No.172600

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第四十一話

狭乃 狼さん

刀香譚、四十一話です。

今回は一刀達の視点から離れて、揚州での顛末をお送りします。

まずは前編。

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2010-09-15 11:26:02 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:12256   閲覧ユーザー数:10436

 「そう。一刀達が益州にね」

 

 「はい。今頃は巴郡についている頃合かと」

 

 揚州・柴桑城。その玉座の間に集まっている、孫家の家臣団。そしてあと二人。

 

 「一刀兄は大丈夫じゃろうか。のう、七乃」

 

 「大丈夫ですよ~。普段、桃香さんや愛紗さん達にあれだけ痛めつけられても、ぴんぴんしているんですよ?殺したって死ぬような人じゃないですよ、一刀さんは」

 

 不安そうな顔の袁術と、それを慰めようと(?)している張勲。

 

 「……何気に、随分酷い言われようをしているけど、まあいいわ。実際事実だしね。それで母様?私達もそろそろ動くの?」

 

 母に問いかける孫策。

 

 「ああ。船も戦力もだいぶ回復したし、今回は美羽たちも手伝ってくれるしね」

 

 「うむ。妾たちは麗羽姉様たちを救出したい。そのために、文台殿が揚州を再統一するのを手伝うのじゃ」

 

 孫堅の言葉にそう返す、戦装束姿で椅子に座る袁術。

 

 「はい~。持ちつ持たれつというやつですから、ど~ぞお気になさらず」

 

 「……もっとも、姉様達は助け出した後にたっぷりと働いてもらうつもりじゃがの。そして思い知ってもらうのじゃ。世間の厳しさと、民達の思いをのう」

 

 「恩も売れて、労働力も得られる。一石二鳥というやつですね、お嬢様」

 

 「そういう事じゃ。ぬっはっは!」

 

 (……やっぱりいい性格してるわ、この娘)

 

 (根っこは変わらんということだな)

 

 高笑いをする袁術をみて、そんな風に思う孫親娘であった。

 

 

 

 それから五日後。

 

 柴桑の港を出港する孫家の船団と、陸路を進発し、翻陽方面から抹稜を目指す袁術軍の姿があった。

 

 一方、その目的地である抹稜では。

 

 「まずい。非常にまずいぞ。船はまともに無く、兵も二万しか居らん。……こうなれば、あやつらを使うしか……。凌統!」

 

 「なによ、へたれ男」

 

 劉繇に声をかけられた少女が、面倒くさそうに返事をする。

 

 「相も変わらず口の悪いやつだ。まあいい。牢にいる連中を連れて、やつ等を出迎えろ!」

 

 「……どっちを?」

 

 「袁術の方に決まっているだろうが!人質と引き換えに、撤退させるのだ!!」

 

 「……やなこった」

 

 ぷい、と。そっぽを向く少女。凌統、字は公積。

 

 「な!貴様、自分の立場がわかっているのか?!母親が死んだ後、今まで生きてこられたのは誰のおかげだと」

 

 「言っとくけど。あたいはあんたに感謝なんかしていないよ。あたいは別に一人でも生きていけた。なのにここに居た理由はただひとつ。敵討ちのためだけさ」

 

 ギロリ、と。劉繇の言葉をさえぎり、睨み付ける凌統。そして、劉繇から背を向け、

 

 「船と兵はあたいが使わせてもらう。五百ほどは残してやるから、袁術のほうはあんたが自分で対応するんだね。いつもいつも真っ先に逃げ出してきたんだ。一度くらい、自分で何とかしてみな」

 

 そう言って、退出していく凌統。

 

 「……………」

 

 それをただ、見送るしかできない、劉繇だった。

 

 

 

 その数日後。翻陽方面を進軍中の袁術たち。

 

 「やはりこの辺りはしけっぽいの~。じめじめして敵わんのじゃ」

 

 水筒の水を飲み、そうぼやく袁術。

 

 「そうですね~。でもお嬢様~?あんまり水を飲み過ぎないほうがいいですよ?おなか壊して、お漏らしなんかしちゃ駄目ですからね~?」

 

 「バッ?!馬鹿者!妾は漏らしたりなどせぬ!もう前とは違うのじゃ!!」

 

 「はいはい。そ~ですね~。(あ~もう。必死になって否定するお嬢様、なんて可愛いんでしょうか)」

 

 袁術を半分(?)からかいながら、恍惚とした表情を浮かべる張勲。

 

 「まったく。……ところで六音(りくね)よ。抹凌までは後どのくらいじゃ?」

 

 「……はい?……あ~、そですね~。あと三日ってところじゃないでしょか~。まあ、気長にいきましょう、気長に。ね、お嬢様?」

 

 袁術の問いに対し、のんびりとした調子でそう返事をするのは、雷薄という女性。昼行灯として有名な彼女ではあるが、人材の少ない袁術軍の中で、武将として前線を張れる数少ない人物である。

 

 「……けど六音さん?孫堅さんたちとも合流しないといけませんし、もう少し位急いでも」

 

 「七乃ちゃん?世の中はね、焦った方が、往々にして負けるんですよ?……あ、ほらお嬢様。白鳥ですよ~。綺麗ですね~」

 

 どこまでものほほんとした感じの雷薄。

 

 (七乃よ。あれで本当に、戦場では鬼と呼ばれるやつなのかや?)

 

 (お嬢様は六音さんの戦いを見たことがありませんからね~。普段は確かに、少しいらっとする人ですけど、実力は本物ですよ?紀霊さまも、そこは認めておられましたし)

 

 (かかさまがのう)

 

 本人に聞こえないよう、ひそひそと話す袁術と張勲。

 

 「……あら?お嬢様?あそこに軍勢がいますよ?」

 

 「なんじゃと?」

 

 

 

 袁術たちの前方、およそ一里ほどの所に、五百程度の軍勢が展開していた。

 

 「旗は劉。……劉繇さん御本人が出てきましたか。でも、たったあれっぽっちで、私達を迎え撃つ気ですかねぇ」

 

 首をかしげる張勲。そこに、

 

 「そこに来られたは、袁公路どのか?!わしは劉繇じゃ!こちらには交戦の意思は無い!頼む!わしの降伏を認めてくれ!」

 

 両手を挙げて歩み出てくる劉繇。

 

 「……いい根性をしているのう。劉繇よ。例え妾が許したところで、文台どのが許すと思うかや?現に、先に囚われた許貢はすでに斬首されたぞ?」

 

 あきれた表情で劉繇にそう言う袁術。

 

 「わ、わしは許貢に担がれただけじゃ!けしてすすんで反旗を翻したわけでは」

 

 「そういうことは孫堅さんたちに言ってくださいね。それで、袁紹さまたちは無事なんですか?」

 

 劉繇の言を遮り、逆に問いかける張勲。

 

 「そうじゃな。まずは姉様達の姿を見せい。話はそれからじゃ」

 

 「……わ、わかった。おい!」

 

 劉繇が兵士に声をかける。そして引き出されてきたのは、

 

 「むーっ!むむーーっ!」

 

 「ふんむぉー!ふもふもー!!」

 

 「……」

 

 猿轡をかまされ、なぜか亀甲縛りにされた袁紹、文醜、顔良の三人。

 

 「……麗羽姉様、なんと言う恥ずかしい格好に」

 

 「名門の威厳も何も無いですねー」

 

 「あららら。……情け無い格好で」

 

 袁紹達の姿を見て、そんな風に感想を漏らす袁術達。

 

 「むっむ!むーっ!むむーっ!」

 

 それが聞こえたのか、抗議している感じの袁紹。

 

 

 「さあ、こやつらは無事じゃぞ!わしをその軍門に加えてくだされ!そしてこのまま退却といきましょうぞ!」

 

 満面の笑みを浮かべて叫ぶ劉繇。

 

 「……ひとつ聞くがの。おぬし、先ほど許貢に担がれただけと言うたが、それは本心なのか?」

 

 「……ど、どういう意味で?」

 

 「許貢が申しておったぞ。おぬし、司馬仲達配下の女に言うたそうではないか。漢の一門として、漢のために働くのだと。それは違ったのか?」

 

 劉繇を睨み付け、そう問いかける袁術。

 

 「何をおっしゃるかと思えば。漢室などすでに命運は尽きておりましょう?なのに何故、滅ぶとわかっているものに付き合わねばなりませぬ?」

 

 「では~。今回の叛乱は何のために行ったのです?地に落ちた漢に見切りをつけ、江東を独自に守ろうとしたとでも?」

 

 張勲が問いかけると、さらに卑屈な笑みを浮かべる劉繇。

 

 「さ、左様左様!江東は江東の者が治めるのが一番良いのじゃ!そのためにわしは」

 

 「……語るに落ちたというやつじゃの」

 

 「は?」

 

 自身の言を遮った袁術の台詞に、一瞬、何のことか分からないという表情をする劉繇。

 

 「江東は江東の者が治めるのが一番良いのじゃろ?ならば孫家に任せておけば良かったではないか。叛乱などせずとも、文台どのは江東を良く治めておったそうではないか」

 

 「そ、それは」

 

 言葉に詰まる劉繇。

 

 「そうですねぇ。つまるところ劉繇さんは、自分が一番になりたかっただけってことですね~。ね、お嬢様?」

 

 「七乃の言うとおりじゃ。おぬしは民のことなど何も考えておらん。自分が可愛いだけの、ただの腐れ儒者なだけじゃ!」

 

 最後には怒気をはらんで、劉繇を怒鳴りつける袁術。

 

 (……あれ、本当に美羽さんですの?)

 

 (ふえ~。姫とは大違いだな~)

 

 (……一体、何があったんでしょうか?)

 

 袁術のその凛々しい姿を見て、それぞれにそんな感想を持つ袁紹たち。

 

 「……お、おのれ、小娘如きが偉そうな事を言いおって!三世四公を排出した家が、そんなに偉いとでもいうのか?!」

 

 苦し紛れな罵声を浴びせる劉繇。

 

 「……なにか勘違いをしておるようじゃな。以前の妾ならばともかく、今の妾は自分のことを偉いなどとは思うておらぬぞ?よいか?この世で最も偉いのは、その日その日を大事に生きる、大勢の民達じゃ!妾たちはその民によって生かされておるにすぎぬ!よう覚えておけ!」

 

 劉繇の罵声を一蹴し、再び怒鳴りつける袁術。

 

 「よっ!かっこいいぞお嬢様!恥ずかしい格好で縛られている誰かさんと違って、威厳に満ち満ちているぞ!このこのっ!」

 

 「ぬはははは!そうじゃろ、そうじゃろ!」

 

 張勲にヨイショされて上機嫌になる袁術。

 

 (これが無ければ、もっと良かったんですけどね~)

 

 と。引きつり顔でそのやり取りを見る、雷薄であった。

 

 

 「……く、くくく。そうか。そうかそうか。貴様もわしを認めんというのか。どいつもこいつも、このわしを認めず、あんな成り上がりや、民などという雑草を大事にするのか」

 

 「なんじゃとぉ!?」

 

 「本性を現したみたいですね~」

 

 「何とでも言え!こうなれば人質などもう要らぬ!お前達!この三人を殺せ!そしてやつらを足止めするのだ!わしが逃げるまでの間じゃ!わしのために命を捨てよ!貴様らはそのためだけに存在しておるのじゃからな!」

 

 兵士達にそう命じる劉繇。だが。

 

 「……なぜじゃ。なぜ、わしの命を聞かぬ!」

 

 兵士達はピクリとも動かなかった。それどころか、劉繇に激しい憎悪の目を向けていた。

 

 「な、なんじゃ、お前らその目は!?」

 

 「今更命令を聞く義理は無いということじゃろ。今までの話を聞いていた上に、今の台詞を聞かされれば尚更じゃ」

 

 「ぐ、ぐぬぬぬぬ」

 

 完全に追い詰められた劉繇。

 

 「……ならば、せめてこやつらを道連れにしてくれるわ!死ね!袁紹!」

 

 腰の剣を抜き、袁紹に振るおうとする。

 

 「姉様!」

 

 「大丈夫ですよ、お嬢様。ほら」

 

 「ほえ?」

 

 張勲が袁術の肩に手を置き、劉繇の方を指差す。そこには、

 

 「……ばか、な」

 

 「死ぬなら自分ひとりで逝っときな。地獄で許貢が、てぐすね引いて待ってるからさ」

 

 ズブ、と。胸に深々と剣を差し込まれている劉繇と、その剣を握り、先ほどまでとはうって変わった厳しい表情で、劉繇をにらみつけている雷薄がそこにいた。。

 

 「こ、こんなところで、わしは死ぬ、のか……」

 

 「小悪党には相応しい末路だよ。……逝っときな」

 

 そう言って、剣を思い切り引き抜く雷薄。

 

 「はぐっ!!」

 

 ぷしゅーーーっ!

 

 と。大量の血を胸から噴き出し、その場に倒れ臥す劉繇。

 

 「……下衆の末路は哀れじゃの」

 

 「そーですね。そそのかされたとはいえ、全ては自業自得の結果ですけど。利用されて捨て駒にされたところ位は、同情してもいいかもですねぇ」

 

 絶命した劉繇を見下ろしながら、そんな風につぶやく袁術と張勲であった。

 

 

 

 

 

 「ふがふがふが(ところで、私達は何時までこのままなんですの?)」

 

 

 

 「ふがふが(さ~?気がついてくれるまでじゃないっすか?)」

 

 

 

 「ふんあ~(そんな~)……シクシク」

 

 

 

 

 

 

 

 

                         ……後編に続く(笑

 

 


 
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