No.172840

真・恋姫無双~君を忘れない~ 八話

マスターさん

第八話の投稿です。
今回からややシリアスな展開になると思います。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

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2010-09-16 18:12:27 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:17390   閲覧ユーザー数:13961

一刀視点

 

 俺たちは、恋さんと陳宮とともに、彼女たちの主君の居城である、天水城を目指した。道中で、恋さんたちの主君が、あの董卓であることを知ったが、桔梗さんがかなり評価していることから、俺の知る暴君ではないと思った。

 

 それに、董卓さんの領土はかなりの善政が布かれているようで、中央からやや離れ、益州と同様、僻地と呼ばれる割には、街は栄えていて、活気に溢れていた。

 

「桔梗さんはどうして俺と董卓さんを会わせようと思ったのですか?」

 

 黄巾賊を見せる他に、桔梗さんは俺に会わせたい人が何人かいるようだ。その一人が董卓さんというわけなのだが、その理由を桔梗さんに尋ねた。

 

「それは会ってからのお楽しみだ」

 

 桔梗さんはニヤニヤ笑いながら、理由を教えてくれなかった。大陸を見て、思ったことを述べる。桔梗さんが俺に旅への同行を求めた理由だった。ならば、俺は素直にどう思っているのかを考えれば良いな。

 

 そんなわけで、天水城まではあまり時間もかからずに到着することが出来た。

 

「おお、恋、おかえり。ん?なんや、桔梗もおるんかい。また、城を抜けて旅に出とるん?紫苑に怒られるで」

 

 カラカラと笑いながら俺たちを出迎えてくれたのは、董卓軍の将軍、張遼さんだった。サバサバした性格のようで、桔梗さんとも仲が良いようだ。

 

「ふん、儂ら武人にとって政務ほどつまらんはないからの。お主もよく知っておるだろ?それより月殿にお目通り願いたいのだが」

 

「月やったら、玉座の間におるで。それより、新顔やな、こいつは。誰や?焔耶の男か?」

 

「な!?霞様!!」

 

「ハハ……、焔耶はかわええな。冗談やって」

 

「こいつは紫苑の従者の北郷一刀という男だ。訳あって、儂らの旅に同行してもらっておる」

 

「ふーん。一刀ね、うちは張遼、字は文遠や。よろしゅうな」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします。張遼様」

 

「様はいらんわ。背中が痒うなるわ。紫苑の部下やったら、遠慮なんかいらん」

 

「はい、では張遼さんと呼びます」

 

 それでええ、と言いながら、俺の顔を至近距離から覗き込もうとする。

 

 ちょっと近い!それにこの人、胸に晒巻いて、羽織しか着てないって、この時代の人は、露出度高いのが普通なのか!?

 

 恥ずかしくなって顔を背けようとすると、張遼さんはかわええ子やなぁ、と笑いながら、再度桔梗さんの方を向いた。

 

「霞、まぁ、久しぶりに来たのじゃ、今晩は儂の酒に付き合えよ」

 

「いやぁ、うちも桔梗と飲みたいんやけど、これから賊どもの征伐に行かへんとならんねん」

 

 残念そうにそう言うと、出陣の準備に行ってしまった。俺たちはそのまま、董卓さんと面会するために、玉座の間へと向かった。

 

「あ、桔梗!また政務サボって遊んでるの!?紫苑に怒られるのはボク達なんだよ!」

 

「遊んでおるのではない!立派な旅じゃ!政務など、儂の優秀な文官たちがしっかりやっておる」

 

「旅~~!!?何言ってるのよ!いつもそう言いながら、うちに来て、霞と酒ばっかり飲んでるじゃないの!」

 

 まず俺たちを迎えてくれたのが、董卓軍の軍師、賈駆さんだった。眼鏡のボク娘なんて、アニメの世界の住人だと思っていたのに……。

 

 その横の玉座に座っているのが、董卓さんだろうな。桔梗さんと賈駆さんが言い合っているのを、微笑ましそうな表情で見ていた。見るからに大人しそうな少女で、間違いなく、俺の知る暴君などではなかった。

 

「ふん、詠などと話しておる暇などないのだ。月殿、お久しぶりでございます。お元気そうで何よりです」

 

「桔梗さんも相変わらずのご様子で。でも、あまり城の皆さんを困らせてはダメですよ」

 

「ふむ、月殿にまでそう言われるのでは、儂の立つ瀬がなくなるではありませんか」

 

 桔梗さんが恭しく接している姿は初めて見た。それほど、君主としての董卓さんを高く評価しているのだろう。

 

「さて、月殿。今日は、月殿に紹介したい者がおるのです」

 

 そう言いながら、桔梗さんは俺の背中を押して、一歩前に出させた。賈駆さんと董卓さんの視線が俺に集まって、少し緊張しちゃうな。

 

「えと……、董卓様、賈駆様、お初にお目にかかります。永安の太守、黄忠の従者をしております、北郷一刀と申します」

 

 俺はきちんと董卓さんと賈駆さんの目を見ながら挨拶をした。

 

「天水太守、董卓、字を仲穎と申します。北郷さん、こちらこそよろしくお願いします」

 

 柔らかい微笑みを浮かべながら、俺に挨拶を返した。身分の下の人間だからって、全く傲慢な態度は見られなかった。それだけでも、董卓さんの人柄に好感が持てた。

 

「北郷、しばしの間、月殿と二人で話してみてくれ」

 

 そう言って、桔梗さんは俺を置いて部屋を出て行こうとした。

 

月視点

 

 桔梗さんは北郷さんを置いて部屋を後にしました。私と男の人が二人きりになってしまうのに、詠ちゃんはひどく反対していたけど、結局、桔梗さんに強引に連れていかれてしまいました。

 

 桔梗さんは太守なんだから、あまり失礼なことを言わないように、後で詠ちゃんに言っておかないと。いくら、桔梗さんがそういうことに対して、寛容な人だからって、甘えちゃダメ。

 

 北郷さんはこういう状況に置かれるのを聞かされていなかったのか、戸惑ったような表情を浮かべています。

 

 へぅ……男の人と二人きりなんてなったことないから、何だか私まで緊張してきちゃったな。

 

 でも、桔梗さんが、彼と私を引き合わせたのは、必ずなにか理由があるはず。だったら、私も天水を治める君主として、彼としっかり向き合わないといけませんね。

 

「とりあえず、場所を移して、お茶でも飲みながら話しませんか?ここだと話しづらいと思いますし」

 

「え、あ、はい」

 

 私は彼を連れて中庭に向かいました。

 

「あの董卓様……」

 

「堅苦しくなるのは止しましょう。せっかくお茶を飲みながらお話しするんですから」

 

「では、董卓さん。桔梗さんはああ言っていましたけど、俺は何も聞かされてなくて、何を話せばよいか……」

 

「はい、私もそう思っていました。でも、とりあえず、お互いのことを話しましょう。そうすれば、お互いの聞きたいことも自ずとわかりますよ」

 

「そうですね」

 

 そんなことを言いながら、少しずつ私たちはお互いの事を話し始めました。最初は、私から自分の故郷の事、詠ちゃんとは昔から仲良しで、ずっとお世話してもらっている事、そして、天水の太守になり、霞さんや恋さんと出会ったこと。

 

 私は昔から自分に自信がなかった。天水の太守になれたのも、詠ちゃんがいつも私を支えてくれたから、太守として民から信頼されているのも、霞さんや恋さんが、いつも私のために頑張ってくれているから。

 

 私には武官としての才能も、文官としての才能も抜きんでたものがなく、皆にいつも心配をかけて申し訳なく思っていました。

 

「いや、董卓さんは素晴らしい人だと思います。いくら、張遼さんや恋さんが、優秀な人でも、あなたに何の長所もなければ、ここまであなたのために尽くしたりしないと思います。彼女たちがあなたのために頑張るのは、あなたのお人柄に魅かれているからだと思いますよ。」

 

 彼は私の話を聞いて、そんなことを満面の笑みで答えてくれました。お世辞なんかではなく、本心でそう思っている顔です。

 

 次に彼が自分の話を始めました。その話を聞いて驚きで目眩がしました。彼はこの世界の住人ではなく、別の世界から来たと言ったのです。

 

「こんな話、信じられなくて当然ですよね」

 

 彼は苦笑交じりでそう言いました。しかし、おそらく、桔梗さんたちもこの話を知っていて、それでも彼を紫苑さんの従者にしたってことは、彼女たちはこの話を信じたのでしょう。

 

 確かに、彼は嘘を言えるような種類の人間ではない。武官や文官の才能がなくても、人を見定める目くらいは持っています。彼は本心で、自分が別の世界から来たと思っているのでしょう。

 

 彼は紫苑さんに倒れているところを助けてもらい、そのまま従者として働いているそうです。

 

 恋さんたちとは、旅の途中で偶然出会ったそうです。そういえば、まだ恋さんから直接報告を受けていませんでしたが、どうやら、無事に黄巾賊を撃退出来たようですね。

 

 ねねちゃんから、恋さんが一人で数万規模の黄巾賊が発見したから、征伐に向かうと聞いた時は、心臓が止まるかと思いましたよ。

 

 しかし、その時の様子を克明に語る北郷さんの瞳は、何だかとても暗そうでした。

 

一刀視点

 

 俺は董卓さんと一緒に中庭の椅子に座り、茶を飲みながらゆっくりと話し始めた。最初に自分のことを話し始めたのは董卓さんの方だった。

 

 彼女は自分の故郷の事、親友である賈駆さんのこと、天水で出会った仲間たちのことを、嬉しそうに語った。

 

 そうか、この人が董卓なのか。俺は改めて、自分の世界の董卓像が、この世界の董卓と正反対であることを知った。

 

 俺の世界の董卓は、傍若無人、悪逆非道、他人を信じず、他人を嫌い、全ての事象を自分中心で考えていたようなタイプだった。

 

 しかし、目の前にいる董卓さんは、温厚篤実、品行方正、他人を信じ、他人を愛し、全ての事象を他人のために考えられるようなタイプの人間だ。

 

「でも、私には武官としての才能も、文官としての才能も抜きんでたものがなく、皆にいつも心配をかけて申し訳なく思ってるんです」

 

 董卓さんは恥ずかしそうにそう言った。初対面の人間に対して、太守たる人物が、自分の弱点を言うなんてこと、そう簡単に出来ることじゃない。単純に人間性が素晴らしいのだろう。それじゃなきゃ、賈駆さんや恋さんや張遼さんが彼女にここまで尽くすはずがない。

 

 彼女の話も一区切りがついたので、今度は俺の話をした。俺がここと別の世界から来たと言った時は、さすがにかなり驚いたようだったけど、どうやら疑ってはいないようだな。

 

 それから、俺は恋さんと出会った話をした。その時に見た恋さんの姿、鬼神とはまさにああ言うのだろう。そして、恋さんが語った、戦う理由。大切な人のために戦うということ。

 

「恋さんはそんなことを言っていたのですか……」

 

 董卓さんは嬉しそうにそう言った。誰かが自分のために戦ってくれる、それはとても誇らしいことだろう。

 

「私は詠ちゃんや恋さん、霞さんのためにも、天水の地を平和で暮らしやすい所にしたいんです。私は非力です。恋さんのように武器を持って戦う事も出来ず、詠ちゃんのように知を以って支えることも出来ない。だけど、私にしか、そんな私にしか出来ないこともあると思うんです。だから、私は決して歩みを止めません。彼女たちが、天水の民たちが笑顔で暮らし続けるためにも」

 

 董卓さんはそう続けた。穏やかな表情の中にも、確固たる決意が目の中に見えた。大切な人のために戦う者、自分に尽くす人のために戦う者、人はそれぞれ戦う理由を持っている。

 

 董卓さんは矛を持って戦うわけではないが、それでも立派に戦っている。戦う術も人それぞれということか。

 

「ありがとうございます。何だか、少しだけわかったような気がします」

 

 俺は董卓さんに頭を下げた。彼女は立派な君主だ。自分の弱さを認めて、その上で、自分で戦う術を知っている。名君とは彼女のような人のことを言うのだろう。

 

「いえいえ。桔梗さんがあなたと私を引き合わせた理由も、何だかわかったような気がします」

 

「ハハ……桔梗さんの事だから、俺たちを困らせたかっただけかもしれませんけどね」

 

「フフ……桔梗さんは立派な人ですよ。ただそれを人に見せないだけです」

 

 彼女は微笑みながらそう言った。彼女は最後まで人を信じ、人を愛し続けるのだろう。俺たちは二人で笑った。

 

「月!!こんなところにいたの!!!大変よ!!!!」

 

 そんな時だった。賈駆さんが慌てた様子で、俺たちの所に駆けこんできた。

 

月視点

 

 北郷さんはおそらく戦う理由を見出せないでいるのでしょう。詳しい話は聞いていないけど、戦う事を怖がっていると思います。

 

 昔の私もそうでした。私が太守に着任した時の天水は、賊徒が頻繁に現れては、暴虐の限りを尽くし、人民は皆、その凶刃に怯えて、夜も眠れずにいました。

 

 私は、その惨状を何とかしたかったけど、武器を扱えない私では何も出来ませんでした。もちろん、彼らとは話し合う事も出来ません。ただ、彼らを殺し尽くすことだけが、解決手段であり、民もそれを望んでいました。

 

 しかし、私は他人を傷つけるのが怖かったのです。そんな時、私を叱咤激励してくれたのが、詠ちゃんでした。

 

「月は、人を傷つけるのが怖いんじゃない!人を傷つけて、それで自分が傷つくのが怖いのよ!」

 

 あの時、涙ながらに私を叱ってくれました。だから私は、自分の覚悟を決めることが出来たのです。君主として、私を支えてくれる皆のために、戦う決意をしたのです。

 

「ありがとうございます。何だか、少しだけわかったような気がします」

 

 北郷さんは笑顔で頭を下げました。少し顔が晴れやかになっています。私の話を聞いて、何か自分の中で納得できたようで、良かったです。

 

 桔梗さんは、彼だけのためじゃなくて、私のためにも、彼と私を会わせたのでしょう。彼と話すことで、君主としての覚悟を再認識することが出来ました。黄巾賊が跋扈して、大陸が混沌に陥る中、君主として、民を、仲間を守る覚悟を。

 

「月!!こんなところにいたの!!!大変よ!!!!」

 

 詠ちゃんが私の所へ駆けこんできた。あんな慌てた詠ちゃんを見たのは久しぶり。詠ちゃんに従って、玉座の間まで私たちは戻りました。そこには、すでに桔梗さんと焔耶さん、そして、私の軍の将軍格の一人華雄さんがいました。

 

「月殿か。黄巾賊が、長安との国境付近に集結しているらしいです。霞は先ほど、別の賊の制圧に行ってしまったし、恋は部屋で寝ているようです。さっきの疲れが出ておるのだろう。これ以上は無理させられん。今、出撃可能なのは、ここにいる華雄だけ。如何なさいますか?」

 

 桔梗さんが簡単に状況を説明してくれました。華雄さんは確かに勇猛ではありますけど、猪突猛進なところがあって、一人で軍隊を預けるのは危険だって、詠ちゃんからも言われていました。

 

「ふん、私一人で問題ない。賊が何万出現しようと、私の金剛爆斧の前では、塵芥も同然だ」

 

 華雄さんは自信満々に言ってますけど、詠ちゃんもさり気なく目線で、一人で行かせないように言っています。

 

 へぅ……困りましたね。詠ちゃんが付いていければ最善なのですが、賊が頻繁に領内を荒らすおかげで、治安維持や襲撃された村の生存者の保護など、仕事が山のようにあり、詠ちゃんは城から抜けられません。

 

「ふむ……、月殿。儂らが華雄に同行しましょう。こやつは一人で突っ込んでしまう癖があるからの。儂が止め役になりましょう。貴軍の兵を率いることになりますが、よろしいですかな?」

 

「な!?桔梗!私を愚弄する気か!あんな烏合の衆ども、私一人であっても、全員斬り伏せてくれよう!」

 

「そうやって、敵を軽視しているからじゃよ。奴らもこれまでの賊徒とは違う。統率された立派な軍隊だ」

 

「わかりました。桔梗さん、他国の太守にこんなことをお願いするのは申し訳ないですが、華雄さんとともに出撃してください」

 

「月様!!」

 

「華雄さん。あなたを信じていないわけではありません。むしろ、あなたには今後も私を支えてもらわなければなりません。こんなくだらない戦で怪我でもされたら大変です。……わかってもらえますね?」

 

「わかりました。この華雄、月様のためにも桔梗と協力して、速やかに賊どもの首を切り落として参りましょう」

 

 良かった。華雄さんも納得してくれました。結局、桔梗さんの他に、焔耶ちゃんと北郷さんも同行するそうです。

 

 北郷さん……。あなたは戦場で何を思うのでしょうか?あなたの戦う覚悟はもう出来ていますか?

 

一刀視点

 

 俺たちは賊徒の征伐のために出陣した。俺はこれが初陣となる。旅に出るときから、多少の覚悟はしていたつもりだったが、それは甘いものだった。いざ、出陣という時になると、身体は震え、背中には嫌な汗が流れた。

 

「北郷、お主は本陣の後詰の部隊におれ。そこから見ておるのだ。戦というものがどういうものであるかを」

 

 桔梗さんは出陣する前にそう言った。後詰の部隊と言っても、戦闘に参加するという事はないという。そうなる前に、決着を着けるそうだ。

 

「北郷さん、御武運を祈っております」

 

 董卓さんは直前に俺の手を握って、励ましてくれた。彼女の手の温もりと笑顔が俺に勇気を与えてくれたような気がする。

 

「全軍、出陣!!」

 

 華雄さんの掛け声で董卓軍は動き始めた。整然と統率されたその行軍は、いかに董卓軍がしっかり調練されているかを物語っている。

 

 黄巾賊が集結しているという場所までは、あまり時間もかからずに到着できた。賊は、古くなった砦を根城としているようで、砦の手前五里の地点で、一度軍議を開いた。

 

「左翼に桔梗、右翼に焔耶、中央を本陣として私が指揮する」

 

 華雄さんは早々に布陣を決めてしまった。賊徒の数は二万、こちらは一万二千と数の上では不利であった。しかし、相手はほとんどが歩兵の上、元農民、こちらは騎馬隊が主軸で構成されていて、精兵の正規兵のみ、難しい戦ではないと、桔梗さんは言っていた。

 

「華雄、まずは儂と焔耶が両翼から一気に攻め上がる。敵が後退して、中央に寄ったところで、お主は自慢の騎馬隊を率いて中央突破をかけろ。そうすれば、造作もなく、敵は敗走するだろう」

 

「ふむ……悪くない手だ。私が暴れられないのが残念だが、月様との約束もあるし、それで良いだろう」

 

「ふん、追撃はお主の騎馬隊が行えばよい。そこで暴れれば良かろう」

 

 作戦も決まったようで、全軍が再び出撃準備に取り掛かった。華雄さんは陣頭に立って、砦の中に籠る賊に向かって舌戦を仕掛けた。

 

「我が名は華雄!董卓様の名において、貴様ら賊に成り下がった獣どもの駆逐に参った!民の平穏を奪おうとする獣どもよ、大人しく我が金剛爆斧の錆になると良い!我が精兵よ!獣狩りだ!思う存分、貴様らの武を見せつけよ!獣が人に敵わぬことをしっかり教えてやれ!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 華雄さんの声に反応して、兵たちが雄叫びを上げた。大地を揺るがさんばかりの声に、俺の心臓の高鳴りは一気に速まった。今、戦の火蓋が切って落とされようとしているのだ。

 

 目の前で繰り広げられようとしているのは、映画やテレビの世界の戦争ではなく、まさしく本物の戦争なのだ。唇と喉が一気に渇き、呼吸しにくくなった。息遣いまで荒くなっていた。しかし、視界だけははっきりしていた。

 

 桔梗さんとの約束を破るわけにはいかない。俺はこの戦争を、この光景を瞳に焼きつけなくてはならない。

 

「全軍、抜刀!!突撃ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 砦から賊徒の群れが押し寄せてきた。まさに戦は始まったのだ。

 

あとがき

 

第八話の投稿でした。

 

皆さまの応援のおかげで、最近は筆の進みもスムーズになっております。

 

今回は一刀と月の出会いと初陣の開戦までをお送りしました。

 

月は名君として、書きました。

 

彼女の王としての資質も少しずつ書きたいなと思います。

 

次回、戦争が終結します。

 

戦争の描写は初めてですが、頑張って書きたいと思います。

 

戦争を見て、一刀を何を思うのか?

 

桔梗さんが一刀に戦争を見せた意図とは?

 

次回はややシリアスな展開になると思います。

 

紫苑さんを楽しみにしている方はもうしばらくお待ちください。

 

誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。

 


 
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