No.318185

真・恋姫†無双~二人の王佐~二章 第一話 『家族の為にできること…』

syoukiさん

お待たせしました。ついに新章突入です!!


あれから数年後、子供から大人へと成長した一刀達の本当の戦いが今始まる!!

続きを表示

2011-10-14 18:24:09 投稿 / 全22ページ    総閲覧数:10069   閲覧ユーザー数:7808

<注意>

 

この作品の桂花は一刀の妹という設定の為、恋姫シリーズでみられる一刀への罵声や毒は一切言いません。というよりもむしろ逆に甘えてきます。

 

 

 

それにオリキャラが何人も出てきます。一例として桂花の母や妹、華琳の母などまだまだ沢山出す予定です。

 

 

 

そしてキャラの仕官時期が違ったり所属が違ったりするかもしれません。(そのあたりはまだ未定です。)

 

 

 

あと一刀にオリジナル設定を設けていますので、恋姫シリーズの一刀とは身体能力や言葉遣いなど多少変わっています。ですが根本的な所は一緒のつもりです。

 

 

 

それと一刀には以前の記憶がありません。なぜ無いのかはそのうち出てきますのでそれまでお楽しみに♪

 

 

ですが一度読んでみてください!それで「おもしろい」と思ってさらに読み続けていただけたらうれしいです。

 

 

 

 

 

 

<王佐の才>

 

『帝王を補佐するにふさわしい才能(武・智)又はそれを持つ者のこと言う。(辞書引用)』

 

 

 

 

 

これは、平和な世を作ろうと乱世を駆け抜けた双子の男女の物語である。

私塾での生活が終わり、みんな自分の国に帰って数年もの年月が流れた。その間一刀達は立派に成長を遂げ、一刀は一軍を預かる将となり桂花はその兄の専属軍師に、そして一刀の臣下となった風里と美雷はそれぞれの補佐として一刀と桂花を支えるまでになっていた。

 

「「ただいま戻りました母様」」

 

「おかえりなさい一刀、桂花。討伐任務ご苦労様。それで賊は?」

 

「はい、我々が到着した時、奴らは丁度近くの村を襲う為移動している途中のようでした。なのでそこを横撃し、無事村に被害を出さずに賊を討伐できました」

 

「そう、それはよかったわ……それにしてもここ最近、賊が頻繁に出没するようになってきたわね」

 

「はい、彼らも元を辿ればどこかの村や町の住人が貧困や暴政に耐えきれず流民となった者達。それが同じ境遇の流民同士徒党を組んで盗賊として暴れているようです。……一応今はまだ暴政をしている権力者を標的にしていますがいつ無差別に人を襲う匪賊になるか…」

 

「ふみゅ~それにどうやらこの騒動は我が領内だけでなくこの青州を含む近隣の州でも同様の被害が出ている模様です」

 

「それでどうやらついに牧や太守が殺害されるかその前に逃げ出して行方不明となった地域が出てきたそうです」

 

「官軍の動きは?」

 

「はい、動いてはいるようですが芳しくないようです」

 

「そう…」

 

軍師である桂花と風里が今現在手元にある情報を報告した。だがこの情報がもたらすものはそれだけではなかった。この国の現権力者とその軍にはすでに賊さえも抑え込むことができないくらい弱体化し、ただ賊に殺されるか、又は逃げ出すくらいしかできないということ、そしてそれは一つの事実を物語っていた。

 

 

すでに漢の権威は地に堕ちたということを…

 

 

「それと誰が名づけたのかわかりませんが他の地域では彼ら賊は皆黄色い布を身につけていることから総称として『黄巾党』と呼ばれているようです」

 

「『黄巾党』、ね…。報告は以上かしら?」

 

「はい。今のところ手元にある情報はこれだけです」

 

「そう、ご苦労様。それにしてもかなり厄介なことになってきたわね」

 

「…ああ。官軍が動いたようだけど今の官軍は正直言ってあまりあてにはできない。だから自分達の身は自分達で守るしかないからみんなも今以上に気を引き締めて事に望んでいってほしい」

 

『はい!!』

 

「………それじゃあ報告はこれくらいにして一刀と桂花、それにあとの二人も、みんなご苦労様。今日はもう下がって次に備えて休んでいいわよ。あっ!琴は残ってちょうだい。貴女には少し話があるから」

 

「わかりました」

 

「それでは母様、父様、失礼します。それじゃあ琴また後でね「はい」桂花、風里、美雷行くよ」

 

「「「はい」」」

「あの子達も随分と逞しくなったわねぇ♪琴もそう思うでしょ?」

 

「はい」

 

凛花と琴は部屋を出て行く一刀達の後姿を眺めながら言った。

 

「あの子達はもう僕達が守らなくても一人で歩いていけるくらい立派に成長してくれた。本当に親として誇りに思うよ」

 

「あの~、凛花様?それでお話というの一体?」

 

「そうだったわ。実はね、話というのは一刀達のことなのよ」

 

「一刀様達…ですか?」

 

「そうよ。琴、いつも三人の姉代わりとして見守ってくれてありがとうね」

 

「り、凛花様!?」

 

「いつもありがとうな琴」

 

「空也様まで…」

 

凛花と空夜は今までの感謝を込めてお礼を言った。自分達が普段忙しい時、いつも子供達の面倒を見てくれている琴への日頃の感謝を込めた言葉だった。しかし琴の表情は明るくなく逆に暗くかった。

 

「……申し訳ありません凛花様、空夜様。お二人のお気持ちは大変嬉しいのですか受け取れません」

 

「何か理由があるの琴?」

 

「それは……」

 

始めは口をつぐんだ琴だったが意を決して口を開いた。

 

「私はお二人に褒められるべき姉ではありません。むしろ姉失格なのです……」

 

「琴…」

 

「“あの時”私は一刀様達を護ることができませんでした」

 

「もしかして琴の言っている“あの時”っていうのはあの誘拐事件のことを言っているのかい?」

 

「はい、私は全てが終わったあとにのこのこ帰って来てから初めて一刀様達に起きたことを知りました……」

 

「あれは仕方が無かったのよ琴!あの事件があった時、貴女は私の命令で近くの賊退治に行っていたの!その貴女がどうにかできるはずないじゃない!」

 

「ですが私が目を離したことに変わりはありません。しかもそのせいで桂花様と蘭花様の男性嫌いはさらに酷くなって以前でしたら触らなければ普通に話せる程度でしたが、事件の後は兄であらせられる一刀様以外の男性が近くにいるだけで嫌がるようになってしまいました…」

 

実は誘拐事件の後から桂花と蘭花は一刀以外の男性が近くにいるだけで嫌悪感が出るようになってしまった。一応父親である空夜は近くで会話をすることはできるのだが、やはり触れることまではできなくなっていた。

 

「そして、そのお二人を助けに行った一刀様も…」

 

琴はその時の事を思い出したのかさっきよりも辛そうな表情になった。

 

「あの時何が起きたのかはあとで桂花達から聞いたけど、私達が到着した時にはすでに誘拐犯の盗賊一味は一刀が皆殺しにしていたわ……そしてそのあとに聞いた正気に戻った一刀の悲痛な叫び、あれは今でもはっきりと覚えているわ…」

 

「あの時一刀は初めて人を殺めた。僕達が体験した年齢よりもずっと早い時期に、ね……きっと僕達にはおよそ想像もつかないほどの感情が渦巻いていたんだろう。現にあのあと気を失って三日三晩うなされ続けていたし、目を覚ましてからも部屋から一歩も出ようとしなかったからね…」

 

凛花と空夜もその時のことを思い出して表情を暗くした。

 

「はい、いつもの笑顔など面影もなくまるで死人(しびと)のようなお顔でした…」

 

「一刀は人の命を奪ったという事実に、死という恐怖に、押し潰されそうになっていた」

 

「…でもあの子は、一刀はそれを乗り越えたわ。娘達と琴、貴女のおかげでね。本当に感謝しているのよ。ありがとう」

 

今度は凛花と空夜はお礼だけでなく頭も下げた。

 

「凛花様!?それに師匠まで!?駄目です!あ、頭をお上げください!!」

 

突然の事に驚いた琴は慌てて二人に駆け寄り頭を上げさせた。

 

「私は別に大したことはしておりません……あの時の私は一刀様達をお守りすることのできなかった責任と一刀様の笑顔を取り戻したい一心で私が戦場で初めて人を殺めた時に師匠から掛けていただいたお言葉を一刀様にお教えしただけです。それに私の言葉はきっかけに過ぎません。本当に一刀様を救ったのは私なんかの言葉ではありません。全て桂花様、蘭花様のおかげですよ」

 

「それでも貴女の言葉であの子が救われたのに変わりはないわ。それにこれは主としての言葉ではないの、ただあの子の親としての言葉なのよ。だから何度でも言うわ。ありがとう琴。貴女のおかげよ」

 

「そうだよ。誰がなんと言おうとも琴、君のおかげで一刀はもう一度剣を握れるようになったんだ。だから僕達の感謝の気持ちを受け取っておくれ」

 

「凛花様、空夜様……わかりました。お二人の感謝の気持ちしっかりと受け取らせていただきます!」

 

「そう、ならいいわ!それじゃあ貴女ももう行っていいわよ。早く一刀達の所に行ってあげなさい♪」

 

「はい、それでは失礼します」

 

こうして琴が出ていくと玉座の間には凛花と空夜の二人だけになった

 

「ふぅ~~…」

 

「お疲れ様凛花」

 

「ありがとうあなた♪」

 

「いえいえ、それにしてもあの子達ももう立派に将としての自覚が出てきたね」

 

「そうね。でも私は嬉しい反面それを苦々しくも思うわ…」

 

そういう凛花の顔には悲しさが見られた。

 

「どうしてだい?」

 

「私達が太守や武将なんてやっているからあの子達も必然的に同じ道を行こうとしているじゃない?それがとても心苦しいのよ……」

 

「………」

 

「私達は街を護るためとはいえ世が世ならただの人殺しをしているわ。そしてそれをあの子達にもさせてしまっていると思うと…」

 

悲痛な表情でそう語る凛花の瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。するとそれを見た空夜はおもむろに凛花を抱きしめた。

 

「ちょ、ちょっとあなた!?」

 

「まったく、君ってやつは……心配しなくても大丈夫だよ凛花。あの子達は自分の意思で戦うことを選んだんだ。それに一刀は以前言っていたよ。『母様と父様が護ってきたこの平和を自分も護っていきたい。そのためにもっともっと強くなりたい』ってさ。それは親としてとても誇らしいことだと思う」

 

「あなた…」

 

「それにこのままいけば一刀には君の後を継いでもらいたいんだろ?」

 

「えぇ」

 

「なら教えることはまだまだ沢山あるじゃないか!だからさ、凛花はいつも通りに接してあげればいいんだよ。親としても主としてもさ。これからこの国を引っ張っていくのはあの子達なんだからさ」

 

「…そうね。ありがとうあなた。なんだか元気が出てきたわ!」

 

「そうか。それはよかった。…ん?誰か来たみたいだね」

 

外の気配を感じ取った空夜が凛花から離れるとすぐに兵士が一人、慌てた様子で入ってきた。

 

「荀緄様!!ただいま都から使者が…」

 

「(使者?この時期に一体なんの用かしら?)わかったわ、通しなさい!」

 

「御意!」

しばらくして男が一人兵士に連れられてやってきた。

 

「はるばる都からご苦労様です。私がこの斉南国太守の荀緄です」

 

「お前が荀緄か、私は何進将軍の名代として使わされたものだ。私の言葉は全て何進将軍のものと思うように」

 

「はっ、それで今日はどういった御用で?」

 

「まずはつい先日青州の州牧が突然行方不明になったのは知っておるか?」

 

「はい、その情報はこちらも把握しております」

 

「そうか、ならば話が早い。そのことで貴公に重大な話がある」

 

「はっ!」

 

「今日来たのは他でもない。貴公を新たな“青州の州牧に任命する”という旨を伝えに来た」

 

「えっ!?…そ、それはいささか突然すぎるのではありませんか?」

 

「お前の功績が認められたのだ。不満か?」

 

「い、いえ。喜んでお受けいたします……」

 

「そうか、ではこれからも精進するのだぞ!(フッ)」

 

そう言いながら不適に笑う何進将軍の名代と名乗る男の態度に凛花と空夜は気がつかなかった…

 

「この国の為、精一杯務めさせていただきます…」

 

こうしていきなり昇進を果たすことになった凛花は一刀達にその旨を話した。一刀達は渋るかと思われたが、母の昇進を喜んでくれたのでそのあとすぐに準備をし、家族と家臣と最も近しい一部の侍女達と近衛兵を連れ、長年暮らした斉南国に別れを告げると、凛花達一行は新たな赴任地である青州の州牧が治める斉国『臨藩城』に移ったのだった。

 

 

~臨藩城に引っ越して十日目~

 

ここは城中にある執務室。そこには大量の竹間と書簡に囲まれた凛花が政務をしていた。

 

「ここは彼らに任せて……でもそうすると……」

 

 

コンコン

 

 

「失礼します母様」

 

「し、失礼します!」

 

入って来たのは追加の竹間を持ってきた桂花と風里だった。

 

「二人共ご苦労様♪……それで状況は?」

 

「はい、秘密裏に調べたところ、役人の大半が前州牧と共に私腹を肥やしていたようです」

 

「ふみゅ~、…まず私達が引き下げる以前の税の内訳ですが、前州牧の懐に四割、役人達が二割、そして残りの四割が政に使われていたようです」

 

「そう…結構な数字ね。わかったわ。なら二人はこのまま役人達から民から不当に巻き上げたお金の回収をしてちょうだい。おそらく前州牧の屋敷には何も残っていないでしょうけど一応調べるのも忘れずにね。それとこのことは相手に気付かれないよう注意しなさい。逃げられる恐れがあるから慎重に、けれども迅速にね」

 

「「御意」」

 

桂花と風里が返事をし、部屋を出て行こうとしたがその前に扉が開き一刀が勢いよく入ってきた。

 

「た、大変です母様!!」

 

「どうしたのよ一刀!?そんな血相を変えて…」

 

「はぁ、はぁ、じ、実は先ほど外から来た商人から近くを流れる川の上流から無数の兵士の死体が流れてきていると通報があったので確認したのですが……」

 

「一刀?」

 

「……父様と一緒に偵察にいった兵士のものだと、判明しました……」

 

 

カラン…

 

 

「そ、そんな…」

 

「母様!!」

 

凛花はあまりのショックで持っていた竹間を落とし、自身も崩れ落ちた。幸い倒れる寸前で一刀に支えられたので体は大事には至らなかったがその顔から血の気が失せていた。実は空夜は冀州との国境で異変が起きているとの報告を受け、部下と共に数日前に偵察に出発していたのだった。

 

「あ、ありがとう一刀…それで他には……」

 

「……今のところ流れてきたのは偵察に行った兵士だけのようです。それで流れてきた兵士の数ですが偵察に行った兵士のおよそ半分ほどの人数でした……」

 

「そう……」

 

「それで、あの、実は母様にお願いがあります。僕と桂花に父様を探しに行かせてもらえるでしょうか?」

 

「駄目よ!向こうで何が起きているのかわからない状態での出撃は認められないわ!!それに空夜だけでなくあなた達まで帰ってこなかったら私は…」

 

「でも僕達は父様達に何があったのか、無事でいるのかを確かめに行きたいんです!!それにもし動けないのなら助けに行かないと……だからお願いします母様!!僕達に行かせてください!!」

 

「私もお兄様と同じ考えです母様」

 

「一刀、それに桂花まで……………ふぅ、わかったわ。けれどこれだけは絶対に約束してちょうだい!二人共必ず無事に帰ってくるって!!」

 

そう言う凛花の目にはうっすらと涙が滲んでいた。生死不明の夫だけでなく最愛の子供達まで帰って来ないかもしれないという恐怖はあるものの一刀と桂花の決意に満ちた目を見た凛花には止められないと悟り、引き止めたい心を懸命に押し殺して許可を出したのだった。

 

「わかりました。必ず帰ってくるって約束します母様!!」

 

「私も!お兄様と一緒に帰ってくるって約束します!!」

 

「ならいいわ。なら桂花貴女はさっきの件は風里と美雷に任せて偵察隊の編成に取り掛かりなさい。そうね、今いる兵士の中で馬術の得意な者を選んで連れて行きなさい。それと風里、貴女は美雷と一緒に役人達から着服金を急いで回収してきてちょうだい!」

 

「「御意!!」」

こうして急遽一刀と桂花が父の安否を確かめに行くことになったので出発する時城門では一刀と桂花を見送るためにみんなが集まっていた。本来はいちいちこんなことはしないのだが今回は色々不確定要素が多いため、みんな心配になって来ていたのだった。

 

「一刀様、桂花様、どうかご無事で!!それと師匠のこと、どうかよろしくお願いします…」

 

「ああ、必ず連れて帰ってくるよ。琴の方も母様達のことよろしくね」

 

「お任せください!!必ずやお守りします」

 

「頼んだよ」

 

「はい!!」

 

「ふみゅ~!一刀様!私達一刀様達の分までお仕事がんばりますから安心して行ってきてくださいね!!」

 

「あははは、そうだよ♪こっちは私達がしっかり護っておくからさ♪」

 

「わかった。色々と頼んだよ」

 

「「はい♪」」

 

「一刀お兄ちゃん♪」

 

「蘭花も見送りに来てくれたんだね」

 

「ううん、私は見送りにきたんじゃないよ♪」

 

「それって一体どういう…ってまさか!?」

 

「そうだよ♪私も父様の捜索に行くんだよ一刀お兄ちゃん♪」

 

『えっ!?』

 

「蘭花!?」

 

「あ、貴女にはまだ早いわよ蘭花!!」

 

「え――、だって私も父様のこと心配だもん!それに…」

 

「それに?」

 

「桂花お姉様ばっかり一刀お兄様と一緒にいてズルイもん!!」

 

「ズルイって蘭花、僕達は遊びに行くんじゃないんだよ?」

 

「そうよ、蘭花!私とお兄様は国境で何が起きたのか、そして父様は無事なのか、それを確かめに行くのよ?」

 

「わかってるもん!だけどここ最近、一刀お兄ちゃん任務で外に出掛けていないし、帰ってきたらきたでいつも桂花お姉様やみんなとばっかり話して蘭と一緒に遊んでくれないんだもん!!」

 

「蘭花…」

 

「それに蘭だってちゃんと毎日お勉強やってるもん!だから絶対に一刀お兄ちゃんの役に立つはずだよ?」

 

「う~ん、でもなぁ~」

 

「お兄様!!しっかりしてください!!蘭花、貴女の今までやってきた量なんて私達がしてきた量に比べるとまだまだ少ないのよ?そんな未熟な貴女が戦場にいたって足手まといにしかならないってわからないの!」

 

「そんなのやってみないとわからないもん!!」

 

「やらなくてもわかるわよ」

 

「桂花お姉様のわからずや!!」

 

「なんですってぇぇ!!」

 

「まあまあ二人共落ち着いて」

 

「ですが!!」

 

「でも!!」

 

「桂花、とりあえず僕にまかせてもらえるかい?」

 

「お兄様がそうおっしゃるなら…」

 

「ありがとう…蘭花」

 

「はい…」

 

「蘭花が僕の役に立ちたいっていう気持ち、とても嬉しいよ。けどね?任務に出るということはそんな簡単なことじゃないんだ。もしかしたら命を落とすかもしれないとても、とっても危険なお仕事なんだ」

 

「一刀お兄ちゃん…」

 

「だからさ、帰ってきたら僕が少しづつ教えてあげるから今回は大人しく待っててもらえるかい?」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「本当の本当に?」

 

「約束だ!」

 

「………うん、わかった!蘭行くの止める♪」

 

「そっか!偉いぞ蘭花」

 

一刀は蘭花の頭を撫でてあげた。すると蘭花も桂花同様気持ちよさそうにとろ~んとした表情になり素直に撫でられ続けていた。

その後みんなに見送ってもらいながら出発した一刀と桂花はまずは兵士の死体が発見された川に行き、周辺を捜索しながら上流へと進んだ。途中に村があったので寄り何か情報がないか聞いて回ってはみたが結局、国境に向かう途中に一度寄ったきり来ていないということだったので早々に村を出て先を急いだ。

 

それから何も発見がないまま二日が過ぎた頃、ついに先行してる部下が倒れている自軍の兵士を発見したと報告が入った。一刀達が急行するとそこには父と出発した兵士二人が馬から降り、衰弱した状態で座り込んでいた。

 

「お前達!!」

 

「「荀鳳様!荀彧様!」」

 

「無事で何よりだよ。それで父様は?それに他の者達は一体どこにいるんだ?」

 

「わ……わかり…ません…」

 

「えっ!?わ、わからないって一体お前達に何があったんだ!」

 

一刀に問い詰められた兵士二人は泣きながら当時の状況を語りだした。

 

「三日前の…ぐすっ…ことでした。国境に向かっていた我々は…黄巾党と遭遇し、いきなり戦闘に…ぐすっ…なりました。そいつらは辛くも撃退し…ぐすっ…逃げ出した奴らも……全員倒したのですが、奴らの逃げた方向が気になって行ってみると先ほど撃退した敵の倍以上の大部隊が…どうやら我々が撃退したのは奴らの偵察部隊だったらしくそっちが本体だったようです。……なので我々は奴らの偵察を開始したのですが…」

 

「…しかし運悪く途中で見つかってしまい戦闘に…ぐすっ…ですが我々と向こうとでは数があまりにも違い、すぐに劣勢になってしまいました。…その時、状況の不利を悟った蒼燕様が『せめてこの情報だけでも本国に持ち帰れ』と私達二人に伝令の命を…うぅぅ…そして蒼燕様達は全員で突撃して囮に…ぐすっ…その隙に私達二人は逃げることができました…ぐすっ…なので蒼燕様達がその後どうなったのかは………」

 

「そうか…………ごくろうだったな…」

 

一刀は兵士達の話を聞くかぎり、父の生きている可能性が限りなくゼロに近いということがわかり一刀の心の中は悲しみでいっぱいになった。しかし桂花の兄として、そしてこの偵察部隊の隊長としてここで泣くわけには行かなかったので涙は堪え、無事役目を果たした兵士に労いの言葉を述べた。

 

「いえ…蒼燕様を…最後まで護れなくて申し訳…ぐすっ…ありませんでした…」

 

「いや、父様がそう指示したんだからお前は何も悪くないよ」

 

「ありがとう…ぐすっ…ございます……」

 

「お゛兄゛様゛~~~!!」

 

しかし桂花には堪えきれず泣きだしてしまったので一刀は泣き止むまで桂花を優しく抱きしめてあげた。その間、誰も何も言わずただ静かな時間が過ぎていった。しばらくして桂花が泣き止んで落ち着くと一刀は深呼吸をしてから本題に入った。

 

 

「すぅ~、はぁ~、よし!それで父様が託した情報というのは?」

 

「ぐすっ…はい、こちらになります」

 

まだ悲しみが残っていた一刀だったが父が彼らに託した竹間を読んだ一刀は事の重大さにそのことを一瞬忘れてしまった。なぜなら父の残した手紙には想像を超えた内容が記されていたからだった。その内容とは…

“黄巾党が真っ直ぐ青州の斉国に向かって進行中”

 

 

 

その数“およそ一万”

 

 

 

 

 

だった。

「一…万…だって!?そんな…」

 

「そんな大群一体どうやって…」

 

「わかりません…ですが奴らは今までとは違い黄色に『黄』の字の入った旗を掲げていました…」

 

「…つまり今まで闇雲に行動していた彼らを束ねる者がついに現れたということか…それにより彼らは組織的に動けるようになり、その結果ここまでの集団として増えた、と…」

 

「お兄様、これから私達はどうすれば…」

 

「悔しいけどの父様の捜索は一旦打ち切って急いで戻るよ!このままだとみんなが危ない!!」

 

一刀は読んだ手紙を懐にしまうとそう命令を出した。父が生きているなら助けたいし、すでに死んでいるならせめて亡骸だけでも持って帰りたかったが、黄巾党が一万という国の軍並みの大群ですぐそこまで迫っている為、やむなく捜索は一旦打ち切って戻る事にしたのだった。

 

「それと…実はもう一つ報告があります。今我々に迫っている…黄巾党ですが、奴らはすでに小さな村を一つ全滅させております。おそらく奴らは…すでに暴政を働く権力者だけ狙うのではなく……一般市民だろうと関係なく無差別に標的にしている模様です」

 

「なんだって!?ならこのままだとさっきの村も…」

 

その時一刀はここに来る前に立ち寄った村を思い出していた。その村は河が近くにある為水が豊富なので農作物がよく採れる村で、暴政とは無縁の豊かな村だった。だから今の話が本当ならここから城への進路上にあるその村は問答無用で戦火に巻き込まれることになる。国の治安を護る者としてそれだけは絶対に避けなけれならないことだった。

 

「助けなきゃ!!」

 

「で、ですがお兄様!敵はおよそ一万、対して我々は偵察が目的で来たので兵も装備も十分ではありません!これではたとえ策を弄したとしても勝てるかどうか…」

 

「そうだね、確かに今の戦力で戦えば勝つのは難しい…でもね。別に今戦わなくていいんだよ」

 

「お兄様?」

 

「たとえ僕達が賊に勝てないほど少人数だとしても、馬と馬車とそれを動かせるだけの兵がいれば村人を大勢運ぶことができる」

 

「お兄様?それってまさか…」

 

「あぁ、まずはあの村の人達全員を城に非難させる。戦うのはそれからでも遅くはないよ」

 

「で、ですが…」

 

「大丈夫、きっと上手くいくよ」

 

「…わかりました。ならお兄様を信じます」

 

「ありがとう。よし、それじゃあ村へ急ごうか!!」

 

「はい」

~麗羽SIDE~

 

「袁紹様!右前方に行軍中の集団が!」

 

「奴らですの?」

 

「いえ、服装から見てどうやら違うようです」

 

「まったく、一体いつになったら見つかるんですの?わたくし早く城に戻ってお風呂に入りたいですわ!!」

 

「も、申し訳ありません!それであの~、前方の集団はいかかが致しましょうか?」

 

「別に放っておいていいですわよ。ここは斉国の領地、たとえ盗賊だとしてもこの国の軍にやらせればいいんですわ!!わたくし達には関係ありませんもの!!」

 

「ですが麗羽様、もしこの国の軍ならきちんと挨拶してこちらの事情を話しておかないとあとで領土侵犯などの問題が出てしまいますので…」

 

「しょうがありませんわね…それで?旗はあるのかしら?」

 

「えぇっと…純白に荀の牙門旗が」

 

「なんですって!!なぜそれを早く言わないのです!!それは間違いなく一刀さんですわ♡おーっほっほっほっほっ!こうしてはいられませんわ!!全軍に伝令なさい!!至急行軍の速度を速めて彼に追いつきますわよ!!それと向こうにも伝令を出しなさい!!」

 

「ぎょ、御意!!」

 

先ほどの面倒くさそうな態度とはうって変わってご機嫌な麗羽の物言いに兵士は困惑しつつも麗羽の書いた竹間を受け取り下がっていった。

 

「それにしても一刀さんったらどうしてここにいるんでしょう?ここは斉国の領地ですのに…ま、そんなの別にいいですわ!!またこうして一刀さんに会えるんですもの♪おーっほっほっほっほっ!」

 

 

「あの~麗羽様ぁ、そいつ何者なんですか?」

 

「あら、文醜さんったら気になりますの?」

 

「そんなの当然っすよ~!だって麗羽様ったら城では男には興味が無いって言って普段から近づかせないじゃないですかぁ~。なのにそいつにはとてもご執心ですからどんな奴なのかなと思いまして」

 

「あの~、実は私も…」

 

「おーっほっほっほっほっ!文醜さんも顔良さんもそんなに知りたいのでした教えて差し上げますわ!!そうですわね…一言で言うなら殿方で唯一わたくしの心を射止めたお方、とてもお強く、それでいて知識が豊富、そして将来貴女達の二人目の主になる方ですわ。おーっほっほっほっほっ!」

 

「麗羽様?それって一言じゃない気が…」

 

「ちょっと文ちゃん!?そう言うことは言わない方がいいよ~!!」

 

「だまらっしゃい!!」

 

 

べしっ!!

 

 

「いたっ!!酷いですよぉ~麗羽様ぁ~!!」

 

「自業自得ですわ。そんなことより早く行きますわよ!!」

 

「は~い」

 

「はい」

「報告します!!」

 

「どうした?」

 

「我らの左後方からこちらに行軍してくる集団がいるのですが…いかが致しましょう?」

 

「旗はあるかい?」

 

「はい、黄色に袁の文字の牙門旗が見えました」

 

「黄色に袁……あっ!もしかして麗羽かな?確か今冀州の太守をやってるって言ってたから」

 

「えっ!?アイツが来てるの!!!なんでよ!!ここは青州領なのよ!!領土侵犯もいいとこじゃない!!!」

 

「どうしんだろうね?“今のところ”侵略はできないはずだから何か用事かな?とりあえずはわかった。それじゃあ…」

 

「さらに申し上げます!先ほどの後方の部隊から伝令が来てこれを」

 

そう言うと兵士は一刀に竹間を渡した。

 

「どれどれ……『こちらに戦闘の意思は無し、大事な話がある』か、なるほど、わかった。じゃあ向こうにもこれ渡してきて、それと全員に向こうの軍は友軍だって伝えておいてくれるかい?」

 

「御意!!」

 

一刀も竹間に何かを書くとそれを兵士に渡してから手綱を握りなおした。

 

「それじゃあ麗羽とはあとで合流するとして、こっちは村へと急ごうか!!」

 

「はい!!お兄様♪」

 

 

 

 

こうして村に着いた一刀達はまず村長に会い、事の経緯を話した。今巷で噂の黄巾党がこちらにきていること、そしてすでに獲物の見境がなくなっていて無差別に村を襲っていること、さらに敵の数がとても多く今戦っても全く勝ち目がないため村人だけでも逃がしたいことを正直に話した。その結果、

 

「……そうですか、わかりました。そういうことでしたら是非お願い致します」

 

一刀の村人を護りたいという想いが通じ、村長さんが協力してくれることになった。

 

「ご理解ありがとうございます。ではまず村長さんは村人全員を集めてもらえますか?きちんと村人達にも話をしないと余計な混乱を招いてします。残念ながら我々には時間があまりないので…」

 

「わかりました!それではすぐに村人を招集致しますので少々お待ちを!」

 

「お願いします」

 

こうして集まった村人にも村長に話した内容を話し、一時避難を呼びかけた。初めは渋った村人もいたが村長の『村ならまた作ることができる。しかし、人の命はそうはいかない。無くなったらおしまいじゃ!だからわしは我々を助けてくれるというこのお方に従う。それでも反対するものはおるか!!』という言葉で村人達は全員了承してくれたので急いで準備に取り掛かったのだった。

しばらくして麗羽達も一刀達のいる村に到着した。一刀に会えるとウキウキ気分で入った麗羽だったが、村の中の状況を見て唖然としてしまった。なぜなら麗羽が見たのはのどかな村と村人達ではなく、村人達が慌ただしく荷物の整理をし、最小限の荷物を兵士の馬に積んだり、馬車に子供を乗せている母親達やそれを手伝う兵士達の姿だったからだ。

 

「こ、これは一体なんの騒ぎですの!?」

 

麗羽が状況が飲み込めず、ただ立ち尽くしているとその姿を見つけた一刀が状況を説明するため近づいた。

 

「ようやく来たんだね麗羽。それとごめんね。あの場で合流できなくて…」

 

「それはいいのですがこれは一体どうしたというのです?」

 

「実はね…」

 

一刀は黄巾党の大部隊が今、自分達が治めている斉国に迫っていること、そして奴らがただの暴徒になっているため、この村を素通りせず蹂躙するであろうことまで話した。

 

「そんな!?一国の軍でもないただの賊が一万人もだなんて………そうですわ!だとしたらわたくし達の追ってきた黄巾党もその中に……!!」

 

今度は麗羽がここにいる理由を話してくれた。実は麗羽もさっきまで冀州内の黄巾党と戦っていたらしい。だがその戦いの最中、戦場から逃走した者達がいたので追ってきたのだが、そのまま国境を越えて青州に入ってしまったというだった。

 

「…なるほど、それで麗羽も追いかけてきたけど途中の森で見失ってしまったから、どうしようかと思っていたところにちょうど僕達を見つけたから協力してもらえるかと思って接触してきたんだね」

 

「そのつもりだったのですが一刀さんのほうまでそんな大変なことになっているなんて…本当に申し訳ありませんでしたわ一刀さん!!」

 

すると突然麗羽は自慢の縦ロールが垂れ下がるのもお構いなしに頭を下げた。

 

「ど、ど、どうしたんだよ麗羽!?いきなり頭なんて下げて!?!?」

 

「だってわたくしが黄巾党を逃してしまったばかりに一刀さん達のところに攻め入る人数が増えてしまったんですのよ!いかにわたくしと言えど責任を感じてしまいますわ!」

 

「わ、わかったから頭を上げて麗羽!!」

 

「ですが…」

 

「麗羽、君は今や冀州の太守だ。その君が他国の武将に頭を下げちゃ部下に示しが付かないだろう?」

 

「それはそうですが…わたくし一刀さんに嫌われたくなくて…」

 

「そうだったんだ。でも安心して。そんなことじゃ僕は麗羽のことを嫌いにならないよ(なでなで)」

 

「一刀さん/////」

 

そう言って一刀は涙目になっていた麗羽の頭を撫でてあげた。麗羽は顔を真っ赤にしながらもそれを受けていたのだがその様子を少し離れたところから見ていたお供の二人はこの光景に驚いていた。

「なぁ斗詩…」

 

「な、何?文ちゃん…」

 

「あれって本当にあたい達の知っている姫なのかなぁ?」

 

「そのはずだけど…」

 

「うちの姫ってさぁ、我が儘で、傲慢で、名門を強調する大の男嫌いじゃなかったっけ?」

 

「文ちゃん……それはさすがに言いすぎだよぉ~!」

 

「でも、間違ってないだろう?」

 

「うぅぅ、それは…」

 

「とにかくさ!姫がその嫌いなはずの男相手にあんな素直に頭を下げて、さらに頭を撫でられて顔を赤くするなんてびっくりだよなぁ~」

 

「でもさっき麗羽様、『殿方で唯一わたくしの心を射止めたお方、そして将来貴女達の二人目の主になる方』って言っていたから別にいいんじゃないかな?まぁ~そう言う私も麗羽様のあんな姿初めて見たから驚いたけどね」

 

「あ~~そういえば姫そんなこと言ってたっけ?」

 

「もぉー文ちゃんったら!」

 

「ごめんってば斗詩ぃ~~!」

閑話休題

 

「大変ですお兄様ぁぁ~!!」

 

すると一刀が麗羽を撫でていると桂花が慌てたようにこちらやってきた。

 

「どうしたんだ桂花?」

 

「あぁぁ~」

 

「ん?麗羽?」

 

「い、いえ!何でもありませんわ!!」

 

麗羽が残念な声をあげたのには理由があった。それは桂花が来た為一刀が撫でるのを止めてしまったからだった。

 

「そう?それで桂花、一体どうしたんだい?」

 

「はい、実は私たちが連れて来た兵だけでは色々と足りなくなりまして…」

 

「何だって!?」

 

「申し訳ありませんお兄様!!私がもっと多くの兵を準備していればこんなことには…」

 

「いや、桂花の所為じゃないよ。こんなことになるなんて誰も予測できなかった事だ。だから今僕達がすべきことは足りないことを悔やむ事じゃなくて、今いる兵達で村人全員を連れて行く方法を考えることだよ桂花」

 

「は、はい」

 

「それじゃあまずはもう一度村人の「おーっほっほっほっほっ!一刀さん!!それでしたらいい方法がありますわ!!」ん?麗羽?」

 

一刀が桂花とこれからどうしようか考えようとした時、ふいに麗羽が横から大笑いをしながら話に入ってきた。

 

「あら、アンタまだいたの?全く気が付かなかったわ!」

 

「キィィィーー!相変わらず生意気ですわね!わたくしはさっきからずっといましたわよ!」

 

「はいはい、それで?一体どんな方法なのかしら?一応聞いてあげるわ」

 

「おーっほっほっほっほっ!そんなに聞きたいんですの?」

 

「別に…」

 

「なぁぁぁぁぁんですってぇぇぇぇぇ!!」

 

「麗羽落ち着いて!それと桂花も麗羽を煽るようなこと言っちゃ駄目だよ?」

 

「うぅぅ…すみませんお兄様」

 

「ごめんね麗羽、それでどんな方法なんだい?」

 

「簡単な話ですわ、兵が足りないのでしたらわたくしの兵をお使いになればいいんですわ!!」

 

なんと麗羽の言う良い方法とは自分の兵も使って一緒に村人を運ぶというものだった。

 

「いいのかい?」

 

「かまいませんわ。それに、元々今近づいている黄巾党の中にはわたくしが逃がしてしまった者もいるのです。その者達が一刀さんの国の民を襲うなんて袁家の者として見過ごせませんもの!だからしっかりと協力させていただきますわ!!」

 

「ありがとう麗羽!!」

 

「っ!?」

 

「あっ!?」

 

すると一刀は麗羽の申し出に嬉しくなってしまい我を忘れて抱きついた。

 

「かかかか、一刀さん!?いいい、一体何を…/////」

 

麗羽は一刀が抱きついてくるとは夢にも思っていなかったので心の準備ができておらず、突然のことに顔を真っ赤にした。

 

「あっ!ご、ごめん!!嬉しくてつい…」

 

「そ、そうですか//////それでしたらしょうがありませんわね。おほほほほほっ!!(か、一刀さんと抱擁…うへへへ~♡♡これはもう一生の思い出ですわ!!)」

 

麗羽は必死に感情を表に出さないようにしていた。麗羽にとって一瞬とはいえ一刀に抱きしめてもらえたことは何事にも換えられないことであり、今すぐにでも笑い出したいくらいの喜びだった。しかし、名門袁家の者としての体裁とこの場に本人である一刀がいるという状況が彼女の感情の爆発をかろうじて踏みとどまったので、一刀を始め誰一人として麗羽の本心を悟られることはなかった。ただ一人を除いて…

 

「(じーーーー)」

 

「な、なんですの桂花さん!?(け、桂花さんがわたくしをじっと見てますわ!?ま、まさかわたくしの心の声が聞こえたんじゃ…)」

 

「別に、何でもないわよ…」

 

「そ、そうですの……(ほっ!どうやら聞かれていなかったようですわね)」

 

「…ただ」

 

「はい?」

 

桂花は麗羽の耳元に近づき…

 

「たかが“あの程度”で勘違いしないことね・れ・い・は(くすっ)」

 

ぼそりと呟いた。

 

「なっ!?…っ/////////////」

 

麗羽の内なる感情は常人には隠せても桂花には一目で見抜かれていたのだった。

 

「…桂花さん貴女!!」

 

「麗羽!早く兵を動かしてちょうだい!!私達には時間が無いのよ!」

 

「え?」

 

麗羽は桂花にくってかかろうとしたのだがそれよりも先に桂花が急に真面目な声でたしなめられた。

 

「早くこの村から脱出しないと黄巾の奴らが来て甚大な被害が出るのよ!アンタそれわかってるの?」

 

「え?あ、えっと…そ、そうですわね。わたくしたちは急がなくてはいけませんのよね…」

 

「そうよ、だからこんな所でぐずぐずしてる暇なんてないの!麗羽も早く自分の連れてきた兵に命令して私達の兵と一緒に村人達の移動の準備を終わらせるわよ!!」

 

「わ、わかりましたわ!!文醜さん!顔良さん!あなた達が指揮して一刀さん達の兵と協力して村人達の移動の準備をしなさい!!………………………………あれ?」

 

こうして麗羽の兵を借りることができた一刀達は無事村人全員を城まで連れていく準備が整ったのだった。桂花の巧みな話術により先ほど桂花の言った言葉を麗羽は追及できないまま…

こうして城への移動を開始した一刀達一行だったが実際の移動速度はあまり芳しくないものだった。なぜならたとえ急がなければならないとはいえ彼らはただの村人、長時間の乗馬には慣れてはいない者が大多数のため、小休止を何度も挟む必要があったからである。

 

「よし、このまま行けば黄巾党に追いつかれる前に城に辿りつけるな」

 

「そうですね」

 

「ところでさっきから気になっていたのですがなぜこんなに何度も休憩するんですの?休憩なんてとらずにさっさと行けばよろしいでしょう?」

 

「それができたら苦労しないわよ!!それに私、初めに言ったはずよ?私達の城へ最短で行けるこの道は段差や岩石が多く、山と山の間にある渓谷だからどうしても普段乗りなれていない人達には辛いものがあるし、馬車もいるからその道を作らなければいけないって。まったく、アンタ話聞いてなかったの?」

 

「おーっほっほっほっほっ!さぁ~どうでしたかしら?覚えていませんわ!」

 

「アンタって本当に腹立つわね!…つまりそう言う訳だからあまり急いで抜けられないのよ。それと一応言っておくけど他の道を使えばいいなんて案は却下よ?」

 

「なぜですの?」

 

「はぁ~、本当に何も聞いてなかったのね。いい!私達が簡単に進めるほどの広い道ならば当然向こうも簡単に来れるということなのよ?いくら私達も全員馬に乗っているとはいえこちらには村人と馬車もいるの。確かに休憩の頻度は減るかもしれないけど追いつかれたら全滅のこの状態でそんな危険を冒せるわけないでしょう?理解できたかしら?」

 

「それに僕達が通った後はちゃんと退かした岩を元に戻しているのから少しは時間稼ぎにもなるはずだしね」

 

「あら、そうだったんですの。なら最初からそう言えばいんですわ!おーっほっほっほっほっ!」

 

「はぁ~もういいわ…」

 

「はははっ、…よし休憩終わり!それじゃあ出発するよ!」

 

『おう!!』

だが、事はそうは上手くいかなかった。問題はあれから二回程休憩した後に起こった。

 

「も、申し上げます!!」

 

「どうした!」

 

「それが…その…この足場の悪さに馬車の車軸が耐え切れなくなったようで…」

 

「折れたのか?」

 

「…はい。それと馬車が倒れた拍子に怪我をした者が少々出てしまいました」

 

「なんだって!?それで怪我の具合は?」

 

「膝などを擦りむいた者や軽い打撲をした者など比較的軽度の怪我をした人ばかりのようです。馬車がゆっくり進んでいたのが幸いしたようで」

 

「ほっ、ならよかった。それじゃあ次は壊れた馬車をどうするかだな…で折れた車軸の様子はどうなんだ?直りそうかな?」

 

「はい。工作兵と村の大工に聞いたところ、少々時間は掛かるそうですがきちんと直るそうです」

 

「そうか…」

 

「お兄様、それだと…」

 

「やっぱり追いつかれる、か」

 

「はい。このままだと…」

 

桂花の予測ではたとえ休憩を挟みながらでも多少の余裕はあったので多少の足踏みならば、追いつかれる前にはなんとか城に辿り着く予定だった。しかし、馬車の修理という長時間の足踏みは想定していなかった為、このままでは追いつかれてしまう可能性が高くなってきてしまったのだった。

 

「申し訳ありませんお兄様。軍師ならばこのような事態も当然想定していなければいけないのに……」

 

「起きてしまったことを悔やんでもしょうがないよ。大事なのはこれからだ」

 

「は、い」

 

「だから…」

 

「お兄様?」

 

「僕が時間を稼ぐ」

 

「え?ど、どういう意味ですかお兄様?」

 

「一刀さん?」

 

「僕が殿として後方で黄巾党と戦って時間を稼ぐから、その隙にみんなは急いで修理を済ませて城に向けて出発してほしい」

 

「「………………」」

 

桂花は頭の中が真っ白になってしまい兄が途中から何を言っていたのか聞き取ることができなかった。ただ兄の言った一言、“黄巾党と戦って時間を稼ぐ”という言葉だけが桂花の頭の中を耳に残っていた。

~桂花SIDE~

 

「(お兄様は今なんておっしゃったの?戦う?誰が?お兄様がお一人で?奴らの前に出て時間を稼ぐ?そんな……)」

 

「はっ!?だ、駄目ですお兄様!!相手は一万を超える大部隊なんですよ!それをお兄様一人で相手にするなんて……無謀すぎます!!」

 

一瞬呆けていた桂花だったがすぐさま正気に戻り兄に詰め寄った。

 

「…でも、もうそれしかないんだ。それは桂花もわかっているんだろ?」

 

「(……確かに今一番生存率が高い策は誰かが囮となって時間を稼ぎ、その隙に皆を逃がすこと…そしてその囮に必要とされるのは時間稼ぎができる実力を持ち、なおかつ相手にとって倒す価値のある者が適任とされている…この戦力の中で一番階級が高く戦闘能力の高い者、つまり…)」

 

 

 

 

 

「お兄様しか、いません…」

 

 

 

 

 

 

そう思った瞬間、桂花の体から力が抜け、体は震え始めた。兄を失うという恐怖が桂花の体全体を支配し始めたのだ。

 

「…そうだ。僕しかいない」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら私がそんなことしないで済むもっと良い作戦を立てます!!だから考え直してくださいお兄様!!」

 

桂花は引きとめながらも必死になって考えていた。最愛の兄が行かなくて済む方法を…………………

 

「桂花、残念だけどそれを待っていられるほど時間が無いんだ。偵察に行かせた兵の報告によると黄巾党はすでに村に入っていたらしい。盗るものがないとわかれば黄巾党はすぐにでも城に向かうだろう…」

 

だが、無情にもそんな時間などは既に桂花には残されていなかった。

 

「そんな……」

 

「時は一刻を争っている」

 

「ならお兄様!私も連れていってください!!私もついていけば時間稼ぎをしたあとも生き残れる可能性が出てきますから!!だからお願いしますお兄様!!」

 

桂花は必死になって自分もついていくと訴えた。だがそれは無理なことだった。なぜなら…

 

「それは駄目だよ桂花。僕だけじゃなく桂花まで離れたら誰が兵を指揮するんだい?」

 

「それは…」

 

そう、一刀達二人が連れてきた兵士達の指揮だった。この場にいる荀緄軍の上官は一刀と桂花しかいないため、もし二人共離れてしまえばこの行軍を指揮するものがいなくなってしまうからだった。

 

「だから桂花は僕の代わりにみんなを城まで導いていってほしい」

 

「お兄様…」

 

「それでしたらせめて、わたくしの部下の文醜さんか顔良さんのどちらかを連れていってくださいな!!二人共我が軍で指折りの武将ですから必ずや一刀さんのお役に」

 

「それも駄目だよ」

 

「そんな!何故です!理由を……理由を教えてくださいな!!」

 

「麗羽の部下のあの二人には黄巾党や山賊が出た時の防衛と撃破を頼みたいんだ。たとえ僕が無事に帰ってこれたとしても桂花と麗羽、そして村人達に何かあったら僕は一生自分を許せなくなる。だから頼む麗羽!」

 

「一刀さん………わかりましたわ。桂花さんと村人はわたくしの誇りに懸けて無事にお城に連れていきますわ!!」

 

「頼んだよ麗羽」

 

「おーっほっほっほっほっ!任されましたわ!!」

 

「桂花もこのまま麗羽と隊を率いて敵が出た時の対処をしてもらえないかい?それで無事に村人達を城まで連れていったらそのあとは母様達と共に黄巾党の襲撃に備えてほしい。さっき城に使いを飛ばしたからおそらく母様達も戦闘の準備をしているはずだからね」

 

「お兄様……」

 

「頼む…」

 

「で、ですが援軍も無くただ一人で一万の黄巾党と戦えばお兄様は…」

 

(死んでしまう)

 

“死ぬ”桂花はこの言葉を口にすることはできなかった。なぜならもし言葉にしてしまえばそれが現実になってしまそうだったから…

 

「大丈夫、僕は死ぬつもりはないよ桂花」

 

すると一刀はまるで桂花の心を読んだかのように答えた。いつもなら桂花にとってこれほど嬉しいことないのだが、今回に限っては逆に不安が広がっていった。

 

「ですが敵は一万人以上もいるんですよ!!もしお兄様がいなくなったら私…」

 

桂花の目には涙が浮かんでいた。

 

「桂花……おいで」

 

「あっ////」

 

それに気付いた一刀は桂花の涙をすくうとそのまま抱きしめた。子供の頃はほぼ同じ身長であった一刀と桂花だが、年を重ねるにつれ一刀の身長は桂花よりも大きくなっていき、今では抱きしめた時に桂花の頭は丁度一刀の胸に納まる感じになっていた。

 

「…大丈夫、必ず帰ってくるよ」

 

「で、でも!!」

 

「僕が桂花に今までに一度だって嘘をついたことあるかい?」

 

桂花は頭を振った。今まで一刀は一度として桂花に嘘なんてついたことなんてなかった。

 

「だろう?だから大丈夫だよ」

 

「本当…ですか?」

 

「あぁ…」

 

「…………わかり…ました…」

 

桂花はついに返事をしてしまった。兄の決意は固く、それはもう妹の自分でさえ止めることができないと理解できてしまったから…

 

「……ありがとう桂花」

 

「でも!!絶対に………絶対に帰ってきてくださいね!!!!」

 

「…もちろんだよ」

~麗羽SIDE~

 

「僕が殿として後方で黄巾党と戦って時間を稼ぐから、その隙にみんなは急いで修理を済ませて城に向けて出発してほしい」

 

「…………」

 

麗羽は一刀の突然言葉に言葉を無くしてしまった。

 

「(一刀さんがお一人で迫り来る黄巾党を足止めする?しかも相手はわたくしが逃してしまった残党を取り込んだ黄巾党およそ一万強の大部隊………お、おほほほ、な、何かの間違いですわよね?そんな大部隊に一人で挑むなんてそ、そんなことあるわけが……)」

 

「駄目ですお兄様!!相手は一万を超える大部隊なんですよ!それをお兄様一人で相手にするなんて……無謀すぎます!!」

 

「…でも、もうそれしかない。桂花もわかっているんだろ?」

 

(!?………そう…夢や幻聴、では無いんですのね……)

 

麗羽は嘘だと信じたかったが一刀と桂花のやり取りでこれが夢や幻ではなく正真正銘、現実であると思い知らされてしまった。

 

(一刀さん……わたくしは一体どうすればいいいんですの?)

 

だが麗羽はあまりの突然のことに何も考えることができなくなっており、一刀と桂花の会話は話し半分しか頭に入っていかなかった。

 

「ならお兄様!私も連れていってください!!私もついていけば時間稼ぎをしたあとも生き残れる可能性が出てきますから!!だからお願いしますお兄様!!」

 

(えっ?連れて、いく?………そうですわ!!)

 

「それは駄目だよ桂花。僕だけじゃなく桂花まで離れたら誰が兵を指揮をするんだい?」

 

「そ、それは…」

 

「だから桂花は僕の代わりにみんなを城まで導いていってほしい」

 

「お兄様…」

 

「それでしたらせめて、わたくしの部下の文醜さんか顔良のどちらかを連れていってくださいな!!二人共我が軍で指折りの武将ですから必ずや一刀さんのお役に」

 

「それも駄目だよ」

 

「何故です!理由を……理由を教えてくださいな!!」

 

「麗羽の部下の二人には黄巾党や山賊が出た時の防衛と撃破を頼みたいんだ。たとえ僕が無事に帰ってこれたとしても桂花や麗羽、そして村人達に何かあったら僕は一生自分を許せなくなる。だから頼むよ麗羽!」

 

「一刀さん………わかりましたわ。桂花さんと村人はわたくしの誇りに懸けて無事にお城に連れていきますわ!!」

 

麗羽も桂花同様、一刀の瞳を見て説得は無理と判断した。その瞳には昔、風里を救う時とは比べられないほどの決意が決意の籠められていた。そしてそれに気付いてしまえば麗羽には一刀を止めることができなかった。

 

「頼んだよ麗羽」

 

「お、おーっほっほっほっほっ!任されましたわ!!」

 

(絶対にやり遂げてみせますわ!!………あっ!?そうですわ!まだわたくしには一刀さんにしてあげられることがありますわね!!)

 

若干の虚勢を張る麗羽だったが何かを思いついたらしく二人から離れ、自分の隊に戻って伝令係を呼んだ。

 

「至急これをお母様に持っていきなさい!事は一刻を要しますわ!」

 

「御意!!」

 

麗羽はその場で何かを書くとそれを伝令係に渡した。この伝令ができるだけ早く届くことを祈って。

 

~SIDE END~

「それじゃあ行ってくる。みんな、あとは頼んだよ」

 

「おーっほっほっほっほっ!みなさんには指一本、いえ髪の毛だって触れさせませんわ!!それよりも一刀さんこそ無事帰ってきてくださいね!」

 

「もちろんだよ。僕はこんな所で死ぬわけにはいかない。必ず帰ってくるよ」

 

「その言葉信じますわよ」

 

「それとえ~っと、文醜さんと顔良さん、だっけ?桂花と麗羽を頼んだよ」

 

「おう、まかせとけ!アニキの覚悟はしっっっかりと受け取ったからな。それとあたいのことは猪々子でいいぜ!!あたいはアニキって呼ばせてもらうからな!」

 

「わ、私も斗詩でか、構いません////」

 

「アニキって//……まぁいいか。わかった。なら僕も一刀って呼んでくれ」

 

「は、はい!私達、この真名に誓って絶対に皆さんを守り抜きます!!か、一刀さんもどうかご無事で…」

 

「ありがとう」

 

「お兄様…」

 

「そんな悲しい顔しないで桂花。僕は絶対に帰ってくるから」

 

一刀はもう一度桂花を抱きしめた。

 

「(あぁ~、この感じ♡この匂い♡いつもすっごく安心する♡………だからこそ失いたくない。絶対に、失いたくない)は、い。約束、ですもんね」

 

「ああ、約束だ」

 

「私、お兄様が戻ってくるのを待ってますから。絶対に待ってますから!!」

 

「ああ。必ず帰ってくるよ。……うん、それじゃあ行ってくるよ」

 

「はい、行って…らっしゃい…ませ……お兄様」

 

桂花を離した一刀は黒牙刀を腰に差し直し、すかさず馬に跨って牙門旗を受け取ると後方へと走り出したのだった。

 

「(もしこの世に神がいるというのなら、どうか神様、お兄様をお守りください!!)」

 

桂花は大好きな兄のために祈り続けた。兄の姿が見えなくなり、麗羽に声を掛けられるまでずっと…

~一刀SIDE~

 

ここは桂花達のいた所から後方の渓谷への入り口。この場所に陣取った一刀はこちらに向かって来ている黄巾党を見つめていた。

 

「この人数、一万以上いるな…倍、いや…もっといるな……」

 

一刀は目の前の光景に驚きつつも、冷静に相手の戦力を分析していた。どうやら報告にあった一万という人数は三つに分けた小隊のうちの一つの隊らしく、牙門旗と思われる大将旗を掲げた隊が他にも二隊いた。一つの隊が報告通り一万と仮定すると三つの隊全てを合わせると大体三万ぐらいだろう。そして奴らの目標は今一刀のいる方向にある城、母の新しく赴任した国“青州斉国郡臨藩城” 奴らはそこに向かって進撃していた。

 

「父様が勝てなかった人数の倍以上、か……」

 

一刀にとって父とは家族ということ以外に剣を教えてくれた師匠であり、憧れであり、そして目標だった。以前父は一刀に『既に僕を超えているよ』と言ってくれたことがあった。しかし正直言ってまだ自分の実力では父には及ばないと一刀は思っていた。なのにその父が勝てなかった敵が倍以上となって今目の前にいる。その事実が一刀に重くのしかかってきた。

 

「(桂花と約束、守るの難しくなっちゃったなぁ…)」

 

一刀の目の前にいるのは黄色の旗を掲げ迫りくる三万を超える大部隊“黄巾党”。奴らは数多の街を、村を、人を蹂躙してきた人を捨て、人という皮を被っただけの獣の群れ。しかし、そんな奴らに立ち向かうのは一刀ただ一人だけ。もちろん普通に考えれば万に一つとして勝てる見込みのない勝負だから逃げても構わない。だけど一刀にはどうしても引けない理由がある。

 

「でも……下がれば…」

 

一刀は後ろを振り返った。一刀の後方には桂花達がいる。もしここで下がってしまえば桂花達に危険が及ぶのが容易に想像できた。しかも話を聞くに奴らは男性は皆殺しにし、女性は奴らの餌食となっているという。もしその話が本当なら桂花や麗羽達は死ぬよりも残酷な目に合うことになる。そしてそれだけでなく、その勢いで城も落とされてしまうかもしれない。

 

「(そんなことは絶対にさせない!!!桂花には指一本だって触れさせるものか!!!!………それにみんなにも!!!!)」

 

一刀は手から血がしたたり落ちるほど拳を強く握り締めていた。一刀にとって桂花は大事な妹であり、命を賭してでも護るべきものだ。だけど昔、たった一度だけ桂花を護ることができなかったことがあった。その時一刀は自分を責め、激しく後悔し、二度とそんなことにならないよう、そしてそんな目に合わせないよう、全ての悪意からみんなを護れる男になると誓ったのだ。

 

「(父様…)」

 

握り締めた手を解くと今度は腰に差した黒牙刀を引き抜いた。

 

「(どうか僕に力を…桂花を、母様を、蘭花を、麗羽達を、国を、全てを護ることのできる力を僕に貸してください!!!)」

 

父からもらった黒牙刀も一刀の想いを感じたのか普段よりも黒く、そして光輝いている気がした。

 

「…よし、いくぞ!!!」

 

一刀は獣の群れへと馬を走らせた。

 

 

“「荀緄軍所属、第三部隊隊長、荀天若、いざ参る!!」”

 

 

大切な者達を護る為、一刀の孤独な戦いが始まった。

~次回予告~

 

一刀と桂花が迫りくる黄巾党から村人達を逃がそうとしている一方、城に残った凛花達にも危機が訪れていた。そしてこの不測の事態に凛花は…

 

次回[真・恋姫†無双~二人の王佐~]二章 第二話「黄巾の乱 斉国編」

 

 

『黄と荀の戦いに紫が乱入?』なんてね!!

 

 

 

 

それではまた次回!!

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
65
7

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択