No.368389

真・恋姫†無双 雛里√ 鳳凰一双舞い上がるまで 第三章 17話(中編)

TAPEtさん

適材適所とは、まさにこのこと。

2012-01-26 00:21:57 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3315   閲覧ユーザー数:2887

孫策SIDE

 

太史慈が袁術軍の紀霊と一騎打ちを始めて数十合、なかなか決着がつかない。

何?あいつあんなに強かったっけ?

前に見た時はあまり強そうに見えなかったのだけれど……

 

「アレもお前と同じ戦い方のようだな」

「どういうこと?」

 

冥琳の言葉の意味が分からなくて私は聞き返した。

 

「普段と戦争になってからの性格が違うんだ。アレはお前の場合よりもその差が激しいようだが…」

「ふーん、でもまぁ、私が本気になったらあんなもんじゃないけどね」

 

一度血を見た私を止められるものは何もない。

 

……いや、何もないというのは嘘になるでしょうけど……

 

「一刀」

「?」

「あいつは何をやってるかしらね」

「…さあ、しかし、一度こうなってしまったものだ。自分の軍もない奴が出る幕はない」

「……本当にそうかしらね」

 

違う、と私の勘は言う。

でも、いつもなら勘に従う私でも、この状況ばかりでは自分の勘を疑う。

どうやって?どうやってこの状況から人を助けるというの?

あなたの目標は誰一人殺さないこと。だけど、そんなこと出来ない。

戦で誰も死なないなんて不可能なのよ。

 

「孫策殿」

 

その時、太史慈の軍師、麋竺が現れた。

 

「何?」

「いつまで太史慈殿一人で戦わせるつもりですか?」

「だって一騎打ちでしょ?私が助けに行った所で彼女が喜ぶはずもないし」

「しかし、このままでは向こうが逃げる時間を作るばかりです」

「確かに、彼の言う通りだな。雪蓮。少し進軍して、向こうの出方を見よう」

「………」

 

私は無心に城壁の方を見た。

その時、私の目に見慣れた顔が映った。

 

「………良い事を思いついたわ」

「……あまりいい予感はしないな」

「冥琳、軍し少し前進させて、向こうの将たちが出てきたら戻って」

「……雪蓮、そんなこと許さないぞ」

「大丈夫よ。無理はしない。ただ……今やっておかないと心がすっきりしないわ」

「……はぁ…わかった。伝令、黄蓋殿と陸遜に前に四半里前進するように告げ!それからドラがなったら反転する!」

 

冥琳がため息をつきながらも、私の意図を察した指示を出してくれた。

 

「ありがとう、冥琳」

「…無茶はするな。お前は孫呉の王に成る身だ。いつまでもこんながむしゃらは許されない」

「解ってるわよ。さて……」

 

前の戦いの続き、やりましょうか。お嬢ちゃん。

 

 

 

 

倉SIDE

 

孫策の軍が近づいてきている。

あたしは、その兵たちと戦うことが出来ない。

孫策にも、手を出すことが出来ない。

 

一刀と約束した。奴のことを一刀に任せるって。

私の私心で今孫策と戦ったら、あたしは一刀との約束を破ることになる。そしたらもう二度と、一刀の前に立てないかもしれない。

 

だから……

 

「?」

「やっほ、久しぶりね」

「……孫策」

 

向かった先にはふと孫策一人だけがぽつんと立っていた。

 

「…他の兵たちは?」

「全部後退させたわよ。一騎打ちしている間に攻めるとか、そんな卑怯なことするわけないでしょ?」

「…………」

 

…こいつに言う暴言なんていくらでもある。

でも、あたしは約束した。

 

「…攻めてくるつもりがなかったらなんで動いたの?」

「あなたを引きつけるため、よ」

「……何のために?」

「一刀ともそうだけど、あなたともまだやり残したことがあるからね」

「……あたしはお前のことはもう構わない。あなたがどこで何をしようが、あたしは手を出さない」

「あら、以前の威勢はどこに行ったのかしら。あの賊のお頭が死んだ時なんて……」

 

 

カチッとらいたを引くと同時に出来た火種広げてを孫策に投げつけた。

 

「おっと!」

「……その汚い口でおじさまのことを言うな」

「そう、そう。そんな感じ。それでこそ相手にする気になるってものよ」

「……馬鹿らしい」

 

一刀は、何でこんなのを生かしておくんだろう。

あたしには分からない。

こんなのがいつか王になるというのなら、これからあたしたちの家族にやったようなことを繰り返すようになるのなら、今ここで殺した方が、あたしたちの理想にもっと相応しいと思う。

……一人の命でも、例え敵だとしてもその生命を大事にするという一刀の考えを知らないわけじゃない。でも、こいつは桁違い。こいつをここで生かしたら、これから何千、何十も人を殺すになる。

こいつ一人ころしてその人たちを助けられるのなら、そうするべきなんじゃないのかな。

 

「決着を着けましょう。あの時の」

「…何のために?」

「私は自分が正しかったことを証明するために、あなたは仲間たちへの復讐を果たすために」

「………」

 

 

「遙火ーーー!!」

 

後ろから付いてきた亜季ちゃんの声が聞こえてきた。

 

「遙火!大丈夫か?」

「…大丈夫。…こいつが孫策」

「……!こいつは強そうだな。やるのか?」

「…やらない」

「あなたが戦わないと、私、このまま進軍しちゃうかもよ?」

「………」

 

図々しいのは相変わらず。

 

「遙火、お前が気に食わなかったらオレがやるぜ」

「…孫策、一つだけ聞く」

「何?」

 

これだけは確かにしておきたい。

場合によっては、…例え一刀に嫌われても、ここでこいつと戦う。

 

「万が一、お前のお母さんを殺した奴が目の前に現れたら、お前はどうするの?」

「………殺すわ。迷いもなく」

「……そう」

 

それなら……良い。

 

「孫策、やっぱあたしはお前と戦わない」

「…なんですって?」

「あたしはお前が嫌い。一刀に例え嫌われるとしても、ほんとはお前はあたしの手で殺したい。でも、もっと嫌いなことは、

 

お前みたいなのと同じ人になること」

 

その時だった。

 

後ろから何かが打ち上げられる音がした。

そして、あたしと亜季ちゃんと孫策が空を見ると、白い煙を出す赤い光が空に上がっていた。

 

……信号。

『終わり』の信号。

 

「亜季ちゃん、帰るよ」

「え、行くのか?でも、それだと軍は…」

「もう要らない。あたしたちの勝ち」

「ふえ?ああ、待ってって、おい!」

「ちょっと、逃げるつもり?」

 

追って来ようとする孫策の前にライタから放った火で壁を作った。

 

「わわーっ!何だ!遙火、お前がやったのか?」

「………」

 

逃げる。

勝って逃げる。

あたしたちに出来ることが、全部したから。

 

 

 

 

太史慈SIDE

 

「くっ!袁術軍にこれほどのやり手があったとはね…っ!」

 

槍の裁きが凄い。負ける気はしないけど、だからって勝てる気もあまりしない。いつまでもこうしている所ではないのに……!

 

その時、何か音がした。

 

パーン

 

「…アハハハハー!!…うん?あ、信号」

「何だ、今のは。あなた達何を仕掛けたの」

「……太史慈って言ったわね。なかなか楽しめたよ。こんな奴が豫州に居ると先に知ってたら、もっと早く仲間にするのだったのにね」

「ふざけるな!誰があなたたちみたいな卑劣な連中の部下になると思うのよ」

「………太史慈、貴女はこの戦で勝ったら、豫州をどうするつもり?」

「何?」

「袁家がそうだったように貴女が豫州に君臨して民たちを治めるの?それとも、後は他人任せにして自分はまたどこかに旅立つ?」

「何故あなたがそのようなことを聞くの?」

「答え次第では、袁術さまの代わりに貴女をココで殺さなければならない。我らが豫州の民たちを委ねるに相応しい者なのか、確かめるためにも」

 

ふと、私はおかしな気配を感じた。

さっきまで戦争に狂っていたかのような相手の顔には、何の迷いも暗さも見当たらなかった。

刃を交わった相手だからこそ分かる。今この人は、悔しくも私よりももっと堅い志を持っている。

その志が一体何であるかは分からないけど、それを大事にする心があってこそ、あのような強さが成るというもの。

だとしたら、私は間違っていたのだろうか……

袁術がこのような将を持っている者であるなら…本当は……

 

「答えて、太史慈。貴女は豫州でこれから何をするの」

 

私は、ただ添えるだけの者だった。

清い志があるとしても、その思いを汚さないために、そこに深く足を踏み入れることを恐れていた。

豫州の民を助けようと思ってるなら、戦に勝った後でもずっとここに残って皆を守ろうと思うべきだった。

でも、私は一つの場所に束縛されるより更なる旅を夢見ていた。

 

だけど、この者が納得出来るような答えを出すには、私は自分の甘さを捨てなければならない。

 

「私は、豫州の人々が己を守る力を与えてあげたい。この乱世で誰もが苦しみ泣くこの世で、豫州は今まで偽りの幸せに取り乱されていた。でも、それではならない。私は、彼らに現実と立ち向かう力、そして、己を守れる強さをつけてあげたい。私はお主のような強者が民を守ることも大事だろうけど、人一人一人が強くなければ、結局我々だけでは限界が来る。それなら、彼ら自身が、自分たちを守れるような力を得るようにしてあげたい」

「それがお主が望むこれからの豫州の姿なの?」

「…そうだ」

「その志に、確かに聞いたわ。信じてあげましょうこれで、袁術さまと我々も迷いなく去ることが出来る」

「何?」

 

その時、城壁から銅鑼が鳴った。

 

「城門に行きなさい、太史慈。中でお前たちを待っている者たちが居るよ」

「!待て、どこに行くつもりだ!」

 

私の答えに返事をすることなく、奴は馬に乗って私たちの軍の方でも、城の方でもない方向に向かって走っていってしまった。

 

 

 

 

一刀SIDE

 

「最初から戦うつもりなんてまったくなかったわけだ」

 

僕は周泰を捕まえて来た最後の袁家の元老を他の連中を一緒に宮殿の柱に縛りながら言った。

 

「しかし、これで宜しいのでしょうか。私から言ったらなんですが、袁術さんは豫州を失うことになってしまうのでは?」

「雛里ちゃん曰く、袁術の家臣の張勲は袁術が別に権力に興味があるわけではないって言っていた。良く分からないけど、袁術が太守になるまで、だから、孫家の孫堅が死ぬ前に袁家は既に袁家は権力争いが始まっていたそうじゃないか。そして、その戦いの末で元の袁家当主は死んで、最後に傀儡として座られたのが、袁術」

「……はい、実際に河北の袁家が袁紹が当主に付いた後安定したいたに比べて、南陽の袁家は長い間の権力争いが続いて、大きく混乱していました」

「だそうだね。孫文台を殺したのも、混乱していた袁家の当主となった袁術を守るための張勲の画策だったらしい」

「………」

 

それを聞いた周泰は暗い顔をした。

結果的に言ってしまえば、僕たちのせいで蓮華は、自分の母の仇を逃してしまう形となったのだからだ。

 

「周泰さま、一刀様、孫策さまと反乱軍が城門に入って来ました!」

 

そう告げたのは、先日倉が連れてきた呂蒙だった。

 

長く話すと長くなるから後で全部終わったら話すことにする。

今は取り敢えず甘寧と周泰に呂蒙のことを蓮華に紹介するようにとだけ伝えておいた。

 

「よし、来たな。さて、周泰はここに居づらかったら行ってもいいよ。後は僕一人でやったことにするから」

「いえ、私もここに残ります。蓮華さまの代わりに、この状況と、後色々と説明しなければならないことがありますから」

「いろいろ?」

「はい、思春殿のことと、それと………蓮華さまのことも」

「……?」

 

良く判らなかったけど、なんか周泰が凄く心を決めた顔をしていたので、僕はそのまま置いておいた。

さて、

 

……困ったぞ……

 

「雛里ちゃんたちが来ない」

 

ヤバい。間に合わない。

なんか、絶対来るべき人が居るから迎えに行くって行ったから甘寧に護衛お願いしたいんだけど来ない。

 

「アハハー、困ったなー。僕一人じゃこの場まとめることなんて出来ない(棒読み)」

「一刀様、なんか凄い汗かいてるんですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。ちょっと依存症来ちゃっただけ」

「一刀様もあの蜂蜜を呑んだのですか?!」

「いや、違うのに依存症あるんだ」

 

早く帰って来てよー雛里ちゃん。

 

 

 

 

??SIDE

 

 

何かがおかしい。

袁術軍の力が以前とは比べ物にもならないぐらい雑魚だとは思っていたが、これは予想外だ。

それ以前に戦っても居ないのに城門を開いて降伏するとはどういうことだ?

まぁ、良い。これで俺の計画を狂わせた袁家の豚どもにけじめをつけることが出来る。

俺と商売しながら裏切ったこと、後悔させてやろう。

 

その後は豚どもが隠しておいた財宝探しだ。

連中の金の隠し場所なんざたかが知れている。

孫家や反乱軍の連中が探せるようなものはほんの一部だけだ。後は俺が持って逃げれば、この後豫州がどうなるかは知ったことじゃない。

 

「城内に誰も居ないって、一体どういうことなの?」

「おかしいな。街の人々も何もないように生活していたし、まるで外の状況を知らない様子だった」

 

孫家の連中がなんか言っている。

ふん、まんまと利用されて…孫堅の娘といえどまだまだ童だ。この乱世の中、孫家の栄光を取り戻すことは出来なくなるだろう。

 

「取り敢えず、御殿に入って見よう。何か分かるかもしれないわ」

 

太史慈が先に御殿内に向かって、俺もその後に付いた。

孫家の孫策も周公瑾と他の家臣たちも中に入る。

 

 

 

その時、御殿に入ろうとする俺たちの前に、突然屋根からから何者かが落ちてきた。

 

「なっ!」

「……」

 

落ちてきたその者は、直ぐ様孫策に向かって礼をした。

 

「孫策さま、お待ちしていました」

「……幼平?」

「何故お主がここに居る。明命」

「明命じゃないか。何故お主がここにおる」

 

孫家の者たちはその者を見て驚いた顔を隠さなかった。

 

「孫策、どういうことだ。彼女は…

「詳しい話は中でお話いたします。取り敢えず、中に」

「……まさか、ね」

 

孫策は何か感づいたのか、唇を噛み締めながら中に入った。

 

・・・

 

・・

 

 

「来たか、孫策」

「……一刀」

「あなたは、以前会った天の御使い」

 

御殿内に入るとある男が中央に立っていた。

その男は白い服を纏っていて、白いと髪と白い肌が合わされてとても神々しい感じを出していた。

天の御使いだと?単なる庶民どもの夢物語の勇者ではないか。

 

「ここに来るまで誰も殺さなかったことを祈るよ。でなければお前を今度こそ僕の手で殺さなければならないから」

「…殺せなかったわ。誰かさんが仕組んでくれたおかげでね」

「そう、それは良かった」

 

一刀、天の御使いと呼ばれた男は我々の前に歩いて来た。

 

「袁術はどこに居るの?」

「さあ、僕が来た時はすでに…」

「とぼけないで頂戴」

 

孫策が天の御使いに持っていた剣を差し出した。

 

「しぇ、雪蓮さま!」

「万が一にでも、あなたが袁術を逃したというのなら、私はあなたを許さないわ。私の母さまを敵、私にはアイツを殺す権利がある。あなたの理想がなんだって知らないけど袁術は私の手で…」

「殺す権利だと!!」

「っ!」

 

なっ!

 

「誰か!この世のどのような人間が!人を殺す権利など持っているとほざいてる!今まで僕に何度も命拾いした貴様の口がそんな言葉が出てくるのか!」

「っ!」

「すごい気迫…」

 

そこに居た全員、奴の殺気立つ気迫に圧倒されて言葉を失った。

 

「…僕はお前を敵と思っている娘を知っている。だけどお前はあいつのことさえも自分の戦いの良い相手ぐらいにしか思っていない。お前の頭にそれしかないのか?自分の邪魔者は全部殺して、自分に従う奴だけ残っていればそれで良いのか?」

「私は孫家を再興させたいだけよ。そのためになら、あなたが何を言おうが、私は何でも出来る」

「……お前が言うその孫家の重興は、誰かを殺さなければできないものなのか?他の者たちの血を流さなければ得られないのか?」

「………」

「それならそのような国、俺は滅んでしまって良かったと思う」

「なんですって!」

「雪蓮、落ち着け」

「雪蓮さま!」

 

天の御使いを殴りかかろうとする孫策を周公瑾と御殿の前で現れた将が止めた。

 

「袁術もまた利用されていた者の一人に過ぎない。分からないのか?」

「……」

「お前は復讐がしたいわけじゃない、孫策。ただ憎むべき相手が必要なだけだ。誰でもいいから文台の死の責任を取るべき相手が必要だった。だからお前は袁術にその責任がないことを分かっていても彼女を憎んだ」

「責任がないですって?奴が袁家を統率する者よ。それだけでも十分な責任があるわ」

「傀儡として上がった座だった。知らなかったとは言わせない」

「そう、だけどそれでも奴は袁家の当主だった」

「つまり、お前は最初から誰でも良かったわけだ。相手が袁家当主である、その理由だけでお前は袁術に本当の責任がないと分かっていても彼女を許すことが出来なかった。それでは己の目標がなくなってしまうものな」

「あなたに何が分かるのよ。あの日あなたにされた屈辱…私が背負ったもの、あなたに分かるの?」

「お前と背負ったものの重さを競いあいたくて話してるんじゃないよ。正直、僕はもうお前に復讐なんてもうどうでも良い」

「…っ!」

「お前ともう絡みたくないよ、孫策。だから、お前と会うのはこれで最後にしようと思う」

「………」

 

天の御使いは孫策にそう言ってこちらの方を見た。

 

「太史慈、また会ったな」

「…あなたは、一体何者なの?」

「僕はただの旅人だよ。…たまに天の御使いもやるよ。副業みたいな感覚で」

「悪ふざけを……本当に袁術を逃したのか?」

「…お前も袁術を殺したかったか?」

「当たり前だ。この悪行の元凶は彼女だ。袁術を討たなければ、豫州の苦しまれてきた人々の苦情を晴らすことが出来ない」

「…それなら出来る。袁術がなくてもな」

「何?」

「…全員こっちに来てくれ」

 

天の御使いはそう言いながら我々を中へと誘った。

 

そしてそこには…

 

「なっ!」

「こいつらは…袁家の元老たちじゃないか。どうしてここに」

「ひ、ひぃっ!そ、孫策!」

「…も、もうお終いだ!」

「く、来るなー!!」

 

豚ども…これが貴様らの末路か。

あの童も逃げてるというのに、貴様らは惨めになんて様だ。

その愚かさ、百回死んでも足りないほどだ。

 

「あなたが全部捕まえたのか?」

 

太史慈が聞くと、天の御使いは頭を横に振った。

 

「いや、僕はやっていない。ただできそうな人にお願いしただけだ」

「…それは誰だ?」

「孫仲謀、ここに居ない孫策の妹だ」

「蓮華が…!」

「蓮華さまが……それで明命がここに居るのか?」

「はい」

「どういうことじゃ、何故お主が蓮華さまに手紙など送られた。しかも真名で呼んでいるとは」

「ちょっと個人的に…荊州で事故があって、そこで知り合ったんだ。まぁ、詳しい話は後で本人に聞くと良い。それで、蓮華が周泰と送ってくれた私兵たちで、元老たちの屋敷に何日間潜伏していた。そして、君たちが進軍を始めて逃げようと騒いでる時に一斉に……」

「………」

 

孫家の者たちは全部周泰と呼ばれた女を見た。

 

「雪蓮さま、蓮華さまは軟禁されている間色んなことを見てきました。私もその側に居ました。蓮華さまは以前の蓮華さまとは大きく変わられました。そしてそれは、一刀様のおかげです」

「……」

 

孫家の者たちは関係なく、天の御使いは我々に話し続けた。

 

「ここに居る元老たちが、蜂蜜商人と結託して豫州中に麻薬入りの蜂蜜をばら撒いた奴らだ。そこで多くの金を横領し、自分たちの腹を肥やした。……太史慈、袁術も阿片中毒だって知っていたか」

「なっ!」

「袁術も犠牲者だった。自分たちの都合の良いようにするため、張勲や他の袁術を守る者たちの目を逸らしていたんだ」

「馬鹿な……袁術が元凶ではなかったというのか」

「袁術はただの傀儡、僕たちは袁術に頼まれて、反乱軍と孫策から袁術を守った。まぁ、最も頼まれなくても袁術を死なせるつもりはなかったしね」

「何?」

「僕は、最初はこの戦は聖戦だと思っていたよ。悪い貴族たちから自らの権利を取り戻すために民たちが立ち上がる『革命』だって。でも違った。民たちは、また力のある者たちの間の戦いに巻き込まれたに過ぎない。太史慈、あなたを含めて…」

「………」

「だから、僕はこの無駄な戦いのせいで誰一人命を落とすことがないで欲しかった。命はどんな人間のものであっても大事なものだから、こんなことに落とすために生きてきたわけじゃないから……もう誰かが死ぬのを見るのは御免だ」

 

天の御使いはそう語った。

……なんと子供らしい考えだ。

誰も死なずにこの話が完結するとでも思うか?

お前がこの戦を止めたせいで、豫州は更なる混沌の中に落ちるだろう。この戦で死んだはずの命よりも遙か多くの者たちが死ぬようになるだろう。

そしてそれは御使い、貴様のその甘ったるい考えのせいだ。

 

「甘いわ…一刀、あなたは甘い」

「……僕は甘いと思うのなら、証明してみろ、孫策。僕が出した答えが間違った結果を出すだろうと思うのなら、証明してみろ」

「良いわ、証明してあげる」

 

そう言った孫策は握った剣を持って縛られている元老たちの所へ行った。

 

「こいつらをどうするつもりかしら?こいつらの罪深いということはあなたも認めるでしょう。民たちの血と汗を吸ってきたその罪、まさしく死に値するわ」

「……」

「誰一人の血も流さないですって?なら、こいつらも殺さないって言うつもり?あなたがこいつらを生かした所で、こいつらが更生されるとでも思うの?下衆は所詮は下衆。殺す以外の方法はないのよ」

「………」

 

御使いは何も言わなかった。

それを見た孫策は自分が勝ったと思ったのか、元老のうち一人に向かって剣を差し出した。

 

「ひ、ひぃっ!た、助けてくれ!」

「無様ね。私があなたに出来る最小限の礼儀よ。一瞬で殺してあげるわ」

「ひぃーー!!!」

「雪蓮さま!」

 

孫策の剣が豚の頸を落とした…………

 

「…申し訳ありませんん、孫策さま」

「!」

 

と思っていた。

 

「恐れながらこの甘興覇、孫家のためにも、孫権の捧げると誓った我が誓いのためにも、孫策さまを止めなければなりません」

「貴女は…何者なの?」

 

どこから現れたのか分からないその女は素早く孫策の剣を止めて、袁家元老たちを守るようにその前に立ちふさがった。

 

「孫権さまに許しを得てその家臣と成って頂いた、甘寧興覇と申します。孫策さまにお初に目にかかります」

「……甘寧……聞いたことがあるわ。どこで……」

「昔、黄祖の武将の中でそんな名があったな」

 

周公瑾の言葉に、孫策は驚いた顔で目の前の将を見た。

 

「!雛里ちゃん!真理ちゃん!」

「一刀さん」

 

そして、天の御使いが叫んだ先には、袁術ぐらいの小さな娘が走ってきていた。

 

「ごめんなさい、遅れました」

「いや、ぴったりだったよ。袁術たちは」

「問題ないです。待っていた人もちゃんと連れてきました」

「良し、これで全部揃ったな」

 

揃った?

どういうことだ……?

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

「『魯家私兵団』、彼を捕縛しなさい」

 

 

 

 

 

こ、この声は、まさか…!

 

「なっ!何をする!彼は私たち反乱軍の軍師……」

「ええい、放せ!はなせーー!!!」

 

ここまで来たんだ!

ここで、ここで捕まってたまるかー!!!!

 

「もうお終いです、糜芳。あなたの身辺は、徐州州牧陶謙さまに代わって、我ら魯家で確保します」

 

そう言いながら影から姿を現したのは……

 

「…!」

「…深月……」

 

見るにも憎らしい、魯家の若い当主、魯子敬だった。

 

 

 

 

 


 
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