No.446166

たとえ、世界を滅ぼしても ~第4次聖杯戦争物語~ 第一章 終わりの始まり(英霊召喚)

壱原紅さん

初恋の女性とその娘達の幸せの為、そして自分とは違う男への憎悪を胸に間桐雁夜はサーヴァントの召喚へ挑んだ。
さりとて、その根底にある祈りはただ一つ

「自分はどうなってもいい、でもあの子《桜》だけはこの地獄から救い上げたい」

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2012-07-05 00:38:02 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1864   閲覧ユーザー数:1812

 

※注意、こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、

微妙な腐向け要素が見られますので、

受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。

 

それでも見てやろう!という心優しい方は、どうぞ閲覧してくださいませ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「■■■■■■―――――――!!!!」

 

 

その時の事を、彼は今でも覚えている。

 

 

「消えろ、貴様の存在はあまりにも赦しがたい・・・!」

 

 

自らと救いたいと願った少女を、あの地獄から助けてくれた2人の騎士を

対になるような、黒き騎士と白き騎士の姿を――――――――

 

 

 

 

************************************************************

 

 

 

「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ。繰り返すつどに五度、ただ満たされる時を破却する。」

 

 

暗く冷たい地下のそこで、その詠唱は行われていた。

言葉を紡いているのは一人の男、その彼の後ろの方には一人の翁が立っている。

 

 

「告げる。汝の身は我が下に、わが命運は汝の剣に。」

 

「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。」

 

 

願いが、ある。

どうしても、叶えたい願いがある。

この身をかけてでも、助けたい、少女がいるのだ。

 

 

 

(その為になら、俺は・・・!)

 

 

相当の激痛が体に走っているのだろうに、彼は詠唱を止めない。

片目からは血涙が流れ、仮面のように固まった頬の下で虫が騒ぐ。

それでも・・・雁夜は言葉を紡ぎ続ける。

 

 

「されど汝はその目を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖をたぐる者。」

 

 

(あの子を、桜ちゃんを!)

 

 

分かっている、分かっていた。

この言葉を紡いだ時点で、自分の命は『絶対』に助かる事はなくなったのだと。

あの爺が、自分の助けになるような事を助言する等、ある筈がないと。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天!」

 

 

分かっていても、自分は―――――――

 

 

(狂っていても構わない!俺を食い殺しても構わない!だからあの子を!)

 

 

桜、自分が好意を寄せていた女性の娘。

まだ幼い少女が、自分がこの呪われた間桐家から逃げ出したばかりに、あの子が犠牲になってしまった。

 

 

非力な幼い少女がこの耐え難い現実に抗う為には、その心を殺してしまうしかなかった。

かつて自分に見せてくれた、記憶に残る彼女の姿はもはやない。

 

もし、自分が桜を助ける事が出来ても、その心が元通りになる事はきっと無いだろう。

 

犠牲になったものは多く、この少女が背負うにはあまりにも味方がいない。

家族の元に帰せても、再び元の笑顔を取り戻せるとは限らない。

 

そして、その隣に自分が存在し、守り、慈しみ、共に生きるのはこの体では叶えられない。

どれだけ間桐雁夜が手を尽くしても、このままでは、桜は永遠に救われないのだ。

 

 

 

                 それでも…俺は…

 

 

           「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 

              (桜ちゃんを、助けたいんだ!)

 

 

 

眩い光が暗い地下を照らし出す。

視界が光に包まれるのを見て、雁夜はその場に膝をついた。

魔力を根こそぎ奪われ、それでも必死に自分が呼び出したであろうサーヴァントの姿を求める。

 

そうして、雁夜は驚きに目を見開いた。

 

 

 

「二人」、いる。

黒いフルプレートを纏った黒い騎士、呼び出そうとした狂戦士(バーサーカー)にふさわしい騎士。

だがもう一人、その隣に立っているのは・・・・

 

 

 

 

 

「問おう、貴方が『我ら』を招きしマスターか?」

 

 

 

 

肩ぐらいまでの白銀の髪、明らかに理性を宿した蒼色の瞳、そして静かに響き渡る澄んだ声。

雁夜より少し背の高い程度の、中性的な顔立ちをした青年がそこに立っていたのであった。

 

 

「――――■■■■」

 

 

聞き取れない声、湧き上がる黒い魔力、はっきりと直視出来ない歪みを漂わす黒き騎士がいた。

兜を被って見えないその瞳、けれど確かに狂える意思を感じざるをえない、赤い光が見えた。

 

 

 

         「問おう、貴方が『我ら』を招きしマスターか?」

 

 

 

そうしてそれに続くように、静かな声が響き渡る、

その声は余りにも静かで、そしてそれを紡いだ白銀の剣士の表情は逆に・・・とても、穏やかだった。

 

 

なのに何故だろうか、その穏やかさが逆に、とても――――――――

 

 

 

「どうしたのです?何故返事をしてくれないのですか?」

 

 

思わず、息をのんで彼らを見つめていると、不思議そうな声が響いた。

困ったような表情に、雁夜は魔力切れでうまく動かない体を動かし、銀色の騎士に答える。

 

 

「ああ・・・そうだ、俺がお前達のマスターだ・・・っ!げほっ!ごほっ!」

 

 

何とか声を出して、そして同時に咳き込んでしまう。

まともに立っていることも出来ず、雁夜は思わずその場に倒れこんでしまった。

 

やはり、なんのイレギュラーか知らないが、

二体のサーヴァントを呼んでしまった為か、体にかかる負担は予想以上に大きかったようだ。

 

 

(くそっ・・・サーヴァントや爺の目の前でこんな醜態を晒してしまうなんて・・・しかも、一方は狂化してないとかどうなってるんだ!?)

 

 

だがこうして召喚出来た以上、彼らは自分のサーヴァント。

それに、しっかりと話が出来るのなら、もしかしたら桜を助けるのに一番の障害となるであろう

間桐臓硯を倒すのを手伝ってくれるかもしれない。

 

何とかそこまで考えて、起き上がろうとした、その時―――――――

 

 

『・・・どういうことです、マスター・・・その身に何を飼っている?いや、寄生されているのか・・・その理由、説明して頂けますか?』

 

 

―――――――頭の中に、直接語りかける声が響いた。

 

 

「な・・・」

 

 

唖然としてしまう、今、目の前のサーヴァントは何と言ったのか?

 

 

「大丈夫ですか?マスター・・・貴方は我らを呼び出したのです、余り無理はなさらず。」

『ダメですよマスター、下手に声に出してはそこの蟲翁に気付かれてしまいます。出来ればこのパスでの会話は長引かせる訳にはいかないのです。』

 

 

穏やかな笑顔のまま静かに白銀の騎士が俺に触れ、そのまま抱き起してくれる。

だがそれ以上に頭の中に響く声が、それを告げていた。

 

 

「どうやら、貴方はこの召喚で魔力の消費が激しいようですね・・・休む部屋はございますか?お連れいたしますのでどうか我らに指示を。」

『あの蟲翁は明らかにまともでは無い、それに貴方からのパスは(アレ)に対しての嫌悪感を告げている・・・(アレ)は貴方の敵ですね?そうならば頷いてください。』

 

 

コイツは、このサーヴァントは気付いているというのか。

あの爺が人間でもなければ、まともな魔術師ですらない化け物だという事に・・・!

 

呆然としてしまいそうになりながらも、思わず頷いていた。

敵かと問う声に、それは事実だと告げる為に。

 

 

「そうですか、ならばお連れいたします。」

「待て。」

 

 

だが、穏やかな笑みを深めてそのサーヴァントが頷いたと同時に、背後からしわがれた声がした。

 

 

「・・・なんだよ、爺・・・召喚は無事すんだ、部屋に戻ってもいいだろう・・・」

 

(っ、今の今まで黙っていたにも関わらず、何故今話しかけてくるんだ・・・っ!)

 

 

ギリッ、と歯を喰いしばり精一杯睨みつけるが、声をかけた臓硯は楽しそうに言葉を続けてくる。

お前の苦しむ顔こそが、楽しくて嬉しくて堪らないのだと言わんばかりに。

 

 

「何、よもや貴様が英霊を二体も召喚する等思っておらんかったからのう・・・久しぶりに、表に出てみたくなったわけじゃよ。」

「なっ・・・まさか!?」

 

 

そのまま続けて言われた言葉に愕然とする。

そんなと考えたくない可能性に絶望してしまいそうになる。

 

 

「察しが良いようで助かるわ、儂にそちらのサーヴァントを寄越せ雁夜・・・分かっておろう、貴様の魔力では二体のサーヴァントを維持する事は、不可能だと。」

「っ、それ・・・は・・・」

 

 

答えられるわけがない、事実その通りだからだ。

呼び出しただけで生きているのが奇跡に近い、実際今もこの銀の騎士に支えられている自分が二人分の魔力供給に耐えられる筈がないのだ。

 

 

「ふん、ならばさっさと儂にその貴様を支えている方のサーヴァントを渡すがいい、貴様は元よりバーサーカーのマスターになるつもりだったのであろうが・・・イレギュラーになるであろうサーヴァントを貴様が従える事は出来るまい。」

「っ・・・!」

 

 

(どうすればいい、どうすれば・・・!)

 

 

臓硯は理性のあるこのサーヴァントを自分から引き離す事で、万が一にでも己に反抗する可能性を潰そうとしているのだ。

そんな事を認めれば、恐らく先程感じた一寸の希望すらも確実に消えてしまうだろう。

だが、今此処でそれを拒絶すれば体の中の蟲がこの身を食らいつくすかもしれない。

 

 

(今すぐにでも、桜ちゃんを助けられるかもしれないのに・・・!)

 

 

悔しくて堪らなかった、こんな時にこのまま要求を呑むしかないと理解してしまうのが。

そうしなければならないのだと、嫌でも感じてしまうのが。

 

どうして自分はこんなにも―――――――

 

 

だがどうしようもない、この味方になってくれそうだったサーヴァントを裏切ってしまうしかないのだと雁夜はそう判断しようとした・・・が

 

 

 

「マスターすいません、ちょっと眠っていてください・・・今から、そこの人外をぶち殺しますので。」

「えっ?」

 

 

頭上から降ってきた穏やかな声に意識が止まる。

同時に首に軽い衝撃を感じて、雁夜はそのまま倒れ伏す。

 

 

だが、何故かその時、自分の右手の指に何かが填められたような・・・そんな感覚を最後に雁夜の意識は完全に闇へ沈んでいったのだった。

 

 

気を失わせたマスターを肩に担ぎあげながら、騎士は目の前の翁を少し見て・・・結論を出した。

 

 

(・・・ああ、殺せないな、この蟲爺は個体じゃなくて集団だから、真っ当な魔術師や英霊では無理だ。)

 

 

正直なところ、【彼】は気付いていた。

『今の』自分とこの状況では、目の前の「蟲の姿をした魔術師」は殺せないだろう、と

外道には外道をぶつけない限り、大した致命傷すら与えるのは困難である、と

 

(だから、とりあえずマスターには「保険」をつけたが・・・まったく、生前からもそうだが、面倒な相手ばかり敵に回るな。

しかし・・・殺す、と断言していた手前、やっぱり出来ませんでした!と言うのも問題があるな、マスターとの関係に溝を作ってしまう。

さて、どうしたものか。)

 

内心そう呟くと、彼はまいったなと溜息を吐いた。

 

 

「っかかか!無駄じゃ無駄じゃ!儂を殺す?たかがサーヴァント風情がそんなこと出来る筈がなかろうて!」

 

 

蟲は笑っている。

愚かな事を口にしていると理解した上で、こっちは何も出来ないと判断しているのだから。

それは当然だろう、こちらの方はマスターの命がかかっているのだから、今すぐにあの蟲を殺せる訳が無い。

ただし・・・それはこちらが、【マスターの意思を顧みるなら】、という条件が付くのだが。

 

 

「ああ、そうだ、我らに『貴様という魔術師を殺す術』等無いとも。」

「・・・何?」

「我らのマスターの中にいる虫は貴様の使い魔だろう?そんなものが内にいると分かっているのに易々と手等出せる訳が無い。

 マスターを内側から潰されて、この身を形成している魔力が『数分』で尽きて我らが消滅するのが目に見える。」

「ほう、気付くか、ならば分かるであろう・・・所詮雁夜如きが呼び出した、バーサーカーのオマケで出てきたバグ風情が儂に刃向う事が無駄なのじゃからな。」

「バグにオマケか・・・まぁオマケだろう、実際そのせいで私のステータスは随分下がってしまっているしな。」

「・・・・・」

 

 

あっさりと銀の騎士が肯定し、すらすらと会話を続けてくる事に、思わず臓硯は笑うのを止めた。

 

この明らかに穏やかな表情をしている騎士が、何故か・・・【異常なモノ】に思えたのだ。

笑っている、笑っているのに・・・【笑って】いない。

 

 

「・・・なんじゃ、貴様は」

「・・・それを聞くのか?今貴様が言っただろうに・・・『バーサーカーのおまけで出てきたバグサーヴァント』だと。」

「良いのかの?軽々しく口にしておるが、儂は貴様の言うように今すぐにでも雁夜を殺せるのじゃぞ。」

「ああ、それも承知の上だ・・・だがな、もしそれをすれば、貴様はとんでもない失態を犯したと後悔する事になる。」

「・・・ほう」

「そう、例えば―――――」

 

 

すっ、と目を伏せて数秒、軽く考える素振りを見せると、銀の騎士は小さく笑って言った。

 

 

「―――我が宝具を開放し、【貴様以外のこの屋敷の人間を一人残らず皆殺し】にする。

 別に構わないだろう?貴様には【直接】の被害は無いのだから。」

「ぬぅっ・・・!?」

 

 

ざっ、と血の気が引くように・・・もっとも、この翁に血が通っていればだが、明らかに翁は動揺した。

それに畳み掛けるように、騎士は淡々と言葉を続ける。

 

 

「それと・・・そうだな、私の魔力が尽きるまで、この屋敷で大暴れさせてもらおうか?

 丁度そこに、良い殺し合いをしてくれる相手(バーサーカー)がいるしな。

 ああ、そんな事をしたら聖杯戦争の他の参加者がゾロゾロやって来るかもしれない。

 もしかしたら・・・この家の事を探ろうとして、うっかり他のマスターが踏み込んでくるかもしれないな。」

「き、貴様・・・!」

「何故怒る?我らのマスターを【害したら】の話だ、もっとも・・・そうなれば、この【蟲の集積所】がどうなるかは知らないがな。」

 

 

静かに、穏やかな声で、まるで今日の天気を語るかのような気安さで、そのサーヴァントはこう告げていた。

 

 

 

【私のマスターに軽々しく害をなせば、お前の言う『魔術師の跡継ぎ』と『潜んでいられる安全な場所』が無くなるぞ】、と

 

 

 

それは、立派な脅迫だった、まともな人間なら思わず怒鳴り散らしてしまいたくなる程に分かりやすく。

自分の方が立場が悪い筈なのに、明らかに逆らうなと言わんばかりの傲慢さが見える程に。

 

目の前の、騎士の姿をしたサーヴァントは、本気で間桐臓硯を脅しにかかっていた。

 

実際、この英霊が言っている事を本気で実行されれば、その損害は計り知れないものになる。

今まで誤魔化してきたが、娘を養子に差し出した遠坂の小倅や、此度の聖杯戦争に参加しているアインツベルンや時計塔の魔術師が、突然崩壊するだろう間桐家の跡地に偵察に来ない等、あり得ない話だ。

 

臓硯は生き延びれるだろう、その使い魔たる蟲を、町に放ち一匹でも生き長らえれば、なんとかなるかもしれない。

 

しかし・・・万が一にでも、今の今まで土地の管理人たる「遠坂家」の足元で、「人喰い」を行っていたのだと気付かれれば?

間桐臓硯の『延命』の手段に興味や不信を持たれ、時計塔が、魔術協会が、そして代行者が動こうものなら、どうなるだろうか?

そして、臓硯が死んでいないと、何かの拍子で気付かれでもすれば・・・その結末は火を見るより明らかだ。

 

 

だからこそ、このサーヴァントは、【雁夜を害するな】という条件を事前に付けてきており、この臓硯の掌から雁夜ごと逃れようとしているのだ。

お前がこちらに手を出さなければ、こちらもお前の困る事はしないでおく・・・と。

 

 

マスターが「敵」と断じた臓硯の姿を見て、殺せないと理解したと同時に『脅迫』を選んだサーヴァント。

日の下を堂々と歩けないだろう、地下の蟲蔵よりも腐臭のする体に、【彼】は臓硯が真っ当な存在ではないと気付いた。

後ろめたい事を続け、罪悪感を感じていない者には正攻法等「無意味」、同じ外道として対面する方が良いと【理解している】が故の行動だった。

 

 

――――だが、臓硯とてただの魔術師ではない。

聖杯戦争の始まりを作り上げた、マキリの当主にして500年の時を生き続ける、大魔術師(怪物)なのだ。

この程度の脅しなど、幾らでも返答しようがあるのを理解している。

 

 

(この、目の前の『英霊如き』、早々に黙らせこの掌で踊らせてくれるわ・・・!)

 

 

そう考え、臓硯はあえて顎に手を添え、理解出来ぬと頭を振り。

その『事実』を教えた。

 

 

「・・・分かっておるのだろうな?貴様の言っておる事は、貴様のマスターの意思に反しておるのじゃぞ。」

「ふむ、それはどういう意味だろうか?」

「雁夜の願いは跡継ぎとして連れてきた娘を、桜を遠坂家に帰してやる事じゃ・・・この屋敷を破壊し、アレに手を出せば貴様のマスターが黙っておらんぞ!」

「・・・」

 

 

その言葉に、銀の騎士は穏やかな表情から驚きに目を見開く。

心底驚いた、と言わんばかりの表情に、臓硯はニヤリと笑う。

 

 

(やはり、所詮はたかがサーヴァントじゃな・・・この程度の事実で戸惑うか)

 

 

その様子に、間桐臓硯は余裕を取り戻し――――――

 

 

 

「ああ・・・それで(・・・)?マスターの命を守る事と、その娘の安否に【一体何の関係がある】と?」

「な・・・っ?」

 

 

 

―――だからなんだと、心底どうでもよさそうに、下らない妄言を聞いたと言わんばかりに嘆息した騎士の言葉に、絶句した。

 

 

 

そして、理解する。

理解して、しまった。

この目の前のサーヴァントは、確かに『狂って』いるのだと。

 

これが、英雄だと?

そんな馬鹿な話があるか、これは・・・悪霊か何かの間違いだと。

 

その笑顔に騙された、その口調と声色に騙された、その穏やかさに騙された!

笑って等いない、慈しんで等いない、己のマスター以外の全てが、このサーヴァントには『どうでもいい』のだ!

 

このサーヴァントは、決して、真っ当な『英雄』ではない!

少なくとも、己のマスターが血反吐を吐きながら救いたいと嘆く命を、『くだらない』と言い切る『悪霊』だ!

 

 

「私はそもそもその娘を知らない、マスターから直接頼まれた訳でもないのに、何故マスターを害す存在である貴様の言葉を鵜呑みに出来る?

 その発言が嘘ではないという証拠は何処だ?なぁ翁よ・・・何か勘違いしているようだから言っておこう。

 ・・・私は、【このマスターに呼ばれ、彼が気に入ったから守る】、ただ、それだけのサーヴァントでしかないんだよ。」

 

 

 

 

故に、臓硯はその言葉を受け入れるしかない。

あのサーヴァントに、今人質として通用するのは雁夜だけなのだ、雁夜が桜の事をこのサーヴァントに命令しない限り。

 

 

 

このサーヴァントは、桜が【雁夜の障害になる】と判断したと同時に、その命を奪うだろう。

 

 

 

そう言うと、【彼】は踵を返して地下から出て行こうと歩いていく・・・こんな言葉を、残しながら。

 

 

 

「案ずるがいい、この魔術師の家の長よ。

 我らのマスターが勝利を望むならば、我らは【己の願い】の為にも協力は惜しまない。

 貴様には聖杯が必ずや齎される・・・どのような願いを持ち、どのような祈りを捧げるかは知らぬが・・・」

 

 

背後から、凄まじい憎悪の視線を投げつけてくる間桐臓硯(マキリ・ゾォルケン)の視線を浴びながら。

 

 

「我らのマスターに【余計な真似】だけはするなよ?

 そして、聖杯を手にした時、マスターとの【約束】を守ってくれさえすればいい。

 それさえ守ってくれるのならば――――――必ずや、聖杯を手に入れよう。」

「・・・いいじゃろう、精々口先だけにならぬようにするがいいわ・・・だがその前に答えよ!貴様は、何のクラスで招かれた!!」

 

 

ぶつけられた罵声に近い問い掛けに、出口に向かう階段を上がりながら、【彼】は振り返る。

その表情は――――――

 

 

 

「この身は聖杯に招かれし、第八のサーヴァント・【ドラグーン(龍殺し)】。」

 

 

 

――――――吐き気がする程、穏やかで綺麗な笑顔だった。

 

 

 

にじファン/NOSサービスから移転してきました。

作者こと、壱原紅と申します。

 

多くの小説家さん達に魅了され、初心者ながらビクビク投稿いたしました!

不定期更新となりますでしょうが、あきれず見守っていただければ嬉しいです。

 

これから頑張って更新していきます!

 

移転させてきますので、できる限り早めの更新を心がける所存です。

どうかよろしくお願いいたします。

 

 
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