No.172225

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第四十話

狭乃 狼さん

刀香譚もいよいよ四十話。

よくまあ、ここまで続いたものだと、我ながら感心しております。

今回は対三羽烏編。

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2010-09-13 10:30:30 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:12721   閲覧ユーザー数:10666

 「桔梗様が負けたか」

 

 「ああ。けど凄かったで、両方とも。桔梗様は豪天砲を真っ二つにされるし、焔耶も未熟とはいえ、一撃も入れられへんかったしな」

 

 「豪天砲を真っ二つなう?……とんでもないなう」

 

 巴郡の街の太守の屋敷。

 

 一刀たちと厳顔たちとの戦いを見てきた李厳が、張翼と雷同にその一部始終を報告していた。

 

 「特に華雄はんやな。……美しかったわ~。赤と白の装束がめっちゃ似合うてて。そう、まるで戦場の女神というにふさわしかった。……うち、惚れてもうたかも」

 

 ぽや~、と。顔を赤らめてどっか逝ってしまっている李厳。

 

 「……とりあえず、美音のことは放っておくとして。どうしたものかな」

 

 李厳から視線をそらし、腕を組んでそう言う張翼。

 

 「裏切り云々はともかく、何もせずに降るのは、武人としての矜持が許さないなう」

 

 そう言って、張翼を見据える雷同。

 

 「そうだな。やはり、一戦は交えねばな」

 

 「やるんか、蒔やん?」

 

 「あ、帰ってきたなう」

 

 正気(?)に戻った李厳が問う。

 

 「ああ。兵たちに戦の支度をさせてくれ。討って出て、荊州軍を迎え撃つ」

 

 『応!』

 

 

 

 その荊州軍。

 

 「……人質、ですか」

 

 「うむ。……情けないことこの上ないがの」

 

 一騎打ちの後、降伏した厳顔と魏延を交えて、一刀たちは軍議を行っていた。その中で、成都にいる法正という人物が、主君である劉季玉によって囚われの身となっている話が持ち上がった。

 

 「朔耶さえ助け出せば、蜀のほとんどのものが、あの馬鹿娘に従うのをやめるじゃろうな」

 

 「そんなに強い影響力を持っているんですか?その法正という人は」

 

 「影響力、というより、あれは今や蜀の者達の心の支えになっておるからの。あやつの歌と舞は」

 

 劉備の問いにそう答える厳顔。

 

 「歌と舞い、ですか」

 

 「朔耶さまの歌と舞は、まさに天女の歌声と踊りです。蜀では名を知らぬものはおりません」

 

 といいつつ、なぜか火照った顔で、一刀と劉備を見つめ続ける魏延。

 

 「(う。なんか凄い熱っぽい視線を感じる)……えと、今も巴郡にいる人たちも、それは同じですか?」

 

 少々困惑気味の顔で、厳顔に問いかける一刀。

 

 「それはそうじゃ。兵や民はもちろんじゃが、あの三人組、特に蒔-張翼は朔耶とは大親友じゃからの。助け出すことができれば、それこそ喜んで御館さまに味方すると思うが」

 

 「そうですか。そうなると……」

 

 「救出作戦、する?カズ君」

 

 徐庶が一刀の顔を覗き込む。

 

 「そうしたいのは山々だけど、今はそれどころじゃないさ。いつ向こうから仕掛けてきても、おかしくは」

 

 「申し上げます!」

 

 天幕の外から聞こえる、兵士の声。

 

 

 「……来たかな?どうしたか!」

 

 「は!街より軍勢が出て参りました!」

 

 「……やる気になりおったか、あやつら」

 

 「……みたいですね。どうされるのですか?御館さま」

 

 一刀に問いかける魏延。

 

 「やるしかないだろうね。けど桔梗さんと焔耶は待機していて。俺達だけで、相手をするから」

 

 「……良いのか?別にわしらに遠慮せんでも」

 

 「桔梗さんたちは良くても、兵士さんたちはそうは行かないかもね。……やりにくいはずだよ、同郷の人間相手は、さ」

 

 少し悲しげな表情の一刀。

 

 「御館様……、なんとお優しい」

 

 目を潤ませる魏延。

 

 「何じゃ焔耶よ。おぬし、御館さまに惚れたのか?」

 

 「んな!?」

 

 厳顔にはっきりと言われ、真っ赤になる魏延。

 

 「……ホントウナノカナ?焔耶チャン?」

 

 その魏延の反応を見て、背中に何かを背負って魏延をにらみつける劉備。

 

 「と、桃香さま!ご、誤解なさらないでください!わ、私は別に、御館様のことなんてなんとも思ってなく、あ、いえ、その、別に決して御館様が嫌いというわけではなくですね、あの、その」

 

 慌てふためき、支離滅裂になる魏延。その姿を見た一刀は、

 

 (何、この可愛い生き物!?)

 

 と、思いながらほんわかとするのであった。

 

 それはともかく。巴郡勢の部隊を後方に待機させ、一刀たちは張翼らを迎え撃つべく、軍を進めた。

 

 

 

 「向こうは桔梗様たちを後方に置いたか」

 

 「うちらと戦わんですむようにか。……甘々やな」

 

 「確かに甘いなう。ついさっき降伏したばかりの将兵を自軍の後方におくなんて、相当なお人よしなう」

 

 相対する荊州軍を見据え、そんな会話を交わす張翼たち。

 

 「お人よし、か。……もしくは、よほどの馬鹿かもな」

 

 「馬鹿やとしたら、かなりの大馬鹿やな。……けど、うちはそういう馬鹿、嫌いやないで」

 

 「あたしもなう。で、舌戦は誰がいくなう?」

 

 「あたしが行くに決まってるだろうが。一応この部隊の長だぞ」

 

 すたすたと歩き出す張翼。そして、荊州軍からは一刀が、前に進み出てくる。

 

 「私の名は張翼。字は伯恭だ。あんたが劉北辰か」

 

 「ああ」

 

 無表情のまま、そっけなく答える一刀。

 

 「いまさらという気がしないでもないが、一応聞く。何をしに益州へ?物見遊山にしては随分、物騒だけど?」

 

 「……奪りにきたのさ。益州(ここ)を」

 

 「……何のために?領土欲?それとも、民のためなんていう偽善のため?」

 

 ”目的”をはっきりと口にした一刀にむっとしながら、なおも問う張翼。

 

 「……偽善の何が悪いと?主君の悪政を止められない人に、俺達を非難する資格があるとでも?」

 

 「そ、それは……」

 

 思わず口ごもる張翼。

 

 「俺達は益州を奪る。例え、自己満足、偽善と言われようと。どんなに罵られようとも。戦とはなんの関係のない民達を救えるのなら、俺は、俺達は”すべて”を受け入れる。その結果、例え、修羅となろうとも!”悪”と呼ばれようとも!」

 

 (……なんて、男、だ)

 

 張翼は、自身をまっすぐに見据える一刀に、完全に呑まれていた。

 

 それは、後方に控える李厳と雷同も同じだった。

 

 「…………あかん」

 

 「………なにがなう?」

 

 「…………惚れてまうかも」

 

 「…………あたしも、なう……」

 

 そんなことをつぶやく二人。顔を紅くしながら。

 

 「……けど!命を聞かねば、朔耶の命を助けられない!」

 

 「だったら、なぜ自分で助けようとしない!その努力もせず、ここで俺達を迎え撃つことが、貴女の友情とでも言うつもりか!そして今後も、友の為といいながらその友を、民達を見捨てるのか!」

 

 「う、うう、う」

 

 こぶしを握り締め、唇をかみ締める張翼。

 

 「それでも俺達とやるというなら仕方ない。貴女たちに思い知らせてくれよう。俺達の覚悟を!」

 

 完全に気おされた張翼。その目には、涙がこぼれ始めていた。

 

 「…………助け、られますか」

 

 うつむきながら、かろうじて搾り出した一言がそれだった。

 

 「あなた達が協力してくれるなら、その可能性はより高いものになる」

 

 「…………。早矢!美音!……この方を、信じてみても良いか!?」

 

 後ろにいる雷同と李厳に、そう叫ぶ張翼。

 

 「蒔の判断に従うなう」

 

 「うちもや。皆で信じてみようやないか。……おまえらはどうや!?」

 

 兵士達に問いかける李厳。すると、

 

 がしゃ、がしゃ、がしゃ。

 

 揃って武器を地に置き、平伏する蜀軍の兵士達。

 

 「……改めて、わが名は張翼・字は伯恭。真名は蒔」

 

 「雷同なう。字は無いなう。真名は早矢なう」

 

 「うちは李厳や。真名は美音。よろしゅう頼んます」

 

  

 

 こうして、一刀たちは敵味方ともに、一人の死傷者も出さず、巴郡を攻略した。

 

 その後、厳顔、魏延、張翼、雷同、李厳を伴い、巴郡の街に入った一刀たちを、民達は最大の賛辞で出迎えた。

 

 しかし、益州の攻略はいまだ始まったばかり。

 

 次なる戦いのため、一時の平穏にその身をゆだねる一刀たち。

 

 

 

 

 そんな頃、揚州でも動き始める者達がいた。

 

 自分達の悲願。その百年の大計のために。

 

 大嫌いな。しかし、なぜか捨て置く気になれない、姉達を救うため。

 

 『孫』と『袁』。

 

 二つの旗が、柴桑の城に揚々と翻っていた。

 

  

 

                                      ~続く~


 
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