No.173554

真・恋姫無双~君を忘れない~ 九話

マスターさん

第九話の投稿です。
戦争、戦争後の一刀の苦悩とかを書いていたら、少し文章量が多めになってしまいました(-_-;)

戦争描写が難しい。心理描写も難しい。何かを書くって難しいですね。
他の作家さんのようにおもしろい作品を作れる文才が欲しいです。

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2010-09-19 22:06:35 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:16240   閲覧ユーザー数:13346

桔梗視点

 

「厳顔隊!突撃する!!儂に遅れるものは容赦なく斬るぞ!」

 

 華雄の声に合わせて、儂も部隊を動かした。董卓軍はさすがによく調練されているだけあって、動きも機敏で、兵士の一人一人の顔に覇気が漲っていた。

 

「弓兵隊!!まずは相手の動きを封じるぞ!!撃ていぃぃぃ!!」

 

 弓兵隊があらん限りに敵兵に矢を撃ち込んでいく。儂も得物の豪天砲を構えて、敵兵に向けて発射させた。豪天砲は、威力も長さも普通の弩の数倍で、放たれた矢は、兵士に触れても、その威力を落とすことなく、数人の賊を串刺しにする。

 

 敵は雨のように降り注ぐ矢に怯えて、動きを止めてしまった。その機を儂は見逃さなかった。

 

「全員、抜刀!!獣どもの首を刈り取るぞ!!!」

 

 儂を先頭に、黄巾賊の集団に雪崩れ込んだ。敵は弓の射撃のせいで、初めの勢いをほとんど失っていた。多少の統率は取れていても、錬度の高さはこちらの軍に比べるべくもない。勢いさえ殺いでしまえば、一切恐れることはない。

 

 豪天砲は、剣と弩が一体化した武器だった。儂は豪天砲の刃の部分で数人の敵の身体を一遍に一刀両断にした。

 

 敵の返り血が頬に付着し、そのまま下に伝った。儂はそれを舌でペロリと舐めた。口の中に濃厚な血液の味が広がった。戦場で暴れるのは久しぶりだった。太守になってからは、前線で好き放題暴れることなど、滅多に出来なかった。

 

 響き渡る剣戟の音、鉄同士がぶつかり合って生じる、焦げたような匂い、兵士たちの雄叫び、飛び散る血の匂い、全てが快感だった。その快感が儂の身体中に流れる血を熱くした。

 

「はーーっはっはっはっはっは!!!!!!!」

 

 やはり戦は楽しいのぅ。儂ら武人にとっては、戦場こそが唯一輝ける場所じゃ。

 

 敵の繰り出す槍の柄を掴み、両腕を切断し、そのまま敵の首を斬り飛ばす。掴んだ槍は、敵に向かって投擲して、別の賊を串刺しにした。歩みを止めることなく、襲い来る賊を斬り伏せた。

 

 董卓軍は鶴翼陣を布いていた。敵は単純に中央突破を図っていたようで、左翼の儂と、右翼にいる焔耶で敵を包み込もうとしていた。こちら側の賊は、すでにかなり儂の部隊に押し込まれていた。

 

「伝令!!華雄に機を逃すなと伝えろ!!」

 

 儂は伝令を華雄のところに奔らせた。さて、戦もそろそろ終結に向かうだろう。北郷よ、その目でしかと戦を見届けたか?そして、お主は何を思う?

 

焔耶視点

 

「魏延隊!!突撃する!!!私に続けぇぇぇ!!!」

 

 華雄様の声に合わせて、私は部隊の先頭に立ち、黄巾賊の集団とぶつかり合った。跳び上がり、地面に鈍砕骨を叩き付けた。周囲の賊がそれに巻き込まれ、吹き飛ばされる。

 

「巻き込まれないように、私から離れておけ!!」

 

 味方の兵士に命令を出しつつ、鈍砕骨を振り回す。賊どもは私に一切触れることなく、吹き飛ばされていく。まるで風に吹かれる枯れ葉のように、賊の身体はバラバラに朽ち果てた。

 

 「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 賊どもを一気蹴散らす。私の鈍砕骨にそのような鈍らの剣など通用しない。相手の武器ごと賊の身体を粉砕する。

 

「華雄様に伝令!策通りに中央突破をお願いすると伝えろ!!」

 

 あらかた賊どもを中央に押し込み、そこで伝令を本陣に送った。私は駆け去っていく伝令を目で追いながら、本陣にいるあの男のことを思った。

 

 一刀、見ているか?桔梗様が、どうしてお前をこの旅に同行させたのかはわからないが、あの御方の言う事に間違いがあったことはない。

 

 かつて、私は喧嘩に明け暮れていた。闇雲に拳を振るっていた私は、ある日、いつも叩きのめしていた相手の罠に嵌まり、散々痛めつけられてしまった。もう駄目かもしれないと思ったときに、桔梗様が私を救ってくれた。

 

 桔梗様は私を拾い、部下にしてくれた。私の拳に理由をくれた。私に志を与えてくれた。あの御方に、私は一生付いていくと決めたのだ。

 

 ただの戦狂いと非難する輩もいるが、あの御方の考えなど、成都に閉じこもり、ぬくぬくと暮らしている連中に分かるはずもない。

 

 一刀、お前も必ず気付くはずだ。この世界の不条理に、不平等に。こうして、私たちが戦っている相手も元は農民。民が民を喰らわねば、この世を生き抜くことが出来なくなっているのだ。

 

 一刀、私を、桔梗様を、兵士たちを、賊たちをしっかり脳裏に焼きつけろ。お前にとってはつらいだろう、悲しいだろう、心が押し潰されるだろう。しかし、私はお前を信じている。桔梗様が信じるお前を、私も信じるぞ。

 

華雄視点

 

 さすがに桔梗と焔耶は益州を代表する猛将であった。桔梗は弓兵を使って、敵の勢いを殺いでから、敵の側面に回り込むように攻め込んだ。さすがに老練な戦い方をする。兵の損耗を最低限にしている上に、自分がもっとも暴れられるように、敵の陣に食い込んでいる。

 

 焔耶の方も、力強い戦い方だった。並みの将兵ではあいつを止めることは出来ないだろう。しかし、まだまだ若いな。勢いに任せてしまっている部分が多い。あいつだけが突出しすぎていて、陣に小さな綻びが見られている。横撃を受けたら、陣を大きく崩されかねん。

 

 戦況を見守りつつ、ふつふつと湧き起こる闘志を体内に留める。この時の微妙な緊張感が好きだった。

 

「華雄様、厳顔様より伝令!機を逃すな、とのことでございます!」

 

「華雄様、魏延様からも伝令!策通りに中央突破をお願いする、とのことでございます!」

 

 ほぼ同時に本陣に伝令が届いた。敵陣は左右より、桔梗と焔耶に挟撃された形になっており、動きが封じられている。

 

「よし!全員、騎乗!!よくぞ、ここまで耐えた!我が精強なる騎馬隊の一撃にて、獣狩りは終いとする!!各員、存分にその武を示すが良い!!」

 

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「華雄隊、出陣する!!」

 

 私の号令で騎馬隊が敵陣に向かって一直線に駆けだした。歩兵の集団に突っ込んで、陣を縦に真っ二つに割る。そうして出来た空隙に、桔梗と焔耶の部隊が割って入り、敵を各個撃破し始める。

 

「我が金剛爆斧の錆となるが良い!!」

 

 馬上にて得物を振り回して、賊の首を刈り取る。ここまで暴れずに溜めておいて闘志を一気に爆発させた。敵は陣を騎馬隊に蹂躙され、すでに散々に打ち破られていた。

 

「我が隊はこのまま賊ども追撃する!者ども!獣を一匹たりとも逃すな!」

 

 我先にとこの場から逃れようとする賊どもに追撃を仕掛けた。思い知ると良い。一度獣に堕ちた者は二度と人間に戻ることが許されないという事を。私の部隊は賊を夕方近くまで追い散らした。狩った賊は一万数千に及び、戦果は上々といったところだ。

 

 これでここ一帯の賊はかなり撃破したはずだ。月様の威光も存分に知らしめることが出来た。まぁ、当分暴れられなくなるのは残念なことではあるが、月様の御心が安らかになるなら文句は言うまい。

 

一刀視点

 

 吐きそうになるのを必死に堪えていた。胃の中がまるで別の生き物のように蠢いていた。立っているのもやっとだった。全身から汗を噴き出していた。身体が震えて奥歯がガチガチ鳴っていた。

 

 自分が甘いと思っていた事すら、甘かった。遠目で恋さんが戦っていたのをみていたが、目の前で見るのとは次元が違っていた。その光景は怖いなんてレベルではなかった。この世のものとは思えなかった。

 

 人が人を殺していた。これが本物の戦争なのだ。死に物狂いで、自分が生き残るために、ただひたすらに人を殺した。剣戟の音が鳴り響いてから、すぐに血の濃厚な匂いが漂ってきた。兵士たちの怒声、叫び声、そして、もっとも不快だったのが、人が一生を終えるときの音だった。その音は筆舌に尽くしがたく、剣や槍で貫かれ、血溜の中に崩れ落ちる光景を見ているだけで、狂いそうになった。

 

 ダメだ。しっかり目を見開いていろ。自分を必死で奮い立たせた。吐いている暇なんてない。そんなものは全てが終わってからすれば良い。今はこの光景を焼き付けるんだ。

 

 桔梗さんの姿が視界に入った。身体中を返り血に染まり、嬉々として笑いながら、敵を殺していた。その姿はまさに戦の鬼だった。いつものニヤニヤ笑いではなかった。心の底から戦を楽しんでいるのだ。彼女にすら恐怖心を覚えてしまった。

 

 本陣に桔梗さんと焔耶からの伝令が到着し、すぐに華雄さんも出撃した。それで戦況は決まったも同然だった。そこからは殺し合いではなく、一方的な殺戮に変わった。

 

 逃げようとする賊どもを容赦なく斬り伏せていった。情けをかけるものもおらず、武器を捨てて命乞いをしようとしているものまで、あっさりと首を落としていた。

 

 戦はすぐに終わったのだろう。華雄さんの部隊が追撃を仕掛けているようで、桔梗さんと焔耶は、程なくして本陣に帰還した。桔梗さんは、俺に一切視線を送ることなく、部隊をまとめあげていた。焔耶は心配そうにこちらを何度か見ていたが、俺に話しかけることはなかった。

 

 俺の状態を考えたら、どう話しかけたらよいかわからないのも頷ける。鏡で自分の姿を確認しなくても、今の俺はひどい顔をしているのだろう。

 

 しかし、それももう限界だった。フラフラになりながら、人気のない幕舎の裏に行って、倒れこむように地面に両手をつけ、全て吐きだした。

 

 その日は日も暮れかけていたので、天水城までは戻らず、野営することになった。戦勝祝いとして、あまり量は多くはなかったが、酒も振る舞われ、兵士たちはお互い生き残ったことを喜び合っていた。

 

 俺は静かにその場から離れ、近くの小川の岩の横に座り込んだ。小川のせせらぎの音が心地よかった。目を閉じると、フラッシュバックのように、戦場の光景が脳裡に浮かんだ。

 

 しかし、俺はそれから逃げることなく、もう一度戦場を思い浮かべた。あの光景を見て、感じたことは不快感としか言いようがないが、それ以上に悲しみもあった。

 

 どうして人間同士が殺し合わないといけないんだ?あの人たちは賊だ。数多くの人を殺し、奪ってきた。誰かが彼らを止めないと、より多くの人が悲しむことになる。

 

 どうしてあの人たちは賊に堕ちてしまったんだ?賊になり他の村々を襲わなければ食えなくなってしまったから。許されることでは決してないが、悪魔の囁きに抗えるほど人間は強くない。

 

 どうしてそこまで貧困に苦しんでいたのだ?飢饉とかもあるのかもしれないけど、たぶん一番の原因は重税のせいで、自分たちの分まで無くなってしまったのだろう。

 

 どうして重税なんてあるんだ?官匪どもの横暴。自分たちの私腹を肥やすためだけに、弱い民から全てを奪っていく。強者が弱者を守らず、逆に弱者を食い物にしている。

 

 どうして官匪の横暴なんてあるんだ?官僚を統括すべき朝廷が、その役目を果たせていない。いや、果たしていないのかもしれない。朝廷自体が横暴を奨励している可能性すらある。

 

 頭の中で、自問自答が浮かんでは消えていく。冷静に頭を働かせようとしても、殺されていくものの姿、声が、それを許さなかった。まるで俺に救いを求めるかのような目で見つめてくる。

 

「クソッ…………!」

 

 止めどなく涙が溢れて来た。悲しくて、苦しくて、胸が張り裂けそうになった。心に闇が広がるのがわかった。じわじわと俺から思考力を奪おうとしていた。

 

 俺が初めてこの世界に来たときと同じだった。あの時は紫苑さんが俺を救ってくれたが、今日は誰もいない。

 

 このまま闇に食われてしまうのかもしれない。でも、こんなに苦しまなくてもよいなら、それも構わないのかもな。

 

「こんなところにおったか……」

 

 その時だった。俺の背後に桔梗さんが立っていた。その表情は戦場とは全く違い、穏やかな表情を湛えていた。

 

桔梗視点

 

 北郷の姿が見えなかった。さすがに初めて体感した戦の雰囲気に呑まれてしまったのだろう。戦の直後にあやつに声をかけなかった。感情の昂りがおさまっていない儂の姿など、刺激が強すぎるだけだ。

 

 兵士たちと軽く酒を酌み交わし、勝利を祝い合ってから、北郷を捜しに行った。兵士たちの話によると、一人でフラフラと森の中に入って行ったそうだ。

 

 すぐに北郷は見つかった。小川の岩の所に座り込んで、何やら思案に暮れている。しかし、未だに恐怖心は拭いきれずにいるようで、どこか表情に陰りが見られる。

 

 少し様子を見ていると、目を空けた瞬間、涙が流れていた。儂はあやつに酷な仕打ちをしたのだろう。あやつの国には戦争はないという。初めて目の前で見る、凄惨な殺し合いの場、それがどれだけあやつの精神を蝕んでおるのか、想像するのは難しくない。

 

「こんなところにおったか……」

 

 儂は自然を装いながら、北郷の横に座り込む。北郷は、見られたくないのか、涙を乱暴に腕で拭い去った。

 

「何を考えておった?」

 

「自分でもわからないんです。いろんなことが浮かんでは消えて、もう何がなんだか……」

 

「儂を恨んでいるか?」

 

「そんなことはないです。でもやっぱり……」

 

「怖かったか?」

 

 北郷は無言でコクリと頷いた。初陣の時などとっくに忘れてしまった。自分が生き残るために必死だった。だが、こやつはただ見ていただけなのだ。人が人を殺す瞬間を。それは儂の想像の及ぶものではあるまい。

 

「儂は紫苑のようにお主を慰めることは出来ん」

 

「……」

 

 北郷は視線をこちらに向けて、怪訝そうな表情をしている。全く、こんなことは恥ずかしいから言いたくはないのだが。

 

「だが、お主を励ますことは出来る」

 

 そのまま北郷の顔を自分の腕に埋めさせる。北郷の身体は、最初驚いたように硬直したが、すぐに体重をこちらに預けてくれた。

 

「お主は立派に戦った」

 

「俺は見ていただけです。何もせずにただじっと」

 

 北郷は儂の言葉に弱弱しく反論した。身体が少しだけ震えている。つらかっただろう、悲しかっただろう。しかし、お主はまだ両足で立っている。この地面の上をしっかり歩こうとしている。

 

「戦ったではないか、己自身と。立派に戦っていた。そして、見事に闇に潰されずにここにいる。お主は勝ったのだ、自分自身に」

 

「……」

 

「自分と戦うのは、他人と戦う以上に難しい時もある。しかし、お主は勝ったのだ。それは誇りに思って良い」

 

「桔梗さん……」

 

「今はつらいだろう。だが、お主ならまた歩みだせるだろう。儂は信じておるぞ」

 

「俺……」

 

「何も言うな。言っただろ?儂はお主を慰めることは出来ないと。……焔耶、そこにおるのだろう?」

 

 儂の声に反応して茂みの中から焔耶が現れた。ここからはお主の役目だ。儂は言うべきことは言った。 焔耶を近くに呼ぶと、自分と入れ替えに北郷の頭を焔耶の腕に預けた。

 

「後は任せた」

 

 小さく焔耶に言うと、儂はこの場から去った。ふぅ、全く難儀な男だ。あんな恥ずかしいことを言わせるとは。

 

焔耶視点

 

 桔梗様が森の方に向かって歩いていくのを見て、私も後を追った。おそらく一刀を捜しに行ったのだろう。

 

 一刀は小川の岩の所に座り込んでいた。桔梗様と何かを話しているみたいだが、何を話しているのかまでは聞こえなかった。

 

 戦の後、一刀のことが心配ですぐに声をかけようと思ったのだが、あいつの表情を見て、何を言ったらよいのか分からなくなってしまったのだ。

 

 初めて戦争を体感して、一刀は何を思ったのか?いや、恐怖のあまり何も思えなかったのかもしれない。これまでの人生で戦争を見てこなかったという一刀の思いなど、誰にもわかるはずなどないのだ。

 

「……焔耶、そこにおるのだろう?」

 

 急に声をかけられて驚いてしまった。桔梗様は、とっくに私がここにいたことに気づいていたようだ。

 

 桔梗様の所へ行くと、桔梗様を入れ替わる形で一刀の身体を預けられた。後は頼む、と小さな声で言って、桔梗様は行ってしまわれた。

 

「……」

 

「……」

 

 やばい、ものすごく気まずい雰囲気になってしまった。桔梗様も頼むだけ頼んで、ぱっぱと退散してしまうなんてひどすぎる。こういうときは何を話したらよいのだ!?

 

「か、一刀?そ、その……大丈夫か?」

 

 何を緊張しているのだ!?相手はあの一刀ではないか!

 

「フフ……」

 

 私が緊張しすぎて取り乱していると、一刀は顔を私から離して、穏やかな表情で微笑みを漏らした。桔梗様と話す前に見せていた、心苦しい表情はもう見られなかった。

 

「な、何がおかしい!?」

 

「いや、ごめん。何だか、焔耶に気を使わせてしまって申し訳ないな、って思ってさ」

 

「べ、別に構わんさ。初めての戦で恐怖心を覚えるのは当たり前の話だ」

 

「そうかな?」

 

 少し自嘲気味の笑みをこぼしながら、一刀は私の目を見つめた。私は視線を合わせ続けるのが何だか恥ずかしくなって、一刀の頭を再び私の腕に押し付けた。

 

「き、桔梗様に頼まれたのだ!このまま少し休んでいろ!今日は疲れただろ!?」

 

「……ありがと」

 

 一刀の髪の毛が当たって、少しくすぐったかったが、そのままの体勢で私たちは話し続けた。

 

「焔耶はさ、どうして戦うの?」

 

 不意に一刀は私に質問を投げつけた。戦う理由、そんなものはあまり深く考えたことがなかった。

 

「桔梗様が志を授けてくれた。それが一番の理由だと思う。私もそこまで深く考えたことはないが」

 

「そっかぁ……」

 

「お前は戦うのがやっぱり怖いか?」

 

「そうだな。いくら賊が相手とはいえ、元は同じ人間だろ。同じ人間同士で戦うのはやっぱりおかしいよ。こんな風にしてしまった国も、人も、全てが間違っているよ」

 

 一刀、お前はやっぱり凄い男だ。私と対等に渡り合えるだけの力量を持ちながら、武だけに頼らず、しっかり物事の本質を見極めようとしている。

 

 ふ、ふん、癪な話だけど、お前を認めてやろうじゃないか。私に甘えるのも今日だけは許してやる。私は一刀の頭を恐る恐る撫でた。

 

一刀視点

 

「儂は紫苑のようにお主を慰めることは出来ん」

 

「……」

 

 桔梗さんが何を言いたいのか分からずに、俺は桔梗さんが次に言う言葉を待った。

 

「だが、お主を励ますことは出来る」

 

 桔梗さんは俺の後頭部に手をかけ、自分の腕に俺の顔を押し付けた。突然なことにかなり驚いたが、桔梗さんがこんなことするなんて、ものすごく珍しいと思って、素直に身体を預けた。

 

 桔梗さんの甘い匂いと、軽くお酒の匂いが混じり合って、何ともいえない妖艶な香りがした。

 

「お主は立派に戦った」

 

「俺は見ていただけです。何もせずにただじっと」

 

 桔梗さんの言葉には素直に頷くことが出来なかった。俺はただ見ていただけなのだ。兵士も賊も命がけの戦いをしていた中、俺は指をくわえて、ただただ怯えていただけ。

 

「戦ったではないか、己自身と。立派に戦っていた。そして、見事に闇に潰されずにここにいる。お主は勝ったのだ、自分自身に。自分と戦うのは、他人と戦う以上に難しい時もある。しかし、お主は勝ったのだ。それは誇りに思って良い」

 

 自分と戦うか。剣は相手に向けるだけではない。己にも向けることが出来る。じいちゃんが言っていたことを思い出した。あれが自分に剣を向けるということなのだろうか?

 

「桔梗さん……」

 

「今はつらいだろう。だが、お主ならまた歩みだせるだろう。儂は信じておるぞ」

 

 俺を信じる、その言葉がズシンと身体に芯に響いた。董卓さんが、自分を信じる仲間のために戦うと言っていたのを思い出した。不意に桔梗さんが何のために戦っているのかを尋ねたくなった。

 

「俺……」

 

「何も言うな。言っただろ?儂はお主を慰めることは出来ないと。……焔耶、そこにおるのだろう?」

 

 桔梗さんの声に反応して、茂みから焔耶が姿を現した。桔梗さんは焔耶と入れ替わるようにして、戻って行った。

 

「……」

 

「……」

 

 少しの間沈黙が続いてしまった。さすがに焔耶があそこにいるとは思わなくて、あんな所を見られてしまって、恥ずかしくなってしまった。

 

「か、一刀?そ、その……大丈夫か?」

 

「フフ……」

 

 焔耶がひどく取り乱したように言った。そう言えば、旅に出る前に紫苑さんと同じ状況だった時、俺もこんな風に、何か話そうとしてパニックになったな。それを思い出して、思わず微笑んでしまった。

 

「な、何がおかしい!?」

 

「いや、ごめん。何だか、焔耶に気を使わせてしまって申し訳ないな、って思ってさ」

 

「べ、別に構わんさ。初めての戦で恐怖心を覚えるのは当たり前の話だ」

 

「そうかな?」

 

 焔耶の目を見つめた。こいつは本気で俺の事を心配してくれているのだ。最初は俺に冷たかった分、少し嬉しかった。

 

 不意に後頭部に手がかかり、焔耶の腕に顔を押し付けられてしまった。

 

「き、桔梗様に頼まれたのだ!このまま少し休んでいろ!今日は疲れただろ!?」

 

「……ありがと」

 

 またかよ、と笑いながらもお礼を言って体重を預けてしまった。

 

「焔耶はさ、どうして戦うの?」

 

 さっき桔梗さんに言いそびれてしまった質問を、今度は焔耶に投げかけた。焔耶は少し戸惑った表情をして考えていた。

 

「桔梗様が志を授けてくれた。それが一番の理由だと思う。私もそこまで深く考えたことはないが」

 

「そっかぁ……」

 

 桔梗さんの志。それが一体どのようなものだか気になった。あの人は、普段はふざけているように見えて、本当は思慮深い人だと思ったからだ。

 

「お前は戦うのがやっぱり怖いか?」

 

「そうだな。いくら賊が相手とはいえ、元は同じ人間だろ。同じ人間同士で戦うのはやっぱりおかしいよ。こんな風にしてしまった国も、人も、全てが間違っているよ」

 

 焔耶の言葉に素直な気持ちを伝えた。焔耶は黙って聞いてくれていたようだけど、突然、俺の髪を撫で始めた。ぎこちない感じに苦笑しそうになったけど、俺も黙ってそれを受け入れた。

 

「焔耶?」

 

「何だ?」

 

「もう少しこのまま休ませてくれないか?」

 

「!?……き、今日だけだからな!」

 

 焔耶は少し戸惑ったような声で了解してくれたが、その手は相変わらず、俺の髪を撫で続けていた。

 

 桔梗さん、ありがとうございました。桔梗さんが信じ続けてくれる限り、俺は立ち止まらずに歩き続けます。

 

 焔耶、ありがとう。お前のおかげでゆっくり休めそうだ。明日になったら、またしっかり考えるからな。

 

 俺は二人に感謝しながら、目を閉じた。

あとがき

 

第九話の投稿でした。

 

戦争は書くのが難しいですね。どんな感じに戦争が進行したのか、すこしでも伝われば良いと思います。

 

戦争後の一刀の苦悩も、最初に比べると、少し成長しているため、大事には至らないという感じです。これも伝わっていれば嬉しいです。

 

最近はキャラの崩壊も甚だしく、原作と異なってしまっているようで、心が挫けそうになります。

 

狙いとしては、前回のコメ返しにもありますように、今回の一刀は少し精神的に幼い面があります。それを武将たちが温かく包み込む描写があるので、武将たちのお姉さん度が高いです。

 

皆さまのお気に召すような作品を書けるように頑張ります。

 

来週から大学が始まり、自由に使える時間がなくなるので、更新するのが遅れると思います。

 

それから、そろそろ董卓編が終わります。その後、いわゆる拠点的なものも書こうかなと思っているんですけど、どうなんでしょうかね?

 

紫苑√である以上、あまり他の武将たちといちゃいちゃするのは良くないのでしょうか?

 

感想に加えて、そこも教えていただけると助かります。

 

誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。


 
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