No.291586

イワン君の憂鬱 2

マ子さん

「注意事項」
・前回の文章を読んで問題がなかった方
・何が起きても問題ないという方
・兎折でハッピーエンドにはなりません
・バーナビーが酷い男でも許せる方

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2011-09-02 23:23:52 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:396   閲覧ユーザー数:396

 

 

 

 

 

 

 

 

イワン君の憂鬱2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーナビーさんと同棲を始めたのは僕が大学を卒業した日だった。

 

社会人と学生では今までのように一緒の時間がとれなくなるからと言って話を切り出してきたのはやっぱり彼の方からだ。

その話を聞いた僕は単純に喜んだ。

僕が卒業したらきっとなんとなく距離が出来て、最悪自然消滅だろうと思っていたから。遠くの根暗な男より近くの可愛い女の子の方がいいに決まってる。

そんな風に考えていた僕の不安が伝わったのかどうかは分からないが、離れたくないと言って抱きしめてくれた彼に心底安心したのだ。

今にして思うとあの頃の彼は僕のことをよく見てくれていたのだと思う。

世間が年末で忙しそうにしている中、二人で一緒に不動産屋を回って見つけたのは2DKの古アパートの角部屋だった。

どんな所だって別に構わない。帰る場所が同じということだけで幸せだった。

 

そして卒業式の日、バーナビーさんは僕たちの新たなスタートの記念にといって細身でシンプルな指輪をプレゼントしてくれた。いつから身に付けていたのだろうか…彼の指にもお揃いのリングがはめられていた。

まさかこんなサプライズがあるとは思いもしなかった。だって普通の恋人同士ならともかく僕たちは男同士だ。

ペアリングに憧れはあったけどなんだか後ろめたかったし、どこか他人事のようにも思っていたのだ。

だから気恥かしかったけど、この関係に証ができたようで本当に嬉しかったんだ。

僕にはお互いの指に光るプラチナゴールドが何よりも輝いて見えた。

 

 

 

 

思い出の詰まったその部屋を引き払ったのは僕が社会人三年目の時だった。

もしかしたらこのときから何かがずれ始めていたのかもしれない。

 

その頃のバーナビーさんというと誰もが憧れる大企業に就職して2年目の新人社員として働いていた。僕と違って優秀な彼はそこでも自分の力を遺憾なく発揮していた。

お互い仕事にも慣れて、公私共に充実した生活を送っているそんな時だった。

彼は「もっと僕たちにふさわしい部屋に引っ越しましょう。」と言い出したのだ。

なんの前触れもなく。

 

 

もう部屋は見つけてあるのだと言われ連れてこられたのは3LDKの新築高層マンションの一室だった。

吃驚したけど僕は何よりもまず生活の心配が先に立った。こんな高そうな部屋の家賃なんて僕の安月給じゃ半分といえども払える気がしない。

しかしバーナビーさんはそんな些細なことは何でもないというように「僕が全部面倒を見ますから。」と言ったのだ。

大企業だけあって元々のお給料は僕からしたら驚くほどの額を貰っていたのは知っていた。しかしそれだけではなく業績を上げたものにはさらにプラスアルファで報酬が与えられるというのだ。また、年齢に関係なく出来る人間にはどんどん役職を与えるという方針らしい。

「自分で言うのもなんですが僕は結構使える人間らしいので。金銭的なことに関しては何も心配しないで下さい。」

なんて言って彼は冗談ぽく笑ったのだ。

しかし話はこれだけでは終わらず、僕に頼みごとがあるのだと神妙な顔をして切り出した。

「あなたには仕事をやめてもらいたいんです。僕の帰りをこの部屋で待っていて欲しいんだ…。お願いします。」

そう言って深々と頭を下げたのだ。

彼ほどではないかもしれないがこの3年間僕なりに必死に仕事を頑張ってきた。辛いだけじゃなく、楽しかったしやりがいだって感じていた。

それをバーナビーさんだって分かってくれていたはずなのに…それを知った上でこんな話をするのだから…相当本気なんだろう…

与えられてばかりの僕だから出来る限り彼の要望には応えたい。

他でもないバーナビーさんの頼み…これは僕にしかできないことだから…。

そんな想いで一杯だった。

 

気がつけば僕は退職していて、大人しくこの広い部屋でただ彼を待つ生活を始めていた。

僕からすると分不相応なこの部屋に、当初は居心地の悪さを感じたものだ。

家事以外はすることのない僕は、部屋を隅々まで掃除したり手の込んだ手料理を作ったりと彼のいない時間を埋る。

おはようから始まっておやすみまで、バーナビーさんを中心に回っている生活は苦痛ではなくとても幸せであった。

 

そんな生活が半年ほど続いた頃だろうか。

バーナビーさんは新人ながらも大きなプロジェクトの主要メンバーに選ばれたとのことで今まで以上に仕事が忙しくなってきていた。

これを成功させれば昇進間違いなしと言われていたらしく、上昇志向を持つ彼が仕事にのめり込んでいくのは自然な流れだったのだろう。

 

 

 

そうして僕は少しずつ存在を忘れられていったのだ。

 

 
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