No.447626

万華鏡と魔法少女、第十二話、決断と忍

沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男


彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。

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2012-07-06 23:22:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4700   閲覧ユーザー数:4398

フェイトとアルフがボロボロになって帰ってきてから一日が過ぎた

 

 

この日、イタチは早速ある人物と接触、そして情報を得る為に待ち合わせをしていた

 

 

待ち合わせの相手はもちろん時空管理局執務官、クロノ ハラオウンである

 

 

今回、彼とイタチが接触する理由

 

 

それは間違いなくフェイト テスタロッサの事だった

 

 

彼女の母親であるプレシア テスタロッサの情報はよく知るのは管理局のデータベースを扱う事の出来るクロノだけ、

 

 

イタチはフェイトとアルフがボロボロになって帰ってきた事もあってか、早速プレシアについての情報を彼から得ようと考えたのだ

 

 

昨晩、彼に電話してわかったの一言で返事をしてくれた事はイタチにとって本当に感謝のしようが無いほどありがたい事だった

 

 

暫く時間が経ち、イタチの待ち合わせ場所に一人の少年が現れる

 

「やはり、君は来るのが早いな待たせてしまったか?」

 

 

「いや何、数分程度前に来ただけだ…あまり待ってはいない」

 

 

そう言って、イタチは自分の元に現れたクロノに微笑む

 

 

 

そうして、二人は互いに情報交換すべく、場所を移動し始めた

 

イタチはその間に、幾つかの質問を彼にへと投げかけていた

 

 

ひとまず、管理局の動向…

 

 

彼等がどう動く予定があるのか、それによっては自分のプランが大きく揺らいでしまう可能性が出てきてしまう

 

 

それはイタチにとってもあまり好ましくない

 

 

そういった事を未然に防ぐ為にも、管理局の今後の行動経緯を把握しとく必要がある

 

 

クロノはそんなイタチの心情を知ってか知らずかわからないがとりあえず、自分が得ている情報を彼に話し始めた

 

 

「…ひとまず、管理局は僕と母さんにこの事件を一任しているみたいだから、君が考えている様なイレギュラーな出来事が起こる確立は低いと考えてくれて構わないよ…、君には既にこちらに協力してもらっている様な状態だ、下手に動いて何か不具合があればこちらも困る」

 

 

「…そうか、それは助かる」

 

 

現状の管理局の情報を話すクロノにホッと胸を撫で下ろす様に感謝するイタチ

 

 

そして、とりあえず待ち合わせ場所から移動し終えた彼等は本題に移り始めた

 

 

まずは、プレシア テスタロッサがどういった人物か

 

 

それと、彼女の持つ力と敵を殲滅する為の攻撃手段

 

 

そして、彼女の人柄

 

 

それらの情報を綿密にイタチはクロノから聞き出した

 

 

クロノから話しを一通り聞き終えたイタチは全て把握し、納得した様に話し出す

 

 

「…まぁ、それ位ならば多分問題は無いだろう」

 

 

「…それ位って、管理局員が彼女にあれだけ手こずらされているのに…君はそれ位で済ますのか、まぁ、別に構わないが」

 

 

プレシアの情報を聞いたイタチの反応に思わず顔を引き攣らせるクロノ

 

 

プレシアはあれでも大魔導師とかつては呼ばれた女性だ

 

 

数ある魔法使いの中でも相当の手練れと言っても過言ではない

 

 

だが、イタチはそれを大した事が無いと一言で言って切り捨てたのだ

 

 

驚かずにはいられないのも無理は無い

 

 

すると、クロノから自分の得たい情報を聞き終えたイタチは静かに自身の懐から何かを取り出し始める

 

 

「…これが、今回の分だ」

 

 

「…あぁ、わかったでは頼む」

 

 

クロノはイタチから差し出されたそれを素早く自身の懐に仕舞い、

 

 

それと同時に交換する様に代わりにイタチに何かを手渡す

 

 

イタチは静かにクロノから手渡されたそれを自身の懐に収めた

 

 

暫く、二人の間に沈黙が漂う

 

 

すると、クロノはイタチに対して話しを切り出しはじめた

 

 

「…何か…あったのか?」

 

 

クロノは顔を覗かせる様にイタチに訪ね始める

 

 

そう感じたのはイタチが浮かべていた何処か元気の無い表情から…

 

 

クロノはいつものイタチの様子とは違い彼が何処か後ろ目ている様に暗く見えていた

 

 

イタチはそんな自分の事を案じてくれているクロノにおもむろに話しをし始めた

 

 

「…クロノ、実はお前に頼みがある」

 

 

「…え?」

 

 

イタチのその唐突な言葉に眼を見開き間の抜けた様な声を上げるクロノ、

 

 

イタチはそんなクロノを他所に淡々とその頼みを語り始めた

 

 

クロノは彼のその話しに黙って耳を傾ける

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

それから、いったい何分経っただろうか…

 

 

その内容はクロノを驚愕させる様な驚くべきものだった

 

 

クロノは鬼気迫る様な勢いで声を荒げてイタチに反論する

 

 

「…そんな事!できる訳無いだろう!いったい何を考えてるんだ君は!」

 

 

「…クロノ、察して欲しいこれは君にしか出来ない事なんだ」

 

 

声を荒げて反論するクロノを冷静に宥める様に声を掛けるイタチ

 

 

だが、彼は断固として首を左右に振った

 

 

「そんな事をできる訳が無い!イタチ!」

 

 

「クロノ…」

 

 

声を荒げていたクロノは冷静さを取り戻し思わずハッと我に戻る

 

 

そして、次に彼が眼にしたモノが信じられずに言葉を失った

 

 

「…頼む…この通りだ…」

 

 

それは、地面に頭を着けて綺麗に土下座をしているイタチの姿だった

 

 

クロノは声が出ない…

 

 

年下である自分に対してここまで必至に頭を下げて、恥を晒しているイタチにこれ以上、断る事は出来なかったのだ

 

 

クロノはすぐさま自分に土下座をしているイタチに駆け寄りかれの身体を起こす

 

 

そして、イタチの身体を起こすクロノは哀しそうな表情を浮かべていた

 

 

「…イタチ…そこまでして君は…」

 

 

もうクロノはその願いを断る事なんて出来なかった

 

 

地面から立たせられたイタチはそんな彼の表情を見て優しく微笑みこう言った

 

 

「…もう十分なんだクロノ…」

 

 

イタチのその言葉にクロノは急に目頭が熱くなり、指で眼を抑えた

 

 

抑えていた彼の感情が溢れてしまったからかもしれない

 

 

イタチはすかさず、彼に自分のズボンのポケットからハンカチを取り出し手渡す

 

 

だが、クロノは大丈夫だと言わんばかりにイタチのそれを手で制した

 

 

「いや…大丈夫だ取り乱してすまない」

 

 

「…そうか、」

 

 

クロノのその反応に安堵した様に胸を撫で下ろすイタチ

 

 

そして、イタチは最後にクロノにあるモノを取り出して手渡した

 

 

その物体にクロノは眼を丸くする

 

 

イタチはそんな彼に静かに取り出したそれを手渡しながら微笑みこう言った

 

 

「…全ての事が済んだら、これをフェイトとアルフに渡してほしい…渡しそびれたからな」

 

 

そう言って微笑むイタチを他所に手渡されたその物に視線を落とすクロノ

 

 

それは、彼がお礼にと彼女達に用意していた可愛らしいリボンで収められている小包みだった

 

 

クロノは静かに頷き、イタチから手渡されたそれをしっかりと受けとった

 

 

そして、イタチは踵を返してクロノに背を向けこう告げた

 

 

「…頼んだぞ、クロノ」

 

 

そう一言だけ言い残して、疾風の如くイタチはその場から消える

 

 

取り残されたクロノはその手渡された二つの小包を見つめながら溢す様にこう呟いた

 

 

「…馬鹿野郎…」

 

 

それは、風の音にかき消され虚空にへと消えてゆく

 

 

クロノは暫くして、イタチが消える様に立ち去ってしまったその場から踵を返して去って行った

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

それから数日、

 

怪我を負ったフェイトはイタチの看病もあってか体調がどんどん優れて完治に近いまでになっていた

 

 

この様子を見届けていたイタチはもう十分大丈夫だと安堵する

 

 

それと同時に、彼女にはもうこれ以上、苦しんで欲しくは無いと心の内で思いながらイタチはその数日間をフェイトと過ごしていた

 

 

 

そして、これはそんな彼女が完治して数日後の早朝の出来事

 

 

 

イタチはアルフと共にプレシアの元に向かおうと用意をし玄関先で靴紐を結んでいた時だった

 

 

「イタチ兄さん!」

 

 

不意に後ろから声が聞こえてきた

 

 

その声の主は紛れもなくフェイト テスタロッサのものだった

 

 

イタチはそんな声を掛けてきた彼女を他所に黙々と靴紐を結びながら彼女に訪ねる

 

 

「…なんだフェイト、今日は俺は忙しいんだ」

 

 

無愛想に後ろから声を掛けてきたフェイトに振り返りイタチは彼女を軽くあしらおうとする

 

 

だが、フェイトはそんなイタチの反応に頬を膨らませて不機嫌な表情を浮かべる

 

 

するとフェイトはイタチに不満そうに呟き始めた

 

 

「…今日は一緒に買い物行ってくれるって約束事してくれたのに」

 

 

「今回は大事な用事なんだ察してくれ、なんならなのはでも誘えばいいだろう?」

 

 

イタチは駄々をこねるフェイトに困った様な表情を浮かべ靴紐を結び終えて立ちあがる

 

 

だが、フェイトはそんなイタチに哀しげな表情を浮かべ視線を下に落とした

 

 

そんな彼女の眼頭には薄っすらと涙がみえる

 

 

フェイトは自分に構ってくれないイタチに対して抱いた疑問をぶつけた

 

 

「…イタチ兄さんは私のこと、うっとおしいのかな…」

 

 

フェイトの発したその言葉にピクリと反応するイタチ

 

 

この時、イタチはフェイトの心情を理解した

 

 

彼女はいままで、自分の母から必要とされずに道具として扱われていたのだ

 

 

手のひらを返した様に自分の事を無下に扱うイタチの反応を見て、多分、フェイトは自分からも必要とされていなくなったのではないかと感じたのではないだろうか

 

 

玄関先で立ちあがり、薄っすらと涙目のフェイトを見たイタチはそう感じた

 

 

そんな姿は何処か懐かしいものを重ねてしまった

 

 

いつも、修行を見てくれとせがんで来た幼い頃の自分の弟

 

 

その姿と今のフェイトがイタチには同じに見えてしまった

 

 

イタチはやれやれと困った様な表情でフェイトにこちらに来いと手招きする

 

 

そのイタチの行動に眼を丸くするフェイト

 

 

だが、彼女は自分がイタチに必要とされていると分かると嬉しそうに彼にパタパタとスリッパの音を立てながら駆け寄った

 

 

しかし、彼女が駆け寄ってくるのがわかったイタチは二本の中指と人差し指を立てる

 

 

 

ーーーーーーーそして、

 

 

「…許せフェイト、また今度だ」

 

 

駆け寄った彼女の額を軽く小突き、優しく微笑みそう告げた

 

 

フェイトは突然イタチから額を小突かれ眼を丸くする

 

 

「…ふぇ」

 

 

キョトンとした表情でイタチに小突かれた額を抑えながら声を溢すフェイト

 

 

イタチはそんな彼女の様子にクスりと笑みを溢しながら、優しく彼女の頭を一回だけ撫でてやる

 

 

そして、ゆっくりと彼女の頭から手を離したイタチは視線を下に落とし、改めて告げる

 

 

「それじゃ行ってくる…」

 

 

フェイトを背向けたまま微笑み玄関の扉を開いて外へと出て行くイタチ

 

 

彼が開いた玄関の扉はイタチが外に出て手を離すと同時に、自然と閉まってゆく

 

 

取り残されたフェイトは彼が小突いてくれた額を摩りながら何処か嬉しそうに笑みを溢していた

 

 

「…えへへへ…」

 

 

…嬉しかった、自分はまだ彼に嫌われてない

 

 

それはイタチが自分の額を軽く小突いていつもの様に微笑んでくれたのがなによりの証拠だ

 

 

ただ彼が自分の額を小突いたあの時、彼は何処か哀しそうだった様な…

 

 

まぁ、それは流石に自分の考え過ぎかもしれない

 

 

フェイトはとりあえず引っかかるその事を自分の考え過ぎというので片付けとく事にしといた

 

 

そして、イタチに構ってもらった彼女は上機嫌で玄関先から部屋へと戻ってゆく

 

 

 

だが、この時フェイトは予想もしていなかった

 

 

 

これが、大波乱の予兆になるという事に…

 

 

 

金髪の魔法少女と優しい兄とのひと時の時間それは、夢の様に儚く過ぎ去ってゆくのであった


 
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