No.392045

白騎士事件

rahotuさん

第四話を投稿

2012-03-15 20:50:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3296   閲覧ユーザー数:3233

世界各国は、挙って宇宙開発に乗り出そうとしていた。

 

原因は、第七次ハフマン島紛争で時の人となったゴップ首相の演説から始まる。

 

「人類は、その余りある消費欲と人口によって地球を食い物にしてきた。私はこのままでは人類は遠からず滅びるだろうと、ハフマン島紛争を目にして確信した。よって今後連邦は全人類の明日の為に今後二十年をかけて宇宙への恒久的生活圏の構築と......。」

 

ゴップ首相の言うとおり人類は既にその人口を九十億を突破しようとしていた。

 

しかし、進まぬ農業改革に大気汚染。

 

発展途上国の環境破壊と地球の環境の変化により、年々状況は悪化していた。

 

そんな中、世界最大の組織である連邦が宇宙開発へと乗り出し、その実現の為に国家を挙げて取り組むというニュースは瞬くまに世界中を駆け巡った。

 

各国で将来的に宇宙ビジネスを盛り込んだ計画がスタートし、より効率的な往還船の建造や研究が盛んに行われることとなった。

 

その内の一つに、日本が開発するISの姿があった。

 

IS(インフィニットストラトス)宇宙空間での活動を目的としたマルチ・フォーマルスーツであるソレは開発当初はさして注目はされてはいなかった。

 

何故か?

 

当時の開発の中心は船外活動よりもいかにして効率よく人や物資を宇宙に運ぶかであった。

 

その為、宇宙服というのは従来よりもコンパクトな物が前提であり、それほど多機能は求められてはいなかったのだ。

 

そして、ISは時代を先取りしすぎた徒華として静かに消えていくかに見えた....が、ソレを認めない一人の天災により世界は動くこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれは突如として起こった。

 

北半球に存在する日本を射程に収めたミサイル計2341発が日本列島に降り注いだ。

 

核弾頭こそ含まれてはいないものの、着弾すれば未曾有の被害と経済的打撃、その後の全世界規模での混乱が巻き起こると予想された。

 

しかし、彼等の予想を意外な形で、それもある種良い意味で裏切られた。

 

突如として日本上空に現われた一機のIS、通称「白騎士」が日本に飛来するミサイルの半数以上を撃墜。

 

その姿は世界中の驚愕の的となった。

 

各国は挙って軍を送り込み、「白騎士」の捕獲ないし破壊を目論んだ。

 

.....しかし、既存の兵器を圧倒する性能を持つISは送り込まれた大量の最新鋭の戦闘機、ヘリ、イージス、戦艦、空母、を返り討ちにし殆ど死者を出さぬという圧倒的勝利を収めた。

 

此処に来て、世界はISの性能を認めざる終えなくなっていた.....ただ、一人を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、天災君は自分とその周り以外を全く見ていないね、それでは勝てないよ。組織という圧倒的なまでの力の前には。」

 

ゴップは一人、「白騎士」の戦闘模様を映すテレビを見ながら、ソファーに肘をかけ、そうポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

「白騎士」に撃退され、退却していく艦隊を見て漸くホッと一息を付いたのも束の間、突然全世界放送でゴップ首相の演説が始まった。

 

「みなさん、こんにちは。私は地球連邦首相ヨハン・イブラヒム・ゴップです。既に皆さんもご存知の通り現在連邦の盟友たる日本が謎の「白騎士」と呼ばれる武装勢力によって占拠されています。「白騎士」と呼ばれるテロリストは各国のミサイル基地をハッキングしこれを日本に向けています。つまりは日本に住むすべての人々が人質というわけです。これは極めて重大なテロリズムであり、我国は正義の守り手としてこれを看破できません、よって我連邦は自由と正義を守る為に断固たる態度でテロに立ち向かっていく所存であります。現在連邦の総力を挙げて海軍、空軍、海兵隊、が日本に急行中でありテロ殲滅の......。」

 

正直言って又かと頭を抱えたくなった。

 

先程見せたであろうISの戦闘能力を彼らは知らないというのか?

 

いや、そうではないな。今なら疲弊しているから組し易いと見たか.....私はただあの子を守れればそれでいいのに。

 

「白騎士」は休む間も無く、じっと南海のほうに目を凝らした。

 

そうするとハイパーセンサーが捉えた連邦軍艦隊の姿が........。

 

突如としてISのハイパーセンサーが上空から飛来する物体をキャッチした...あれは!?

 

「大陸間弾道弾...だと。クソ連邦め口では平和だとほざきおって。」

 

ハイパーセンサーが驚くべき速さで落下中の弾道弾をロックし、荷電粒子砲のトリガーを引く。

 

地磁気と地軸の関係上真っ直ぐ飛ばない荷電粒子砲は、見事弾頭部を打ち抜き、弾道弾を無力化する。

 

しかし、ホッとするのにも束の間、今度は海中から飛来したミサイルがIS目掛けて飛び出してくる。

 

迫り来るミサイルを迎撃する為に、抜刀し切り伏せ、叩き割り、なぎ払う。

 

それでもミサイルの雨は止まない。

 

ハイパーセンサーが捉えた戦闘機から発射された長距離ミサイルの群れ、そして海中から迫るミサイルに、上空には多弾頭分裂弾道弾。

 

四方八方から迫り来るミサイルに、さしものISも溜まらず回避しようとするが、迫り来るミサイルの群れの前に回避スペースを潰され、結局何発かの着弾を許してしまう。

 

着弾の衝撃に機体を揺らしつつ、絶対防御があるISは搭乗者は絶対に守った。

 

しかし、だからと言って機体が無事なわけではない。

 

何発もミサイルの着弾を許せば、それだけでシールドエネルギーを減らす。

 

ISの能力もエネルギーがあってこそだ。

 

「白騎士」は、手に持つ太刀を模した武器、雪片を握りなおし、イグニッション・ブーストを限界まで作動させ太平洋上に出る。

 

目的は、連邦機動艦隊旗艦、大型空母シルバーランスを撃沈する。

 

如何に強力な大陸弾道弾や水中発射ミサイル、長距離ミサイルがあろうとも無限ではない。

 

そして、そのあまりに強力なため味方、艦隊では使用が制限されるはず。

 

そこを付いて一気に旗艦を落し、この戦闘を終わらせる。

 

太平洋を音速の速さで飛ぶ「白騎士」は一つ失念していた。

 

ゴップ首相の言葉を。

 

 

 

 

 

 

篠ノ之束は天才だ。それゆえに他者を解せず、自らの世界に埋没する。

 

得てして天才とは常識や一般人とは違った人種だ、彼女も最初はそれで満足だった。

 

そう、あの時公園であの少年と会うまでは........。

 

天才が外界に興味をもったその出来事は、しかし興味の対象物以外に関心を払えない天才にとって外の世界は苦痛以外の何者ではなかった。

 

それでも、耐えてきたのは自分の胸の鼓動を高鳴らせる少年の笑顔の正体を知りたかったからだ。

 

故に天才は、世界を自分に合わせる事にした。

 

一般人であれば常識を持っている物であれば誰しもが、世界が自分の思い通りになる筈等無く、ただ流されるままにそれに適応していくはずであった。

 

だが、彼女は天才だ、それも飛びっきりの。

 

彼女は自分の世界を創るために道具を作った、しかし誰も見向きをしなかった。

 

だから、天才はこのままではいけないと考えた。このままでは自分もやがて唯の人として埋もれてしまうと。

 

凡人に堕落してしまうことに恐怖を覚えた天才は、ならば世界を変える為に自身を変えねばならなかった。

 

そう天才から天災に、何者も抗えぬ存在に絶対的なそう彼女は神になろうとしたのだ。

 

天災は行動を開始した、それこそ気まぐれに恵みを齎せば害も与える存在として。

 

自身の道具を世界の導き手として仕立て上げ、その舞台を整え後はただ凡人が踊るのを待つのみ。

 

結果として彼女は大いに満足した。

 

彼女の作品は世に認められ、世界は彼女の思うが侭になるはずであった。

 

......故に天災は困惑する。目の前の事態に、身近に迫った脅威に。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡り、ミサイルの波状攻撃によって洋上に誘き寄せられた「白騎士」は、すっかり彼女の大切な友である篠ノ之束のことを失念していた。

 

そして、突如として九十九里浜に現われた連邦軍の揚陸艇と、空挺師団とが政府中枢を占拠し、その魔の手を篠ノ之束にまで伸ばそうとしていた。

 

研究所に張られた幾重ものセキュリティーを突破され、既に彼女の耳にまで銃声の音が鳴り響いていた。

 

研究員らが弁解する間も無く捕縛され、警備員は連邦の特殊部隊の前にたちまちの内に無力化された。

 

何故?如何して?如何して神である自分に逆らうのか?

 

天災には判らなかった。

 

何故なら彼女は神を語った唯の人であり、人である限り人の心や意思を知ろうともしなかった彼女には、いまの状況がまったく理解不可能であった。

 

故に天才は身近に迫る危機に対して、極めて原始的な対処を取った。

 

手元にある予備のISコアを片手に、篠ノ之束は姿を晦ます。

 

だが、それは彼女特有の人をはぐらかすそれではなく、ただ脅威から逃げようとする少女のそれであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白騎士」は、あと艦隊まで十分と迫った距離で突如として停止した。

 

そして、何か慌てたように日本へと引き返していったのだ。

 

その姿に、多くの将兵は困惑するが、ただ提督一人が事前に情報を知らされていた。

 

そして、追撃は行わず洋上で待機するよう全艦に通達した。

 

「白騎士」が日本近海で姿を眩ませた後、地球連邦首相ヨハン・イブラヒム・ゴップ首相は日本がテロの脅威から開放されたこととテロ首謀者及びその協力者の情報を公開。

 

篠ノ之束を中心に行われていたIS開発グループをテログループと特定し、今回の事件を引き起こしたのは開発主任である篠ノ之束本人とされた。

 

彼女は逃走し姿を眩ませたが、以後国際的テロリストとして国際指名手配され、追われる身となった。

 

問題のISだが、大量破壊兵器の可能性があるとして、地球連邦が厳重にデータを保管、研究員及び研究所は連邦軍に接収された。

 

またゴップ首相は日本国首相と会談を行い、今後このような事態が起きないよう地球連邦軍の日本領土常駐に関する条約を締結。

 

米軍再編のおり、空き地となった旧米軍基地後に連邦軍が駐留することとなった。

 

ゴップ首相はISがテロリストに渡る危険性を指摘し、国際的な協力を今後求めていくと最後に締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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