No.148765

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 二十二の章

Chillyさん

双天第二十二話です。

ちょっと今までと違う描写にチャレンジ。
テンポ良いスピード感というものは感じられるのだろうか? とか、スピード感とかはないけど、連続で攻撃を繰り出す様を描けているのだろうか? とかいろいろ頭を捻りつつ、今回の話を書いてみました。

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2010-06-07 16:34:46 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1938   閲覧ユーザー数:1737

 曹操の軍が本陣にて不穏な動きを見せているとの知らせを受けるも、今更この場を乱すことができるとは思わない。それに一刀が、連合を崩壊させるようなことをさせるとも思えない。

 

 何をする気なのか気にならないといえば嘘になるが、今は目の前の事に集中したい。

 

 華雄は李粛と合流すると、そのままこちらに攻め込む動きを見せるも周りにとめられたようで、一晩、焼け焦げた元呉軍の軍営で明かした。

 

 追撃部隊一万二千が全滅したことが、やはり華雄やその周りを慎重にさせたのかもしれない。

 

 前回のように待ち受け、罠に誘い込んでこちらの攻めやすいように場を造りだすことが、今回はできそうもない。しかし罠を用意することはできなくとも、攻め時や交戦場所を選ぶことはできる。

 

 間に合うならば夜明けとともに伯珪さんには奇襲をかけて欲しかったが、部隊展開が間に合わなかったことと、華雄が思いがけず早くから行動を起こしたことで、夜襲が不可能となった。

 

 それでも伯珪さんは慌てることなく、一旦華雄の軍を見つからないようにやり過ごし、背後から奇襲をかけることを成功させた。

 

 隊列を崩し浮き足立つも、即座に伯珪さんの軍に隊列を動かし対応するところは、さすが猛将と噂されるだけはある。

 

 伯珪さんに越ちゃん、子龍さんは白馬義従の特性を活かし、立ち止まることなく移動し続け、途切れることなく弓を射続けている。けれども華雄は的確に部隊を動かし、その被害を最小に抑えている。しかも数の有利を最大限に活かすことで、効果的な反撃さえも行っていた。

 

 ぶつかり合う軍と軍。

 

 戦場に響き渡る怒号と悲鳴。

 

 命と命が真剣に奪い合い、傷つけあう。醜悪ながらも生にしがみつこうと足掻く様は、ある意味眩いばかりの輝きに満ちている。

 

 次第に両軍入り乱れ、乱戦の様相を呈していく。

 

 華雄の意識が完全に伯珪さんへと向かうまでの時間は、前回よりも黄布のときよりも一番長く感じられた。それでもオレは越ちゃんに誓ったことを守るため、歯を食いしばって機が熟すのを待った。

 

 華雄の軍の動きを読む周瑜の知略の冴えは、本当にすごいと思う。

 

 周瑜に好機を告げられ、孫策が指揮する呉の精兵の突撃は、華雄の軍の動揺を誘い、総崩れへと向かわせていく。

 

 こうも軍を崩されれば、華雄にうてる逆転の手は少ない。自らの武を頼みに、こちらの将に一騎討ちを申し込み、打ち破ることでこちらの兵を離散させることが、こちらの士気を下げ、なおかつ自軍の士気を上げる手っ取り早い手段といえる。

 

「私の名は華雄! この首欲しくば私と戦え!」

 

 手にした金剛爆斧と名のついた戦斧を華雄は振り回し、手近にいたこちらの兵を切り伏せた。

 

「私は公孫伯珪。董卓が将、華雄殿、私と一勝負受けてもらおう」

 

 伯珪さんは腰の剣を抜き、金剛爆斧を構える華雄と対峙する。

 

「受けてたとう。私の金剛爆斧、受けてみよ!」

 

 華雄の金剛爆斧が、唸りを上げて風を切った。

 

 伯珪さんが両手で剣を握り、暴風のごとき戦斧を捌いていく。

 

 一合、二合と得物を合わせるうちに、次第に力負けをし始める伯珪さん。

 

 さすがに振り回す遠心力に、華雄の剛力が合わさったあの大きな戦斧を、普通の剣で受け続けることは、伯珪さんには荷が重かったのだろう。必死に防いではいるものの、攻撃に移る機会を見出せずにいる。

 

 大きく振り上げた華雄の一撃が、とうとう伯珪さんの剣を弾き飛ばし、戦斧を振り切る勢いも加算された蹴りが、まともにわき腹に入り吹き飛ばされてしまう。

 

「幽州が刺史、公孫伯珪。覚悟!」

 

 倒れたまま立ち上がれない伯珪さんに向けて、華雄の戦斧が振り下ろされる。

 

 その場にいた伯珪さんの兵士全てが、その戦斧を防ごうと駆け寄るも間に合わない。

 

 戦斧は伯珪さんの肩に向かって振り下ろされた。

 しかし戦斧は伯珪さんの命を奪うことはできなかった。

 

 肩に当たる直前、一振りの両刃剣が戦斧を弾き、伯珪さんのすぐ横へと軌道をずらしたからだ。

 

「うちの母様にやられたというから、どんなしょぼい奴かと思ったら、けっこうやるじゃない」

 

 戦斧を弾いた人物、孫策は手に持つ伯珪さんの命を救った両刃剣で、肩を叩きながら華雄と向かい合った。

 

「母様……? 貴様、孫堅の娘か!」

 

「ご名答。今度は私と遊んでもらうわよ。……華雄!」

 

 孫策は手にした両刃剣、南海覇王を下段に構えると、矢のような勢いで無造作に華雄の間合いに滑り込んでいく。

 

 右斬上

 左薙

 左脚

 右踵

 刺突

 

 流れるように繰り出される孫策の攻撃を、華雄はときに手にした戦斧の柄で受け、身をかわし避けていく。

 

        右薙

        右膝

        刺突

        石突

        唐竹

 

 次は私の番だといわんばかりに、孫策の攻撃を凌ぎきった華雄が孫策に襲い掛かるも、孫策もその攻撃を凌ぎきる。

 

 互いの攻守が終わったと同時に、二人は一旦間合いを開けた。

 

「なかなかやるじゃない」

 

「さすが孫堅の娘というところか」

 

 互いから目を離さず、ニヤリと笑いあう孫策と華雄。

 

 そして同時に踏み込むと、互いの獲物を振るった。

 

 刺突

        右薙

 右足払

        唐竹

 逆袈

        右前蹴

 左踵

        左薙

 刺突

        右脚

 右肘

        左膝

 右薙

        左薙

 

 激しくぶつかる金属同士が奏でる音が、戦場に響き渡った。

 

 互いに攻撃を続け、互いの攻撃をかわし続ける。

 

 その様はまるで演舞のようだ。

「強いな……二人とも」

 

「伯珪殿、個人の武で戦うようなお人ではないでしょう、貴方は」

 

「子龍……」

 

「人それぞれ分相応というものがありましょう」

 

 互いの立ち位置を入れ替え続け、獲物を振るい拳を叩きつける。そんな戦いを繰り広げる孫策と華雄を見つめる、伯珪さんの瞳に悔しさが移るが、いつの間にか傍らに控える子龍さんの言葉に、その色は若干薄まったように見えた。

 

「しかし……それでもあっけなく敗れたものですな。伯珪殿」

 

「くっ……やっぱりか、やっぱりお前はそういう風に落とすことを忘れないのか」

 

 子龍さんの言葉の刃に切り伏せられた伯珪さんは、肩を落として嘆いていた。

 

 互いの技を、力を見せ付けるような一騎討ちは、そんな二人の会話の間も続いている。

 

 刺突

 刺突

        石突

        右薙

 右拳

 左脚

        足払

        袈裟斬

 右薙    左薙

 

 ぶつかり合う戦斧と両刃剣。

 

 一瞬火花が飛び、互いの顔の陰影を浮き立たせる。

 

 唾がかかるほど近づけられた顔に浮かぶは、肉食獣を思わせる笑顔。

 

「楽しいわねぇ。私とここまでやりあえるなんて祭と思春くらいだから、久しぶりだわ」

 

「フン。こんなもの私の本気にかかれば、造作もないわ!」

 

 弾き飛ぶように離れると、再び互いの得物を構える。

 

「汚いわねぇ。唾飛ばさないでよ」

 

 華雄から目を離さず、顔に飛んだ唾を孫策は拭う。

 

 その言葉には、鼻で笑うことで華雄は返事とした。

 

「さぁて、そろそろ決着をつけないと観客が痺れを切らしちゃうかもしれないわね」

 

 獰猛な笑顔を浮かべつつ、手に持った両刃剣の握りを確かめる。

 

 華雄も戦斧の持ち手を確かめ、構えを若干変え、力を貯める。

 

 互いに次の一撃にて勝負を決めるつもりなのだろう。先ほどまで激しく打ち合っていたことが嘘のように、互いの間合いの外で隙をうかがうように、じりじりと円を描いている。

 

 何かしら切欠ができれば、互いの命を奪う一撃を躊躇なく繰り出すことだろう。

 

 ゴクリと唾が喉を通る音が大きく響く。

 

 周りは剣戟犇めき合う戦場にもかかわらず、この場だけはシンと静まり返っているように感じられた。

 

“ヒヒーン”と馬の嘶きが聞こえた瞬間、孫策と華雄の二人は、引き絞られた弓に番えられた矢が放たれるような勢いで間合いに飛び込み、得物を振るった。

 

 耳をふさぎたくなるような高音の金属音が響き渡り、二人は交差するように位置を入れ替える。

 

 肩を押さえ、肩膝を突く孫策。

 

 得物を振り、振り返る華雄。

 

 だが、華雄が振るった戦斧が切る風の音は、今までよりもかなり軽い。

 

 それもそうだろう。先端の斧の部分が切り取られ、地を振るわせるほどの大きな音を立てて、地面に突き刺さっていた。

 

 痛みに険しい表情を浮かべつつも、孫策は毅然と立ち上がり、得物を構えて華雄と向かい合う。

 

「互いにあともう一息といったところかしら? 楽しい時間を終わらせることはしたくないんだけど、そろそろ冥琳が怒り出しちゃうから、仕方ないわよね」

 

 手にした南海覇王を一振りして、両手で正眼に構える。

 

「決着をつけたいところだが、こちらも時間切れのようだ」

 

 しかし華雄は斧の部分が切れたとはいえ、まだまだ凶悪な武器となりうる金剛爆斧を肩に担いだまま構えない。

 

「将軍、お手を!」

 

 先ほどの馬の嘶きはこの人のものだったのか、孫策と華雄の間に割り込むように馬を走らせてきた男性が、華雄に向かって手を伸ばす。

 

「李粛、生き残りの撤退は?」

 

 華雄はその手をとり、李粛の乗る馬に飛び乗った。

 

「はっ。すでに各方面にそれぞれ逃げるよう指示しております。集結は汜水関にて」

 

「よし、私達もこのまま、ここを抜けるぞ!」

 

「御意っ!」

 

 そして柄だけとなった金剛爆斧を振り回し、周りにひしめくこちらの兵をなぎ倒して、華雄はこの戦場を李粛とともに去っていった。

 

 数字だけ見るとこの戦いは圧勝といえたかもしれないが、華雄を逃がしてしまったことで、汜水関の生き残りの士気が落ちないことが痛いともいえる。

 

 未だ収まらない戦いの中、汜水関の戦いへの不安が胸中に沸き起こってきていた。


 
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