イワン君の憂鬱 1
僕とバーナビーさんの出会いは大学の時だった。
僕が二年生のときでバーナビーさんが一年生。
日本文化の授業でたまたま隣の席に座ったのがきっかけだった。
あれは五回目の授業だっただろうか、先週休んでしまったからノートを見せて欲しいと話しかけてきたのがバーナビーさんだったのだ。
あの時の衝撃は今でも鮮明に覚えている。なんて綺麗な人なのだろう。
同性に対して目を奪われ、あんなにもドキドキしたのは初めてだった。
今思えばあの時既に恋に落ちていたのかもしれない。
次の週、律儀にも彼がこの前のノートのお礼ですと言って飲み物を持ってきたのだ。
偶然かどうかは分からないが、それは僕の好きなグリーンティーだった。
そして僕の隣にはまたもやバーナビーさんが座ることとなった。
顔見知りから友人と言う関係になったのはそのすぐ後だっただろうか。
二人一組での共同発表が課題となり、あれからも変わらず隣同士に座っていた僕たちは必然的にペアを組んだ。
一緒に調べものをしたり、発表準備をしたり…
彼は僕よりも年上だったが先輩面をすることもなく、いつも丁寧な言葉遣いで接してくれた。
口下手で引っ込み思案な僕でも彼といるととても気が楽だった。
スマートで優しくて、頼もしい。
まるで女性のような扱われ方をされているなと思ったりもしたが、大事にされているようでなぜだか嫌じゃなかった。
最終授業を迎えた後も僕たちは一緒にいた。
お互いあまり人とは深く関わらない性質で、友人は居てもその人たちとつるんでいつもいるなんてことはなかった。
だから不思議だった。お互い一緒にいても、それがとても自然なことのように感じられたから。
バーナビーさんの隣はとても心地よかった。
お互いの家を行き来するくらいには親しくなった頃だろうか、最初はただ何となくだったように思う。
会話が途切れて、見つめ合って、そして触れるだけのキスをした。
不自然なことなんてなにもなくて、最初からそうすることが当たり前だったかのような流れだった。
二度目のキスはそのすぐ後だ。離れた唇がもう一度重なる、今度は深く。
他人の舌と自分の舌をこすり合わせるなんて…などと思っていたのが嘘のようだった。
ただ気持ちがよくて、僕は初めてのキスに必死になりながらも酔っていた。
二人きりの部屋に水音を響かせお互い夢中になって口付けあう。
どのくらいそうしていただろうか。
絡まり合った舌は次第に解けてゆき、なんどか啄ばむように唇を食んだあとゆっくり顔を離し息をつく。
そしてバーナビーさんは好きだと言って僕を抱きしめたのだ。
嫌悪感なんてなくてただただ嬉しかった。
お付き合いするにあたって男同士ということに抵抗がなかったかと言うとウソになるが、相手がバーナビーさんだから…他の誰でもないバーナビーさんだからこそ、この関係を受け入れようと思ったのだ。
二人見つめ合って微笑んで…そんな日々がとても幸せだった。
この人が最初で最後の人でいい、そう思えるほどに愛していた。そう…愛していたんだ。今だってあの頃の気持ちのまま何も変わらない。
変わったことなんて何一つないのだと、そう自分に言い聞かせる。
そうじゃないと自分がどうしようもなくみじめに思えてしょうがなくなる。
どこから間違ってしまったのだろう。
どうして、どうしてどうして…答えなんて知りたくないけど、間違いを正す方法もわからない。
確かにあの頃はきちんとお互いを見つめることができていて、きちんと愛し合っていたに違いない。
いや、そう信じたいのか僕は…彼に愛されていたという事実にすがりたいだけなのかもしれない。
あぁ、本当にみじめでどうしようもない。
…きちんと愛するってなんなんだ…そう考えながら、きっと今日も帰らないであろう彼をこの広い家で待ち続けるのだ。
つづく?
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〔注意事項〕
・読む人を選びます。明るい展開ではありません。
・一応兎折ですが折→兎気味です。
・兎が立場的に悪者、酷い男であることをにおわせますが、それが許せる方。
・現代パラレルです。
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