No.394958

仮面ライダーディージェント 第19話:拒絶する理由

水音ラルさん

ファイズ名物・勘違い劇場を微妙に再現してみました。

2012-03-20 12:10:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:332   閲覧ユーザー数:332

正幸は社長室にあるデスクチェアに座ってクルクルと回っていた。

これは昔からしている何か考える時の癖で、美玖にも「いい大人がそんな事をするな」と耳にタコができるほどに注意されているのだが、やはり正幸にとってはこうしてる時が一番頭が冴える。

寧ろこの考え方がなかったらここまで上り詰められなかったと豪語出来るくらいだ。

 

(やっぱりオルフェノクがウチの社員を……いや、でもそれなら灰が残っているはず……だとしたら、トイレに流した?そう考えれば辻褄が合う……。

なら、美玖の場合は何だ?とても気の所為とは思えないし……鹿か何かの動物?でも美玖はあの気配は人間だったと言っていた……オルフェノクだったとしても一体何故?まさか、章治か…?

確かに失踪してからはまったく気配が分からなくなった……何らかの能力を身に付けたのか?)

 

正幸は今日この会社で起きた事件に関して推理していた。

回転速度が徐々に速くなって行き、最終的には傍から見れば残像が見えそうになって来た頃、突然机をガッと掴んで止まった。

 

「フゥ…それじゃあまずは一件目から調べるか……二件目に関しては多分見つからないだろうけど一応そのあたりを捜索してみるかな、章治の居場所が分かるかもしれないし」

「態々調べに行かなくても、一件目だったらお前のすぐ近くまで来てるぞ。後二件目はデルタとは一切関係がないぞ」

 

突然背後から話しかけられそちらを振り返ると、黒いジャケットを着て黒髪をワイルドに刈り上げた三十代後半くらいの男が立っていた。

 

「……え~と、どちら様で?面接ですか?」

「んなわけあるか阿呆。それよりも来るぞ」

「え?来るって何が……」

『キュゥアァァァ!!』

「ってえぇぇぇ!?」

 

その正体不明の男が正幸の軽い冗談を毒舌で返しながら警告すると、その瞬間その男の後ろにある窓ガラスから金色に輝く巨大な鳥が飛び出して来た。

その姿は神々しく、まるで神話に出て来る不死鳥の様だ。

 

「お前はあっち行っとけ」

『キュイィィィ!?』

 

その不死鳥はこちらに突っ込んでくるが、神童がボソリと呟いた途端、突然その進行方向に半透明の灰色に濁った壁が現れ、それにぶつかると痛そうに鳴いて窓ガラスの中に吸い込まれるように消えた。

 

「な、何今の……新種のオルフェノク?」

「いや違うな…今のはミラーモンスターと言ってな、異世界の怪物だ」

「い、異世界…?そんなファンタジーな場所なんてあるんですか?」

「あぁ。そしてそれをこの世界に送り込んだ異世界のライダーズギアを持った奴がこの世界に来てるぞ」

「あ、貴方は一体……」

「俺の名は神童。お前にはそのライダーを消してもらいに来た」

 

神童と名乗ったその男はこの世界にやって来た“悪魔”と称されるライダーを消せと言ってきた。

その存在自体がこの世界を歪めてあの様な別の世界の怪物を引き寄せて世界を壊してしまうらしい。

しかもこの世界にはそんな“悪魔“が二体も来ているそうだ。

眉唾物な話だが、今のを見てしまえばとても嘘とは言い切れない。この男がやった事であると言う仮説もあるがまずは先程のミラーモンスターという怪物を何とかするべきだろう。

 

「それで、アレはどうすれば倒せるんですか?」

 

そう言いながら灰色の壁越しに窓を指差した。そこにはただ外の風景が広がっているだけだが、恐らくまだいるのだろう。

自分のオルフェノクとしての本能がそう言っている。

 

「なぁに簡単な事だ…その“悪魔”を消せばいい。そうすればアレもこの世界から消える」

 

この男を完全に信じたわけではないが、別の世界のライダーというのにも興味がある。

だったらそいつのライダーズギアを奪って研究の為のサンプルにするのも悪くない。

正幸はニヤリと笑ってその男と目を合わせた。その顔はオルフェノクを管理するにふさわしいカリスマ性を持った表情だ。

 

「いいでしょう。そのライダーは必ず倒してみせますよ。ただし、その“悪魔”とやらのライダーズギアは頂きますがね」

「ハッ!使いこなせるかどうか知るらねぇけどな!ま、やるだけやってみな!バハハハハ!!」

 

神童はそう言って豪快に笑いながら先程から出ている灰色の壁の中に溶け込む様に消えると、その灰色の壁も周囲に溶け込むように消えて行った。

どうせだったらあの不死鳥もついでに連れて行って欲しかったがまだ気配がする……。

自分で何とかしろという事なんだろうが、実際何とか出来るもんだから文句も言えない。

 

「ハァ…さてっと、まずはこの状況を何とかしましょうかねぇ」

 

そう気を取り直すとデスクの引き出しを引いてその中に入っていたスマートブレインのロゴマークの入った銀色のアタッシュケースを取り出し、その中からメカニカルなベルトを取り出すと腰に装着した。

更にもう一つ入っていた黒地に金の装飾が施された携帯電話を取り出し、「000」と打ち込んでパチンと閉じると、「スタンディング・バイ」という、ファイズやデルタの電子音声よりも低く、くぐもった電子音声が鳴った。

、それに認証コードを唱えてベルトの正面に設けられている装填口に差し込んだ。

 

「変身」

 

[コンプリート]

 

ベルトが認証コードと携帯電話…オーガフォンがセットされた事を認証すると、電子音声を発してセットされたオーガフォンから幾何学模様を描く様に金色のフォトンストリームが流れ出し、正幸の身体を包み込む。

やがて一際強く輝いて正幸の身体を包み込むと、その中からは金色のラインが入った黒い大柄な装甲に黒いマント、更にΩの形の王冠を被った様なマスクに、その中心には赤い一つだけの複眼が光っていた。

 

仮面ライダーオーガ…正幸が変身するライダーの一つであり、「帝王のベルト」とも称されるライダーズギアによって変身するこの世界の最強のライダーでもある。

 

オーガは両手を広げてまるで迎え入れるかのような威厳のあるポーズを取ると、宣言した。

 

「さあ来い、不死鳥……この帝王が貴様を地に堕としてやろう……」

 

その声はまさに大地を統べる帝王に相応しい全てを畏怖させる声だった。

 

 

 

 

 

「コイツは、一体……?」

 

ディジェクトは突然乱入してきたデルタを見て硬直していた。

今まで旅してきた中でデルタは何度か見た事はある。

このデルタの装着者が誰なのかは分からないが、少なくとも味方をしてくれているのは確かだろう。

だが、コレが本当に味方なのかは分からない。コイツからは何か得体の知れない物を感じる……何となくそう思えるのだ。

 

「そうだ!アイツは無事か……!?」

 

デジェクトは亜由美の存在を思い出して彼女に近づこうとしたが、動きが止まった。

今まで人から避けられ、忌み嫌われてきた。しかも今は変身中だ。この姿で近づこうものなら、彼女に余計な恐怖を与えてしまう。

そう思うと近づく事が出来なくなった。いくら彼女が向こうから近寄ってきてくれたとしても、この姿では嫌われて当然だろう。

このまま去って、後はこのデルタに任せた方が安全なんじゃないだろうか……。

そう思ってここから逃げ出そうとしたその時だった。

 

「好太郎さん大丈夫ですか!?ひょっとしてどこか痛むんですか!?」

 

なんと彼女の方から近づいてきたのだ。

それには流石に驚いたが、何よりも彼女の首筋からは、ほんのわずかだが血が出ていた。恐らくあの時に尻尾の先端が当たっていたのだろう。

自分は何ともないのにこの少女は自分の事などそっちのけで心配して来たのだ。

 

「……何故だ」

「え?」

 

ディジェクトの小さな囁きに亜由美が聞き返して来た。

 

「何故そこまで心配する!?お前こそ大丈夫なのか!怖くないのか!?この姿を見て…何も感じないのか!?」

 

ディジェクトは叫んだ。折角人に避けられる事に慣れてきたのに……そんな風に優しくされたら、甘えてしまうじゃないか!また人を好きになってしまうじゃないか!そしたらまた…裏切られて人を嫌いになってしまうじゃないか!!

なのにどうして…この少女は自分を恐れ、離れようとしないのか……。

そう思っている時だ。

 

「だって、好太郎さん、悲しそうじゃないですか……」

「悲しい?俺がか……?」

「ウン、あんなに悲しそうに戦っていたら、心配するじゃないですか…それに……」

 

そこで亜由美は言葉を区切ると、ディジェクトの…好太郎の本当の気持ちを見抜いてきた。

 

「本当は、誰かと一緒にいたいんじゃないんですか?」

「…っ!!」

 

亜由美の言葉は的を射ていた。

ディジェクトのあの戦い方は本当は誰も寄せ付けない猛獣のように振舞う為のものだ。

誰も近寄ろうとしない拒絶する野獣となる事で人を…いや、自分の心を守って来た。

そうすれば人を巻き込まずに済む。誰も傷つけなくて済む。そして…自分の弱い心を壊さなくて済む。

その結果が今の自分なのだ。

本当はこの少女の言う通り、人と仲良くなりたかったが諦めた。

自分がこの力を持っている限りそんな事は不可能なのだ。

この力は、“拒絶する力”……。いくら手放そうと試みても、気が付けば自分の手元に戻ってくる。

そんな呪われた物の所為で自分の居場所を失ってしまった。

元の世界での暮らしも、友達も、家族も……。

 

「俺は…俺は……!」

「ほい、次はあんさんの番やで」

『ッ!?』

 

気が付けば、デルタは戦闘を既に終えており、こちらに銃口を向けていた。

 

 

 

 

 

デルタが銃口を向ける数分前……

 

「はっ!やっ!ほっ!」

『どわっ!?何だコイツ!ふざけてる様にしか見えねぇのに強えぇ!!』

 

デルタはモンキーオルフェノクを翻弄していた。

彼の闘い方は独特で、その動きは一見デタラメにしか見えないが、実は一切無駄が無いのだ。

回し蹴りに入ったかと思うとそこでフェイントをかけて引っ込めて蹴り付け、そこから前転して両足で蹴り飛ばす。

更に立ち上がった所で両手で手刀を浴びせた。

その動きはまるでブレイクダンスを踊っているかのようだ。

 

「はいなあぁぁ!!」

『うおぉあっ!?チクショウ!やっぱデルタ強え!!』

「なっはっはぁ!この正義の味方・デルタ様に盾突こうなど、一億年と二千年早いわぁ!!」

『そのフレーズ、どっかで聞いた事あるぞ!?』

 

デルタは余裕でふざけた事を言いながらも次々にモンキーオルフェノクにダメージを与えていった。

 

『テ、テメェ!社長から聞いてるぞ!!何で裏切った!?』

 

モンキーオルフェノクは防戦一方になりながらもデルタに叫んだ。

やはりこのオルフェノクはスマートブレインの社員の様だ。だが、その問いかけに素直に答えてやる義理はない。

 

「どっせい!」

『グアッ!!』

 

デルタはモンキーオルフェノクの顔面に掌底を喰らわせて後ろに下がると自分が今答えられることだけを言った。それは……

 

「すまんがこれはトップシークレットってヤツや。平社員に教えるわけにはいかんのでアンタはここで……」

 

真実の秘匿とそしてもう一つを一旦区切ってデルタフォンを引き抜いて口元に近付け……

 

「“チェック”メイトや」

 

[エクシード・チャージ]

 

モンキーオルフェノクへの死刑宣告を言い放った。

認証コードである“チェック”を認識したデルタフォンを通してベルトから白いラインを通ってフォトンブラッドが、デルタフォンに送り込まれていく。

デルタフォンが白く発光したのを確認すると、モンキーオルフェノクに向かって引き金を引いた。

そこから撃ち出された光弾はモンキーオルフェノクに命中すると、人の背丈くらいはある三角錐状に展開してその動きを拘束・ロックオンした。

次にデルタフォンを右腰にセットすると今度は右足にフォトンブラッドが送り込まれる。

それと同時にデルタはモンキーオルフェノクへ駆け出してポイント目掛けてドロップキック・「ルシファーズ・ハンマー」を決めた。

 

「とおりゃあぁぁぁ!!」

『ぐああぁぁぁぁ!!』

 

ポイントに命中すると、それはドリルの様に高速回転をしながらデルタと一緒にモンキーオルフェノクの身体を貫通した。

デルタがモンキーオルフェノクの後ろに着地すると、貫いた箇所にΔの文字が浮かび上がり、モンキーオルフェノクの身体を赤い炎が包み込んで灰化させた。

 

デルタは元々、一番最初に造られたライダーズギア…つまりプロトタイプであり、その設計は武装を極限まで減らす代わりに身体能力を極限まで上げている。

その為、フォトンブラッドの色も危険度の高い状態を示す白になっており、そのフォトンブラッドを受けたオルフェノクが絶命する際に体外へ出されるフォトンブラッドは、危険度の低い青い炎ではなく、もう一段階危険度が高い赤い炎に包まれるのだ。

このデルタギアを始めとしたライダーズギアは章治が考案・作成したもので、その中でもデルタギアは章治専用であり、原点にして頂点と言っても過言ではない。

まあ、最近では正幸がこれの設計を改良して新しいライダーズギアを造ったらしいが……。

 

オルフェノクが完全に消え去るのを見届けたデルタはこの場にいるもう一体の敵と思わしき人物…赤黒いライダーに銃口を向けた。

 

「ほい、次はあんさんの番やで」

『!?』

 

見た事のない種類だが、恐らくはこのライダーもスマートブレインの手先なのだろう。

正幸が自分を捕える為に開発した新型ライダーズギアというのがデルタの推測だ。

その見た事のない赤黒いライダーは黒髪のポニーテールの中々に可愛らしい顔立ちをした高校生くらいの少女の近くで何やら唸っていたようだが、こちらに銃口を向けられている事に気付くと一枚のカードを取り出してきた。

しかし何かさせる前にそれを撃ってそのライダーの手からカードを弾き飛ばした。

 

「さっきのカードは何や?身分証明書じゃあなかったみたいやが…ひょっとして何らかの能力を発動させるためのカードキーか?」

「ク…ッ!」

「その反応やと、図星みたいやな…正幸も随分と斬新なモンを造ったなぁ……さ、そこの嬢ちゃん放して大人しくお縄に着きぃな」

「そこまでにしておいて下さい」

 

その抑揚のない淡々とした声が聞こえた方を向くと、先程の目が死んだ青年が手をパンパンと叩いてこちらに近づいてきた。

 

 

 

 

 

「あ、歩!?」

 

亜由美は突然この場に現れた歩に驚いていた。

ここにいると言う事は、あの黒いライダーを何とかしたという事なのだろうが、真司が見当たらない。

と言う事はここは“龍騎の世界”とは違う別の世界なのだろうか…?

 

「この世界では二時間振りくらいかな?」

「真司さんは!?」

「無事だよ。それから『心配掛けてゴメン。俺はもう大丈夫だから』だってさ」

「そっか、良かったぁ……」

「悪いけど嬢ちゃん、今の状況、全っ然良くないで。そこの兄ちゃん、どう言う事や?状況が全く掴めへんで?やっぱりアンタもスマートブレインの手先かいな?」

「……お前がコイツの兄か?だがお前、普通じゃないな……一体何者だ?」

 

突如乱入してきた黒いライダーと好太郎が変身したライダーが同時に歩に質問をしてきた。それに対して歩は何時もの癖で頭をガリガリ掻きながら何から話そうか考え始めた。

前から思ってたんだけど、そんなに掻いてたらハゲるよ?

その考えを読んだのか定かではないが、そこで掻くのをやめると、黒いライダーの方を向いて質問に答えた。

 

「う~んそれじゃあデルタの人から…僕とこの人は敵じゃありません。僕の妹にずっと付き添っていてくれてたんです。因みに彼の使っているライダーズギアもスマートブレインの物とは全然違いますよ」

「……ほぉ~う、そうかい。ま、今の所は信じたるわ。そこの赤黒は他のライダーズギアとちゃうし、アンタとは初対面みたいやしな」

 

デルタと呼ばれたライダーはそう言いながら好太郎から銃を下げた。

すると今度は好太郎の質問に答え始めた。

 

「今度は君の番だけど、どうやら君は僕の敵じゃなさそうだしね。教えておくよ」

 

そう言いながら歩はポケットからディージェントのカードを取り出して好太郎に見せた。

 

「なっ!?そのカード…お前、まさか……!?」

「その通り。僕はDシリーズ“バックアップエージェンシーシステム”…仮面ライダーディージェント。初めましてだね、Dシリーズ“アプローチアウトシステム”…仮面ライダーディジェクト……」

 

今ここに、この世界の「基点」となるライダーと、二人のDシリーズが邂逅した。


 
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