No.188254

少女の航跡 第1章「後世の旅人」10節「合流」

ある少女の出会いから、大陸規模の内戦まで展開するファンタジー小説です。
都から脱出した一行は、ようやく騎士団と合流できるのでした。

2010-12-06 10:07:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:411   閲覧ユーザー数:370

 

 『フェティーネ騎士団』を前にする私達。

 

 何人もの騎士達が街道に姿を現していた。だが一昨日、『リキテインブルグ』の《スカディ平

原》で出会った時ほどの数はいない。せいぜい20人ほどの騎士と馬だった。

 

 私達の姿に気が付くと、騎士団は馬の足を止め、先頭にいた一人の女騎士が馬を前に出し

て来た。

 

「あらあら? カテリーナ? どうしてこんな所にいるの?」

 

 それは、あのクラリスとかいうハーフエルフの女騎士だった。白馬に乗り、ミスリル銀の鎧が

輝いている。

 

「それはこっちが聞きたい」

 

 カテリーナが、馬に乗る彼女を見上げて答えた。

 

「何でこんな所にいるって言うのなら、減多に鳴らない警鐘が鳴ったからね。もしかしたら一大

事なんじゃあないかと思ってさ。とりあえず、あたし達だけがそれを辿って来て見ていたわけ」

 

 クラリスに続いて前に出てきたのは、ルージェラという、あのハーフドワーフの女騎士だった。

 

「《アウグス域塞》に戻っていたわたし達は、そこで警鐘が来たのを聞きつけたの。あなたは、

この先、《リベルタ・ドール》からやって来たんでしょうカテリーナ? 『セルティオン王』に呼ばれ

ていたそうだからね。そこで何かあったのね? だからここまで逃げてきたんじゃあないのかし

ら?」

 

「…ああ、色々あったよ」

 

 カテリーナはクラリスの方を向いて、そっけなく答えた。

 

「どんな事が? あんた達がそろってここまで来て、しかも警鐘が鳴ったくらいなんだから、おそ

らくは相当な事かな?」

 

 と、ルージェラが尋ねた。

 

「…『ディオクレアヌ』の連中が、王都を襲撃したんだ。多分、今頃は占領されていると思う」

 

 カテリーナはそう、何も前触れも置かずに言った。その意味を理解する一呼吸を置いて騎士

達はどよめいた。

 

「やっぱり…」

 

 クラリスが眩いた。

 

「やっぱりって、どういう事だ?」

 

 と、カテリーナ。

 

「わたし達は、『ディオクレアヌ軍』と《スカディ平原》で戦った。それは、最終決戦のつもりだった

わ。壊減寸前だって噂通り、相手は大した人数でもなければ、大した軍兵でもなかったわね。

勝負はあっという間についたわ。そう、むしろ不自然なくらいにね」

 

 クラリスは言う。そんな彼女の馬に乗る姿を、フレアーはとても珍しそうな目で見ていた。

 

「お姉さんエルフ?」

 

 と、突然彼女は尋ねる。

 

「ええ、そう…。でも、私はハーフなのよ」

 

「お姉さん見たいなエルフが騎士だなって、格好いいなあー」

 

「ふふ…、ありがとう。でも…、あら? あなたはそんな帽子なんてかぶって…、お嬢ちゃんは魔

法使いなのね?」

 

 そんなフレアーに気が付いたクラリスが答えた。

 

「うー。こんなにちっちゃくても、お嬢ちゃんなんて言われる歳じゃあないってば~」

 

「あら? ごめんなさい」

 

「…それで、あっと言う間に勝負がついて、どうなったんだ? それだけじゃあここに来た理由じ

ゃあないだろ?」

 

 どうでもいい話にカテリーナが割り込んだ。クラリスは彼女の方に向き直る。

 

「そうそう、捕虜の一人が言ったのよ」

 

 カテリーナの方に向き直るクラリス。フレアーも一緒に彼女の方を見た。

 

「いいなー、白い馬になって乗っちゃってー」

 

「ゴブリンだったけど、何とか人間の言葉を使う頭の良い奴でさ、どうにか聞き出せたんだよ」

 

 と言うのはルージェラの方だった。

 

「しかも背が高くて格好いいなー」、

 

 クラリスの傍のではフレアーが夢中だ。

 

「自分達のこの軍は囮だ。お前らを巻いてしまって、今頃『セルティオン』の《リベルタ・ドール》

は、我らが最大兵力を注ぎ込んだ軍で、すでに自分達の盟主ものだ。って、言っていたわ」

 

 ルージェラの言葉に続けてクラリスが言った。

 

「なるほどな…」

 

 それに対して相槌を打つカテリーナ。

 

「まるで、全部分かっていたかのようね?」

 

「まあ、大体察しはついていたさ。エドガー王も、不穏な動きが感じられると言っていたし。革命

軍も、まだ余力を残していそうだってな」

 

「じゃあ、今度は、あなた達が話してちょうだい、何があったかを」

 

 クラリスの尋ねに、カテリーナは説明を始めた。

 

 カテリーナが事の詳細を伝える少しの時間の後、

 

「それは、また、随分と大変な事があったものね…。『リヴァイアサン』が現れた…、ですっ

て?」

 

 騎士団長によって、簡潔に素早く行われた説明で、クラリス一同はとても驚いた様子だった。

相当に驚いたようだったが、無理もないだろう。私だって、あそこで起きた事は今だに信じられ

ない。

 

「『リヴァイアサン』…? なんで、『ディオクレアヌ』の連中と『リヴァイアサン』が一緒にいる

の?」

 

 ルージェラは、突拍子も無い話に疑っている様子だった。

 

「だって、本当に見たんだよ!あんなに大きな生き物始めて見たよ!」

 

 と、フレアー。

 

「…ちょっと! そこのお嬢ちゃん、さっきからうるさいよ!」

 

 ルージェラがフレアーに注意する。するとフレアーは、彼女の言葉に少しむきになったらしく、

 

「だから、あたしはお嬢ちゃんなんかじゃあないってば! あんた見たいなドワーフよりもずっと

長生きしてんだよ!」

 

「何で、こんな子がついて来ているの? カテリーナ? 黒猫まで一緒についてきて、何? 危

ないところを助けてあげた、とか?」

 

 うっとうしそうなルージェラが、カテリーナの方を向いた。

 

「あたしは、『セルティオン』のエドガー王の側近の魔法使いなんだよ! 口を慎みなさい、口

を!」

 

「フレアー様、あまりいきり立たないで…。ちょっと、みっともないですぞ。騎士の方々の前で…」

 

 と、シルアがぼそっと眩いた。

 

 しかし、どうやらそれをクラリスが、長くとがった耳で聞いていたらしい。彼女の耳が、ぴくっと

反応したのを私は見た。

 

「この猫、今喋ったわね…?」

 

「え? 嘘でしょう?」

 

 ルージェラがそう疑うと、フレアーの側にいた猫は軽々と彼女の肩に乗り上がって、騎士達の

方を向いた。

 

「…、…、えー、あー、どうも…、始めまして…。えー、私は…、その、驚かせてしまって申し訳ご

ざいませんが…、このフレアー様の使い魔の…、シルアと申します」

 

 騎士達に向かって、人間のように自已紹介を始めるシルア。それには騎士達も面食らった様

子だった。

 

「これは、驚いたね…。って事は、あんた、おかしな格好して魔法使いのふりしてる、小さい娘じ

ゃあないの?」

 

 ルージェラが皮肉めいてフレアーに言った。

 

「何、それー!? あたしが嘘ついてたって言うの!?」

 

「…もうやめにしない?」

 

 言い争う二人の間にクラリスが入った。

 

「話を元に戻そう。私達は、クラリス。あんた達に合流する為にここまで来た。それで、こうして

合流できたわけだ」

 

 静かになった所に割り入ったカテリーナは、本題を切り出す。

 

「合流して、連れ去られた王を取り返すの?」

 

 と、ルージェラが尋ねた。

 

「ああ、王本人からそう頼まれた。同盟国の王から頼まれた事は、自分の国の君主に頼まれ

た事に等しいからな」

 

「でも…、この人数じゃあ…、あたしだって、まさか『ディオクレアヌ軍』が、まだあんなに沢山い

るなんて思っていなかったからさ…」

 

 フレアーは、目の前にいる、馬に乗った騎士達の姿を見る。十数名の男女、頑丈な甲冑な

り、重厚な武器なりで武装はしているものの、これでは数が足りない。

 

「あの大群だものね…」

 

 私は呟いた。昨日、《リベルタ・ドール》を襲った軍兵が、次々と頭の中を駆け巡っていく。ゴブ

リンならまだしも、ゴルゴンとかいう怪物やゴーレム、空を飛ぶ怪鳥グリフォン。赤い鎧の女戦

士達…、そして『リヴァイアサン』…。

 

「お嬢ちゃん…、お名前、フレアーさんとか言ったわね…。王が連れ去られた場所、見当がつ

いているって、さっき言ったわよね?」

 

 クラリスがフレアーに尋ねる。すると、彼女はむっとした表情を見せ、

 

「もう! お嬢ちゃんなんて子供扱いしないでよ! …うん、知ってるよ。《ヘル・ブリッチ》ってと

ころ。確か、ここから北西へ馬で三日ぐらい行った人里離れた所にあるの。今じゃあ、人なんて

ほとんど住んでいない所だよ」

 

「北西の人里離れた所…、この街道をずっと行くのね…?」

 

 クラリスが続いて質問する。

 

「知っているの?」

 

「まあ、大体は分かるわ。そうすると、《アエネイス城塞》に立ち寄れるわ。応援を頼めるかもし

れないわね」

 

「そこは『セルティオン』の城塞か、まあ、応援を頼めば了解してくれるだろう。何て言っても、王

がさらわれたんだからな」

 

 と、カテリーナ。

 

「やる事は決まったみたいだね…」

 

 ルージェラが言う。彼女はそう言うと同時に、彼女達にとっては関係のない、私とロベルトの

方を向いて来る。私達、旅人には関係が無い事だから、とでも言おうとしたのだろうけど、

 

「ああ、決まった…」

 

 そうロベルトが滅多に見せない相槌を打つと、私達が、今度はフレアーによって雇われた事

をカテリーナ達は理解したのだろう。それ以上は何も尋ねなかった。

 

「じゃあ案内頼むよ、お嬢ちゃん」

 

 ルージェラがフレアーをからかって言う。

 

「も、もう…! いい加減にしてよ! だって、カテリーナはそんな事言わないよ、ね

 

え?」

 

「…、ともかく行こうか、そこの…、お嬢ちゃんの案内で…」

 

 フレアーは、カテリーナには何も言い返せない様子だった。


 
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