No.210653

虚々・恋姫無双 虚廿伍(続)

TAPEtさん

この設定で一刀が大人だったら多分武双だったと思うわけですよ……戦いはスピードです。

一刀には人を殺す覚悟ができたのでしょうか。
それとも、これもまた単なる子供心が呼び寄せた愚かな考えなのでしょうか

2011-04-08 20:34:33 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2368   閲覧ユーザー数:1973

「………うん」

 

朝の光が部屋の中まで入ってきて目を覚ました。

 

「……」

「………すぅー」

 

目を開けると、横になっている一刀の顔が目の前にあった。

まるで母のお腹の中にいる子供のように、背中を丸めて眠っている姿が愛しくてたまらなかった。

もうちょっとだけ、この姿を見ていたい。

 

「……んっ」

 

あ、残念。

起きちゃうのかしら。

 

「……<<パチッ>>」

「おはよう、一刀」

「………<<バチッ>>」

 

一刀はまだ眠気に酔っていて瞼を閉じては開けてを繰り返す。

と思ったら、

 

ちゅっ

 

「なっ!」

「……♪」

 

一刀が顔を近づけて私の頬へ口付けしては、嬉しそうな顔で顔を赤らめていた。

ちょっと、いや、かなり恥ずかしい。

 

「昨日のお返しって?」

「……♪<<コクッ>>」

「よくもまぁ、こんな恥ずかしいことを平然と…」

「……<<もそっ>>」

「もっかいしてみなくてもいいから」

「……<<むっ>>」

 

二度目までされたら恥ずかしくて死んじゃいそうだったから、もう一度近づいてくる顔を手と止める。

一刀は不満そうに顔を膨らめるけど、少しはこっちのことも考えてほしいわね。

 

「………」

 

とか考えていると、一刀の顔色が少し暗くなる。

思い出しちゃったのね。

 

今日からまた、戦わなければならない。

人を殺し、自分も殺されるかも知れない戦場にまた立たなければならない。

 

「大丈夫よ、一刀」

「……<<ふるふる>>」

 

大丈夫なはずがない。

だけど、私は大丈夫じゃなければならない。

そんな顔をするあなたを見ないためにも、

笑っているあなたの姿、満面に微笑んでいるあなたを見るため。

この大陸を必ずに平和にして見せる。

あなたを幸せにしてあげる。

 

「……」『あのね、華琳お姉ちゃん、ボク、お願いしたいことがあるの』

「何かしら」

「……」『……ボク、』

 

 

 

 

 

「曹操殿よ、あの坊主は誰じゃ」

 

朝議、一刀を連れてきたら韓遂がそう聞いてきた。

 

「彼は以前管路が言っていた『天の御使い』です」

「あの幼い坊主が……」

 

韓遂は驚いたように一刀を見たけど、一刀は顔を逸らして彼を見つめない。

少し怖い顔をしているし、元は人見知りだから仕方ないでしょうね。

 

「しかし、どうして一刀を連れてきたん?……孟ちゃんまさか、また戦いに一刀連れてくるつもりなん?」

「そのまさかよ。何も、これは彼自身が望んでいることよ」

「私は反対です。危険です。以前のことも考えると、一刀殿は戦場には連れてこない方が良いとされますが…」

 

稟はそう反対するけど、孫呉の戦いでの一刀の行動は私が原因だった。

それに、今回の一刀は違う。

 

「今回は、一刀に私の護衛として戦場で一緒に戦ってもらおうと思っているわ」

「「「「「!!!!」」」」」

 

そこにいるうちの子たち全員の顔が変わる。

 

「いや、大将ちょっと待ちや!いくら一刀ちゃんに都合のいい能力があるからってそれは…!」

「そうなの。いくらなんでも危ないの!」

「孟ちゃんがなに考えてるのかしらへんけど、ウチは絶対反対やで。増してやこんかいの戦はいつものものとは状況も敵の強さも違う。下手すると孟ちゃんも一刀も危ない!」

 

沙和たちと霞は即座で反対。

春蘭は何か言おうとしているようだったけど、直ぐに口を閉じた。

 

「……春蘭さん、あなたはなんとも思わないのですか?」

 

黙っていた紗江が春蘭を突いて見たけど、

 

「華琳さま、それは…北郷本人の意志なのですか?」

「…ええ」

「…華琳さま、私は華琳さまとこの魏を守るために生きています。ですが、北郷も華琳さまと同じく、この魏に欠かせない大事な存在。華琳さまと北郷のどっちかでも失ったりすれば、私は生きて秋蘭の顔を見ることができません」

「………」

「それでも、北郷を戦場に立たせるつもりですか?」

 

春蘭がこんな脅迫のような言い方をするのは初めて見たわ。

 

「……」

 

スッ

 

「!」

『皆、ボクの心配してくれてありがとう』

 

私の側から降りて皆が立っている真ん中の位置に立った一刀はいつもより大きい文字で自分の言葉を書いた。

 

『でも、ボクのことは大丈夫。皆も知ってるように、ボクが誰かに捕まるとか殺されるとか、そんなことありえない。ここに居る皆が全力でボクを殺そうとしようとしたって、ボクがその気になったら指一本も触れさせないから』

「そんなことは分かっとる!でもそんな話じゃ……」

『皆が死ぬ覚悟で戦っているのに、ボクだけ安全な場所で見守っていられないの。ボクも戦うよ。守ってあげる、皆のこと、華琳お姉ちゃんだけじゃない、皆も…ボクが守ってあげる』

「………」

 

皆が一刀の前で口を閉じるも、実は誰一人納得はしていなかった。

 

子供だ。

今まで誰一人殺すどころか傷つかせることすらしてみたこともない純粋な一刀が、この厳しい戦いになって戦おうとする理由がわからなかった。

 

「小僧よ」

 

その時、魏の人ではない韓遂が口を開ける。

 

「この戦いはお主のような子供が正気で生きていられるところじゃない。お主に何かの武芸があるだろうとも思えん。素直に周りの言うことを聞いたらどうだ?」

「……」『おじさんは、ボクに勝てる?』

「うむ?」

『もし、おじさんがボクを捕まえることができたら、ボク戦いに出るのは諦める。代わりにボクがおじさんに勝つとこの戦いに出る』

「北郷!」

「…いいだろう」

「韓遂さん、子供の言葉です。あなたが乗る理由なんて…」

 

一刀の条件に乗ろうとする韓遂に口を開ける紗江だったが、

 

「仲達、お主もあの小僧が戦いに出ることは望まないはずだ。なら、ここは部外者の私に任せろ」

「………っ」

「……」

 

韓遂は一刀の前に立つ。

 

背は一目で見ても倍の差はあって、一刀が頭をできるだけ上にしてやっと韓遂の頭が目に映るほどだった。

韓遂は馬騰と共に西涼を駆け抜いた英雄の一人だった。

春蘭とで、彼の相手は本気じゃなければなかなかできるものじゃない。

そんな彼と一刀の戦いは、外見で見ればまるでダヴィデとゴリアテのようなもの。

 

「夏侯惇、合図と頼もう」

「………韓遂、絶対に勝て」

「うむ。お主らと違って私はこの小僧に手加減してあげる理由はおらぬ」

 

でも、だからこそ……

 

「では……始めっ」

 

 

「たはっ!」

「……」

 

スッ

 

ゴリアテはダヴィデには勝てないものだ。

 

「っっ!!」

 

韓遂は先見た一刀の瞬間移動の能力を見て、一刀が始まる瞬間自分の後をとるだろうと既に予測していた。

そう思った韓遂は一刀が自分の視界から消えた瞬間、直ぐに後へ曲がった。そしてその予測に間違いはなかった。

ただ間違いがあるとしたら、

 

一刀が見える場所がそこだけではなかったということだ。

 

「なっ!」

「………」

 

何人も居た。

 

後にも、その上にも、宙を浮いている一刀まで、

何人の一刀がいるように見えたのだ。

 

そして、その姿に韓遂が驚いているところ、

 

シャキッ

 

「っ!」

「………」

 

一刀は韓遂の後――一刀が元いた場所――に立っていて、いつの間に構えている一刀の弓の矢先は韓遂の首筋を狙っていた。

 

「ま……負けだ」

「………<<にこり>>」

 

ダヴィデは戦場にて無敵だった。

彼に神の加護があるかぎりは…

 

 

 

 

「華琳さま」

 

朝議の後、一刀に沙和たちと一緒に出立の準備を手伝うようにお願いしておいて一人で自分の部屋の中で今後のことを考えながら机の前に座っていたら、ふと紗江が部屋の扉を開けてきた。

 

「何故、一刀君の我儘を聞いてあげたのですか?」

「……彼を危険に晒すようなことはしないわ。ただ、あの子の気が済むようにさせたかっただけよ」

「……華琳さま」

「っ!」

 

紗江が、私に向かって殺気を出して来ている…!

 

「少女は、華琳さまをお助けしにここに居ます。ですが、これは少女の意志でなく、左慈さん、あの方の意志です。もし一刀君に何か良くないことが起きれば、それであの方の気が変わったりしたら少女は華琳さまのことを守られなくなってしまいます。ですから……」

「紗江、あなたが言いたいことは分かったわ。だけど、一刀は大丈夫よ。左慈もそれぐらいは分かっているはず」

「ですが…」

「大丈夫よ、紗江。だから……私をそんなふうに見ないで……あなたにこれ以上嫌われたくないの…」

「!」

 

スサッ

 

一瞬で紗江の毒気が消え去った。

 

「も、もうしわけありません……別に華琳さまを責めるつもりでしたわけでは…………少女はただ……ただ…」

 

凄く申し訳なさそうにもじもじしている紗江の姿を見て、一瞬久しぶりにアノ気になっちゃったりもしたけど、今はそれどころではないわね。

 

「なんだかんだ言っても、紗江は紗江ね。……私はそういう紗江も好きよ」

「……恐縮です」

「…!」

 

頭を下げる紗江の後、部屋の閉ざされてなかった扉の前に一刀が立っていた。

 

「………」

「一刀、どうしたの?」

「……<<ふるふる>><<かぁ>>」

 

何で顔を赤くして……

 

『お邪魔しました』

「「違うわよ!(違います!)」」

 

・・・

 

・・

 

 

「……」『そっか…きっと大丈夫だよ、さっちゃんもボクが自分で決めたことだって分かってるのだから…そんな風に華琳お姉ちゃん脅かしたりしない』

「それなら宜しいのですが…いえ、正直それでも、少女も他の皆さんもあまり宜しくはないですが」

 

確かに、なんだかんだ言っても一刀を戦場に立たせるのは初めてだった。

一刀は今まではずっと守られる側から守る側に立つといっているのだから…そうする能力があるからと言って、危なくないとも言えないし、必ずできるものだとも言えない。

 

『皆ボクがあのおじさんに勝ったの見たでしょう。季衣お姉ちゃんや流琉お姉ちゃんも、ボクとそんなに離れてないのに戦っているじゃない』 

「別に、一刀君の実力…といいますが、特した能力を持っていることに心配をしているわけではありません……言葉のあやですが、老婆心と言った方がいいでしょうか…どうしても心配になるのは仕方がないことなんです。それに、季衣ちゃんや流琉ちゃんは以前からずっと戦ってきた子たちですから……」

「……」『ボクが我儘を言うのが、皆が戦うのに邪魔になるのかな』

「皆さんが心配はなさるでしょう。そして、一刀君を近くでなくても守るために、もう少し無理なことをなさる可能性も十分ありえます」

「………」

 

それを聞くと一刀は少し唸ってくる。

 

「一刀君、やはり考えなおしてはもらえないのですか?」

「………」『御免なさい』

 

一刀はそう書いてとても悲しそうな顔をした。

 

「……<<ぎゅー>>」

「ぅ?」

 

そんな顔をする一刀を、何も言わずに後から抱きついて膝の上に座らせる。

 

「…………うーん」

「……」

「…まるで母と息子みたいですね」

「「!!」」

 

紗江の言葉に思わず赤くした。

 

「紗江…」

「ごめんなさい。でも、お側から見ると本当にそんな感じですから。仲のいい親子だなって……」

「………」

 

視線を下に向ける。

 

「……<<にやにや>>」

 

何か一刀は凄く照れ臭そうに、後ちょっとらしくなく気持ち悪くにやにやしていた。

 

「一刀?」

「<<ビシッ>>」

 

あ、戻った。

取り乱されて逃げようとするけど離さないわよ。

 

前に、一刀に会って反年ぐらい過ぎた頃にそんなことがあった。

凪に一刀が私の息子だと誤解されて、その衝撃で私はしばらく悩みの他何もできなかった。

結局、一刀との関係がいつもと変わることはなかったけれど、あの夢の中で言われたことがまだ胸に残る。

 

-―あなたは一刀ちゃんのお母さんにはなれない。

 

そう。私は一刀の母親ではない。

私にできることはただ、傷ついたこの子と一緒に乱世を突き進むだけだった。

互いの傷を慰めあい、今になっては一刀は居ない天下なんて何の意味も持たないとも思っている。

だけど、

 

私が乱世をこのまま鎮めてしまえば、一刀は死ぬ。

それが天の御使いとしての一刀の運命。

 

「あ」

 

ふと気づけば、私は一刀を強く抱きしめていた。

だけど一刀は、少し息苦しそうなかおをするも、抱きしめている私の手に自分の手を重ねていた。

 

「……<<にこり>>」

 

敢えて言わないでいた。

一刀に、この戦いが終わったらどうのこうのって…言ってなかった。

ただ、あなたが幸せになってほしいって、全部うまくいくってしかいっていなかった。

それは一刀も同じ。

戦いが終わったら皆が幸せになれる。

でも、その意外のことはなにも言ってなかった。

ただ皆が幸せになる……

その「皆」に自分のことは入っているのだろうか。

 

もしかしたら、一刀ももう、分かっているのかも知れない。

 

だけど、私も一刀も、敢えて言わない。

自らの手で自分たちの最後に向かって馬を走らせているくせに、

その最後を迎える準備も、認める準備もできないまま、

ただ最後の時に向かって走っている。

 

「……<<ぎゅー>>」

「……っ」

 

そこで更に一刀を抱きつくと、流石に一刀も少し苦しかったのか唸ってくる。

だけど離さない。このまま離れたくなかった。

あなたが本当に居なくなってしまったら……私は

 

「あの、ですから人の居るところでそんな激しい愛情表現は謹んでもいただけるでしょうか」

「なっ!」

「……<<かぁ>>」

 

紗江がいるのをすっかり忘れてたわ!

 

 

 

 

西涼の更に西、五胡

 

 

――どうやら蜀の連中が放った傀儡らを全て追い払ったようですね

 

――あら、思ったのより随分と早かったのですね…うふふっ

 

――笑っている場合ではありません。状況は我々にとって悪くなりつつあります。

 

――いいえ、そうでもありませんわ。全てはわたくしめの策ほどに……

 

――……あなたの考えはいつも読みきれませんね。

 

――ふふふっ、さて、蜀と呉の連中がここまで来るにはまだもう少し時間がありますわ。その前に、もう少しさっちゃんを虐めてみましょうか。

 

スーッ

 

あなたはそこで傀儡の増援を続けていなさい

 

――やれやれ、相変わらず人使いの悪い女です。……増!

 

・・・

 

・・

 

 

泰山

 

スーッ

 

「さーじー」

 

――………

 

「ふふっ、相変わらず無駄なことに励んでいますこと」

 

――ここには何のようですか?

 

「別に……愛おしいあなたに会いに来ただけですわ」

 

――………

 

「冷たい人。わたくしめはあなたを得るためにここまで頑張っていると言いますのに……」

 

――っ

 

 

 

 

「左慈から離れぬか!」

 

 

 

 

 

サシュッ!

 

ガチッ!

 

「っ……爺は黙っていてもらえます?」

「ほざけ、管路!貴様がどこだとここに足を踏み入れておる!」

「わたくしめの耳がおかしいのでしょうか。ここにいてはならないのはあなた方の方ではなくて?自らの管理者の規則を破った裏切り者といつか外史を崩そうとした重罪人。

そんな輩がこの場所に足を踏み入れても良いをお思いで?」

 

ガッ!

 

「管理者の未来と外史の未来を踏みにじったのは貴様じゃ!」

「わたくしめは!外史をあるべき姿にあるようにしようとしたまでです。その姿から外れる外史がつくづく現れては、一つの実から始まった腐敗はやがて外史という木全てを殺してしまいかねません」

「黙れ!貴様らと話し合うなど時間の無駄じゃ!貴様らが正しいと示したいのであれば、少なくとも管理者の間のルールは守ってもらうぞ!天の御使いに直接手を出したりすることは絶対に許さん!」

「どう致しましょう。もし、わたくしめがまた北郷一刀を弄ったら……老人のあなたがそれとも

 

【この粉々になった物体】がかよわい御使い殿を助けにでも来てくださるのですか??」

 

「かんろおおおお!!!!」

 

スーッ!

 

 

「うぅぅ……む!」

 

 

――……みなみ、落ち着いてください

 

「これが落ち着いておられるか!!」

 

がっ!

 

がががーっ!!

 

――……これ以上この神社を壊してしまわれば、一刀君のための儀式が進めません。だからいつも牛乳とカルシウムの栄養剤を飲んでくださいと……

 

「左慈、左慈よ。儂には分からぬ!貴様が、いや、貴様らがそんな不格好になってまであの童に関わるわけが分からぬ!今まで多くの天の御使いがあったというのに、たった一人の子供の手によって一体どれだけの管理者たちが犠牲にならねばなるまい!」

 

――……それは違います。これは、一刀ちゃんのせいではありません。これは、昔、初めてこの外史の存在を知った我々管理者がその勢力権を持って争っていたあの時からの続き。起こるべきことが起こったまで。一刀ちゃんはその戦いに運悪くひっかかってしまっただけのことです。

 

「………」

 

――みなみ、もし管路が一刀ちゃんに近づくことがあっても、決してここから出てはいけません。

 

「あの曹操だけであの小僧が守れると思っておるのか。管路あの狐女の手から?」

 

――…………決して、ここから一歩も出られてはいけません。いいですね。

 

くぐぐーーーぅ

 

「!うぅぅむ………」

 

――後少し……少しで出来ます。華琳さま、あなたを信じてます。僕の期待に答えてください。そうなれば……

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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