No.401328

特捜戦隊デカレンジャー & 魔法少女まどか☆マギカ フルミラクル・アクション

鈴神さん

見滝原市にて、謎のエネルギー反応が続発する。一連の現象について調査をすべく、見滝原市へ急行するデカレンジャー。そこで出会ったのは、この世に災いをまき散らす魔女と呼ばれる存在と戦う、魔法少女と呼ばれた少女達。本来交わる事の無い物語が交差する時、その結末には何が待っているのか・・・
この小説は、特捜戦隊デカレンジャーと魔法少女まどか☆マギカのクロスオーバーです。

2012-04-01 21:05:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2337   閲覧ユーザー数:2308

Episode.04 ミラクル・カムトゥルー

 

「まさか、ホージーがやられるとはな・・・」

 

デカベースのオフィス。署長であるドギーと部下であるデカレンジャーが集まっている。一つ席を欠いた円卓は、重い沈黙に包まれていた。時刻は深夜である。見滝原病院にて魔力反応の発生を受け、急行したデカレンジャー達を待っていたのは、病院に担ぎ込まれるホージーの姿だった。

 

「まさか、ホージーさんが魔女にやられるなんて・・・」

 

「くそっ!!何でもっと早く到着できなかったんだ!!」

 

「バン、落ち着きなさい。」

 

「ナンセンス・・・先輩、冷静になりましょう。」

 

机を叩き、悔しさに歯を軋ませるバン。だが、気持ちは皆同じだった。魔女の戦闘能力を過小評価しなければ、こんな事にはならなかったかもしれない。一同が後悔に打ちひしがれる中、オフィスに一人の女性が入ってきた。

 

「ドギー!!」

 

「スワンか・・・」

 

翼上の耳を持ち、フロントホック式のゴーグルを首からぶら下げた白衣姿の女性。彼女こそ、デカレンジャーのシステムやロボットの整備・開発を担当している地球署のメカニック、白鳥スワンである。

 

「さっき、病院から連絡があったわ。ホージーは峠を越したって。」

 

その言葉に、安堵し喜色を浮かべる一同。先程まで室内を包んでいた緊張も解けたようだ。

 

「明後日には意識も戻るし、入院もそんなに長くならないって。本当に良かったわ。」

 

「そうか・・・それで、スワン。頼んでおいた件はどうなった?」

 

「ごめんなさい。ホージーのSPライセンスなんだけど・・・」

 

スワンが白衣のポケットから取り出したのは、ホージーが持っていたSPライセンスだった。表面から見ても、ところどころ破損が目立つ。

 

「メモリー部分の破損が酷くて、映像の再生はできそうにないわ。」

 

「そうか・・・」

 

スワンの報告に落胆した表情を見せるドギー。結界内で魔女と戦闘を行ったホージーのライセンスを調べれば、魔女の戦闘能力は勿論、魔法少女の情報が手に入るかもしれないと考えていたのだ。だが、ホージーのライセンスは魔女に噛みつかれた際に破損していたのだった。

 

「ジャスミンの超能力でも、情報は得られなかったもんね・・・」

 

「ボス、申し訳ありません。」

 

ジャスミンの超能力を以てしても、SPライセンスからは魔法少女の手掛かりは得られなかったのだった。

 

「いや、気にする事は無い。何か別の方法を考えよう。」

 

「そうですね。それじゃあ、センちゃん!」

 

「やってみようか。」

 

バンに指名されたのは、シンボルナンバー3のセン。椅子から立ち上がると、壁へ向かう。そして、

 

「よっこらせ。」

 

床に手を付いて倒立姿勢を取る。これは、センのシンキングポーズである。これをやる事によって、何かが閃くのだ。

 

「そうか!!」

 

「何か思いついたの?」

 

逆立ちを止め、立ち上がったセンに皆の期待の視線が集まる。

 

「ホージーは、魔女と戦って怪我をしたんだよね?」

 

「それがどうしたんだ?」

 

「結界の中は、一度彷徨いこんだら二度と抜け出せない。なのに、ホージーは帰って来た。どうしてだと思う?」

 

「それは、病院に知らせてくれた人が居たから・・・そうか!!」

 

「そう言う事。ホージーを助けてくれたのは、恐らく魔法少女なんだと思う。ホージーが倒れている事を知らせてくれた人を調べれば、魔法少女に辿り着ける筈。」

 

「さっすが、センちゃん!!」

 

期待を裏切らない推理を見せてくれたセンの肩を叩き、褒めるバン。そして、ドギーが一同に命令を下す。

 

「よし。センとウメコは明日、見滝原病院へ向かい、ホージーが倒れている事を知らせてくれた人物の確認を取れ。」

 

「「ロジャー!」」

 

「バンとジャスミン、テツは引き続き魔女及び魔法少女の捜索を行え。ホージーがやられたんだ、絶対に油断するなよ。」

 

「「「ロジャー!!」」」

 

そうして、深夜まで長引いた会議は終了した。デカレンジャー達は、明日から始まる捜査に向けて休養を取るべく、解散し自宅へ向かうのだった。

 

 

 

そして翌日。見滝原の住宅街のいっかくにある鹿目家、その朝食の光景。いつも通り家族四人で食卓を囲み、食事を口にしている。そんな中、鹿目家の長女であるまどかは、テーブルの上にのせられた塩が入った容器をじっと見つめていた。

 

青い、容器の蓋をじっと見つめる。思い出されるのは、昨日の光景。青い戦闘服に身を包んだ宇宙警察の男性が、魔女に食べられかけた。間一髪、マミの助けによって死を免れたが、地面に落ちた彼は夥しい血を流していた・・・

 

「・・・・・」

 

続いて、まどかが視線を向けたのは、皿の上に載せられた目玉焼き、その黄身だった。

頭の中に繰り返される、マミの言葉・・・

 

『私達、魔法少女はいつもこんな状況と隣り合わせなのよ・・・』

 

明日は我が身かもしれない、と言外に告げていた気がした。そんな事を思い出していた時だった。

 

「まどか?」

 

ふと、声をかけられる。声の主は、目の前の席に座っていた母親、詢子だった。

 

「さっさと食べないと遅刻だぞ?」

 

「う、うん・・・」

 

母親にそう言われて、フォークを手に取り、さらに盛られた料理を口にする。その瞬間、無意識的に涙があふれ出して来た。

 

「う・・・うぅっ・・・」

 

「姉ちゃんどうしたの?」

 

「ま、不味かったかな?」

 

心配そうに自分に声をかけてくれる家族。まどかは、そんな自分の事を大事に想ってくれる大事な人たちに、ますます涙が溢れるのを感じた。

 

「ううん・・・美味しいよ。凄く美味しい。生きていると、パパのご飯が、こんなに美味しい・・・」

 

まどかの心に思い浮かぶのは、以前、家族と一緒に訪れた事のあるレストラン。そこの店長が、料理を幸せそうに食べる自分達を見て、言っていた。

 

『生きるって言う事は、美味しいって言う事なんだよ。』

 

あの時は、何の事か分からなかったが、今ならその意味が涙が出る程分かる。生きていれば、何を食べても美味しい。だが、死んでしまえば、何も感じない。人の死を垣間見たまどかには、いつも何気なく食べている物が、その美味しさが、生きている事を実感させてくれている事を、涙が溢れる程に感じていた。

 

 

 

「魔女め・・・今日こそは必ず仕留めてやる!!」

 

「バン、あまり熱くならない方がいいわよ。」

 

デカベースからパトロールに出たバンとジャスミン。片や相棒の仇討ちに燃える熱血刑事、片やいつも通りの調子を崩さないクールビューティー。相対的な二人だった。

 

「今日も巡回ルートは同じだったよな。」

 

「ええ。いつも通り、この先の大通りを・・・あれ?あそこに居るの、まどかちゃん達じゃない?」

 

「え?お、そうだな。おーい!!」

 

まどか達に気付くや、いつかの様に車を脇に止めて、窓から顔を出して手を振るバン。まどか達の方も、バンに気付いたのか、手を振りながら近づいてくる。

 

「おはようございます、バンさん。」

 

「おはよう、まどかちゃん、さやかちゃん、仁美ちゃん。数日ぶりだっけ?」

 

「はい、そうですわね。」

 

そんな他愛もない会話をするバンとさやか達。そんな中、ジャスミンは一人表情が暗い少女――まどかに気付く。

 

「まどかちゃん?」

 

「え?あ、はいっ!」

 

「元気ないみたいだけど、どうかしたの?」

 

「いえ、何でもありません・・・」

 

声をかけてみると、心配いらないと返してきたが、どう見てもそうは思えない。能力を使用してみようかと一瞬考えたが、仕事以外で、しかもプライベートを覗くのはマナー違反と考え、行わなかった。

 

「何か悩みがあるようなら聞くけど?」

 

「いえ、大丈夫です。」

 

気丈に振る舞っているつもりなのだろうが、その姿が痛々しい。仕事等の理屈抜きで、ジャスミンは力になってあげたいと思っていた。

そんな中、バンとさやか、仁美は別な話題で盛り上がっていた。

 

「そういえば、昨日もデパートに行ったの?見滝原中学の子達に結構人気の喫茶店があるって聞いてるから、俺も今度行こうかと思ってるんだけど。」

 

「いえ、昨日はさやかさんにお見舞いに行く用事がありましたので、行ってないんですよ。」

 

「お見舞い?入院してる友達が居るの?」

 

「はい。上条君という子で、見滝原病院に入院していますの。」

 

見滝原病院・・・その単語が出た途端、ジャスミンの目が見開かれた。

 

「へえ・・・早く元気になると良いね。それじゃあそろそろ、俺達はパトロールに行くから。皆も学校遅れないようにな。」

 

「はい、それではお気をつけて。」

 

それだけ言葉を交わすと、バンとジャスミンはマシンドーベルマンに乗り込み、まどかたちと別れて見滝原市の巡回任務へと戻る。

 

「・・・変だと思わない?」

 

「どういう事だよ?」

 

「まどかちゃん、様子がおかしかったのに気付かなかった?」

 

「ん~・・・そりゃあ、いつもより口数が少なかったけど・・・」

 

「それに、昨日病院に行ってたらしいじゃない。本当に偶然かしら?」

 

「・・・・・まさか、彼女たちが?」

 

「確証は無いけどね。でも、可能性はあるわ。」

 

ジャスミンの言葉に不安を抱くバン。だが、よくよく考えてみれば怪しかったかもしれない。彼女の言う通り、確証は無いが、決してあり得ない事ではない。

まどか達が、魔法少女と関わりがあるという可能性は・・・・・

 

 

 

放課後の時刻・・・夕暮れの赤い光に包まれた、マンションの一室。そこに、二人の少女――まどかとマミの姿があった。

 

「マミさん、ごめんなさい・・・」

 

「謝らなくていいわ、鹿目さん。あんなものを見たのなら、当然よ。私の方こそ、無関係じゃないからって、あなた達をあんな危険な事に巻き込んでしまったわ・・・本当にごめんなさい。」

 

「あの、これ・・・」

 

まどかがバッグから取り出したのは、スケッチブックだった。マミの魔法少女体験コースが始まる前、喫茶店で意気込みを話し合った時に、まどかが出した物である。その中には、自分自身が思い描く魔法少女の姿が描かれていた。

 

「もう、私には持っていられません・・・」

 

「そう・・・分かったわ。これは預かっておく。」

 

「すみません・・・」

 

それだけ言うと、まどかはマミの部屋を後にし、マンションを出て行った。と、そこへ・・・

 

「あなたは自分を責め過ぎているわ、鹿目まどか。」

 

急に声がかけられる。目の前に現れたのは、最近見慣れた黒いストレートロングヘアの少女・・・暁美ほむらだった。

 

「あなたを非難できる者なんて、誰も居ない。居たら、私が許さない。」

 

「忠告、聞き入れてくれたのね?」

 

その後、二人は同じ道を通って家路に着く事になった。歩きながら、まどかはほむらに話しかける。

 

「私がもっと早くにほむらちゃんの言う事を聞いてたら・・・」

 

「それで、あの刑事の運命が変わったわけじゃないわ。でも、あなたの運命は変えられた。一人が救われただけでも、私は嬉しい。」

 

「・・・ほむらちゃんはさ、なんだかマミさんとは別の意味でベテランって感じだよね。」

 

「そうかもね。否定はしない。」

 

「昨日みたいに、誰かが大怪我する所を何度も見てきたの?」

 

「そうよ。でも、大怪我どころじゃ済まない・・・死ぬ所も見てきたわ。」

 

「・・・何人くらい?」

 

「数えるのを諦める程に。」

 

思ってみれば、こうしてほむらと話をするのは初めてだったかもしれない。しかも、話している内容は剣呑そのものである。

 

「・・・あの人、大丈夫なのかな?」

 

「気にする事は無いわ。あの人はちゃんと生きてる。後遺症も残らない筈よ。それに、もし死んでいたのなら、誰もその事に気付かないでしょうね。仮に向こう側で死ねば、死体だって残らない。永遠に行方不明のまま・・・魔法少女の最期なんて、大概そんなものよ。」

 

その言葉に、まどかの目に涙が溢れだす。ほむらの口にした現実は、まどかの傷心した心に深く突き刺さった。

 

「酷いよ・・・皆のために戦ってきても・・・誰にも気づいてもらえずに死んで行くなんて・・・そんなの、寂し過ぎるよ・・・!!」

 

「そう言う契約で、私達はこの力を手に入れたの。誰のためでもない・・・自分自身の祈りのために戦い続けるのよ。」

 

魔法少女の戦いの運命を口にするほむらの表情は、氷の様に冷え切っており、先の言葉と相まって、既に心を失くした機械と化しているとさえ錯覚させられるものだった。

 

「誰にも気付かれなくても・・・忘れ去られても・・・それは仕方の無い事だもの。」

 

「・・・私は覚えている。」

 

だが、まどかはその言葉に対してだけは、力強く反論する。

 

「マミさんの事も・・・ほむらちゃんの事も!!絶対に忘れない!!」

 

「・・・・・」

 

その言葉に、ほむらの身体が僅かに硬直する。まどかには分からなかったが、その瞬間だけ、ほむらの心は揺れていた。

 

「・・・あなたは優し過ぎる。忘れないで・・・その優しさが、もっと大きな悲しみを呼び寄せる事もあるのよ。」

 

それだけ言うと、ほむらはまどかに背を向けて去っていく。階段を下りて行くその後ろ姿を、まどかはただ茫然と見送るしかできなかった。

 

 

 

見滝原病院のとある病室のベッドで、横になりながら音楽を聞いている少年と、その脇に付き添う少女が居た。

 

「何聞いてるの?」

 

「亜麻色の髪の乙女。」

 

「ああ、ドビュッシー?素敵な曲だよね。」

 

少女――さやかは、ベッドに横になる友人――上条恭介に言葉をかけるも、抑揚の無い返事が返ってくるばかりだった。恭介は将来有望なヴァイオリニストだったが、事故で指が動かなくなってから演奏が出来なくなり、現在はリハビリ中だった。だが、現実は残酷なもので、医師からは、現代の医学では回復の見込みは無いと宣告されていた。

以前から好意を寄せていたさやかは、そんな彼に少しでも元気になってほしいと、クラシックのCDを買い込んで、見舞いの旅に彼のもとへ届けていたのだった。

 

だが、日に日に自分に圧し掛かる絶望の重みを感じていた恭介には、そんな純真なさやかの優しさが、辛かった。

 

「ねえ、さやか。」

 

「何?」

 

「さやかは、僕を苛めてるのかい?」

 

イヤホンを外しながら、恭介は苛立ちを含んだ視線をさやかに向ける。

 

「何で今でもまだ、僕に音楽なんか聞かせるんだ?嫌がらせのつもりなのか?」

 

「だって恭介、音楽好きだから・・・」

 

「もう聞きたくなんかないんだよ!!自分で弾けもしない曲、ただ聞いてるだけなんて!!」

 

積もり積もった苛立ちが、絶望に打ちひしがれてきた心の痛みが、恭介の中で爆発していた。

 

「僕は・・・僕は・・・!!」

 

治療中の左手を振りかざし、CDプレイヤーに叩きつける。プレイヤーは壊れ、恭介の左絵からは血が飛び散る。

 

「!!!」

 

思わず、椅子から立って恭介を押さえつけるさやか。耳元から、恭介の涙声が聞こえてくる。

 

「動かないんだ・・・もう、痛みさえ感じない・・・こんな、手なんて!!」

 

「大丈夫だよ!きっと、何とかなるよ!!諦めなければ、きっといつか・・・」

 

「諦めろって言われたのさ・・・もう演奏は諦めろってさ・・・先生から直々に言われたよ・・・今の医学じゃ無理だって!!」

 

その言葉に絶句するさやか。恭介の左手は重傷だとは聞かされていたが、まさかそれほどまでだったとは、気付かなかったのだ。そんな彼に、自分は大丈夫だのと、保障の無い言葉をかけていた・・・それが、彼の心にどんなに苦痛だったかも考えずに。

 

「僕の手はもう二度と動かない。奇跡か、魔法でもない限り治らない!!」

 

「・・・あるよ!」

 

「え?」

 

「奇跡も、魔法もあるんだよ。」

 

そう口にしたさやかの目には、ある決心が宿っていた。そして、視線の先には白く小さな影があった・・・・・

 

 

 

「いや~、でもホージーも大した事なくてよかったよね。」

 

「本当だよ。薬を調合してくれたハクタクさんにもお礼を言わなきゃね。」

 

同じ頃、デカレンジャーのセンとウメコは見滝原病院を訪れていた。先日、ホージーを院内に運び込んだ際に付き添っていた人物について調べるためである。

 

「監視カメラから映像も入手できたし、これで捜査も進むね。」

 

「うん。多分・・・彼女が魔法少女なんだろうけどね。」

 

病院の入り口に設置されていた監視カメラには、見滝原中学の女子学生の姿が三人分確認できた。恐らく、センの予想が正しければ、彼女たちが魔法少女で間違いないだろう。デカベースに戻り次第、彼女たちの素性について調べなくてはならない。そう考えていた時だった。

 

「え?・・・魔力反応!?」

 

「近い!!この病院内だ!!」

 

二人のSPライセンスが魔力反応をキャッチしたのだ。二人はすぐさま反応のする方向へと走り出す。どうやら、反応元は屋上のようだ。扉の前でSPシューターを構えながら、センとウメコは突入の用意をする。

 

「いくよ、ウメコ。」

 

「うん、分かった。」

 

そして、勢いよく扉を開け放つと、そこには・・・

 

「誰も、居ない!?」

 

花が植えられ、緑溢れる屋上。だが、そこには誰も居なかった。SPライセンスを調べてみると、反応も既に消えていた。

 

「居なくなっちゃった・・・のかな?」

 

「その様だね・・・ま、何にしてもここは病院だ。たとえ結界の中にしても、戦闘は避けたいしね。」

 

それだけセンはウメコと共に屋上を後にした。屋上から飛び立ち、ビルからビルへと飛び移る人影に気付かずに・・・

 

 

 

日が沈んだ夜の街中。その道路の一角に、一台の警察車両が止められていた。バンとジャスミンが乗った、マシンドーベルマンである。

 

「はぁ~~・・・結局、今日も収穫無しかよ・・・」

 

「愚痴らない、愚痴らない。センちゃんが重要参考人になりそうな少女の映像を入手したって言ってたでしょ?これで多分手掛かりが掴める筈よ。」

 

「だと良いけどな~・・・あれ?」

 

その日の捜査を終え、デカベースへ戻ろうとしていた時だった。バンがふと、通りの向こうを見ると、今朝会った少女二人が歩道を歩いていたのだ。

 

「どうしたの、バン。ん、あれってもしかして・・・仁美ちゃんとまどかちゃん?」

 

ジャスミンの言う通り、通りの向こうに居たのは、まどかと仁美だった。仁美に付き添うように歩くまどかは、何故か戸惑っている様子だった。

 

「こんな夜更けにどこへ行くんだ?」

 

「夜遊びは感心しないわね。注意しようかしら?」

 

「そうだな・・・よし、行くか。」

 

マシンドーベルマンを走らせ、まどかと仁美の脇に向かおうとした時だった。

 

「バン、止まって!!」

 

「えっ、ど、どうしたんだよ?」

 

ジャスミンがいきなり止めろと指示を出した。バンは急な言葉に驚きつつも車を止める。一方、ジャスミンはライセンスを分析用のフォンモードにして仁美の方へ向けて翳す。

 

「バン、これ見て。」

 

「これは・・・何かの紋章?タトゥー?いや・・・まさか!!」

 

「魔女の口づけ、ね・・・」

 

ドギーからもらった資料に載っていた、魔女の口づけ。魔女が呪い殺す対象に刻みこむ物であり、これを付けられたものは自殺、殺人等を行うのだ。

 

「まずいな・・・と言う事は、この先に魔女が?」

 

「間違いないでしょうね。追跡するわよ!」

 

「ロジャー!」

 

ジャスミンの言う通り、まどかと仁美を負ってマシンドーベルマンを走らせるバン。まどかと仁美は人気の無い場所を目指して歩いている。しかも、繁華街から離れるごとに同じ方向を目指して歩く人間がどんどん増えて行くのだ。

 

「こりゃあ・・・拙いな。」

 

「本当ね。」

 

まどかと仁美は、既に集団と呼べるほどに増えた人間の中を歩いていた。皆、首筋に仁美同様に紋章を刻まれている。人気の無い場所へ向かっている事から、これから自殺をしようとしているのは間違いない。

まどか性質が町はずれの倉庫の中へ入っていく所を、バンとジャスミンは数百メートル距離を置いた場所にマシンドーベルマンを止めて見ていた。

 

「こちらバン。魔女の口づけらしきものを首筋に付けた集団が、無人の倉庫へ入っていくのを確認。魔女の仕業と思われます。」

 

『分かった、すぐに皆に連絡を入れる。お前達は先に突入して中の人たちを助けてくれ。』

 

「ロジャー!行くぞジャスミン!!」

 

「ほいさ!」

 

マシンドーベルマンを降りて、倉庫へ走って向かおうとしていた、その時だった。

 

『ここから先は、通行止めだ。』

 

「何っ!?」

 

バンとジャスミンの前に現れる、ドロイド達。先日戦ったアーナロイドに加え、オレンジ色のボディーにウニの様な突起物を頭に生やしたドロイドまでいた。

 

「イガイガ君!!」

 

「マジかよ・・・こいつらの相手なんてしてる場合じゃないのに・・・!!」

 

ジャスミンがイガイガ君と呼んだドロイドは、イーガロイドと呼ばれる最上級ドロイドであり、他のアーナロイドやバーツロイドとは比べ物にならない戦闘能力を持つのだ。

 

『フッ・・・かかれ!!』

 

『ウィーン!ウィーン!』

 

一刻も早く倉庫内の人たちを救わねばならない状況にも関わらず、自分達の行く手を遮る様に現れたドロイド達に舌打ちするバン。対するドロイド達は、そんなバンたちをあざ笑うかのように襲い掛かる。

 

「仕方ない・・・一気に片を付ける!!」

 

「応さ!!」

 

SPライセンスを構え、コールのスイッチを押す。

 

「「エマージェンシー・デカレンジャー!!!」」

 

形状記憶金属デカメタルが二人の身体に定着し、デカスーツとなる。そして、戦闘が始まった。

 

 

 

「ど、どうしよう・・・どうしよう・・・!!」

 

倉庫内に置いて、仁美達が行おうとしていた硫化水素による自殺を食い止めたまどかは、魔女の口づけを受けた者達から逃れるべく、倉庫奥の部屋に立てこもっていた。

だが、一息吐く暇もなく、今度は魔女の結界が周囲に広がっていく。

 

「や、やだ・・・そんな!!」

 

結界から逃れようと動くが、逃げ場などある筈が無い。結界はすぐにまどかを呑みこんだ。

「いやだ・・・助けて!!誰かぁっ!!」

 

次の瞬間、まどかは無重力空間に放り出されたかのような感覚にとらわれる。上も下も、右も左も分からない空間。その中に、この世界を支配しているであろう存在が、デスクトップのパソコンの様なものに隠れていた。

 

(罰なのかな・・・これって・・・きっと私が、弱虫で、嘘つきだったから・・・罰が当っちゃったんだ・・・)

 

周囲に映し出されるのは、先日の病院での魔女との戦い。それらを見た瞬間、まどかの心に罪悪感が湧きあがる。マミに魔法少女になると宣言しながら、戦いの恐怖に尻込みし、逃げ出してしまった。そう、これは自分に対する『罰』なのだと、まどかは思った。

そして、魔女の使い魔らしき片翼の天使達が、まどかの四肢を掴み、引き延ばして千切ろうとする。これまでか、とまどかが諦めかけたその時だった。

突如、青い閃光が周囲に走り、まどかを捕らえていた使い魔達を切り裂いたのだ。まどかは最初何が起こったのか理解できなかったが、次の瞬間現れた影に、驚く事になった。

 

「さやかちゃん・・・?」

 

使い魔の拘束を解かれたまどかの前に、親友であるさやかが、剣士の姿をして立っていた。

 

 

 

倉庫の外の戦いは、終焉を迎えようとしていた。イーガロイド率いるアーナロイド達は、デカレッドの二丁拳銃と、デカイエローのディースティックによって全て倒されていた。リーダーのイーガロイドも、既にデカレンジャー二人を相手に相当なダメージを与えられていた。

 

「一気に決めるぜ!!ハイブリッドマグナム!!」

 

「ディーショット!!」

 

『ぐ、ぐぅううう・・・』

 

「「ストライクアウト!!!」」

 

うめき声を上げるイーガロイドに対し、デカレッドとデカイエローの渾身の一撃がヒットする。強力なエネルギー弾二発を受けたイーガロイドは、爆散した。

 

「くそっ・・・また反応は消えたか・・・」

 

「まんまと足止めを食らわされたわね・・・」

 

変身を解きながら、嘆息するバンとジャスミン。だが、今はそんな事を言っている場合ではない。倉庫内に居るであろう人々を救出せねばならない。

 

「犯人の野郎・・・絶対に捕まえてやる!!」

 

姑息な手段を使って自分達を翻弄する犯人に、怒りを募らせていくバンだった。

 

 

 

魔女が潜む倉庫を前に、デカレンジャー達がドロイドとの戦闘を終えたころ。その様子を、高い場所から遠目で見ている者達が居た。ポニーテールの少女と、白い小動物の姿をしたキュゥべえである。

 

「厄介な連中が来てるって聞いてやってきてみりゃあ、サツがこっちの事情に首突っ込んでるってのはどういうわけだよ。しかも、見た事の無い奴まで増えてるし。」

 

「宇宙警察が僕達の事に気付き始めているんだ。魔法少女の存在が明らかになれば、大変な事になる。君にも対処を手伝ってほしいんだ。」

 

「ふぅん・・・ま、別にいいけどさ。それにしても、こんな絶好の縄張り、マミやあのヒヨっこにくれてやるってのも癪だよね~・・・」

 

「どうするつもりだい、杏子?」

 

「決まってるじゃん。要するに、ぶっ潰しちゃえばいいんじゃない?宇宙警察も、あの子も。」

 

魔法少女と宇宙警察の運命が揺り動かされる時が来ようとしていた。

 


 
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