No.342092

(ナズー霖)君の探し物は、どこに

ティンときてがーっと書いたものです。こんなよくわからない想像を常日頃行なっております。(えー)

2011-12-01 23:36:48 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3628   閲覧ユーザー数:949

 

 

「ほらほら、ゆっくり歩いていると勿体無いじゃないか」

 どうしてこうなったのかと自問する。

 

 僕の隣には、何故か星蓮船の乗組員が居る。

「歩幅が違うんだから焦るなよ。それに時間は逃げやしない」

 例えこんな事をのたまったとしても、決して主張が通りそうな雰囲気はない。

 

 

 八百屋や雑貨店が立ち並ぶ人里の通り道、腕を引っ張られながらも事の発端はどこであったかと回想する。

 

 そう、あれは何からだったか。

 

 

 *

 

 

「……また君か」

 机に肘をついて、静かに開かれたドアの先を眺めた。

「寄り道だ、私も暇じゃないんだ」

 全く表情と台詞が合致していない、そんな状態である。

 

 ある昼下がりの眠気漂う店内。香りがあったらいいんじゃないかと朝一で誰かさんが持ち寄ったお香の所為で少々甘ったるい匂いが空気を彩っていた。

 率直に言えばあまり浮遊するような感覚は好きではない。感覚は鋭くことあるべきだ。

 誰かさんには悪いが、駆け足で去っていったあと申し訳程度に換気することにしたのだった。

 

 そんな店内。

「この気だるい匂いは君の匂いか? 趣味が悪いね」

 相変わらずの言い草である。

「じゃあどんな匂いなら合っているの言うんだい、ナズーリン?」

 気だるい匂いに合わせるように気だるく聞いてやると、店の前に立つ嫌味をいう少女――ナズーリンは、尻尾の方向を変えてふふんと鼻を鳴らした。

「やっと名前を呼んだ。こんにちは、店主」

 僕は今まで誰と話していたのだろうか? 幻想の類だろうか。

 むしろ初対面の相手の方が営業上得なような気がする。

「……全く、君はそんな顔をして。考えていることが丸わかりだ」

 存外奇妙な事をこの奇妙な少女は言ってくださる。

 思わず手から頬が落ちて、のそのそと眼鏡の位置を戻す。

「当ててもらって構わないかい?」

 もし当てられたら、今日手に入れたこの玩具でも渡して帰ってもらおう。採算度外視、常連さんに特別サービス。なんと優良な店舗であろうか。

「今日は出かけたい気分、違うかい?」

「ハズレだ」

 カウンターの引き出しから準備した玩具を表に出した。

「これを空いた棚に置いておいてくれないか」

「請け負った」

 特に困った表情もせず、ナズーリンはそれを受け取ると開いているスペースを探す作業を始める。

 

 残念ながら、僕は今日はここから動くつもりはない。出かけたい、だなんて以ての外である。

 そんな気だるさを精一杯表した僕の表情をどのようにして曲解すると正反対の回答になるのだろう?

 彼女は本当に僕の表情を見ていたのだろうか。

「完了したよ、あそこでいいだろう」

 糸につながれた玉を丁寧にも先端の串に挿してディスプレイをしていた。

 僕にとっては全てを理解尽くしたそれを抱え込む程の無駄なスペースは無かった。きっと誰かがいつか買ってくれるだろう、そんな気持ちだった。

「さて、じゃあ君は私に何をしてくれるんだい?」

 一体何を言っているのだ。

「商売は三方良しが基本だろう。店主よ、君も商売人ならとっくに知っているものだと思っていたのだけど」

 左手を腰に当ててにやにやとナズーリンは笑っていた。全く、意地の悪い笑い方だ。

「奉仕活動だ、奉仕活動。ナズーリンよ、君も働く者ならこれが勤労奉仕だということはとっくに理解していたと思ったのだがね」

 僕も負けずに厭味ったらしく笑ってみる。我ながら似合わない行動だ。

「じゃあさっきの問いの続きだ。君は今日ずっとここに座って本でも読んでいたい、と考えていた。違うかい?」

 さもわかっていたかのように話を切り替えた。

「二度目は反則だ」

 椅子の背もたれに背を預けて引き出しから本を取り出しながら僕はそう答えるが、動じている様子は見られなかった。

「そんなことは君は一度も言っていない。第一、君は『何を』当てるかを指定してないのだからね」

 くつくつとナズーリンは服を揺らしながら笑う。

 

 そういうことか。まんまと罠に嵌められた気分である。

「今度は私の番。私が今何を考えているか当ててもらおう」

 

 

 少し前に君が言った言葉をそのまま送り返すよ。

 

 

 ……

 

 

 と、いう訳である。

 ようやくたどり着いた真相に安堵する気持ちがあれば、有無をいわさず踵をひっくり返さえればよかったと後悔する気持ちもある。

 せっかく今日の交渉を終えて入荷作業も終わり、午後のゆったりした空間を気だるい匂いと共に過ごす予定だったものを、完全に破壊されてしまった。

 加えて、こんな所を一部の知り合いにでも見られたら、僕はなんと言われるか。まず数日は確実に小言を聞かされるに違いない。

 それが誰か……なんてのは正直言いたくはない。余計な苦労が増えるだけである。

「……全く、君は」

 僕は少し視線を下げてナズーリンを見る。視線が合うと、彼女は首を何度か振った。

「せっかくのいい天気も、君がそんな表情じゃ勿体ないじゃないか」

 呆れた、という表情を露骨にして嘆息すると、突然ナズーリンの腕が僕の腕にかけられた。

「どういうつもりだい?」

 不意の行動に少々たじろぎながらも、非論理的な行動に理由などあるのだろうか、と思いつつ念のため訊ねる。

 

 すると、ナズーリンは掛けている腕の力を強めて僕をたぐり寄せて、僕を仰いだ。

「店主を逃さない目的が一つ。もうひとつは――」

 

 

 

 君の笑う顔が少々見てみたい。

 

 

 

 

 ……僕は苦笑した。


 
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