No.162874

雲の向こう、君に会いに-魏伝- 二十三章

月千一夜さん

二十三章、公開です
いよいよ、物語の全容が見えてくる形となります
あとはもう、書き綴るのみ・・・!

2010-08-03 00:23:20 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:29108   閲覧ユーザー数:23127

「ここは・・・」

 

 

真っ暗な空間

俺はただ一人、ポツンと立ち尽くしていた

 

ここは・・・どこだ?

 

 

 

《お前は、まだ何も気づいていない》

 

 

 

 

「っ!?」

 

そんな時、この真っ暗な空間に広がったのは・・・『声』

 

俺は、この声を知っている・・・

 

けど、答えが出ない

 

わかっているはずなのに、誰よりも知っているはずなのに

 

その名前が、出てこないのだ

 

 

 

 

 

《お前がしたことは、はたして・・・本当に正しいことだったのか?》

 

 

 

 

 

再び響いていく声

俺はその声に対し、無言で頷いた

 

瞬間・・・

 

 

 

 

《なら、これならどうだ?》

 

 

 

 

 

 

 

~ずっといるっていったじゃない!!~

 

 

 

 

 

 

世界が・・・反転する

 

真っ暗だった世界の頭上、美しい月が浮かぶ

その月の下、普段の姿からは想像もつかないような声をあげ・・・一人泣く、少女の姿

 

その姿に、心が大きく揺さぶられた

 

 

 

「華琳・・・」

 

 

 

 

華琳が・・・あの覇王である彼女が、泣いているのだ

顔を歪め、座り込みながら

 

なんで・・・

 

 

 

《わからないか?》

 

 

 

そんな俺のことをあざ笑うかのように、声が響いていく

 

わからない、俺には・・・何もわからない

 

 

 

 

《お前はまだ、何もわかっちゃいない

お前が本当に決めるべき覚悟・・・本当の【想い】に》

 

 

 

本当の・・・想い?

 

 

 

《終わりは近い・・・それまで、しっかりと考えるんだ

お前が本当に、やらなければならないことを

そして、後悔だけはするなよ?

【蝋燭】の光のように、お前にはまだ僅かな可能性が残っているんだから》

 

 

その言葉と同時に、広がっていくのは・・・【光】

 

浮かんでいた月も、泣いていた愛しい人の姿もない

 

変わりに、光の向こう・・・見覚えのある姿があった

 

その見覚えのある『顔』は、俺のことを見つめ

 

 

 

 

静かに・・・笑ったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

《皆を・・・頼むよ》

 

 

「お前は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《雲の向こう、君に会いに-魏伝-》

二十三章 彼方の想い、決めるべきこと

 

 

 

「ん・・・」

 

目を開いた時、見覚えのある天井がボヤケてうつった

俺はゆっくりと体を起こし、それから自分の手を見つめる

 

よかった・・・まだ、けっこう見えてるな

 

安堵の息をもらすのと同時に、俺はふと『ある違和感』を感じた

頭が、ボ~っとするのだ

 

まるで・・・

 

 

「まるで・・・長い夢でも見ていたような感じだ」

 

 

けど、俺は何も覚えていない

夢の内容とか以前に、夢を見ていたのかさえわからない

 

 

「ま、ちょっと疲れてるだけだよな」

 

 

呟き、苦笑する

疲れてる・・・なんて、レベルじゃないよな

 

「お・・・?」

 

そう思いながら、寝台から出ようとしたとき・・・俺は気づいた

俺の眠っていた寝台

そこにもたれ掛かるよう、眠る一人の少女の姿に

 

 

「風・・・」

 

「すー・・・すー・・・」

 

 

いつもの寝たふりとかじゃない

本当に眠っている彼女の頭を、俺はただ無言で撫でる

 

 

「ごめんな・・・風」

 

 

そして、思い出した

俺は・・・昨日

 

 

 

 

『お兄さん!!!!』

 

 

 

 

頭の中、響く彼女の叫び

参ったな・・・ついに、知られてしまった

 

彼女に、俺の嘘を知られてしまった

 

 

「まいったな・・・はは」

 

 

思わず笑いがこぼれてしまう

だが、その笑いもすぐに・・・止まった

 

「あれ・・・?」

 

再び、何か妙な違和感を感じたからだ

俺は彼女の頭からそっと手を離し、窓の向こう・・・空を眺めながら、呟いた

 

 

「何か・・・忘れてる?」

 

 

 

なんだろう・・・あの時、俺は風の声以外にもう一つ

誰か、知っている人の声を聞いた気がする

 

誰か・・・誰よりも、俺が知っている人の声を

 

俺は・・・

 

 

 

「おお北郷、目が覚めたか」

 

「っ、祭さん」

 

 

 

思考の途中、かけられた声

俺は一度考えるのをやめ、声がしたほうへと目を向ける

 

そこには、湯呑を持ったまま立つ祭さんの姿があった

 

 

「おはよう、祭さん」

 

「おはよう、じゃないわい

全く・・・昨晩は散々じゃったぞ?

お主が倒れた後、この娘に色々と説明するのがの

おかげで、正体がばれてしまったぞ」

 

言いながら、祭さんは俺に持っていた湯呑を差し出す

俺はそれを、苦笑しながら受け取った

 

 

「そっか、風にはばれちゃったんだな」

 

「どうするのじゃ?」

 

「どうしよう?」

 

 

 

顔を見合わせ、二人して溜め息をつく

 

仕方が無い

 

今はとりあえず、お姫様が目を覚ますまで待つとしますか・・・

 

 

 

『風は、何も言いませんよ』

 

『は・・・?』

 

 

~あれからしばらくして、のっそりと目を覚ました風

 

そんな彼女が開口一番に言ったことがこれだった

 

俺と祭さんは最早、唖然とするほかない

 

 

『あの・・・風さん?』

 

『なんですか~?』

 

『その・・・聞かないの?

なにがあったの、とかさ』

 

『お兄さんは、聞いて欲しいんですか?』

 

『う・・・』

 

 

風の言葉に、俺は表情を歪める

 

確かに、風の言うとおりなんだ

 

なんだけど・・・

 

 

『風は、それでいいのか?』

 

 

風は、知りたいんじゃなかったのか?

 

そう思い、俺は彼女にそうたずねる

 

 

彼女は・・・大きな欠伸をしたのち、ゆっくりと言葉を紡いでいく

 

 

 

『お兄さん・・・風は、お兄さんのことが好きです』

 

『風・・・』

 

 

突然の言葉

俺は少し驚きながらも、彼女の次の言葉を待った

 

 

 

『大好きなお兄さんがそうすることを選んだのなら・・・風はその道を、邪魔するわけにはいきませんから』

 

そう言って、風は笑ったんだと思う

彼女の雰囲気が、とても優しげに見えたから・・・俺はそう思ったんだ

 

 

 

『風・・・ありがとう』

 

 

『いえいえ~』と、風は軽い口調で言う

それから、ゆっくりと歩き出した

 

 

『とりあえず、お兄さんは疲れのせいで倒れたということにしましょう

赤さんは、私と一緒に来てください』

 

『うむ、わかった』

 

 

祭さん・・・もとい赤さんを引き連れ、風は部屋から出て行った

 

 

部屋に一人取り残された俺

仕方なしに、机の上からいくつか書簡を持ってきて寝台に寝転がる

今までずっと何かやっていたから、ただ寝転がるのではどうにも落ち着かない

 

「さって、仕事仕事」

 

というわけで、早速仕事を始める俺

 

 

 

それからしばらくして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

『で、一刀・・・これは、いったいどういうことなのかしら?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疲労により倒れたハズの俺が、寝台の上で大量の書簡と睨めっこを繰り広げる

 

そんな場面を見事に目撃され、覇王さま直々に凄まじいお仕置きを受けさせられそうになったとさ・・・~

 

 

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「隊長~、きたで~」

 

「お、来たか真桜」

 

 

部屋の中、書簡をしまいながら俺は彼女を部屋へと招き入れる

彼女・・・真桜は俺に勧められるままに、椅子に座った

 

 

「そんで、いったいなんなんや?

頼みたいことって・・・」

 

「ああ、それなんだけどな・・・赤さん」

 

「はい」

 

 

俺に呼ばれ、返事をする赤さん

それから彼女は真桜に、一枚の丸められた紙を手渡した

 

受け取った真桜はというと、すぐにその紙を開いて見始める

 

 

「これは・・・」

 

「車椅子っていうんだけど、似たようならこっちにもあるでしょ?」

 

「そら、あることにはあるけど・・・こんなん、誰が使うん?」

 

「誰が、とかじゃなくてさ

いざという時の為に、今のうちに一つ作って見てくれよ

そんで上手く動くようなら、量産しよう

そうしたら、足が不自由な人たちも随分と楽になるはずだよ」

 

 

俺の言葉に、真桜は『なるほどなぁ』と声をもらす

それから再び紙をクルクルと丸め、にっと笑った

 

 

「よっしゃ、了解や

なるべく早く・・・早ければ明日には、試作品造って持ってったるわ」

 

「明日?

はは、流石は真桜・・・仕事が速いな」

 

「ま、任せとき

ほんなら隊長は、今日はしっかりと休んどきや」

 

「いや、そういうわけにはいかないんだよな

ちょっと、まだやらなくちゃならないことがあってさ・・・」

 

「いや、やめといた方がええで

大将から伝言もあずかっとるし・・・」

 

「華琳から?」

 

「そや、えっとな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

~寝てろ・・・さもなくば本気で絶の刃を研ぐわよ?~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷や汗がぶわっと・・・一気に流れ出た瞬間でした

 

 

「・・・大人しくしてます」

 

「はは、それがええよ」

 

お互い乾いた笑いを浮かべ、その場はひとまず解散

 

 

俺は、再び部屋の中・・・一人になる

寝台に寝転がり、見上げた天井

 

相変わらずぼやけたままの天井、俺はすっと手を伸ばす

そして・・・思わず、声を詰まらせる

 

 

 

 

「っ・・・」

 

 

 

 

その手が・・・一瞬、透けた気がしたんだ

 

いや、きっと気のせいなんかじゃない

 

 

「これが、俺の物語の結末・・・か」

 

必死に生きて、皆と笑って

そして、最後に・・・消えていく

 

俺の物語はもう、何ページも残っていないんだろう

 

だからこそ・・・

 

 

「やれることは、やっておきたいんだ」

 

 

そのための手も打った

真桜に頼んだ車椅子も、近いうち絶対に必要になるだろう

 

 

「あとは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

《あとは・・・なんだっていうんだ?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン・・・!!

 

 

 

 

 

 

「くっ・・・はっ!?」

 

いきなり、頭の中に・・・響いた声

 

『また』、この声かよ

 

「は・・・?」

 

待て・・・『また』?

俺は、この声を聞いたことがあるのか?

 

 

 

 

《なぁ・・・お前は、本当にそれでいいのかよ?》

 

 

 

「く、ぁ・・・」

 

息が、出来ない

これは・・・【拒絶】か

昨日よりも強烈だなぁ、くそ

 

しかも、なんなんだよこの声は・・・

 

 

 

 

《【蝋燭】・・・お前は、それに灯る火だ》

 

 

 

 

「蝋燭・・・?」

 

意識が、ゆっくりと遠のいていく

それでも、頭の中に響く声だけは・・・はっきりと聞こえていた

 

 

 

 

《もう、消えるまであと少しといったところだ

けどな・・・まだ終わっちゃいないだろ?》

 

 

 

 

当たり前だ

そう反論したいが、もう声がでない

視界が、真っ白になっていく

 

意識が・・・とぶ

 

 

 

 

 

《火は、消える寸前・・・最後の瞬間に、どうなると思う?》

 

 

 

 

最後に聞こえたのは、そんな言葉

 

そして・・・閉じていく視界の中

 

うつったのは、何故か見覚えのある風景

 

 

 

 

 

 

~美しい月に照らされた・・・二人の男女の姿だった~

 

 

 

 

★あとがき★

二十三話ですw

 

いよいよ、物語の確信に迫っていく感じとなりました

 

 

彼が見た夢とは?

本当に必要な想いとは?

 

 

そして、最後に待つ選択とは?

 

 

 

それでは、またお会いしましょう

 

 

 


 
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