No.206338

漆黒の守護者~親愛なる妹へ6

ソウルさん

呉と明星のひとときの休息。

2011-03-14 15:29:04 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2279   閲覧ユーザー数:2008

 建業は民たちの歓声に包まれお祭り騒ぎとなっていた。孫呉の宿願に近づいたことに呉の将兵たちも自然と笑顔がこぼれ、涙を流す者もいた。その姿を遠くから眺めていた明星軍は再会と新たな仲間の加入を祝って小さな宴を開いていた。

 

「張勲と申します。翡翠様のご厚意により本日から美羽様と共に明星に身を寄せることになりました」

 

一皮むけた張勲の姿に明星の誰もが目を疑う。袁術一筋だった姿しか知らないから当然だった。

 

「妾は袁術じゃ。苦しゅうないぞ」

 

相変わらずの袁術も健在している。

 

「美羽様、私たちは敗戦の将と国主。これから仲間となる皆さんにその態度では反感を買ってしまいますよ」

 

張勲が袁術を諌める姿など誰が創造できただろうか。一皮どころか張勲は優秀な将に恥じない領域まで達していた。

 

「しかしのう……七乃」

 

これまで命ずる側にいた袁術には難しい切り替えだった。しかしそれは七乃も同じ立場でもある。

 

「態度は今後に変えていけばいいさ。ただその為に張勲と袁術には別々に働いてもらう」

 

「七乃とお呼びください。……しかし、美羽様を一人にするのは心配なのですが……」

 

「袁術も七乃もそれぞれが自覚を持つ必要がある。親離れと子離れのようなものだ。それに優秀な教育係を用意しているから安心しろ」

 

「……翡翠様がおっしゃるのであれば間違いないのでしょう」

 

主に袁術が七乃離れをしなければいつまでも無能な子供で事を終えてしまう。彼女はまだ幼いだけに飲み込みは早いはず。もしかすれば化ける可能性だって秘めている。

 

「そのことは後々考えるとして今は楽しもう、この瞬間をさ」

 

並べられた数々の料理と酒を囲み俺たちは宴を始めた。

 

 雪蓮が王として君臨してから一週間がたった。呉の面々の好意もあり明星は建業でひと時の休息をしていた。当初は居城へ帰還する手筈だったが、自国はまだ諸国にその存在を掴めさせていない。つまりは存在しない国である。

 

「翡翠様、呉からの使者が参られいますがいかがいたします?」

 

「あがってもらってくれ」

 

侍女に使者の案内をお願いした。明星が国を保持していることを呉には説明していないため、雪蓮は明星を呉に組み込もうと算段しているらしい。今回の使者もおそらくそれ関連だろう。ただ作戦の案を提示したのは冥琳だろうが。

 

「お初お目にかかります。魯粛と申します」

 

背中まで届く銀色の髪に純白のチャイナドレスを纏った女性が現れた。黄蓋と共に孫堅を支えていた古参将軍である。軍略を特に得意とする冥琳と政略を特に得意とする魯粛、この二人をなくして呉は語れないだろう。

 

「陰です。此度の面会も以前と同様の案件ですか?」

 

「当初はそのつもりでしたが止めようと思います」

 

魯粛は静かに笑みを浮かべて返事をする。

 

「その理由は?」

 

「無駄だと気付いたからです。その目にこの覇気、誰かの配下につく事で収まる器ではない」

 

「光栄です」

 

魯粛はもしかすれば自国の存在を掴んでいるかもしれないと悟った。すべてを見透かされた気分が心中に漂う。重たい空気が部屋に漂うが、侍女が茶菓子を持ってきたことで拭いさった。

 互いに熱いお茶をすすって一息つき視線を交えた。

 

「これから時代は大きな波に遭遇して歴史を紡いでいくでしょう。そこに陰殿は介入なされるのか?」

 

つまりは明星は孫呉にとって敵となるかを確認したい魯粛は遠回しながらも鋭利に質問してきた。

 

「…………俺にも夢がありますから」

 

その夢が悪でも正義でも俺には叶えたい夢を秘めている。

 

「明星は呉の敵ですか?」

 

「時と場合によっては、と伝えておきます。できることであれば話し合いで済ませたいところではありますが」

 

苦笑いを浮かべて返答した。魯粛は納得した表情を浮かべて頷き、再びお茶を口に含んだ。駆け引きとも談笑とも違う会話。相手が政略の天才となればその緊張感はかなりのものだった。

 

 

 

 

 

 

 


 
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