう。

 

「そ、そうなんですか……、ありがとうございます」

 

 幽霊として半人前の俺をこうもフォローしてくれると、なんだかそれが長所に聞こえてくるから不思議である。

 俺なんかより花子さんの方がよっぽど優れた人格者だと思う。

 

 と、ここで俺は花子さんに気になることがあったのでついでに聞いてみることにした。

 

「ちょっと聞きたいんですけど花子さんが思う中で、一番まともじゃない霊ってなんですか?」

 

「……へ? 何でそんなこと聞くんだい?」

 

「いや、できればそんな奴をなのはちゃんに近づけたくないんで」

 

「ああ、なるほどねぇ」

 

 そういうと花子さんは「うーん」と考え込む仕草をする。

……お人形さんみたいでかわいいなと思ったのは秘密だ。

 

「最近はめっきり聞かなくなったけど、今からちょうど9年前の事件ならあるよ」

 

「9年も前ですか?」

 

 頭を探って原作のストーリーを思い出してみるが9年前、つまりなのはちゃんが生まれた年に事件なんてあったっけ?

 

「そう、おそらくよそ者の『都市伝説』ぐらいの奴が、アタイらに挨拶も無しに勝手にやらかした事件さ」

 

「都市伝説級が!?」

 

 

――――花子さんのいう都市伝説というのは、言わば幽霊の階級である。

 幽霊にも思念の強さで上下関係があるのだ。

 基本的に 浮幽霊<地縛霊<名も無き怨霊=守護霊<<<学校の怪談=都市伝説 といった具合だ。

 

 階級が上がることによって、出来ることが広がってゆき、なんと学校の怪談級までいくと生者から認知されるまでとなるのだ。

 ちなみにまだ上があって、<<<マガツ神=神 となるらしいがそこまでいくと位が高すぎて認知されなくなるとか。

 

 一応言っておくと俺は守護霊で、花子さんは学校の怪談である。

 守護霊の俺が出来ることと言えば、ポルターガイストやラップ音、小さなものだが人魂とかなら作れないこともない。

 花子さん曰く、「幽霊としての基本的なイメージはしっかりしてる」とのこと。

 そのせいで頭の白い三角頭巾もとれないらしい。

 あ、花子さんが本気でラップ音出したらソニックブームがおきるらしいよ?

 怪談級は格が違った。

 

 そのぐらい次元が違う奴が一体9年前になにをしたんだと驚く俺に花子さんは続ける。

 

「そいつはね、『神隠し』だよ。当時の海鳴は出生率がえらく高くてね、たくさん赤ん坊がいたんだ」

 

「ま……まさか神隠しに遭ったのって」

 

「そう、ねらわれたのは赤ん坊さ。それも生まれたばかりの」

 

 まさかの原作外の事件に俺は恐怖した。

 9年前、ということはなのはちゃんも神隠しに遭う可能性もあったのだ。

 しかし花子さんは俺を安心させるようにニヤッと笑う。

 

「まあ安心しな、9年前に神隠しはぱったりと無くなったんだ。犯人は捜したけど分からなかったとはいえ狙われるのは赤ん坊、アンタのご主人様は立派に生き残ってるじゃないか」

 

「そりゃそうですけど、もしまたそいつが戻ってきて9年前と同じことが始まったら……」

 

「そん時は、アタイに任せな。こんどこそしっかりけじめをつけさせてやる」

 

 花子さんかっけえ……! 俺が女なら抱かれてたね、割とマジで。

 でも女の子に守ってもらうというのは頂けない。

 

「まあ待ってください、俺だってお供しますよ! 花子さんばかりに良いかっこさせません!」 

 

「ナチュラルに死亡フラグが出てくる辺り、頼りになるんだかならないんだか……。まあアタイら死んでるけどさ」

 

 花子さんは呆れた顔をして「そんなことより!」と俺にびしっと指を突きつける。

 

「とにかくアンタは碌に飛べやしないんだから、しっかり練習してさっさと飛ぶこと! でないとご主人様のピンチに駆けつけることも出来ないんだからね」

 

「それは分かってるんですけど……」

 

 そうは言われても、難しいものは難しい。

 ハングライダーとかの経験があったりしたら話は別なのだろうが……。

 と、口ごもる俺に花子さんは痺れを切らしたらしい。

 

「ああもうじれったいね! ついてきな、特訓だよ!」

 

「えっ!? うわわわっ!」

 

 俺は花子さんに首根っこを掴まれて、ズルズルと女子トイレを後にするのであった。

 情けなさすぎるので、抵抗を試みてもピクリとも動けない。

 あらゆる面で敵わないなあと思い知らされるぜちくしょう。

 

 

 

 花子さんに連れられてやってきたのは屋上だった、まだなのはちゃん達は授業中なので生徒の姿はない。

 俺はポイッと荷物放り出すように投げ出される。

 

「ぐえっ」

 

「田中、旅行するなら北極と南極どっちがいい?」

 

「え、旅行なら俺ハワイ行きたいんですけど」

 

 いきなり旅行の話になったのでとっさに願望を言うと、花子さんは「そうか、ハワイだな」と俺の左側に移動した。

 そして何故か屈伸アンド伸脚を始める花子さん、訳が分からない。

 

「あの……、特訓って何をするんで――

 

「幽霊同士で争う時っていうのは中々無いことなんだけどね、もしそういう状況になってしまった場合、大切なのはやっぱり『イメージ』なんだよ」

 

 花子さんは質問を無視して講義を始める。

 俺はただ「はあ」と頷くだけ。

 

「アタイ達幽霊は実体がないから、本当ならダメージなんてある筈がない。だけどね、例外はあるんだよ」

 

 そう言うと、花子さんの右足から強烈なプレッシャーが漂う。

 

「自分が『傷ついた』と認識すれば、幽霊でもダメージが通るんだ」

 

 あれはヤバいと俺の魂がガンガン警鐘を鳴らしている。

 

「つまり幽霊の戦いってのは『イメージの押し付け合い』になるのさ、それも半端じゃ通用しないし上手く騙せれない」

 

 終いにゃ花子さんの右足が黄金のオーラを放ち始めた。

 謎の突風が花子さんを中心に吹き荒れる。

 

「燃やしたきゃ、とびっきり熱そうな人魂を、潰したきゃ、滅茶苦茶重そうなものをぶつけて」

 

 ドドドドドド! と威圧感たっぷりのラップ音まで聞こえる始末。

 ここまでくると、この先のオチがなんとなーく読めてくる。

 

「速く飛ぶイメージが掴めない半人前に参考になるよう、地平線の彼方までぶっ飛ぶイメージを押し付けたりね」

 

「やっぱりそう来ますよね!? ていうかそんな黄金の右足で蹴られたら吹っ飛ぶどころか粉々になりそうなんですけど!?」

 

「よかったな田中、ねんがんの ハワイりょこうにいけるぞ!」

 

「殺されてまでいきたくない!」

 

 俺は必死に懇願してみるも、問答無用らしく花子さんは残像を残しながら高速接近する!

 あ、死んだわ俺、死んでるけど。

 

「逝ってこい、参考にしろよおぉぉぉ!!!」

 

「ぎいぃぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――

 

 蹴られた瞬間、ロケットみたいな速度で遥か東の方向へぶっ飛んでいった。

 俺が再び海鳴へ戻れる時間はおそらく6時間後である、絶対音速超えてるよコレ。

 


 
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