No.147625

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 二十一半の章

Chillyさん

双天第二十一.五話です。

仲直り仲直りー。こんな話に一話つぎ込むorz
とりあえず簡単に仲を戻しました。でないと先にいけない気が……。

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2010-06-04 12:25:43 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1586   閲覧ユーザー数:1467

 軍議が始まる前に一つ決めておかないといけないことがある。

 

 オレの倫理観とこの世界の常識の間でグジグジと悩んだり、三国志演義と違った結果になるよう奔走することを躊躇したりすることは、これからも様々な面で大いにあると思う。そしてそれでいろいろな人に迷惑をかけるかもしれないが、今回決めることはこんな重要なことではない。

 

 いかにして越ちゃんに謝るか。これに尽きる。

 

 頭が冷えた今現在、よく考えてみればわざわざオレの様子が気になって見に来てくれた越ちゃんに対してお礼を言うわけでもなく、少々厳しい意見というか事実を突きつけられたからって、延々と愚痴をこぼして、さらに考えてもいなかったことを怒鳴ってしまうなんて愚行をしてしまっている。

 

 そして軍議に向かうために別れしなに孫策が言った一言。

 

「公孫賛の従妹に感謝しなさい。あの娘が頼んでこなければ、あんたのところなんて行かなかったんだから」

 

 はっきり言ってこれにはやられた。

 

 不覚にもまた涙を見せて孫策を慌てさせて、周瑜に呆れられてしまった。

 

 というわけで軍議の席では置いておいても、終わったらすぐにでも越ちゃんに謝り、許してもらわなくてはならないと思う。

 

 そんなことを考えながら、気まずい思いを隠しつつ越ちゃんも参加する軍議が開かれる天幕の中へと入った。

 

 さすがに周瑜が呼びに行くくらいだ、孫策が軍議に参加する人間の最後だったようで、主要な人間がすでに集まっていた。もちろん、越ちゃんも副官を背後に控えさせて軍議が始まるのを待っている。

 

 孫策の話を聞いたときには、結構簡単に仲直りというか許してもらえると思ったけれど、この天幕に入ったときに目が合った越ちゃんは、以前ならこういったところでも多少は親しみみたいなものを感じられたけれど、さっきの目はなんの感情も持っていない他人を見るよりも冷たい目をしていた。

 

 はっきり言ってショックだった。

 

 オレの勝手な思い込みだったのかもしれないけれど、この世界に来てから初めて会った人だし、そのころからずっと気にかけてもらっていたと思うからこそ、あんな冷たい目で見られたことは本当につらい。

 

「さて、これより華雄率いる汜水関守備兵に対する軍議を開きたいと思うが、皆良いか?」

 

 周瑜が進行をする形で軍議は進む。

 

 越ちゃんは基本的に発言権が無いようで、孫策や周瑜といった呉の主要な人間の様子を確かめ、重要なことを副官の兵にメモを取らせていた。

 

 とりあえず何とはなしに聞いた周瑜の策は、まず伯珪さんの軍が華雄の軍に横撃を加え、その隊列が乱れたところで孫策の軍が攻撃を開始するという、結構普通な策だった。

 

 兵力としてこちらは伯珪さんの軍が二万五千、孫策の兵が多少減って一万二千。華雄の兵力は細作の情報によると新たに出てきた汜水関の兵が三万、李粛が八千とほぼ互角。

 

 だからこそ伯珪さんの奇襲が重要になってくる。それがわかるからだろう、越ちゃんは孫策の攻撃合図の銅鑼はどうするのか? 撤退する場合の合図はいかにするべきか? 戦場選定はどうして行われていたのか? 等など様々なことを質問していた。

 

 刻々と迫る軍議の終了時間が迫ることにオレは焦りを感じてしまう。

 

 軍議の間中、どうやってあの冷たい目をした越ちゃんに謝り許してもらえるのか考えていたけども、まったくもって許してもらえる光景が思いつかない。軍議が終わった瞬間に越ちゃんを捕まえることは決めているけれど、その後が問題だ。

 

 普通に頭を下げて謝る場合、越ちゃんに無視されて心に空しい風が吹く。

 

 土下座とかも基本無視されて、オレの横を通って天幕を出て行く越ちゃんしか想像できない。

 

 いかにして彼女を足止めするかが鍵になるのかな。

 

「ほかに質問があるか? 無ければ、皆のものさっそく仕儀にかかってくれ」

 

 悩み考え込んでいたら、どうやって足止めするか思いつく前に軍議が終了してしまった。周瑜に何かしら質問を繰り返して、軍議を長引かせることができたかもしれない。しかしそれをして何かいい案が思い浮かぶとは思えない。

 

「解散!」

 

 呉の兵が大声で解散を告げ、この軍議に参加した将兵が次々と天幕から外へと飛び出していく。

 

 越ちゃんも副官に一言二言指示を出して、ゆっくりと立ち上がる。ここで越ちゃんを止めて、謝らないとオレはきっと彼女に許してもらえないと思う。

 

「越将軍!」

 

 終了したとはいえ軍議の場という公式の場であるし、喧嘩している状態でもあるわけなので、さすがに越ちゃんと呼ぶわけにはいかない。

 

 今まで伯珪さんのところでは決して呼んだことがない、畏まった称号をつけた名前で越ちゃんを呼び止める。

 

 彼女にオレが真剣であることをまず伝えるためにはきっと必要だと思う。

 

「天の御遣い殿、私に何か御用ですか? これより私は従姉様のところに向かわねばなりませんので、申し訳ありませんが大したようでなければ、ご遠慮願いたいのですが」

 

 呼び止めたオレに向ける越ちゃんの目はやはり冷たい。それにその物言いも他人行儀で、オレを突き放したような感じだ。

 

「あと……」

 

 越ちゃんの雰囲気に呑まれたオレの視界の隅に、何かしら動いた気配が感じられた。あまり越ちゃんを待たせるのもいけないとは思うけれど、ちょっと横目で確認してみると孫策がなにやら手をこちらに振っていた。

 

 オレが気がついたとわかった孫策は手を振ることをやめると、なにやら口をパクパクと動かしているけど、何を言っているかオレには皆目検討もつかない。

 

 孫策はオレがわかっていないことに気がついたようで、今度はわきに控えて不思議そうに孫策のことを見ていた周瑜を抱き寄せた。そしておもむろに顔を寄せ、周瑜とキスするかと思われたとき、思いっきり周瑜に殴られ撃沈したようだ。

 

 崩れ落ちながらも孫策は、オレに向けて拳を握り締めて、突き上げていた。

 

 あの人は何がやりたかったんだろうか……。

「御遣い殿? 用がないようでしたら私は失礼します」

 

「あ、待って、越ちゃん!」

 

“あー”とか“うー”とか言葉を言えず、後ろの孫策に気をとられたオレを押しのけるように、天幕から出ようとする越ちゃんを押しとどめる。ついつい、いつもの呼び名で呼んでしまったけれど、そのまま無視されるとかいった事がなくてよかった。

 

 一瞬、越ちゃんの目に暖かなものが浮かんだように思ったけど、すぐにさっきまでの冷たい目に戻っていた。

 

「御遣い殿、いい加減にしていただけませんか? 私は忙しいと言っているのですがわかってもらえていないようですね」

 

「本当にすみませんでした!」

 

 声を張り上げ謝罪の言葉を言うのとともに、思いっきり勢い良く頭を下げる。

 

 下げた頭の首筋辺りに視線を感じる。じっと何か声をかけてもらうか、越ちゃんが無視して通り抜けようとするまで頭を下げ続ける。

 

 判決を待つ被告人の気分で、何も言わない越ちゃんの一挙手一投足を感じ取ろうと、様子を注意深く伺う。

 

 じっと待つこと数十秒なんだろうけど、何時間にも感じられた沈黙の場にため息のような息を吐く気配が感じられた。

 

「何を謝っているのですか。私には謝られるようなことは何もありませんが?」

 

 頭の上にかけられる言葉は、まだまだ冷たい。

 

 ここからいかにして彼女にわかってもらえるかが重要か。

 

「まず一つ目として、オレがオレとして、天の御遣いとして立場を考えない行動をしたこと」

 

「それは私に謝られても仕方がないと思いますけど」

 

 頭を下げたまま、オレが謝る理由をまずひとつ挙げてみるけれど、すぐに越ちゃんは冷たい声音のままその理由を否定する。

 

「それに越将軍の言葉を軽視して、なおかつあなたに暴言を言ったこと」

 

「確かにそれは謝罪を受ける理由になりますね。それで御遣い殿は、何をもって謝罪とするのですか?」

 

 頭に降りかかる越ちゃんの言葉はまだ冷たく硬い。きっと睨み付けるようにオレの後頭部を見ていることだろう。ここで間違えれば、せっかく越ちゃんを足止めして謝ったことが無駄になる。

 

 越ちゃんがここで求める謝罪はどういったものか、よく考えなくてはいけない。

 

 彼女の望む言葉を言えなければ、このまま越ちゃんには見放され、今後信用を得ることは難しくなるだろう。

 

「それは……」

 

 乾いた喉を湿らすべく、唾を飲み込む。

 

「それは……きっとこれからも様々なことに悩んだり、躊躇したりすると思うけれど……」

 

 ここで下げていた頭を上げ、オレの言葉を聴いてくれている越ちゃんの顔を、真剣な表情で見つめる。

 

 彼女の顔は温かくも冷たくもなく、それでも無表情というわけでもない、なんと言うか複雑な表情だった。

 

「オレはその全てに、昨日みたいに逃げることなく真剣に向かい合うことを、越ちゃんに誓う。それをもって謝罪とさせてください」

 

 本当にこれで合っているか、越ちゃんの表情を見てわからなかったけれど、オレは彼女の目を真剣に見つめながら言い切った。

 

 越ちゃんもその瞳に力を籠め、オレの言葉の真偽を確かめる。

 

 様々な事柄から逃げないで向かい合い立ち向かう。

 

 そう決めたことを嘘だと思われないためにも、目をそらすことはできなかった。

 

「本当に逃げませんね?」

 

「あぁ」

 

 じっと睨みつけるように瞳に力を籠め、見つめ続ける越ちゃんの確認に、オレは目をそらすことなく力強く頷いてみせる。

 

 それでもしばらく続くオレと越ちゃんの睨み合い。

 

 彼女の瞳に籠められた力にだんだんとオレも耐えるのがきつくなってくるけれど、だからこそここは耐え切らないといけない。そう思うからこそ丹田に力を入れて、よりいっそう越ちゃんを見る瞳に彼女以上の力を籠めた。

 

 フッと越ちゃんは瞳に籠めた力を弱める。

 

 そのことで肩にかかる重圧が解かれたように感じた。

 

 急に重圧が解かれたことで力の抜けたオレの横を、スッと何も言わずに通り抜ける越ちゃん。あまりに自然なその行動に反応が少し遅れてしまい、オレはそのまま素通ししてしまう。

 

「あ、ちょっと待って」

 

 不覚にも覇気のない物言いで越ちゃんを呼びとめ、中途半端に手を差し出す。

 

「諏訪、これからが汜水関攻めの山場です。しっかり孫策殿、周瑜殿の足を引っ張らぬよう、心掛けてください。貴方が不甲斐なければ、従姉様の沽券に関わります」

 

 中途半端なオレの呼び止めでも越ちゃんは、足を止めてくれた。そして天幕の出口を向いたままだったけれど、越ちゃんがくれた言葉はオレの謝罪を受け入れてくれたと思える温かさを感じることができたのが嬉しい。

 

 きっと照れくさそうに頬を染めて、一生懸命仏頂面を作っていたことだろう。

 

 天幕を出て行った越ちゃんの背中に、そんな表情がまざまざと脳裏に浮かんだオレは思わずにやけてしまった。

 

「御使い殿。現を抜かすのは全てが終わった後にしていただきたいものだな」

 

 にやけたオレの横を通る周瑜にそう注意され、孫策には無言で頭を叩かれてしまった。


 
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