No.442858

友情はLOVE?

健忘真実さん

山岳スキー部に所属する良平とサッカー部の悦治は、同じクラスで親友の高校2年生。
高校最後となる競技会前に、足を骨折した良平。さて・・・。

2012-06-28 12:14:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:470   閲覧ユーザー数:470

 1時限目。国語の授業中。良平の座席は、一番後ろの通路側にある。

 彼は、机の脇で湯を沸かしていた。水を入れたコッフェルを、EPIガスバーナーの

上に乗せていただけではあるが。

「三田君、ひっくり返さないように気をつけなさいよ」

 教科書を持った田代先生が、夏目漱石の『こころ』を読みながら近づき、そう囁いて

遠ざかった。田代先生は、良平が所属する山岳スキー部の顧問である。

 

「田代は良平に甘いよな」

 終業ベルとともに先生が教室を出ると、これもすぐにいなくなった隣の席の、綾のイ

スを引っ張ってきて坐り、悦治が言った。

「へへっ・・・ちょうど沸いたとこや、グッタイミン」

 良平は教科書を机の中に押しやると、カップラーメンを2つ取り出して並べ、湯を注

いだ。

 

 サッカー部の悦治は毎朝早く、自主トレでグラウンドを走っていた。時々、良平もそ

れに付き合っている。とにかく、彼らはいつも空腹なのだ。

「仲がおよろしいですこと・・・悦治! イスにおつゆ、こぼさんといてや!」

 いつの間にか戻って来ていた綾が、腰に手を当てて睨みつけてきた。

「この前、知らんと坐ってしもたんやから。えらいめにおおたんやで」

「ごめんやっしゃぁ、スンマヘンなぁ、堪忍でっせ、すぐ食べ終わりますさかい」

 

 

 放課後、山岳部は校舎の屋上からザイルを垂らして、懸垂下降の練習をしていた。

 良平は、屋上の柵に腕を乗せて、グラウンドを見ていた。グラウンドでは、サッカー

部が紅白試合をしている。

 悦治は、小柄なからだを敏捷に動かしてボールを奪うと、高く蹴り上げた。そして、

ゴールに向かって駆けていく。しなやかな足さばき、手をうまく使ってバランスを取り

ながら、ボールを蹴る。ほれぼれとする姿である。

 

「三田先輩、見本を見せてくださいよ」

「ああ? ああ」

 我に返って懸垂下降の注意点を教えて、下降してみせた。

 

 良平はどちらかといえば、アルペンスキーに目標を置いている。実際にスキーができ

るのは、1月から3月の3ヶ月間しかない。それ以外は、合宿で高い山へ行くぐらいで、

普段はボッカ訓練をしている。30kgのキスリングを背負って、校舎の階段を上がっ

たり下りたり。ロッククライミングはしないのだが、時々こうして、真似事だけをして

いるのである。

 

 地面に降り立った良平はそこにつっ立ったまま、悦治のシュートに目をやった。シュ

ートは、ゴールからそれた。

 いつもの悦治らしくないな、と思った時、勢いよく懸垂下降してきた後輩が良平にぶ

つかり、倒れそうにぐらついた良平は運の悪いことに、近くに置いていたキスリングに

躓いて、大きくでんぐり返りをしてしまったのである。

「いててててて・・・」

「あっ! すみません、大丈夫ですか!?」

 駆け寄ってきた後輩に助け起こされたが、

「いててて・・あしが・・・折れたみたぃ」

 

                  ★  ★  ★

 

 スキーシーズンはまもなくやってくる。2年生には、高校生活最後の競技会となる。

そのために、早朝ランニングをし、ボッカ訓練で足腰を鍛えてきたのである。

 

「良平、お前、スキー競技に出れるんか」

「出たいけどな・・無理やろ」

「お前、怪我した時、ボーッと立ってたそやないか。俺がシュートした直後やろ。また

俺のこと、見てたんとちゃうか」

「なんや、気ィ付いてたんか・・・」

「俺のスランプはやなぁ、お前のせいやねんぞ」

「・・・・・・」

「お前の俺に対する気持ち、ヒシッと伝わってきてたわ。俺、動揺してたんや。女に好

かれるんやったらカッコエエとこ見せたろ思て、シュート、バンバン決めてるとこやけ

どな」

「・・・・・・」

「けど、男に好かれるゆうんは・・・気恥ずかしいけど・・・やっぱ、嬉しいわ。ホン

マいうとな、俺もお前のことが好っきゃねん。俺にないもんをお前は持ってる。お前に

ないもんを俺は持ってるんや、思う。そやからお互いに、引きつけ合ってるんやろなぁ」

「・・・・・・」

「俺のスランプはお前のせいやない。2月に、サッカーの大会がある。それに向かって、

一緒に頑張ってくれへんか。お前が試合に出れるように俺も協力するから、一緒に頑張

ろうや」

 

 

 良平と悦治は、リハビリの専門家のアドバイスを受けながら、共にトレーニングに励

んだ。

 気力が、回復力にもつながっていった。

 スキーの実地トレーニングでは後れを取った良平だったが、悦治の提案とアドバイス

を受けて、映像でフォームを研究し、それをまねし自分のものとしていった。

 悦治も映像で自分のフォームを研究し、良平のアドバイスを受けながら、スランプを

脱していった。

 ふたりは、いつもふたりでいることが、心地よかった。

 

 

 2月、アルペンスキー競技会。この日が、良平にとってはシーズン初めての試合であ

り、高校生活最後の挑戦だった。

 悦治、ありがとう。しばらく目を閉じ深呼吸してから、スタート位置に立ち、ゴール

地点を睨んだ。

 

 スタートの旗が、振り降ろされた。


 
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