No.429352

そらおと/ZERO 第五章「女王解放」

tkさん

『そらのおとしもの』の二次創作になります。
 物語的には折り返し地点という所。
 完全に月一投稿になっていますが、最後まで続ける予定です。

 このシリーズの目標:バトルものシリアス、および中編への挑戦。

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2012-05-28 13:02:36 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:1261   閲覧ユーザー数:1246

 彼女は、遠い思い出(ゆめ)を見る。

 

 

 兵器(そんなん)は、なんか嫌だなって思ってさ。 

 

 

 それは、出会って間もない頃に彼が口にした言葉。

 彼女の手が多くの血に汚れていると聞かされる前の彼だからこそ言える言葉だった。

 

 

 私は、マスターの嫌いな、兵器です。

 

 

 それは、彼女にとって決別を意味する言葉。

 少年に嫌悪されるであろう、別れに等しいと思えた言葉だった。

 それを。

 

 

 分かってたさ。

 

 

 少年は、優しい笑顔で受け入れた。 

 彼女が生まれながらにして人殺しの道具であった事も。

 その在り方に彼女の心が悲鳴をあげていた事も。

 少年は全て悟っていた。

 その上で、友達を助けてほしいと彼は言った。決して『敵を倒せ』とは口にしなかった。 

 その優しさに触れた時、彼女は初めて自分の本当の在り方を自覚する。

 

 ああ。私は、怖かったのね。

 

 命の尊さを知ったから。

 その儚さを知ったから。

 それを奪う恐ろしさを思い出したから。

 彼女は、誰も殺める事ができなくなった。

 どうしようもなく臆病で意気地のない、兵器としての欠陥品。

 マスターに敵対するシナプスのエンジェロイドですら本気で破壊できない、戦士としての半端者。

 

 でも、あの人はそれを望んでくれている。

 

 自分は、彼の優しさに甘えていると。

 それを自覚してもなお、もう元に戻る事は叶わない。

 他ならぬ彼女自身がそれを望んでいるのだから。

 

 

 

 

 こうして。

 かつて一片の容赦もなく他者を蹂躙した殺戮兵器は。

 一人の少年によって、正しく愛玩用の欠陥品へと堕したのだ。

 

 

 

 

 

 思い出は流転する。

 彼女は間近な記憶に手を伸ばす。

 

 私は、戦えるの?

 

 自分のマスターである少年。

 彼を守る事は自分の望みだ。その事に一片の曇りもない。

 だが、その為に他人を殺める事ができるのか。

 

 大丈夫、マスターを守る為なら、きっと。

 

 そう思い込もうとして、何度も自分の友人を手にかける自分を想像する。

 

 大丈夫、大丈夫。なんでもできる。マスターの為に。

 

 深呼吸をしても動悸は収まらない。それも当然だろう。

 マスターの為にと思う時点で、その思い出が彼女を苛むのだから。

 自分のしようとしている事は正しいのか。それは、あの少年が望まない事ではないのか。

 自問自答は終わらない。思考は螺旋となって堂々巡り。

 

「―。―――?」

 

 それでも自分が、と。

 親しい人と争う事に胸を痛める少年の心を、少しでも軽くできるようにと。

 終わらない、終わりのない試行錯誤を続ける。 

 

 

 

「おいイカロス、寝てんのか?」

 

 

 

「―っ!?」

 彼女の思考が現実へと引き戻される。

 そこには見知った少年の顔があった。

「…あ、マスター」

「あ、じゃないだろ。朝飯、いらないのか?」

 自分が居間にいる事を思い出した彼女は、慌てていつも通りの自分を演じる。

「………いえ、いただきます」

「?」

 マスターが何事かと自分を見つめているのも分かっていたが、黙秘を通す事にした。

「…ふぅん」

 もっとも、付き合いの長い同胞(ニンフ)にはこちらの動揺を知られているだろう。

 その上で指摘をしてこないという事は、きっと事情も察している。それを口にしない事が少しだけありがたかった。

「…なあ、イカロス」

「はい」

 現在、彼女とマスターの関係には微妙な違和感、というか距離感がある。

 それには彼女がマスターの幼馴染を倒すと口にした事が起因していた。

「最近ボーっとしてるぞ、お前。例のプロテクトが解除できないのが原因なのか?」

「…はい。ですが体調の件はプロテクトとは無関係です。戦闘に支障はありません」

 本当の所、彼女とニンフにはこのプロテクトの原因が掴めつつある。

 ニンフは高い演算能力による直接的な検査で。彼女は自身の内面の事ゆえに。

 ただ、原因が掴めたところで対処方法が分からないので口にしていないだけ。

「なら、いいけどさ。なんか元気ないし、嘘ついて無理すんなよ」

「はい。マスターも、私への気遣いよりも別の事へ専心してください」

「あ、ああ。分かってる」

 お互いに踏み込めないというか、遠慮してしまうという気遣いの連鎖。

 もう三日ほどこの状態である。

 以前はお互いあんなにも直球勝負だったというのに。端から見るとデッドボールの投げ合いともいう。

 

 

「…はあ。ニンフさん、あの二人って何があったの?」

「知らない。どうせ変な事で意地張ってるんじゃない? 基本的に頑固者なのよ、あの二人」

 それを見せられている同居人の少女達からすれば、実に歯がゆい状況であった。

 

 

 

 

 

 

 そらおと/ZERO 第五章「女王解放」

 

 

 

 

 

「どりゃあ!」

「遅いっ!」

「うわらばっ!?」

 

 どたん。ごろごろ。

 

 本日三度目の空中滑空。

 見月のチョップに吹っ飛ばされた俺は再び庭先に転がる。

「…見月」

「なに?」

「いくら訓練だといっても、厳しすぎると思うんだけど」

 やられっぱなしなのが悔しいので、せめてもの抗議をしてみる。

「そう? 桜井君はスジがいいからつい力が入っちゃうのかも」

 あはは、と笑い飛ばす鬼教官。

「それにね? 以前からなんだけど桜井君にチョップするとスッキリするんだ。何でだろうね?」

「…俺に聞かれても困る」

 俺に分かる事は、見月が俺で鬱憤晴らしをしているという事だけだ。

 それとも見月が嗜虐趣味に目覚めつつあるのか。どっちにしろ俺が痛い目にあうという構図は変わらない。

「強化してもこの様じゃ、実りは遠いわね」

「ニンフ。そう思うならもう少し強化してくれやがりませんか?」

「これ以上は無理よ。私の強化って元々マスター専用だもの、トモゾウにしてる分だって特別サービスなんだから。あと、それは人に物を頼む態度じゃないわね」

「ちぇっ。すいませんでしたー」 

 

 登校三十分前。

 現在俺はニンフ監修、見月コーチによる戦闘訓練の真っ最中だ。

 もちろん目的は鳳凰院の打倒である。

 とはいえ、実際はニンフのハッキングによる身体能力の強化試験といった所。

 俺にも見月と同様の強化をして、どれだけ戦えるかを測っている。

「ライダーのマスターにはいつも喧嘩で勝ってるんでしょ? これでも十分じゃない?」

 ニンフの言うとおり、こっちは瞬発力に自信があるし鳳凰院は格闘技を習ってない。

 タッパの差があっても、普通に殴り合いをすれば十中八九俺が勝つ。

 だけど、それだけじゃ足りない事情がある。

「できるだけ早く勝負をつけたいんだよ。理想はワンパンKO」

「うーん、桜井君は背が低いからワンパンは難しいと思うけどなぁ。先にみぞおちを突いて、顔が下がったらいけるかも? こう、顎をがつんと」

「…おそろしく具体的ですね、見月さん」

「やだなあ、私ならそうするって話だよ。…だから敬語とか止めてくれないかな。それだと私が乱暴者みたいなんだけど」

「イエス、マム!」

 鬼コーチからの殺気がこもったお言葉に敬礼で返す俺。

 やっぱり鳳凰院の相手は俺がしよう。俺は何もあいつを殺したい訳じゃないし、見月を殺人犯にもしたくない。

 

 結局のところ、俺が出した結論は『イカロスと風音の勝負がつく前に、鳳凰院をぶちのめす』という、実に単純明快な物だった。

 二人の戦いが避けられないなら、マスター同士で可能な限り早く決着をつければいい。

 鳳凰院をぼてくりこかして、残った二本の契約の鎖(インプリンティング)を破棄させる。そうすれば風音は自由になれる。

 強引だが一番確実な手段だと思う。

 

「………」

 ただ、俺を見つめるイカロスの視線が妙に気になる。

 止めさせたいけど、一応相手の意志も尊重しないと。なんて事を考えていそうな顔である。

「よし、もう一回だ見月。今度こそ魔のおっぱい領域に踏み込んでみせるぜ」

 あえてその視線を無視して見月に向き合う。

 あいつとしては俺を危険にさらしたくないんだろうけど。こればっかりは譲れない。

「………その言い方、止めてくれないかな」

 そして見月の機嫌は急降下し、俺の命の危険が少しずつ高まっていく。

 上等だ、これくらいの窮地を乗り越えないで何が訓練か。

「パーイパイパイパイパイっ!」

 今の目標は見月に触れるようになる事。それくらいできないと格闘術も何もない。ないのだが。

 

「チェスト!」

「あべし!」

 

 どたん。ごろごろ。

 

 …こうも簡単に迎撃されるんじゃ勝負にならない。

 くそう。俺が最も全速で狙えるであろう、あの豊満な胸へと手を伸ばしているというのにっ!

「…はあ。ニンフさん、桜井君はモノになると思う?」

「ダメね、全然ダメ。あいつに格闘技の才能はないわ」

 一応同盟者だというのにこの仕打ちである。この世界に救いの神はいないのか。

「…マスター」

「なんだ?」

 救いの神はいなくても、天使はいたらしい。イカロスは地面に転がっている俺を心配そうに覗き込んで。

「もうすぐ、登校の時間です」

「…そうか」

 こんな事は早くやめて欲しいと、遠回しに懇願してくるのだった。

 

 正直な所、見月の一撃やニンフの毒舌よりも精神的に堪えるんだよな、これ。

 

 

 

「じゃあ、ニンフ先輩と師匠達で敵のアジトに潜入してるの?」

「まあな。俺はお荷物、守形先輩とお前は対風音用に待機。だそうだ」

「ふーん」

 

 昼休み、俺は生徒会室でアストレアと二人で少し話し込んでいた。

 内容は今話した通り。

 先日、ニンフがついにバーサーカーのアジトらしき物を見つけたんで調査に向かっているという事だ。

 調査組はニンフ、見月、会長、オレガノ。

 学校居残り組は俺、イカロス、守形先輩、アストレア。

 戦力としては偏っているけど、今回はあくまで確認と調査なんで隠密性を重視したいとはニンフの言である。

 逆にライダー対策としてイカロスとアストレアがいれば問題は無いだろうとも言っていた。

 風音は直接戦闘に向いていないらしく、二人が一緒に行動していればどちらかが危険になっても十分にフォローができるとか何とか。

 もう一つ付け加えると。

 イカロスは動力炉の出力の高さからジャミングが難しく、アストレアはそもそも隠密行動なんて無理だそうだ。つまり、最初からこの人選しかなかったのである。

 もちろんアストレアにはこの事を話してない。こいつにまでへそを曲げられるとますます困るから。

「とは言っても、ひよりさん来てないんでしょ?」

「…まあな」

 三日前の鳳凰院との交渉が終わってから、風音は登校してこなくなった。

 何度か家まで足を運んだけど、家には誰もいなかった。

「鳳凰院の野郎、何企んでやがる」

 あいつとの付き合いが長い俺には、薄々だけど予想はついている。

 鳳凰院は風音を強引に俺と戦わせようと何か準備をしているとしか思えない。

「大丈夫よ、私とイカロス先輩がいれば何とかなるって」

「そうだな、今は考えても仕方ないよな」

 能天気なアストレアの言葉が今は救いだ。結局、俺は俺のできる事をするしかないんだから。

「…来るならさっさと来いよ。一発おみまいしてやる」

 風音とイカロスが取り返しのつかない事になる前に、鳳凰院をぶちのめす。

 方針はもう決めているんだから後はやるだけだ。

 

「それにしても、なんで一人でいるのよ。イカロス先輩は?」

「ん、ああ。あいつは屋上。敵が来ないか見張ってるって」

「敵~? 敵なんてカオスかひよりさんくらいしか…あ」

「そうだよ。だから風音を待ってんだよ、あいつ」

 風音が登校しなくなってから、イカロスは昼休みになると屋上で一人佇んでいる様になった。

 その時のイカロスは張り詰めた表情をして余人を拒絶している。

 …俺も、含めて。

「なんか、いつもの先輩らしくないなぁ。アンタはそれでいいの?」

「………よくねぇ。でも、仕方ないじゃんか」

 イカロスが無理をしているのは分かっている。

 あいつは自分を追い込む事で確実に風音を倒し、俺を守ろうとしている。

 それでも、俺にそれを責める権利はない。あいつがそこまで思いつめた原因は俺の不甲斐なさだ。

「なあアストレア。お前からイカロスに言ってきてくれないか? いつものお前らしくないってさ」

 だから、イカロスをいさめるのは俺以外の奴じゃないと駄目だ。少なくとも俺にその資格はないんだから。

 

「アンタ、馬鹿じゃないの?」

 

 そんな俺の憂鬱を真顔でけなす馬鹿者一人。

 なんだ、喧嘩売ってるのか? 今なら買うぞ、二束三文で。

「よくないって思ってるならアンタが言ってきなさいよ」

「だから、それができれば―」

「イカロス先輩がおかしな原因はアンタでしょ? だったら自分で解決しなさいよ。他の人に頼るとか、今のアンタもイカロス先輩と同じくらいにらしくないわ」

「―あ」

 さも当然という顔をしたアストレアに言われて、ふと気づいた。

「…そうだな。うん、そうだった。なにやってたんだ、俺」

 俺は自分に資格がないとか言いつつ、単に自分の不甲斐なさから目を背けていたって事に。

「でしょ? 馬鹿みたいに意地張っちゃって、何を気にしてたのよ?」

「うーん。イカロスが変な事言い出すから俺もムカついてたんだ、多分」

 もっと正確に言えば、あいつに『風音を倒す』とか馬鹿な事を言わせた自分に腹が立っていたんだろう。

 その事について今までイカロスに何も言わなかったのは、きっと自分の失態を直視したくなかったからだ。

 俺は最初から順番を間違えていた。

 鳳凰院をどうこうする前に、まずイカロスにそんな無理は止めてくれと伝えておくべきだったんだ。

 …馬鹿は俺の方だったな。これじゃあアストレアに馬鹿にされても仕方ない。

「で、どうするの?」

 どうする、か。

 そりゃまあ、間違いに気づいたなら正さないと。それすらしなかったら、俺は本当に大馬鹿者になってしまう。

「屋上に行ってくる。お前も食っちゃ寝してないで、見張りとかしとけよ」

 はいはーい、とやる気のない返事をするアストレアをしり目に、俺は屋上へと向かう事にした。

 

 

 

「うう~ん。まったく、世話が焼けるんだから」

 桜井智蔵が慌ただしく出て行った生徒会室で、アストレアは大きく伸びをした。

「ふんだ。これでもちゃんと待機してるんだから」

 現在、彼女のマスターである守形英三郎は学食で食事中である。

 彼からの指示は何かしらの異常があるまで待機し、事が起こった際に全速で駆けつけるという物だった。

 なにぶん受け身な方針だが、彼としては未知数の相手に無策で挑む事は避けたいという考えがあった。

「イカロス先輩、大丈夫かな」

 アストレア個人としては不調なイカロスを助けに前線に出たいのだが、マスターの方針に逆らうだけの理由がない。

 彼の指示が自分の安全と勝利の為である事くらい、さすがの彼女も理解していた。

「…それにしても、ここから出れないってのは辛いわ」

 それでも、歯がゆい事には変わりない。

 そもそもセイバーことアストレアは自由を愛する気質を持つエンジェロイドである。

 かつて自分からインプリンティングを引きちぎった彼女は、その後厳しいサバイバル生活を過ごしてきた。

 それが続いたのも、ひとえに『自由』という特権があったからだろう。

「イカロス先輩も師匠も、私の分まで用意してくれないんだもんなぁ」

 もっとも、彼女にその自覚は無いのだが。

 ちなみにアストレアが言っているのは、学校での身分証明の事である。

 イカロスのように学校関係者を催眠できないアストレアにとって、学校は完全なアウェイ。

 五月田根会長も彼女の分まで手続きをする暇はなかったらしく、現在の彼女は半ば生徒会室の主を化していた。居候ともいう。

「…あれ?」

 そんな生徒会室のドアを開けて押し入る人影が一つ。

 普段ならば他の生徒に見つからないように隠れるという選択をするアストレアだが。

「ひよりさんじゃないですか。登校できるようになったんですか?」

 相手が自分を知るであろう人物なら話は別である。

 ついでに言えば、アストレアとしても話し相手が欲しいと思っていた所だ。

「聞いてくださいよー。智樹…じゃなくて智蔵ったらイカロス先輩と喧嘩っぽい事してるんですよ? まったく、こんな時に何やってるんだって感じですよね?」

 あくまで気楽に話しかけるアストレアに対し、風音日和は最近よく目にする憂いを含んだ表情はない。むしろ冷静な面持ちだった。

 その顔を見てこの人の前で二人の話は拙かったかな、とアストレアは自戒する。

 彼女の内心を考えれば、デリカシーの無い話題だったかもしれない。

「…えーっと。おかし、食べます?」

 とはいえ、彼女に上手い話題の転換などできるはずもなく。

 とりあえず手元にあるうめぇ棒(一本十円)を差し出すしかなったのだが。

 

「………ハッキング、開始」

「え?」

 それに対する風音日和の返答はアストレアの想像外のものだった。

 

「あっ…くぅっ…!」

 急速に暗転する視界と鈍化する思考。

 アストレアの電脳がみるみる内に浸食され、掌握されていく。

「なん、で、こん、な…」

 床に倒れこんだアストレアは手足の感覚すら曖昧になりつつある。最早抵抗する術が無かった。

 そもそもアストレアは最も演算能力に劣るエンジェロイゆえ、優れた演算能力によるハッキングへの耐性は無いに等しい。

「…セイバーの無力化を確認。このまま一定の負荷を与えつつ、次の標的へ攻勢を開始します」

 唯一できる事は薄れる意識の中で彼女の声を聞き、その顔を睨むのみ。

(おかしい、じゃない。あれじゃ風音さん、まるで…)

 まるで人形のみたい、と考える間もなく。

 アストレアの意識は黒く塗りつぶされた。

 

 

 

「っ!? アストレア!?」

 屋上にいたイカロスが異変を察知した時にはもう手遅れだった。

 急速に空が暗雲に包まれ、急激な気圧の変動が校舎を揺さぶりだす。

 

 その振動と共に、イカロスが戦うと決めていた相手が床を突き破って出現する。 

 それは丁度彼女の真下。普段ならあり得ない力で風音日和は彼女に肉薄する。

「ハッキング、開始」

「…っく!?」

 とっさに回避行動をとったイカロスは、間一髪のところでその手を逃れ空へと飛翔する。

 それを追い自身も大空へと飛び上がる風音日和の右手には、三日月状の錫杖が握られていた。

気象兵器(デメテル)起動。敵エンジェロイドの抑制を開始」

 吹き荒れる暴風と際限なく降り注ぐ稲妻がイカロスを仕留めんと襲い掛かる。

「…アルテミス、5番から47番まで装填。発射…!」

 それらを誘導弾で迎え撃ちつつ、イカロスは敵の迎撃を開始する。

(大丈夫、今まで考えてきた事だもの。私が…!) 

 続けざまに放たれるアルテミスの光が風音日和の起こした暴風を切り裂き、彼女へと殺到する。

 それを―

「………許容耐久値以下の攻撃と判断。攻勢を続行」

 避けもせずその身で受け、イカロスを捕らえようと肉薄してくる。

 しかも彼女が起こす風は益々勢いを増し、イカロスの動きを封じようと躍起になっていく。

「…っ! まさか…!」

 ここにきてイカロスは風音日和の異常に気付く。

 彼女がいかに高度な演算能力を持っていようと、流石に負荷が大きすぎる。

 イカロスのレーダーをかいくぐった上でアストレアを封じ、これだけの異常気象を起こし、さらに彼女を制圧しようとハッキングを挑む。これらを同時に行うなど、明らかに彼女のスペックを超える暴挙だ。

「日和さん、貴女は…!」

 自壊をいとわぬ特攻。

 しかも彼女の表情に苦痛の色が見られない。いや、そもそも表情がない。

 イカロスは悟る。目の前の敵には、すでに『風音日和』という意志と思考が存在していない事に。

(………なんて、事を!)

 風音の突進まがいの攻撃を避けながらイカロスは内心で歯噛みする。

 これは一つの人格、そして命を奪い去る禁忌だ。決して許される事ではない。

「…こうなったら、私が…!」

 風音日和を破壊し、その暴走を止める。

 彼女に意志があるならこんな事は決して許さないはずだと、イカロスは信じる。

 何故なら、今の学校には桜井智蔵がいるのだ。彼がいる所でこんな大規模な気象操作をすればどうなるか、考えるまでもない。

 風音日和は桜井智蔵に危害が及ぶ事を決して許容しない。それだけは彼女を全面的に信じられる。

 だからこそ、ここで彼女を破壊する。自分に出来るのはそれだけだと、イカロスは覚悟を決めた。

「ヘパイストス、起動…!」

 巨大な大砲を顕現させ、倒すべき相手に向けるイカロス。

 アルテミスで止められない以上、それを上回る威力をもって挑むのみ。

 幸い、風音日和には高度な飛翔能力がない。闇雲な突進によるハッキングを繰り返すだけだ。

 放てば当たる。当たれば勝てる。

 油断も感慨もなく、イカロスは勝利を確信する。

「充填完了…!」

 自分へと直進してくる彼女に向かって、イカロスは引き金を―

 

(………あ)

 

 引こうとして、余計な事に気づいてしまった。

 無表情のまま敵を制圧せんと襲い掛かる風音日和。

 

 それは遥か昔、自身の心に無自覚なまま地上の人々を蹂躙していた、誰かに似ていた。

 

「…しまっ」

 一瞬の迷いが致命傷になる。

 風音日和はいち早くイカロスへ取りつき、ハッキングを開始する。

「使用可能領域全ての演算能力を動員。敵、アーチャーを制圧する」

「ああ、あああああぁぁぁぁ!」

 ハッキングの全身を焼かれるような痛みに耐えつつ、イカロスは抵抗を試みる。

 だが元々の演算能力は相手の方が上。しかもプロテクトによって全力が出せない彼女にはどうやっても抵抗しきれない。

(いけない、私が、倒れたら、マスターは…!)

 その想いのみで必死に抵抗するイカロス。だが、状況は覆らない。

「…気象操作を一時減衰。余剰能力をアーチャーの制圧に動員する」

「あ、く、ああああああうううぁぁぁぁぁ!」

 

 魂なき人形の自壊をいとわぬ特攻の前に、かつての空の女王は屈しようとしていた。

 

 

 

「ぐっ!」

 

 どたん。ごろごろ。

 

 もう本日何度目かわからない空中滑空。硬くて冷たい廊下が俺を打ち据える。

「ふん、情けないね智蔵。喧嘩じゃ僕には負けないんじゃなかったのかい?」

「うる、せぇ…!」

 目の前の鳳凰院は得意そうにふんぞり返るだけだ。

 畜生。この頭痛とめまいさえなけりゃこんな野郎に…!

「て、めぇ。何を、しやがった…!」

「気象操作だよ。周囲の気圧を操作する事で天候を操る他に、人体にもある程度のダメージを与えられる。僕のライダーはそれだけが取り柄でね、エンジェロイドには大きな効果は無いけどマスター側には効果大ってわけさ」

 俺の周りにはうずくまったクラスメイトも大勢いる。

 全員生きてるみたいだけど、耳から血を流してもだえ苦しんていた。

 こんな酷い事を風音がやる筈がない。だからこれは―

「風音に、命令しやがったのか…!」

「ああ、そうさ。これで邪魔者はいないだろう? もっとも、キミがそこまで耐えるなんて驚きだけどね」

「っんの、野郎…!」

 俺がなんとか踏ん張っていられるのはニンフからの一時的強化を受けているからだ。

 距離が離れていても、緊急時にはある程度の効果を受けられるようにニンフから設定されていたらしい。

「さて、第八ラウンドといくかい?」

「当たり、前だっ!」

 それでも、こいつを叩きのめせるには遠い。

 どうにか耐えられる程度に緩和された頭痛とめまいの中で喧嘩ができるほど、俺は芸達者じゃなかった。

 

「あがっ!」

 どたん。ごろごろ。

 

 悠々と歩いてくる鳳凰院を殴ろうとして、逆に殴り返される。

 それがもう7、いや、8回目か? どちらにしろこのままじゃやられるだけだ。

「ちく、しょう…!」

「まあ大人しく負けを認めなよ。じきに僕のライダーが君のアーチャーを制圧する。そうすれば晴れてキミはこの戦いから脱落できる。別に僕はキミを殺しはしないよ」

「ふざけんじゃ、ねぇぞ…!」

 それが黙ってられないから、こうやって立ってるんだろうが。

 それくらい察しやがれ、この野郎。

「イカロスを、そんな目にはあわせねぇ。風音に、そんな事はさせねぇ。だから、てめぇをぶっ倒す」

「やれやれ、君は本当に甘い。いや、優しいと言っておこうか。………少なくとも、後者の心配はいらないよ」

「どういう、意味だよ…!」

 俺を見下ろす鳳凰院は言い様のないくらいに顔を歪めて。

「風音日和はもういないのさ。僕がそう命じたからね」

 そんな戯言を、ほざきやがった。

「なに、言ってんだ…」

「見なよ。僕はもうインプリンティングを使いきった。つまり、もう僕は二つの命令をした後なんだ。ライダーは僕の最後の命令を守って死ぬだけなんだよ」

 そう言いながら自分の右手を大切そうに抱く鳳凰院。

 それを見て、ようやく俺はこいつの内心を悟った。三日前、あいつが最後にした表情に納得がいった。

「ふざ、けんな。お前は、風音を…」

 その感傷を振り切って、鳳凰院をにらむ。

「三つ目の命令は、アーチャーを制圧して僕のエンジェロイドに再設定する事」

「やめろ」

 やめろ。分かったからやめろ。

 もう薄々と分かってるんだ。

 風音が正気なら、絶対にこんな事をしない。

 例えインプリンティングで命令されたとしても、死んでも抗うくらいに心が強い奴なんだ。

 それができないって事は、もう。

「二つ目は」

 それを他ならないお前の口からなんて聞きたくないんだ。だから―

 

「―自我を放棄してマスターの人形になれ、とね。いや、まさか本当にうまくいくとは思わなかったよ。は、はははははは!」

 

「やめろっつってんだろうがぁぁ!」

 火が付いた様に赤熱する視界。無我夢中で跳ね起きて鳳凰院の左頬を殴りつける。

「がっ…! ふ、ふふ。まだそんな元気があるんだね、キミは…!」

「許さ、ねぇ。頼朝、てめぇは、最低だ」

「ふん。エンジェロイドは戦いの道具さ。不要な物を捨てて新しい物を得る。それのどこが悪いんだい?」

「そう、じゃねぇ…!」

 こいつはまだそんな事をいうのか。それとも気づかないふりをしているだけなのか。

 だったら、俺が教えてやる。

 それはきっと、幼馴染として三人の思い出を持った俺にしかできない事だから。

 

「お前は、好きだった女の子を、自分で消したんだ…! お前は、好きだったんだろ! 風音が!」

 

「―は」

 俺の啖呵を、鳳凰院は笑って流した。

「ふざけるのもいい加減にしろ智蔵!」

「ぐがっ!」

 俺でさえ今まで見たことのなかった怒りに、顔を歪めて。

「あいつはエンジェロイドだ! 僕を騙していた奴なんだよ! そんな奴に好意を寄せるやつがいるか!」

「関係、ねぇんだ! そんなのは! お前が、風音を好きだった事に、なんの変わりも、ねぇんだ!」

 馬乗りになってくる鳳凰院に俺は全力で殴り返す。

 そうしないと、こいつの剣幕に負けてしまいそうだった。

「そんなものはまやかしだ! 捏造された記憶の何を信じる!」

「記憶が、偽物でも! 気持ちは、偽物じゃねぇ!」

 だって風音との記憶がないハズのお前がそんなに辛そうな顔してるじゃないか。

 その痛みは偽物なんかじゃない。それを譲るわけにはいかない。

 でないと鳳凰院の中で風音の事が本当に無かった事になってしまう。それだけは、絶対に許しちゃいけない。

「こんの、捻くれ野郎が!」

「キミが、しつこいんだ!」

「あぐぁ!」

 この、野郎。

 みぞおちを蹴り飛ばすとか、友人にやる事じゃねぇぞ。

「はぁ、はぁ… 相手の事より、自分の事を心配したらどうだい。キミに助けは来ない。キャスターやメディックを待っているならお門違いだ」

「なん、だと」

 なんでお前がニンフ達の事を知っているんだ。

「今頃はどちらもバーサーカーに始末されているだろうさ。考えてみなかったのかい? 僕がこうやって襲撃したのは厄介なキャスターがいない時を狙いたかったからなんだよ」

「ああ、そういう事、かよ…!」

 くそ。こいつバーサーカーのマスターを組んでやがったのか。

 拙い、これじゃあ見月やニンフまで危ないじゃないか。

「もっとも僕は奴を信用してないけどね。アーチャーを手に入れられれば勝機があるみたいだし。奴にキミを殺させるつもりはないよ」

「無理、だ。イカロス一人じゃ、あいつには…」

「勝てるさ。ライダーによると、今のアーチャーはプロテクトによって全力が出せないだけらしい。逆を言えば、全力を出せれば勝機があるという事だろう?」

「………お前」

 鳳凰院の言葉を聞いて寒気がした。

 こいつの言わんとしている事。それは。

「イカロスにも、風音と同じ事をするつもりか…!」

「当然だ。彼女は確かに美しいが、所詮は道具だ。本来の性能を発揮できるなら彼女も本望じゃないか」

 イカロスが喜ぶ? 心も意思も無くして? ただの戦う道具になって?

 ふざけんな。なんだそれ。馬鹿じゃねぇか。

 あいつに兵器(そんなん)は似合わない。

 むしろ飯を作ったり、掃除したり、庭にスイカの種を蒔いたり。のほほんと過ごしてる方があいつは楽しそうなんだ。

 まだ数日しか一緒に過ごしてないけど、そんな俺でもでも分かるくらいにあいつは戦いになんか向いてない。

 それを、戦う道具になる方が喜ぶだと?

「ふっざけんなぁぁぁ!」

「おぐっ!?」

 本気で頭に来たぞこの馬鹿野郎。

 そんなふざけた真似は許さねぇ。そんな事は、絶対に止めさせてやる。

「は、はは。まだそこまで元気があるとはね。見上げた根性だよ智蔵。でも、気合いだけで事が成せるほど人生は甘くない!」

「がっ! ぐぅ…」

 鳳凰院の拳が俺の鼻へ叩きつけられる。

 くそ、視界が霞む。しかもあいつはさらに踏み込んでくる。まだ追撃する気だ。

 駄目だ、倒れるな。ここで倒れたら、きっともう立てなくなる。

 こんな所で寝てる場合じゃないんだ。俺は―

 

「―そうでもない。確かに気合いだけでは何もできんが、逆にそれが無ければ大抵の事は成せない物だ」

 

 突如聞こえてきた第三者の声。

 その声の主は鳳凰院を後ろからあっというまに組み伏せる。

「うぐっ! ば、馬鹿な! 貴様はセイバーの!」

「…守形、先輩」

 すげぇ。この人、他の皆が失神してるような状況で鳳凰院を一手で制圧しやがった。

 俺に気を取られていたからだとしても、後ろから相手の腕を取って流れるような投げからの間接技。

 この人、マジで人間の限界を超えてるんじゃないか?

「…何をしている、智蔵」

「え?」

「すでに契約の鎖を使い切ったライダーのマスターを制圧しても、状況は変わらん。お前のするべき事は、何だ? この場で知り合いを殴り飛ばす事か?」

「―!」

 今さらに気づく。先輩の額には脂汗が大量に浮かんでいる。

 あの人は別に平気なわけじゃない。さっき言った通り、気合いだけで持ちこたえている。

 数分、数秒後には倒れこんでしまうという結果を先延ばしにしているだけだった。

「すんません、お願いします!」

「待て! 智蔵!」

 鳳凰院の静止の声を無視して、俺は屋上へと走り出す。

 先輩がいつまで鳳凰院を組み伏せていられるか分からないけど、さほど猶予は無い。

 しかも。

「…なんだよ、これ」

 さっきまでの頭痛とめまいが軽くなってくると同時に、俺の右手にある鎖が異様に熱を帯び始めている。

 これが俺とイカロスの繋がりだと考えれば、良くない状況だというくらい想像がつく。

「させねぇ。絶対に…!」

 イカロスをこれ以上酷い目にあわせるわけにはいかない。

 風音にこれ以上酷い事をさせるわけにはいかない。

 そのためには、俺が風音を止めないと。

 

 ろくに力が入らない足に、精一杯の無理をさせて走る。

 屋上へのドアを見つけて力任せに押し破った。

「うわ、とと…!」

 鍵がかかっていなかったのか、ドアはあっけなく開いた。

 俺はその勢いのまま倒れこみそうになる所を必死で踏ん張る。

 そして、視界が上を向いた事で見つけてしまった。

「………ちくしょう」

 イカロスと風音は俺から数メートル上。どうやっても俺の手の届かない暗雲が立ち込める空の中心にいる。

「まだだ、まだ…! 何か、風音まで届く何かがあれば…!」

 風音は右手をイカロスの額に当てている。きっと、あれがハッキングというやつだ。

 あれだけでもどうにかできれば…! 急げ、急げ急げ! イカロスはもうぴくりとも動いていないんだ、これ以上は本当に―

「敵性因子を確認、排除に移行」

「ば」

 馬鹿止めろ、と言う暇はなかった。

 暴風の中でも何故かこっちにまで聞こえる風音の言葉と共に、無数の雷雲が俺の頭上へと現れた。

 次の閃きは刹那。無数の稲妻が俺へと降り注ぐ。

 

 

『私、約束します。何があっても、必ず貴方を守れるように頑張ります』

 ここまできて、俺はようやく思い知った。

 俺の知ってる幼馴染は。風音日和は。

 もう、いないんだという事を。

 

 

「―アルテミス、78番から81番、斉射!」

「ぐっ!」

 刹那の閃光が俺の視界を埋め尽くす。

 風音の起こした稲妻をイカロスの攻撃が相殺していた。

「イ、イカロス! 大丈夫なんだな!?」

 よかった、イカロスはまだ健在だ。

 まだ間に合う、まだ俺が何とかすれば―

 

 

「マ、マスター。逃げて、ください」

 数時間ぶりに見たイカロスの顔は、涙で濡れていた。

 

 

「ふ、ふざけんな! 俺は」

「………自爆ユニットの、起動を開始。ライダーを、破壊、します」

 ふざけんな、なんだよそれ。ふざけんな。なんで泣いてるんだお前は。

 お前、俺を守るって言ったじゃないか。まだバーサーカーとか残ってるんだぞ。それなのに、お前は。

「違う、違うだろ! ふざけてたのは俺じゃねぇか馬鹿野郎!」

 何を責任転嫁をしてるんだ。悪いのは俺だ。

 風音の善意に期待して、イカロスの決意の上にあぐらをかいて。鳳凰院の内心にも気づかず、のほほんと三日も無駄にした俺が悪いんだろう!

 それを忘れて何がマスターだ! 何が戦うだ! 

 俺がすべきことは最初から一つだけ。風音を倒す。それだけだった。

 なのに自分勝手な我儘で先延ばしにした結果がこれだ!

 

『ダメじゃな。女の子を泣かせるなんて男として最低じゃぞ?』

 あいつを泣かせたのは、俺だ。

 

「―契約の鎖をもって、第七のマスターとして、命じる」

 右手をイカロスのいる空へとかざす。使い方は見月から聞いていた。

 きっといつかこういう日が来ると、俺の無意識は悟っていたんだろう。

 

 悪いのは俺だ。

 罪があるのは俺だ。

 罰を受けるべきは俺だ。

 だから俺は、それを背負う。

 風音を、風音だったものを、殺す。

 でも、無能な俺にはできないから。

 

「負けんな!」

 三本の鎖の内、一本を渾身の力で握りしめ絶対の命令を彼女に下す。

 

 イカロスに、それをやらせる。

 だけどこの罪は俺のものだ。決して、イカロスのものじゃない。

 その為のインプリンティング、その為の強制命令。

 あいつがこの痛みに苦しんで、悲しみを背負ったとしても。

 これは俺がした事なんだと、あいつの重みを一緒に背負えるように。

 

「勝て! イカロォォォォス!」

 握りしめた鎖が砕け散り、眩い光が俺の右手から発せられる。

 

 

 俺は、もうあいつを泣かせたりなんかしない。絶対に。

 

 

 彼女への契約に基づく命令。

 それは、俺自身への誓いの言葉でもあった。

 

 

 

 ハッキングの浸食が全演算能力の7割を超えた時。彼女は自身の敗北を認め、自壊を決意した。

 このままでは自己を失う。

 それどころか、きっと何よりも大切な人を自分自身の手で傷つけてしまう。

 それは、彼女にとって自己の喪失より恐ろしい物に感じられた。

 ゆえに。

 

「マ、マスター。逃げて、ください」

 

 彼女は、最後に目にする事ができた大切な人へそう言った。

 何もできなくてごめんなさい。

 あなたを困らせてごめんなさい。

 あなたを守れなくてごめんなさい。

 すべてを伝える事は出来なくとも、せめて彼には無事でいてほしいと、彼女は願った。

 

「………自爆ユニットの、起動を開始。ライダーを、破壊、します」

 

 自分が自爆を宣言しても、彼は逃げずに何かを叫んでいる。

 もう、彼女には聴覚や視覚も曖昧だ。すでに触覚も失って久しい。

 だから彼の言葉はもう聞こえない。誰か、彼をこの場から逃がしてほしいと願いつつ、自己を終えるしか彼女にはできない。

 だというのに。

 

『―契約の鎖をもって、第七のマスターとして、命じる』

 聴覚よりも、視覚よりも。

 もっと深く、もっと近い所から、彼の声が聞こえた。

 

『負けんな!』

 彼女はそこから彼の様々な想いを感じ取る。

 そこにあったのは怒り、悲しみ、後悔、そして。

 

 

 

『勝て! イカロォォォォス!』

 決意があった。

 彼女へ強要するこの罪を自身が背負うと。

 この後悔と恐怖から、自分が彼女を守り抜くという誓い。

 

 

 彼は、かつての少年のように全てを悟っていた。

 イカロスという少女が戦いを恐れている事も。

 無理にでも敵を作って勝とうとしていた事も。

 不出来で、不器用で、戦いが嫌いな欠陥品(エンジェロイド)である事も。

 そんな彼女の代わりに罪を背負うと。彼は満身創痍の体で誓いの言葉を立てたのだ。

「………イエス、マイ・マスター」

 彼女の頬から悲しみとは異なる涙が流れた。

 彼の誓いに喜びと後悔が湧き上がる。

 ありがとう。

 ごめんなさい。

 不器用な私は、貴方の想いに何も返せないけれど。

 きっとただ一つだけ、できる事がある。

 

 

「全システムの解放を確認。モード・空の女王(ウラヌス・クイーン)を起動します」

 

 

 解除されるプロテクトと共に爆発的に向上する演算能力と再稼働を始める各駆動、感覚系。

 自爆コードはすでに停止凍結されている。

 彼は『勝て』と言ったのだ。自爆などしてはそれを守る事ができなくなる。

「…っ!」

 可変ウィングのコアから十分なエネルギーを得た空の女王が、組みついているライダーを力づくで引きはがす。

 それは、まるで子供の悪ふざけをたしなめる様だった。

「………っ!? アーチャーの戦力の向上を確認。デメテルによるけん制とマスターへの攻撃を選択」

 ライダーはすぐさまに体勢を立て直し、イカロスと智蔵へ同時攻撃をしかける。

 アーチャーの制圧を断念し、マスターを討つという戦術へと移行したのだ。

「アルテミス、132番から367番を装填。斉射」

 だが、それを許すイカロスではない。

 先ほどまでとは桁違いの弾幕がライダーへと襲い掛かる。

「許容耐久値をはるかに超える攻撃と判断。回避と防御を最優先」

 気象兵器の風と自身の回避で致命傷を避けるライダー。

 だが、逆に言えばそれが精一杯だ。敵のマスターを狙うどころかアーチャーの行動の補足すら困難になる。

 

「…敵エンジェロイド、ライダーを破壊します」

「…ああ」

 

 ライダーが回避に専念する最中、二人は最後の確認をした。

 二人の視線の先にあるのはライダーのみ。互いの顔を見ることはなく、ただ互いのすべき事をするだけ。

 イカロスはライダーを倒し。

 智蔵はそれを見届ける。

 その確認が、今の二人にとって最も大切な事。

 

最終兵器(アポロン)、装填」

 イカロスの両手に弓型のエネルギー兵器が顕現する。

 ようやくすべての弾幕を処理しきったライダーへと、矢じりの先が狙いを定める。

「緊急回―」

「―発射」

 ライダーに回避を許す事なく、放たれた一筋の光弾がその体を射抜く。

 次の瞬間。

 ライダーによってもたらされた暗雲は赤い暴風に吹き飛ばされた。

 

 最終兵器、アポロン。

 それは着弾地点を中心に大爆発を引き起こし、国一つでさえたちまち消し飛ばすほどの威力を持つ、全エンジェロイド中最高の威力を誇る兵器である。

 その一撃はまさしく必殺。バーサーカーであろうと耐えられないであろう膨大な熱量はライダーを完全に焼き尽くして余りある物だ。

 幸いなのはライダーが上空に位置し、イカロスがそれを狙い撃った事だろう。

 本来ならば地上を焼き尽くす爆風は、イカロスが展開した絶対防御圏(イージス)によって空を赤く染め上げるだけに留まったのだ。

 

 

 大音響を伴った爆発から数分の後。

 校舎の屋上に残されたのは抜けるような青空と。

「…戦闘を終了しました、マスター」

「…ありがとう、イカロス」

 その空に、もういない誰かを思う二人の少年少女のみだった。

 

 

 その光景は、彼に事が終わった後だと悟らせるには十分だった。

 

 守形英三郎を押しのけて屋上へと駆け上がった鳳凰院=キング=頼朝の目に映ったのは、一面に広がる青空とそれを見つめる一組の少年少女だけ。

 他に、人影は無い。

「…まいったな、これは」

 思わずその人影を捜してしまった自分に気づき、鳳凰院は自身の感情を思い知るしかなかった。

 自分は幼馴染の少年が言う通り、本当に風音日和という少女に好意を抱いていたのだと。

 

 彼のつぶやきが聞こえたのか、少年がこちらにふり返る。

 その表情に怒りや後悔は見られない。

 今はいない彼女の事を誰よりも気にかけていた彼が、この結末を受け入れたのだ。

「キミの勝ちだよ、智蔵。今回は潔く負けを認めるさ」

 その事実を察した時、鳳凰院は素直に己の敗北を認めた。

 並々ならぬ自尊心と矜持を持つ彼が、他人に対して敗北を受け入れるというのはこれが初めての事だった。

 それは、目の前にいる少年がこれまで見せた事のない大人びた静謐な顔をしていたからだろう。

「勝ったとは思えねぇよ、俺は」

「…そうか。そうだね、キミならそう言うんだろうね」

 人生初めての敗北宣言を一言で切り捨てられても、鳳凰院は苦笑するだけだった。

 桜井智蔵という少年にとっての『勝利』とは、見知った誰かを助け、笑顔を守った時なのだと思い至ったからだ。

 自分の発言は彼にとってまったくの見当違いであり、逆に気分を害しても仕方ないと言える。

「じゃあ言い直そう。今回はお互いに敗北したという事だね」

「ああ、そうだな。それでいい」

 感慨深く頷く少年に対して、鳳凰院は一つ息をついて話を変える。

 いつまでも彼らに感傷に浸られていても困るのだ。

 その役目は、本来自分の物なのだから。

「とりあえず校舎内の生徒を含めてセイバーとそのマスターは無事だよ。ライダーが倒されたと同時に気象操作は収まったからね。ところで、キャスター側の心配はしないのかい?」

「分かってる。バーサーカーのマスターの目的は何だ?」

「あいつはキミの抹殺を最優先にしていた様だけど、それと同時にキャスターを敵視していたみたいだ。どうも彼女の能力は目障りなみたいだね」

「…ニンフのハッキングと奥の手は、この戦いで大きな影響を持ちます。おそらく、その為かと考えられます」

 鳳凰院の疑問に答えるイカロスの表情は厳しい。

 自分の事を批難しているのかキャスターの身を案じているのか、鳳凰院には判別がつかなかった。

「落ち着けイカロス。心配するのは分かるけど、今はできる事をするぞ。ニンフ達の居場所は分からないか?」

 なるほど後者だったのか、と感心すると共にそれを瞬時に理解する智蔵と彼女の相互理解に対して、鳳凰院に若干の羨望の感情が沸く。

(僕も、そんな事ができたのだろうか)

 後悔の念は尽きず。しかし流れる時を戻すことは叶わない。

「…レーダーにニンフとオレガノの反応を確認しました。どちらもマスターの家に向かっていますが、反応が微弱になりつつあります。その周囲にカオスの反応はありません」

「よし、すぐ向かうぞ。頼朝、先輩達に伝えといてくれるか?」

「オーケー、それくらいはしておくよ。どうせ学校は休みになるだろうしね」

「やった本人が言うな。いくぞイカロス、俺を担いで飛べるか?」

「はい、では失礼します」

 

 少年を両手に抱えて空へと飛翔する天使を模した少女。

 それを見上げる鳳凰院は思う。

「…まったく。キミが羨ましいよ、智蔵」

 自分は幼少の頃から彼を敵視していた。

 今にして思えば、その理由は風音日和が彼に好意を寄せていた事であり。

「キミは器の大きい男だ。僕は、そんなキミに嫉妬していたんだろうね」

 

 

 

  

 敗北した少年の眼前に広がる青い空。

 この澄み渡る大空を、自分も『あの少女』と見上げる事ができたなら。

「僕は、変わる事ができたのかな」

 

 もういない少女の面影を、少年はその空に捜していた。

 

 

 

 

 

 To Be Continued

 

 

 

 

 interlude

 

「はぁっ! はぁっ! …くぅ」

 主のいない居間でふすまに寄りかかる様に膝をつき、ニンフは荒い息をついていた。

 四肢のみならず全身に痛々しい傷を受けた彼女は、同じく居間にいる一時の相方に声をかけた。

「オレガノ、ソアラの容体は?」

「………なんとかなる。してみせる」

「そう。頼むわ」

 彼女のマスターの傷は深い。

 常識的に考えれば致命傷だが、オレガノの優れた治療技術なら望みがある。

 現に、数日前もこの家の主を死の淵から救ったのだから。

(問題は、オレガノ自身が持つがどうかね…)

 彼女の危惧の通り、オレガノの手の動きが鈍くなりつつある。彼女の傷も明らかに致命傷だった。

 治療が終わる前に彼女が先にリタイヤしてしまっては、彼女のマスターも助からない。

強化(ブースト)をかけるわ。何とか持ちこたえなさい」

「…分かった」

 彼女から一時的な強化を受け、オレガノの手元が迅速かつ正確な動きを取り戻す。

 それにより見月そあらの治療は十数分で終わった。これならなんとか一命を取り留めることができるだろう。

 

 それを確認すると同時に、オレガノはうつ伏せに倒れこんだ。

 すでに限界を超えて稼働した彼女は、もはやこの世界から退場するのみだった。

「礼を言うわ。じきに私も後を追うだろうけど、先に行ってなさい」

「………礼はいらない。私は、お嬢様の命令を守っただけ」

 オレガノのマスターは、インプリンティングによって見月そあらを生還させる事を命じた。

 確かに彼女はそれを守っただけなのだろう。

 しかし、彼女の限界を超えた奮戦は決して強制命令のみによるものではない。

「そう。素直じゃないわね、アンタも」

「………貴女に言われる筋合いはない」

 インプリンティングの命令とは、エンジェロイドがそれに同意し従う事で強力なバックアップになる。

 つまり、オレガノ自身も見月そあらの生還を願い最善を尽くしたのだ。

「ミサコの事は、トモゾウとスガタに任せるしかないわ。大丈夫、あの二人ならなんとかするでしょ」

「………そうね。イカロス様なら、きっと」

「そこはさ、一応デルタの名前も入れてあげるべきじゃない?」

「………それは無理」

 苦笑するニンフの目の前でオレガノの体が急速に明滅を繰り返し、消失していく。

「お疲れ。アンタの事、少し見直したわ」

 

「………私は、見直してない」

 

 こうして、メディックのクラスを与えられたエンジェロイドはこの戦いから脱落した。

 最後まで可愛くない奴とニンフは口を尖らせるが、すぐに微笑に変わった。

「それは、残念ね」

 本当に残念だと思う。

 少しだけ分かり合えたというのに、結局は白紙に戻ってしまうんだから。

 

「さて、と。私はもう少しだけ頑張らないと」

 自分のマスターを抱えて二階への階段を上り始めるニンフ。

 その動きは緩慢で彼女の表情は苦痛に満ちていたが、絶望の色はない。

「私はまだやらなくちゃいけない事がるあるんだから。キャスターらしくアイツにとびっきりの魔法を見せてやるわ」

 強い意志を含んだ瞳は、自分の使命を微塵も諦めていない。

 何をしてでも自分たちの目的を果たすのだと、この世界に来た時から彼女は誓っていたのだから。

 

「だから、早く帰って来なさいよ、トモゾウ…!」

 

 傷ついた少女は一人の少年を待ち続ける。

 それは自身の目的を果たす為であり、最後に会いたいと思える面影を持った相手だからだった。

 

 

 

 

 

「日和と!」

「アストレアの!」

 

 

 

  教えて! エンジェロイ道場!

 

 

 

「………え? あれ? ニンフ先輩は?」

「ニンフさんは本編で忙しいので今回は私が代理を務めます。よろしくお願いしますね」

「は、はーい」

 

「さて、イカロスさんのプロテクトが解放された事で空の女王(ウラヌス・クイーン)モードが使用可能になりました。それに付随して各ステータスの向上と武装の追加がされてますね」

「はいはい質問でーす。イカロス先輩のプロテクトの原因って何だったんですか?」

「本編でも一部語られていますが、要するにイカロスさんが無意識下で自分にかけていたセーフティです。あの人は例えどんな理由があっても、他人を傷つける事を嫌がっていたんですね。さらにつけ加えると、強すぎる力のせいで智蔵くんに怖がられたくなかったのかもしれません」

「なるほど。智蔵さんがそれを受け入れてくれたから、イカロス先輩の不安もなくなったんですね」

「イカロスさんは私たちと違って、人を殺めるという事を『経験』しています。だからこそ、それを最も恐れているのでしょう」

「そっか。私やニンフ先輩は結局地上への攻撃なんてしなかったもんね…」

 

「ひよりさんも大変でしたね。まさか心を乗っ取られちゃうなんて」

「乗っ取るというより喪失です。第二の鎖で私の自我を消し、第三の鎖でイカロスさんを手に入れる様に仕向ける。鳳凰院さんの作戦は効率的で穴がありませんでした。ただ一人、守形先輩というイレギュラーを除けばですが」

「さっすが私の(現)マスターね。頼りになるわ」

「…普通に考えれば、エンジェロイドとマスターの役所が逆ですよね」

「うぐっ!」

「ともあれ、私としては智蔵君が無事だったので安心しました。鳳凰院さんには申し訳ないですけど」

「あっちゃー、やっぱりあの人の恋は報われないんですね。祖父は日和さん、孫はイカロス先輩に惹かれたけど実らないんだ…」

「どっちも主人公が相手なので仕方ありませんね」

「ひ、ひどい… 誰かあの人に愛の手を差し伸べてあげてください…」

「それではアストレアさんが差し伸べてあげたらどうでしょう?」

「それは嫌。なんか偉そうで煩そうだし。いっつも散らかしてる薔薇の臭いがきついし」

「…貴女も十分酷いですね」

 

「さて。物語はいよいよ折り返しを越えて佳境へと差し掛かります」

「師匠達に一体何があったのか? 傷ついたニンフ先輩が智蔵さんを待つ理由は? そして私と守形さんの選択は? 次回、『のこされたもの』! お楽しみに!」

「…はぁ。これから先は見守るだけというのは寂しいですね」

「ニンフ先輩ももうすぐそっちに行きますよ! ですから寂しくなんかないです!」

「あ、いけませんよアストレアさん。そういう事を言うと…」

 

 

『勝手に死んだ扱いにすんじゃないわよ! パラダイス・ソングっ!』

「きゃああああ!? 爆発オチなんて最低です~~~!」

 

 

 

「…ニンフさんって色々な意味でタフですよね」

 

 

 

 

 

 *エンジェロイドのステータス情報が更新されました。

 

 

 

 

各エンジェロイドステータス

*本編で解明されていない個所は伏せられています。

 

クラス:アーチャー

マスター:桜井智蔵

真名:イカロス

属性:秩序・善

 

筋力:B

耐久:A

敏捷:B

演算:A

幸運:C

武装:A++

 

スキル

飛翔:A

空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。

 

自己修復:A

自身の傷を修復する。

Aランクの場合は戦闘中にもダメージが回復し、戦闘不能に陥っても約半日で復帰可能。

ただし完全に破壊された場合、ダメージを継続的に受け続けた場合は発揮されない。

 

千里眼:A

遠距離のおける視力の良さ。

遠く離れた敵を視認し、射撃兵器の命中率を補正する。

 

単独行動:F

クラス別能力。マスターを失っても行動可能。

ただしイカロス自身がそれを望まない為、ランクダウンしている。

 

武装

永久追尾空対空弾「Artemis」(アルテミス):B

外敵を鋭く貫く殺傷力と、地球の裏側まで届く射程を併せ持つ主兵装。

可変ウイングから直接発射するので使い勝手が良く、出力調整可能。

 

絶対防御圏「aegis」(イージス):A

あらゆる攻撃を防ぐ全方位バリア。

非常に高い防御力を持ち、その特性を生かして周囲を巻き込まず攻撃する際にも併用される。

ただしAランク以上の攻撃は防ぎきれず、ダメージの軽減のみになる。

 

超々高熱体圧縮対艦砲「Hephaistos」(ヘパイストス):A

圧縮したエネルギー弾を撃ち出す大砲。

大気圏を越える程の指向性エネルギーを放出し、敵を蒸発させる。

起動と発射には数秒のチャージが必要となる。

 

最終兵器「APOLLON」(アポロン):A++

弓型のエネルギー兵器。

着弾地点を中心に大爆発を引き起こし、国一つでさえたちまち消し飛ばすほどの威力を持つ。

周囲への被害が大き過ぎる為使用には危険を伴うが、その破壊力は全エンジェロイド中でも最高を誇る。

 

 

 

クラス:キャスター

マスター:見月そあら

真名:ニンフ

属性:秩序・中庸

 

筋力:D

耐久:C

敏捷:C

演算:A

幸運:B

武装:C

 

スキル

ハッキング:A

生物、機械に干渉する能力。

対象の性能及び機能を強化もしくは低下させる。

高ランクになると対象の電子頭脳を破壊する事も可能(ただし相手の演算能力を上回る必要がある)

また、ハッキング中は自身のステータスが低下する。

 

飛翔:B

空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。

 

陣地作成:B

クラス別能力。自分に有利な陣地を作る。

ハッキングを主としたトラップ陣地を作成できる。ただし対象の選別は困難。

 

道具作成:D

クラス別能力。有用な道具を作成する。

大抵の事をハッキングで済ませしまうニンフはこのスキルの使い道を把握しきれていない。

 

 

武装

超々超音波振動子(パラダイス=ソング):C

口から発する超音波攻撃。

数少ないニンフの武装だが、エンジェロイドに対する攻撃力は低い。

 

 

 

クラス:セイバー

マスター:守形英三郎

真名:アストレア

属性:中立・善

 

筋力:B

耐久:C

敏捷:A

演算:E

幸運:B

武装:A

 

スキル

飛翔:A+

空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。

事実上、空中戦でアストレアを捕えられるエンジェロイドはいない。

 

怪力:C+

一時的に筋力を増幅する。

感情の起伏による怪力を発動。つまり馬鹿力。

過去にインプリンティングの鎖を力ずくで引きちぎった事からも、その腕力は他のエンジェロイドと比べても破格。

 

騎乗:F-

クラス別能力。乗り物を乗りこなす。

家電の操作(テレビのリモコン等)が限界なアストレアにとってまったく有用性の無いスキル。

逆に操作を誤って事故を起こす可能性が上がる。

 

勇猛:D

精神干渉を無効化し、格闘ダメージを上昇させる。

アストレアの場合は勇猛というよりただの猪突猛進だが、結果は大差が無い。

Dランクは若干の補正値にとどまる。

 

武装

???

 

 

 

クラス:ライダー

マスター:鳳凰院=キング=頼朝

真名:風音日和

属性:中立・中庸

 

筋力:D

耐久:D

敏捷:C

演算:A

幸運:C

武装:C

 

スキル

ハッキング:A

生物、機械に干渉する能力。

対象の性能及び機能を強化もしくは低下させる。

高ランクになると対象の電子頭脳を破壊する事も可能(ただし相手の演算能力を上回る必要がある)

また、ハッキング中は自身のステータスが低下する。

 

騎乗:C

クラス別能力。乗り物を乗りこなす。

日和の場合 農耕機の運転経験が数えるほどあったのみなので低い。

 

飛翔:C

空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。

人間としての生活が長かった日和は飛行を苦手とする。

 

気象観測:A

農業経験による気象変化への対応知識。

気象兵器「Demeter」(デメテル)による影響を自分とマスターが受けない様にし、気象効果を上昇させる。

 

武装

気象兵器「Demeter」(デメテル):C

周囲の気象を操作する事ができる。主に気圧を操作し暴風、豪雨、落雷などを広範囲に発生させる。

応用すると人体の鼓膜などに深刻なダメージを与えることも可能。

ただしエンジェロイドへの直接的ダメージは小さい。

 

 

 

クラス:メディック

マスター:五月田根美佐子

真名:オレガノ

属性:秩序・中庸

 

筋力:D

耐久:D

敏捷:C

演算:C

幸運:A

武装:D

 

スキル

医療技術:A

シナプスで従事していた医療知識。Aランクは適切な医療器具さえあれば瀕死の重傷さえも治療可能。

ただしシナプスの器具が地上に無い為、普段は腕のいい外科医程度の能力(Bランク相当)にとどまる。

シナプス製の医療器具は彼女が保有する物のみであり有限。それを消費した時に限り本来のランクへ上昇する。

 

火器管制:C

銃火器を扱う技能。

五月田根美香子が直伝した為、拳銃から機関銃、戦車に手榴弾と豊富な技術を持つ。

ただし扱えるのは地上の火器に限り、シナプス製の兵器は扱えない。

 

飛翔:C

空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。

医療用として活動してきたオレガノは戦闘用の飛行を苦手とする。

 

単独行動:C

シナプスでは医療用としてマスターから離れて行動していた為、ある程度離れても活動に支障が出ない。

ただし現界の為にマスターの存在そのものは必要不可欠である。

 

武装

なし

 

 

 

クラス:バーサーカー

マスター:シナプスマスター

真名:カオス

属性:混沌・中庸

 

筋力:B(A)

耐久:A(A+)

敏捷:B(A)

演算:A(A+)

幸運:D

武装:A

*()内は狂化による補正値

 

スキル

飛翔:A

空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。

 

戦闘続行:B

大きな傷を負っても戦闘が可能。

精神的な高揚により痛覚が麻痺し、痛みを感じずに全力を発揮できる。

ただし自身の保身がおろそかになる為、回避にマイナス補正がつく。

 

自己進化プログラム「Pandora」(パンドラ):A++

エンジェロイドの自己進化プログラム。他の生物やエンジェロイドを取りこむ事で最適な機能を獲得する。

カオスはこのシステムに一切の制限がなく、常に最適な機能を模索する事が出来る。

これによりカオスは戦闘中1ターンごとに相手より1ランク上回る性能を獲得する。

 

狂化:B

クラス別能力。全ステータスをランクアップさせる。

元々情緒不安定な面のあるカオスだが、狂化によってさらに不安定になっている。

マスター以外の存在は敵という認識しかなく、イカロス達の事を知識で理解してもそれ以上の思考がされない。

ただし智樹とそれによく似た智蔵は例外。彼らを認識すると著しい精神的負荷が起こる。

 

武装

対認識装置「Medusa」(メデューサ):A

敵エンジェロイドの電子制御機能に介入し、幻惑する。相手の攻撃や回避にマイナス補正を与える。

油断するとニンフですら幻惑されるほどの性能があり、抵抗にはAランク以上の演算能力が必須。

 

硬質翼:A

自身の翼を変幻自在に操る。

筋力ステータスに依存した威力を発揮する。

 

炎弾:B

遠距離戦闘用の射撃兵装。

複数の弾頭を連続発射する事が可能。また、チャージする事で威力がランクアップする。

 

超高熱体圧縮発射砲「Prometheus」(プロメテウス):A

アサシンを取り込んで獲得した武装。カオスの能力に追随してランクアップしている。

Aランク以下の防御及び耐久を貫通し、同ランクの攻撃を相殺する。

 

 

クラス:アサシン

マスター:シナプスマスター

真名:ハーピー

属性:秩序・悪

 

筋力:C

耐久:C

敏捷:C

演算:B

幸運:C

武装:B

 

スキル

飛翔:B

空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。

 

二身同一:B

二人で一つの役割を負う為の機能。

離れていても互いの意思疎通を可能にする。

 

気配遮断:C

クラス別能力。隠密行動の適正を上げる。

ただし直接攻撃をする際には大きくランクが低下する。

 

武装

超高熱体圧縮発射砲「Prometheus」(プロメテウス):B

摂氏3000度の気化物体を秒速4kmで射出する。

Bランク以下の防御及び耐久を貫通し、同ランクの攻撃を相殺する。


 
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