No.177647

魏√after 久遠の月日の中で 7

ふぉんさん

魏√after 久遠の月日の中で7になります。
前作の番外編から見ていただければ幸いです。

それではどうぞ。

2010-10-11 18:50:55 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:24920   閲覧ユーザー数:20399

寝静まった部屋。

隣の寝台から華雄の寝息を確認し、起き上がる。

起こさないように荷物から一心を取り出し部屋を出た。

 

 

何故外に出るかというと、単純に寝られなかったのだ。

久しぶりに見た彼女達の舞台に熱が冷めず、気晴らしのために鍛錬をすることにした。

 

宿を出て開けた場所に向かう。

辺りには多くの蛍が飛び回り、天然の街灯ができていた。

 

目を閉じ集中する。

 

「ふっ!はっ!」

 

受け止めはしない、受け流す。隙を見て反撃。

イメージは華雄。その虚像は金剛爆斧を縦横無尽に振り回す。一振り一振りが俺の恐怖心を掻き立てた。

虚像相手とはいえ負けたくない。湧き出る汗を感じながら、目一杯体を動かした。

 

 

 

 

 

「はっ、はっ、はっ、ふぅーーーー…………」

 

どさりとその場に座り込む。火照った体に夜風が当たりとても気持ちがいい。

いい感じの倦怠感が体を包んでいる。眼は冴えているが、これなら寝台につけば寝れるだろう。

一心を腰に挿し立ち上がる。宿に戻ろうと歩を進めたその時

 

「……一刀さん」

 

「え……」

 

懐かしい声が俺を呼び止めた。

「姉さん達ったら……」

 

随分と遅くなってしまった。

やる事を終え私は二人と合流するため村まで来ていた。

護衛はつけていない。二人についているだろうし、合流したら宿に戻るからだ。

暗闇の中早歩く。と、村の中央の開けた場所。そこに蛍達が群れていた。

月明かりに加え蛍の光によって辺りはとても明るくなっている。

 

そこで一つの影が舞っていた。

 

剣を振り蛍と戯れるように舞うその姿に、私は視線を奪われる。

舞が終わり、影はその場に座り込んだ。

はっと気を取り直して二人を探しにいこうと思うが、何故かその影が気になり無意識に足が動く。

 

近づくにつれて影が明確になり、その人の顔が見えた。

 

胸が弾んだ。

 

愛しい人の姿が、そこにあった。

顔が自然と綻ぶ。疑った地和姉さんに後で謝らないと。

 

立ち上がる彼。私は後ろから近づき

 

「……一刀さん」

 

「え……」

 

愛しい彼の名を呼んだ。

「え……」

 

硬直する体。視点が定まらず思考が働かない。

どうしていいか解らず立ち尽くしていると、トンッと背中に彼女が寄り添ってきた。

懐かしい温もりを感じる。

 

「やっぱり……一刀さんだぁ……」

 

嗚咽が響く。

こんなにも彼女を悲しませてしまった事に罪悪感を感じる。

今何かを考えるのは止めよう。

振り返る。そこに居たのはやっぱり人和だった。

かけてる眼鏡はずれていて、目を腫らして泣いている。

五年前と変わりない、愛しい彼女を俺は抱きしめた。

 

「ごめん……」

 

「……一刀さん」

 

顔を胸に埋め再び人和が泣き始める。

彼女が落ち着くまで、俺は優しく抱き続けた。

 

 

 

「どうして……」

 

少しして、人和は落ち着いたらしく顔を離した。

 

「どうして私達に会いにこなかったの?今日舞台見てくれてたんでしょ?」

 

かなり遠くから見ていたにも関わらず、ばれていたらしい。

何て言えばいいかわからず黙っていると、騒がしい足音が聞こえてきた。

 

「かーずとーーー!!!」

 

「えいっ!!」

 

「ぶっ!!」

 

急に来たダブルの衝撃に尻餅をつく。

人和は寸前で離れたようだ、しっかりしてるなぁ……

 

「何ですぐ会いにこないのよばかー!!」

 

「一刀ー♪」

 

ぽかぽかと腹を殴る地和。横からきつく抱きしめてくる天和。

二人まとめてぎゅっと抱きしめる。

 

「ごめん……ごめんな」

 

「何で謝んのよ……ばか」

 

抱きしめながら二人の頭を撫でる。

あぁ……久しぶりだなぁ……

と、頭を撫でていた手が弾かれた。

地和が叩いたのだ。

地和は目尻に涙を溜めながら俺を睨んでいた。

 

「説明しなさいよ、何ですぐ会いに来てくれなかったのか」

 

「あー……」

 

視線を泳がせる。

天和も人和も俺を睨み目で追及している。

……嘘で繕っても仕方ない。正直に話そう。

 

「……俺がこっちに戻ってこれたのはつい最近。ある人が俺のいた世界からこっちに送り込んでくれたんだ」

 

思い浮かべる筋肉の巨躯。軽く吐き気を催しながらも続ける。

 

「目が覚めたら小さな森に居た。それから近くの成都に行って、馬を買って許昌に急いだ。早く彼女達に会いたかったから」

 

「え、じゃあ何で……」

 

天和の声に視線を向ける。

彼女の瞳は不安に濡れていた。

 

「……許昌に戻った俺が聞いたのは、警備隊名」

 

「!」

 

「考えてはいたんだ。あの華琳がいつまでもいない奴の席を設けてるわけがないって。それでも俺は悲しかった。実質、魏に俺の居場所が無くなったからね」

 

「そんなの、華琳様に言えばどうとでもなるわよ!」

 

「うん。そう思って城に向かったんだけど、そこで王祥と凪を見かけた。すぐ声をかけようと思ったんだけど……」

 

思い出す凪の顔。

胸が締め付けられるように痛む。

 

「……いろいろあってできなかった。その後城庭に入って春蘭と秋蘭を見かけたんだけど……楽しそうな笑い声が聞こえて、踏み出せなかったんだ」

 

言葉を濁す。

苦笑いを浮かべようとするがうまくいかない。

三人は申し訳なさそうな顔で押し黙り追求してこなかった。自分はそんなにひどい顔をしているのだろうか。

 

「それからはよく覚えてない。気がついたら湖にいて、そこで華雄と出会った。一緒に旅を始めて初めて訪れたのがこの村だよ」

 

全てを話し終え、ふぅと息をつく。かなり端折ったが全て事実だ。

「……何よそれ」

 

俯き肩を震わせる地和。

 

「じゃあそれって、みんなに会わずに旅してるってわけ?一刀の事が大好きなみんなを蔑ろにしてるわけ?」

 

「それは……」

 

顔を上げた地和の眼は、明確に怒りを表していた。

 

「おかしいよそんなの……一刀が何を見たかはわからないけど、みんなは絶対一刀の事を待ってるよ?」

 

天和が懇願するように袖を引く。

 

「それはあなただって解ってるはず。一体何があなたをそこまで縛っているの?」

 

人和の俺を見据えるような厳しい顔。

 

「…………怖いんだ」

 

そんな三人に、俺はとうとう心の奥底に置いてあった本当の本音を吐露してしまった。

話し始めた俺に三人は静かに耳を傾ける。

 

「わかってる。みんなに会えば俺はまたあの場所に戻れる。昔みたいな幸せな時間を過ごせるって。……でも、俺はまた消えるかもしれない。大好きなみんなの前から居なくなるかもしれない。そう考えるとすごい怖いんだ。そしたらまたみんなを悲しませてしまう。それに、俺自身が耐えられない……またあんな気持ちを味わったら……」

 

壊れてしまう

 

そう小さく呟き、涙が零れる。

それは自分本位でとても情けないだろう。だが、また彼女達との別れ無ければならなくなった時を想像してしまうとどうしようもなく怖かった。

ぼろぼろと止まらない涙。女の子の前で情けない。

 

「……それでも」

 

いつの間にか近づいていた人和が、零れる涙を指で拭う。涙のせいで表情までは読み取れない。

 

「それでもあなたはみんなに会わないといけないわ。それがみんなに愛され、みんなを愛したあなたの責任」

 

『責任』

 

人和の言葉が胸に重く圧し掛かる。

 

「みんなはいつまでも、あなたの帰りを待ってるはずよ」

 

足音が響く。兵に扮した二人の男が現れた。

人和が少し話し、後ろに控える。

 

「姉さん達、宿にもどりましょう。いつまでもいたら護衛の人達が帰れないわ」

 

「……わかったわ」

 

「えーやだやだ一刀といるー!」

 

どうやら二人は護衛のようだ。

俺の袖を離さない天和を、未だ憮然としている地和が剥がし引っ張って行く。

 

「一刀さん。明日の朝、またこの場所に来てもらえますか。そして答えてください。魏に戻るか、旅を続けるか」

 

少し放心しながら座り込んでいる俺に、冷たい声がかけられる。

考える時間がもらえるらしい。

 

「どんな答えを出しても、私達は何も言いません。……でも、いい答えを待ってます」

 

騒いでいる天和を引き摺りながら三人は夜の暗がりに消えていった。

 

 

 

三人が去った後も、俺はその場を動けないでいた。

ホタル達は既に居ない。あるのは少しの月明かりと、月が照らしきれない暗闇。

夜風が当たり身震いする。

 

「寒い……」

 

さっきまで火照っていた体は、ひどく冷めていた。

立ち上がり宿へ戻っていく。

頭の中は真っ白で、何も考えられなかった。

あとがき

 

 

どうもふぉんです。

いきなりのペースダウンですが、このくらいでupしていければちょうどいいかなとか思ってます。

 

本当はオフゲーにはまっちゃって更新遅れただけなんですけどね……

 

さて今回は一刀さんの胸中を告白。皆様が納得できるようなものだったでしょうか?

納得できなかったらごめんなさい。そう言うものだと思ってもらうしかないです。

 

ストーリーの大幅改変を決めました。何をどう、とはシリーズが佳境にでもなったら言おうと思います。

 

これからリアルがいろいろ忙しくなる予定ですが、変わらず更新できるよう頑張ります。

それではまた次回に会いましょう。


 
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