No.204015

真・恋姫無双 黒天編 第2章 「緊急三国会議」後編

sulfaさん

どうもです。第2章 後編です

あらすじ
一刀が行方不明になったため、緊急の三国会議が開かれる。
様々な情報が交換され、議論される中、明命が顔を青くして王座の間に駆け込んできた

2011-02-27 12:10:10 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:4591   閲覧ユーザー数:3648

真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第2章「緊急三国会議」  後編 最悪の想定

 

 

 

「失礼します!!」

 

真桜が何か話そうとしたその時、明命が勢いよく扉を開け放つ。

 

「今帰ったのか。ご苦労だった。――――どうしたのだ」

 

冥琳が明命に労いの言葉をかけると、いつもと雰囲気が違うように感じる

 

初めは、明命も皆と同様、一刀がいなくなったのを心配しているのかと思った。

 

しかし、それにしても他の者よりも悲壮な顔をしている。

 

言葉通り、顔面蒼白なのだ。

 

「実は・・・」

 

といいながら、明命は蓮華の傍まで行き、震える手であるものを蓮華に渡す。

 

「こ、これは・・・」

 

明命が渡したもの、それは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀がいつも着ていた白いフランチェスカの制服だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「―――――――ッ!」」」」」

 

一同は驚きのあまり、声もでない。

 

その制服は天の御遣いである北郷一刀を象徴するものといってもいい

 

それが今、皆の目の前にある

 

それが意味するものは・・・

 

 

 

「どこで見つけたの!」

 

「はい、―――城郊外の森の中にある小川で発見しました」

 

 

ダンッ

 

 

明命のその報告を聞くと愛紗、春蘭がイスを勢いよく倒して立ち上がり、扉に駆けて行く

 

「待ちなさい!!」

 

華琳は戦場で発するような強烈な覇気を飛ばしながらその二人の動きを止める。

 

二人は華琳の覇気に気圧(けお)され、動きを止めざるをえない

 

「どうしてですか!?華琳様!!北郷がその近くにいるかもしれないのですよ!!!」

 

「そのとおりだ!こうしてる間にもご主人様は・・・」

 

春蘭は華琳に対して、こんなに語尾を強めたことはなかっただろう

 

愛紗にいたっては、もう冷静さを失っている。

 

「少しは落ち着きなさい!」

 

華琳は二人にむかって一喝するも、愛紗は食ってかかる。

 

「どうしてそんな冷静でいられるのですか!?私はもう限界です!!失礼します!」

 

愛紗は振り返って、王座の間から出て行こうとすると

 

「愛紗ちゃん!!」

 

「ッ!?」

 

いつも温厚で滅多に大声を出さない桃香が大声をあげる

 

その声に愛紗もびっくりして振り返り、桃香のほうを見る。

 

「桃香様まで!心配ではないのですか!?」

 

「心配だよ!すごく心配だよ!!私だってすぐにご主人様を捜しにいきたいよ!!!」

 

桃香の目に涙がたまっていき、いっぱいになった涙は頬を伝って落ちていく。

 

その様子を愛紗はただ眺めることしかできない

 

「私だけじゃないよ!華琳さんだって、蓮華さんだって・・・、ここにいるみんながご主人様のことを心配してるんだよ!!」

 

「桃香様・・・」

 

自分の主の涙を見て、愛紗は少し冷静さを取り戻す。

 

心配なのは自分だけじゃない。

 

そして、同時に感情的なってしまった自分を恥じる。

 

「そうですね・・・。少し混乱してしまったようですね。申し訳ありません」

 

「ううん。わたしも飛び出していきたい気持ちは分かるから」

 

桃香に頭を下げた後、華琳の方に向きなおして

 

「華琳殿、申し訳なかった」

 

と深々と頭を下げる。

 

「もう結構よ。春蘭、あなたも戻りなさい」

 

「はい・・・」

 

しぶしぶ了解した春蘭と共に二人はイスを元の位置に戻して座りなおした。

 

 

 

 

 

「さて、明命。疲れているでしょうけど、あなたの行動を一通り報告してくれないかしら」

 

「はい」

 

蓮華が報告を促すと明命は背筋をピンとはって、一刀捜索の報告をする。

 

「町の捜索は思春殿たちに任せて、私は町の外に一刀様を捜しに行きました。初めは城壁に沿って捜したのですが見つけられませんでした。」

 

明命は淀みなく報告していく。

 

他の者はその報告を真剣な面持ちで聞き入っている。

 

「なので、次は森の中を捜しに行きました。でも見つからなくて、もうそろそろ城門前に集合する時間かなって思ったので引き返そうと思ったのですが、そこで小川を見つけたんです。最後にここを捜そうと思って捜していたら、川岸の所に一刀様の服が無造作に置いてあったのを発見しました」

 

明命が一刀の服を見つけたのは、城門前集合時間、おそらく夕暮れ時だろう。

 

「それで、その後どうしたの?」

 

蓮華がその続きを訊ねると

 

「あの・・・、驚いてしまって・・・、一刀様がすごく心配になったんです。なので、がむしゃらに辺りを探し回ったんです。そしたら、気づいたら夜になっちゃってて・・・」

 

「なるほど・・・、それでこんなに遅くなっちゃったのね」

 

「はい・・・、結局、一刀様は見つけることができませんでした」

 

明命は最後にシュンとして悲しそうに報告を終える。

 

明命の報告を聞きながら冥琳は蓮華から制服を受け取った服を調べていく。

 

「ふむ・・・、この服、間違いなく北郷の物だな。私たちでは読めない天の文字がある…。明命、これを発見したときにはもう左袖は破けていたのか?」

 

制服を詳しく調べてみると、ところどころに汚れがついている。

 

そして、左袖が肩と肘の間あたりからなくなっていた。

 

「この破れ方・・・、ただちぎられたわけではなさそうね。なんか焼けた後みたいな・・・」

 

左袖の破れ目をみると、真っ黒に黒ずんでいた。

 

刃物で切られてのならもう少し破れ目がきれいでもいい。

 

破られたわけでもなさそうだ。

 

まず、普通に切られたり、破かれたりしただけなら、破れ目が黒くなる理由が分からない

 

しかし、この服を見て、一刀がただ事ではないことに巻き込まれているというのは分かった。

 

「ご主人様・・・」

 

一刀がいなくなっただけでなく、何か事件に巻き込まれたのかもしれない。

 

それはあの汚れた制服が物語っている。

 

そう思うだけで、胸が苦しくなる。

 

「もう事態は一刻を争う状態かもしれません。捜索隊を編制して大陸中を捜しましょう!」

 

朱里は各国に派遣している将軍たちにすぐに伝令を出して、一刀を捜してもらおうと提案する。

 

「そして、本国にも連絡して、大小問わず町という町に高札を設置して目撃情報も募りましょう」

 

「そうね。そうしましょう。稟、すぐに大陸中に設置する高札の準備と本国の信用できる者だけに伝令を送りなさい。連絡は随時を行うようにとも伝えなさい」

 

「亞莎、おまえも行ってくれ」

 

「「はっ!」」

 

蓮華、華琳から命令を受けた二人はすぐに準備を行うべく、王座の間から出て行った。

 

「引き続き、城周辺の捜索も進めるわ。でも、これだけ捜しても見つからないのだから、もうこの近くにはいないと考えたほうがいいのかもしれないわね」

 

優秀な将軍たちが一日かけて捜しても見つからなかった。

 

捜索は引き続き行うが見つかる見込みは少ないだろう。

 

そう判断して、捜索範囲の拡大も同時に決定した。

 

 

 

 

「そういえば、明命さんが入ってきて真桜さんの話が途中になってましたよね」

 

朱里が真桜に話を振る

 

「いや、もういいですわ。きっと考えすぎやろうし、その服だけでも見つかったんですから」

 

しかし、真桜は自分の話をするのをためらった

 

「いや、考えられる可能性はすべて議論すべきだ。真桜、話してくれ」

 

そこに冥琳の後押しが入る。

 

軍師というのは、最悪の状態を常に想定すべきだ。

 

そうしておけば、もし仮にその最悪のことが起こってもあらかじめ対処ができる。

 

なので、朱里、冥琳は一つでも情報がほしかった。

 

「私も興味があるわ。真桜、話なさい」

 

「大将がそう言われるんなら・・・」

 

華琳の言葉を受け、真桜はしぶしぶ了解する。

 

「あの・・・、隊長は天の御遣い様・・・なんですよね?」

 

「?? そうよね。私たちが知らない知識とか知ってるし、言葉もたまによく分からないこともある。逆に私たちの常識ともいえる真名のことも知らなかったし・・・」

 

蓮華は真桜が何を言いたいのか分からなかった。

 

「はい・・・、んで、管輅さんでしたっけ?管輅さんは『天の御遣い様は乱世の大陸を平和、平定するために舞い降りる』みたいな予言をしたんですよね。ほんで、その予言のとおり隊長が来た・・・。ちょうどその後に黄巾党が跋扈し始めたわけですし」

 

真桜はおどおどしながらも、ゆっくり一言一言、言葉を紡いでいく

 

「んで、昔と違って今は黄巾党もおらんし、三国も統一された。争いもかなり減ったし、つまり、今は平和といってもいいんですよね?」

 

他の者はいまだ、真桜の言いたいことが分からない。

 

ある一部を除いて・・・

 

「乱世が平定されたんやったら、もしかして隊長は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめて!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真桜が確実に慎重に言葉を間違えないように話していたとき、大きな声が真桜の言葉を遮る。

 

一同は声のする方を向くとそこには小刻みに震えている華琳の姿があった。

 

その隣に控える春蘭、秋蘭の顔色もおかしい。

 

季衣、流琉にいたってはもうすすり泣いている。

 

「えっ・・・、どうしたんですか!?みなさん」

 

桃香は様子のおかしい華琳の傍に駆け寄ると、そこには覇王と呼ばれていた少女の姿はなく、か弱い少女が一人震えているようにしか見えなかった

 

「おい!!春蘭も秋蘭もどうした!?」

 

「流琉、春巻き、急にどうしたのだ?」

 

蓮華が夏侯姉妹のもとに、鈴々が流琉、季衣のもとへと駆け寄る。

 

他の者も心配して魏勢の周りに集まってくる。

 

「いやっ、もういや!!あんなことは二度と嫌!!!!」

 

華琳が今まで見たことがないくらい取り乱している。

 

「どうしたんですか!?華琳さん!!」

 

あまりに突然なことで、桃香もどうすればいいかわからない。

 

「いや、―――行かないで・・・。私の前から・・・」

 

「うっ・・・ひっぐ、兄ちゃん、なんで・・・」

 

「兄様・・・、――――にいさま・・」

 

華琳、季衣、流琉はもう机に座っていられず、イスから崩れ落ちるように泣き始めた。

 

「ほんご・・う、北郷!!」

 

春蘭は一刀の名を呼ぶと王座の間から勢いよく飛び出していった。

 

「おい!!待て、春蘭!!」

 

蓮華の制止も聞かないで春蘭は走り出す。

 

今、唯一春蘭を言葉で制することができる華琳は泣き崩れている。

 

「くっ、いったい急にどうしたのだ!!愛紗、すまないが春蘭を追ってくれ!!今、あいつを止められるのは愛紗だけだ!!」

 

「愛紗ちゃん行って!ここは大丈夫だと思うから。春蘭さんを!」

 

「はい!!」

 

愛紗は命令を受けるとすぐに春蘭を追うため、急いで扉を出て行く。

 

「秋蘭!どうしたのだ!!」

 

冥琳が秋蘭の元に駆け寄ると、無表情のままツーッと頬に涙を伝わらせていた。

 

「いや!もう大切な人を失うのは嫌!!あの時は・・・私は・・・」

 

華琳も頭を抱えて、錯乱状態だ

 

「今日の会議はこれで終了だ!!」

 

魏勢が取り乱したまま、冥琳が会議の終了を宣言する。

 

蜀勢・呉勢は取り乱しているものたちの対処に当たる。

 

このときの蜀勢・呉勢には分からなかった。

 

華琳も真桜の話を聞くことを了承したはず・・・

 

なのに、なぜ真桜が話し出したらこうなってしまったのか。

 

彼女たちには分からなかった。

 

なぜなら、彼女たちは経験をしていない・・・

 

琥珀色の満月のもとで

 

大切な人が消えてなくなってしまうということを

 

 

 

 

 

「か・・・ず・と・・・」(バタッ)

 

ひとしきり泣いた華琳は糸を切られた操り人形のように、ぱたりと倒れ意識を失った。

 

「鈴々ちゃん!救護班の人呼んできて!!」

 

「いや、こちらから行ったほうが早いだろう。鈴々、すまないが華琳を担いで救護班のもとまで行ってくれないか?」

 

「わかったのだ!!」

 

鈴々が華琳の身体を“おんぶ”して救護班のもとに向かっていった。

 

「秋蘭さんも行こう?思春さん、明命さん頼めるかな?」

 

桃香の言葉に思春、明命は無表情のまま静かに泣いている秋蘭を連れて救護班の元へ

 

「流琉ちゃんと季衣ちゃんは私たちが連れて行きます」

 

すすり泣いている二人は詠と月がゆっくり連れて行った。

 

「すんません・・・、うちらもちょっと気分が悪いんで、これで失礼させてもらってもいいやろか?」

 

「ああ、分かった。お前たちは大丈夫か?」

 

華琳たちよりもまだ幾分か大丈夫そうだが、それでも顔色が悪いことは明らかだった。

 

「ん~、ちょっと、気分は悪くなったけど、自分ひとりで歩けるの・・・」

 

そう言って、沙和、真桜の二人は自分の足で救護班のもとへ向かっていった。

 

「華琳さん、大丈夫でしょうか?」

 

「まぁ、無理をしているのは分かっていたが、ここまでになるとはな・・・」

 

二人は魏勢の体調について心配している。

 

「いったい、どうしてこうなったのだ?」

 

「まぁ、真桜さんの話の内容が原因ということは分かりますね」

 

その場に残った冥琳、朱里はなぜこうなったのか疑問に思う。

 

「真桜さんの話の内容から推測すると、最後に言いかけた言葉は・・・」

 

二人は少し前の出来事を鮮明に思い出そうとする。

 

「黄巾党もいなくなり、三国の統一もなされた。つまり、いまは乱世でなく平和そのものだと真桜は言っていたな」

 

「はい、そして管輅さんの予言の話をふまえると、その後に続く言葉は・・・」

 

「まさか!?」

 

「たぶん、そう言いたかったんでしょうね・・・」

 

真桜が言おうとした言葉は本当に最悪の想定だった。

 

もし、一刀が個人的な用事で出かけていただけだったら、いままでにないくらいの説教をあびせればいい。

 

もし、一刀が誘拐されていたのなら、その犯人を見つけ出し一刀を救出すればいい。

 

そして、その犯人をしめればいい。

 

この二人はいろいろな想定をしていた。

 

その一つに、一刀が殺されてしまった場合というのがあった。

 

その場合は、たとえ一刀を“殺した”といわれようとも、亡骸を確認するまで軍師である二人はそれを信じることはない

 

可能性として考えていたとしても

 

しかし、この二人も真桜の考えまではいかなかったらしい

 

言われなければ気づきもしなかっただろう。

 

いや、その可能性は無意識に避けていたかもしれない。

 

当たり前すぎた日常が非日常に代わる瞬間

 

愛する人が急にいなくなる

 

もし真桜が言おうとしていたとおりになっていれば、自分たちには為す術がない。

 

そういった力はないのだから

 

 

 

 

 

 

 

真桜が言いたかったこと、それは・・・

 

一刀天帰還説

 

役目を終えた天の御遣いが天に帰ってしまった可能性

 

 

 

 

 

稟と亞莎は高札準備と連絡のための指示を出していると、

 

 

ズキッ

 

 

「くっ!?」

 

稟は胸を何かに射抜かれたような感覚に襲われ、胸を押さえながら両膝をつく。

 

「稟さん?どうかしましたか」

 

亞莎が心配して稟に近寄ると、稟の目は焦点があっておらず、その目には涙がたまっていた。

 

「稟さん!?大丈夫ですか!?」

 

亞莎もしゃがみこみ、稟の背中をさすりながら稟の状態をきく。

 

「え・・・、あっ、大丈夫です・・・、ごめんなさい」

 

しばらくすると気がついたように稟が亞莎の顔をみる。

 

稟自身も自分の身に何があったのか分からない。

 

胸をえぐられるような、そんな感じがした。

 

しかし、この痛みは一度体験したことがあるのではないかと稟自身が感じている。

 

「きっと、あんなことが起こってお疲れなのですよ。ここは私だけで大丈夫だと思いますので、稟さんは休んでください」

 

「そうですか・・・、あなたの邪魔をしても悪いですしね。わかりました。お言葉に甘えさせてもらいます」

 

亞莎の優しい気遣いに稟は素直に甘える。

 

「では、亞莎殿、あなたもご無理をなさらずに」

 

最後に亞莎の身体を気遣ってから、稟は部屋を出て行く。

 

部屋を出た後、稟は自分の部屋には戻らずにあるところに向かった。

 

 

 

 

 

稟が華琳から指示された仕事を途中で誰かに任せることなど今までにはなかった

 

確かに体調が悪くなって亞莎に迷惑をかけるのは申し訳ないという気持ちも、もちろんある

 

しかし、稟にはそれ以上に気になることがあった。

 

それは城の入城者が本当に“あやしいことを行う時間”がなかったのかというところである。

 

確かにあの場では稟自身が“あやしいことをする時間はなかったと思って問題ない”という判断を下している。

 

しかし、その時点から稟は本当にそうなのかと考えていた

 

城では入城手続きが終わった後、案内する兵士が客人を迎えに行き、そして目的の場所まで案内するということになっている。

 

その案内人と入城者が共犯者で、案内する途中で一刀を眠らせるか何かをして一刀を確保、用事を済ませ何事もなかったかのように外に出るという可能性もある。

 

また別に、それぞれの客人を応対した者が見送りをするということもこの城の通例になっている。

 

もちろん、他に用事があれば兵士を呼び代わりに見送らせることもある。

 

しかし、会議の場では朱里、流琉、季衣が客人を見送ったということを言っていた。

 

昼ごろに来たという珍しいものを売っている商人は、凪がそれぞれ護衛のため付き添っていたとのこと

 

酒造の関係者に関しても、華琳自身が見送りをしている。

 

華琳は自分の趣味にまで部下を使うことは絶対にしない(桂花除く、よろこんでやっているから)

 

つまり、城の通例どおりこれらの客人は誰かに必ず見送られている。

 

ここから考えられることは

 

このうちの誰かが一刀誘拐を企み、客人と共謀し用事が終わった後一刀を誘拐する。

 

あまり身内を疑いたくはないが、この可能性は否定できない

 

 

 

 

 

つまり、だれか内部共犯者がいれば“一刀を誘拐する時間”はできるのである。

 

案内する兵士も客人の見送りもその客人が城でおかしなことをしないための見張りという一面もある。

 

見張りという名の共犯者の存在は誘拐犯にとって大きいといえる。

 

以上にあげた可能性を潰すため、稟はまっすぐに兵士の集まる詰め所へ向かっていった。

 

 

 

 

稟が城の中に設置されている一番大きな詰め所の前に着くとすぐに入っていく。

 

詰め所は町の各地に設置されているが、城門の警備担当者はこの一番大きな場所で待機することになっている。

 

「失礼する」

 

稟が一声かけて休憩室に入っていく。

 

その姿をみた兵士たちはぽかんとして稟の顔を見ている。

 

凪たちや霞などの武官なら別に兵士たちは驚かない。

 

ただ、文官は滅多にこの場所には訪れることはない。

 

しかも、魏国の代理筆頭軍師である稟がこの場所に訪れるなど兵士たちは考えたこともなかった

 

「か・・郭嘉様!!いったいどのようなご用件で!!」

 

この大きな詰め所には三国統一前から三国で親衛隊として活躍した者たちが大勢いる。

 

いわば、各国の優秀な人たち(エリート)が集まる場所なのである。

 

当然、各将軍、軍師たちとは最低一度は会ったことはあり、話したこともある者もいる。

 

しかし、突然の訪問のためオドオドしている者たちが多数みられた。

 

「昨日の城門警備の者と今日の夕方までの城門警備の者は今ここにいますか?」

 

稟は一番近くにいた兵士に用件を伝える。

 

「はっ!今すぐ呼んでくるであります!!」

 

そう返事をすると、何人かの兵士たちが城門警備の者たちを捜しに行く。

 

 

 

少しばかり時間が過ぎて

 

昨日の城門警備担当者6人と今日の夕方までの警備担当者3人の計9名が稟の前に現れた。

 

城門警備は三人一組で行われ、昼番と夜番の交代制になっている。

 

三人いる理由は、一人が身体検査などの入城検査を行い、もう一人が“かめら”撮影、最後の一人が案内係となっていた。

 

夕暮れと夜明け前が交代時間となっている。

 

所属国は蜀の兵士が2名、魏の兵士が3名、呉の兵士が3名、董卓軍が1名

 

「夜分遅くに申し訳ありません。あなた方に少しお聞きしたいことがありまして」

 

稟が話し始めると、9人はビシッと背筋を伸ばす。

 

「おや・・・、あなた方は確か・・・」

 

稟はこの9人のうち、見知った顔を数名見つける

 

「はっ、魏軍親衛隊第一部隊に所属していました!!」

 

稟は記憶を手繰り寄せていると、何度か話をしたことがあるのを思い出す。

 

稟よりも長く魏に仕えている者で、春蘭の無茶な突撃に付き合っても見事耐え抜いてきた強者だった。

 

他の国の兵たちも見てみると、いかにも歴戦を潜り抜けてきたような者たちだった。

 

「なぜ、あなた方のような人たちが城門警備などを?」

 

「はっ、将軍たちが城門警備には安心して任せられる者を選抜したいとのことでしたので、我々古株が警備を担当しております」

 

「若い者どもに町の警邏や守備隊などを任せて、少しでも経験を積ませたいとの考えもあるようです」

 

「それに我々は戦うことに疲れました。もう年ですし・・・。でも、国のために引き受けてくれないだろうかと関将軍から頼まれたんです。とても光栄です」

 

「最後まで国に仕えることができる機会を与えてもらって、大変誇りに思っています」

 

この城の警備体制は、各国の将軍が共同して作り上げたものである。

 

城には一刀がいるということもあり、城の警備は厳重にすることは決まっていた。

 

そのため、当分の間は新兵に任せず、新兵が育つまでは熟練の兵士たちに任せるという方針を決定し、兵士の選抜方法は各国将軍の推薦で行った。

 

特に城門は城の顔とも言えるため、屈強な者を推薦した。

 

熟練の兵士のため確かに全員、見た目はとても若いとはいえなかった。

 

しかし、その身にまとう気迫はそこらにいる者たちとは格段に違っていた。

 

各国に対する忠誠心も申し分ないだろう。

 

この者たちが裏切ることなど稟は考えたくなかった。

 

「そうですか・・・、分かりました。本題に入りますが、昨日と今日の夕方までの警備報告を順に聞かせてほしいのです」

 

稟は本題を切り出す。

 

 

 

 

 

「昨日の昼番は私たち三人でした。通った者は朝方に陳情書を持った男と昼ごろに荷馬車に乗っていた商人、それに洛陽酒造という一団を通しました」

 

蜀所属の男がたんたんと報告に入る。

 

「もちろん、身体検査や荷物検査、“かめら”で撮影は行ったのですね」

 

稟は少しずつ丁寧に話を進めていく。

 

「はっ!間違いなく行いました。“しゃしん”は昨日の分についてはできていますが、今日の昼番の分については明日になるかと・・・」

 

「分かりました。“しゃしん”は後で確認します。続けてください」

 

稟はそのまま報告を聞いていく

 

「荷物検査も行いましたが、特におかしな物も持っていませんでした。その後、この者が客人たちを案内しました」

 

報告が終わると、次の者が続けて話し出す。

 

「私は陳情書の男を諸葛亮様のいる政務室まで案内しました。案内した後は諸葛亮様自身がお見送りをするとのことでしたのでそのまま持ち場に戻りました」

 

「そのときに怪しい行動とか誰かに接触していたとかそういうのはありませんでしたか」

 

「そのような機会はなかったと思います」

 

稟の問いかけに対しすぐに答えを示してくる

 

「荷馬車の商人に関しましても、曹操様のところまで案内させてもらいました」

 

その後も案内役の男は、荷馬車の商人、洛陽酒造についても同様の報告を行った。

 

案内役の男を信じるならば、案内する際には怪しいことはしていないとのことだった

 

「分かりました。ありがとうございます。続いてその者たちが帰っていくときの報告をお願いできますか?」

 

続いて、その者たちが帰っていくときの様子の話に入る。

 

「はっ、陳情書の男は昼過ぎに諸葛亮様と供に城門まできました。帰りにも一応規則ですので身体検査はさせてもらいましたが、怪しい点はありませんでした」

 

兵士が一つ咳払いをしてから、次の報告にうつる

 

「夕暮れぐらいに荷馬車の商人が楽進将軍、李典将軍、于禁将軍と供に城門に来ました。もちろん荷物検査も行いました。しかし、特に商人の荷物に不審な点はなかったです。また、荷馬車には将軍達の大きな荷物が積まれていましたが、それは将軍の荷物なので検めていません」

 

“なるほど”と稟は真剣に話を聞く。

 

確かに、いつも城を出入りしている将軍の荷物をいちいち検査していては面倒だろうし時間もかかるだろう

 

 

 

 

昼番が報告をし終わると、次は昨日の夜番が報告を始める。

 

「洛陽酒造に関しましては、その日の夕暮れ過ぎに曹操様と供に城門前にいらっしゃいました。もちろん酒樽の中身も検査しましたが空でしたね。しかし、城に来た理由が酒樽の交換ということだったのでどこか壊れているものだと思っていましたが、私にはどこが壊れているか分かりませんでした」

 

華琳は壊れたから取り替えたといっていた。

 

しかし、見た目では分からなかったと呉の兵士が報告する。

 

「なるほど・・・、昨日の入城者はこれでお終いですね。続いて今日の朝の報告をお願いします」

 

稟が最後に残った三人に報告するよう促す。

 

「はっ!仕事を交代してすぐにいつもの雑貨屋のおやじが着ましたので、入城検査の後、お嬢様達の所へ向かいましたがいつもの場所にいませんでした。なので、厨房に向かったところ、典韋将軍に会いましたのでお任せいたしました。」

 

董卓軍の兵士も淀みなく淡々と報告をしていく。

 

「その後、すぐに典韋将軍と許緒将軍が雑貨屋を見送りにきましたので、身体検査と牛車の検査の後、そのまま帰っていきました。何度も同じことをしているので慣れた様子でした」

 

“報告は以上です”と最後に董卓軍兵士が話を締めくくった。

 

 

 

 

 

稟が難しい顔をしながら、今聞いた話を少しずつ咀嚼していく。

 

「報告ありがとうございました。あともう一つ昨日の夜番の方に聞きたいことがあるのですが・・・」

 

「なんなりと」

 

夜番が少し前に出て、稟の言葉を待つ。

 

「昨日の夜、御遣い様は本当に通りませんでしたか?何も報告はなかったのですか?」

 

稟が今までとは違う表情を浮かべているのに気づき、真剣に

 

「いえ、昨日は城門前も通っておりませんし、報告もなかったです」

 

と断言する。

 

「そうですか・・・。わかりました。貴重な時間を割いて頂きありがとうございます」

 

そういうと、稟は小さくお辞儀をする。

 

「いえ、これも職務ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

話を聞き終わった稟は詰め所を後にする。

 

「・・・、やはり・・・、いくつか穴がある可能性がありますね」

 

そして、幾つかの可能性を考える。

 

「まだはっきりとは分からないですが・・・、思い違いであってほしいですね。――――可能性と疑問点は一応報告しますか」

 

稟はすぐに王座の間にいるであろう華琳のもとへと向かっていった

 

 

 

 

 

琥珀色の満月が辺りを薄く照らしている。

 

あたりには広大な草原が広がっていた。

 

そこで男一人と女一人が月を見上げている。

 

「この外史の月はきれいですね」

 

「月なんてどの外史でも一緒だろ?別に変わらねぇーし。つーか、電気ねーのかよ」

 

女の問いかけに対し、男は興味なさそうに答える。

 

「本当にあなたは風流というのが分からないんですね・・・、おや?」

 

女は嫌味を言おうとするも何かに気づいてそちらの方を向く。

 

どうやら馬が二頭こちらに向かってくるようだ

 

「やっと来たか・・・、遅いぞ!何してんだ!」

 

そういい終わると、馬はその男の眼の前にとまる。

 

「なによ、まだちょっと約束の時間よりも早いじゃない。何で文句言われないといけないの」

 

馬から下りた女は男を睨みつける。

 

「ま~まぁ、お二人さん、そんなカッカしたらあかんで~。それに女の子がそんな怒ってばっかりやったらシワになるで、なかなかとれへんで~~」

 

「あんたは少し黙ってて!」

 

女は次に関西弁の男を怒鳴り散らす。

 

「もういいですか?」

 

お淑やかそうな女が仲裁に入り、話を進める

 

「どうでしたか?」

 

「今さっき気づいたみたいよ。本当に暢気な奴ら・・・、ほんとに・・・」

 

活発そうな女が偵察の報告をする。

 

「そうですか。こちらも一つ確認しました。まだ影響は小さいですが・・・」

 

「ああ、あれね。影響が小さいって・・・すごい取り乱してたわよ。外まで聞こえてたから」

 

「それだけあの時無理をしていたんでしょう。正直になれなくて・・・ね」

 

「それはそうと、あと何個交ぜなあかんの?」

 

「少なくとも欠片をあと一つですね。そうしなければ、この外史は潰せません」

 

「おい!?まだあんのかよ!?もういい加減こっちも動こうぜ。身体動かしてぇーよ」

 

「もうじき動きますから我慢してください。それに、今回はこちらから動かないとだめそうですしね」

 

「そう・・・でも、どうすればいいの?」

 

「少し厄介かもしれませんが、まぁ問題ないでしょう。」

 

淑女がニタッと笑みを浮かべる。

 

「孫策、周瑜を暗殺します」

 

 

END

 

 

 

あとがき

 

どうもです。

 

いかがでしたでしょうか

 

今回は執筆時間が長かった感じがしましたよ~

 

あともう少しで物語の舞台を変えることができますので

 

がんばっていきたいと思います。

 

稟と兵士のくだりは書こうか書くまいか悩んだのですが、結局書くことにしました。

 

わかりやすくなるかなぁ~って思いまして

 

 

 

 

 

 

 

それでは、予告を一つ

 

幾つかの可能性の真偽を確認するため、稟は華琳に報告に向かう。

 

一方で一刀捜索のための全大陸規模の捜索隊が編制される。

 

次回 真・恋姫無双 黒天編 第3章 「捜索隊編制」

 

前編になるか一話にまとめるかはまだ分かりません・・・

 

では、これで失礼します

 


 
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