「すごい隈だな。どうしたんだ?」
「……何でもない。大丈夫」
朝。あれから宿へ戻り寝台に潜りながら必死に頭を働かせていた。
答えは……一応出た。それはとても情けない答え。
だが今の俺にはこれが限界だった。
重い頭を振る。
考えてる最中には無かった眠気が、今になって襲ってくる。
「むぅ、その様子だともう一日ぐらいこの村で休んだほうがいいか」
「あー……いや、本当大丈夫だから、用意ができたなら今日中にでも行こう」
数日村に留まると思ったが、華雄はすぐにでも出たいらしい。
俺としてはお言葉に甘えたいところだが、自分の勝手な事態で華雄との旅に支障が出るのはとても忍びない。
「一刀がそう言うなら別にいいが……なら昼までに荷の確認はしておくからゆっくりしていろ」
「ごめん、ありがとう」
俺を気遣ってか、華雄が旅支度を整えてくれるらしい。
彼女に感謝しながらも、俺は約束の場所へ向かった。
昨日の場所へ着いた。
彼女達の姿はまだ無い。
……正直、怖い。
俺の答えに彼女達は怒るかもしれない。納得しないかもしれない。
だが伝えないといけない。五年間も待たせた俺に、少なくともさらに時間をくれた事に感謝をしなければ。
それが無ければ、答えが出ずその場で狼狽していたことだろう。
「待たせてごめんなさい」
「いや、今来たとこ」
返事をしながら振り返る。
そこに居た三人は、それぞれ違う表情を浮かべていた。
天和は不安気な、地和は怒った様な、人和は無表情。
「答えを、教えてください」
人和が俺に問いかける。
緊張から鼓動が早まる。恐怖に身が竦む。
震える唇を必死に押さえ、俺は答えた。
「……旅を続けるよ」
「………………そう」
目を伏せる人和。
悲しげな彼女達に、続ける。
「少し、待って欲しいんだ」
「え?」
「情けない話しだけど、まだ俺に彼女達の前に出る覚悟が無い。いつになるか分からないけど、その覚悟が固まるまで旅を続けたいんだ。まだ始めたばかりの旅だけど、今まで華琳達の下でしかこの世界を見た事が無い俺にとって、見聞を広めるいい機会だと思う」
それは言い訳。覚悟ができていない俺の逃げ。
彼女達はそんな俺の情けない答えに溜め息を吐いた。
「昨日言った通り、私達は一刀さんの出した答えについては何も言わない。でも……」
「繰り返すことになるけど、みんな一刀の事待ってるんだからね!」
「いくら時間がかかっても、それだけは絶対なんだよ」
彼女達の言葉に涙腺が緩む。
こんな情けない俺の事を、後押ししてくれている。
三人は俺を囲むように抱きついてきた。
「え……ちょ……」
狼狽える俺に無言で力を込め抱きしめてくる三人。
少ししたら離れてくれた。
「五年分には足りないですが、今日はこのくらいでいいです」
「……ちぃはまだ許したわけじゃないんだからね」
「ちょっと足りないけどー、今はこれで満足しといてあげる」
そんな三人の言葉に、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
それから三人は、舞台報告に許昌に戻ると言い別れた。
別れ際寂しそうにしてる三人に罪悪感を抱きながらも、優しく手を振った。
宿に戻ると華雄が既に支度を終えていた。
次の目的地は呉との国境付近。華雄が村人から仕入れた情報。例によって野盗の噂だった。
「……むぁー」
「お、おい。本当に大丈夫なのか?」
村に着く前と同じように、纏風に跨る俺と腕の間に収まる華雄。
しかし今の俺は凄まじい眠気から煩悩を抱く余裕が無かった。
首が据わらずかっくんかっくん。どうにも力が入らない。
「あっ……飛ぶ」
「一刀!そんなにもたれ掛からないでくれ!!」
華雄の罵声と共に、俺の意識が睡魔に飲まれた。
「ねーえー。本当にこれで良かったのー?」
一刀さんと別れた後、私達は報告のために許昌に向かっていた。
天和姉さんは不満そうに頬を膨らましている。
「仕方ないでしょ。一刀さんが決めた事なんだから」
「あんのバ一刀!早く戻らなかったら承知しないんだから!」
地和姉さんが喚きだす。護衛の人たちもいるんだから止めて欲しい。
「人和はなんでそんなに落ち着いていられるのよ。少しは一刀の態度にむかつかないの?」
「え、何?」
「何って……ひっ」
私を見て怯える地和姉さん。
地和姉さんは何を言ってるんだろう。私が怒ってないわけが無いじゃない。
煮え切らない態度で結局旅に出る事を決めた一刀さん。彼の気持ちは分からなくも無いけど、私達が納得できるものでもない。
私はとても怒っているのだ。
「れ、れんほーちゃん……落ち着こうよー」
「何言ってるの天和姉さん。私は冷静よ」
そんな一刀さんにはお仕置きが必要だ。
報告する事が増えた。
口止めをされたわけではない。あんなやり取りの後じゃ、言わないのが当然なのだと思ってそうだけれど、その考えを利用させてもらおう。
魏のみんなはどんな反応するのだろうか。そんな想像をすると、少し面白くなってくる。
許昌に着いたら華琳様に言ってやろう。
『一刀さんが帰ってきてますよ』と。
あとがき
どうもふぉんです。今回も短めです。
久遠の方、ようやく一段落ついたことになるんでしょうか。ここから波乱が巻き起こされるんでしょうけども
私は三国志うんぬんの地理がまったくわかりません。地名とか街名は有名どころ(本国)くらいしか分かりませんのでご了承を……
さてここで唐突ですが、これからの投稿作品(短編シリーズ)についてのアンケートをとりたいと思います。
よろしければ希望の番号をコメントにお願いします。
1、短編なんか書かず久遠の続きが読みたい
2、天女光臨の続き短編が読みたい
3、短編の華雄さんが読みたい
4、その他おまかせの短編が読みたい
5、もう書くな
以上です。多くのアンケート回答待ってます。
※アンケートは終了しました。たくさんのコメントありがとうございます。
みなさまが見てくれるのと、感想を書いてくれるのがとてもうれしいです。
頑張りますのでこれからも応援お願いします。
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魏√after 久遠の月日の中で8になります。
前作の番外編から見ていただけると幸いです。
それではどうぞ。