No.447635

万華鏡と魔法少女、第十三話、残酷な忍

沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男


彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。

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2012-07-06 23:28:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5102   閲覧ユーザー数:4767

クロノと約束を交わしてフェイトを家に置いて来たイタチ

 

 

 

そして彼はアルフを連れて彼女の母親の場所へ早速向かう事にした

 

 

もう迷いは無い断ち切った…後は突き進むだけ

 

 

イタチは今朝、自分を送り出してくれたフェイトを思い返しふと笑みを溢した

 

 

いつも通りに、自分に微笑みながら甘えてくる彼女

 

 

また、自分が頑張る為の勇気をその彼女の笑顔から貰った

 

 

そうして、イタチは先導されるがままアルフの後を追う

 

 

彼がアルフに頼んで移動したそこは、静寂な空気が支配する、開けた空間が広がるとある場所、

 

 

うちはイタチはアルフに道案内を頼みその場所にへと足を運んでいた

 

 

「ここか…?」

 

 

感情らしいものを一つも込もっていない、氷の様な無表情で自身の前に歩いて先導しているアルフに問いかけるイタチ

 

 

そんな冷淡なイタチの問いかけに対して、アルフは冷汗を頬に垂らしながらも静かに頷いて応える

 

 

「…そうだよ」

 

 

イタチの問いかけに肯定する様に静かに頷くアルフ

 

 

そのアルフの言葉にゆっくりと辺りを見渡し、鮮明に研ぎ澄まされた瞳で周りを確認するイタチ

 

それはかつて、暁時代、そして、木の葉にいた時と同じ生きるか死ぬかの死線を潜り抜けてきた忍の眼

 

 

冷たく、温度など無い

 

 

そんなものは戦場において、自身の危険を招く一つであるから

 

 

イタチにはそれが良く分かっていた

 

 

そのせいかピリピリと張り詰めた空気を身に纏う今のイタチはアルフにとって恐怖感を与るものでしか無い

 

 

この状態の彼からは温かさも、いつも通りの優しさも感じられない

 

 

あの時、自分を助けてくれた時と同様に今の彼は容赦なく敵と認識した者を簡単に葬り去る

 

 

全てがそうである訳では無いだろうが、アルフにはそう感じられた

 

「確か、時の庭園だったか…まぁ別にそんな事はどうでもいいが」

 

 

呟く様にその場でそう冷たく語るイタチ

 

 

次の瞬間、プレシアへの道案内の為に彼の前に歩いていたアルフ横から風を切る様に見えない何かが通過した

 

 

パラリと彼女の髪の毛が数本地面にへと、ポタリ、ポタリと落ちる

 

 

彼女はその現象に思わず驚いて、自身の足をピタッと止める

 

 

そして、切れた自身の髪の毛を手に慌てた様に真横を通過した何かを辺りを見渡して確認する彼女

 

 

突然の出来事に何が起こったのか理解出来ない

 

 

だが、そんなアルフに対してイタチは静かにそして先を急かす様に促す

 

 

「何をしてるんだ? 早く先を急いでくれないか?」

 

 

「…ちょ、今私の横から何かが!」

 

 

慌てた様に先を急かすイタチに切れた自身の髪の毛を見せつけながら話すアルフ

 

 

すると、イタチは静かに眼を瞑りある方向へ指差す

 

 

沈黙したまま彼の指先へと視線をゆっくりと向けるアルフ、

 

 

…するとそこには

 

 

「…え?」

 

 

明らかに自分等の道の障害となるであろう敵と認識できる二体の人形が額を貫かれて倒れていた

 

 

彼らの額に突き刺さっているのは漆黒で鋭利な苦無

 

 

勿論、これを放った人物は明らかに一人しかいない

 

 

間の抜けた声を上げていたアルフは慌てて、後ろにいたイタチにへと視線を移す

 

 

「…あんたもしかして」

 

 

「…油断大敵…だアルフ、もう君はここまでで構わない」

 

 

イタチはそう言うと静かに閉じていた眼をゆっくりと開く

 

 

三つ巴に輝く瞳

 

 

イタチのそれを見た途端にアルフが彼に対して反論する事はなかった

 

 

自分がこの後、彼について行けば明らかに足で纏いになる事が把握できたからだ

 

 

アルフはイタチのその言葉に納得した様に頷いた

 

 

「…分かった、ここで待ってるけど、でも何かあったらそっちに駆けつけるからね、あんたが死んでフェイトを悲しませたく無いし」

 

 

「…要らない心配だな」

 

 

アルフの言葉に静かに冷淡な口調で返すイタチ

 

彼はそう一言、アルフに話すと彼女に背を向けたまま、時の庭園の深部へと足を進め始める

 

そして、イタチはアルフの前から刹那、風の様な速さで消え去ってしまった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

アルフを置いて、暫らく疾風の様な早さで移動したイタチ

 

 

プレシアが居るという城の様な場所の内部へと軽々と侵入した彼は黙々と目標である彼女に接触すべく脚を進めていた

 

 

この場所は侵入者に対して随分と凝ったセキュリティが敷かれていた様だったが一流の忍のイタチの前ではまるで役に立つはずもない

 

 

彼が移動して来た道を辿ってみると、ただの破壊尽くされた木偶人形が倒れているだけだ

 

 

(…所詮はこんなものか)

 

 

イタチは自分の進行を妨げようとした侵入者用に完備された、この城のセキュリティを思い返しながら心の中で呟く

 

 

幾千もの任務に戦争、そして殺し合いの死線を見てきたイタチにはこの城の護る様に張り巡らされたセキュリティを破るなど造作も無いことだった

 

 

忍の世界において騙し合いや罠に相手を引き込み惑わせる等はセオリー、

 

 

それだけの場数、経験をイタチは持ち合わせている

 

 

まさに、当然と言える結果だろう

 

暫らくして、時の庭園にある城の奥の玉座がある部屋の中へと侵入し脚を止めるイタチ

 

 

どうやら、ここが彼女の母親、プレシアテスタロッサの居る部屋らしい

 

 

(…成る程、侵入者である俺を観察しているつもりか…)

 

 

イタチは未だに侵入した自身の目の前に現れない彼女の考えている事を頭の中で静かに考察する

 

 

すると、イタチは自身が持ち合わせている三つ巴の眼を全開にし、その部屋の隅々まで見渡すと鼻で軽く嘲笑う

 

 

「…隠れるなら殺気ぐらい消したらどうだ? プレシアテスタロッサ」

 

 

イタチがそう口を開きそう沈黙した空気が漂う部屋で呟いた瞬間、

 

 

何か分からないが、閃光の様なものが何処かから放たれて、

 

イタチのいた場所を一瞬にして焼き払ってしまった

 

 

そして、ゆっくりと玉座の前に人影の様なものが現れてその姿をはっきりとさせる

 

 

「…あら、侵入者さん口だけみたいね、私の人形達を簡単に殺ってしまったから警戒していたのだけど」

 

 

現れた人影のその正体は女性、大人びた雰囲気に黒い衣服に身を包んだ女性だった

 

 

彼女こそ、フェイトを生み出した母親、そしてこの時の庭園の主であるプレシアテスタロッサだった

 

 

彼女は自身が先ほど侵入者を雷によって焼き払った場所を玉座の前にて見下しながらつまらなさそうに呟く

 

 

だが、余裕の表情を浮かべていた彼女の顔色はその雷で焼き払った場所が煙で晴れた途端に変わる

 

 

「…勘違いもいい所だな、たかだかそんなモノで仕留められるなんて思っていたのか…?」

 

 

そこにいるのは無傷の侵入者である男の姿、

 

 

あの眼にも止まらない攻撃をどうやって回避したというのか

 

 

煙が晴れた場所に君臨する三つ巴の眼を見開いている男の姿にプレシアは疑問を抱いた

 

 

だが、すぐさま持ち前の冷静さを取り戻すと男に対して、この場所を訪れた要件を問いかける

 

 

「…貴方はいったいどちら様かしら? この時の庭園に何の用?」

 

 

「愚問だな、貴女は既にご存知だと思うが、俺の名前も彼女とどういった関係なのかも…」

 

 

そう言って、問いかける彼女に対して冷たい視線を投げかけ返すイタチ

 

 

イタチは以前から、何者かからの視線を幾度か感じた事があった

 

 

最初は憶測であったがその視線に気づかれない様に辺りを調べている内に先程のアルフに襲いかかろうとした木偶人形が見つかった

 

 

それが、この場所に来て彼女の物だとイタチは確信し、視線の主である彼女だという事が把握に至ったのだ

 

 

その事をイタチから聞かされたプレシアは眼を見開いたまま黙り込む

 

 

この男は只者では無い…

 

 

そういった長年、管理局と渡り合って来た自分の中にあるプレシアの勘がそういっていた

 

 

そうしている内に、イタチは言葉を紡ぐ様に冷たい口調で彼女にこう言い放つ

 

 

「…今回は彼女をまた随分と酷く痛みつけたみたいだな…満足だったか? 自分の娘の偶像を痛みつけるのは?」

 

 

「…なんですって?」

 

イタチから聞き捨てならない言葉がプレシアの耳に入り、彼女はピクリと反応すると怒りの込もった声色で蔑んだ様な視線でこちらを見てくるイタチに言う

 

 

だが、イタチはそんな彼女に対して言葉を続ける

 

 

「…Fプロジェクトだったか? 自分勝手な都合で娘のクローンを作り出した挙句に自己満足の為に罪の無いその作り出した彼女へと暴力を振るう…笑えるな…」

 

 

「…何がおかしいのよ」

 

 

イタチの言葉に納得出来ない様な口調で問いかけるプレシア

 

 

自分が今まで娘の為に全てを費やしてきた事を馬鹿にされたようなことを言われた気分だった

 

 

娘を奪った忌まわしい事件と管理局の上層部、

 

自分が今までどれだけ苦しんできたのか、こんな男に上辺だけ語られて無性に腹が立った

 

 

プレシアは小馬鹿にした様な口調で語るイタチに向かい胸の内をブチまける

 

 

「…貴方なんかにはねぇ! 一生分からないわよ!どれだけ私が苦しんできたか、ドン底に居たなんて!」

 

 

「…そんなもの当たり前だ」

 

 

「なんですって!」

 

 

自身の胸の内の不満をイタチにぶつけるプレシアは平然と返す彼の言葉に噛みつく様に声を荒げる

 

 

だが、イタチは平然とした様子で彼女に対して感情も何も込もっていない言葉でこう返す

 

 

「俺が今話しているのはフェイトについてだ…貴女の過去など正直どうでもいい…失って辛かった? だから? それだけの話だ」

 

 

「…そう、貴方はそういう人間なのね」

 

 

イタチの冷徹なその言葉に最早語るなど無に等しいと悟ったプレシアは開いていた口を静かに閉じる

 

 

すると、語るのをやめた彼女の姿を確認した、イタチは更に付け足す様に彼女にこう言い放った

 

 

「…俺は寧ろ奪った方の人間だ」

 

 

「…なら、語るまでもなかったわね!」

 

 

そう言って、イタチと対峙していたプレシアは彼に向けて雷の魔法を飛ばす

 

 

だが、イタチはそれを持ち前の反応スピードと跳躍力で回避する

 

 

無論、プレシアは彼を逃がさない持ち前の技術で翻弄し、バインド系の魔法を連発する

 

 

プレシア放たれたそれを華麗に掻い潜るイタチ、

 

 

すぐさま、近距離へと彼女との間合いを詰める

 

 

だが、彼女も無闇にイタチを間合いにへと詰めさせたりはしない

 

 

自身の魔法が掻い潜られたのを確認するとすぐさま距離を取り遠距離から連続して魔法を放つ

 

 

単なる会話から一変…

 

 

既にそこは互いに引かない凄まじい戦闘域へと成り代わっていた

 

 

やはり、大魔導師と呼ばれた事があるプレシアは並大抵の魔法使いでは無い

 

 

戦闘中に観察していたイタチは改めてそう肌で感じた

 

 

しかし、それはあくまで管理局やこの世界で魔法を使える者達の間でだけ…

 

 

このプレシアとイタチの戦闘もすぐ様決着にまで発展する

 

 

「…ようやく捕まえたわよ!!」

 

 

そう、イタチがバインド系の魔法に捕まってしまった事により…だ

 

 

プレシアは回避していたイタチの動きに合わせなんとか一つ、イタチの脚をバインドで拘束、

 

 

そこから身動きが止まったイタチを完全にバインド系の魔法で捕らえる事に成功したのだ

 

 

彼女は氷の様な微笑を浮かべて、捕まえたイタチに一歩づつ近づいてこう言い放った

 

 

「…無様ねぇ、あれだけ言った割にはあっけなかったわ、所詮はこの程度なんて笑物ね」

 

 

「……………」

 

 

勝ち誇った様にバインド系の魔法で捕らえたイタチにそう言い放つプレシア

 

 

だが、捕らえたイタチは沈黙したまま彼女に対して何も答えない

 

 

彼女は捕らえられたイタチがもうあきらめて何も言い返すつもりは無い、そう考えた

 

 

そして、無慈悲に自身の持つデバイスを静かに構える

 

 

「…そ、何もないならもう死になさい」

 

 

そう言って、魔法を彼女が放とうとしたその時だった

 

 

バインドで拘束していたイタチに何やら違和感が感じられる

 

 

すると、刹那、彼女の耳元で何かが囁いた

 

 

「…無様だな」

 

 

思わずその声にビクリと身体が反応するプレシア

 

 

だが、彼女が気づいた時はもう既に遅かった

 

 

魔法を繰り出そうと構えた右腕が、突如現れたそれに肘と膝で挟まれる

 

 

肘と膝に挟まれ関節がミシミシと軋む音を出すプレシアの右腕

 

 

「…え?」

 

 

起こった事が理解出来ず、その場で間の抜けた様な声をこぼすプレシア

 

 

ーーーーーーそして…

 

 

不意に何もなかった空間に鈍く嫌な音が響き渡った

 

 

その瞬間、彼女の頭は激痛で覚醒させられる

 

 

「…っーーぁあああああ!!!」

 

 

彼女の声高い絶叫がその空間を包み込む、

 

 

明らかにプレシアの腕はあり得ない方向にへとへし曲がっている、

 

 

しかし、それも束の間、

 

次は彼女の左腕の腱が何かで引き裂かれて勢い良く血が噴き出した

 

 

ブランとプレシアの左腕が力無く、血が流れ出たまま宙に垂れる…

 

 

彼女は直ぐに頭を反応させて、自分の左腕を切り裂いた人物にへと全身を使い右脚から渾身の蹴りを打ち出して吹き飛ばし距離を取ろうとする

 

 

だが、それもまた徒労にへと終わった

 

 

その人物はプレシアの繰り出そうとした回し蹴りの脚に合わせて、懐から取り出した苦難を突き刺すと、それを腹筋で受け止め

 

 

自分に向けて放たれた彼女の脚の逆の方向に自分の腕の力を加える

 

 

イタチから逆に力を加えられ、ギリギリと音を立てて関節が軋むプレシアの右脚

 

 

そうしている内にーーーーーーー

 

 

 

弾みにピタリと軋む音が止み、代わりに明らかに何かが物凄い音を立てて、へし折れる鈍い音が部屋中に響き渡った

 

 

「ゔぁぁーーああああああああ!!!!」

 

 

悲痛の絶叫がその場に響き渡る様に木霊する

 

 

自分がボロボロにされてゆくのがはっきりとわかった

 

 

身体が痛み、喉から声に鳴らない絶叫をひたすら上げ続ける

 

 

ついには彼女は力無くその場にばたりと倒れてしまった

 

 

痛みが全身を襲う中、彼女は自身の身体をこんな風にした人物を確認すべく頭を起こす

 

 

「……なん…で…」

 

 

ーーーーーそこには…

 

 

自分が今までバインド系の魔法で捕らえていた筈の男が立っていた

 

 

冷たく漆黒の闇を思わせる様な眼をしながら腕を折られて、脚を折られた自分の前にいた

 

 

彼は一歩づつ、彼女へと近づいてくるとプレシアの髪の毛を鷲掴みにして膝立ちの状態にする

 

 

「…これからする質問に答えろプレシアテスタロッサ、」

 

 

髪の毛を鷲掴みにされているプレシアは未だに状況が理解出来ずにいた

 

 

すぐ様、先程まで自分が捕らえていた場所にへと彼女は視線を移す

 

そこには何も無い、烏が飛び散る様に天井にへと羽ばたく姿だけだった

 

 

「…一体…どう…やっ…て」

 

 

呟く様にそうイタチに向かい弱弱しい声で問いかけるプレシア

 

 

そう、プレシアが拘束したと思い込んでいたのはイタチの烏分身

 

 

本体は今こうしてプレシアの隙をついて、近づき一気に彼女の身体をこの短時間で使い物にならなくしていたのだ

 

 

イタチは容赦なく鷲掴んだ髪の毛を引っ張り上げて、彼女の鳩尾に拳を入れる

 

 

「…ゴフッーー」

 

 

「質問するのは俺だ、貴女じゃ無い…」

 

イタチのその言葉に自身が抱いた疑問を仕舞い黙るプレシア

 

 

髪の毛を鷲掴みにしているイタチは漆黒の瞳を彼女に向けたまま話しを続け出す

 

 

「…彼女を作った理由は自分の娘であるアリシアテスタロッサを生き返らせる為、間違いないな」

 

 

鳩尾に拳を入れられたプレシアは咳込みながらひたすら頷く

 

それしか、出来なかった

 

彼女の中では完璧な恐怖が身体を支配し、氷の様にそして深い闇を思わせる様なイタチの瞳が背筋を凍りつかせていた

 

彼女からしてみれば彼からいつ、殺されてもなんら不思議では無いのだ

 

イタチはそんな彼女に対して物を値踏みする様な視線を浴びせる

 

 

すると、プレシアは力無い声でボソリ、ボソリと呟く様に話し出した

 

 

「わた…し、私は只、自分の娘に会いたかっただけ…」

 

 

「…ーーーその為に…

 

今まで自分が見えていたモノまで傷つける…か」

 

 

イタチは呟く様に話す彼女に容赦なく、自分の思っている言葉を浴びせかける

 

 

そして、折れていた彼女の右脚を自身の左足で…

 

 

「っ…ぁああ!!ーーあああああああ!!」

 

 

何も躊躇いなく踏み砕いた

 

 

骨が完全に音を立てて、崩壊する音が辺りに響く

 

 

プレシアの悲鳴が部屋中に振動する様に渡り、彼女の身体に再び激痛が走る

 

 

…痛い…誰か、誰でもいい…アリシア…

 

 

彼女は無意識に頭の中で助けを必死に求めていた

 

 

自分と目の前にいるイタチ以外、誰もいない空間だと分かっていている

 

 

だけど、彼女は苦痛のあまり求めずにはいられなかったのだ

 

 

そんな彼女の様子を見てイタチは踏みつけていた脚をスッと下げると彼女の髪の毛を乱暴に引っ張り回し

 

 

城の玉座の壁際にプレシアの身体を寄せる

 

 

そして、自身の懐の内から苦無をゆっくりと取り出す

 

 

「…そんなに娘に会いたいなら会わせてやろう」

 

 

自分に向かい掛けられたイタチの唐突な言葉、激痛で身体の感覚がほぼ皆無だったプレシアはビクッと一瞬だけ反応する

 

 

だが、それが自分の事を始末する事と把握するとそれ以上考えるのを止めた

 

 

しかし、彼女の期待を大きく裏切る様にイタチは彼女の両手を重ねて壁際に貼り付ける

 

 

ーーーーーーブシュリ

 

 

何かが突き刺さる様な音が静かに静まり返った部屋に響いた

 

 

しかし、刹那…彼女の脳内が再び、身体による痛みにより無理矢理覚醒させられる

 

 

「ぁ…あぁああああ!!!」

 

 

ひたすら、痛みにより悲鳴を上げるプレシア

 

 

死を覚悟した彼女にとって、予想外なその痛みはもう頭の中をグシャグシャに混乱させていた

 

 

痛みにより、もがきたいにも関わらず、自身の四肢がもう使えずそれも叶わない

 

 

彼女は思わず痛みの原因を確認する様に頭を上げる

 

 

そこには、自分の両手が苦難により貫かれ、壁に突き刺さっている光景だった

 

 

その瞬間、彼女の頭が絶望にへと変わる

 

 

まだ、いっそ楽に殺してはくれないのだろうか

 

そんな、もう何もかも投げ出した様な考えが彼女の頭の中を支配していた

 

 

すると、そんな彼女の様子にイタチは相変わらず氷の様に深く漆黒の眼を向ける

 

 

「…何を勘違いしているんだ? 俺はまだ貴女を殺すつもりなどない」

 

 

「…そ…んな…」

 

 

イタチの投げかけるその言葉にもう既に光が無く虚ろになっている瞳のままそう呟くプレシア

 

 

そして、イタチは漆黒なその眼を三つ巴の眼に再び変えるとそれを更に変化させてゆく

 

 

「…これから、貴女が望んだモノを見せてやる…」

 

 

「…いっ…たい…何…を…」

 

 

プレシアの意識はそのイタチの瞳を見た途端にそこで途絶えた…

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そこは、白と黒の何も色の無い世界

 

 

その世界の中でポツリとプレシアは一人だけ立っていた

 

 

身体は動く、先程まであれだけあの赤雲の衣服に身を包んだ男にズタボロにやられたにも関わらず…だ

 

 

彼女はおもむろにその白と黒の世界を歩き出す

 

 

そして、暫くあるいている内に彼女の脚はピタリと止まった

 

 

「花…畑…?」

 

 

彼女は自身の目の前に広がる光景に驚愕する

 

 

そこには、色が無いが確かに花畑の丘があった、丘の頂上にはポツリと大きな木が一本だけ立っている

 

 

プレシアは広がるその光景に見惚れながらも自身の置かれている状況がイマイチ理解出来ずにいた

 

 

何故自分がここにいるのか…

 

力尽きて死んでしまったのだろうか

 

 

そんな考えがグルグルと彼女の頭の中を巡る

 

 

そして、そんな彼女の視界の中にーーーー

 

 

 

花畑の丘に向かって走る二人の少女の姿が視界に映し出された

 

 

一人は見覚えのある、自分が作り出した娘のレプリカ…

 

 

だが、もう片方の少女はーーー

 

 

「…嘘、」

 

 

プレシアは思わず唖然と立ち尽くしながらその少女の姿を見て言葉を溢す

 

 

今まで会いたかった、望んでいた少女がいた

 

 

あの時、あの日失って悲しみにくれていた頃からずっと自分が望んでいた少女

 

 

もう一度、この手で抱きしめて上げたいと思い続けていた

 

 

プレシアは弱々しく、自分の望んでいた少女の名前をゆっくりと口にする

 

 

「アリ…シア…」

 

 

そう、アリシア テスタロッサ…かつて自分が腹を痛めて産んだ愛しい実の娘

 

 

あんな、フェイトの様なレプリカなんかじゃ無い

 

 

「お母さん、早くしないと置いていくよ!ほらフェイトも行こ!」

 

 

「うん! アリシアお姉ちゃん」

 

 

そう言って、自分の方を振り返りながらも嬉しそうにフェイトと共に花畑を楽しそうに駆けるアリシア

 

 

本当にそれはプレシアにとって、夢のような光景だった

 

 

すぐさま、プレシアは全力で花畑を駆けて彼女達の後を追い捕まえると力一杯抱きしめた

 

 

「アリシア! よかったぁ…、夢じゃ無いのね!」

 

 

アリシアとフェイトを抱きしめた感覚が確かに彼女の中ではあった

 

 

プレシアに抱きしめられた二人は困った様な顔を浮かべながらも嬉しそうに笑っている

 

 

そして、それから暫くしてプレシアは花畑の丘の頂上にある木に寄り添って静かにアリシアとフェイトと過ごしていた

 

 

「それでね! お母さんフェイトは…」

 

 

「あー! お姉ちゃん!それは言わない約束でしょ!」

 

 

「ふふふ…こらこら、二人とも本当に仲が良いのねぇ」

 

 

嬉しそうに話し合う二人に微笑み掛けながら話すプレシア

 

 

本当に幸せな光景だった…

 

 

プレシアは自分の作ったフェイトはアリシアにはなれないとそう思っていた

 

 

しかし、彼女はこうしてアリシアと共に楽しく笑っている

 

 

これが、自分が本当に望んでいた幸せではなかったのか

 

 

プレシアはそう確信しつつあった

 

 

すると、フェイトと楽しく笑会ってるアリシアは仲が良いと話すプレシアにこう言い放つ

 

 

「当たり前だよ!フェイトはだって私の妹だもん!ねー」

 

 

「うん!」

 

 

そう言って微笑み笑う二人がプレシアには何処か眩しく見えた

 

 

心の中では何処か分かっていた、そうアリシアが自分にフェイトを傷つける事など望んでいないと

 

 

だが、現実では酷い仕打ちをいっぱいフェイトにプレシアはしてきた

 

 

フェイトは自分からの愛に飢えていると知っていたのにそれでも自分は与えなかった…

 

 

プレシアの中でこの時、自分のいままでやってきた事に対して物凄い罪悪感が襲いかかった

 

 

それに耐えきれなくなったのか、彼女は思わず眼の前にいたフェイトを優しく抱き寄せた

 

 

そして、呟く様にフェイトを抱きしめながら自分に言い聞かせる

 

 

「…そう…そうよね、貴女も私の娘よね…アリシアの出来損ないなんかじゃない、私が産んだちゃんとした娘だったのよね…、ごめんなさい…ごめんなさいね」

 

 

「…うん…私もお母さんが大好き!」

 

 

プレシアの言葉に元気良く応えるフェイト、

 

 

その傍ではアリシアが自分も抱きしめてとプレシアにせがむ

 

 

勿論、アリシアめ抱き上げて満足そうに全身に幸せを感じるプレシア

 

 

 

 

 

「満足だったか?」

 

 

 

 

 

不意にプレシアの耳にそして、彼女のいる花畑に感情も何もこもっていないその一言が響き渡る

 

 

 

花畑の丘から一変、何処か違う場所にへと彼女は立っていた

 

 

その唐突な出来事に思考がついていかないプレシア

 

 

彼女の立っている場所は花畑からそう遠く無いのか、

 

丘の頂上でまるで、姿が見えなくなった自分を探すために辺りを見渡すアリシアとフェイトの様子が見えた

 

 

彼女は思わず、安堵した様にゆっくりと胸を撫で下ろす

 

 

 

 

 

ーーーーだが、それは

 

 

 

「何を安心しているんだ?プレシアテスタロッサ?」

 

 

ある男の一言により絶望にへと完全に変わってしまった

 

 

思わず、冷たく温度の無い声のした自身の後ろを振り返るプレシア

 

 

そこには、冷たい眼差しで立っている赤雲の衣服に身を包んだイタチの姿があった

 

 

「…な、なん…で」

 

 

なんで、この場所に彼のような男が立っているのかプレシアは理解できなかった

 

 

確か自分は彼に殺されてこの場所にいる筈ではないのか…

 

 

彼女はイタチの姿を見つめながらそう考えていた

 

 

だが、彼女のその考えを否定するかのように彼女の前に現れたイタチはプレシアを絶望のドン底にへと突き落とす一言を言い放つ

 

 

「何を勘違いしていた? ここは貴女の意識を使い作り出した世界の中だ」

 

 

その途端に、彼女は一気に背筋が固まった…

 

 

なら、眼の前にいるアリシアは偽物なのか…

 

だが、確かに抱きしめた感覚も、性格も、格好も、仕草もアリシアの様に…いや間違いなく本物だった

 

 

すると、現れたイタチは赤雲の衣服の中から刀をスッと取り出して静かにそれを手にしたまま、花畑の丘の頂上にへと視線を向け始めた

 

 

それを見た途端にプレシアに嫌な予感が胸の中を支配する

 

 

一体彼は何をするつもりだ…何故、刀を持っている

 

 

それは、もしかして…

 

 

プレシアは彼の視線の先、アリシアとフェイトがいる花畑の丘の頂上に視線を移す刀を手に持つイタチを見て、それが確信に変わってしまった

 

 

プレシアは刀を手に持つイタチに向かって懇願する様に声を上げる

 

 

「待って…止めて! あの子達を!!」

 

 

だが、そんなプレシアの言葉はイタチの耳には届かず彼は一瞬にしてアリシアとフェイトのいる花畑の丘の頂上にへと移動する

 

 

それと、同時に彼女もまた再び、花畑の丘の頂上にいるアリシアとフェイトの前にへと場所が移った

 

 

移動した花畑であちらこちらへと見渡し彼女達の姿をプレシアは必死で探しそして捉える

 

 

だが、彼女はそれを見た途端に全身の血の気が引いた

 

 

「…お母さぁん」

 

 

「…うぅ…」

 

 

そう、それは自分の二人の娘のそれぞれの首元にイタチの持つ刀が押し付けてある光景が入ってきたからだ

 

 

プレシアはイタチのそれを唖然とした様子で見ている

 

 

そうして、彼女は今にも失ってしまいそうな二人の娘の光景に震えながらも声を発して、娘達に刀の刃を立てるイタチに縋る様にお願いし始める

 

 

「お願い…止めて…その子…達だけは…」

 

 

「……滑稽」

 

 

そうイタチが言い放った刹那、だった…

 

 

ブシュリ…と肉を切り裂く様な音と共に彼女達二人の頭がボトリ、ボトリ、とプレシアの眼の前に落ちた

 

 

切断された首からは血が吹き出し、イタチの衣服に大量に付着する

 

 

その血はプレシアの顔面にもベットリと付着した

 

 

そうして、彼女は眼の前で起きたその出来事に愕然とし、力無くその場に膝をつく

 

 

その眼は虚ろ…何も映っていない

 

 

そうしている内に、座り込む彼女の膝元に二つの頭がコロコロと転がってきた

 

 

その瞬間、身体が硬直し、思考が全て停止するプレシア

 

 

 

彼女は転がったその二つの頭が膝に当たり、身体を少しだけ反応させる

 

 

そうして彼女は焦点の合わない虚ろな瞳で転がってきた二つのそれを沈黙したまま抱き上げる

 

 

そして、二人を殺害したイタチは頭が無くなった二つの身体を座り込む彼女に向かって差し出した

 

 

彼はそれから、虚ろな瞳の彼女に話しを紡ぐ様にこう言い放つ

 

 

「…今から二十四時間、貴女は自分の眼の前で俺によって彼女達が殺されてゆくのを見続ける事になる……」

 

 

既に、そんな自分の声も今のプレシアにはもう届いてはいない事はイタチは分かっていたがとりあえず忠告だけはしておく

 

 

そう、ここはイタチの持つ万華鏡写輪眼『月読』の世界

 

 

この世界にいる限り、プレシアの絶望は終わらない…

 

 

「…う…ぁ…」

 

 

最早、その虚ろな瞳で声にもならない様な呟きを溢すプレシア

 

 

血塗れのイタチはそんなプレシアに背を向けたままその場を後にする

 

 

 

「…ぁあああああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!?!」

 

 

 

声にならない程の絶叫、叫び声…

 

 

彼女は二人を抱きしめながら吐き出しようの無い絶望を声に出して叫ぶしかなかった

 

 

 

しかし、幻想の世界ではその叫び声も誰にも聞こえない

 

 

 

ーーーーー彼女の絶望は始まったばかりだ

 

 

 

 


 
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